自殺志願者と危険だらけの都市   作:音眼紫玖

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主人公の自認とミアレの皆さんから見た印象がかけ離れてるすれ違いものにしていきたい


『プリズムタワーを望む街』編
プロローグ ミアレを訪れた少女


 オフショルダーのTシャツに、デニムのワイドパンツ。

 持ち物は片手で持てる旅行カバンひとつだけ。

 いつも通りのスタイルで、ミアレ行きの列車に乗車した。

 

 ……いつからこんな放浪を続けていたんだっけ。こんなわたしに居場所などないように感じて、死ぬのにちょうどいい場所を探し始めたのはいつだったかな。

 流れる景色をぼんやり見つめて考えるのに飽きて、目を閉じる。

 

『……当列車はまもなくミアレ駅に到着します』

 

 ──次に目を開けたときにはもう目的地直前まで来てしまっていた。疲労が溜まっていたのか?全く寝た気がしない。

 時間を無駄にしたような気持ちを覚えながら降りる準備をした。

 

 ホームに降りると、人と……ポケモンの姿が多く、賑わいを見せていた。流石ポケモンと人が共生する街、ミアレシティだ。

 わたしはポケモントレーナーでもなんでもない旅人だけど、ポケモンのことは全く嫌いではないし、ホームにいるポケモン達のようにわくわくと楽しそうにしている姿は可愛いと思う。

 

 改札を出て出口から街に出た。

 街中では通常見られない野生ポケモン、最先端じみたホログラム……ネットで見たミアレシティそのものの景色が広がっている。

 

 しげしげと街並みを眺めていると、現地人らしき金髪の男性に声をかけられた。

 金にピンクのグラデーションがかかった髪に青い瞳で、身長と年齢はわたしとそれほど変わらない?

 

「ミアレ駅についたばかりだろ?しかもそのでっかい旅行カバン……ずばり観光客!」

 

 ──正解だけど……。

 それがどうした。

 

「ちょっと協力してくれよ!オレのカメラに向かって『ミアレに来たらホテルZ!』って言うだけ!」

 

 有無を言わさぬ勢いでカメラを起動したスマホロトムを向けられた。

 と思ったら背後の街頭ビジョンがCMに切り替わって「音が入るから撮影できねえな」と中断された。助かった。

 

「撮影の邪魔されたけど、あの社長いいこと言ってるよな」

 

 ──そうかもね。

 結局撮影は継続する流れになった。……あれ、旅行カバンがない。辺りを見回せばそこにはわたしの旅行鞄を持ったポケモンがいた。

 

「もしかして……旅行カバンをとられた!?」

 

 わたしの旅行カバンを持ったポケモンは走って逃げ出そうとしていた。わたしたちはカバンを取り返すためにポケモンを追うことにした。

 

 

 

 

 

 カバン泥棒のポケモンは路地裏にいるポケモントレーナーのところへ向かっていった。あのトレーナーのポケモンなんだ。

 

「観光客さん、オマエの名前は?」

 

 死ににきたのに知らない人に正体を明かすのもな……と思い、頭に浮かんだ名前をそのまま口にした。

 

「……クワ」

 

「クワね。オレはガイ。よろしくな!」

 

 ──いつまで仲良くしていられるかな。

 そんな失礼な思いが頭を過ぎって、顔を伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 それからの記憶があまりない……。

 チコリータというポケモンをガイから譲り受けて、わたしはポケモントレーナーとなった。

 人生で初めてのポケモンバトルを行った。初めてなのに経験者に勝った。この街では夜になるとバトルゾーンという区域が発生することを教えてもらった。ガイの誘導のもとガイの働くホテルに避難させてもらった。オーナーのAZさんに挨拶をして、ポケモントレーナーとしての心構えを教えてもらった。チコリータのことを決して裏切らないように、って。

 

 案内された202号室のベッドに腰をかけて、今日の出来事を振り返っていた。これまでの放浪では人を避けてきて、寝るところも基本的に路地裏か廃墟だったから久しぶりの暖かい室内とベッドに居心地の悪さすら覚えてしまう。

 

 コンコンとノックをされた。

 

「休めと言ったばかりで悪いが、ちょっといいか?」

 

 声の主はガイ。対応しよう。

 

「お客さま。当ホテル自慢のビュースポットをご案内します」

 

 仕事モードの口調で丁寧にお辞儀まで添えたガイの姿は正にホテルマンといった様相。

 

「……というわけで、屋上に行こうぜ」

 

 屋上、か。

“うっかり”落ちちゃったら大変だね──なんて、口にするわけにはいかないな。

 

 

 

 

 

 屋上にはきちんと手摺があるけれど、ソファーから越えられそうな気がしなくもない──。

 

「ようこそ、ミアレシティへ」

 

 不埒な考えをふきとばすような明るい歓迎の台詞を聞き、ソファーに向けていた視線をガイの瞳に戻す。

 ガイは真剣な面持ちになって話を続けていく。

 いろいろあるけど、ミアレの街が好きだと。それで、AZさんに恩があって、恩返ししたいと。

 

「オマエも力を貸してくれないか?」

 

 宿を決めずに旅してたわたしに宿を貸してくれた恩がある。わたしは首を縦に振った。ガイは「サンキューな!」と拳を突き出してきた。

 わたしも拳を返して微笑んだ。……こうして人と笑い合うのは何年振りだろう。

 

 

 

 

 

 

 ────

 ひとをしんじるな

 おまえだけしあわせになるな

 しんでしまえ

 ────

 

 

 

 

 

 

 

 ──自室に戻ったガイは、クワについて考えを巡らせていた。

 

 初心者なのにあそこまでポケモンの扱いが上手な人間は今までに見たことがなかった。絶対にエムゼット団に引き込みたい。明日しっかり勧誘しよう!と意気込みを入れた。

 ただ、ミアレ駅から出てきたときと屋上で景色を眺めていたときの彼女の虚ろな視線が脳裏から離れない。それに、初めてのポケモンバトルのとき、最初の虚ろな顔とは打って変わってゾッとするほどイキイキとした表情を浮かべていた。あれは一体──?

 ああ、彼女の“あやしい”部分が気になって気になって仕方がない。

 ガイは頭を掻きながらベッドに入り、一旦考えるのをやめて明日に備えて眠ることにした。

 

 これからいくらでも話を聞くチャンスはある。

 だってもうクワはエムゼット団のメンバーなんだから────。

 

 

 

 




12/5 主人公の名前を変更いたしました。
「クワ」……植物の桑。花言葉は「共に死のう」
髪色は桑の実のイメージでダークブルー。
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