ダンジョンはつらいよどこまでも   作:たっぷり

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 感想欄に塩顔のイケメンがうずまきしたり、現代系異能がぶっぱしてましたね。
 2つを喰らった私はその間に居たってことでしょうか? 

 高評価とか感想、ここすき、誤字報告感謝です。


・005 木刀新調するにも数日かかる

────

 

 

 

 

 

 廃教会の中に用意された地下へ続く隠し部屋。

 

 数人程度の生活スペースを持つその一室の中では時間を刻む音だけが無機質に響いている。

 

「………………」

 

「………………」

 

 その部屋の中では2人の影があった。

 

「……うぅ、遅いようベル君……。

 大丈夫かなぁ」

 

 ナインから説得を受け、一応は納得を示したものの、それでも帰ってこない自らの眷属を想う美少女の姿を持つ女神。彼女は落ち着きなくソファから立っては座ってを繰り返していた。

 

「大丈夫だよ。4階層までなら怪物の宴(モンスター・パーティー)が起きたって1人で切り抜けられる。まぁ、普通は10階層より下かららしいんだけど

 

「君は昨日だけでどんなことをベル君に教えたんだい!?」

 

「俺に戦い方を教えてくれた(ひと)の動きの基本形。その1つ。

 後は囲まれた際に注意する方向や敵の動きとか?」

 

「なかなかにスパルタだね!?」

 

「17階層から5階層までミノタウロスが会いに来るような奴だからな。最低限、逃げの道を見付けられる程度には鍛えとかないと」

 

「それはそうだろうけどぉ……」

 

 しなしなとソファにしな垂れかかるヘスティア。彼女の感情の起伏に伴って動く謎のツインテールも今だけはいつもの(つや)を失っていた。不変とされる神の一部であるはずなのだが。

 

「うぅぅ……、やっぱりダンジョンに行くのを知っていたなら、陰ながらベル君を見守るとかしてくれても良かったんじゃないかい?」

 

 下界で行使を許された神の権能の1つ。『神の恩恵』(ファルナ)。これの効力のおかげで、自らの眷属(こども)であるベルの生存は確定されているが、それでもダンジョンへ向かってから音沙汰が無い。

 

 死んだかどうかが分かるだけで、いま安全なのか、危険な状況なのかなど一切判らないのだ。心配するのは仕方の無いこと。

 

 ナインも彼女が心配する理由も理解出来る。しかし自らが行くことは決してしない。いや、出来ない。

 

「出来るわけがない。ベルを惨めにするだけで何も生まないからな」

 

「それはそうだろうけど……」

 

「それに、俺が()ったら、……多分、折れるぞ?」

 

「……っ!」

 

 ダンジョンへ向かった理由が他者への不平不満であれば、まだ介入出来る隙はあっただろう。そこへ滑り込み、本人の納得できる形に収めてやれば、それで済むのだから。

 

 しかしベル・クラネルという少女の抱えるモノはどこまでも無力な自分への悔恨。

 

 彼女の中にあるそれは限界ギリギリのラインへと至っているだろう。下手に突けば決壊し、二度とは戻らない。

 

「赤の他人ならまだマシだろうけどな。一度全部吐き出すか発散するか……、どちらにせよ今立ち止まらせるのは良くない」

 

「……ナイン君もそういう経験が?」

 

「あぁ、あるよ……。俺に戦い方を教えてくれた(ひと)がいるってのは言ったよな? その人が簡単にやってのけることが、全くできなかったんだ。で、落ち込んで槍すら握らなかったな、その日は」

 

「その後は、どうなったんだい?」

 

「落ち込んでる暇があんのかって蹴り上げられた」

 

「えぇ……」

 

「そのあとボコボコにされて、ボロ雑巾になって、確かに落ち込んでる時間無いなって思ってからは、きちんと励んだよ。

 出来るようになった時は嬉しかったなぁ。頭撫でてもらったんだ」

 

 地獄のような女神との修行。この世界に産まれ落ちてからの15年間。その内のたった1ヶ月だけではあったが、辛いことだけではなかったのだと今でも思うのだ。

 

 当時のことを思い返せば顔が青ざめるようなこともあれば、心の温まるような光景もある。あの1ヶ月が自分の中に今もあるということが何よりも嬉しい。きっと一生忘れることの無い温もりの一つなのだから。

 

「足を止めたりなんだりしてた俺からすれば、歯を食いしばって走ってるベルの方が酷く健全だよ」

 

「……そっか。

 その(ひと)との生活は……、楽しかったかい?」

 

「あぁ、とても」

 

 10の半分程度の齢の頃、山から下りてきた獣を相手に幾つも傷を作りながらも槍というリーチの差で何とか勝利を掴んだところに現れた女神。開口一番「下手くそ」と言われ「なら教えろ」と答えたことで始まったあの日々。

 

 どこから持って来たのか分からない大量の回復薬が、1日で尽きるほど厳しい鍛錬により身に付いた技術の数々。

 

 頑張った褒美だと振る舞って貰ったテーブルを埋め尽くす皿の上に載った多種多様な料理。

 

 「学が無いやつはどこに()ってもダメ」と言われて何故か始まった座学。

 

 出来なければできない理由を共に探り、出来れば何かと褒めてくれる(ひと)。楽しいことだけではなかったが、楽しくなかったなど口が裂けても言えない日々だった。

 

 いつまでも残る思い出に顔を綻ばせるナイン。

 

 そんな彼を見て、ヘスティアも微笑みを浮かべる。そして決心した。

 

「それなら、ボクもボクのやるべきことをしようじゃないか」

 

「やるべきこと?」

 

「あぁ! なんたってボクは炉の女神。走って汗をかいて、冷えた体を温めるのは得意なんだぜ!」

 

 そう言って胸を張るヘスティアの姿にまた笑顔が込み上げてくるナイン。

 

「ははっ! なら、俺は空いた腹でも埋めるとしようかな」

 

 そう言って一応の台所へ行き、昨日ミアから貰った風呂敷に包まれた弁当箱を魔石製品の一つで温めておく。

 

 自分の方へと戻ってくる光を知覚した為だ。知覚可能範囲はそこまで広大というわけでもないが、ナインの使用する光はどこまでいっても付与魔法の延長線上にあるモノ。そしてその光は自らでもある。

 

 今、それを付けていた物がゆっくりと、しかし確かな足取りで自分たちの住む廃教会の方へ向かって来ていた。

 

 彼女を迎えるのは主神(おや)にしてもらおう。そう思っての行動だ。

 

 かくして、地下室へ入る扉の開く音が響いた。

 

 

 ────

 ──

 

 

「…………っ!」

 

「ベル君。いろいろ言いたいことがあるけれど、まず言わせてもらうね」

 

「……はい」

 

 ドアを開けたベルの正面にはソファへ腰掛けるヘスティアの姿。

 

 彼女から向けられる微笑み、そしてまっすぐな視線に対し、昨夜から今までしていた自らの行ないがどれだけのことだったのか知るだけあり、委縮してしまう。

 

「おかえり、ベル君」

 

 心配させてしまった。何も言わずダンジョンへ向かったことを叱られるかもしれない。だが、そんな考えを一蹴する(ぬく)もりが、そこにはあった。

 

「まったく、そんなぼろぼろになるまで頑張っちゃって。心配したぜ?」

 

 そう言ってゆっくりと立ち上がったヘスティアは、動かないベルの(もと)まで歩いていく。

 

「こんなに怪我をしちゃって。もっと自分を大事にしてくれないと、ボクは悲しいぜ」

 

 そう言いながら背を縮ませるベルの背へと腕を回したヘスティアはそのまま優しく抱きしめた。

 

 今のベルは文字通りぼろぼろだ。髪は乱れ、顔には擦り傷以外にも腫れている箇所が幾つも見られる。

 

 上半身は質素な衣服を重ねて着ていたが、そのどれもが破れており、その先の肌には切り傷が目立つ。それ以外の場所にも土が付着し、変色してしまって修繕が必要だろう。

 

 下半身に穿いているスカートも腰まで斬り裂かれた所為で、下に履いている太腿までのズボンが晒されており、そちらにも血による変色が目立つほど。

 

 二の腕や太もも、脛などには自ら破って巻いたのだろう布地があり、既に元の色よりも凝固した黒い血の色へと変わってしまっている。

 

 非常に汚れたその姿に、ヘスティアは顔を顰めるでもなく、ただ優しく抱きしめた。自らの衣服にその汚れが移ることも厭わずに。彼女の冷めきった体と心に寄り添う為に。

 

「あっ、ああ……、ごめっ、ごめんなさい、神さま……。心配……、かけて、ごめんなさい。神さま!」

 

 その温もりに触れた心が暖まる。心を凍らせていた氷は溶けていき、それが涙として溢れ出す。

 

 嗚咽のような声が謝罪として小さく響き、ヘスティアの下まで届けられる。

 

「違うぜベル君。君の言うべき最初の言葉はちょっと違うのさ」

 

 しかしヘスティアはそうじゃないだろうと諭すのだ。

 

「────ッ。……ただいま、帰りました。神さま……」

 

「あぁ、おかえりベル君」

 

 そうして徐々に流れる涙の量を増やしていくベルは恥ずかしくなったのかヘスティアの胸に顔を埋め、小さな嗚咽を溢していく。

 

 ヘスティアはそんな彼女を優しく抱き留め、あやすように手を動かしていた。

 

 ヘスティアのその温もりに、少女の口は熱を持って言葉を紡ぐ。

 

「……強く、……強くなりたいです。神さま」

 

「それは、どうしてだい?」

 

 ベルの抱える望み。ヘスティアの答えへ導くような優しい問い。

 

 答えはベルの中にあると教えるように。

 

「逃げたく、ないです。

 ……今度は、絶対に!」

 

「……」

 

 ヘスティアは答えない。それでは答えの押し付けだ。

 

「あの人が戦っている、あの場所から! 僕1人だけ逃げるなんて! もう、したくないんです!!」

 

 裂かれる傷を良しとし、流れる血を良しとする。自らに降り掛かる厄災をそれでもと跳ね除けながら、怯える他者へ手を差し伸べる。

 

 そしてそれを受けた自分は、あの日逃げてしまった。

 

 逃げておきながら、その人の下で居られるという(ぬる)い考えと環境の中に甘えようとした自分が、許せなかった。理想の中で夢現に浸り、それで良いのだと綺麗な面だけ見て過ごす。例え、見えない場所でナインが傷を作ろうと、それを見て見ぬ振りして。

 

 それだけは、嫌だった。

 

 それを聞いたヘスティアは「仕方のない眷属()だ」と言わんばかりに彼女の頭を撫でていく。「出来るさ。キミなら」と伝えるように、彼女が泣き止むまで、ずっと。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 台所でベルの悔恨と願いを聞いていたナインは少しだけ口角を上げていた。

 

 原作通りに進んだから、ということも無くはない。

 

 だが大部分としては、彼女の芯となる部分が今、ようやく形成され始めたからだ。

 

 今はまだ種から出たばかりの芽吹き。しかし土に埋もれてばかりの子供から成長を開始したのだ。未知たる後輩が、自ら走り出し、成長の兆しを、上へあがるための切符へと手を伸ばしたのだから。

 

 嬉しくない訳がない。

 

(それはそれとして、俺の為って言うのは少し恥ずかしいが)

 

 そうこうして温まり終えた料理の数々を運ぼうとしたところで、台所の出入り口である扉が開く。そこに居たのはたっぷりと泣き、目元を赤く腫らしたベルだった。

 

「ん? おかえり、ベル。運ぶからもう少しだけ────」

 

「あ、あの!」

 

「どうした?」

 

「え、っと。これ。ありがとうございました」

 

 そうしてベルが取り出したのは脇差。

 

 刃渡りは45セルチ、切先を峰の方まで鋭くしてもらって刺突もし易くした一応の特注品(オーダーメイド)。極東出身の派閥がLv.2の上級冒険者を擁するようになってから僅かに上昇した需要により、製作依頼に応じて貰えた一品だ。

 

 約200万ヴァリスはした物だが、それだけに軽いし硬く、そして鋭い。

 

 サブのサブとして持っておこうかなと思い用意したソレを、昨夜バベルへ走っていくベルの腰へと差し込んでおいたのだ。【星よ集え】(レクス)によってか細く本当に小さな淡い光を灯し。

 

「ウォーシャドウの群れに囲まれて……、地面に倒されて、諦めそうになった時、……これを見て、立ち上がれたんです」

 

 

 ────

 ──

 

 

 ダンジョンへ潜ったベルは最初、ギルドから貸し出されている小剣(ショートソード)を使って戦っていた。

 

 1階層から4階層までの敵ならば十分通用する武器。そして教えられた技術(わざ)を駆使して出会うモンスター全ての魔石を砕いていく。どれだけの量のモンスターに囲まれようと、更に前へと突き進んで。

 

 しかしそれではベルの悔恨は拭い切れなかった。心の中に生まれた陰りは一向に晴れる兆しを見せない。ならばと、ベルの足は更に下の階層へと彼女を案内した。

 

 だが5階層から先は上層かつ危険性の低い場所でありながら、一気に新米冒険者の死者数が跳ね上がる階層。

 

 新米殺しと異名を持つウォーシャドウは、ある程度の力を付けた冒険者であれば普通に戦えば負けはしないだろうと思わせる。しかしながら、その体躯の所為で同業者だと見間違う者や、異様に長い両腕の先にある鋭利な鉤爪は真面に喰らえば致命傷となるのだ。

 

 ベルは何度かそれに遭遇し、それらには勝っていった。

 

 しかし更に深く潜ったことでその危険性は増していき、ウォーシャドウの群れに囲まれてしまう。どうにか穴を作ろうと小剣(ショートソード)で爪を弾き、体を蹴り、脱出する道を作ろうとしたが、あと一歩のところでウォーシャドウの爪との衝突で小剣(ショートソード)が折れてしまった。

 

 それでも「まだ……」と足搔(あが)こうとしたが、元から相手の方が身長も高くリーチも上。折れた小剣(ショートソード)など、戦力半減という言葉さえ誇張表現に当たるのだ。

 

 何とか爪から避けるべく選択した行動が、相手の間合いの内側へ踏み込む事だった。

 

 結果としてウォーシャドウの腕の薙ぎ払いに吹き飛ばされ、地面を転がる。

 

 もう少しで脱出し、自分の有利となる戦況へと持っていけたのに。その思いが悔恨へ混ざり、そして目の前へと迫る化物の群れ。

 

 ダンジョンへ入って連戦に()ぐ連戦だった。温存など考えることの無い全力闘争。モンスターを見つけては倒し、魔石を砕き、更に走る。つぎの獲物を探すように。

 

 そんな戦い方をしていた所為でベルの体力は底を突いていた。

 

 体力も気力も尽き、「もう動けない」と情けない言葉を発する体に対して「まだ動いてくれ」と泣き叫ぶ心。一致しないそれらでは真面な成果は出ず、ゆっくりと沈んでいく瞼。

 

 しかしベルの瞳が閉じ切る前に淡く光る燐光が彼女の目に映った。

 

 それをどこか懐かしく感じつつ無意識に伸ばされた手に触れたモノ。それがこの脇差だった。

 

 心が震えた。唇が小さく「まだだ」と呟いた。瞳が開かれ、今まさに振り下ろされた鉤爪を捉えて手で地面を押すことで回避。

 

 瀕死のベルへ(とど)めを刺そうと集合していたこともあり、その範囲は非常に狭くなっていた。ベルの小さな体躯であれば、ウォーシャドウの股下を潜り抜けるのは難しくない。勢いよくその包囲網の外へと出た瞬間、ベルの体はいつの間にか構えを取っていた。

 

 それはまるで心よりも先に体が反応しているようであり、そしてようやく体が思い出した結果だ。

 

 まる1日、誰にモノを教わったのか。どう戦えばいいのか、厳しくも分かり易く、常に寄り添って教えてくれたのは誰だったか。それを改めて思い出した心が体へと追い付き、そして疾駆した。

 

 

 ────

 ──

 

 

「これが無かったらきっと、僕は今頃死んでいました」

 

 また助けられたという気持ちがある。正直なことを言えば、また甘えてしまったのではという思いで苦しくなる。しかしこれを渡す以上のことをしなかったナインの気持ちを考えれば、これを渡しておけば帰ってくるだろうという信用を感じてしまえば、そんなものは吹っ飛んでいた。

 

「お返しします。ありがとうございました」

 

 そしてこれはナインの武器だ。自分のモノはまた自分で手にしよう。そしてそれに見合った冒険者になろうと、ベル・クラネルは1人で立ち上がったのだった。

 

「あぁ、返してもらった。

 そして改めて言おうか。おかえり、ベル」

 

「────っ! はいっ! ただいま帰りました!!」

 

 差し出された脇差を返してもらったナインはベルの成長に顔を綻ばせ、そして彼女を迎える。

 

 そんなナインの笑顔に対してまた沸騰しそうなほどに顔を赤くしつつも、ベルは元気に返事を返した。

 

 

 

 

 

────

 


 

《名前》

 ベル・クラネル

 

『Lv.1』

 

《基本アビリティ》

 力 :H 181 → G 299

 耐久:H 112 → F 307

 器用:G 201 → G 280

 敏捷:G 202 → F 302

 魔力:I 0 → I 0

 

《発展アビリティ》

 

《魔法》

【】

【】

 

《スキル》

 


 

「ボクはもう驚かないぞ」

 

 シャワーを浴び、ナインによる怪我の治療を済ませたベルは、豊穣の女主人の店主であるミアから投げ渡されたという大きな弁当の一つを空にし、ヘスティアによってベッドに寝かされた。

 

 一応寝る前に、とステイタスの更新をしている最中に眠ってしまったからだが。

 

「見る限り力押しでモンスターを狩ったんだろう。それだけ感情に()き動かされてたってことなんだろうけど、もしその(くせ)が残ってたら修正が必要だな」

 

「ほ、ほどほどにね?」

 

 ステイタスを写した用紙には書き記されていないが、彼女のスキル欄には既に【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】が発現している。その影響でアビリティの伸びは非常に速い。ヘスティアからしてみれば、これはもう成長ではなく、進化の域にある。

 

 対面に座るナインにも、本人には決して明かさないと決めている【女神の抱擁】(ブレス・オブ・ヘラ)という成長促進系のスキルが発現しているが、こと成長速度という1点に関して言えば【憧憬一途】(リアリス・フレーゼ)の方に軍配が上がるだろう。

 

 彼女の成長への補正にはナインの存在が決して欠かせない反面、ナインの【女神の抱擁】(スキル)には条件が存在しないのが原因だろうか、と考えるヘスティア。共有できない悩みがあるのはストレスだが、今の彼女は眷属(こども)を2人抱える主神(おや)なのだ。笑顔で隠し通すのみ。

 

 そしてベルが深い眠りに就いている間に相談しておこうと考えていたことがあり、それをナインへも共有する。

 

「なぁ、ナイン君。ベル君にも頼れる武器があれば、もっと強くなれると思うかい?」

 

「……一様に強い武器があれば全員が全員、強くなれると俺は言えない」

 

「……そっか」

 

 神に嘘は通じない。それがこの世界のルールであり絶対。それはこの世界で生きていればすぐに理解できることであるため、ナインは即座にYesと言えなかった。

 

「でも、ベルのことだ。誰かの思いの籠った武器なら、或いは……。

 確証は無いけどな」

 

「……。……そっか!」

 

 ウンウン悩んでいたヘスティアだったが、ナインの言葉を聞いて笑顔を浮かべて部屋の隅へと向かう。そこにはヘスティアの私物の山があった。

 

「片付けときなよって言った気がするんだけど」

 

「あ、あはは……」

 

 ヘスティアはこの地下室からナインが退去する前に言われたことを思い出し、自身のずぼらを刺されて言葉に詰まる。しかしその山を掘り返して手にしたものをナインへと見せた。

 

 それは何かの封だ。

 

神会(デナトゥス)はもう少し先だったっけ?」

 

「そうさ。これは神の宴の招待状。要はちょっとしたパーティーさ」

 

 この廃教会にヘスティアが住んでいることを知っている(もの)はそこそこいる。その内の1柱(ひとり)から送られたものらしい。

 

神々(ボク達)は悠久の時を過ごすだけあって刺激のあることも大抵経験済みで飽きてるんだよね。その所為か知らないけれど、こういった催しをよくするのさ。

 まぁ酷い時は1週間騒ぎっぱなしだったりするんだけどね……」

 

「なんともまぁ。というより天界から降りて来てる時点で仕事放り出してるようなモノじゃ────」

 

「お口にチャックだぜナイン君。神にだって突かれて痛いところはあるんだから」

 

 ナインの指摘に冷や汗を流しつつもツッコミを忘れないヘスティア。次はと動き出したところで、ナインへと振り返った。

 

「そうだ。ナイン君は槍をメインで使っているよね?」

 

「ん? まぁそうだな。昔から使ってるから慣れてるってのもあるんだが」

 

「そうなると……、槍?」

 

「正直あまり認めたくは無いけど、……剣の方がしっくりくるんだよな。両手持ちできる、直剣とか?」

 

「ふむふむ。……アレを持っていっても良いかい?」

 

「アレを?」

 

「ああ。キミが生まれてからずっと持っていたっていうアレを」

 

「そうだな。但し、しっかりした相手にやって貰いたいね」

 

「そこは安心してくれ。なんて言ったってボクの大が付くほどの神友(しんゆう)だからね。期待以上のものが出来上がるさ」

 

「そうか。それなら期待以上でもして待ってるよ」

 

 そう言って地下室の一角に不自然に置かれた木箱の中へと手を伸ばすヘスティア。この都市に来てからヘスティアと契約を交わし、この廃教会に住むこと1週間と少し。

 

 賃貸へと移ろうとした際に、渋るヘスティアの姿を見たナインが何かしらここに来る理由を探した果てに置いていったソレを、ヘスティアは自ら手放す決断をしたのだった。

 

「それにしてもボクの考えが分かってるみたいだ」

 

「さっきのベルとの会話と、武器の種類なんか言われたら流石に気付く奴いるだろ」

 

 きっとあの神に頼むのだろうと考えつつ、バックパックの中に両手で持った物を仕舞い込んだヘスティアを見ていると、廃教会の方から誰かの声がする。

 

 いや、ナインはもうそれが誰の声かなど知っている。しかし同時に面倒だという思いもあり、渋々ながらヘスティアを連れて地下室を出て地上部分へと出た。

 

 

 ────

 ──

 

 

 現在時刻は昼に差し掛かろうかという時間帯。酒精を体内から飛ばすには十分な時間が経っていた。

 

 廃教会の近くにあった廃屋で向かい合う男の人間(ヒューマン)と女神、そして金髪の小人族(パルゥム)の男性が1人。

 

 黒と金が向かい合う形となっていた。

 

「お初にお目にかかります。まずは自己紹介から。

 私の名前はフィン。フィン・ディムナと言います」

 

「あぁ、初めまして。ボクはヘスティアさ」

 

「改めて初めまして」

 

「先日のダンジョン、更には昨夜の酒場の一件について、謝罪の機会をいただき心よりの感謝を。神ヘスティア、ナインさん」

 

(あえて名乗らなかったけど、しっかり調べて来てやがんな? それともアイズあたりから聞いたからか……。腹の探り合いをすべきかせずに流すべきか困り所なんだよなぁ……)

 

 ナインとしては、ミノタウロスの件も酒場の件ももしかしたらの可能性であるが、ベルのまだステイタスへ浮上してきていない【幸運】が悪さしたかもしれないと考えている。

 

 あれはそれだけ強力な偶然を呼び寄せるシロモノだ。

 

 その可能性を排除し切れないからこそ、ベートにはあれだけで済ませたのだから。

 

 あの失態を火種とすればどれだけ【ロキ・ファミリア】の力を削げるか。この事実を知り、そして解決させたのが秩序側の派閥(ファミリア)でも要らぬ貸しが出来てしまうところだったのだ。

 

 これらを喧伝することなく、この場を設けてくれた事実に最大限配慮したフィンの態度に、「まぁ裏はあるんだろうけどな」と思いつつ、今回の2つの件についての話し合いは続く。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 同日の早朝。それよりも早い日の出るにはまだまだ早い時間帯から、オラリオを囲う都市の市壁の上には2人の影があった。

 

 既に時刻は6時と30分を過ぎ、地平線の彼方から顔を出した太陽が日光を放ち、両名を照らす。片方の人影は身じろぎすることなく直立不動。もう片方の影は面倒くさそうにしながら手で眩しそうに顔を覆う。

 

 時間にしてもうすぐ1時間は経っただろう。

 

 いい加減我慢の限界だと言いたげに2つの影の内、1つが動き出した。

 

「あのー朝っぱらから叩き起こされた挙句こんな場所まで連れてきて、結局何の用だったんですか?」

 

「む?」

 

 その両名の身長差は歴然で、片や平均的な身長の女性人間(ヒューマン)。一般的な女性よりもしっかり鍛えたりしている分、少々恵体なぐらいだろう。

 

 もう1人の身長は2メドルを優に超える長身の獣人。正確に言えば猪人(ボアズ)だ。その身長でありながらひょろ長いなど決して言えない筋肉質な肉体はただそこに立つだけで圧を感じるほどの強者だと思わせる。

 

 事実、この2人が揃った戦場に相対(あいたい)したいと願う者などそうはいない。片や『頂点』とさえ言われる戦士。片や『魔女』とさえ呼ばせる治療師。

 

 戦士がどれだけ傷付こうとも、即座に治療師が治し、戦士が暴れるのだ。味方に付きたい者は多々()れど、敵対したいと考えるのは無謀の域だ。

 

 彼らは【フレイヤ・ファミリア】に所属する【猛者】(おうじゃ)オッタルと、【女神の黄金】(ヴァナ・マルデル)ヘイズ・ベルベットである。

 

 どちらも都市の外にさえその名声を轟かせる存在であり、同時に(おそ)れられている存在でもあった。

 

 ではなぜそんな彼らが朝日もまだ顔を出さない時間から、市壁(こんな場所)にいたかと言えば、オッタルがまだ寝ていたヘイズの部屋を叩き、出てきた所へ「付いて来い」と一言だけ告げた後、何故か木で作られた大剣を担いでホームから出ていった所為である。

 

 ヘイズからしてみれば「1人で行け」という気分なのだが、ここでオッタルの口下手が災いした。

 

 彼は常日頃、口数が少なく、伝えるべきことの核だけを伝えるか、要らぬことを付け足してその場を()き乱すことが多々起こっているのだ。

 

 これがオッタルだけに不都合を齎すのであれば、まだ許せる。被害を拡大させて一般団員が被害を被ってもまだ、まだ許せる。挙句の果てに幹部陣の手を煩わせるような事態に発展してもまだ、一応、限界だが許せる。

 

 だが時折り自らの主神たるフレイヤへ関わるようなことでありながら、伝達ミスなどで自分たちの行動が遅れたりすることが過去何度もあった。

 

 (ひとえ)にフレイヤが持つ発作のような行動原理が原因なのだが、【フレイヤ・ファミリア】に所属する彼ら彼女らは皆が皆、「フレイヤ様のすることだから」とそういうものだと認識しているのだ。諦めているともいう。

 

 毎日大忙しなヘイズにとって就寝とは次の日に十全に働けるようにする為の行為なのだ。邪魔されれば、被害を被るのはヘイズだけではない。

 

 しかし主神第一主義者であるオッタルが自ら動き、何かをし始めたとなれば「もしかしたら」という言葉が脳裏を過ぎる。

 

 本当に渋々ながら、ヘイズは薄紅色の長髪を2つに結わえ、赤色の看護衣、白の上衣といういつもの格好に着替え、準備を済ませた彼女は暗い街中をオッタルの背を見つつ進み、ここ都市を囲う市壁の上までやって来たのだった。

 

 しかし待てど暮らせど一向に何の変化も起きない。こんな辺鄙な場所に来たのだから何かしらあるのではないかと内心に渦巻く疑問符が募る。市壁まで来たのだから「またフレイヤ様が脱走でもしたのか?」と勘繰るが、それであれば自らの場所に立つべきは幹部陣の誰か、若しくは全員。

 

 であれば何をしろと言うのか。そんな疑問をオッタルが相手だからという理由だけで1時間は我慢した。

 

 そしてもう我慢の限界だ。

 

「こんなところに私だけ連れて、まさか一緒に朝日を(おが)もうとか言いませんよね?」

 

「お前相手にそんなものは求めていない」

 

(……イッラァ!)

 

 言い方ってものを知らないのかと思いつつもまだ我慢だ。

 

「ではなぜこんな場所に?」

 

「お前には治療を頼む」

 

「どなたのですか? 怪我人などこんな場所にはいませんよ」

 

「俺の稽古相手だ」

 

「…………は?」

 

 ヘイズの脳内に宇宙猫が現れ、同じように口をポカーンと開いた。

 

 当然だろう。横に立つ男は都市最強。いや、世界でも有数のLv.7。神々も認めた正しく【猛者】(おうじゃ)

 

 そんな稽古相手となればいったい誰か。

 

(え? アレン様では無いでしょうし、ヘディン様がこんなことに付き合うはずもない。ヘグニ様……、は無理としてガリバー4兄弟のどなたか? いや、あの(かた)たちもあの(かた)たちでこの猪を嫌っているので無し。

 では他派閥の方? 可能性とすれば【ロキ・ファミリア】の誰かでしょうか?)

 

 自派閥(【フレイヤ・ファミリア】)の面々を考えても無理。幹部陣以下はそもそもオッタルへ立ち向かうにも『フレイヤ様の指示』があって初めてできること。

 

 では誰なのかという思考に決着が付かない。【ロキ・ファミリア】との仲は険悪であり、抗争が起きていないことが奇跡に近いレベルで半分以上敵対的。間に入っているギルドのおかげで決定的な事態に発展していないだけなのだから。

 

(では誰?」

 

「ん?」

 

(あっ、声に出てしまいました)

 

「確か……、Lv.1の男だ」

 

「はぁ!? ご自分のレベルも忘れたんですかこの脳筋猪男はぁ? 

 Lv.7のステイタスで攻撃したら文字通り()()微塵になって稽古のけの字も始まる前に終わりますから!! 脳みそまで筋肉になって、そんなことも考えれなくなりましたか!? バラバラになった死人の治療なんかできませんからね!!」

 

 まだ時間は朝方。どころか朝日が昇ってすぐな為、就寝中なものがいるにも拘らず大声が出てしまう。

 

(っていうか男って答えたということは名前も知らない他派閥じゃないですか! なに面倒事増やしてんですかねぇこの猪は!)

 

 派閥(ファミリア)の団長、副団長が揃って事務仕事をほっぽり投げている所為で、そういった作業に不服ながらも慣れてしまった白妖精(ホワイト・エルフ)がどれだけ(わり)を食っているのか。

 

 『洗礼』で使用される回復薬(ポーション)の類いに彼らが消費する食料の調達なども彼の仕事量を増やしている原因であり、そしてそれを手伝おうともしない幹部陣の所為で書類の(たば)が減らないのだ。

 

 そこへ「他派閥の人間、潰しちゃった。テヘ」、などという報告書を挙げるのか。非道が過ぎる。握り潰すにしたって根回しとか面倒事は発生するんだぞとヘイズが睨むも、隣の猪人(ボアズ)は涼しい顔。というかいつも通りの(いか)めしい顔。

 

 普通に腹が立ってきたヘイズ嬢。しかしこんな時こそ冷静にと自分へ言い聞かせる自制心こそ、彼女が治療師として名を馳せるほどの技量を得た理由の1つ。

 

 だが残念、錆色の猪人(ボアズ)はどこまでも実直な剣士。

 

 相手が隙を見せた(こういった)時に追撃をかけることだけは誰よりも得意としている。

 

「問題はない。あいつは俺との稽古で20分は持った。怪我の治療さえ()せれば、もっと持つだろう」

 

「……はぁ?」

 

 もう隠せなくなってきた。

 

 オッタルの言うことを繋いで解き明かしていけば、回復薬無しでLv.1の男がLv.7、それも力のステイタスを極限にまで伸ばしているオッタルを相手に20分間立ち続けたということになる。

 

 そんなものが野から生えてくるなと願うヘイズ。いや逆にこの猪を制御できるのならうちに欲しいとさえ思うヘイズ。

 

「魔法も使用していたようだがな」

 

「ああ、それで。それでも難しい気もしますがね。

 因みにどんな感じだったんですか?」

 

付与魔法(エンチャント)の類いだろう」

 

「……他にもあるのでは? それだけでオッタル様の攻撃を防ぎ切れるとは思えません」

 

「…………光っていた」

 

「なんですかそれ」

 

 光っていたとしか言いようがないので、それ以上言えない。胡乱気(うろんげ)な目を向けられたところでどうしようもない。

 

 しかしヘイズの中でそのLv.1に対する興味が湧いてきた。

 

 流石に手心を加えたのであろうが、それでもオッタルが『洗礼』に参加すればその手加減ありきで30分も掛からず、3桁に昇る参加者全員が地に沈む。そんな攻撃を市壁の上という回避先の制限がある場所で20分も、回復手段も無しに、果てには1対1で立ち続けたのだ。

 

 どうせならうちに欲しいな、という思いを持った。

 

 同時に残念だなと思うことがある。

 

「しかし時間にはいいかげん(ルーズ)なよう。信用は置けませんかねぇ」

 

「……ん?」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや……」

 

「まさかとは思いますが、約束をしていないとかはないですよね?」

 

「毎朝ここで他の者と鍛錬していた」

 

 ヘイズはキレた。それはもうキレた。

 

 一般痴呆猪人(ボアズ)を市壁の外へと蹴り飛ばし、ずんずんと帰る。

 

 厨房に「今日の肉料理は全部猪肉を使用するように」と書置きを残して、寝た。

 

 

 

 

 




 ヘラのバブみによってすくすく成長したこいつはいったい…。

 ポーションは便利な運び屋がいますよね。変態なので接触どころか見る事さえ叶いませんでしたが。

フィン「交渉の場を作ってもらったし、何を持って行くべきかな」(豊穣の女主人の裏庭でつくしのように生えているロキから目を逸らしながら)

ガレス「まぁ、ヴァリスはマストじゃろうて」(同じく)

リヴェリア「問題はあちらの求めているモノが不明という点か。下手なモノを渡すにはいかない。かと言って高すぎてもこちらの立場が危うい」(元から見てない)

フィン「さーて、情報収集も含めて徹夜だぞぉ!」

2人(空元気だな…)

アイズ(ナインさん? のこと話してる……?)


現在のナインの装備
・ヘラから貸与された白い穂先が印象的な槍(名はない)
・ギルドから支給されている剣(素振り以外だと特に使用されない。朝稽古中の木剣の方が使用回数多い)
・特注短刀(200万ヴァリスのオーダーメイド。冒険者を始めてからの貯金で買った)

・戦闘衣(そこまで高くないやつ3着を使い回している。ミノの1件で1着ダメにした)
・アーマー類(ミノとの1件で色々ガタが来たので、当日の帰りに知り合いの工房に投げている。請求書が賃貸に紙飛行機状で寄越されている。後日ヴァリスの詰まった袋を投げる予定)
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