幸運「それはそれとして、未だステイタスに載れてないんだが?」
作者「もうちょい待って」
ごつごつとした岩肌が、上下左右、視界という視界を占領している。
天井が高いにもかかわらず生まれる閉塞感。壁から剥き出しになっている巨大な岩々が四方から重苦しい圧迫感を放っている。光源が心もとなく、薄暗いのもその一因だ。
当然舗装された地面など存在しておらず、でこぼことした石の通路は歩き難い。
洞窟、炭鉱、坑道。────規則性の無い入り組んだ天然の
「この階層に留まるのも久しいな……」
ダンジョンの17階層。Lv.1の冒険者たちが縄張りとする層域から一変、大穴へ踏み入る侵入者の大半を篩に掛け始めると言われる、モンスターの出現頻度とダンジョン自体が形成する天然の罠たち。
そこらの冒険者風情ではひとたまりも無い危険地帯に、──
2メドルを越える体格、長身でありながら細長いとは決して言わせない分厚い筋肉と四肢に
他者が見て軽装と断じようと、それは間違いだ。
彼にとってその装いこそが適切な装備。周辺を圧し潰す威圧感がそう言わしめていた。
「……コイツも使えん、か」
残念そうに呟いてからその手に握る大剣を振り抜き、
彼が失望の眼差しを向ける対象は今まさに灰へと帰っていく牛頭人身の
『岩窟の迷宮』と呼ばれる13階層以降の更に下層、15階層から出現し始める人型のモンスターであり、中層域で出現するモンスターの中では上位に位置付けられている。その理由は全身の発達した筋肉を活かした怪力や頭部に生えた一対の鋭い角を活かした戦法を得意としている点。時には大戦斧のような
空気を震わす
オッタルはとある理由により、ミノタウロスをこの層域で捜索中であった。
(……ヘディンの言うとおりであれば、あの娘に当てる最善は
何よりもあの娘の下地は
巨体を揺らしながら歩む。しかしその足音は限界まで抑えられており、その場に出来るのは巨躯が動いた後の気流のみ。酷い違和感が付き纏う。
だが、決して無視出来ないほどの存在感が終始振り撒かれていることだけは確かだった。周辺からモンスターの気配がしない理由は彼が駆逐していくからだけではない。本来脆弱であるはずの人類から、怪物であるはずのモンスターたちが自ら逃走を選んでいる所為だ。結果としてモンスターの捜索に難儀しているのだから笑えない。
未だ目的達成の目星すら付けられていない己に、オッタルは
(俺もまだまだ……ということか)
覚えた感情は──嫉妬。彼が崇拝する女神を思えば想うほどに、その陳腐な感情が芽生えて
まるで稚児。今の己を振り返り、そのように断じた武人は一度精神を静め、改めて歩みを再開する。
彼の目的は敬愛する女神の願いに応えること。それ以外に無いのだから。
「……む」
僅かに無骨な面を綻ばせていた折り、額宛てと言ってもいい被覆面積の少ない黒鉄のヘルムから覗く猪の耳がピクリと反応を示す。ブーツに包まれたつま先が行く手を変え、進んだ先に見付けた通路の中央に、ソイツはいた。
「ヴゥモォォッ……!」
「……ふむ」
一拍。ミノタウロスを視界の中央に捉えたオッタル。しかし、即座に興味が移った。
血走った巨大な眼球をギョロリと回して武人を見据えたミノタウロスだが、────
「────ッ!!?」
猛るように吠える間も無く背後より歩み寄ってきた、もう1つの影に叩き潰されて地面の染みへと変わる。頭部から胴体までを単純な腕力により力尽くで圧し潰されたミノタウロス。この階層でも明確な上位個体だったが先程まで放っていた生命力を完全に霧散させ、胸部の中にあった魔石を、今は外部へ露出させていた。
「ヴヌウウウウウッ……」
毛の生えた巨大な手で砕かぬように掴んだソレはブチリと肉塊から引き千切り、口の中へと放る。ゴクリ……と一飲みにした怪物は僅かに肉体を膨張させたかと思えば、────
「オオオオオオォォォォォォッッッ!!!」
興奮したように雄叫びを上げた。
「……いいな、お前に決めた」
先ほどからオッタルが見据えていたのもまた、
己へ向けられた殺意に毛ほどの恐怖も
「……膳立てには過ぎるかもしれんがな」
オッタルを脅威と判断し、ミノタウロスは先ほど殺した同種が持っていた武器を拾い上げ、力任せに振り抜いた。己へと振り下ろされた
「ヴゥ……? ……、ヴォオオオオオオオオオッ!!」
疑念。しかし本能で動く怪物がいつまでも理性的な行動をとるはずもなく、挑発行為だと判断したミノタウロスは即座に大剣を引き抜いてオッタルへと振るう。
「さて、使いこなしてもらおうか」
しかし相手はオッタル、出鱈目に振るわれた大剣をこれまたいとも簡単に弾く。
オッタルは目の前のモンスターに与えられた役割を
────全ては敬愛するフレイヤのために。
「……なぁ、なにをしたらこうなるんだ?」
「…………………………さぁ?」
「その
ヴェルフからの疑問の問い掛けに、口止めもされているナインはどう答えるか悩んだ果てに、必殺技である白を切るという手札を切った。というよりも切らざるを得ないだろう。下手に情報を
目の前で内側から破裂したように破損した鈍色の剣へ視線を送っているヴェルフを前に、ナインは昨日の出来事を思い出していた。
────
──
24階層から帰った翌日、俺は朝稽古の場に筋骨隆々の
アイズが参加する前までは膝枕程度であったはずが、最近では彼女たちの胸元に抱き寄せられていたりと「なんでこうなってるんだ?」という疑問ばかりが積もる状態が加えられてしまった。
正直に言えば訓練を頑張っているご褒美と取れるのだが、そこへ辿り着くまでの間に気絶という
つまり俺が
というよりもヘイズさんが常に《魔法》を展開していてくれれば良いのでは……? ボブは訝しんだ。
何はともあれ、昨日の一件、いつも通りの
ちょうどその場に原作主人公が着るはずだった《
大雑把な時期しか分からなかったが、運が良いのか悪いのかダンジョン内で《ウダイオスの黒剣の破片》をアイズがオッタルへ高額で売り付けたのを見守っていたのだろう、黒ローブ──フェルズがその場に登場する。
オッタルに姿を晒して良かったのか気になる点もあったが、24階層の状態を考えれば都市最強の戦力を動かせれば心強い。運の要素も強いが、メリットとデメリットを天秤にかけたのだろう。負けたけど。【幸運】が足りないんじゃない?
結果として残ったアイズへ少々強引に
『オッタルに今朝ボコられてこの状態です』、と。隣にオッタルと一緒になって《デスペレートの鞘》を振り回していた女が居るのだ、これ以上の説得力はないだろう。
僅かに「コイツ頭大丈夫か?」という視線を、いや骸骨だから眼球無いんだけどね? 無いはずの眼窩から感じたのだ。まぁ、18階層まで
問題として、【ヘルメス・ファミリア】に身元を特定されたくないと言えば、認識阻害のローブを渡される。なぜバレたくないのかと問われたが、主神がヘルメスだからに他ならないだろう。
あとの流れは俺が【ヘルメス・ファミリア】の皆さんから疑いの目を向けられ続けたこと以外、原作と
アイズの分断、自爆特攻前提の死兵、オリヴァスの
変化が起きたのはオリヴァスが
当然、
Lv.2が吶喊するのは無理がある。そう言われればそうなのだが、極彩色のモンスターは基本的に体外へ放出している魔力量の多い対象を最優先で狙う傾向にある。であればその場に援軍として現れたレフィーヤとフィルヴィスさんが
彼女らが落ち着いて詠唱できるように囮となれば、単純な魔力量だけで言えば同レベル帯に並ぶ者など居ないレフィーヤの広範囲攻撃で消し飛ばせるのだ。彼女が少しでも長く、安全に詠唱できるように時間を作るのが前衛の役目。エニュオの正体を知っていることから光の魔法を
思った通り詠唱を始めたばかりのレフィーヤを無視して俺の方へ意識が向いた。ただ、向きすぎたというのもある。その場に居たのは
つまりは俺を狙う。
こんなモテ期は嫌だ。
そんなこんなで
結局、ローブの上から背負っていたリュックサックを奪い取られ、最も近場にいた
中に入っていたのは
正直に言えば味に関して期待していない。原作を読んでいれば分かるが、この頃の彼女が作る弁当は、まぁまだ食える
因みに彼女を止める人物が皆無な為、青天井にエスカレートしていき、
それでもこの時期の拗らせ切っていない
しかし、それは
しかも
なにが原因で
せめて感想ぐらい言ってから破裂しろ。
彼女が作った料理がお世辞にも良いもので無いことぐらい知っているが、それでも他人が丹精込めて作成したモノを奪い取るなど許して良いことではない。一先ずここの掃除をしなくては
群れの所為で見えていなかったが、新しく
同じレベルとなれば、彼の
それでも俺の《魔法》は後から
レフィーヤは彼女の二つ名にもなった『召喚魔法』である【エルフ・リング】から【ウィン・フィンヴルヴェトル】の詠唱式へ移る所であった。*1
触手たちの体から生えている葉のような器官に叩き落とされ、囮としての機能を全うできなくなった俺だが、その時には【ヘルメス・ファミリア】の全員が陣形を立て直し終えていた。その内の1人から陣の中に入れと言われれば従う他になく。
あとは【ヘルメス・ファミリア】の団員が重傷者を出しつつ盾になり、レフィーヤの詠唱を待つ。
自爆上等の死兵たち。体長数メドルはある食人花。それを更に大きくした
腕や脚、目を潰された者も、地上に戻れば治療を行えるだろうと彼らの命を預かるアスフィさんが言ったのだ。そこに口を挟むのは野暮であるし、他派閥のことに過干渉は褒められたことではない。それが裏の無い善行であっても。
してしまえば、彼女の持つ団長としての矜持を傷付ける。俺が言の葉を紡いで失った四肢を戻せるわけでも無し、下手に踏み込めば反感を買うだろう。
だから
そう、アイズだ。ついでにレフィーヤまで。ベートさんは一瞬こちらを見てから「何してんだコイツ」みたいな顔をしたあと、呆れたようにそっぽを向いた。おそらくローブのあちこちが
アイズはこの後どうするのかという疑問。レフィーヤはジト目……囮となる前に声を掛けた所為だろうか、何となくバレた気がする。
気まずくなった俺は視線を泳がすことに繋がり、そして不審者に近い俺以上にこの集団から離れている人物を見付けた。そうだね、みんな大好き
原作でも【ステイタス】が明かされている珍しい人物だ。あのヘイズさんですら第三魔法や《スキル》が不明だったのに。俺が逝ってからワンチャン明かされてないかな? 私、気になります! という感じなのだが。
まぁ、恨めしいとかいう感情は特にないため、取り敢えず挨拶だけでもしておこうと考えた。色々考慮した結果、手札をチラ見せした方が今後動き易いだろうと結論を出したのが2割。あとは単純に彼女の私は不幸ですという表情に腹が立った。
まぁ手を握ろうとして短剣を刺されるとは思わなかったけど。
ぎょっと空気が固まり、【ヘルメス・ファミリア】の団員は折角窮地を乗り越えたばかりなのにと疲れた様子をみせつつも仲裁に動こうとし、アイズが剣を抜こうとしてそんな彼女を止めるべくレフィーヤが抑え……れるわけもなく引き摺られていき、ベートの制止を受けてギリギリ睨む程度に済んだ。
対する俺は目の前で申し訳なさそうにしながらも恨めしそうにしているフィルヴィスへ、それでも自分がやってしまったことに恐れたのか硬直してしまった彼女へ、血に塗れた右手で取り敢えず握手をしておいた。ワンチャン次は魔法が来る可能性もあったが、それは無かった。
手の方はレッグホルスターから抜いた
バベルから離れていく際、飛んできたフクロウから手紙を受け取り、その足でダイダロス通りへと向かえば、指定の位置に見すぼらしいように装飾された頑丈な箱が置いてあった。
その中に扱いに困る報酬が幾つか。ローブを入れておくようにという指示の記載されたメモ。指示通りにして箱を閉めれば、カチリ、という音と共に開かなくなる。
どう考えても数千万ヴァリスになるだろう現物報酬を背に、仮拠点である家へと俺は足を向けた。
────いい加減
ほんと早く完成してくれ。俺の理性がしっかりしている内に。
────
──
ハァ……と溜め息を吐いて鍔から先の無くなった剣を工房の机に置くヴェルフ。そのどこか気落ちしている様子にナインは疑問を持つ。
「どうかしたのか?」
「……いやなに……、俺はしっかりお前の装備を拵えてやれてるのか気になっちまってな」
ヴェルフ曰く、彼がナインの注文に対して用意した武器が尽く短期間で壊れていることや、未だ白い
他人が聞けば相手は
それでも注文を受け付け、未だに完成に漕ぎ着けられていない現状をヨシとは出来ない。それがヴェルフの言い分だった。
「ふぅん」
「ふぅん……って、
「俺は鍛冶師じゃないから作品を作るって段階で文句は言えねぇ……。精々が出来の良し悪しを見て批評するぐらいだな」
「……そうか」
ナインの様子から本当に完成させられていない現状に不満が無いことがヴェルフにも伝わる。
「ただ────」
「……?」
「ただ、折角苦労して倒した相手だからな、完成を
「態々鎧じゃなくて
事実、ナインがヴェルフに渡した
鞣したり、糸状に加工してから編み込んだりなど、加工工程が多く、その分椿からの助言が刺さりまくっている。
大体がナインの無茶振りによる所為である故に、多少は待つつもりだ。少なくともベルが中層に降りても問題無いと思える程度に強くなるまでは。そうすれば
まだ上層には用がある。ナインがそう考えていれば、悩んでいた様子のヴェルフが何かを決断したように頷いた。
「なぁナイン……、俺をお前のパーティに入れてくれないか?」
そんな提案がナインの耳朶を叩く。
(…………手っ取り早い手段である【鍛冶】の【アビリティ】を取りたいってことか)
さてどうしたものか、ナインは脳内で思案を開始した。
「────という訳で、コイツはヴェルフ。自称、戦える鍛冶師だ」
「なんか自称の部分誇張してないか?」
「何のことやら」
現在ナインたちが居るのはギルドの貸出しボックス。要は密談やら相談をする為の場。特に使用されていない場合はギルドの受付嬢に言えば簡単に借りられる場所であるため、一応パーティメンバーへ顔を見せるためにエイナから許可を貰った次第だ。
飄々としているナインと、見覚えのある鎧──ベルの着用しているヴェルフ製の
対面に座るのはメンバーが増えることと自分が使用している
ナインも急にパーティに組み込むことはしない。そもそも3人でダンジョン探索したことすら片手で数えられる程度。そこに見ず知らずの、少なくとも2人が知らない相手を入れて急造のパーティを結成することはできない。
ゆえの顔見せ。ここで
(まぁ、ベルの方は大丈夫そうだからリリとヴェルフ間の問題になるだろうな)
そんなナインの予想通り、ヴェルフの家名である『クロッゾ』にリリルカが驚愕と共に反応したり、そんなリリルカの態度か発言か、そのどちらかに対して不機嫌そうに肩をすくめるヴェルフという状態が出来上がる。そんな2人の様子に慌てるベル。
(ま、この様子ならどうにかなるか。
ならなかったらどうにかしよう)
──────次回、
フレイヤ様のベルちゃん評は『原作序盤のベル君評』と同じです。『綺麗だから試練をぶつけたい、でもそれで死んだら死んだで仕方ない』といった感じ。彼女の推しであるリューに数歩届かないぐらい? 今後届いたらヤバいっすね。『独り占めならぬ三人締め』とかになるんかな。
ベルちゃんのスキル構成を原作に寄せるか、それとも完全に別物にするか、悩みどころ。TSさせたとはいえチャージスキル取り上げたくない、けど異端児編後に発現させてみたいスキルが結構バケモン性能(【美惑炎抗】さんよりはマイルド)だから良い気もするが……、う~ん。
因みに取り上げたらナインに【英雄○○】みたいなスキルとして発現します。逃れられぬ~。読みは
『クロニクル:ヘイズ』、腕で潰されてる胸よりも指でぷにっと押し上げられた頬に目が行く不思議。