とある星界の艦隊訓練   作:ケンタ〜

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度重なる修理、そしてピンチ

 全長三〇〇メートル以上、全幅五〇メートルを超える帝国最新式の突撃艦(ゲール)、〈ギュクロール〉。

 

 『雪の海鳥』の名を冠するその艦は、その名の通り、全身は鮮烈な白で塗装され、外観は四つの翼を後方へと広げた海鳥のような形状をしている。

 

 その特徴的な四つの形状が、この新造突撃艦の革新的な部分、つまり、核融合弾投射装置、だった。

 

 艦の外観とほとんど同じ長さを持つそれは、機関(セー)で生み出された反物質(ベーシュ)による膨大な電力を三割も消費して、数トン近くある核融合弾(スピュート)を、光速の数パーセントにまで加速して撃ち出す。

 

 今まで帝国の持つどの突撃艦(ゲール)にもなかった、最強と謳われる新搭載兵器の一つだった。

 

 今まで内部構造的に突撃艦(ゲール)に内蔵することは難しいと言われていた投射装置。その火力的弱点を外付けにすることで実現したこの兵器は、未来の帝国の戦争を変えるとも言われる革新的な構造そのものだった。

 

「整備点検がクソほど難しくなければね」

 

 その突撃艦(ゲール)の四つある翼、つまり投射装置の一つ、そこに船外活動着(ゴネー)を着た一人のアーヴが浮かんでいた。

 

「ちょ、ちょっとギル、そんなこと言っちゃダメだよ」

 

 そんな彼女の悪態に、直ぐ側に浮かんでいたレンはおどおどしながらたしなめた。

 

「これは、造兵科(ロウボーニュ)の人たちが頑張って作った兵器なんだよ。そんなこと言っちゃ、失礼だよ」

 

 そんなレンたちの周りには、ぷかぷかと二人分の命綱が浮かんでいた。

 

 目の前に来たそれを、ギルと呼ばれたアーヴは手ではねのけると、彼女の持ち前の悪い目つきでレンを見つめた。

 

「一回の実験投射でぶっ壊れてたらワケないわ! それに外部装置だから直すのに船外まで出てこないといけないし! 実戦になったら壊れてもどうしようもなんないぞ!」

「そっ、それを確かめるための完熟航行でしょっ! それに、うまくいったらこの艦は私たちの仕事場になるんだよ! しっかり付き合っていかないと……!」

「ああもう、そっちは監督職(ビュヌケーラジュ)全部楽しんでるからいいけどさぁ! こちとら元々電気系統の管理だっての! 先任監督補(アルム・ロイビュヌケール)は何してんのよ!?」

「きゅ、休憩中だって、さっき言ったじゃんっ」

「ああそうだったっ!」

 

 そう言いながらも、ギルは自らの右手にした溶接棒で、目の前の構造体の一つを溶接しているところだった。

 

「くそっ、レン、もう一個溶接棒持ってきて! もうダメになった!」

「え、もう……!?」

 

 演習開始より、六時間三十分。

 

 そして、二時間前に行った兵器全般の動作試験により、〈ギュクロール〉の第三電磁投射砲(イルギューフ)、その加速器部分が動作不全を起こす。

 

 現在、レンとギル、その他監督補(ロイビュヌケール)と、以下数名の従士(サーシュ)総出によって、その部分の修理が試みられていた。

 

「はあっ、この部分の電気系統は修理終わり……あとは?」

 

 と、部分溶接を終えたギルは、顔を上げてレンにたずねた。

 

 それを受け、自らのクリューノ(端末腕環)を操作して、そこに表示されているものをレンは確認する。

 

「えっと……あ、ここで最後みたい。他も、ちょうどさっき終わったって」

「はあ……よかった……疲れたぁぁ……」

 

 そう大きくため息をついて、ギルは船外作業服の中で、大きく伸びをした。

 それを見て、レンは説明をする。

 

「やっぱり、故障の原因は高圧の電力による電気系統の焼き切れみたいだね。建造時点で電力配線系統に不備があったのかも。慣熟航行で気づけてよかったね」

「んあぁ……じゃあ、戻ろうぜ。ずっと数時間作業しっぱなしだから疲れたよ……ふぁ……そろそろ休憩も取らないと……」

「うん、じゃあ戻ろうか」

 

 そう言って、レンは自らの与圧兜(サプート)の横を指で操作して、そこにある通信機を立ち上げた。

 

「みんな、第三電磁投射砲(イルギューフ)修理作業完了。あとは簡単に電力を通して試験してみて、それからもう一回、本格的な動作試験をしてみよう」

「「「了解」」」

 

 それが終わってから、レンはギルに向き直った。

 

「じゃあ、いったん戻るよ、ギル」

「はあ……先が思いやられる……」

 

 そう言いながら、二人は命綱を外し、とん、と電磁投射装置を蹴った。

 

 飛び出る、二人の体。何の制限もなく、その体は真空空間へと踊り出る。

 

 数秒対空していると、体はどんどんと構造体から離れていく。無限の真空空間では、艦そのものが生み出す重力では、二人の体を押しとどめるには脆弱すぎるのだ。

 

 二人は帯から銃のような物を取り出す。そして、それを自らが飛んだ方向とは逆方向へと向けた。

 

 引き金を引くと、バシュッ、という振動とともに、推進剤が発射される。

 それによって、二人の体はぴたりと止まった。

 

 それから今度は、艦本体とは逆側に、推進剤を撃つ。

 ちょうどいい加速度のままに、二人の体はゆったりと、そちらの方へと飛んで行った。

 

 無重力空間に生まれ、無重力空間に生きるアーヴだからこその芸当。

 

 直感的に無重力化での軌道を計算できるその芸当で、二人の体は、そのまま船体の艦外出入口の近くへと着地した。

 

「ふぅーっ、これでようやく、休憩っと」

 

 気閘室(ヤドベール)の中に入った二人、それからぷしゅっと空気が注入される。

 そして艦内への扉が開くと、ギルは与圧兜(サプート)を脱いで、ふるふると閉じ込められていた髪を解いた。

 

 その時、ピーッと音がする。

 

 それは、レンの腕にはめてあるクリューノ(端末腕環)からだった。

 

 それを、レンはギルの後ろで確認する。

 

 その中に表示されていたものを見て、彼女の顔は青ざめた。

 

「ぎっ、ギルっ」

「んぁ? なんだお」

 

 いやそうな顔をしながら、ぶっきらぼうに問いかけるギル。

 

 それに、レンは何とも残酷な事実を告げた。

 

「お、オプセー(主機関)が、故障したって……」

「はっ……???」

 

 目を見開いて、絶望に表情を染めるギル。

 

 艦の主機関、その生命線。その停止とは、つまり。

 

 ギルの休憩は、もう六時間向こうの話となったのだった。

 

 

 

×

 

 

 

「……あの、あと何時間ぐらいかかりますか、艦長(サレール)

 

 ケンの小さな絶望の声が広がった。

 

「……五時間、三十六分の、遅刻、です」

 

 そして、艦長(サレール)の絶望的な声も。

 

 突撃艦(ゲール)〈ギュクロール〉。機関部(セー)過負荷による動作不良、および第三電磁投射砲(イルギューフ)の修理、そしてその再試験によって、軌道修正および進路調整の機を三度逃し。

 

 そのため、〈門〉既定到着時間まで、五時間と三十六分の遅刻を喫す。

 

「……と、教官艦(メーニュ・ベセーガル)には打電しておきます」

「よろしくお願いします……」

 

 先任通信士(アルム・ドロキア)のシーナの淡々とした声に、ラムローラはしょぼんとした顔で艦長席(サレリバシュ)に横たわっていた。

 

「すみません、私が、機関部の点検を先にやらなかったせいで……」

 

 監督(ビュヌケール)のレンの声が、艦橋に申し訳なさそうに響いた。

 

 それに対して、ラムローラは慌てて身を起こし、手をばたばたさせる。

 

「いやっ、そんなことないよ! だってこの艦があんなに電気系統に負荷をかけるものだって思わなかったし。しかも新設艦だからさ。誰も悪くないよ」

「でも、どうする?」

 

 そこに、ケンが口をはさんだ。

 

「このままじゃ〈門〉の通過に間に合わないよ。いくら慣熟航行に時間を取っているといっても、五時間の遅刻は……」

「うーん、初めてのファーズの旅が、一人旅になるなんてなぁ……大丈夫かしら」

 

 はあ、とラムローラはため息をつく。

 

「まあ、さすがに教官艦(メーニュ・ベセーガル)が一機ついてくるだろうけど」

「え? あれ?」

 

 その時、艦橋(ガホール)に小さなどよめきが広がった。

 

 全員の視線が、そこへと向く。

 

 それは、操作卓に向く、先任通信士(アルム・ドロキア)の声。

 

「どうしたの、シーナ?」

 

 それに、きょとんとしたラムローラの声が尋ねた。

 

 対して、シーナの声が呻くように答える。

 

「あの……教官艦(ベセーガル)識別信号(デファス)が、見つかりません」

「「「えっ?」」」

 

 全ての翔士(ロダイル)の声が、その瞬間に重なった。

 

 とっさに、艦長(サレール)は口を出す。

 

「どっ、どういうこと? 識別信号(デファス)、ずっと出してるはずだよね」

「は、はい、そのはずです。おかしい。門の方から、来ているはずなんですけど」

 

 焦る艦長の声に、食い気味に重なるシーナの声。

 

 そこに、スロージュの声が重なった。

 

「どういうことだ!? いきなり姿を消したという事か!? それも、すべての教官艦が……!?」

「あるいは、もう門に入ってしまったのかも」

「はあっ……!?」

 

 スロージュの悲鳴に近い声が響く。

 

「まだ集合時間までは、少なくとも三時間あるはずだぞ……!?」

「いったい、何が……?」

 

 ケンは、呟くようにそれを口にした。

 

 そしてすぐさま、シーナへと向けて指示を飛ばす。

 

先任通信士(カーサリア・ドロキア)。向こうに打電をしてみて、それで反応を待ってみて。もしかしたら、識別信号が来ていないだけかもしれないから」

「は、はい。わかりました」

 

 ケンの指示で、シーナは素早く操作卓に指を走らせ始める。

 

「それから監督、この艦の感知器系に異常がないか確認してみて。もしかしたら普通に受信機が悪くなっているだけかもしれない」

「わっ、わかりました」

 

 それから、数分。

 

 シーナが焦ったような顔で、レンが不安に満ちた表情でみんなを振り返った。

 

「ダメです。帰ってきません。向こうとの時差五秒で、打電三回行いましたが」

「こっ、こちらも、ダメです。いや、よかったんですけど。受信機も、感知器系もちゃんと動いていました」

「そうか……」

 

 ケンはぎりっと歯を食いしばる。

 

「直接的な光学観測はどうだ? シーナ」

「やってみる……」

 

 それから、また数瞬。

 

 艦の感知器系が総動員で〈門〉のあるべき位置を向いて、そして全力で目を凝らし始める。

 

 そして、得た情報収集の結果を目にし。

 

 かくして、シーナは振り返った。

 

「ダメ、です。門、観測できましたが……艦、見つかりませんでした。一機、も」

「一機も……!?」

 

 それは、つまり。

 

 この艦、〈ギュクロール〉が、完全に置いて行かれた、という事の証左だった。

 

 全員に焦燥が走る。

 

 ラムローラはとっさに自らのクリューノ(端末腕環)を覗き見た。

 

 そこにある、『門集合時間』の項目をすぐさま開く。

 

 確認する、その時間を。

 

 間違ってはいなかった。

 

 自分たちは集合時間に遅れてはいるが、今の時間は置いて行かれるにはまだはやい。

 

「何かが起こってる……?」

 

 艦長は、その違和感を口にした。

 

 もしアーヴにこの状況を口にするすべがあるのなら、なんというのだろうか。

 

 しかし給仕従士のモモカならば、きっとこう口にすることだろう。

 

『噂をすればなんとやら』

 

 シーナが、緊迫した口調で口にした。

 

「門より、一機の艦が出現しました!」

 

 その瞬間、全員の視線がそこに集中する。

 

 操作卓の上の立体映像に、その姿は映し出された。

 

 燐光を放つエネルギー輻射体、〈門〉。

 

 そこから現れる、一機の艦。

 

 それを目にして、それが何かをすぐに把握できたものは少なかった。

 

 ただ、シーナだけが、皆のその疑問に真っ先に。

 

「――識別信号、これはっ……帝国(フリューバル)のモノじゃありませんっ!」

「なんだって!?」

 

 ケンの悲鳴にも近い声が響く。

 

 そして、シーナは口にした。

 

突撃艦(ゲール)級宇宙艦、この識別番号は――――人類統合体です!」

 

 全員が、その場で硬直をした。

 

 人類統合体。

 

 それは、この銀河における数多ある国々の中で、帝国に次ぐ勢力を有す星間国家。

 

 そして、ここに居るはずのない、圧倒的に異色の存在。

 

 すべての艦が消えた門の向こうから現れた、この宇宙においての異物――――

 

「全員っ、当直についてっ!」

 

 ラムローラの声が響いた。

 

 そして、彼女は艦長席のすぐそばの、一つの赤い釦に拳をたたきつける。

 

 その瞬間、艦内に轟音が鳴り響いた。

 

 全長三百メートル、すべての空気が届く場所へ。

 

 それは、艦にとっての緊急事態を示す、警告音。

 

 自らのクリューノ(端末腕環)に、ラムローラは渾身の焦りを込めて口にした。

 

「総員配置につけっ!! 〈門〉より一機の宇宙艦襲来、識別信号(デファス)は人類統合体、突撃艦(ゲール)級!! 第一級戦闘配置、急げ!!」

 

 艦橋(ガホール)にいる全員が、今自分が立っている場所を飛び出して、自らの操作卓へと腰を据えた。

 

 そして、できるだけの速度で、自らの行うべき仕事をこなしていく。

 

 ラムローラは自らのキセーグ(接続纓)を座席に放り込み、それから左手をグーヘーク(制御籠手)にはめた。

 

 そして、右手には、反陽子砲(ルニュージュ)の銃爪。

 

「シーナ! 敵艦へ打電、向こうの所属とここに居る理由を聞きだして!」

「いやっ、その必要はないですっ」

「なんで!?」

 

 振り返って、シーナは叫ぶように口にする。

 

アーガ・イゾーフォト(挑戦信号)、ですっ!」

 

 アーガ・イゾーフォト(挑戦信号)。それは、言うまでもなく。

 

 これより戦争を開始するという、宣戦布告の合図。

 

 ラムローラの腹に、大きく熱いものがこみ上げる。そしてそれは、全身へとはち切れんばかりに広がった。

 

 ぶるぶる、と震えてしまう右手。

 

 そんな手で、ぎゅっ、と銃爪を握りしめた。

 

「みっ、みんなっ……!!」

 

 すう、と大きく吸い込むラムローラ。

 

 みんなの視線が、彼女の方へと一斉に向く。

 

 そして、その恐怖を振り払うように、口にした。

 

「戦うよっ!! 突撃艦、〈ギュクロール〉ッ――――戦闘開始(サポルガ)!!」

「「「了解(ゴスノー)ッ!!」」」

 

 全員の声が、艦橋(ガホール)の中に、力強く響き渡った。

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