ダンジョンはつらいよどこまでも   作:たっぷり

20 / 31
 リヴェリアって二人称「お前」なんですね。これは王族ですわ。間違いない。


・020 団長と書いて苦労人と読む

────

 

 

 

 

 

 ナインが【ロキ・ファミリア】の三首領かつ妖精(エルフ)という種族の中でも更に高潔で純潔な存在、王族妖精(ハイエルフ)という種族のリヴェリアと半ば密会紛いの状況に陥っている理由は今から1時間ほど時間を遡る。

 

 

 ────

 ──

 

 

「結局一直線にバベルに向かったな、ベルの(やつ)

 

 ナインの借りている家からメインストリートへ出たベルは、そのまま直線状にあるバベルへと向かった。【魔法】を都市で撃つのは発現させたばかりの彼女には少々難がある。制御も出来なければ加減も未だ知らない身でぶっ(ぱな)せば、推定攻撃魔法である【クロスボルト】による被害を出してしまう恐れは少なくない。

 

 であれば、時間経過とともに修復するダンジョンの中で試し撃ちをするのは理に(かな)っている。

 

 それがLv.1の彼女が発動したとしても、莫大な精神力(マインド)を消費して比例した破壊力を生み出した。なんてことになりかねないのだ。彼女なりの配慮の結果であろう。

 

「配慮するなら明日にすればいいのにな……。俺を起こさなかったのも引率に来てもらうことも躊躇したか……単純に説得されて結局就寝コースだとでも思ったか……、まぁ後者なんだから正解っちゃー正解なんだけどな」

 

 ナインは独り言を呟きつつ屋根の上を足音を消すようにして走っていく。視線は下方へ。走り続けるベルが視界に映る。冒険者となって1ヵ月弱で上昇したにしては結構な【敏捷】を()かしてグングンと加速し、遂にはバベル周辺の噴水広場も通り越してダンジョンの穴へと続く階段を(くだ)っていった。

 

 ナインはその背を見ながら嘆息する。

 

 バベル周辺には一定の範囲内に家屋の類いは無い。彼女から結構な距離離れることになったが、彼女の持っていった聖火の刃(ヴェスタ)の位置把握は未だ問題無いため、それが不安定になるまでは地上にいようと決めた。

 

 何より、この噴水広場にはもう時計の針も頂点を()そうかという時間であるにも拘らず、もう1つ、影があるのだから。

 

(……なぁんで彼女があそこに居るかなぁ……)

 

 月明かりに照らされた噴水広場の一帯。魔石製品である街灯は街が寝静まる時間だけあって、光量自体落とされているのだが、それでもやはり闇夜に慣れてきた瞳は開けた敷地を見通すぐらいは難無く行える。

 

 ナインの視線の先、噴水広場にはレフィーヤ・ウィリディスの姿があった。

 

 彼女はそこに設置されている長椅子に1人静かに座っており、誰かを待っている様子をみせている。そんな彼女を見掛けてしまい、ナインは少し迷う。

 

(……ちゃんと面向かって感謝伝えるべきだよなぁ)

 

 数日前、18階層にて投擲した長槍を拾い、ナインの(もと)まで持って来てくれたのは彼女だ。それに対してナインは簡素なお礼を述べた程度であり、それを伝えた直後、すぐさまヘディンに首根っこを掴まれ退散の運びとなってしまった。

 

 その時の彼女はツンデレ(ぶし)全開で「あっ、あれで助けた~なんて思わないことですね! あんな敵、きっとアイズさんなら1人でもうんぬんかんぬん……」と、最後の方は離れすぎて聞こえなかったため、こちらの言葉もきっと届いていないだろう、ということはほぼ確実。

 

(まぁ、あっちに関してはそこまで危険視してないんだよな……、というよりも注意すべきは、あれで俺の存在が敵として認知されることだよなぁ。使用できる魔法の対処が面倒で、秩序側の手札の一枚だと認識される可能性もなきにしもあらず……。エニュオにバレたらバレたで一番に狙われるのは……、ヘスティア神か。

 オリュンポス十二神の椅子を後から求めたのも神同士の揉め事を引き起こす火種とするため。ヘスティアーはそれに気付くことなく純度100パーセントの善意で自らの席を譲り、諍いの火はそのまま熱を失い()き消えた……。

 狂った悪意を容赦なく磨り潰したるは()()()()()……、そりゃ嫌われますわな……)

 

 18階層で見せた対外遮断の結界。あの時点で前衛職のLv.6なりたて程度には身体能力(【力】の【ステイタス】)を持っていたレヴィスの攻撃を何度も防いだのだ。色々と小細工を労したことで為せた事実であろうと、結果としてアイズに盛り返された流れが出来上がったのには変わりない。敵の警戒対象に入っている可能性は捨てきれないだろう。

 

 ナインにとって、その点だけが心配事項だ。

 

 ナインはそれに対してどう誤魔化すかを考えるが、同時に現在Lv.2でしかないナインを、新興かつ零細ファミリアの域を出ない【ヘスティア・ファミリア】をそこまで脅威に感じるかどうかも問題だろう。下手に隠し事をすれば、綻びが生まれ、そこを神としての理知にて明かされ、結果として敵視される、という可能性も捨てきれない。

 

 相手が神であることをナインは既に知っている。それは有利にも働くが同時に彼我の頭の出来から、思考の帰結はいたちごっこのように終着点が見付からない。

 

(正直に言えばさっさと暗殺するなりすれば良いんだけど……、……オラトリアの方ってそこまで読み返してないんだよなぁ、いつだっけか、7年以内なのは確定してるけど……、それでも数年以上『穢れた精霊』に悪意を教えてるのは間違いない。

 俺が早まってここでさっさと終わらせると――実際どうなる…? 

 闇派閥(イヴィルス)は間違いなくまた闇に潜る。クノッソス(クソの巣)も未発見で終わる。地上のごたごたが少なくなる分、派閥大戦後(3回目)の遠征時期が早まる可能性も非常にデカい……、最悪【ロキ・ファミリア】が消えるな……。いやだけど、本当に嫌な流れではあるけど……、『オルギアス・サガ』はどうしようもなく必要な流れだ……あーほんまクソ……。

 間に合わせるしかないよなぁー……)

 

(──……()らんこと考えてたらベルの奴、4階層まで()ったか。

 確かLv.3か4の時に打てる【ファイアボルト】が70発ぐらいだったっけ? ゴブスレコラボで言ってた気がする……。*1

 Lv.1でアビリティも初期値、種族も魔法種族でもない只人(ヒューマン)。打てて10から20が良いところ……。まぁそろそろダウンするだろ。()くか。

 追い付いたら5階層か6階層ぐらいかな)

 

 精神疲弊(マインドダウン)を起こすだろうと考え、ナインはバベルから出てくるアイズたちを待っているであろうレフィーヤに見つからぬよう、少々遠回りしてからバベルの中へ足を踏み入れる。

 

 円形に造られているオラリオのどの方面からでも踏み入れられるように、出入り口は多方向に作られているのだ。斥候(スカウト)とは縁遠いであろう山吹色の妖精(エルフ)に見付からぬよう侵入することなど容易い事であった。

 

 そうしてダンジョンの1階層を進もうと、ベルの位置が全く移動しなくなったことから精神疲弊(マインドダウン)引き起こしたなと確信しながら駆けていく。第1階層から順に一気にベルの下まで行くために最短ルートを選び続ける。加えて言えば、魔法を撃つことだけに集中していたのだろう、彼女が通った道には魔石が転がっており、某グリム童話のようだと思いつつもその童話のようにモンスターに魔石が食われたら(こと)だとして踏み潰しながら進む。

 

 その途中、正規ルートを逆に歩む影が1人。

 

「……あっ」

 

「むっ……? おや、お前は」

 

「こんばんは、【九魔姫(ナインヘル)】すみませんが少々急いでますのグェッ?!」

 

 翡翠色の長髪を持つ美女の隣を通り過ぎようとしたところ、ナインはその首根っこを捕らえられた。

 

「まぁ待ってくれ。お前には聞きたいことと注意しておかなくてはならないことが山のようにあってな。なに、心配しなくとも良い。お前の用件とは白髪の少女のことだろう? 彼女の(もと)にはアイズが残っている。あそこは上層だ。万に一つも危険はない」

 

「あー、えーっとー……」

 

「異論が無いようで安心した。では行くとしよう」

 

 ここから入れる保険などない。

 

 そもそもこの世界に保険なんて概念が無い。挙句Lv.6が逃がさないと背中で語っているのだ。莫大な蓄積値でLv.2へ昇格したとはいえ、所詮はLv.2成り立て。せめて4か5は無いと難しいだろう。

 

 ナインは大人しく連行される運びとなった。

 

 後々、よく考えればそんな上層で彼女はミノタウロスに襲われるという異常事態(イレギュラー)に巻き込まれたのだ。しかも原因は彼女ら【ロキ・ファミリア】。反論できる余地は一応残っていた。

 

 それに気付いた時、ナインはちょっと凹んだ。

 

 

 ────

 ──

 

 

 レフィーヤはアイズやリヴェリアがダンジョンから帰還するまで噴水広場で待とうとしていた。しかし現在時刻は針が真上へ向こうとしている。そんな時間まで彼女を一人で放っておくことなど出来ないアマゾネスの姉妹が肩をすくませつつ現れ、そのまま引き()られるようにして【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)である『黄昏の館』へと向かう。

 

「────……ん? ……え゛?!」

 

 そんな折り、バベルの出入り口が見えなくなるギリギリの瞬間、彼女は見てしまった。

 

 ナイン(おとこ)()掴んで(にぎって)いる恩師たる王族妖精(リヴェリア)の姿を。

 

「あっ……、えっ? えっ……あれ? …………………………えっ?」

 

 あってはならない。そんな事実に発展してはならない。そんな記憶はきっと紛い物、幻覚の類い。そう思おうとも、彼女の脳は、その奥深くに座する髄はしかと記憶してしまった。

 

 今のありえざる光景を。

 

「…………はっ??」

 

 彼女の思考回路が真面に機能するようになったのは残念ながら本拠地(ホーム)に戻った後であり、同時に「ハァァァァァァァアアッッッ?!?!?」と、絶叫をあげたことで「なんだなんだ」と団員が押し寄せることに。

 

 そんな喧騒も余所に、そろそろ寝ようかなと寝間着に着替えていた某勇者(ブレイバー)は、突然親指が捩じ切れそうなほどに痛くなってきたとか。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 見敵速射(サーチアンドデストロイ)

 

「【クロスボルト】!」

 

 その声と共に放たれるは一条の矢。

 

 薄暗いダンジョンを僅かな時間だけ照らし、駆け抜けたるは緋色の矢。

 

 しかしそれだけではない。その矢に絡み付くようにして流転する蒼白い雷。

 

 その2つは決して反発せず、混ざりあうようにして、されど決して己を捨てぬようにそれぞれが主張するかのような光を放ちながら一直線にモンスターへ着弾した。

 

 目の前に姿を現した1匹のゴブリン。

 

 瞬時に手の平を合わせ、名称を口遊めば、現れた焔と雷が混じり合いながら高速で射出され、焔が熱で肉を焼き、雷が伝導して体内を荒らしていく。その結果として崩れた魔石を残し、モンスターは灰へと帰る。

 

「……やっぱり凄いや」

 

 そんな声を漏らして己の手の平を見た。既に十数体。ダンジョンに潜ってそれはもう大はしゃぎで進んでは、モンスターに出会って魔法を使う。それを繰り返していたことで、自分に発現した魔法の威力に感嘆していた。

 

 しかしそこでふと周囲に気を回せる程度には魔法への興奮も大分落ち着いてくる。そうすれば、自分が今居る階層がそこそこ危険な場所であることに気付いた。

 

「あ、5階層まで来ちゃってた……」

 

 薄青色から薄緑色に変色した壁は間違いなく4階層を越えたことを示している。流石に夢中になり過ぎた。好い加減帰ろう。でないとまたナインに怒られてしまうと踵を返した瞬間、少女の視界が歪んだ。

 

「……ぅ、ん?」

 

 倦怠感。全身を鉛のように重くなる感覚を覚え始める。ソレは少女にとって初めての存在。未知の感覚に少女は抗えるはずもない。足はおぼつかず、いま地面に立てているのかどうかすら不明瞭になってくる。

 

 すぐに視界はグラつき、抵抗虚しく視点が上へ向いていくのを最後に、彼女はあっさり意識を手放した。

 

 

 ────

 ──

 

 

 地下迷宮であるダンジョンは下の階層に行くほどに難易度も危険度も、そして稼ぎも上昇していく。そんな下の階層から上がって来たであろう者たちの会話が小さく響いていた。

 

「階層主の単独撃破。みな驚くだろうな」

 

「うん」

 

 ダンジョンでの成果、そしてそれに伴う仲間達からの反応を楽しみにしている声は2つ。

 

 リヴェリアとアイズだ。

 

 外傷を負った様子の無いリヴェリアに対して、その少し後ろを歩くアイズの格好は少々酷い有様。動き易さを重視した軽量の鎧は、彼女が扱うに足る一級品。それでも色々な箇所が破損している為、打ち直しは必須だろう。戦闘衣(バトルクロス)に至っては至る所が破れており、右胸の下が柔肌を晒すほど。

 

 しかし彼女にとってはこの様相もありふれたことなのか、それともそういった情緒が未だ成長していないのか恥ずかしがる様子はない。

 

 彼女は今年で16。恐らく、きっと、多分、前者に違いない。

 

 後者が正解だなんて……、あははそんな…………。

 

 それはそれとして彼女たちが進むのは6階層から上層へ続く連絡路。階段を上がれば5階層であり、もうすぐ地上だ。

 

「それにしてもだ、アイズ、持ち帰るにしてもやはり重いだろう。私が代わりに運ぼう」

 

「ううん、大丈夫。怪我もリヴェリアのおかげで全て治ったし、……私が持って帰りたいから」

 

「……そうか」

 

 アイズの背中には巨大な黒い塊がある。それはとあるモンスターからドロップしたアイテムであり、同時にオラリオにて勇名を轟かせる【ロキ・ファミリア】の彼女たちでさえ未知の存在だった。

 

 アイズはそれを拾った際、ドロップアイテムの稀少性ではなく、それがとある少年との会話の種になるだろう。会いに行く口実となるだろうとして大切に確保した。帰路、リヴィラの街に寄った際、その街の顔役である男性から預からせてほしいと泣きながら懇願されたが、アイズは「……ダメです」の一点張りで終了。

 

 彼女らが街から出る際にも嗚咽を漏らしながら見送ってきたが、アイズは頑なにこれを拒否。大の大人の嘆きをBGMに、17階層へと向かった。

 

 そんな今までではありえないであろうアイズの様子にリヴェリアは一考する。

 

(……フィンとガレスには伝えておこう)

 

 人知れずアイズがまた接触しにいくかもしれない、目を光らせておいてくれと。同期である彼らにも助力を要請しようとリヴェリアが心に決めた直後、彼女らが何かを知覚した。

 

 それは魔法の発動時に漂う魔力の霧散と、その結果を表す炸裂音。

 

 恐らく他の冒険者がモンスターと交戦しているのだろう。そう考えて少しだけ帰還ルートを変更しようかと考えていると、結構近くの場所だったのか魔法の使用者であろう少女の姿が目に入る。

 

「音量的にもう少し遠いと思ったが……、威力の低い魔法だったか? いや、それよりも彼女をまず──」

 

「……ベル?」

 

 魔法への探求心が人一倍大きい所為で目の前で倒れている少女の容態よりも先に耳に入った魔法の炸裂音から考察を始めてしまったリヴェリア。そんな彼女が思考の海に入り掛けていた自分を律し、倒れている少女へと近寄ろうとした時、アイズが少女の名を呼んだ。

 

 そこに倒れている少女が以前自分たちが逃がしたミノタウロスの所為で被害に遭った挙句、豊穣の酒場にて身内が虚仮(こけ)にした相手ともなれば、リヴェリアも流石に地上までこの状態で持っていくというのは憚られた。

 

 同時にアイズにとっては数日前に食事を共にした仲でもあり、その上でちょっとした打算が彼女の中で出来上がったことから、自分が残るから先に帰ってても大丈夫とリヴェリアへ告げる。

 

 そう、彼女が冒険者となって1ヶ月未満でこの階層まで無傷で来られるほどに鍛えたであろう誰かと時間を共に出来そうな雰囲気をその勘で掴み、放さないとばかりに気合を入れていたのだ。

 

 目を覚ました彼女へ、「私はお姉さんだから鍛錬を付けてあげちゃう」と自信満々に胸を張れば、性根が善良だけで構成されているベルはぱぁっと笑顔になって「是非ッ!」と答えた。ベルもベルで強くなれる方法が向こうから転がり込んでくれば、それを拒否する理由など無いのだから。

 

 なお、ベル少女を基本的に鍛えているのはベートさんだったりするのは御愛嬌だろう。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

「──と、こちらの経緯としてはこんな所だろうか」

 

「うわぁ……大変そうですね」

 

「そう思うかい? 思ってくれるかい? なら助けてくれるかな、鎮静作業を?」

 

「いや、明日はダンジョン探索の予定ですので無理です」

 

 とある喫茶店。深夜営業も行なっているその場で会話に花を咲かせているのはナインとフィンである。

 

 え? リヴェリア様はどうしたかって?

 

 ナインに冒険者登録どころか神の恩恵(ファルナ)を刻んでから2ヵ月と経っていないにも拘らず器の昇格(ランクアップ)を果たすほどに無茶な行動、及びそれを実行する程の想い、そしてそれを成してしまうほどの実力をどうやって手にしたのかという半ば尋問じみた状況を作ったリヴェリア。

 

 そんな詰問を始めて大して時間の経たない頃、その場に息を切らせながらフィンより、「君が歳の離れた只人(ヒューマン)を囲おうとしている、と言う噂が流れかねない状況だったから事実無根であることの証人となりに来たんだよ……」と告げられた直後、彼女の長い人生により他者より多く蓄積してきたあらゆる情報が脳内で錯綜し、絡み合った導線は結果まで辿り着けない状態へと陥り、そのままティーカップを持ち上げ心を落ち着かせようとしてから完全に硬直。

 

 それから10分ほどナインとフィンは固まったリヴェリアを完全に無視し、外で何がどうしてそんな神々が好み(めんどくさ)そうな状況になっているのかの説明を受けたり話してたりしていた。

 

「ダンジョンから帰ってきてみれば【フレイヤ・ファミリア】の本拠地(ホーム)の庭園は吹き飛んでいるし、その沈静作業に向かったらしいガレスはくたびれてるし、ギルドの方からは【ディアンケヒト・ファミリア】送りになったロイマンの代役が顔面蒼白で訪問してくる……。

 そして日を跨ぐことなく今度は『王族妖精(ハイエルフ)の若い燕事件』に発展する直前。

 数日前に怪物祭(モンスター・フィリア)で騒ぎが起きたばかりだというのに……、ほんとオラリオは飽きないね」

 

「若い燕どころかリヴェリアさんって未婚だったような?」

 

「一見してどう見える?」

 

「消し炭になりたくないので遠慮します(ノーコメント)

 

 ここで『未亡人もどき』とかほざいた瞬間、今もなお美麗な顔を保ちながらティーカップをその手に持っているリヴェリアが再起動しかねない。

 

 彼らは隣にはリヴェリアが居るという状況を理解し、彼女が起動しないようにしっかり言葉を選んでいた。彼女が冷静さを失った状態だとなにを口走るのか分からない。妖精(エルフ)とはそういう種族だ。下手な言質など取られないように慎重を期す必要がある。

 

 フィンがこの場に現れたのは、それを兼ね備えた派閥の長だから。彼以上に現在のオラリオに於いて最も信用度のある人物は居ないだろう。だからこそ今回の事態をいたずらに広めることなく収束させることが出来る生き証人となれるのだ。

 

 神ではいけない。彼ら彼女らは極論自由人。信用は出来るが、面白いこととなればふざけかねない。

 

 そして今回のこれは間違いなく面白いことの1つ。

 

 オラリオに来て20年以上独り身で浮ついた話は一切無く、普通の妖精(エルフ)よりも寿命の長い王族妖精(ハイエルフ)であろうとそろそろ結婚適齢期を大幅オーバー(いきおくれ)筆頭候補の一人。*2

 

 そんな彼女がダンジョン帰りに男を捕まえ、そのままファミリアの本拠地(ホーム)に帰ることなく夜の街に姿を消す。間違いなく衝撃的事実(スクープ)

 

 面白いことに目がない神はこぞって話題にあげるだろう。

 

 熱を上げている某美神は非常に腹を立てるだろう。

 

 彼女の感情を()る某従者は《無銘:星砕き》*3を片手に「あの美神(ひと)を泣かせるなッ!」と、ナインを襲いにくるだろう。

 

 もしそんな下らないことがオラリオ中に広まれば、この都市に来ている商人たちの口から都市外へ一斉に広がり、それは大した時間も置かずリヴェリアの故郷へ届くだろう。

 

 そして始まるのは全世界の妖精(エルフ)たちによる全面戦争。

 

 (たち)が悪いのは、このオラリオ内に籍を置く冒険者の中にも王族に対して盲信的な妖精(エルフ)が数多くいるということ。外と内から一斉蜂起などされればかつての暗黒期も真っ青な状況になりかねない。

 

 未だ息を潜めているであろう闇派閥(イヴィルス)が混乱に乗じて殺戮を繰り返すのはもうこりごりなのだ。

 

 解決策の代表者となり得そうな当のリヴェリアも、その起こりとなり掛けた状況だけで硬直してしまう始末。彼女だけでは絶対に止めれないだろうことは確実である為、フィンは急いで捜索隊を出して既に治療院送りとなったロイマンにこれ以上のストレスを与えぬように計らい、彼を延命させるのに尽力しているのだった。

 

 

 ────

 ──

 

 

「……とまぁ、これでリヴェリアと君の間には特にこれと言った関係性は存在しないことが確約されたんだ。君も、そして僕らも安心できる」

 

「それは良かったです」

 

 ナインとフィンの間の認識はしっかりと擦り合わせが行われ、これで今回の件が火種にオラリオが崩壊するという可能性を消し去れた。

 

 フィンも我慢していた親指の痛みが引いてきたことに安堵する。

 

「さて、結構な時間となったけどあと少しだけ良いかな?」

 

「何かありましたっけ?」

 

「ああ。君であることは確定していたからね、以前の謝罪の品を持って来たんだ。

 受け取ってくれ」

 

 そういって机に置かれたのはリュックサック。開けても良いかとナインが視線で問えば、頷きを以て返される。

 

「……うぉ!? マジか……」

 

 その中身を見て、流石のナインも驚愕を露わにする。

 

 幾つかのインゴット、それも《聖火の刃(ヴェスタ)》や《天星剣(アストラ)》の刀身に近い輝きを持つそれらは間違いなくミスリルだろう。だがそれらはまだマシ。

 

 ナインの驚愕はそれらの下に、魔導書(グリモア)が入っていたからだ。

 

「僕たちにとっても貴重な品。それを対価に例の件を無かったこととして貰えるのであれば望外の結果さ」

 

「それでもこれって……」

 

「まぁ中々な値段するね。正直に言えば痛い出費だ。

 だけど、今回僕たちが犯した失態はそれだけのモノだった。これまでの記録を塗り替え、たった1ヶ月半で器の昇格(ランクアップ)を果たして見せた相手に、冒険者として先達であるはずの僕たちが狭量を見せる訳にもいかない。

 他にも別途そちらへ別の形となって渡るはずだ。何の憂いもせずにいてくれるとありがたい」

 

 そういって紅茶を口に含むフィン。

 

 彼がナインたちへ譲渡したものは、今回の魔導書(グリモア)を含めれば少なくとも1億ヴァリスに届きかねない程の金額になるのだが、それ以外にも手を回したという。気になる事項ではあるが、相手の雰囲気から恐らくは御楽しみの類い。

 

 所謂サプライズ。

 

(団長としての器量の話を最初に挙げておいてこれか……)

 

 やっぱりこの小人族(パルゥム)は嫌いだ。

 

 ナインは再度そう思った。

 

 

 ────

 ──

 

 

 店外へと出て去っていくナインの後ろ姿を見つめている人影が10人弱。彼らは【ロキ・ファミリア】の団員であり、全員が口の堅い者たちで選出されている。

 

 今回の一件の生き証人として招集されたメンバーたちであり、この場に耳の早い妖精(エルフ)が怒り狂って突入してくる可能性がある。そんな時の対処用人員。フィンが店内に入ってから常に周囲を警戒していたのだ。

 

「……何とか穏便に済んだわね」

 

「ふわぁ……、こんな時間に最悪っす……」

 

「ちょっとラウル、気を抜かないの。一応何も無かったってことになったけど、彼が襲撃される可能性もまだ捨てきれないんだから」

 

「そんなこと言っても……あっ、手を振ってるっす…………………………、これ、気付かれてないっすか?」

 

(うそ)でしょ……」

 

 もう大分離れた位置かつ今はもう深夜。Lv.4の強化された視力でギリギリ視認可能な距離にいるナインから、軽く手を振られていることに気付いたラウルは、「案外いい人っすよね~」と、お気楽に構えていたことで無意識に手を振り返してしまう。

 

 自分達が居たことに気付いていなければ決してできない芸当を披露され、感心よりも恐怖が勝った。

 

 

 ────

 ──

 

 

「そういや団長、どうしてリヴェリアさんの居場所が特定できたんすか?」

 

「ん? 簡単なことさ。今回のことがもし変な解釈と共に拡大してしまえば、行きつく先は妖精(エルフ)たちによるオラリオへの宣戦布告、そして全面戦争……」

 

「そ、そこまでなるんすか……?」

 

「ああ、なるよ。妖精(エルフ)ほど同族意識の高い種族はいない。下手をすれば『国際問題』まで一直線。

 そんなことになると僕たちも大問題だ。おかげでハズレの方向に足を向ければ親指が疼いてくれた。正解の方向に向けば疼きが収まるんだ。ならその方向にある妖精(エルフ)御用達の店に当たりを付ければ、この通りだ」

 

「……何か……、力押し(パワープレイ)っすね」

 

「僕もそう思うよ」

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 翌日の朝刊、ナインはポストに入っていた紙の束の表紙にでかでかと書かれた一文を見て乾いた笑いを上げる。

 

『王族であるリヴェリア様、まさか【ロキ・ファミリア】の【勇者】(ブレイバー)と深い関係にあった!?』

 

 要約すればこうだった。

 

 ナインは大爆笑してから炉にくべた。

 

 日も出ぬ時間であるにも拘らず、今日はいつもより外が騒がしい。そんな感想を抱きながら今日も朝稽古の為の準備を済ませていく。

 

 オラリオ北部、【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)が建っているであろうその方向から喧騒が広がっている気もするが、きっと気のせいである。

 

 昨日は【フレイヤ・ファミリア】が騒がしかった。

 

 ならば今日は【ロキ・ファミリア】の日なのだろう。

 

 あれだ、女の子の日や男の子の日などがあるように、『ファミリアの日』というのがあるのだろう。オラリオには。記念日ではないが、面倒ごとが絶えない日。そういうものなのだ、きっと。

 

 オラリオは今日も平和だった。

 

 

 

 

 

*1
無限ボルトとかいうトンチキは除外。

*2
もう1人は某黒妖精(ダークエルフ)のアイドル。三桁はいってるらしいし。

*3
形はガベルの様な形状。超硬金属(アダマンタイト)製で不壊属性(デュランダル)もついている為とても高い。3000万ヴァリス




朝の皆さん

ナイン「被害を逸らせました」v
フィン「なんとか身内のごたごたで終わらせられるね……」トホホ
リヴェリア「………………」真っ白
アイズ「レフィーヤが怖い」プルプル

レフィーヤ「あのヒューマン殺すあのヒューマン潰すあのヒューマン消すあのヒューマン滅すあのヒューマン──」杖が悲鳴を上げているようだ

【ロキ・ファミリア】ホーム前:他種族との婚姻など許すな派6割、勇者ならば問題無いだろう派3割、リヴェリア様が決めたのでしたらと泣き崩れている派1割。

 ダンまちに於いてエルフはポンコツでよいとされている。

魔導書(グリモア)はおいおい。

 ゴブスレコラボの
「魔法は何発撃てる?」
「70くらいです」
「そうか、70…………、70!?」

 ってところ好き。普段冷静沈着を心掛け、味方をドン引きさせているゴブスレが味方の発言で動揺してるところが特に。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。