高評価とか感想、ここすき、誤字報告感謝です。
少し前まで薄暗さの残る地下に潜っていただけあり、朝日が眩しい。バベルに背を向けながらそう思うは、灰色の頭髪を持った
大した用事もないが、その手に何も持つことなくダンジョンから出て来た彼はオラリオの街中をどこへ行くでもなく
彼が酒場でやらかしてから既にまる1日経っている。いい加減、自らのホームに戻るべきなのだが、帰る決心がつかない。そちらへ向けようとした足がいやに重くなり、何度か試したが結局は別の区画をフラフラと歩くだけ。何かがしたいという訳でもないのだが、心の中に突っ掛かるモノがあり、それが取れずにいた。
(……何してんだろうな、俺は)
鬱憤でも溜まったのかもしれない。そりゃそうだ。雑魚と
動こうとすれば動けた。なにせ痛みも無ければ
街中を練り歩く彼の鼻にとある匂いが入るまで、彼は足を止めなかった。
────
──
昨夜のどんちゃん騒ぎから数時間は経った。ゆっくりとオラリオを照らす日の光によって、習慣付いた動きを
自分の倒れていた店舗から歩き去る際、豊穣の女主人から店前の掃除と向かい側の片付けへ遣わされた従業員が「お前も手伝うニャー!」と言ってきたが、その言葉も右から左。彼の聴覚は正しく機能していたのだが、それを脳が認識してくれなかった。
困惑顔の従業員に背を向けたまま、何もわからないまま、足だけが勝手に動く。
碌に思考が纏まっていない内に辿り着いたのはこの街で随一の高さを持つバベルの塔。
もしかしたら解決するかもしれない、という思いと共にダンジョンへ潜り、上層、中層、下層とモンスターを蹴り殺していったが、結局気分は晴れないまま。
アイツと同じ雑魚を殺せばこの気分は晴れるだろうか? 晴れない。
アイツが倒した
アイツでも太刀打ちできない
感情が先に行き過ぎている。思考が追い付かない。体がギリギリ追い付けているだけ。
その所為で
そう思って水場へと向かう際中、脳裏に過ぎった記憶に自嘲する。
まるで、あの時の
なぜそんな光景を思い出したのか、思考が纏まらないこともあり、これに思考でも回そうかと軽く考えつつ、18階層の水場で沐浴していく。
ダンジョン内で湧き出る水はひんやりとしており気持ちいい。体が、そして頭も冷やされたことで脳の記憶から1つの情報が掬い上げられた。ここへ来る前。行く当てもなくただ歩いていた上層で鼻孔を擽った匂い。
つい先日嗅いだ匂いだった。
だがどうして? とそう思う。
そいつが昨日、自分たちが酒場へ行くギリギリの時間までダンジョンに潜っていたとしても、流石に匂いは残らない。ダンジョン内をうろつくモンスター。彼らを狩る冒険者たち。そして冒険者たちの残す匂いに、彼らが作る気流。
それらがただ空中に残る程度の匂いならば消し去るからだ。
ではなぜそれがあった? 答えは簡単だ。自分が入る少し前まで、そいつはそこに居たのだ。
自分が入ったのは日の出から
「ちげぇんだろうな……」
全身に水を滴らせながらその
昨日、自分を殴り飛ばした漆黒に黄金の瞳を持つ男。そいつは自分に講釈を垂れた後、ミアに賠償金に加え、
そして店の中で急に飛び出していった際にアルコール以外に匂ったモノが、その後輩のモノだったのだろう。
そいつの匂いがしていた理由が良く分かった。
自分が入る時間帯までずっと、ダンジョンで戦っていたのだろう。ミノタウロス相手にしょんべんちびって逃げ出すような奴が、だ。しかも7階層の時に地面に残っていた血からもした。
「……あぁ、クソ」
何となく自分の中にあるすべきことが、心の中に出来たつっかえを解消する
鼻を擽る良い匂いに釣られ、ベッドの中で布団にくるまっていた白髪の少女が目を覚ます。意識が浮上してきた彼女はゆっくりと体を起こし、いつも通り背伸びをした。
そしてふと気づく。「自分の体は結構傷だらけだったような」と。しかし寝る前に感じていた痛みは感じない。倦怠感もだ。むしろ快調と言えるだろう。
そのままベッドから飛び降り、主神であるヘスティアへ「おはようございます」と挨拶しようとしたが、見当たらない。ナインが居ないのは仕方の無いこと。昨日は自分を待っていただけなのだから。少しばかりしょんぼりとしてしまい、人差し指同士をちょんちょんと
しかし落ち込んでばかりもいられない。自分は強くなると宣言した。神さまに誓った。ならばここで下を向いてはいられない。
今日もダンジョンへと赴き強くなるべくモンスターを倒そう。そして稼ぎを増やすのだ。ナインの稼ぎに甘える訳にもいかないのだから。
そう思って朝食をどうしようかと室内を歩いていれば、テーブルの上に箱が2つ。下に挟まれた紙には「朝食」と「昼食」と書かれていた。
(神さまなのかな?)
ナインは基本的にこの廃教会へは顔を出さない。それはベルが【ヘスティア・ファミリア】へ加入してから数日顔を出さなかったことから理解している。それだけにもう姿が見えない自らの主神が作ってくれたのだろうと当たりを付けた。
嬉しいなぁという思いと共に朝食側の弁当箱を開けば、これでもかという種類のおかずに、極東で栽培されているとされる米という主食が下の段に詰められている。「にっ、二段弁当だとぉ!?」と驚きつつ、手拭いに覆われていたフォークを手に食事を開始した。
────
──
朝食の入っていた弁当箱を洗い終えたベルはダンジョンへ赴くべく、装備を身に付けていく。昨日のような着の身着のままの状態で潜るような真似はもうしない。それは悪戯に自分を傷付けるだけの行為であり、なによりも神さまやナインに心配させてしまう。
それで強くなったところで得られるモノは自尊心だけ。「そんなモノは僕は
なんとこのベル少女、2日連続でギルド支給の武器を損失したのだ。
しかも
言ってしまえば粗悪品の山。それでも駆け出し冒険者からすれば垂涎物。武器へ回さなければならなかったヴァリスを、防具や
最低限冒険者への配慮をしているということなのだろうかと思いつつ、「またエイナさんに怒られちゃう……」と考えながら、それでも借りなければ拳で戦う羽目になるため、ギルドで相談しようと決めて地下室から出る。
そのまま地上の廃教会へ出て来たベルを優しく迎える日の光。
背に抱えたバックパックの中には弁当箱が入っており、朝食のようにぎゅうぎゅう詰めにしてあるならば走っても問題無いだろうと考え走り出そうとした瞬間、声が掛かった。
先日、シルからされたような不特定多数へ試す類いのものではない。特定の個人、ベルへと向けられた言葉が。
「よぉ……」
なぜならその言葉は目の前から歩いてきた灰色の
その鋭い瞳孔はベルを捉えて離さない。
己よりも圧倒的なまでの強者。まるでこちらの隙を窺うようなその視線からはモンスターたちとはまた別種の恐怖を覚える。
そうこうしている内に、
「────強くなりてぇか」
「────ッ!」
唐突に彼の口から放たれた言葉。まるで電流が流れたように体が、精神が震える。
一瞬の瞠目。しかしベルの心は既に決まっていた。
「強く……、なりたいです…………!」
「……付いて来い」
ベルの視線、表情、返答。それを聞いたベートはベルには分からないほど小さく口角を上げ、背を向けた。
それは合格を知らせる合図だったのか。それとも失格だから消そうとしているのか。ベル・クラネルには分からない。しかし彼女の足は動き始めていた。先を行く灰色の狼へと続き、朝焼けに焼かれ始めた都市の中を進んで行く。
途中、道に沿った場所に建てられた『青の薬舗』という店のドアに掛けられた板が、
そのままその店の中へ歩いていき3分、人1人は余裕で入りそうなほどに大きい樽を担いで出て来たベートにベルはぎょっとした。
やっぱり今から詰められるのだろうか、と心がプルプルと震える。
しかし「付いて来い」と再度言われれば足も動く。歩みを止めないベートの後を追った先は、バベルだった。
ベートは自分がまるでサポーターのような事をしていることにさえ気に掛けず、そのままダンジョンへ続く回廊を
周囲から
「……でも」、と少しだけ声に出してベルは進む。「もう逃げたくはないから」。その誓いに
────何より、あの人の行く末が、独りぼっちであってはならないから。
その先に何があるのかなど知らない。でも1人で進んだ先に何も無かったなど寂しいではないか。
祖父の居なくなってしまった家に住むこと数日。いつもの間取りが、いやに広い。それが酷く寂しくて、泣いてしまったから。「自分の感じた
ベルが身を屈めた瞬間、その直上を勢いよく斬り裂かれたような音が横断する。その音で体が硬直するが、そんな暇などないとばかりにダンジョンの壁から放たれた光を遮る影が、ベルの体に重なった。
全力で横に転がったベルの耳には地面が砕かれる音が木霊する。だが、転がる選択肢は不正解だったとばかりに、顔を上げた少女の横っ腹へ蹴りが炸裂した。
「ガッ……!?」
そのまま地面を転がるベル。一転、二転としたところで何とか足を地面に付き、無理矢理排出させられた空気を肺に取り込むべく口を開いた。
そんな一杯一杯なベルの耳へ怒号のような声が掛かる。
「何度言ったら分かりやがるっ! 次手の組み立てもせず相手の間合いに
「ずい、まぜん……。
すぅっ。……つぎッ!! お願いしますっっ!!!」
ベートからの叱責に応え、肺の中に空気を取り込む時間までくれたことに感謝しつつ、震える足を叱咤し地面を蹴った。
────
──
ベートは樽を抱えたままダンジョンの中へ入り、そのまま5階層まで降りる。ここから先は
その内の4階層から6階層までの
彼は後ろに付いてきたベルの方へと振り返り、言い放つ。
「これから俺とお前で模擬戦を繰り返す」
「……えっ?」
ベートの口から放たれた言葉に硬直するベル。
それはそうだろう。彼女のレベルは1。対してベートのレベルは5。挙句の果てにはそれぞれの階梯で行なった戦闘経験の数から、基本アビリティにも大幅な開きがある。下手をすれば死ぬ。いや、下手をしなくとも死ねる相手なのだから。
「安心しろ。勿論手加減はする」
その言葉にベルは違和感を覚える。違和感の方向は、自分自身へ向いていた。安心したくない、なんて違和感、普通じゃないからだ。
「まぁ、そこそこの実力で終わるだろうがな」
「────ッ!?」
あぁそうか。その言葉と共に、納得が自分の胸中を、思考を、そして覚悟を確かなものへと変えた。
「……本気で、お願いします。
────ぐっ……!?」
次の瞬間、ベルの腹部にはベートの蹴り脚が突き刺さっており、そのまま後方へ飛ばす。
地面をゴム
その様子を見たベートはナインに殴り飛ばされてからずっと浮かべていた、どこか魂さえ抜けたような表情から、徐々に獰猛な獣のような笑みへと変えていく。
「テメェの覚悟が本物ならっ、死なねぇさっ! この雑魚がぁっ!!」
「僕は……、僕はベル・クラネルだぁっ!!」
吼える両名。一気に距離を詰めていくベルを快く迎えるベートは、その瞳に対して真摯に向き合った。
────
──
発走したベルをベートは何度も返り討ちにし続ける。
時には腹を蹴り上げ、時には殴り飛ばし、偶に上手くガード出来ると思ったものはただのフェイントで即座に次手を喰らって吹き飛ばされた。
それでも諦めずに喰い付く。拳を振るえば甘いと弾かれ、蹴ろうとすれば注意散漫なもう片方の足を払われる。先日教えられたのはどこまでいっても武器を持つ前提の足運びだった。しかし武器が壊れる、飛ばされると戦えませんでは話にならない。
何度も地面に転がされ、立てないほどに負傷が溜まった瞬間、樽の中から
そして傷が埋まったら再び闘争が始まる。
手心を加えられていることぐらい、ベルも分かっているだけあり、その上で自分の限界を探り終えた
そのままであってはならないと、スタートの遅い自分に立ち止まる時間などないのだと叱咤するように、ベルは自らを地獄のような修練へと叩き込んだ。
その日、ベルの体からは
強くなりたい。その思いを胸に抱く少女の瞳は、ベートが終了を宣告するまで決して熱を絶やさなかった。
明日も同じ時間にここへ来いと言われたベルは、去っていくベートの後ろ姿を眺め続ける。疲労困憊の今の自分では地上へ出るだけで一苦労だろう、と。
(なんであの人は、僕に鍛錬をつけてくれるんだろう……)
彼女の脳はひりひりと痛む全身の訴えを聞きつつも、その問いの答えを同時並行で探してくれる。そして「分からない」という答えだけを返してくれた。
十数分後、最低限走れる程度には回復したベルはこの階層のモンスターを幾らか倒して魔石を拾いつつ、地上へと戻る。
ギルドで換金中、ベルの近くにナインの姿が無いことで「あれほど言ったのに……」と、新米であるベルをまた1人でダンジョンへ行かせたであろうナインは今どこにいるのかと聞くべく現れたエイナ。彼女に衣服では隠し切れない場所にまでくっきりと残った青痣を見られ、建物を揺らす程の絶叫を挙げられたのは、また別のお話。
酒場の件の翌日、その昼下がり。謝罪、及び交渉を終えたフィンは再度頭を下げてから廃教会を後にした。
路地を抜けた先には近くまで付いて来てもらったアイズとラウルの2人。
「ありがとう。2人とも」
「お、終わったんすね……」
「……」
周囲から邪魔者や聞き耳立てるような輩を追い払うべく連れて来た2人。別の人物でも良い選出だが、ラウルは今後の為とフィンが、後は消去法でアイズとなった。
リヴェリアはフィンが抜けている間の事務仕事を、ガレスは
そしてベートは、あれから
色々な理由が重なり、フィンが交渉の席に着いている間に周囲の見回りを頼んだ2人だが、ラウルとしては気が気ではなかった。相手はあのベート・ローガへ啖呵を切った挙句殴り飛ばす程の存在。自分たちは彼との戦闘訓練すら臆してしまって、前へ出られずいつも舌打ちをされている。
しかしLv.1だという先方の団長は「蹴り飛ばされたから」、という理由付けを敢えて宣言してから殴り飛ばしたのだ。それは言ってしまえば、「これで精算だ」という意味となる。
そんなわけが無いだろう。Lv.1の一撃がLv.5の一撃に釣り合うはずがないのだから。
しかしナインは視点を変え、「1回は1回だから」として終わりにしたのだ。自分が同じ立場に立ったとしたら、それで納得など決してできない。しかしベートへ殴り掛かる気概も無い。どうしようもない奴だ、とラウルは心の底で思う。
そんなラウルを余所に、アイズはナインの居る方向へと視線を向けていた。
会いたい。会って話がしたい。話して、彼の覚悟が何から生まれているのかを知りたい。
もしそれが、自分の求めるモノになっていたら……、そんな希望が僅かに瞳に宿っていたからだろう。彼女へフィンは釘を刺す。
「分かってると思うけれど、あちらさんとはしばらく接触は控えるように」
「……うっ」
「別段、
でも、それをこちらから積極的に行なうのは無しだ。少なくとも、今回の熱が冷めやらぬ内はね」
そう言ってうずうずとしていたアイズを止めるフィン。そして「あんな人に会いに行く気だったの!?」と愕然とするラウルを連れて帰路へ就くフィン達。
その道中、フィンは思う。
(それにしても、交渉の場へ神を同行させないという
フィンが今回、自分たちの
少し微妙な顔になる程度で済んでいたのだ。
しかしさすがに酒場での一件は見過ごせない。というよりも一件というか二件だ。
ベルへの冒涜と、ナインへの暴行。どちらも死んでもおかしくなかったことに、ヘスティアのツインテールは鬼の角のように逆立ったのがとても印象的だったとフィンは思い出す。
(こちらから借りを作ろうとして、失敗したという形。……いや、貸しを作られたね、これは。
こちらはマイナスの清算が出来た。そして向こうは本来得られなかったはずのプラスを手にした……)
話の大筋は変わらない。終着点もだ。しかし経緯と終了後のあれこれを誘導された。フィンの推察は正しい。
(全く、有能すぎる新人冒険者なんて! 年甲斐もなく気分が高揚しちゃったな!)
ラウルの困惑顔も、アイズの内心を掴ませない無表情も、今の楽しそうな雰囲気を放つフィンには些事たること。まさか自分の得意な場所で一手先を打たれたのだ。それも冒険者になって1ヶ月という新米に。
(これはうかうかしてられない、かな?)
帰ったらさっさと事後処理を済ませてしまおう。その考えと共に、フィンは少しだけ早く歩いて
彼のどこか楽し
────
──
フィンのいなくなった交渉の場。いつまでも廃屋の中にいる必要も無いだろう、それに眠るベルを1人にもしておけないという理由により廃教会の敷地へと戻ったナインとヘスティア。
ナインとしては交渉で相手に今回の件とは別の貸しを認識させたとして安堵を覚えたのだが、ヘスティアという神は子供を第一とする神格を持つ。ゆえに自らの眷属を危機に晒した挙句、それを
この時点で憤慨ものなのだが、ここでヘスティアの耳に信じられない話が入って来る。
ナインが第一級冒険者から感情任せの暴行を振るわれたという事実。
怒りが一周回って酷く冷静になった彼女から発される人知を超えた圧は、【ロキ・ファミリア】の団長を務めて数十年のフィンの全身を震わせるもの。
下手をすれば、いや、下手をしなくとも格下の人間は今後何かしらの後遺症を抱えて生きていく必要が生じるものだった。その起因となった事柄がダンジョンの罠やモンスターからの攻撃などであれば、納得は別として理解は出来ただろう。ダンジョンで名を挙げるということは、それら危険な出来事を曲がりなりにも了承しているのと同義なのだから。
しかし地上で、そして冒険者同士の諍いで起こったとなれば話は違う。防げた事態であり、同時に防がなかった上に立つ者の失態でしかない。
そして加害者が冒険者であるならば、必ず居るのだ。その上に立つ者が。主神という存在が。
団長であるフィンが来たこと、彼が交渉材料ではない手土産を用意したのもこちらへの多大な配慮を持っての行動だと認めよう。
しかし納得はいかない。彼らの、いや、件のベート・ローガの
焔に煽られたかのように乾く喉を何とか動かすフィン。彼の口から出る言葉は確かに正しさを持っているだろう。明確な法の敷かれていないオラリオに於いて、派閥同士での納得が優先される場での言葉としては正しいのだから。
数分ほどして、フィンの口からある程度の情報を齎されただろうと判断したナインはそこで会話の流れを
ヘスティアも被害者であるナインがベートへ拳を叩き込み、それで充分気は晴れていると言えば、流石に止まる。
ナインにより一定の納得を示したヘスティアはその後の交渉の流れをナインへと託し、自らはその流れを見守った。
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「それはそれとして腹が立つのは変わらないけどねぇぇぇぇええ!!」
「あー封筒が破れて空に散っていく」
むしゃくしゃとしたヘスティアは「あんな奴が来るかもしれない場所になんか行けるかぁ!」とばかりに『神の宴』の招待券をびりびりと引き裂いていき、「うがーっ!」と空に吼える。
(ベルのいる地下に戻らなくて正解だったな)
もし今のむかっ
そしてヘスティアのヘスティアも当然暴れることとなるので、精神ダメージも加算されて低確率だがそのままロキは送還されるかもしれない。
そんなヘスティアを見つつ、ナインはフィンから渡された手土産の内容を確認していく。一応渡されたメモ用紙に中に詰まった物品について書かれているが、一応だ。
「エリクサー10本。サラマンダーウールにウンディーネクロスの素体。
中層域の地図まである。……というかこれ前にエイナさんから見せてもらったのより詳細なやつじゃん。【ロキ・ファミリア】内で収集した謹製だな。今後上手く使わせて貰うとしよう」
ひとまず寝ているベルの口に少しずつエリクサーを飲ませておこうと決めたナインと、今だ怒り心頭なヘスティアは各々行動を開始した。
「ナイン君ッ! ボクはこのままヘファイストスのところに行ってくるよ!!」
「いや、隠すなら隠し通しましょうよ」
「ベル君のことは任せたよっ!!
見てろよ、ロキィィィ……、ここから逆転して「ごめんなさい、靴舐めさせてくださいぃ」って言わせてやるからなぁ!!」
「なかなかに言わなそうなセリフだ。
食事はしっかりとれよー!」
凄まじい勢いで走り去っていくヘスティア。
彼女があまり気の乗らない神の宴に参加するつもりだったのは、オラリオで高名な彼女の神友がいる場所を知らないが故だ。高名であるがゆえにとても忙しい彼女の主な仕事場は、バベル内部に造られた専用の工房。
しかし
彼女の
フィンからはそんな彼女の現在の状況を世間話風に聞き出したことで、今は丁度バベルにて
善は急げとばかりに、ヘスティアは廃教会を飛び出していったのだった。
「…………俺のまで打つとなると、時間は単純に2倍。
間に合わないことはない……、か? ……いや、ひとまずフィンから貰えるもん貰った後にでも再考すればいいか」
今後起き得ることを予測しつつ、ナインはひとまず綿を取り出してベルの下へと向かった。
眠る彼女の口元へ少しずつエリクサーを染み込ませた綿を持って行き、ゆっくり飲ませていく。じきに彼女の全身に走っていた切り傷や痛々しい打撲痕もその姿を消していった。
それを見届けたナインは残ったエリクサーの瓶を見る。ベルに使用した分でおよそ半分強。残しておくものでも無いだろうとして飲めば、僅かに感じていた倦怠感も消えていく。
────
──
色々と所用を終えた後、時刻がまだ豊穣の女主人の本営業時間前であることを確認したナインは、昨夜のお礼を言う為に弁当箱や風呂敷を持って廃教会を出る。
そこでは粗方の処理を済ませたのであろう店舗跡と、関係者の1人でありながら今更のこのこと姿を現したナインを見て毛を逆立てる
弁当箱などを返却した後はそのまま自分の家に寄ってから廃教会へ戻ろうと思っていたナイン。しかし彼女らに囲まれては抵抗など出来ない。目くらましにピカッと光らせて逃走でもしようものなら、彼女らの後ろで満面の笑みをしているミアにどうされるのか分かったものではないからだ。
そのまま彼女らの案内の
目の前ではこれでもかと蒸気が放たれている。鉄板との間に油を跳ねさせるそれは、およそ一食分であってはならない肉の塊。
右を見れば笑顔の町娘。
左を見れば笑顔の
対面に座るは、視線が合った瞬間からゆっくりと笑みを作った
華やかな店員たちの笑顔に囲まれているにも拘らず引き攣る頬と、カウンターの向こうでサムズアップを返す店主。
「……………………
────いただきますッッッ!!!!」
かくして数えが1つ増えたのでした。
聖火再臨並みに座った目のヘスティア相手とか、かわいそ。
50ポンド=約22キロ。
・最初の完食者は顔に傷のある男(ことが起こる前)
・次に一般通過