忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが?   作:グラビトン

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明けましておめでとうございます、今年は更新をより一層頑張ろうと思っております。
今回は1対11のサッカーとなっております、東風異国館編は少し長引くかもです。

そして前回のアンケート結果により、主人公の容姿はあった方がいい意見が多かったので今回挿絵として貼らせて頂きます。

色々解釈不一致な所もあるかもですが、ご了承していただけると幸いです。




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解説
顔立ちは整ってるかもだが、如何せん常に眠た気な目がデフォルトなので特に生徒達から噂になるような事はない。
逆にサッカーでは通常時からこの顔のままで、序盤はポーカーフェイス的な効果を発揮している。
 
学校では指定された制服のズボンとワイシャツの上に、チャンプオンの黒ジャージを常に羽織っている、部活動時は下に同じジャージを履いている。
笹波雲明の物とは柄違いのものであり、限定物という訳では無いので家に数着置いてある。
京前嵐山中と間違われる事が多い。


怪物たる所以にて

サッカーにおける『天才』とは、規格外の身体能力、かつて無いスーパープレーを見せるスキル、常人にはない感性を自然と持つ者。

 

それは理屈なく、前触れもなく、この世界の何処かで生まれ、フットボールの常識を訳無く覆す可能性を秘めている。

 

然しそれはあくまでも『可能性』

示さなければその天賦の才は誰にも見つかることなく、錆びてそのまま消える原石。

 

故にその原石を見つけ、その才能に解析と分析を施し、世界に示す秀逸なる才能を持つ者が必要となる。

 

それを成す者『秀才』と呼ぶ。

 

サッカーに進化のタネを齎す天才、そのタネを解析し適切な進化を促す秀才。

 

この2人は両輪であり、その出会いこそが更なるフットボールの化学反応を起こす。

それこそ『進化の方程式』

 

 

炎のストライカー、イナズマ伝説の守護神、ゲームメイクの帝王。

 

そよ風の革命児、剣携えし闇の刺客、神託のタクトを持つ奏者。

 

 

相対する者達が出会う度に…………周囲のサッカープレイヤー達は、否応にも進化への道を突きつけられるのである。

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

「笹波さんや、11なのは良いんだけどこれって事前に言うもんじゃね?」

 

「事前に言えば貴方は闘志燃やしまくって、個人技選手権の観戦中に我慢出来なくなるでしょう?僕なりの配慮です」

 

「いやいやそんな事ないよ、流石に我慢出来るって」

 

「円堂ハルとの試合中、目をギラつかせてた人に言われても説得力ないですよ」

 

「あれはアイツがド級のかいぶつだったからだよ、あんなん見せられたらやりたくなるじゃん」

 

「チームの事かんっぜんに忘れてましたよね?」

 

「………………いや?」

 

「この後百目階段100往復しますか?」

 

「魔王かよ」

 

「いや雲明とアンタ!コントをしないでくれ!」

 

いきなり信じ難い事を雲明が言ったと思えば、隣の黒景と何か言い合いを繰り出すもんだから、固まっていた俺はそこに突っ込みを入れて静止する。

 

な、なんだってんだよ………こっちは訳わかんない事を連続で言われて混乱してる真っ最中だってのに。

…………本当に、言ってるのかな?

 

「……なぁ雲明、聞き間違いじゃ無かったら俺達は今からそいつと試合するんだよな?」

 

「そうだよ」

 

「でもそいつ1人で、俺達は11人なんだよな?」

 

「そう言ったよ」

 

「……本気で言ってるの?」

 

「嘘と思う?」

 

「…………嘘じゃないとは思うけどさ、流石にこれは正気を疑うよ」

 

「……まぁそうだろうね」

 

腕を組んで当然と言わんばかりに目を瞑る雲明、俺はそれを見て隣の黒景流を見つめ、そいつとの視線が合う。

 

………………いや、最強の切り札なの?こいつが?

こんな眠たそうな奴に、今から俺達は11人総出で掛かるの?何も知らない人が傍から見ればただのリンチだぞ、虐めだぞ?

 

ぶっちゃけ色々と信じられないんだけど…………!

 

「…………笹波雲明、重ねて聞くが本気なんだな?」

 

「何度でも言いますよ、彼の力は既に全国レベルの域に達している、そしてそれを正確に実感して貰うには1対11の試合をしてもらうのがベストなんです」

 

「ふざけんなよ笹波雲明!舐めてんのか!?」

 

「舐めてません、バカにしてもいません、何度でも言います…………僕は、本気ですよ」

 

「…………雲明」

 

目を開いて俺達を強く見据えてそう言い切る。

…………間違いない、本気だ、本気の目と声だ。

 

だとすれば本当に……黒景流はそこまでの実力だってのか?

 

「…………黒景流、君は先程までこの試合の事を聞かされてなかった様だが…………監督が君にやらせようとしてる事に反対はないのか?」

 

「え?あー、いや………大多数の相手は慣れてるんで、そっちが良けりゃ」

 

後頭部をかきながら淡々とそう答えて見せた。

…………なんだ、こいつ…………得体がしれない、この感じ…………何処かで身に覚えがある。

 

完全に無茶振りをされてるのに、雰囲気は完全に受け入れている。

やるつもりだ、本当に俺達全員を相手にするつもりだ。

 

何なんだ、こいつは…………!?

 

「とにかくして貰いますよ、ルールを説明します」

 

そう言うと彼は自分の背後にに手を上げる、すると直ぐにボールが転がり込んで来てそれを拾い上げた。

 

「先程も申した通り1対11で試合をして貰います、開始と再開時は必ず黒景先輩のボールから始まり、彼は貴方達のゴールに3点を決めればその時点で勝利、元北陽側は彼からボールを3回奪取すれば勝利となります」

 

「僕達を掻い潜ってゴールさせるつもりだって言うのかい!?」

 

「つもりじゃなくてさせます、先輩も良いですよね?」

 

「へい」

 

雲明からボールを受け取りながら平然と答える黒景流。

何だか少し雑に扱われているけど、雲明は間違いなく信頼している………南雲原サッカー部の中で、アイツの実力を。

 

…………もういい、そう言うならうだうだ考えるのはやめだ。

 

「……みんな、やろう」

 

「空宮……」

 

「この2人は本気です、なら俺達はその本気が正気の沙汰か見極めましょう、ここまで来たらやるしかありませんよ」

 

「…………ちっ、わーったよ」

 

「ここまで言われたら、仕方ないか」

 

「そうね……」

 

陣内がぶっきらぼうにそう答えると、他の皆も次々と肯定する。

吹っかけたのはそっちだ、そこまで言うなら最強の切り札とやらの実力…………きっちり見定めてやる!

 

「……元北陽イレブンは、好きな戦術で対応してください、そして黒景先輩……今回に限っては少しのバカは目をつむります」

 

「え、まじ?」

 

「その代わり、3回のゴールを決める際は同じ手順は踏まないでください、そうしたら先輩にペナルティです」

 

「あいよ」

 

そう静かに応えると、ボールを片手にグラウンドの中心地へ向かっていった。

その姿を暫く眺めてから、俺達も何時ものポジションの位置へ立っていく。

 

そして再び奴を見据える…………本当に1人だよアイツ、恐怖とか緊張とかないのかよ、眠そうな顔しやがって…………。

 

…………てかさ。

 

「黒景流、お前ジャージのままでやるのかよ?」

 

「ん?あー下にユニフォーム無いし、このままでいい」

 

「………………」

 

なんだかもう、一々言うのもアホらしくなってきた。

開始を待ちながら、南雲原の連中がいるベンチへ目を向ける。

 

…………何だろう、どういう心境なんだあの顔ぶれ。

少なくともなんだか…………黒景の事を心配している様子が、無いのかアレ?

ていうか……え、俺達を心配している?え、嘘でしょ?本気で言ってるのアイツら?

 

「………空宮、笹波雲明の言葉……どう見る?」

 

「…………こんな事言いたくないんですけど、流石に正気を疑いましたよ、それでいて本気の目つきだ………どの道こうやって考えるのはもう無駄です、実感するしかない」

 

「……だな」

 

品乃先輩はそう言って元のポジションへ戻っていく。

目の前の相手を見据えながら静かに息を吸って吐く、変な緊張感が身体を支配していた。

 

公式でもこんな感じ無かったのに………そしてやっぱりこの感じ、アイツを見ていると………何か、思い当たる感じが。

言葉に表せないけど……何なんだこれ。

 

「……では両者、準備は出来ましたね?」

 

「……あぁ!」

 

「うす」

 

雲明の呼び掛けに頭を切り替えて備える、黒景流も覚悟は出来ている様子だ。

 

「…………では、これより開始します!」

 

 

 

ピーーーーッ!!

 

 

 

雲明が試合開始のホイッスルを鳴らす、俺達は直ぐに黒景流の元へ駆け上がった。

 

全員で掛からず前衛の奴らで掛かる、ここで俺らが攻めれば一人でゴールなんて簡単に奪えるわけがない。

 

「(悪いけど、手は抜かないぞ!)」

 

対するアイツは、配置していたボールから一歩下がって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュートモーションに入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

思わず声が漏れた。

目に映る光景は、想像だにしてなかったものだからだ。

 

何を、している。

なんで、そこで、なにをして。

 

何故そこで…………そこで。

 

「……シュートしようと」

 

「…………ッ!!」

 

言い切る直前、彼の瞳は一瞬力強く見開き…………同時に、そのボールへ強烈な蹴りが放たれて、ボールはその勢いのまま撃ち出された。

 

それは左へ強烈な回転を掛けてカーブし、俺達の陣形を通り過ぎながらゴールへ加速していく。

 

「何っ!?」

 

「シュート、なんで」

 

俺達はそのシュートに思考が止まり、次々とボールが通り過ぎていくのを固まって見るしか無かった。

 

「……ぁっ、な!?」

 

陣内は正気を取り戻し、シュートを止めようとしたが……ゴール隅へ向かったそれに追いつく事は出来ず、ボールはそのままゴールネットを揺らした。

 

 

ピーーーーッ!!

 

 

雲明のホイッスルが鳴り響く。

ゴールを決めた合図……開始して1分も立たず、スーパーロングシュートにより、黒景流が1点を決めた。

 

…………静寂が俺達を包んだ。

固まって、そのゴールを決めた相手をただ、見つめた。

 

「……ふぅ」

 

変わらない様子で一呼吸つく、特に喜ぶ様子もなかった。

 

決めた…………決めてしまった。

………………なんで、決めるんだよ。

なんで撃った?撃てるんだ?

 

思考がぐるぐると頭の中を巡る、声も出なかった。

確かに開始直後に前衛は上がった、後衛もそれぞれの動きに対応する為に移動していたが…………そこで隙間は生じたのだろう。

アイツはそれに誰よりもいち早く勘づき、力を込めたカーブシュートを放った。

 

それに気づいて撃つなんて、誰も想像しなかった、やるなんて思うわけ、無いだろ。

確かに理論上は可能かもしれない、けど…………開始してまもなく、その隙を条件反射で察知してシュートを撃つなんて、どんな頭の回転をしてるんだよ…………ふざけるなよ。

 

「…………イカれ、てる」

 

「?」

 

ボールを取りに行こうとする黒景の隣で、思わずそう呟いてしまった。

聞こえたのか分からないが、アイツは顔を少しこちらに向けて、直ぐにこちらのゴールへ向かっていった。

 

その後、思わず雲明を見つめる…………呆れた顔をして、アイツも特に驚いた様子とかなかった。

ベンチの奴らも騒いでは居ない…………まさか、何時も決めてんのか?あんなバカシュート……!?

 

 

 

 

「ほーら、流なら開幕シュートするって、当たった〜」

 

「マジで撃つ奴があるかあの寝坊助……!!」

 

「はは、これ雲明怒るんじゃないの?」

 

「多分想像してたんじゃないかな、現に笹波君の後ろ姿が呆れ返ってるのを現してる」

 

「……アレ怒ってないよね、笹波君……?」

 

「さてな、まぁ2回撃ちゃキレるんじゃね?」

 

「何はともあれだ、まだ2点残ってるぞ………」

 

 

 

 

 

 

 

「……黒景先輩、用意はいいですか?」

 

「おう」

 

「もうここで撃たないでくださいね?」

 

「へーい」

 

ボールを再び配置しながら雲明と黒景は話し合う。

俺達も元のポジションに戻っているが、内心戦々恐々な気持ちが騒めいてる。

さっきのシュートはもう無いとしても、未だに得体が知れない…………マジで、俺達11人がかりでも無理だって言いたいのかよ。

 

…………でも、それを納得せざるを得ないレベルでイカれたシュートだった。

撃とうと思うのは極論誰でも行けるかもしれないけど…………本当に撃ってゴールするなんて。

 

恐らくもう、俺達の中で1人だからと思って油断する奴は居ない。

段々と……雲明の言ってた言葉が現実味を帯びてきたからだ。

 

「(もう1人で決めさせないぞ、今度こそ止める……!)」

 

さっき雲明は同じ手順のゴールは認めないと言った、ならもうあのスーパーロングシュートは撃って来ない。

次が黒景の実力が見られる……さぁ、どう来る。

 

 

 

ピーーーーッ!

 

 

 

雲明が再開のホイッスルを鳴らし、黒景はドリブルで駆け上がってくる。

今の所は、普通だ。

 

「(警戒は緩めない………来たところをザ・マトリックスで)」

 

さっきとは打って変わって冷静に迎え撃つ。

皆も警戒している、接敵までもうすぐ………あと少しで、俺の必殺技で。

 

「…………」

 

…………なんだあの顔、何を考えてるんだ、表情筋変わらなさすぎだろ、ドリブルしながら能面ヅラするなって、軽くホラーだよ。

 

「(いや余計な事考えんな、ここで……!)ザ・マト……」

 

「…………ッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、奴は俺の視界から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リ、ク……?」

 

「は、はやっ」

 

「まて、追いつけ……!?」

 

仲間達の悲鳴にも似た声で唖然とした状態から正気に戻り、勢いよく後ろへ振り向く。

 

視界から消えたと黒景流は、既にミッドフィールダー陣を抜きさって……ディフェンス陣へとドリブルを進めていた。

消えたと思わせるくらいの、超高速ドリブル。

 

恐らく必殺技ではない、アイツの純粋なドリブル力………必殺技を発動させる暇すら、与えてくれなかった。

一瞬にして爆発的な加速力、予備動作も、表情の変化もなく…………そんなの今まで見た事無い。

 

「(…………なんだよ、それ)」

 

これが、アイツのサッカーなのか?

さっきのシュートと言い、俺達が見てきたサッカーの次元じゃない。

 

まるで、まるでこれは……………………。

 

「(………………ぁあ)」

 

ディフェンス陣を抜き去り、陣内と1体1の構図を見届けながら、俺は一つの確信へ至る。

 

あぁ、そっか、思い出した。

相対した時の既視感、何故かやる前から足が竦みかけたあの感覚。

 

やっと分かった、そうか。

 

黒景流…………お前は。

 

「…………お前は、円堂ハルと同じ」

 

かいぶつか。

 

 

 

ピーーーッ!!

 

 

 

そのまま見届けてしまった、2点目のゴールを。

 

体が震える、恐怖も少しの理由だ。

でもそれ以上に…………気持ちが昂るのを感じる。

 

「…………すげぇ、まだ、こんな奴が居たんだ…………!!」

 

手を力いっぱい握り締める。

まだ居る…………この国には、こんな奴がまだ眠ってたんだ。

 

すげぇ…………もう俺達の中には、アイツが最強だって疑う奴はもう居ない。

その後ろ姿を目に焼き付ける、あの時の圧倒的だったサッカーモンスターの姿が重なって見える。

 

そして彼は転がってきたボールを手に取り、後ろへ振り向く。

相変わらずの無表情だ、何を考えてるんだ?本当に。

 

「……南雲原の、サッカーモンスター…………!!」

 

やっぱすげぇな、サッカーって…………!!

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

「…………コイツで終わり、っと」

 

ヒールリフトからの、ルーレットボレー。

敵の壁があったにも関わらず、その隙間を狙い撃ちして………呆気なく3点目のシュートが突き刺さった。

 

 

 

ピーーーッ!

 

 

 

見届けてゴールのホイッスルを鳴らす、連続3点目………即ち、黒景先輩の勝利だ。

 

ボールは一度も取られる事なく完勝した、元北陽の皆は手も足も出なかった。

…………やっぱり、こうなるか。

 

九州屈指と言われた北陽の皆でさえ、彼一人を止めることすらできなかった………動きには着いて行けず、行動を読まれる事すらなく、プレー全てが異次元の領域。

 

確かめたかった、勝つという確信は胸に残りつつもこの目で確認を。

 

結果はこれだ、完勝で瞬殺…………誰も止めることが出来なかった。

 

…………冷や汗が頬を伝うのを感じる、改めて見るとやっぱり…………恐ろしい程に強い、円堂ハルと同じ位に…………敵だったらどうなってたか。

 

こんな化け物が誰にも知れずこうやって居る、とんでもない話だ………サッカーはやっぱり、凄いな。

 

「…………よ、見てどうだった?」

 

戦慄していた僕に、黒景先輩が歩み寄ってきた。

冷や汗をかく僕とは対象的に汗ひとつかいてない、あの運動量でだ、とてもさっきまで11人を相手にしてたとは思えない。

 

「……改めて、バカだなって思いましたよ」

 

「褒めてんのそれ?」

 

「褒めてるし貶してます」

 

「えぇ?」

 

「そして………頼もしいって思いました、やっぱり貴方は僕らの切り札です」

 

「………おう」

 

笑みを浮かべて素直な気持ちを伝える、彼もその言葉で微笑む。

この強すぎる力を今僕達は十全に扱う事は出来ない、少なくとも予選中は…………。

 

「北陽の皆はどうでした?」

 

「あー…………えー」

 

「正直に言ってください」

 

「………………ぶっちゃけ今までやってる事と変わんないかな、お前が普段やらせる無茶振りの方がよっぽどだわ」

 

「無茶振りじゃありません、貴方専用の特訓です」

 

「それが無茶振りなんですけど」

 

本来3人でやるけど1人でやらせるトラップ特訓、海坊主ドローンを割増にしてやるジグザグドリブル、タイヤを倍増させてやるタイヤ特訓、チームプレーとは何たるかを叩き込む勉強。

 

それらを僕は二人きりの時にやらせている、休日も偶に使って。

 

確かに普通ならただの虐めだけど、とりあえずやってみせるのだから何も言えない………勉強に関しては苦戦してるけど。

 

「…………ったく、雲明も人が悪いよほんと…………こんなの隠して俺らに勝つんだからさ」

 

僕達がそう話していると、先輩の背後から征を含めた北陽メンバー達がやってきた。

顔は疲れているが、憔悴しきってはいない…………いっそ清々しさを感じるくらいだ。

 

「………負けたよ、2回戦の時コイツが出なかったのは温情と言えるな」

 

「温情なんかじゃありません、今の僕達は黒景先輩を満足して扱えませんから、今はチームのレベルアップが重要と見てベンチに置いてるだけです…………言う事も聞きませんしね」

 

「普通に聞いてるよ俺?」

 

「訂正します、忘れますから、そして曲解します」

 

「酷くなってますけど……」

 

「うるさいです(誰のせいで尻拭いすると思ってるんです)」

 

「ま、まぁまぁその辺で」

 

「…………征、君達はかつてサッカーモンスターと呼ばれる円堂ハルと対決した事がある、それを踏まえて…………黒景流は、どう見る?」

 

やらせたのはそう言う理由もある。

北陽は雷門と、円堂ハルと相対した時がある…………対決した経験があるからこそ僕は黒景先輩1人を彼らにぶつけた。

 

少し酷かもしれないが、どうしても確認したかったから。

 

僕の問いに征は目を少しの間瞑り、開いて僕を見据えた。

 

「………簡単だよ、雲明」

 

そして視線を黒景先輩に移す。

 

「南雲原のサッカーモンスター、それが黒景流だ」

 

「…………そっか」

 

答えは出た、やっぱりそうか。

円堂ハルに並ぶ才能、それがこの人か。

 

分かっては居たけど、改めてその事実を受け止める。

 

この人の才能を…………僕は何処まで引き出せるのだろう、チームはこの人に何処まで着いていけるのだろうか。

 

これから先の強敵達に、どれ程の力を見せれるのだろう。

 

「(…………怖い、けどそれ以上に、昂る)」

 

過ぎたる力は身を滅ぼしかねない…………そうならない為に、僕はこの人を上手く使ってみせる。

それが出来た時こそ、この南雲原サッカー部が大きな進化を遂げる時だ。

 

「俺が、サッカーモンスター?」

 

「そうだ黒景、お前は既に円堂ハルと同じ領域に立っているんだよ、サッカーモンスターと呼ばれるに相応しい程にな」

 

「…………へー」

 

「いや軽いなオイ!?」

 

「認められてんのは良いけど、あんま実感ねーな」

 

「…………なるほど、やはりモンスターだな」

 

「なぁこの後お前の事聞かせてくれよ、今までどんなサッカーしてたか!」

 

「……ぼっちプレイヤーの昔話でよけりゃ」

 

思い老けていると、彼はいつの間にか征達と談笑していた。

…………人柄は良いからな、女性関係は悪い方向へ向かってるけど。

 

「(…………もし全国へ僕達が届くのなら)」

 

まだ見ぬ強敵達と、更なるサッカーを……進化を。

僕は出来ないけど…………それを必ず見届けたい……!!

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

《雷門中 サッカーグラウンド》

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふっ!」

 

「……珍しいなハル、残ってシュート練習なんて」

 

「あ、蓮さん…………練習って程でも無いです、ただ何となく撃ってるだけなんで」

 

「そうか、でも少しとはいえそんな姿を見て安心してるよ」

 

「どうも」

 

「…………南雲原の事を考えていたからか?」

 

「…………そんな所です、なんだか笹波雲明の事が頭から離れなくて」

 

「よっぽど印象的だったんだな、もし彼らが全国へ来た時が楽しみじゃないか?」

 

「……かも、ですね」

 

「(…………そして、ベンチに居ながらハルが意識を向けた黒景流………お前は一体何者だろうか)」

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《帝国学園 サッカーグラウンド》

 

 

 

 

「…………また彼女、練習に来てませんでしたね」

 

「……全く仕方の無い子だ、協調性なしの超天邪鬼………僕の世界の一部になるのはもう諦めてるよ」

 

『でもよアリス!アイツの能力使わないってのは損とかそんなレベルじゃねぇぞ!』

 

「分かってるさ、だからこそ考えている…………いずれ、円堂ハルと戦う時までには」

 

「…………帝国学園開闢以来、ポジションは違えど……鬼道有人と並びかねない新星ですからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気分乗らないなぁ」

 

「もっとサッカーしたいのになぁ」

 

「円堂ハルも良いけど、他に居ないかなぁ」

 

「ボクと同じかいぶつ」

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

「…………やっぱり、凄いな……流」

 

放課後、制服姿に着替えて校舎から出る。

私達の個人技選手権が終わった後の、流と北陽メンバーの対決を思い出しながらそう呟く。

 

一見無謀にも見える対決だったけど、私を含めた南雲原の皆は勝つんだろうなぁ……って思いながら観戦してた。

結果、案の定だった。

 

昨日まで憎たらしく思えた北陽のみんなの事が可哀想と思えるレベルで蹂躙されてた、初めて流とバトルした時を思い出す。

 

そして彼らが下した評価は……南雲原のサッカーモンスター。

 

即ち、あの円堂ハルと同じレベル。

 

…………正直私達は、だろうなって感想しか出なかった。

 

そう言われたとしても納得せざるを得ないくらい、彼の無法振りは今日までずっと見てきたから。

…………まだ遠いなぁ、追いつける気しないや。

 

…………そう思うと、また胸が騒つく。

悪癖がまた出そうだ、あぁ…………。

 

「…………そう言えば、消えたな、痕」

 

あの時衝動で付けてしまった噛み跡、完全に消えてた訳じゃないけど、よく目を凝らさなきゃ見えない程に無くなっていた。

申し訳ないと思ってる、そんな事をした自分を恥ずかしくも思ってる。

 

けど同時に、寂しさも覚えた。

 

…………まるで、私のモノだって言う証が、消えたみたいで。

 

「………………つけたい」

 

そんな言葉が零れた。

………………結局、そうそう変われないって事なのかな。

 

…………こんな私、嫌なんだけどな…………はぁ。

 

「…………雲明君、どんな用なんだろ」

 

そう、私は今サッカー部の部室へ向かっている。

解散する前に、私一人に用があると伝えられたからだ。

 

流は既に帰っている、北陽の皆と話をすると言って。

それはいい事なんだけど…………と、思っていたら到着した。

 

恐らく彼も中に居るんだろうな、そう思って扉を開ける。

 

「…………来ましたか、忍原先輩」

 

北陽の皆によって整頓された部室の中で、雲明君は立ちながら待ち構えていた。

 

「うん、待たせてごめんね」

 

「いえ………忍原先輩、扉の鍵を閉めて貰ってもいいですか?」

 

「え、なんで?」

 

「大事な話なんです、誰にも聞かされないようにしないと」

 

「…………そう、なの」

 

真剣な目つきでそう言われて、私はその言葉に従い鍵をかけた。

…………大事な話って何?何か怒らせるような事、したかな?

 

思い当たる節を頭に浮かべながら、再び彼に向き直る。

 

「雲明君、大事な話って?」

 

「……その前に言っておきます、ごめんなさい」

 

「……えっ!?」

 

いきなり雲明君は頭を下げて謝ってきたもんだから、声を上げて戸惑ってしまう。

な、なんで謝るの!?別に何もされてないのに、ていうか寧ろ私が迷惑を掛けてるまであると思ってるのに!?

 

「な、なんで!?なにかしたっけ!?」

 

「今からするからです、貴女の核心に……僕は触れるから」

 

「……核心?」

 

私の核心…………それは、流の事?

 

「…………忍原先輩、単刀直入に言います」

 

雲明君は顔を上げ、私を強く見据えて告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより部活動内で黒景先輩との交流を…………禁止します!!」




黒景流/笹波雲明
南雲原のサッカーモンスターとそれを導くキャプテン。
2人が産む進化は、南雲原を更なるステージへ進ませる。


円堂ハル/月影 蓮
最強の遺伝子を受け継ぐサッカーモンスターと最強サッカー部のキャプテン。
しかしその熱が灯るのは、まだ先。


不破アリス/???
不思議の世界の支配者と、その世界に眠れるかいぶつ。
その戦いは、まだ先。


忍原来夏
死刑宣告。
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