ダンジョンはつらいよどこまでも   作:たっぷり

28 / 31
 高評価や感想、ここすき、誤字報告、いつも感謝しております。

幸運「それはそれとして、未だステイタスに載れてないんだが?」
作者「もうちょい待って」


・028 弁当は犠牲となった。犠牲の、犠牲にな(幸運さんが頑張った)

────

 

 

 

 

 

 ごつごつとした岩肌が、上下左右、視界という視界を占領している。

 

 天井が高いにもかかわらず生まれる閉塞感。壁から剥き出しになっている巨大な岩々が四方から重苦しい圧迫感を放っている。光源が心もとなく、薄暗いのもその一因だ。

 

 当然舗装された地面など存在しておらず、でこぼことした石の通路は歩き難い。

 

 洞窟、炭鉱、坑道。────規則性の無い入り組んだ天然の隧道(トンネル)から連想するのはそんな岩盤の空洞ぐらいだろう。どこまでも無骨な洞穴は迷い込んだ旅人をより深い闇の中に誘い続けていた。

 

「この階層に留まるのも久しいな……」

 

 ダンジョンの17階層。Lv.1の冒険者たちが縄張りとする層域から一変、大穴へ踏み入る侵入者の大半を篩に掛け始めると言われる、モンスターの出現頻度とダンジョン自体が形成する天然の罠たち。

 

 そこらの冒険者風情ではひとたまりも無い危険地帯に、──(おとこ)はいた。

 

 2メドルを越える体格、長身でありながら細長いとは決して言わせない分厚い筋肉と四肢に(はし)る浮き出た太い血管。されども肥え太っている訳では決してなく、纏う装備が軽装でありながらも各部位から迸る生命力はまるで極厚の盾を仕込んでいるように錯覚させる。

 

 他者が見て軽装と断じようと、それは間違いだ。

 

 彼にとってその装いこそが適切な装備。周辺を圧し潰す威圧感がそう言わしめていた。

 

「……コイツも使えん、か」

 

 残念そうに呟いてからその手に握る大剣を振り抜き、(したた)っていた血糊を払う。

 

 彼が失望の眼差しを向ける対象は今まさに灰へと帰っていく牛頭人身の怪物(モンスター)──ミノタウロス。

 

 『岩窟の迷宮』と呼ばれる13階層以降の更に下層、15階層から出現し始める人型のモンスターであり、中層域で出現するモンスターの中では上位に位置付けられている。その理由は全身の発達した筋肉を活かした怪力や頭部に生えた一対の鋭い角を活かした戦法を得意としている点。時には大戦斧のような天然武器(ネイチャーウェポン)を、常人の域を遥かに超えた膂力で振り回す個体もおり、厚みのある筋肉と全身に生える体毛の所為で底上げされた耐久力で攻撃を無視して突撃が可能なのだ。

 

 空気を震わす咆哮(ハウル)強制停止(リストレイト)を引き起こす。Lv.1の冒険者がこれを喰らえば餌食となることは避けられない。Lv.2と記録されているが、場合によってはLv.2でも苦戦は免れず、Lv.3でもポジションによっては油断ならない相手である。

 

 オッタルはとある理由により、ミノタウロスをこの層域で捜索中であった。

 

(……ヘディンの言うとおりであれば、あの娘に当てる最善は猛牛(ミノタウロス)。あのお方も気に()る魂の色を持つのであれば、生中(なまなか)なモノでは『試練』(しれん)にすらならんだろう……。

 何よりもあの娘の下地は()()だ……階梯(レベル)など超克して余りあると想定してしかるべきだろうな)

 

 巨体を揺らしながら歩む。しかしその足音は限界まで抑えられており、その場に出来るのは巨躯が動いた後の気流のみ。酷い違和感が付き纏う。

 

 だが、決して無視出来ないほどの存在感が終始振り撒かれていることだけは確かだった。周辺からモンスターの気配がしない理由は彼が駆逐していくからだけではない。本来脆弱であるはずの人類から、怪物であるはずのモンスターたちが自ら逃走を選んでいる所為だ。結果としてモンスターの捜索に難儀しているのだから笑えない。

 

 未だ目的達成の目星すら付けられていない己に、オッタルは歯噛(はが)みし、同時にそんな自分を(わら)ってしまう。

 

(俺もまだまだ……ということか)

 

 覚えた感情は──嫉妬。彼が崇拝する女神を思えば想うほどに、その陳腐な感情が芽生えて()まない。

 

 まるで稚児。今の己を振り返り、そのように断じた武人は一度精神を静め、改めて歩みを再開する。

 

 彼の目的は敬愛する女神の願いに応えること。それ以外に無いのだから。

 

「……む」

 

 僅かに無骨な面を綻ばせていた折り、額宛てと言ってもいい被覆面積の少ない黒鉄のヘルムから覗く猪の耳がピクリと反応を示す。ブーツに包まれたつま先が行く手を変え、進んだ先に見付けた通路の中央に、ソイツはいた。

 

「ヴゥモォォッ……!」

 

「……ふむ」

 

 一拍。ミノタウロスを視界の中央に捉えたオッタル。しかし、即座に興味が移った。

 

 血走った巨大な眼球をギョロリと回して武人を見据えたミノタウロスだが、────

 

「────ッ!!?」

 

 猛るように吠える間も無く背後より歩み寄ってきた、もう1つの影に叩き潰されて地面の染みへと変わる。頭部から胴体までを単純な腕力により力尽くで圧し潰されたミノタウロス。この階層でも明確な上位個体だったが先程まで放っていた生命力を完全に霧散させ、胸部の中にあった魔石を、今は外部へ露出させていた。

 

「ヴヌウウウウウッ……」

 

 毛の生えた巨大な手で砕かぬように掴んだソレはブチリと肉塊から引き千切り、口の中へと放る。ゴクリ……と一飲みにした怪物は僅かに肉体を膨張させたかと思えば、────

 

「オオオオオオォォォォォォッッッ!!!」

 

 興奮したように雄叫びを上げた。

 

「……いいな、お前に決めた

 

 先ほどからオッタルが見据えていたのもまた、猛牛(ミノタウロス)。しかし先ほどの個体よりも一回り大きく、3メドルに届いてもおかしくないだろうと思わせる。実際にはもう少し小さい。だがそう思わせるだけの威圧感がそのミノタウロスから感じるのだ。

 

 己へ向けられた殺意に毛ほどの恐怖も(いだ)かず、オッタルは悠然とミノタウロスへと歩み寄っていく。己よりも大きな体躯を誇る怪物が相手であっても、一切臆することなく。逆に期待を瞳の色に乗せながら。

 

「……膳立てには過ぎるかもしれんがな」

 

 オッタルを脅威と判断し、ミノタウロスは先ほど殺した同種が持っていた武器を拾い上げ、力任せに振り抜いた。己へと振り下ろされた天然武器(ネイチャーウェポン)を、しかし片腕を振るい、(こぶし)で面を叩き粉砕する。ただの一合……ですらない行為で容易くソレを()したオッタルは、迷宮へ持ち込んだ背嚢の中から一振りの大剣を取り出し、ミノタウロスへと(ほう)った。

 

「ヴゥ……? ……、ヴォオオオオオオオオオッ!!

 

 疑念。しかし本能で動く怪物がいつまでも理性的な行動をとるはずもなく、挑発行為だと判断したミノタウロスは即座に大剣を引き抜いてオッタルへと振るう。

 

「さて、使いこなしてもらおうか」

 

 しかし相手はオッタル、出鱈目に振るわれた大剣をこれまたいとも簡単に弾く。

 

 オッタルは目の前のモンスターに与えられた役割を(まっと)うさせるべく、重い足を踏み出し『教育』を開始した。

 

 ────全ては敬愛するフレイヤのために。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

「……なぁ、なにをしたらこうなるんだ?」

 

「…………………………さぁ?」

 

「その()はなんだよ……ッ」

 

 ヴェルフからの疑問の問い掛けに、口止めもされているナインはどう答えるか悩んだ果てに、必殺技である白を切るという手札を切った。というよりも切らざるを得ないだろう。下手に情報を漏洩(ろうえい)させると、そこからまずヴェルフが(イヴィルス)の標的にされかねないからだが。

 

 目の前で内側から破裂したように破損した鈍色の剣へ視線を送っているヴェルフを前に、ナインは昨日の出来事を思い出していた。

 

 

 ────

 ──

 

 

 24階層から帰った翌日、俺は朝稽古の場に筋骨隆々の(いのしし)が現れなかったことで一安心とばかりに2人の剣士からボコられ続け、気絶と覚醒を繰り返し続けた。なぜか満面の笑みで覗き込んでくるヘイズさんや、どこか不満そうなリュー、表情筋が死んでいる割には頑張って笑顔を作ろうとしているアイズなど、目を覚ました時の光景はいつも視界一杯の美少女。

 

 アイズが参加する前までは膝枕程度であったはずが、最近では彼女たちの胸元に抱き寄せられていたりと「なんでこうなってるんだ?」という疑問ばかりが積もる状態が加えられてしまった。

 

 正直に言えば訓練を頑張っているご褒美と取れるのだが、そこへ辿り着くまでの間に気絶という手順(ワンステップ)を踏む必要があり、俺の耐久性からか生半可な攻撃では意識を飛ばすことはない。そしてそれを彼女たちも知っている。冒険者として先達である彼女らは、『未知』を『既知』へと変える術をとうの昔に身に着けているからだ。

 

 つまり俺が【星の怒り】(スキル)で防御力を上昇させることを加味した一撃を見舞ってくることへ繋がる。最初はこちらがLv.2であることを考慮に入れた動きで訓練していたはずが、今ではどれだけ早く俺を気絶まで持っていくかの競争が始まっているように思えてしかたない。

 

 というよりもヘイズさんが常に《魔法》を展開していてくれれば良いのでは……? ボブは訝しんだ。

 

 何はともあれ、昨日の一件、いつも通りの安物(そこら)戦闘衣(バトルクロス)では荷が重いと感じ、ヴェルフの工房で頼んでいる白い小竜(インファント・ドラゴン)の革を使用した戦闘衣(バトルクロス)の採寸ついでによさげなモノがあったら売ってくれと要求。

 

 ちょうどその場に原作主人公が着るはずだった《兎鎧Mk-Ⅱ(ピョンキチマークツー)》があったため、それを含めて購入した。

 

 大雑把な時期しか分からなかったが、運が良いのか悪いのかダンジョン内で《ウダイオスの黒剣の破片》をアイズがオッタルへ高額で売り付けたのを見守っていたのだろう、黒ローブ──フェルズがその場に登場する。

 

 オッタルに姿を晒して良かったのか気になる点もあったが、24階層の状態を考えれば都市最強の戦力を動かせれば心強い。運の要素も強いが、メリットとデメリットを天秤にかけたのだろう。負けたけど。【幸運】が足りないんじゃない?

 

 結果として残ったアイズへ少々強引に冒険者依頼(クエスト)を受託させ、俺も同行させてもらえるように交渉を始めた。アイズが【ロキ・ファミリア】へ手紙を書いている間に終わらせられるようインパクトを強めに。

 

 『オッタルに今朝ボコられてこの状態です』、と。隣にオッタルと一緒になって《デスペレートの鞘》を振り回していた女が居るのだ、これ以上の説得力はないだろう。

 

 僅かに「コイツ頭大丈夫か?」という視線を、いや骸骨だから眼球無いんだけどね? 無いはずの眼窩から感じたのだ。まぁ、18階層まで()ったこともあり、その成果を含め最低限の信用は貰えた。

 

 問題として、【ヘルメス・ファミリア】に身元を特定されたくないと言えば、認識阻害のローブを渡される。なぜバレたくないのかと問われたが、主神がヘルメスだからに他ならないだろう。(てい)よく使われてやる気など一切無い。

 

 あとの流れは俺が【ヘルメス・ファミリア】の皆さんから疑いの目を向けられ続けたこと以外、原作と()して変わりなく進んだ。

 

 アイズの分断、自爆特攻前提の死兵、オリヴァスの(くだ)らなさすぎる演説、ベートさん達援軍の登場など。

 

 変化が起きたのはオリヴァスが巨大花(ヴィスクム)をこちらに差し向けて来た時ぐらいだろう。流石にアスフィさんのLv.2──なお管理機関(ギルド)の公的記録が2なだけで実際は4──が最上である部隊では苦戦は必至。極彩色のモンスターだけでなく残っていた死兵たちも好機と見做(みな)して自爆しに来るのだ。俺が何を相手にすれば良いのかなど、即座に判断できた。

 

 当然、巨大花(ヴィスクム)だ。

 

 Lv.2が吶喊するのは無理がある。そう言われればそうなのだが、極彩色のモンスターは基本的に体外へ放出している魔力量の多い対象を最優先で狙う傾向にある。であればその場に援軍として現れたレフィーヤとフィルヴィスさんが(おも)だって狙われやすくなるのは火を見るよりも明らか。

 

 彼女らが落ち着いて詠唱できるように囮となれば、単純な魔力量だけで言えば同レベル帯に並ぶ者など居ないレフィーヤの広範囲攻撃で消し飛ばせるのだ。彼女が少しでも長く、安全に詠唱できるように時間を作るのが前衛の役目。エニュオの正体を知っていることから光の魔法を(おもて)に出さない方法を考えていたこともあり、体内で光を──ひいては精神力(マインド)を強くしていくという方法を行使。

 

 思った通り詠唱を始めたばかりのレフィーヤを無視して俺の方へ意識が向いた。ただ、向きすぎたというのもある。その場に居たのは巨大花(ヴィスクム)だけではない。食人花も大量に発生していたのだ。彼らも極彩色のモンスターであることに違いはなく、生態も特段変化はない。

 

 つまりは俺を狙う。

 

 こんなモテ期は嫌だ。

 

 そんなこんなで巨大花(ヴィスクム)の体表を走っていれば共食いよろしく食い漁ってくれるが、いかんせん数十体を相手にするのはきつかった。1体ずつであれば容易く魔石を狙えるが、360度全面から襲われている最中にそれは無理。ゆえに回避を選択したのだが、当然全てを避け切れるだけの技量は持ち合わせていない。俺の武技の下地にあるのは、どうしたって対人のソレだ。オラリオへ来てから2ヵ月、ダンジョンでモンスター相手に試しているが、完全にモノになったとは全く言えない。恥ずかしいことに。

 

 結局、ローブの上から背負っていたリュックサックを奪い取られ、最も近場にいた巨大花(ヴィスクム)が捕食してしまう。

 

 中に入っていたのは回復薬(ポーション)精神力回復薬(マジック・ポーション)、後は非常時用の15セルチ程度のナイフが数本。────そしてシルから貰ったお弁当。

 

 正直に言えば味に関して期待していない。原作を読んでいれば分かるが、この頃の彼女が作る弁当は、まぁまだ食える(ほう)なのだ。但し口に入れた際の咀嚼音が、ガリバリボリ──という少々、俺が食ってるのは一体全体ナニ……? と言わざるを得ない料理になっているのだが。

 

 因みに彼女を止める人物が皆無な為、青天井にエスカレートしていき、最終的に(ダンメモで)はLv.4をノックダウンさせるほどの凶悪無比な弁当(アイテム)に早変わりする。多分ベル君が善性100%の人間じゃなかったら速攻で(えん)を切られていた可能性があるだろう。そんなちょっとした兵器。

 

 それでもこの時期の拗らせ切っていない状態(ころ)の弁当程度なら問題無いだろうと、ダンジョンに向かう(まえ)にいつも通りリューへ弁当を届けた際に照れや期待、そして不安を混ぜた表情で受け取って欲しいと差し出されたソレを、俺は笑顔で受け取ることにした。取り敢えず指摘できる点は箇条書きにして返そうと心に決めて。

 

 しかし、それは巨大花(ヴィスクム)によって阻止された。奪われ、喰われるという形で。

 

 しかも(かたき)を取る前に、勝手に破裂しやがった。

 

 なにが原因で破裂し(ハジケ)たかは知らないが、折角シルが作ってくれた料理を(たか)が雑兵として……木っ端として生み出された程度の、人の手を借りなければ未だ引き籠ることしか出来ないだろう堕落した存在の端末風情が食したのだ。

 

 せめて感想ぐらい言ってから破裂しろ。

 

 彼女が作った料理がお世辞にも良いもので無いことぐらい知っているが、それでも他人が丹精込めて作成したモノを奪い取るなど許して良いことではない。一先ずここの掃除をしなくては食糧庫(パントリー)が再稼働することも無いと判断して、援軍として到着していたレフィーヤに高域殲滅系の魔法を頼みこんで、俺自身は囮として迫って来ていた食人花の群れへと吶喊した。

 

 群れの所為で見えていなかったが、新しく巨大花(ヴィスクム)の方も産まれ落ちていたが無視して更に奥へと進む。体内で《魔法》の光を常に強くしていけば、同レベル帯で並ぶ者なしと謳われる【千の妖精】(サウザンド・エルフ)の魔力量も越えられる筈と信じ。

 

 同じレベルとなれば、彼の【九魔姫】(ナイン・ヘル)──リヴェリア・リヨス・アールヴすら超えるだろうと言われる才覚を秘めている。生まれながらの魔法種族(マジックユーザー)かつ才能も持っていること、そして俺自身が只人(ヒューマン)であることなどを踏まえれば、『神の恩恵』(ファルナ)で刻まれた【アビリティ】の総合数値で()っていても、やはり及ばないことは確かな模様。所詮は促進剤でしかないということだろう。

 

 それでも俺の《魔法》は後から精神力(マインド)を流し込める付与魔法(エンチャント)。《魔法》を使用していると敵にバレないように、しかし食人花たちには魔力を感じ取らせる様に動くのは神経を遣いとても疲れたが、時間稼ぎは無事成功。

 

 レフィーヤは彼女の二つ名にもなった『召喚魔法』である【エルフ・リング】から【ウィン・フィンヴルヴェトル】の詠唱式へ移る所であった。*1

 

 触手たちの体から生えている葉のような器官に叩き落とされ、囮としての機能を全うできなくなった俺だが、その時には【ヘルメス・ファミリア】の全員が陣形を立て直し終えていた。その内の1人から陣の中に入れと言われれば従う他になく。

 

 あとは【ヘルメス・ファミリア】の団員が重傷者を出しつつ盾になり、レフィーヤの詠唱を待つ。

 

 自爆上等の死兵たち。体長数メドルはある食人花。それを更に大きくした巨大花(ヴィスクム)。死ぬ要因は多々あれど、結果的には死者は出ずに済んだ。

 

 腕や脚、目を潰された者も、地上に戻れば治療を行えるだろうと彼らの命を預かるアスフィさんが言ったのだ。そこに口を挟むのは野暮であるし、他派閥のことに過干渉は褒められたことではない。それが裏の無い善行であっても。

 

 してしまえば、彼女の持つ団長としての矜持を傷付ける。俺が言の葉を紡いで失った四肢を戻せるわけでも無し、下手に踏み込めば反感を買うだろう。

 

 だから食糧庫(パントリー)から脱出後、俺は集団から1人離れて見守っていたのだが、そんな俺の(もと)に【ヘルメス・ファミリア】ではない者たちが現れる。

 

 そう、アイズだ。ついでにレフィーヤまで。ベートさんは一瞬こちらを見てから「何してんだコイツ」みたいな顔をしたあと、呆れたようにそっぽを向いた。おそらくローブのあちこちが(ほつ)れて認識阻害の効果が落ちた結果、俺の臭いを知っているがゆえに気付いたのだろう。

 

 アイズはこの後どうするのかという疑問。レフィーヤはジト目……囮となる前に声を掛けた所為だろうか、何となくバレた気がする。

 

 気まずくなった俺は視線を泳がすことに繋がり、そして不審者に近い俺以上にこの集団から離れている人物を見付けた。そうだね、みんな大好き【白巫女】(まいなです)のフィルヴィス・シャリアだね。

 

 原作でも【ステイタス】が明かされている珍しい人物だ。あのヘイズさんですら第三魔法や《スキル》が不明だったのに。俺が逝ってからワンチャン明かされてないかな? 私、気になります! という感じなのだが。

 

 まぁ、恨めしいとかいう感情は特にないため、取り敢えず挨拶だけでもしておこうと考えた。色々考慮した結果、手札をチラ見せした方が今後動き易いだろうと結論を出したのが2割。あとは単純に彼女の私は不幸ですという表情に腹が立った。

 

 まぁ手を握ろうとして短剣を刺されるとは思わなかったけど。

 

 ぎょっと空気が固まり、【ヘルメス・ファミリア】の団員は折角窮地を乗り越えたばかりなのにと疲れた様子をみせつつも仲裁に動こうとし、アイズが剣を抜こうとしてそんな彼女を止めるべくレフィーヤが抑え……れるわけもなく引き摺られていき、ベートの制止を受けてギリギリ睨む程度に済んだ。

 

 対する俺は目の前で申し訳なさそうにしながらも恨めしそうにしているフィルヴィスへ、それでも自分がやってしまったことに恐れたのか硬直してしまった彼女へ、血に塗れた右手で取り敢えず握手をしておいた。ワンチャン次は魔法が来る可能性もあったが、それは無かった。

 

 手の方はレッグホルスターから抜いた回復薬(ポーション)で応急処置。治療をすると言って、それとなくローブを脱ぐように促してくる【ヘルメス・ファミリア】の団員たちから距離を取りながら18階層で小休止を挟んでの地上への帰還。

 

 バベルから離れていく際、飛んできたフクロウから手紙を受け取り、その足でダイダロス通りへと向かえば、指定の位置に見すぼらしいように装飾された頑丈な箱が置いてあった。

 

 その中に扱いに困る報酬が幾つか。ローブを入れておくようにという指示の記載されたメモ。指示通りにして箱を閉めれば、カチリ、という音と共に開かなくなる。

 

 どう考えても数千万ヴァリスになるだろう現物報酬を背に、仮拠点である家へと俺は足を向けた。

 

 ────いい加減廃教会(ホーム)の修繕終わらないかな……。そこまで広いと言えない家に男1、女3は危険が危ない。全員美少女なのも危険性(ヤバさ)を加速させてくる。故郷にいた頃、森の中で鍛錬している最中「やはりハーレム。ハーレムこそ至高! イロドリミドリッ!!」とかほざいていたエロジジィならこの状況を大層喜ぶのだろうが、森の中を疾走中に妄想にかまけて木にぶつかるとかいう間抜けの言葉など投げ捨てた(ほう)が良いだろう。

 

 ほんと早く完成してくれ。俺の理性がしっかりしている内に。

 

 

 ────

 ──

 

 

 ハァ……と溜め息を吐いて鍔から先の無くなった剣を工房の机に置くヴェルフ。そのどこか気落ちしている様子にナインは疑問を持つ。

 

「どうかしたのか?」

 

「……いやなに……、俺はしっかりお前の装備を拵えてやれてるのか気になっちまってな」

 

 ヴェルフ曰く、彼がナインの注文に対して用意した武器が尽く短期間で壊れていることや、未だ白い小竜(インファント・ドラゴン)の皮を用いた戦闘衣(バトルクロス)を完成させれていないこと、果てには興味本位で何度もやってくる椿の助言(アドバイス)が的確過ぎて何も言い返せないことなどが重なっているとのこと。

 

 他人が聞けば相手は最上級鍛冶師(マスター・スミス)、技量で劣っていても仕方ないと同情をくれるだろう相手だ。この魔境とも言える迷宮都市(オラリオ)で十数年、鍛冶師として腕を磨き続けてきた相手なのだ、ソレを高々数年程度で超えられるとは、ヴェルフ本人も思っていない。

 

 それでも注文を受け付け、未だに完成に漕ぎ着けられていない現状をヨシとは出来ない。それがヴェルフの言い分だった。

 

「ふぅん」

 

「ふぅん……って、(かる)いなぁオイ」

 

「俺は鍛冶師じゃないから作品を作るって段階で文句は言えねぇ……。精々が出来の良し悪しを見て批評するぐらいだな」

 

「……そうか」

 

 ナインの様子から本当に完成させられていない現状に不満が無いことがヴェルフにも伝わる。

 

「ただ────」

 

「……?」

 

「ただ、折角苦労して倒した相手だからな、完成を()いて微妙なのが出来上がるぐらいなら、時間が掛かっても良いから満足できるものを頼むよ」

 

 「態々鎧じゃなくて戦闘衣(バトルクロス)に加工してくれって頼んだ俺が言うのもどうかと思うけど」、と付け加え、ナインは笑う。

 

 事実、ナインがヴェルフに渡した竜の革(ドロップアイテム)には竜鱗なども付いており、鎧に加工した際の性能はかなりのモノになるだろうと思わせる品だったが、ナインが強く戦闘衣(バトルクロス)の制作を頼んだ為に、難航しているのだ。

 

 鞣したり、糸状に加工してから編み込んだりなど、加工工程が多く、その分椿からの助言が刺さりまくっている。

 

 大体がナインの無茶振りによる所為である故に、多少は待つつもりだ。少なくともベルが中層に降りても問題無いと思える程度に強くなるまでは。そうすれば異常事態(イレギュラー)が起きた時でも生還できる目途が立てられる。純サポーターであるリリルカも新たな《スキル》で【ステイタス】を個人戦闘が可能な水準まで上げられる可能性が十分あるのだ。

 

 まだ上層には用がある。ナインがそう考えていれば、悩んでいた様子のヴェルフが何かを決断したように頷いた。

 

「なぁナイン……、俺をお前のパーティに入れてくれないか?」

 

 そんな提案がナインの耳朶を叩く。

 

(…………手っ取り早い手段である【鍛冶】の【アビリティ】を取りたいってことか)

 

 さてどうしたものか、ナインは脳内で思案を開始した。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

「────という訳で、コイツはヴェルフ。自称、戦える鍛冶師だ」

 

「なんか自称の部分誇張してないか?」

 

「何のことやら」

 

 現在ナインたちが居るのはギルドの貸出しボックス。要は密談やら相談をする為の場。特に使用されていない場合はギルドの受付嬢に言えば簡単に借りられる場所であるため、一応パーティメンバーへ顔を見せるためにエイナから許可を貰った次第だ。

 

 飄々としているナインと、見覚えのある鎧──ベルの着用しているヴェルフ製の軽鎧(ライトアーマー)を嬉しそうに見ているヴェルフ。

 

 対面に座るのはメンバーが増えることと自分が使用している軽鎧(ライトアーマー)の制作者に会えたことで笑顔を浮かべているベルと、そんなベルへ──大切な相手へ不躾な視線を送り続けていることに不満そうなリリルカという構図になっていた。

 

 ナインも急にパーティに組み込むことはしない。そもそも3人でダンジョン探索したことすら片手で数えられる程度。そこに見ず知らずの、少なくとも2人が知らない相手を入れて急造のパーティを結成することはできない。

 

 ゆえの顔見せ。ここで()りが合わないと判断すれば、残念ながらヴェルフには外れて貰うしかなくなる。

 

(まぁ、ベルの方は大丈夫そうだからリリとヴェルフ間の問題になるだろうな)

 

 そんなナインの予想通り、ヴェルフの家名である『クロッゾ』にリリルカが驚愕と共に反応したり、そんなリリルカの態度か発言か、そのどちらかに対して不機嫌そうに肩をすくめるヴェルフという状態が出来上がる。そんな2人の様子に慌てるベル。

 

(ま、この様子ならどうにかなるか。

 ならなかったらどうにかしよう)

 

 

 

 

 


 

 ──────次回、『危機感』()

 

*1
因みにリヴェリアの《魔法》は第一階位(かいい)から始まり、徐々に伸ばしていくことで詠唱が完了する。『我が名はアールヴ』と唱えない限りは更に詠唱が続くかもしれないし、口にしたとして『詠唱』ではなくただ『発言』しただけというはったり(ブラフ)としても使える優れモノ。羨ましい限りだ。




 フレイヤ様のベルちゃん評は『原作序盤のベル君評』と同じです。『綺麗だから試練をぶつけたい、でもそれで死んだら死んだで仕方ない』といった感じ。彼女の推しであるリューに数歩届かないぐらい? 今後届いたらヤバいっすね。『独り占めならぬ三人締め』とかになるんかな。


 ベルちゃんのスキル構成を原作に寄せるか、それとも完全に別物にするか、悩みどころ。TSさせたとはいえチャージスキル取り上げたくない、けど異端児編後に発現させてみたいスキルが結構バケモン性能(【美惑炎抗】さんよりはマイルド)だから良い気もするが……、う~ん。

 因みに取り上げたらナインに【英雄○○】みたいなスキルとして発現します。逃れられぬ~。読みは【英雄覇道】(アルケイデス)とか、【英雄機構】(アルトリア)とか、【英雄真道】(アルバート)とか、【英雄覇響】(アルフィアー)とかになるんじゃないですかね? 『アル……』が多すぎる。本人の名前は『ナイ』なのに。

 『クロニクル:ヘイズ』、腕で潰されてる胸よりも指でぷにっと押し上げられた頬に目が行く不思議。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。