ダンジョンはつらいよどこまでも   作:たっぷり

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・004 痛くないのが、…とても痛い

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 バイト先の打ち上げへと出かけた自らの主神であるヘスティアを見送ったベルは、それでもナインと一緒に食事ができるとうきうきしながらホームである廃教会を出た。

 

 着くまでにどんな話をしようかなとルンルン気分も束の間、ナインからギルドとついでにバベルでの所用を済ませてくると言われる。結局1人で悲しく向かうこととなったが、席を先に取っておいてほしいと頼まれれば然したることはなし。

 

 16時開店だと言われていたこともあり、もしかしたら混んでいるかもしれない。待つ必要があるかもしれないと考えれば、1人だけ送って数人分の席を確保しておくのは良くあること。

 

 祖父から教えられた酒場でのマナーを思い出すベル少女。

 

 それぐらいなら「お上りさんである僕でも問題無い」と意気揚々と向かった先にあったのは立派な建築物。上には塗装の剥がれなど一切見えない立派な看板があり、豊穣の女主人と共通語で大きく書かれている。

 

 ベルはそこからたじたじと動けないままに硬直してしまった。

 

 暗くなってきた通りを照らす程に明るい店内では、今も多くの冒険者が酒に食事にと手を伸ばし、空いた皿を回収したり新しい料理などを忙しなく運ぶ店員の姿が外からでも見える。

 

 直線状に見えるカウンターの中では料理やお酒を振る舞う恰幅の良いドワーフの女性。きっとこの店の女将さんなのだろう。

 

 見渡す限り女性、女性、女性。店の従業員が全員女性であることから、店名の由来をなんとなしに察する。

 

 店の前まで来てなんだが、ベルは少々臆してしまい入るに入れなかった。

 

 そこに今朝方知り合った妖精(エルフ)が通りかかる。

 

「おや? クラネルさん。店の前で立ち止まってどうしたのですか? 

 というよりレイルさんの姿が……」

 

 通りの方から掛けられた声に振り返り「りゅ、りゅーさぁん……」と口から漏らすベルの姿は弱弱(よわよわ)しく、リューは一瞬だけ瞳を潤ませる小さな白兎を幻視した。

 

 いや、目の前にいるのは人間(ヒューマン)だ。すぐさま失礼なことを考えていたと、思考を廃棄して入店を促す。

 

「ここではなんです。どうぞ、お入りください。取って食われることもありませんので」

 

 副音声で「そんなことをしたらミア母さんの鉄拳制裁が待っているだけですし」と伝えられたベルは更にびくびくと怯えてしまうも、リューに連れられて豊穣の女主人へと足を踏み入れた。

 

 

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 ──

 

 

「お客様1名入ります」

 

 その言葉にカウンターの中で洗ったグラスをかたしている女店主のドワーフが、買い出しから帰って来た従業員の1人を迎えるために視線を向けた。だが同時に買い出しの帰りだったはずのリューが営業中にも拘らず(おもて)から入って来たことに少々訝しむ。

 

 しかし、その後に続いて入ってきた客の姿を見て納得したように頷く。

 

 それと同時にリューが客引きをするなんて珍しいこともあるもんだと首を傾げた。

 

 店で働くリュー・リオンとの付き合いはかれこれ4年程度になるだろうドワーフの店主。当然、彼女の性格や種族柄の極度の潔癖は知っている。

 

 だからこそ、それらを少々拗らせ気味な妖精(エルフ)が新顔の客を連れて来たことに脳内がハテナで埋まっていったのだ。

 

 そしてその衝撃を受けた中で一番軽傷だったのがこのドワーフである。

 

 リューが新顔の客を連れて戻ってきたという光景に、厨房で調理中だった茶髪の猫人(キャットピープル)はその聴覚から信じられないことを聞いたと硬直。

 

 黒髪の猫人(キャットピープル)は尻を触ろうとしてリューが連れてきた客と気付き、顎が外れんとばかりに驚愕を。

 

 麻色髪の人間(ヒューマン)は視線をその方向に固定したまま配膳を成すという高等テクを披露していた。

 

 他にも絶賛働いている従業員が「……え?」と困惑顔を浮かべているが、リューとしては特に気にしない。数年前にやってしまったやらかし以上のことなど然う然う起きようも無いからだ。

 

 そしてベルの姿を見付けたシルが「この席が空いてますよー」と促すことで、リューは一度ベルと別れて厨房へ食材を持っていく。

 

 1人となったベルは少しばかりの寂しさを誤魔化すべく、そして何となく視線が集まっていることに泣きそうになりながら、いそいそとシルの案内してくれた部屋の隅にある4人用のテーブル席へ腰かけた。

 

 ビクビクと震えて自らの小心に少し嫌気が差す。

 

 ベルは溜め息を吐いてしまった。

 

「どうかしましたか?」

 

「あの、びっくりしまして。こんなに大きいとは思わなかったもので……」

 

「ほぉ、そりゃどんな店を想像してたのか聞いてみたいもんだね」

 

「ミア母さん!」

 

 席に着いた直後、ベルは背後からの声にビクゥと体が浮きそうなほどに驚きを露わにする。振り返った先には自分を見下ろすドワーフの女将さん。

 

 元からある身長差に加えて席に着いてるから更にその差は歴然。「取って食われちゃう! 助けてナインさん!!」と心の中で叫んでいると、その内心を見透かしたように「取って食う訳ないだろ。大事なお客さんなんだからね! あと、他の酔っ払いについても安心しな。粗相をしたら叩き出してやるからね!!」、と豪快に笑うミア。

 

 その気安い態度にホッと胸を撫で下ろしたベル。

 

「それにしてもリューが連れて来たのがこんな可愛い顔してる冒険者だったとはね。

 1ヶ月ぐらいお熱だったみたいだったからもしや男か? と思ったんだが。予想が外れちまった」

 

(それはナインさんのことですきっとぉ……! 

 僕はオラリオに来て10日も経ってないですからーっ!)

 

 今日でオラリオ生活9日目であるベル少女、間違いだと声に出そうとしたが緊張からか言葉は一切、口から出なかった。

 

「私もその話、リューから何度か聞きました! どうやら健啖家で、自分で料理も作るらしく朝の市場にも顔を出すのだとか!!」

 

「ほぉ、分かってる奴じゃないか! よし、ここはアタシがじゃんじゃんと料理を振る舞ってやろう!! じゃんじゃんお金を落としていってくれよぉっ!!!」

 

「!?!?」

 

 ははは! と笑いながら厨房へと向かったミア。状況が刻々と変転していく所為で、訂正する機会がそのまま去ってしまった。

 

「し、シルさぁん?! 誤解受けたんですけどぉ!?」

 

「…………えへへ」

 

「えへへ、じゃないぃぃぃぃっ!!」

 

 誤魔化されないからなと意気込むベルに対して悪女ムーブを決め込むシル・フローヴァ。

 

「ここは~、そうです! ナインさんについては私が誘ったってことにすれば万事解決です!」

 

「それはダメです! なんかダメです!! バットゥ!!!」

 

 客引きというものがあるのは知っている。そして今朝、実際ナインに対してシルは客引きをしており、リューの参戦によって豊穣の女主人へ行く約束はした。その場で、確かにした。

 

 事実であるため否定し辛いが、それはそれとしてなんか嫌だとして否定する。

 

 その様子にシルはキョトンとした後、くすくすと笑みを浮かべた。

 

 いじられている。そう感じて「確信犯がここにいるーっ!」と心の中で叫ぶベル。

 

 差し出されたメニュー表を開き、大人しく注文を済ませようと思った瞬間、視界に映る大量の料理名とその金額。一食でいつもの食事数回分はありそうな金額に目を白黒させつつも、出来る限り安いやつを選ばなくてはと目を走らせる。

 

 今日の稼ぎはナインの援護付きの指導の影響で山分けにして10万ヴァリスを超えるだろうと、換金所にいたギルド職員に言われた。正直ベルにとって未だに信じられない金額ではあるが、それでも大して驚く様子の無いナインの表情から、自分を連れていった影響で稼ぎが下がったのだろうと思ったのだ。

 

 実際は「4階層でこんな金額になるのかよ、やべぇな幸運」と内心で呟いていたナイン。しかし彼も彼で、4層のモンスターを一掃して再度出現したらまた一掃するという、他の冒険者からしたら正気を疑うような所業を己と後輩に課していたのだ。

 

 それで勝利を収められるならば、その収入が手に入るのはおかしいことではない。

 

 なお、ナインがダンジョンの10階層とギルドの換金所を往復するような生活を始めてから、ほぼ毎日怪物の宴(モンスター・パーティー)に数回程度遭遇するようになってしまった為、特段モンスターの大群に囲まれても焦ることはなくなったのだった。

 

 ベルはそのあおりを受けただけだ。可哀想に。

 

 しかしそのおかげで現在のベルの御財布事情は結構なぬくもり具合。デカデカと書かれた50ポンドステーキとかいうのは見ないようにして、今後の装備の更新などを考えつつドリアを注文した。300ヴァリスだった。

 

 酒場というが、結構しゃれているものが多い。酒場に来たのはこれが初めてだが。

 

「お酒はどうします?」

 

「流石に遠慮しておきます……。この後ナインさんが────」

 

「料理が出来るまでこれでも飲んでな」

 

 突如現れたミアからドンッ! とテーブルに置かれたジョッキ。中にはなみなみと注がれたエール。

 

(……えぇ…………聞いた意味はどこ……? ここ……?)

 

 そんなこんなで飲むしかなくなったエールだが、ちびちびと飲んでいるとドリアと付け合わせのサラダが登場。スプーンを手に取って食事を進めた。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 食事を続けていると休憩時間になったのかシルとリューがベルの座るテーブルに来て会話が始まった。周囲からすれば綺麗所が集中する天国だ。

 

 話題は基本的にお互いのことについて。

 

 シルがここで働いている理由だとか、ベルの体験したダンジョンでの出来事だとか、リューがほぼ毎日、「日の出の時間より前から誰かと逢瀬してましたよね」とシルに揶揄われて真っ赤になったりなど。

 

 ナインについての話題が出た瞬間、同じファミリアに所属するベルや1ヵ月近くの付き合いがあるにも拘らず、今日までナインが店に来なかったのはどういう了見なのかと問われるリュー。

 

 近くに座っていて、意図せずその内容を聞いていた男の冒険者は、「あんな可愛い女の子に噂されるなんて羨ましい!」と憤慨し走って立ち去る。しっかり会計を済ませ、再度走り出し帰っていった。その道には涙の痕があったとか。

 

 そうして少女たち*1の談笑が続くこと10分弱。

 

「御予約の団体さんだニャー!」

 

 と、黒髪の猫人(キャットピープル)が店内の従業員へと伝え、彼らを予約席へと案内し始めた。

 

 ざっと数えて十数人規模か。先程の言葉通り予約席であろうぽっかりと空いた一角へと案内されていく。一行(いっこう)は種族の統一されていない冒険者の集まり。そして一目(ひとめ)で分かる実力者の風体(ふうてい)

 

 ベルたちのいる場所から対角線上の位置に座るその人たちへ目を向けたベルは、彼らの顔と、纏う衣服に刻まれたエンブレムを見て理解した。

 

「…………おい」

 

「おお、えれえ上玉ッ」

 

「馬鹿、ちげえよ。エンブレムを見ろ」

 

「…………げっ」

 

 周囲の客がまず容姿の整った者たちに反応し、彼らが【ロキ・ファミリア】であることに気付いた途端、別の喧騒を広げていく。顔を近付け合って、聞こえないようにとひそひそ話が開始された。

 

「あれがオラリオの最強二大派閥のひとつ……」

 

 一度、門を叩こうとし、それすら出来なかった巨大派閥の幹部陣が、そこにいる。

 

 周囲の声には全て畏怖が込められていた。中には容姿の整った構成員を見て口笛を吹かす者もいる。

 

 自分もあそこに加わりたかったと考えたのはいつだったか。

 

 オラリオへの道中に聞かされた二つ名持ちの活躍を聞いた時だっただろうか。

 

 それともギルドの受け付けで、エイナから都市内にある探索系ファミリアの説明を聞いていた時だっただろうか。

 

 それとも今なのか。

 

(……いや、最後のはないな)

 

 憧れはある。凄いなとも思う。

 

 Lv.6やLv.5の冒険者を多数抱える強力なファミリア。

 

(それでも今は……)

 

 目を瞑れば瞼の裏に現れるあの日の光景。

 

 自分の中で絶望の象徴と化したミノタウロスの剛腕を斬り飛ばし、更には一瞬でその首を落とした己の憧憬。

 

 あの日から自分の物語が始まったのだと思うと、ポカポカする気持ちになるのだ。

 

(早くナインさん来ないかなぁー……)*2

 

 そんな益体の無いことを考えていると、恐らく彼らの主神であるロキが音頭を取ってガチンッ! とジョッキをぶつけ合う。

 

 そして各々のペースで食事に酒にと喉の奥へと流していった。

 

「【ロキ・ファミリア】さんはうちのお得意さんなんです。

 彼らの主神であるロキ様に、私たちのお店がいたく気に入られてしまいまして」

 

 そんな彼らに目を向けていたからだろう、シルがずいっと体を寄せて耳元で教えてくれる。

 

 そのシルの行動を「はしたないですよ」と窘めるリュー。

 

 彼女がここにいるのは自分が誘ったナインが、まさかの後輩だけ寄越して一向に訪れないことへの苦言を吐く為だったりする。

 

 正座か、げんこつか、大食いさせるか。考えていた。

 

 

 ────

 ──

 

 

 そうして【ロキ・ファミリア】の遠征お疲れ様会は続いていき、ほとんど全員の体にアルコールが巡りだした頃、ベルの耳へ、いやにこびり付く話題が聞こえてきた。

 

「そうだ、アイズ! あの話しようぜ!」

 

「あの話……?」

 

 顔を耳まで真っ赤にした灰色の頭髪を持つ狼人(ウェアウルフ)の青年が金糸の髪を揺らす少女へと話題を投げる。しかし当の本人は思い当たる節も無いようで、コテンと首を傾けた。

 

「ほらあれだって、帰る途中で何匹か()がしたミノタウロス!」

 

 対角線上にいるため、本来なら声は届かないだろう。酒場であるがゆえに喧騒は絶えないはずなのだから。しかし喋っているのはかの【ロキ・ファミリア】。聞き耳を立てているのはベルだけではないのだ。

 

「ミノタウロスって……襲い掛かって来たのを返り討ちにしたら集団で逃げていった?」

 

「それそれ! ゴクゴク、ぷはぁ……。

 奇跡みてぇにどんどん上層に登っていきやがってよぉ、俺たちが泡食って追い掛けていったやつ!! こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ~」

 

 ダンジョンは行きが自分の足なら、帰りも自分の足で階層を上っていかなければならない。

 

 深層への遠征帰りに疲労が溜まっていたからこそ、あの階層までミノタウロスを逃がすような事態に発展してしまった。でなければ圧倒的にステイタスで上回る【ロキ・ファミリア】の遠征組が取り()がすこと無いのだから。

 

「うん、あれは焦った。6階層と、────5階層」

 

 アイズの声が小さく響く。それがベルの耳に届いたことで、5階層での出来事が思い起こされた。

 

「ああ、あれな。6階層に入ったらまさか連携してたのかって感じで散り散りになるわ、5階層に逃げた跡があったから登ったらもういなかったり」

 

「居なかった?」

 

 金髪の小人族(パルゥム)狼人(ウェアウルフ)に問うが、本題じゃないからと後回しにする。

 

 実際は団長である小人族(パルゥム)としては居なかった理由などの方が重要なのだが、酔っている狼人(ウェアウルフ)に何を言っても止まらないだろうし、一度全部吐き出させようと決めて聞きにはいった。

 

「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえ冒険者(ガキ)が!」

 

 ドクンッ!! と鼓動が強くなる。いやな汗がベルの頬を伝い、歯が鳴る。

 

「4階層までの連絡路で跡がないか確認してた時なんだが、そっちに走ってくガキがよぉ! 

 そいつなんとミノの血で全身真っ赤になってやがんの!」

 

 それを聞いた小人族(パルゥム)上位妖精(ハイエルフ)はほっと息を吐く。

 

 走っていたというなら大怪我ではなく返り血を浴びただけだろう。死者の報告はギルドからも受けていない。色々と立て込んでおり、現場の人間からの報告を後回しにしていたが、これなら後で詳細を聞いても問題は無いだろう、と。

 

 しかし狼人(ウェアウルフ)としてはここからが面白かった。そしてアルコールで緩んだ口は閉じない。

 

「しかもそいつ、くくっ! どうやら助けてくれた奴から逃げていたようでよぉっ!」

 

「助けた? 自分らじゃなく?」

 

「あぁ、そのトマト女の跡を辿った先にいた全身傷だらけの冒険者が助けたらしいぜ? 確証は無いけどなぁっ!」

 

 ホラを吹いただけかもしれない。誰も見ていなかった。少なくとも自分たちの知っている情報からは、確証などない。

 

 しかしその上層で金を稼ぐ冒険者がミノタウロスを倒したのであれば、もしかしたら近日ランクアップの報告がされるかもしれない。その階層にいるのは多くがLv.1。偉業と見做(みな)されて可笑しくはないと小人族(パルゥム)は酒精を感じつつも頭を回す。

 

 対して対角線上にいた白髪の少女は脳の動きが停止していた。残り数口程度のドリアを掬ったスプーンが嫌に重く、落としてしまう。

 

「ベルさんっ……?」

 

「クラネルさん? 大丈夫ですか? 顔が青く……」

 

 誰かの心配する声がする、と思考回路が上手く働いていない。

 

 当然だろう。今、ベルの思考リソースの全ては当時の光景を再確認する為に注ぎ込まれているのだから。

 

(傷だらけ……? 誰が? 

 全身血塗れだったのは? 僕だ。

 逃げたのは? それも、僕だ。

 だったら……、だれが、あの時、傷を作っていたんだ…………?)

 

 少女(ベル)の脳内に保存されていた当時の光景から、英雄に憧れているだけの──無知な少女としてのフィルターが、剥がれていく。

 

 ベリ、ベリ、と。音を立てながら。

 

 モンスターの消滅、空中に浮かぶ魔石とドロップアイテム、……そしてその先に現れた自分を救ってくれた大恩人────憧憬の人。

 

 安堵を覚える笑顔が素敵だった。漆黒の髪がダンジョンの燐光を受けてきらめいていた。ゆっくり、こっちのことを考えて喋る言葉は短く、的確に、聞こえやすく、分かりやすいように纏めて届けてくれた。

 

 だからだろうか、見えていなかった。

 

 顔の至る所にある小さな擦り傷。所々破れている衣服。不揃いなアーマー類。

 

「……そうだ、あの人は…………怪我をしていたのに…………」

 

 俯いて自分たちの声すら届かなくなったベルに心配そうな顔を向ける店員が2名。

 

「しかもよぉ、あのトマトちゃん、助けてくれた奴の前で漏らしてたんだぜっ!? 

 大爆笑モンだったぜ!!」

 

 ガチガチと歯が鳴る。悔しさが募る。

 

「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少女に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」

 

「おーおー、流石妖精(エルフ)様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねえ奴を擁護して何になるってんだ? それはてめえの失敗をてめえで誤魔化すための、ただの自己満足だろ? ゴミをゴミと言って何が悪い」

 

「これ、やめえ。ベートもリヴェリアも。酒が不味くなるわ」

 

 恥ずかしい。悔しい。ぐちゃぐちゃで何が何だか分からない。

 

「はっ! 

 ────まぁ、良いんだろうなぁ、それで」

 

「やけに素直だな、ベート。いつもそれぐらいで居てくれると……」

 

「うるせぇよババア。言ったろ? 助けた奴がいたってな。そいつが言ってたぜ?」

 

 ────目の前で散りかけた命があった。それだけだ。

 

「誰でも良かったわけだっ! そりゃそうだよなぁ! 雑魚を救って何になる? 

 なんにもなんねぇよ! 雑魚は雑魚ッ! 何にも成れやしねぇよっ!!」

 

 ぐちゃり……。とベルの中にあった何かが音を立てて潰れた。

 

 店の一角で大きな音が鳴り、白い影を残して外へ走り去っていく。

 

 鈍色髪の町娘も、翠色髪の妖精(エルフ)も様子がおかしいとは思っていたが、その突然の行動に加え、自分たちの居る方は壁に面している。即座に追い掛けるには目の前のテーブルを蹴り上げるしかないが、これは店の備品。Lv.4のステイタスでは壊すだけだ。

 

「クラネルさん!?」

 

 椅子の横から出て少女の後を追ったリューだったが、既にベルの姿はどこにも見えなかった。

 

「リュー! ……、どう?」

 

「いえ、もう近くにはいないかと」

 

 冒険者を始めて数日でこんな敏捷を得られるだろうかと両者が頭を捻るが、リューの場合はベルの先輩にあたる人物が邪魔をして冷静な分析が出来なかった。

 

 

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 ──

 

 

 一つの影が決河の勢いで店外へと消え、それを席を共にしていた少女らが追いかける。

 

 瞬く間の出来事に、酒場にいた者達の大半は何が起きたか把握できずにいた。

 

 困惑したざわめきがあちらこちらから燻ぶり始める。

 

「あぁン? 食い逃げか?」

 

「うっわ、ミア母ちゃんのところでやらかすなんて……怖いもん知らずやなぁ」

 

 背後で起きていたがゆえに見ていなかったベートは周囲と同じ反応。

 

 アイズも少しだけ駆ける少女の横顔が見えただけ。そしてその顔に映る表情にどこか既視感があったがゆえに、恐らくの当たりを付けていた。先程までの会話で気分を落としていたため、行動する気は起きなかったが。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 フードを被り、ベルの横をこっそり通り過ぎたナインは懐に入れていた重みを感じず、そのまま豊穣の女主人へと入る。そしてその顔を見た翠髪の妖精(エルフ)が一気に、それはもう素早く一瞬で店の中を横断して接近した。

 

「レイルさん! クラネルさんが!!」

 

 自分の動体視力ではギリギリの速さで、鼻と鼻がくっ付きそうなほどに接近されたことにより、ナインが後ろへ下がる。

 

 それを逃げるつもりかと更に詰め寄ったことでナインの足と絡まってしまい、そのまま倒れてしまった。

 

 ナインが下敷きになる形。そしてまさかのリューが押し倒す形となったことでそのありえざる光景に従業員が停止。女から押し倒したぞと冒険者は囃し立て、同胞たる他の妖精(エルフ)たちは卑猥な村出身かと心の内で唾を吐いた。

 

「あ、あああっ、あああああっ?!?!」

 

「いや、まず落ち着け!」

 

 首からゆっくりと頭の先まで(ゆだ)ったタコのように赤くなったリューはキャパオーバーで立ち上がるだけという行動が取れない。その彼女に押し倒されているナインはどうするかと悩む。

 

 彼女は妖精(エルフ)。高潔と潔癖をなによりとする種族であり、不本意な接触を嫌がる種族だ。既に色々当たってはいるが、これ以上こっちからは……と考えていた。

 

「うわー羨ましいわぁ! リヴェリアママーうちにも同じのしてー」

 

「断る」

 

「りゅ、りゅりゅりゅ、リューが大胆なことをぉっ!!」

 

「春よ! 春が来たんだわ!」

 

「ニャー!? 先越されたニャー?! しかもリューに!!」

 

 神が1、同胞の王族が1、店員が3。騒ぐだけで誰一人解決に乗り出さない。

 

「リューったら、だ い た ん」

 

 くねくねと恋バナ待ちの少女のように腰をくねらせる町娘。

 

 面倒になり、そろそろ無理矢理引き剥がすかなと考え始めたナインの死角で、ゴンッ! という音が4つ、そして沈む4人の店員。更にはリューの服が引っ張られ無理矢理立たされた。

 

「まったく、男1人客引きしただけでこの騒ぎかい? やってらんないね」

 

「どうも、すいませんでした」

 

「謝罪するぐらいなら金を落としていきな!」

 

 そう言って5人を店の裏へ持っていくミア。

 

 ナインは苦笑しつつその後に続いて空いてる席でもないかと探していると、その前に1人の影が差した。

 

「よぉ……」

 

「………………

 ……誰?」

 

「とぼけてんじゃねぇぞっ! ミノの件だ!」

 

 酔いの回ったベートが他の冒険者に絡みにいったことで、止めるのが面倒だと言わんばかりのアマゾネスとドワーフが動き出そうとしたところで、先ほど挙がったであろうミノタウロスの件だと聞いて足が止まる。

 

 関係者なのか? と。

 

「あん?」

 

 更にエールを呷ったベートの悪酔いが加速し、色々と気に食わない顔が出て来たことにより、詰め寄った。

 

 何より、たかがLv.1がミノタウロスを単独で撃破したというのが未だに信じられないのだ。その場にいたであろう白髪の少女は戦力になりそうにない。

 

 であればアイズが倒したミノタウロスを言葉巧みに騙し()ったのかもしれない。その飛躍した思考がナインへと向くのは必定だった。

 

(今日はとことん不運だな)

 

 目の前で酒気を漂わせる狼人(ウェアウルフ)に詰め寄られる。相手はLv.5、どう足搔(あが)いたところで勝ち目のない相手であり、下手に暴力を振るわれれば一撃で殺されるかもしれない相手。

 

 しかし泣きながら走るベルを見たナインからしてみれば、自分の失態も棚に上げて他人を馬鹿にするしか能のない冒険者の1人。自制も出来ないただの酔っ払い。

 

 挙句今朝方1も2も無く襲ってきた一般通過猛者(おうじゃ)猪人(ボアズ)よりずっと弱い存在。関わり合いたいとも思えなかったがゆえに、大きな溜め息が漏れてしまった。

 

 瞬間、『気に食わねぇ』が『ふざけろ』という感情へ変わる。

 

 ゴキャッ! という音と共に、ナインの体がくの字に曲がり、そのまま誰もいなくなったテーブルを壊して上半身が木材に埋まった。

 

「………………は?」

 

 誰の声か。

 

 木材の跳ねる音を最後に、音が停止する。

 

 

 ────

 ──

 

 

 その音と光景に周囲の客も【ロキ・ファミリア】の面々も酔いが一気に冷めた。

 

「ガレス、ティオナ、ティオネ! ベートを止めろ!! 

 リヴェリア! 回復魔法の準備! 

 ラウル! 今すぐ【ディアンケヒト・ファミリア】へ行ってエリクサーを買ってこい!! 急げ!!」

 

「ちょっとぉっ! 何してんのさベート!!」

 

「ふっざけんじゃないわよこのバカ犬ぅっ!!!」

 

 この光景、先程の話、ベートの態度、そして漆黒の髪の少年。即座に動いてこれ以上の被害も失態も防ぐべく、【ロキ・ファミリア】の団長フィン・ディムナは指示を出す。

 

 下手に傍観してしまっていた。親指が疼かなかったからこそ、危険なことにはならないだろうと思っていたのだ。

 

 彼のステイタスにすら写らない特異性がゆえに、防ぎ切れなかった。

 

(危険だ。さっきの蹴り、適当な振りだったけど少なくともLv.4相当の力が籠められていた……。

 もし彼がミノタウロスを討伐して器の昇格(ランクアップ)を果たしていても、良くてLv.2。それも昨日の出来事。【ステイタス】の差は歴然だ)

 

 下手をすると後遺症を残してしまう。これ以上暴走させる訳にはいかない。ベートの前に立つ3人と壊れたテーブルの木材を店員と一緒にどけているリヴェリア、【ディアンケヒト・ファミリア】へ向かうラウル。

 

 一応自分もベートの方へ向かおうとした瞬間、小人族(パルゥム)特有の鋭敏な感覚が何かを捉える。

 

 視線? ……ではない。集まっているが、これがどうとなることはない。

 

 匂い? ……アルコールの匂いはするがこの度数なら引火はしない。

 

 音? ……悲鳴だけだ。

 

(他には何も……なんだ?)

 

 何かが聞こえる。

 

 ならばどこから聞こえる音なのかと耳を凝らしていると、視界の中で光が舞っていた。

 

(これは、魔力の痕跡……? どこから?)

 

 未だに親指は疼かない。危険性はない。しかし不可解。

 

 そこから、周囲の燐光がゆっくりと何かに引き込まれるようにして移動を開始。

 

 辿り着くは、今しがた救出されているナインだった。

 

(……そうか。詠唱(うた)だったのか)

 

 魔法の行使。それには詠唱が欠かせない。彼らの知る最恐(さいきょう)であっても、詠唱は行なっていたのだから。

 

 しかしリヴェリアが近くにいるにも拘らず、それを止めないのであれば、恐らく攻撃魔法の類いではないのだろう。フィンはそう推察した。

 

 リヴェリアが目を丸くさせているのに気付くには、その間に立っている4人が邪魔だった。

 

 

 ────

 ──

 

 

(痛い。お腹が。蹴られた。防御は……、ギリギリだったな)

 

 目の前のベートの雰囲気が変わった瞬間、スキルである【星の怒り】(ボンバイエ)を起動させ、対峙している方向に質量などを集中。

 

 しかし相手はLv.5。その速度に追い付くには単純な身体能力が足りず、通された。

 

 今朝模擬戦をした猪人(ボアズ)はステイタスでのゴリ押しではなく、純粋な剣技(けんぎ)での攻防を重視していたこともあって、瞬殺されずに済んでいただけ。それが良く分かった。

 

 近くに誰かが寄ってくる足音がする。ベートではない。それだけわかれば良いや、とナインは詠唱(うた)を唄う。

 

【星の救済を】(ルクス)

 

 体の一部、埋まっている右手を拳に変え、そこに燐光が集中する。

 

「さて、と。やるか。

 【この身は善、悪を敷く者】【この身は悪、善を説く者】」

 

 徐々に魔石灯からの灯りが強くなる。しかしそれすら凌駕する閃光が魔力を吸い上げて練り上がっていく。

 

「【たとえ愚物(はいしゃ)と笑われようと、歩みを止めず】【ならばこの身は約定を果たし、魂を捧ぐ】」

 

 上にあった木材がどけられ、翡翠色の長髪の妖精(エルフ)が顔を覗かせる。そして同時に驚愕を浮かべた。下敷きになっていた少年は先程ベートの蹴りを腹に喰らったばかりであるにも拘らず、意識ははっきりしており、加えて言えば発現しているであろう魔法の準備をしていたからだ。

 

「【救済は終末の地(ここ)に果たされる】【終焉(おわり)の大地、残る(たつ)はこの身体()(つるぎ)の欠片】」

 

 ナインを中心に渦巻く魔力の波を見て、リヴェリアはその膨大な魔法に関する知見により付与魔法の類いだと見抜いた。

 

 だから見逃すことにした。

 

「ティオナ、ティオネ。ベートを拘束しろ」

 

「あ゛ぁ゛!?」

 

「はぁーい大人しくしようねぇ!」

 

「暴れんなって、このっ!」

 

「リヴェリア。大丈夫なのか?」

 

「カースなどの類いではない。問題無いだろう。……多分な」

 

 両側からベートを拘束するアマゾネスの姉妹。

 

 ナインの拳に宿るおよそ低レベルの冒険者が持ち得ないような魔力の集合体。あれで殴るのだろうが……。とガレスは少しだけ心配になった。火力というよりも光量に。下手をすれば失明レベルな気がするからだ。

 

 周囲の視線の集まる中、先程のダメージなど知らないとばかりに起き上がり、歩みを進めるナイン。

 

 ベートの身体能力から繰り出される一撃の威力を知っている者達が「マジかよ……」という顔をするが、それすら無視して前へ行く。

 

「……おい、一発は一発。

 まさかとは思うが……、躱さないよな?」

 

「雑魚がっ! 調子乗ってんじゃねぇぞっ! んなモン、……!?」

 

 周囲が「煽るなよ……」と考えている最中、店の中で何かを壊す音がしたために戻ってきたミアと、比較的軽傷だったシル。

 

 第一級冒険者に昇りつめたことで手にした洞察力で経緯を何となく察したミアは、自分へ向けられた【ロキ・ファミリア】の団長の視線に嘆息して見に入る。

 

「【極光よ、救え(ゆけ)】」

 

 そしてのっそりと出て来たシルは、少年を視界に捉えた瞬間から徐々に頬を紅潮させ始めていた。

 

 全員の瞳に映る、その光に焼かれるように。

 

「────【ルクス・レギオン】

 

 瞬間、周囲に散っていた燐光が全てナインの拳に収束し、直視厳禁なほどの光量を伴う極光が店内を昼間よりも更に明るく照らす。

 

「うぇーっ!? なになに!?」

 

「みえなっ……!?」

 

「眩しいのう……」

 

「持ってて良かったサングラス」

 

「はー? ずっこ。うちによこしいやフィン」

 

「これは……、重さがあるのか?」

 

 ベートの暴行から、店内に残っているのはナインを除き【ロキ・ファミリア】の団員のみ。更には店の外に1人配置させ、これ以上の被害を減らしていた。

 

「……綺麗────」

 

 そして、金糸の少女は、その光を見て、心を震わせていた。

 

 光を、────ナインを。

 

 Lv.1でLv.5に挑むその覚悟に。

 

────【クリステス】!!

 

 そして放たれる一条の光線。

 

 それに見紛うほどに早い拳の一撃は狂いなくベートの腹へとめり込み、そして衝突の瞬間、そのまま収束していた光を解放したかのように一気に炸裂させる。

 

 せめてもの抵抗とばかりに腹筋に力を入れていたベートだが、衝撃の瞬間その体がブレて消えた。

 

 圧倒的な光量に目を瞑ったアマゾネスの姉妹は力を抜いてしまい、無防備に一撃を叩き込まれたベートの体は拳と炸裂した魔力の奔流により、後方へ飛ぶ。

 

 軽い放物線を描きながら飛んだ先にあるスイングドアを勢いよく押し出し、その速度のまま向かいの店に突っ込んだ。

 

「……………………」

 

 誰も声が出ない。いや、出せないのだ。

 

 驚いていた。まさか第一級冒険者であるベート・ローガが、名の知れ渡っていない推定Lv.1により殴り飛ばされた挙句、数秒掛けても戻ってこないことから、もしかしたら気絶でもしたのではないかと。

 

 それを成した人間へと目を向ける。口の端からは蹴られた時の逆流した胃液だろう。その跡が残っているが、それ以外は特に負傷らしい負傷がない。

 

 蹴られた際に出来た衣服の汚れを気にすることも無く、周囲の人間が動けずにいる中、ナインは1人歩き出した。

 

 

 ────

 ──

 

 

 ベート・ローガは意識を飛ばすようなことはなかった。

 

 だが、目の前で起きた、いや、体に叩き込まれた不可解な現象に頭の中は困惑を膨らませるばかり。

 

 酔った頭では真面な答えなど出る筈もなく、大の字のままその場で放心していた。近くから大丈夫なのかと様子を見に来た者達は、飛んできた人物が【凶狼】(ヴァナルガンド)であったことから一目散に逃げ出す。

 

 そこへ誰かの足音がベートの耳に入り込む。

 

「どうせ起きてんだろうから言っとくぞ」

 

 ナインの声が通りに小さく響く。

 

「お前がどんな人生歩んできたのかなんて、俺は知らねえ。

 だけどなっ! 悲劇に見舞われたからってなぁ! 吐いていい言葉とダメなモンぐらいあんだよ!! その判断も出来ねぇってんなら、幾つ歳を重ねようがテメェはガキだ!」

 

 その様子を見る【ロキ・ファミリア】の面々。冒険者同士の喧嘩に巻き込まれたくないと、通りからは彼ら以外の姿は消えていた。

 

「自制も出来ないお前が飲むべきはエールじゃねぇよ! 

 ママのおっぱいでも吸ってやがれっ、この【迷い子犬】(パピー)がぁっ!!」

 

 ナインの言葉は暗闇の()まれ、ゆっくりと消えた。

 

 言いたいことを言い終えたのか、ナインは振り返り、懐からヴァリス金貨の入った袋を【ロキ・ファミリア】の面々と同じようにことの成り()きを眺めていたミアへと手渡す。

 

「弁償と、後輩が食い逃げしたと思うので」

 

「ん? あぁ、なるほどね」

 

 手の中に納まる重さにミアは納得しつつ、店の中に戻っていった。

 

「少し、良いかな?」

 

 そのやり取りを見ていたフィンが他の団員が動く前に動き出す。

 

「いや、良くない」

 

「……どうしてだい?」

 

「酔ってる奴と会話しても碌なことにならなそうだからな」

 

 そう言ってベートのいるであろう方向を指差す。突っ込まれた店舗は半壊しており暫く営業は出来ないだろう。

 

 そして未だに動かないベートを疑問に思う者たちが近付いていく光景がそこにあった。

 

「……なるほど。了解した。

 後日そちらに伺いたい。それでどうだろうか」

 

「なら……、ここに来てくれ」

 

 日を改めるというフィンの言葉に、ナインは自分の賃貸と神さまのいるホーム、どちらに呼ぶか考えた後、一応主神に同行させるかと考えて廃教会の方に来てもらうように地図を渡した。

 

「感謝するよ」

 

「…………」

 

 笑顔のフィンと訝しむような表情のナイン。

 

 しかしナインは()かし合いなどするつもりなどない。そのまま踵を返して帰路に就く。一応、ベルを待つために廃教会の方へと。

 

「おい坊主! 忘れもんだよっ!!」

 

 歩き出そうとしたそこへ、ミアの声が掛かった。同時に振り返ったナインの胸元に大きめの風呂敷と先程渡したヴァリスの詰まった袋が収まる。

 

「え? ……あの!」

 

「また()なっ!!」

 

 有無を言わせぬ言葉でナインの疑問を強制的に黙らせたミアは、返答を待つことなく近くに居たロキの頭をむんずと掴んで店内へ戻っていった。店内を荒らされた分と娘たちの治療費。賠償について話すのだ。*3

 

 

 ────

 ──

 

 

 ミアに先導されて店内に戻っていった【ロキ・ファミリア】。

 

 人の少なくなった往来。その(はし)に残された壊れた店舗の中では、1人の狼人(ウェアウルフ)が横たわっていた。

 

 殴られた場所は一切痛くない。ステイタス差で捩じ伏せたのではない。純粋に、(いた)わられたのだ。雑魚と侮り、怒りをぶつけた少年に。

 

 酔いは既に、覚めている。まるでしっかり休養を取った後のように、アルコールにやられていたはずの脳が通常運行を開始していた。

 

「────クソ」

 

 

 

 

 

*1
諸説あり

*2
丁度バベルでの所用を終わらせたナイン

*3
ロキ「いやその怪我(たんこぶ)はミア母ちゃんのげんこつ……「なんか言ったかい?」、ヴェッ! マリモ!!」




【クリステス】
解放(バースト)させることにより、一点に溜め込んだ光を文字通り解放させる。某呪術の黒閃を好きな時に撃てるようなもん。なお基本的に【星の怒り】(ボンバイエ)と併用させるので魔力消費量が……。

 この光は()()()()()()の為に生えた訳ではない。





 なんか自分の作品に低評価付けたいだけのアカウント有って暇なんだなって思った。
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