忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが?   作:グラビトン

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今回は個人技選手権回となります。

今年最後の投稿です、ここまで伸びた来夏ちゃんに感謝。


相互理解の茶番にて

「………ふぅ、こんなとこかな」

 

自室の机に置かれたパソコンに纏めたデータを確認して、身体を伸ばす。

南雲原サッカー部に加入する元北陽サッカー部に所属してた選手達のデータとフォーメーションを南雲原のサッカーに合わせる様に纏めたものだ。

 

明日、公平なレギュラー選定の為の個人技選手権と僕と下鶴監督の監督対決………という名目で、互いのサッカーを理解し合う為の試合を行う。

 

両者は前日まで敵同士だった者、いきなり仲間になってすんなり受け入れられないのは仕方がない。

だからこそ下鶴監督の提案に則り、両者の相互理解の為に南雲原には北陽のサッカーを……北陽には南雲原のサッカーをプレーさせる。

 

敵のものだったサッカーをやらせる事で、隔てる壁を壊して1つにする。

 

………そして、次の対戦相手である東風異国館に勝つメンバーを揃える。

僕らが強くなる為に必要な試合だ、成功させねばならない。

 

「(………そしてその後は、北陽の皆に彼の紹介だな)」

 

南雲原サッカー部の切り札、黒景流。

未だに誰も越えられない………というかもう、越えることの出来ない巨大な壁。

強すぎる個人能力故にチームのバランス崩壊を招くからスタメンにはずっと入れてない、それは本人も了承している。

 

北陽学園のトップ達を入れたとしても多少マシになる程度で、まだ試合に出すことはできないが、上手く行けば本戦でようやく出せる目が見えてくる。

 

………でも、北陽の皆は彼の事はただのベンチとしか考えてないはず、それは当然の事。

今回の試合後に………少し荒っぽいが力を見せつければ、納得はしてくれる筈だ。

 

下鶴監督にもそれを伝えている、半信半疑ではあるけど。

 

……………しかし、だ。

北陽との相互理解の前にひとつ、こちらでも仲に問題がある2人がいる。

 

それが………忍原来夏と、小太刀 鞘。

忍原先輩は南雲原サッカー部のイメージガール的存在、かつてどん底だったサッカー部の宣伝に一役買ってくれた、実力込みでもサッカー部に必要不可欠な存在だ。

 

次に小太刀先輩。

サッカー面接で加入した剣道部の顔的存在だった人。

2回戦までは全面的に優秀なステータスを誇るMFという存在だったが、必殺シュートの伝来宝刀を習得した事により化けた選手だ。

 

本来僕は桜咲先輩と忍原先輩の連携必殺技『春雷』で、北陽のキーパー技『グラビティデザート』を突破する寸法だったが、小太刀先輩はそれを一人でぶった斬ってみせた。

 

かつて化身が跋扈していた一昔前の試合環境でもゴールを奪い続けた強力な必殺技、習得するのも簡単ではないハズだが……恐らく、相性が元の会得者並に抜群なのだろう。

 

練習でもその威力を遺憾無く発揮している、サブアタッカーとしての運用も見込める実力者だ。

 

 

そして………この二人の仲は、恐らく良いとは言えない。

 

 

こんな曖昧な表現なのは、2人が会話している所を誰も見たことが無いからだ。

最低限の挨拶と礼儀を踏まえてるだけ、それ以上のコミュニケーションは無い………共に練習も当然ない。

 

現時点の南雲原サッカー部の部員達は大なり小なり仲間として関係を築いているにも関わらず、この2人だけはそれが皆無と言っていい。

 

反りが合わないとかではないだろう……原因は、ハッキリしている。

 

「………黒景先輩、貴方という人は………」

 

眉間に手を当てて少し忌々しくなりつつある原因たる人の名を呟く。

 

そう………原因は、上記の2人が黒景先輩に対して異性的好意を向けているからだ。

2人に共通する点と言えばサッカー以外のスポーツで頂点に立ったことがあり、そこから生まれた境遇と歪みによって心が沈んでいた時に黒景先輩が優しく寄り添った結果………2人共、彼に堕とされた様だ。

 

だが忍原先輩と黒景先輩は所謂幼馴染みという関係性、2人の絆は今のサッカー部員よりもずっと強く繋がっている事だろう。

 

………故に、忍原先輩の黒景先輩に対する気持ちは大きく歪んでいる訳だが。

普段は明るく前向きで上昇志向も高い、アイドル扱いされて人気者になるのも当然だと思うくらいのカリスマ性を持つ彼女だが、幼馴染みの傍に居るとそれが鳴りを潜めて、じっとりとした感情を彼にぶつけ続けている。

 

先輩の家系は忍者の末裔であり、忍原先輩はそこの家からは落ちこぼれと幼い頃非難され続けており、まだ未成熟だった精神に彼の飾らない優しさはこの上なく染みたのだろう。

 

……………しかし、言い換えればそれは依存という他ならない。

しかも忍原先輩は好意を余り隠そうとしてない、普通の人ならまさか………と思う位だが、先輩はそれにまっっっったく反応を示さなかった、乙女心を察する能力がサッカーの才能の生贄にでもなったのたろうか?そう思うくらいには酷い。

 

忍原先輩の恋心が歪んだのはそのせいでもあるが、恋敵である小太刀先輩の存在が彼女の歪みに拍車を掛けているようだ。

 

誰かに、好きな人を盗られるかもと。

 

そのせいで北陽学園戦の忍原先輩は何処か精神が不安定な状態で試合に臨んでしまった、それらを解消させるべく黒景先輩に対応をお願いしたのだけれど………甘く見てた、あの人のクソボケっぷりを。

 

素直な気持ちを伝えろとは確かに言った、でももう少しなんかこう、あっただろって声を大にして叫びたかった、あの時は………!!

呆れ返って悪化させたのでは?と思いもう僕はあの人達の関係に口出しするのはやめようと思ってたけど………以前、小太刀先輩が練習の早退を希望した時があった。

 

 

『ごめんなさいキャプテン、ウチは今日上がらせて貰うわ』

 

『何処か体調が優れないのですか?』

 

『………そんな、所ね、また明日頑張るわ』

 

『………そうですか、分かりました、お疲れ様です』

 

 

隠していたつもりだろうが、僕は見逃さなかった。

鞄を持つ手に、過剰な力が込められていた事を、顔に溢れそうな怒りを静かに抑えていた事も。

 

あの日の黒景先輩は何か隠していた、それは誰からの目にも明確に何かあるのだろうと気付かれてた。

………恐らく忍原先輩が関係しているものか、だとすればあの時の小太刀先輩はそれを見て怒りに震えてたのだろう。

 

小太刀先輩の抱える気持ちは恐らく、本当に普通の恋という感じなのだろう……通常だからこそ、忍原先輩の歪んだ好意が恐らく受け入れられないから彼女の方も忍原先輩へ歩み寄る事が出来ない……と言った所だろう。

 

互いに干渉はないが、何か1つのきっかけでもあれば衝突する………僕はあの二人の間にある空気がそういう危ういモノに見えていた。

 

………僕は恋というモノを経験した事ない、だから彼女二人の気持ちをデータ上の表面的理解しかできない、乙女心も。

 

「でも、このままじゃいけないよな……」

 

チームメンバー間の信頼が築けてないと言うのも問題だが、それ以上にこの冷戦状態が続けば、あの切り札が何か爆薬をぶち込んで………色んな意味で取り返しがつかなくなる可能性が高い。

 

恋愛事情に、関わる気は無かったのだけれど…………もうそんな事言ってられない。

僕は南雲原サッカー部を預かる身、選手達の問題は解決しなければならない。

 

「…………でも一先ずは、明日の試合だな」

 

ああは言ったが既に解決策は見出している、そこから考えるのは個人技選手権と監督対決と、彼の紹介を終えてからだ。

 

そこからはまた別に東風異国館の対策と練習………やることが、多いな。

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

「………ではこれより、サッカー部個人技選手権および、笹波雲明君と下鶴監督の監督対決を行います」

 

会長さんの掛け声を聴きながら、グラウンドに集まっている南雲原サッカー部と………元北陽サッカー部の面々を見つめる。

 

今日は南雲原・北陽の混成チームのレギュラーを選定すべく、互いの個人技を競い合う試合を開始する事となった。

そして笹波と下鶴監督の監督対決も同時に行われている、選んだメンバーで勝てた方が実質的な監督という立ち位置になるらしい。

 

とりあえず笹波には勝って欲しいなぁ…………ま、俺は今日も観戦側だけど。

 

「個人技選手権のルールは試合の中で、有効なパス、有効なシュート、有効なドリブル、それぞれにポイントがつけられて総合点を競いますので、自分のサッカーテクニックを存分に披露してください」

 

「ただし、二人の監督の指示には絶対に従ってください、いいですね?」

 

『『『はい!』』』

 

「では、下鶴監督からチームメンバーを選んでください」

 

会長さんの声に頷き、元北陽サッカー部の監督……円堂守の世代で活躍を見せた下鶴改さんが選手達の前に出る。

予想だと、多分北陽サッカー部のメンバーを選ぶ筈だけど………。

 

「桜咲丈二、忍原来夏、木曽路兵太、柳生駿河、古道飼亀雄、四川堂我流………」

 

「………ありゃ?」

 

彼の口から出された名は、南雲原サッカー部の面々ばかり、次々と仲間達が下鶴監督のAチームのメンバーに招集される。

 

「……小太刀 鞘、伊勢谷 要…………そして」

 

そう区切ると、彼は目の前の選手達から顔を逸らし…………俺に視線を向けた。

…………え、俺?

 

「黒景流、君はこちらのベンチに座って欲しい」

 

「えっ?それ、って………」

 

「この選手権には出さないよ、君の事は笹波君から聞いている」

 

「………あー」

 

そう言う、事か。

南雲原と北陽の選手達の視線が俺に集められる中、俺は笹波に顔を向ける。

笹波は何も言わず静かに頷く………まぁ、そういう事なら。

 

「……うす」

 

「よし、私はこれで終了だ」

 

「………では下鶴監督が声を掛けなかった選手達は、僕の元に集まってください」

 

残されたメンバー………すなわち元北陽のメンバー達は困惑の表情を浮かべながら笹波の元へ集まる。

これで互いの監督は、本来率いてるチームが交換された形になった。

 

恐らく………あの二人には何か意図があっての事か、何すんだろ……?

………まぁ俺は変わらずベンチだから、黙って見守るんですが。

 

下鶴監督の後ろで、試合の戦術と指示を南雲原の皆に伝えている様を見つめる。

皆は困惑しながらも指示を聞いているが、その内容は笹波がやる戦術ではない………北陽サッカーの戦術だ。

 

敵だったチームの戦術をアイツらにさせるのか、どういう………………あー。

 

「(成程………そう言う茶番かい)」

 

視線を笹波と元北陽サッカー部の奴らに向ける、恐らく笹波は南雲原のサッカーをアイツらにさせるつもりだ。

個人技を競い、同時にどちらが有能な監督かの対決………そう言うお題目の元で、敵同士だったもの達に敵のサッカーをさせて、今までどんなサッカーをさせていたか……それを理解し合う為の試合だ。

 

うん、サッカー部らしいな。

 

「………以上だ、フィールド上での対応は自由にやってみろ………伊勢谷 要」

 

「はい」

 

「後半まで、その答えはしまっておけ」

 

「!………はい」

 

あの様子だと伊勢谷も理解してたか、さすが司令塔。

そして皆それぞれのポジションへ向かっていく、さーてどんな試合になるのかなぁ。

 

「……君もその様子だと、こちらの意図は理解しているらしいな」

 

「ん……まぁはい」

 

グラウンドを見ていると下鶴監督がこちらの隣に座ってきた。

………こんなの今まで無かったなぁ、少し緊張が。

 

「黒景流、君はこの南雲原・北陽に置いても最強の切り札だと、笹波君から聞かされたよ、個人能力の高さ故にチームのバランス崩壊を招くから今はベンチにいると」

 

「あー、はい、あんま自分が切り札って自覚は薄いんすけど」

 

「次の対戦相手、東風異国館はフィジカルと個人技に長けた外国人選手が多い、笹波君は君一人が入れば破壊出来るとも豪語してたぞ?」

 

「いやいや大袈裟だなぁ、俺はただの元ぼっちプレイヤーっすよ」

 

「まぁとにかく、この試合の後は君の実力を見せてもらうよ、軽くアップはしておいてくれ」

 

「え?俺やるんすか?」

 

「…………聞かされて無かったのか」

 

 

 

ピーーーッ!!

 

 

 

俺が下鶴監督の言葉に驚くと同時に、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。

いや初耳なんだけど、俺北陽の面々とやるの?それは全然構わないけどなんで一言もないんすかキャプテン。

 

………まぁいいや、とりあえず試合に集中するか。

 

南雲原チームの動き出しは、何時もとは違い積極的に攻めに出てない。

相手の出方を伺い、それに合わせてパターンを割り出してそこからプレーを作る……それが北陽のサッカー、なのだが。

 

「(うーん、流石に戸惑ってんなぁ)」

 

昨日まで南雲原のサッカーをしていたアイツらからすれば、全く別のサッカーをいきなりプレーするともなればこうもなる。

 

攻めあぐねてるなぁ………大丈夫か?

 

「仮に、君があの場に立っているとするならどう動く?」

 

「え?あー………そうだなぁ、それに合わせて感じた方へ動く?」

 

「………曖昧だな、もう少し言語化出来ないのかい?」

 

「言語化………えー………あー………相手がぶっ壊れる方です」

 

「………笹波君が君を起用しない理由が分かったよ(超直感的プレイヤーとは聞いていたが、ここまでとは)」

 

「えぇ」

 

しょうがないだろ、俺は特に考えずプレーし続けて、それがもう身体と頭に刻まれてしまっている、笹波が以前俺が周りに合わせようとすると何時も通りのプレーが出来なくなるかも、なんて言われたから………俺も何とかチームプレーを学んではいるけど、これが中々難しい。

 

本戦まで間に合うかなぁ………。

 

「(………っと、試合はどうだ?)」

 

開始して暫く経ったが、両者慣れない戦術のサッカーをさせられているのも相まって動きがぎこちないが………徐々に適応してプレーが出来るようになっていた。

そして何より………表情が段々と楽しげになっている。

 

「………楽しそうだなぁ………やりてぇー」

 

「口に出てるぞ、黒景君」

 

「あ」

 

「中々素直なんだな」

 

「まぁ、飾らない質なんで……」

 

笑う下鶴監督に少し照れながら答える。

試合はまだ前半だけど、この調子だと当初の目的は上手く行きそうだ。

 

伊勢谷も北陽のサッカーにいち早く適応しており、味方に適した指示を繰り出している。

あいつはもうゲームメイカーが板に着いてきてるな……妖士乃も持ち前の器用さで攻めと守りに徹してるし、星は相変わらず俊敏で豪快なプレーだ。

 

対する北陽は、合理的な戦術ではなく南雲原の個性を活かしたサッカーをしている。

しかしそれぞれの個人能力の高さも相まって、段々と順応して行った。

 

にしても空宮………笹波の事は滅茶苦茶仲が良いとは聞いてたけど、あそこまで信頼を置いているとはな、笹波が提示した戦術を誰よりも強く信じて実行している姿からそれが伺える。

 

笹波がサッカーに戻っていたことを我が身のように喜んでいた姿を見て、絶対悪い奴ではないと誰の目から見ても明らかだろう………ちょっと執着が強めに見えるがな。

 

「……お、小太刀先輩がドフリー」

 

伝来宝刀を警戒されていた小太刀先輩には二人のマークがつかれていたが、マークをしていた1人の隙を見逃さず、そいつを壁にしてもう片方のマークを振り切り、現在ボールを持っている来夏の元へ駆け上がる。

 

「忍原さん!」

 

「…………っ、はい!」

 

春雷も警戒されており、桜咲はそこから遠くに位置しており放てない。

ぐるぐるシュートでは陣内のグラビティデザートを突破する事は出来ない、しかしそれを単独で破った小太刀先輩にパスを渡すのは必然だ………しかし。

 

「(なんか、一瞬だけ躊躇った?)」

 

結果的にボールは渡ったが、来夏は少しパスを出すまでタイムラグが発生していた。

 

「……小太刀 鞘、伝来宝刀は驚異的だが、必殺技もなしに2人を振り切るとはな」

 

「えぇ、あの人は相手の内心を読み取るのが得意ですからね」

 

「……そして忍原来夏、南雲原の中では俊敏性は抜群、先程からパスもミスなく繋げている、優秀だな」

 

「あれでも前まではダンス部だったんすよ、今となっては立派なサッカープレイヤーっす」

 

「ほう、ダンスをやっていたのならあのしなやかな身体の動かし方も納得だな(…………しかし、小太刀 鞘と上手くやれてないのか、先程から連携は必要最低限なものばかりだ)」

 

「伝、来、宝、刀………改ッ!」

 

「グラビティデザートッ…………くっ、ぐわぁっー!」

 

 

ピーーーッ!

 

 

 

小太刀先輩の必殺技が再びグラビティデザートを切り裂き、下鶴監督率いるAチームの先制点だ。

 

うーんやっぱ単独であれだけの威力の技を持ってるのは敵から見ても脅威だよな、まだサッカーに関しては伸び代もある。

 

南雲原の皆は小太刀先輩のゴールを称えている、その遠くで来夏は小太刀先輩を複雑そうな目で見つめていた。

 

「(…………嫌ってる、訳じゃないよな?)」

 

少なくとも嬉しそうな雰囲気ではない、自分のアシストでゴールを決めて間違いなくポイントは稼げたというのに。

…………前々からそうだ、来夏は小太刀先輩に関すると明らかに避けているというか関わろうとしない。

何故だ?仲が悪い話とか聞いてないし、チームメンバー同士なら会話くらいあっても良さそうなのに。

 

前に話さないだけって言ってたが、本当にそれだけだろうか…………うーーーーーん。

 

「(………………わからん)」←来夏の気持ちには気づいた癖にこの後に及んで小太刀先輩の気持ちに気づかないクソボケ。

 

 

ピッ、ピーーーッ!

 

 

そうこうしていると前半が終了した、1-0でAチームのリードだ。

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

ピーーーッ!

 

 

 

ハーフタイムを挟んで後半開始、笹波率いるBチームのボールからだ。

 

空宮にボールが渡って、後方の品乃先輩へボールが行き渡り…………。

 

「シナノフォーム、展開!」

 

「おっ?」

 

「……ほう」

 

なんと、いきなりシナノフォームを発動した。

品乃先輩を中心に陣形が組まれ、突破力の高いフォーメーションアタックで瞬く間に中盤を突破し…………

 

「(……ここだ!)パトリオットシュート!」

 

「おぉっ?」

 

更にまさかのロングシュート、蹴り上げたボールが時間差で点火しシュートが放たれた。

その技はそこまでの威力は無かった筈だけど…………あれ。

 

「シュートじゃない、パス……!」

 

「……!空宮か!」

 

その軌道はゴールではなく、上空へと舞い上がる。

そしてそこには…………既に空中へ飛び立ち待機していた空宮が居た。

 

「サンシャインブレーード!!」

 

そこから空宮の必殺シュートが放たれた、シュートチェイン…………最初に品乃先輩にボールを渡した瞬間に前線へ駆け上がり、そこからのロングシュートをチェインさせる事を初っ端からかますか……恐らく、以前の北陽じゃこんな思い切った作戦はしない。

 

「……ちゃんと南雲原のサッカーしてるじゃん」

 

 

 

ピーーーッ!

 

 

 

完全に意表をつかれた四川堂はそのシュートに反応出来ず、あえなくゴールを許してしまった。

これで同点、後半開始から飛ばすじゃないのさ。

 

うーーーん…………うーん。

 

「…………やりてー」

 

「次に出番があるんだ、今は抑えるといい」

 

「……うす」

 

こんな面白い展開を見せられてお預け喰らうなんて…………いやまぁこの後やれるんだけどさ。

 

………さて、開幕からゴールが入り振り出しの状態で試合再開される。

 

南雲原の皆はパターンを組み立てて攻め上がり、北陽はそれぞれの役目を明確にして守りに徹する。

前半では四苦八苦してたが、互いの戦術を受け入れてプレーする、その表情は誰も彼も楽しそうだ。

 

ただそんなに中、1つ気になるプレーがあった。

 

それは小太刀先輩と来夏のパス交換だ。

 

小太刀先輩は来夏へパスをする時は特別遅くもないのだが、来夏が小太刀先輩へパスを送る時…………必ずと言っていいほど少々のタイムラグが発生してた。

 

パス自体は成立してる為、然程気にならないかもしれないが…………このラグが後々命取りになりかねない可能性もある。

 

来夏は小太刀先輩へ対して何を思ってるのだろうか…………はっきりと、聞いた方が良いのか?

 

同じチームメイトなんだから、少しでも仲良くして欲しいんだけどな。

 

そう思いながら試合時間は過ぎていく、互いにシュートを放ってはいるが……キーパーとディフェンダーが奮闘してゴールに入らない。

そんな目まぐるしい攻防が幾多にも繰り返され…………。

 

 

 

ピッ、ピッ、ピーーーッ!

 

 

 

試合終了のホイッスルが鳴り響いた。

結果は1-1…………引き分けで終了だ。

 

「……いい試合でしたね」

 

「あぁ、戦術の相互理解は達成したと言える………ここからは、互いに本当の信頼を築き上げていく時間だ」

 

「………そう言えば、これ監督対決どうなるんです?引き分けですけど」

 

「………………考えてなかったな」

 

「あらら」

 

意外と抜けてたと、笑みを浮かべる下鶴監督に少し笑ってしまった。

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

「ふぅ、同点で終わっちゃいましたね」

 

「あぁ、前半で早くこの戦い方を理解しておけば結果も違ったんだろうがな」

 

「俺は最初から雲明のタクティクスは信じてましたけどね!」

 

「まぁお前はな」

 

俺たち元北陽サッカー部はベンチで休みながら、試合の振り返りと反省をしていた。

試合開始前はまさかの雲明が監督になって、俺らの指揮をするとは思わなかった、完全に下鶴監督とやると思い込んでいたからな。

 

しかし2人は個人技選手権や監督対決よりも、俺達とあいつらの隔てる壁を無くす事を第一に考えていた。

互いの監督を交換して敵だった者達の戦術を試行する、正直難しかったけどそれ以上に楽しかった。

 

南雲原は出来たばかりのチームだと言うのに、ここまでやれるなんて大したものだ…………ま、雲明の力あっての事だろうけどね!

 

それにしても…………。

 

「まだ俺達になにかさせるつもりですよね監督2人、なにやらすんだろ」

 

「南雲原の奴らは違うらしいがな」

 

「まーた何か企んでんじゃねぇだろうな、特に笹波雲明」

 

陣内が怪訝な顔でベンチの雲明を見つめ、俺らも同じ所に視線を移す。

 

…………誰かに話しているらしいけど、ベンチの柱に隠れて見えない…………なんかすげー厳重に話してるっぽいけど、なんだろ?

 

「(…………そう言えば、アイツって結局なんだったんだろ)」

 

スポドリを飲みながら試合開始前のメンバー招集の時に、下鶴監督がベンチに座らせた黒ジャージの男の事をふと思い出す。

 

黒景…………だったっけ、試合には出さないって言われたけど……なんでわざわざ座らせたんだろ、出さないなら別に良くないか?

 

試合中も何か会話をしてたっぽいし、下鶴監督もなんだか興味津々って感じだった。

 

うーん…………分からん。

 

「……おい空宮、そろそろ始まるぞ」

 

「あっすんません!今行きます!」

 

思考している途中、品乃先輩の声で我に返る。

既に他の仲間達もベンチか離れており、俺だけ取り残された状態だった為、すぐにスポドリを地面に置いて追いつく。

 

今度は俺達北陽メンバーだけがグラウンドに集まらされていた、南雲原の奴らはベンチでこちらを眺めいた。

 

そしてそこに雲明がやってきて…………隣には、黒いジャージの男が。

 

「休憩は出来ましたね?では、始めましょうか」

 

「今度は何をやらせるんだい?」

 

「……その前に、彼の紹介をします」

 

友部先輩が俺達の疑問を代弁し、雲明は隣の男に手を翳す。

 

 

 

 

 

「彼は南雲原サッカー部2年、黒景流………簡単に言えば南雲原・北陽全員の中で………最強の選手です」

 

「ちっす」

 

 

 

 

「……最強!?」

 

思わず大声を上げてしまう。

一瞬飲み込めなかった、いきなりすぎるし想像だにしてなかった紹介で。

いや、最強!?そいつが!?俺達の試合でもベンチに居たくせに、すげー寝惚けてそうな顔してるのに!?

 

俺以外の皆も騒然としていた、いきなりそんな事を言われても困惑するのは当然だ。

 

「……笹波雲明、それはどういうことだ?」

 

「言葉通りの意味です、彼は南雲原サッカー部復活当初から居る部員の1人ですが、その高すぎる個人能力がまだ未成熟な南雲原イレブンの成長とバランスを壊す恐れがあるので、今はまだベンチに座らせている人です」

 

「しかしフットボールフロンティア1回戦…………は、イレギュラーが居たので除外して、2回戦での貴方達との試合、そして次の東風異国館…………彼一人居れば、圧勝できます」

 

「なっ…………」

 

淡々と話す雲明に言葉を失う、だって………雲明は事サッカーにおいては何処までも誠実で嘘をつかない。

そんな雲明がとんでもない事を話している………俺も、次の対戦相手も……こんなやつ1人居るだけで圧勝出来るって、どういう事だよ?

 

「おい待て!そんな事言われたってはいそうですかって納得する訳ねーだろ!?」

 

「もちろん直ぐに信じてもらえるとは思ってませんよ、だからこそ貴方達には信じてもらえる様にします」

 

「……つまり彼を交えた試合か、サッカーバトルでもすると?」

 

「半分不正解です、品乃先輩」

 

「と、言うと?」

 

すると雲明は俺たちを見渡し、そして隣の黒景に視線を向ける。

そして目を瞑り…………こう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより元北陽イレブンと黒景流、11対1の試合をして貰います!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

「…………な」

 

 

 

「え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、11人なの?」

 

「お前も驚くのかよ!!?」




黒景流
何も知らされてない黒景流(14)、女心もまだ無理解。


笹波雲明
やる事が……やる事が多い!






という事で、今年最後の投稿になります。
この小説を投稿した当初はまさかここまで伸びるとは夢にも思ってませんでした、読んでくださる皆様にはマジで感謝です。

来年もイナイレは盛り上がりそうなので、それに便乗して更新を続けて、頑張ってエタらずに完結まで漕ぎ着けたらいいなと思ってます。

どしどし感想も送ってください、モチベの燃料になります。

それでは、良いお年を。

主人公の容姿とか、アバターで見せた方が良いですか?(見せるかはまだ未定)

  • あった方がいい。
  • 別に要らない。
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