FGO 異端特異点 B.C.12000 人類統一王権 ギョベクリ・テペ 円卓の女王   作:笑嘲嗤

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第7話 理想の王の死についての異説

 相変わらずキャンプがお通夜です。ギルガメッシュとハンムラビは仲良く王の蔵から出たサウナと水風呂を愉しんでいる。円卓の騎士たちはもう蒼い顔で沈黙してる。

 

「元気をだしてください。私はあなたたちを誇りに思っています」

 

 モルガンが火をぼーっと見ているアーサーとアルトリアを慰めてる。超然とした妖精郷の女王様がメンタルケアとか世の終わりかな。マーリンはマーリンでいつもと違って飄々とした顔をしていない。酷く真剣でだからこそ怖い。観測者の冷たさじゃない。人間らしいところがないはずの彼にある、微かな人間性が激しく燃えている。

 

「先輩。王に選んだってどういうことなんでしょうか?アーサー王は選定の剣を抜いて王様になったはずですよね?」

 

「僕もそう理解してる。神話だってそうなってる。円卓のみんなもそう思っている。彼女だけが違う解釈を提示してる。彼女が嘘をついているだけなら別にいいけどね。……英霊って基本嘘をつかないんだよ。そらがひっかかる」

 

 もっともギネヴィアが英霊の条件に引っかかるようにも思えない。宝具に相当するような逸話もアイテムも持ってないはずなんだ。ランスロットとの不倫は逸話としては面白いかもしれないが、武勇ではないし彼女が剣を撮って戦うなんて話もないんだ。だけど。

 

「メイブが吸収されたことが引っかかるんだ」

 

「たしかにそうですね。私のようなデミサーヴァントのようなシステムでしょうか?」

 

「それはあり得るのかな?正直疑問なんだよ。ただ一つね、思うところはある」

 

「なんでしょうか?教えてください」

 

「ブリテンとアイルランドは近いよね。どっちも広義にはケルト圏なんだよ」

 

「あー確かに」

 

『そうだね。よく気がついたね』

 

 ダ・ヴィンチの声が聞こえた。

 

『やあちょっと共有しておきたい情報があるんだ。トマスって男の真名がわかったよ』

 

「円卓の騎士ですか?でもアルトリアたちは知らないみたいですけど」

 

『だから此処から先のことは円卓の騎士たちには絶対に秘密にしてくれ。そもそもアーサー王伝説。誰が世界に広めたと思う?』

 

「自然に広まったんじゃないんですか?」

 

『もちろんそれもあるよね。だけど大きく決定的な出来事があったんだ。【アーサー王の死】。聞いたことない?』

 

「アーサー王の死?いいえ」

 

『アーサー王伝説をもとにしたというか、今知られているアーサー王伝説のほぼすべてをカバーしている近代に作られた【原典】だよ。作者の名はトマス・マロリー』

 

 それを聞いて僕とマシュははっと顔を見合わせた。アーサー王伝説の、つまりは、作者ってことなのか?!

 

「それは……たしかにアルトリアたちには話せないですね」

 

『そうだよ。だから事態がよくわからなくなってしまった。特異点でまあ英霊たちがなんらかの団結を持っていることはおかしくはないだろう。ギネヴィアたちとその騎士たちはまあその典型だ。何かを企んでいるんだろうね。だけどそこになんでトマス・マロリーなんだろうね?なぜ作者が物語のキャラクターと行動を共にしているんだろうか?それがさっぱりわからない』

 

「それは確かに……またややこしくなった」

 

『そういうことだよ。とても気になる点がある。【アーサー王の死】。タイトルからして気味が悪い。英雄譚ではなくその死にクローズするのがなぜなのか?まあそれはいい。ここで重要な点がある。トマス・マロリーが描いたアーサー王の死についてだ。君たちはアーサー王がどんな最期を迎えたか知っているね?』

 

「アーサー王はモードレットと相打ちになり、アヴァロンへと旅立った。実際そうでしょう。彼らもそう認識している」

 

『うん。そうだよね。それはとても美しい英雄譚の最後だろう。だがトマス・マロリーはその美しき最後を裏切った』

 

「裏切った?」

 

『アーサー王の死ではこう書かれている。アーサー王はアヴァロンに旅立った後に、その遺体は地上に帰ってきて森の奥の寺院に埋葬されたと書かれているんだ』

 

 それを聞いて愕然とした。アヴァロンに行ったのに?遺体が帰ってきた?なんだそれは?

 

『クリエイターは無駄なことを描く暇がないんだよ。だから描きたいことを優先するんだ。トマス・マロリーはアーサー王伝説を調査して収集して、あえてアヴァロンには行ったけど、遺体が帰ってきたと断言したんだよ。そのアーサー王の墓の横にギネヴィアも葬られたと書き残している。夫婦は合葬されたんだ。死がふたりを別つことはなかった……』

 

「ロマンチックですね。素敵です」

 

 マシュが言った感想はふっと出てきたものなんだろう。もっとも不倫してなお一緒に葬られることの是非はここでは問わないけど。

 

『トマス・マロリーは宮廷文学の究極の到達点だよ。彼の英雄譚と恋愛ロマンスは現代でも作られる小説、アニメ、漫画、ゲーム、そのいずれにも通用する原型を未だに提供し続けている。まいっちゃうよね。どんなキャラを作ったってどんな展開を作ったって大抵トマス・マロリーにぶち当たるんだよ。彼を超えるのはとても難しい。そんなすごい作家だ。ーーーだから恐ろしい。彼はわざわざ美しき神話のエンディングを否定してアーサー王を理想の妖精郷から人にいる地上にわざわざ帰したんだよ。その意図は?どれほどの執念があると思う?意味がないわけないんだよ』

 

 華やかなアーサー王伝説。それを編纂して現代まで遺した神話の編纂者。その人物がわざわざ書き換えた神話の末路。その意味は、その意図は、その思いはいったい?

 

「先輩。今回の特異点、世界の存亡にかかわるんでしょうか?」

 

「マシュ?どうしてそう思うの?」

 

「正直起きていることがうちわで完結しているような気がします。英霊たちの後悔や未練や償い。そういうものが世界を捻じ曲げるのは今までさんざん見てきました。ですけどギネヴィアさん。彼女は世界に八つ当たりするように見えないんです。今を楽しむことに精一杯頑張る人。わりと英霊では珍しいタイプだと思います」

 

 まあ陰キャぞろいの英霊の中では珍しい陽キャだ。というか陽キャな英雄ってギルガメッシュくらいしかいない?あれ?そういえば陰キャしかいないぞ?!カルデア大丈夫なのか?!

 

「じゃあ目的はなんだろう。一体何が起きるんだ?」

 

『気になるのは王を選んだという言葉だよね。ハンムラビにも求婚したといっていたね。彼も王様だ。スケールがデカいのか小さいのかよくわからない。けど何かを選びなおそうとしている。そんな気はするよね』

 

 だけど結局何もわからない。わからないまま、僕たちは先に行くしかない。初めて神話の闇に触れた。そんな気がした。




アーサー王の死ではしっかりと遺体が地上で埋葬されていることが記されています。

なぜマロリーはわざわざ美しき神話の最後を、書き換えたのでしょうか?

ロマンだなぁ
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