ダンジョンはつらいよどこまでも   作:たっぷり

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 アイズ強い気がしたけど、彼女のステイタス全部レベル詐欺専用魔法オアスキルだから良いかとなりました。

 高評価や感想、ここすき、誤字報告、いつも感謝しております。

 難産でした。


・027 ヤツは弾けた

────

 

 

 

 

 


 

《名前》

 アイズ・ヴァレンシュタイン

 

『Lv.5』

 

《基本アビリティ》

 力 : B 722

 耐久: B 701

 器用: A 897

 敏捷: S 903

 魔力: S 989

 

《発展アビリティ》

 狩人:F

 耐異常:G

 剣士:G

 

《魔法──────

 


 

 ────

 ──

 

 

「これがアイズのLv.5の最終ステイタス……」

 

「う~む、どう見ても」

 

「ああ、高すぎる。特に顕著なのが【力】と【耐久】だ。

 いままでのアイズなら良くて600を超える程度だった……」

 

「せやなぁ……リヴェリアの話を聞く限りごっつう激戦やったんは間違いない。

 でも【アビリティ】は本人の素質でもあるからなぁ……伸びんもんは伸びんし、伸びるもんは伸びる。せやけど、これまでアイズたんの【ステイタス】の伸び方は前衛剣士っちゅうより一般的な妖精(エルフ)に近い感じやったし……どういうことやねん」

 

 そこは【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)。その執務室ではいつものように派閥の首脳陣である3人と1柱が顔を揃え、二枚の用紙を議題に挙げていた。

 

 そこに記載された内容は彼らにとって娘とさえ言える派閥の幹部である【剣姫】──『アイズ・ヴァレンシュタイン』の【ステイタス】。先日の小規模深層遠征の際、急なアイズの我が儘に対し、リヴェリアの同行を最低条件とすることで許可した。結果、彼女は単騎で『迷宮の孤王』(モンスターレックス)の討伐を成功させた。

 

 相手は深層1体目の『迷宮の孤王』(モンスターレックス)──その名も『ウダイオス』。

 

 全身を強固な黒い骨で覆った巨大な骸骨型のモンスターで、下半身が地中に埋まっている為に旋回能力を持たないが、地面から無数の逆杭(スパイク)を放ち、更には1体1体がLv.4相当の能力を持つ骸骨型モンスターである『スパルトイ』を際限なく生み出しては、兵隊のように使役する。

 

 単純な【ステイタス】だけでは太刀打ちできない。『ウダイオス』との一騎打ちの為には、生み出される『スパルトイ』の対処をしなければならず、その最中も『ウダイオス』が態々止まってくれることなどない。

 

 どちらにも対処できるようにならなければ、そもそも戦いにすらなりはしないのだ。

 

 そんな強敵と戦い、勝利を収め、無事に帰って来た。嬉しいことは続けざまに起こると言わんばかりに彼女の『器の昇格』(ランクアップ)も果たされた。

 

 本来は諸手を挙げて喜ぶことだ。事実、昨日の夜は急遽『アイズ昇格(ランクアップ)おめでとう』という祝賀会を開くことに。彼ら以外の団員たちは朝を迎えた今も、祭りの時のように騒いでいる者までいる程だ。

 

 なお、テンションの上がった団員たちからもみくちゃにされまくった当人は早速Lv.6となって更に強化された身体能力(ステイタス)を行使して食堂から逃走。追おうとした者たちの視界から一瞬にして()き消えて意気揚々と朝稽古の場へ赴き、昨日以上にナインを叩きのめしたのだが。

 

「階層主とやり合ったからと言って、短期間でこれほどまでに伸びるとは思えない」

 

「お主らが言っていた18階層で出会った赤髪の調教師(テイマー)との戦闘で得た経験値(エクセリア)……ということは考えられんのか?」

 

「……いや、それは無いだろう」

 

「断言するんやな」

 

「僕も同感だ。確かに彼女は強かったけど、良くてLv.6成りたての前衛剣士と言ったところ。アイズも最初の方は押されていたらしいが、その後は互角の勝負には持っていける程度の実力だった。

 最後の方は僕たちも()させて貰ったし、僕自身も少しばかり戦った。【ステイタス】がここまで急激に上昇する程の実力差があったとは到底思えない」

 

 フィンとリヴェリアがリヴィラの街にて同時多発的に発生した食人花モンスターの群れの対処を()えて、街から離れていたレフィーヤやアイズの(もと)に到着した際、そこで行われていた激しい攻防戦。一見すれば、ややアイズの劣勢に見えた。だが同時に、早々(はやばや)負けることはないだろうという程度には、実力が均衡していたようにも見えたのだ。

 

 明らかに冷静さを欠いた様子をみせる赤髪の調教師(テイマー)

 全身に青痣と切り傷を持ちながらも、果敢に攻め続けて勝利を得んとする剣の姫(アイズ)

 

 両者をその視界に捉えたフィンとリヴェリアは一瞬介入を検討した。本来であれば即時の介入を決断する場面で、だ。敵の手札がまだ残っている可能性を考慮して、2人はもう少しだけアイズ1人に任せようと判断したのだった。

 

 戦闘中の両者には精神的な余裕が決定的に開いていた。推測した階梯(レベル)に対してアイズのレベルが追い付いていないにも拘らず接戦が成り立つ程度に。

 

「う~ん……、ウチとしてはその場におったっちゅうドチビんとこの眷属(こども)が怪しい気がするんよなぁ~」

 

 ロキが漏らした勘のように曖昧な一言に三首領全員が疑問を抱く。

 

「彼がかい?」

 

「流石に憶測が過ぎる気がするのう」

 

「同感だ。……だが、もしそれが当たりであったなら、確実にオラリオ中で奪い合いが起こるな」

 

 リヴェリアの(げん)にその場の全員が頷きを返す。

 

 他派閥の冒険者相手であっても、何らかの条件をクリアすることで大幅な【ステイタス】の上昇補正が掛かる。所謂の『成長補正スキル』。『神時代』が到来して1000年、記録上前例のないことだが、彼らは既に前例(じょうしき)を大きく覆した存在を知っているのだ。

 

「1ヶ月半……。彼が……ナイン・レイルが『器の昇格』(ランクアップ)に掛けた期間だ」

 

「アイズの1年を大幅に更新……。そもそもの話、彼は我々が取り逃がしたミノタウロスを5階層にて3体も討伐している。だが『器の昇格』(ランクアップ)をしたのはその直後ではなく怪物祭(モンスター・フィリア)で脱走した小竜(インファント・ドラゴン)の強化種を単独で討伐したことが偉業として認定されたとのこと……管理機関(ギルド)の公表だけでなく、我々はアイズを通じて情報を得ている。

 まず『器の昇格』(ランクアップ)した時期に間違いはないだろう。

 ロキ、神としての所感は?」

 

「う~ん、考えられるのは明らかに速い『器の昇格』(ランクアップ)までの期間の誤魔化し。でもこれはたった1ヶ月半で申請したし、ないな~。悪目立ちせんように立ち回るんやったらそれこそ半年ぐらいは()けた方が良い……意味はないやろけどなぁ。

 2つ目は【アビリティ】がまだ満足できる数値じゃぁなかった~とかやないか?」

 

 基礎となる5項目の【基本アビリティ】のみに0から999までの熟練度が存在している。【アビリティ】はIからA、そしてSの十段階で(あらわ)されており、Iが0から99、Hが100から199と評価値と熟練度は常に連動を示していた。そこに例外はない。

 

 本来、冒険者の【アビリティ】の評価値は良くてB。昇格(ランクアップ)直前であっても大抵がCかDに落ち着く。Aという評価ですら並々ならぬ鍛錬と戦いの日々の末、漸く辿り着ける領域だ。

 

 そんな【アビリティ】の最高評価であるSに昇り詰める者は全くと言って良いほどおらず、幹部陣である三首領たちも各々の種族的に向上させ易い【アビリティ】以外で評価値Sに届いていない程度には熟練度の上昇とは困難を極めている。

 

「ふぅむ……、しかしフィン達の話を聞く限り昇格(ランクアップ)を果たした翌日にアイズと手合わせが出来る程度には強かったのじゃろう? Lv.1の熟練度を可能な限り上昇させたと言っても真面な打ち合いになるとは思えんのぅ……」

 

「手加減はしてたがな。

 ……いや、途中からボコボコにし始めたから流石に止めたが」

 

 頭痛が痛いとばかりに頭を抱えるリヴェリアと乾いた笑いを上げるフィンの脳裏には、話したそうにしつつも話し掛けれずじまいなアイズとそんな彼女に優しく微笑み掛けに行くナインの姿があり、手合わせを終えたあと全身に打撲痕を作りながらも「また今度~」と手を振る少年の姿が映る。そんな彼に対して嬉しそうに小さく手を振るアイズの姿も。

 

 正直に言えば常軌を逸した耐久力を見せられてちょっと引いた。『耐久』が伸びにくい妖精(エルフ)小人族(パルゥム)であることも一つの要因だろう。

 

「ママから溜飲の下がる話が出たところで……「ママというな」、本題は──コレやッ!」

 

 一拍置いてロキが執務机に叩き付けたのはもう一枚の用紙。先程同様アイズの【ステイタス】が記載されているソレだが、記載内容が変わっている。

 

 階梯(レベル)は6へ上昇し、【アビリティ】は総じて初期値である0となった昇格(ランクアップ)直後の【ステイタス】らしい記載となっていた。

 

 新しく増えた項目としては2()()

 

 1つは【発展アビリティ】である【精癒:I】。これは良い。発展アビリティ自体は『器の昇格』(ランクアップ)時に手に入る代物だ。運が絡むが、大抵は冒険者たちに寄与してくれる。

 

 だが、もう1つは────、

 

【輝精風導】(レイ・ルクス・アリアドネ)

 ・()()()()と共闘時且つ魔法使用時──発動可能

 ・疑似精霊化。特定対象に()()()()を付与

 ・体力及び精神力(マインド)の回復速度に超補正

 ・発動中、自身の潜在値(エクストラポイント)を全て『魔力』に加算

 

「「「「………………………………」」」」

 

 その場に集った4人が黙って一枚の用紙を覗き込むという珍光景がそこにはあった。

 

 アイズには隠し事がある。それを知っているのは主神であるロキと三首領を除けば、憶測の範疇を出ないが女神フレイヤぐらいだろう。神経質なまでに隠し続けてきた彼女の秘密。その一端である『精霊の血を引く』という事実なのだが、このスキルに至っては疑似的にとはいえ精霊と化すらしい。

 

 おかしいんちゃう?

 

 これが感想だった。

 

「…………ロキ、これを」

 

「言えるわけないやんか」

 

 そう。ロキはこの【スキル】をアイズに渡した用紙には記載していない。明確な【稀少(レア)スキル】であるにも拘らず、だ。

 

 しかしフィンの頭の中ではこのスキルの有用さが理解できてしまう。

 

 今まで蓄積されてきたアイズの潜在値(エクストラポイント)昇格(ランクアップ)を果たすごとに新たな【基本アビリティ】の下に隠されてきた数値全てが今の『魔力』に加えられ、その全てが特定の誰かさんへ加護として発揮される。

 

 自身の【第二魔法】にも似たような記載がある分、彼の中ではどうにか()かせないだろうかという思案が続けられていた。

 

「……なぁロキ「嫌や」、まだ何も言ってないじゃないか」

 

嫌や。ぜぇっっっっったいにッ! 嫌やッッ!!

 何が悲しくてかわいいかわいいウチのアイズたんをどこの()()()とも知らん奴とランデブーさせなあかんのやッ! ドチビに頭さげんのも癪にすぎるッッ!!

 そもそも足らんわレベルもダンジョンの経験もなッッッ!!!! 誘う価値ナシッッ!!!

 以上! 解散ッッッ!!!

 

 と、勝手に締めくくったロキは扉を全力で開け放ち、「こんなん寝取られやんかぁぁぁッッ!?!!」と叫びながら自室へと帰っていった。

 

 彼女を見送った首脳陣である3人はそれぞれ顔を見合わせた後、呆れたように小さく笑い合う。少なくとも今続けるような話題ではないとして現在ファミリア総出(そうで)で行なっている下水道の調査を進めるべく、各々動き出すこととなった。

 

 

 ────

 ──

 

 

 その1時間後、大半の上級冒険者が出払ったタイミングでとある神が【ロキ・ファミリア】(かれら)本拠(ホーム)を訪れる。話題は先日下水道にて遭遇した食人花について。

 

 ロキは先程までの憤怒を一度飲み込んで応対していたのだが、そこへフクロウが一羽。足に付けられた小さな筒から取り出されたのは彼女が心から愛するアイズからの手紙だった。

 

『ちょっとダンジョン内で冒険者依頼(クエスト)を受けたので行ってきます。

 同行者も居るので心配しないでください。

 ────あ、後日【猛者】(おうじゃ)が買い取り交渉に………………やっぱり気にしないでください』

 

ツッコミどころ満載やンかぁーーーーーッ!!!!

 

 客神の前であることも忘れ、ロキは空へと吼えたのだった。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

「……24階層の食糧庫(パントリー)を食人花の『苗花』(プラント)へ変えた怪人……死んだはずの【白髪鬼】(ヴェンデッタ)──オリヴァス・アクト……。

 そして彼を殺した赤髪の怪人──『レヴィス』なる人物と、最後に現れた仮面の存在。……単なるダンジョンの道というには怪しすぎる」

 

 『旅人の宿』と呼ばれる本拠地(ホーム)の主、羽の付いた帽子を被った旅人のような優男の男神は自身の眷属から挙げられた報告書とにらめっこしていた。

 

 書類に記載されている内容は今回の一件に対するあらましだ。

 

 男神──【ヘルメス・ファミリア】の主神、神ヘルメスの眷属である【泥犬】(マドル)が先日引き受けた18階層から地上へ『宝玉』を運搬する冒険者依頼(クエスト)。しかしソレは【ガネーシャ・ファミリア】所属のLv.4──ハシャーナ・ドルリア殺害事件によるリヴィラの街封鎖とその後発生した食人花の群れと、食人花を操る赤髪の調教師(テイマー)の出現で失敗に終わる。

 

 今回の一件はそれを引き合いに出されたことと、ギルドへ報告している所属団員のレベルや到達階層を偽っている点を指摘されたことが原因だった。

 

 だがこれらの件に関してはそこまで気にしていない。ギルド長のロイマンからは薄々勘付かれている節もあり、同時に見過ごされているゆえにだ。

 

 問題はこの一件で起きた様々な異常事態(イレギュラー)

 

 24階層で起きていたモンスターの大量発生は最奥に位置する食糧庫(パントリー)闇派閥(イヴィルス)たちに占領されていたこと。そしてその理由は先日持ち帰ろうとしていた『宝玉』を食糧庫(パントリー)大主柱(はしら)に植え付け成長させることだった。

 

 そしてそれを完遂するべく用意された死兵という名の闇派閥(イヴィルス)の残党、【白髪鬼】(オリヴァス)を始めとした怪人と彼らが操る食人花や上位個体と思われる巨大花(ヴィスクム)

 

 怪人だけでも厄介極まりないところへ、第一級冒険者の打撃を跳ね返すほどの耐久力を誇るモンスターは養殖可能ときた。頭の痛いことである。

 

 頭を抱えている最中、ヘルメスの神室のドアがノックされ思考を一度クリアにしようと入室の許可を出した。

 

「失礼します、ヘルメス様」

 

「おかえりアスフィ。容体は?」

 

「幸運なことに全員峠は越えたと【戦場の聖女】(デア・セイント)から」

 

「おおっ、流石アミッドちゃ~ん」

 

 ヘルメスは【ロキ・ファミリア】の面々よりも遅く帰還したアスフィらがその足で【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院へ駆け込んだことを聞いた時、まずはホッとした。彼らの背中に刻んだ『神の恩恵』(ファルナ)という繋がりが消えることなく地上へ帰還したことの証左であり、同時に治療院の(おさ)である『アミッド・テアナサーレ』の所有する【全癒魔法】があれば、負傷・毒・呪い、この3つに対応することが可能であるからだ。

 

 どのような状態であれ、一命は取り留めるだろう。そう思い、胸を撫で下ろした。

 

 だが、アスフィの口からは「しかし──」と続く。

 

「失明したポットは別にして、四肢を欠損した者たちは……」

 

「その為の金だろう? 義腕に義足……本人たちの要望を聞き届けてやってくれ」

 

「了解しました」

 

 言うが早いか、それともすでに用意していた為か、安堵の息と共にドアを薄く開いて外で待機していたルルネへ証文を渡す。無制限の金銭担保か、それとも上限額の提示か。ヘルメスは目を瞑ることとする。現場指揮をした者が負う責任と言うモノは計り知れないのだから。

 

 廊下を駆けていく音が消えた辺りで漸くヘルメスが口を開いた。

 

「それじゃあ、そろそろ本題だ。

 援軍として来てくれた【剣姫】……彼女と共に来た黒いローブを羽織った人物について分かったことは?」

 

「今のところ何も。【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院にもそれらしい人物は居ませんでした」

 

 彼らの話す議題は正体不明の援軍である黒のローブで全身を覆った人物。ルルネにも確認を取ったが、冒険者依頼(クエスト)を依頼してきた人物ではない。しかし同時に人相すらも分からなかったという。

 

「おそらくは認識阻害の魔道具(マジックアイテム)……それも私がそれとなく探ったうえで見破れない辺り、相当腕の立つ魔道具製作者(アイテムメーカー)が裏に付いているでしょう」

 

「判明していることは2本の剣を佩いている前衛剣士であること。身長は180セルチに届かない程度で……。ここからは推測だが性別は男、強さに関しては──推定Lv.3に届きうる……、か」

 

 18階層のリヴィラの街にて落ち合ったアイズの隣に立つ人物。正体を明かすように指示しても無視をされ怪しんだが、アイズが信用しても良いと宣言したことで一定の──監視を前提とした信用を置く。【剣姫】というネームバリューに対する信頼が大半の比重を占めていたが。

 

 基本的に無口かつ指の先まで覆う厚手の手袋で体型から骨格まで隠していた為に性別すらも断定には至らない。ローブに施された認識阻害の細工の所為だろうとし、冒険者依頼(クエスト)中に破れでもすれば良いとして一先ず放置。アスフィは全員に手出し無用と指示を出して目標の24階層へと向かった。

 

 下手に藪を突いて【ロキ・ファミリア】と敵対する気はないのだ。万が一主神であるロキが隠したがっていたお気に入りであった場合、【ヘルメス・ファミリア】の痛いところを知っている彼女に総攻撃を喰らいかねない。最低限、事故でなければならなかった。

 

「ひとまず『彼』としておこうか……。

 負傷に関しては?」

 

「食人花の群れとの戦闘ではローブの先端が破れる程度で認識阻害が解除されるほどではありませんでした。ただ……」

 

「……ただ?」

 

食糧庫(パントリー)崩壊後、あとから合流した【白巫女】(マイナデス)と不慮の接触によって右手を刺されていました」

 

「うっわー……いたそ」

 

 妖精(エルフ)は身体の接触に対してとても過敏だ。その度合いに程度はあれど、基本的に自身が認めた相手以外であればとても手荒な対処に走ってしまうほどに。アスフィの知り合いにも1人、極端に嫌った末に反射的に投げ飛ばしたりなどの行動に出てしまったりと、目を覆いたくなる事例が多くある。

 

 その類いの女性だったのだろう。黒ローブの人物は右手を短剣で貫かれて血を流すこととなった。

 

 ゆえに治療のため治療院へと足を運んでいるだろうと考えアスフィも向かったが、それらしい人物は見当たらなかった。【ディアンケヒト・ファミリア】の団員にも聞いてみたが、そちらも芳しくなく。

 

 バベルに併設されている治療院も訪ねたが、こちらも収穫は無かった。

 

「それじゃあ……誰が裏にいると思う?」

 

 本人ではなく、その裏にいるであろう顔をみせぬ推定協力者について。

 

「【剣姫】が連れて来たことから【ロキ・ファミリア】……と言いたいところですが、【千の妖精】(サウザンド・エルフ)が警戒していたことからまず無いでしょう。【凶狼】(ヴァナルガンド)については……よくわかりません。呆れた様子は見せていましたが。

 あとの候補は……【白巫女】(マイナデス)を同行させた【ディオニュソス・ファミリア】か────」

 

「ギルド……いや、ウラノスかな」

 

 ダンジョンでアスフィたちが苦労している最中、ヘルメスもまたそこへ己の眷属を送り出した神ディオニュソスの下に出向(でむ)いていた。態々このタイミングで【ロキ・ファミリア】と接触した点や、数少ない上級冒険者の内、常に自分の側に侍らせている【白巫女】(マイナデス)──フィルヴィス・シャリアを異常事態(イレギュラー)が予期される場所へ送ったことなど、疑える節は多くあったがゆえに。

 

 結局なにも判明しなかった。彼の眷属がここ数年で同様の異常事態(イレギュラー)に巻き込まれて死亡していた事実以外は。

 

「私の推測ではギルド側ですね」

 

「理由は?」

 

「1つは彼の着ていたローブがルルネに冒険者依頼(クエスト)を依頼した人物のモノと類似性がある点。

 そして……────」

 

 アスフィが一度口を噤む。当時の光景を、自分たちでは手に負えない食人花の群れとその奥から悠然と自分たちを見下ろす巨大花(ヴィスクム)の大きく開いた(アギト)。絶望的な光景を思い出し、身が震える。地獄のように変異したダンジョンという大穴に久方ぶりの恐怖を覚えた。

 

 指揮官である彼女は味方の命を預かる立場であると同時に、時に非情な選択を強いられる立場でもあるのだ。あの場で最も命の価値が高かったのは【ロキ・ファミリア】の眷属、そして次点に【ヘルメス・ファミリア】団長であるアスフィ。つまりは自分を生かすために味方である部下の命を消耗させてでも敵の進攻を遅滞させろと命令しなければならない状況であった。

 

 だが、その場から1も2も無く飛び出したのが黒いローブを着た人物だった。片手に鈍色に光る片手剣を握り、迷うことなく敵陣へ吶喊していく。戻れと命令しようにも、彼女の中で一番命の価値が低いのは正体不明の『彼』だった。

 

 オリヴァスの魔石を食し、強化された怪人を対処するため離れた【剣姫】と【凶狼】(ヴァナルガンド)。明確な実力者を欠いた自分たちの代わりに食人花の攻撃を一手に担ってくれる存在は、相手が正体不明の人物であっても有り難かった。例え惹き付けられる時間が数秒であってもだ。

 

 しかし惹き付けた時間は30秒を優に超えていた。広い食糧庫(パントリー)を埋め尽くすほどに発生していた食人花や追加で出現した巨大花(ヴィスクム)の注意を惹き付けておきながら、『彼』は【千の妖精】(サウザンド・エルフ)の放つ【レア・ラーヴァテイン】の詠唱に入るまで、アスフィたちにかけがえのない時間を与えた。

 

 回復薬(ポーション)による回復、隊列の調整、士気の確保。少なくとも対処する相手がLv.1程度の残党どもだけであれば片手間で済むのだ。

 

 陣形を整えた【ヘルメス・ファミリア】であれば、時間稼ぎ程度であれば問題無く行えた。

 

「『彼』にはまだ奥の手があった……」

 

「食人花の上位個体──巨大花(ヴィスクム)……。オリヴァスが奥の手として用意していたそいつが『彼』の背負っていたリュックサックを齧り取った数秒後、突如として苦しみ出し……最後には()()()()、か。

 にわかには信じられないね……推定レベルが5はあるだろうモンスター相手に通用する魔道具(マジックアイテム)を隠し持っていたなんて……」

 

「えぇ、私の炸裂薬(バーストオイル)以上の威力を誇っていたかと」

 

「1人で数十体のモンスターを相手取れる実力に、レフィーヤちゃんの魔法に見向きもさせないなんらかの効果不明の魔法……若しくは呪い(カース)、挙句の果てにはうちのアスフィの十八番(おはこ)を奪うような魔道具(マジックアイテム)ときたかぁ……ッ」

 

 「さてどうするかな……」と、ヘルメスは今後の予定を組み直す。近いうちにオラリオの外へ出るつもりでいた彼だが、この案件を放置して良いものか、と。

 

「……っあ、そうだ。頼んでおいたことって終わってるかい?」

 

 ここで丁度思い出しましたと言わんばかりの口調と表情でアスフィへと問うヘルメス。対するのは疲れたOLのような表情と化した【万能者】(くろうにん)

 

「──世界最速記録保持者(レコードホルダー)、ナイン・レイルについては一応……」

 

「さっすがアスフィ~、愛してるぜ?」

 

「口だけ野郎が……ッ」

 

 「言葉がささるね~」と宣いつつもアスフィより数枚の用紙を受け取る。彼が都市から離れていた間に起きた出来事などを公表されているモノよりずっと詳細な内容の書かれたアスフィ個人へ頼んだ秘密事項。

 

 以前より──そう、ずっと昔から目を付けていた人物についての報告書へ、ヘルメスが目を通す。期待半分、恐怖半分。自分が接触するのは()の女神との契約を安全に履行するため、何かしらを起こした後で良いだろうと高を括っていた。大体半年経ったぐらいになるかな~と予想していたのだが────。

 

「……………………は? マジ?? すっげぇ……」

 

 しんじらんねー、というような間抜けな声が神室のなかを木霊したとか。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 そこは世界の中心たるオラリオの西地区。住宅街などの一般市民の生活圏が広がる比較的安全性の高い地区である。ここに構えられた『豊穣の女主人』という酒場の前で1人の従業員が呼び出された。

 

 彼女の知る彼が呼び出すとすれば同僚であり、種族がら端麗な容姿をしている妖精(エルフ)ぐらいだろう。そう思っていた。なぜならば妖精(エルフ)の彼女は誰よりも早く彼との交友関係を作り、生来身体の接触を拒む体質でありながら距離感と言うべきものがとても近いように感じるのだ。更に言えば最近は彼からお弁当を貰うこととなり、帰り際に顔を出す理由ともなり始めたソレに嫉妬を覚えてないと言えば嘘になるだろう。

 

 だからこそ彼が彼女ではなく自分を呼んでくれたことにどこか優越感を覚えたこと自体には目を瞑ろうと心の中で呟いた。

 

 僅かに顔を朱に染めながら案内した店の裏にある広場についた両名。出歯亀よろしく覗き込んでくる恋愛模様に目が無い同僚たちの視線すら無視して話を始める。

 

 覚悟を決めたように真剣な様子をみせるナインの雰囲気に圧されつつも何かしら良いことが起こるかもという勘に頭の中を(とろ)かせながら。「もしかして告白ッ!?」――――

 

 ────などと思っていたのは鈍色髪の街娘だけ。

 

「貰ったお弁当をモンスターに喰われてしまい、ほんっっっとうにッ……すいませんでしたァァァ!!!」

 

 彼女の対面に立っていた漆黒髪の少年は齢にして3つから鍛え上げてきた肉体を全霊で酷使して全力の土下座を敢行するのであった。

 

 なんやかんやあり、巨大なたんこぶをこさえたナインが後日一緒にお料理するということで決着がついたとか。

 

 

 

 

 


 

 ──────次回、『調整』(メインヒロイン・前)




オ「俺は?」
ナ「だってお前食人花とか興味ないじゃん。12階層で黒大剣の欠片持って帰ったよ」
オ「でば……」
ナ「俺も数行だけだけど?」
オ「…………」

 今日のあれこれ
・朝稽古の場にオッタル登場。1(ナイン)3(リュー、アイズ、オッタル)でナインが今際の際に。ヘイズぶちぎれ、3人を正座させてナインがLv.2であることを滔々と語る。4,6,7に囲まれる2。

・帰りの際ナインへアイズがドロップアイテムについて概要を話す。興味を持ったオッタルが来るということで場所がダンジョン内に(ロキFとフレイヤFが敵対派閥なので見つかりにくい場所で)。

・黒大剣の欠片をオッタルが買い取ることで決着。直後冒険者依頼(クエスト)をしに来たフェルズが隠形を看破されて姿を現す。なお内容を聞いてオッタルは無気力に一蹴。帰った。

・ナインは同行した(珍しく剣2本という構成だった)。ついでに認識阻害のローブを貸して貰った。もう返した。

・巨大花までは原作通り。しかし純前衛をしていたナインのリュックの紐を触手で切られ、リュックを丸ごと喰われる(回復薬やその他、ダンジョンへ行く前に貰ったシルの弁当を捕食)。

ヤツ(巨大花)はハジケタ。

・人から貰った物を粗末にした自分が許せず吶喊。背後で行われているレフィーヤの魔法に目が行かないように付与魔法に限界まで精神力(マインド)を注ぐ。

・レア・ラーヴァテイン。

・素性を隠したままのナインでしたがレフィーヤからはジト目を、ベートからは呆れを貰う。前者は1割ぐらい、後者は半ば気付いている。

・フィルヴィスに挨拶がてら握手しにいったらグッサリ。「これで俺の手も血に塗れたからお互い様ですね」と小声で伝えて無理矢理握手。

・地上に戻って家に帰りエリクサーをグビり。『豊穣の女主人』へ。

・初めて作って貰ったお弁当を味わうことなく台無しにした謝罪を敢行。ハジケタ巨大花を見ても食う気だった。帰り道とかに。

『これが嘘かどうか曖昧なら揶揄えたのにね。嘘じゃないって知れるから、彼女』
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