忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが? 作:グラビトン
前も言いましたが、東風異国館は長くなりそうです。
キーンコーンカーンコーン…………
学校のチャイムが鳴り響く、4限目の授業が終わりこれより昼休みだ。
皆昼食に向けて動き出す、ウチも外で静かに食べよう。
弁当箱を手に持って教室から出る、天気も良い………何時もは七南さんが昼食に誘ってくれたりするが、今日は無いらしい。
まぁ四六時中ウチ見たいな能面女と居るのも疲れるだろう、仕方ない。
「なぁ最近のサッカー部やばくね?フトフロ勝ち上がってんだろ?」
「あぁ、俺も試合観に行ったんだけどすげーぞ?出来たばかりとは思えないよマジ!」
「桜咲って人ただの不良と思ってたけど、シュートする時めっちゃかっこよかったよ!」
「それ言うなら四川堂君も凄いよ!?技出す時なんか和服見えるもん、凄くメロいもん!」
廊下を歩く度にサッカー部の噂が耳に入る。
少し前までは誰もサッカー部の話題など過去の事情も相まって上げるものなど居なかった、腫れ物扱いだったから。
しかし今ではどうか、既に南雲原中の話題の中心はサッカー部だ。
ウチも頑張っているから、こうして認められているのは素直に嬉しい気持ちになる。
…………次は3回戦、外国人留学生の多い東風異国館。
強みはその圧倒的なフィジカル、純日本人と比べたらその巨体と体幹は圧巻の一言に尽きる。
今日の部活動ではその対策をキャプテンから報じられる、監督対決は引き分けに終わったけど……下鶴監督はキャプテンに託して去っていった。
あのモンスターを上手く扱えるのは、キャプテンしか居ないと…………それは確かに同意だ。
彼一人居れば3回戦の勝利は確実だが、恐らく入る事は皆無だ。
だからこそウチらが奮闘せねばならない、後輩の為も気合いを入れなければ…………。
「…………あの、小太刀先輩」
するといきなり背後から声を掛けられる。
思わず立ち止まり、振り返るのに時間が少し掛かった。
何故なら、その声の持ち主が…………ウチに声を掛けるとは思わなかったからだ。
「…………忍原、さん?」
そう、忍原来夏。
ウチと同じサッカー部のチームメンバーで、ウチが慕う後輩の幼馴染み。
正直な話、ウチは彼女の事をあまり好ましく思っていない。
嫌い…………と言われてしまえばそうかもと答えかねない位には、理由は黒景君に対する数々の素行、あの首の傷が消えても許そうなんて思えない。
そして彼女とはサッカー部の中で1番交流が無い、話し掛けることも無いし練習を共にしたこともない、最低限の挨拶と礼節だけ……恐らく彼女の方でもウチの事は好ましく思われて無いはずだ。
…………だからこそ驚いている、ウチにこうやって声を掛けられるなんて今まで無かった、どう反応すれば良いのか…………というか、何の用なのだろうか?
「…………えっと、どうしたの?」
とりあえず、理由を尋ねた。
すると彼女は視線をあちこちに動かして、身体がモジモジと揺らす。
そんな気まずい時間が流れ…………意を決したかの様にウチを見据えて、後ろに手を回してた物をウチに見せてこう告げた。
「お、お昼っ!一緒に食べません!?」
「……え?」
◾︎◾︎◾︎◾︎
今日は快晴のお天道様だ、季節的に何故か嫌に熱くない、丁度いい陽射しが外を照らして吹く風も心地いい。
こんな日は外で飯を食うのはロック…………じゃねぇな、乙ってやつなんだろうな。
オレも七南に誘われて飯を一緒に喰うことになった、今日はより美味く飯を食えそうだ…………。
「(そう思ってたんだが…………)」
「(なんだろ、アレ…………)」
オレと七南は飯を食う場所を探していると、それは視界に入ってしまった。
そこには…………オレと同じサッカー部の忍原と小太刀先輩が一緒に飯を食っている光景だ。
一瞬目を疑った、あの二人は会話も交流も皆無、そんでもって同じ相手を好きになってるとか言う地獄みてーな冷戦状態となっていた。
そんな2人が共に昼飯とってやがる、どうなってんだ?夢でも見てんのか?
つーか………………さ、なんだよアレ。
「「(きっまずっ…………!?)」」
見掛けた時点で会話が見られない、ていうかしてない。
互いに黙々と飯を食べ進めている、二人の目はなんだか死んでいるし、顔も居づらさが諸に出てやがる…………なんだこれは、地獄か?
傍から見てるオレらでさえ冷や汗をかき始めた、見てらんねぇんだけど…………ていうかどんな状況だよ!?なんであんな事なってんだ!?
「み、美哉先輩、どうなってるんですかアレ……!?」
「オレに聞くんじゃねぇバカ!あの二人が飯食うなんざどんな経緯があったんだよ、それでいていつも見てーに話すことなんもねぇし、見てて苦しいんだが……!?」
物陰に隠れながら言い合う、距離自体はあるから気付かれないとは思うがよ……ホントになんであの2人一緒になってんだよ、何があったマジで?
「…………」
「…………」
「「あのっ」」
「…………何?」
「……そっちから良いですよ?」
「…………なんでもないわ」
「……そう、ですか」
「「…………ぅわ」」
地獄みたいな会話を聞いてドン引きの声が一緒に漏れてしまう。
2人ともコミュ障とかじゃねぇのに、話そうとした瞬間が被ってやがる、気まずさが加速しやがった。
………………でも、互いに会話をしようとしたってことは…………距離を縮めようとしてんのか?
「…………せ、先輩、どうします?なんだか2人なりに頑張ってそうな感じですけど……?」
「…………行くか、あそこに」
「ほ、ホントですか……!?私正直鞘先輩と一緒とは言え、あんな空間で1秒も居られる気しませんよ……!?」
「オレだって無視してーけどよ、仲間があぁしてんなら助け舟位だすのがロックってもんだろ……よし、行くぞ七南……!」
「……分かりました!古手打 七南、お供します!」
昼だってのにまるで戦場へ向かう表情になって、意を決し2人の元へ行く。
とりあえず、少しでも仲を取り持つようにしねぇとな……!
◾︎◾︎◾︎◾︎
「や、やっぱ黒景ってやべーよな、11人相手を蹂躙するとかロックなんてもんじゃねぇよな」
「で、ですねー!頼もしいのは間違いないんですけど、敵だったらと思うと恐ろしいですよね!鞘先輩!?」
「……そうね、流石黒景君とは思うわ」
「…………流はもっと強くなれるらしいし、私も早く追いつかなきゃ…………」
「…………あの強さに追いつくなんて普通無理だと思うけど、備わってるものが違いすぎるわ」
「……だとしても追い付きます、誰よりも早く」
「……そう」
「………………」
「………………」
「「(………………やめとけば良かった…………)」」
「……地獄だ」
木の陰に隠れながら、目を背けたくなる様な空間を冷や汗をかいて眺める。
僕が見ているのはのどかなランチタイム等ではない、少し違うと思うけどまさに修羅場、と言えるだろう。
忍原先輩と小太刀先輩、あの二人の間の溝は簡単に埋まりそうにない………星先輩と古手打さんも知らずに助け舟を出してくれてたが、既に後悔しかけてる…………そうだ、あの二人には後で事情を説明しておこうかな。
…………でも、勇気を持って小太刀先輩に話し掛けたんだな、忍原先輩……それだけでも1歩前進と言える。
東風異国館との試合の日までに、少しでも歩み寄ってくれればな。
「…………それでもまだまだ、これからなんだよな」
これだけじゃどうしようもない、もっときっかけを作って、1歩でも仲を進ませ無ければならない。
あの二人の為にも、チームの為にも。
ていうか、なんで僕がこんな事してるんだよ…………チームの為とはいえ、元はと言えばあのクソボケ切り札先輩のせいでじゃないか殆ど……!!
「………恨みますよ先輩………」
恨めしい無表情な顔を脳裏に浮かべながら……昨日の出来事を思い出す、それは僕が勇気を持ってサッカーをやり直す日の次に、勇気を出した瞬間だった。
「詳しく」
「説明して、雲明君」
「私は今冷静さを欠こうとしてる」
「説明します、1から100まで説明しますから一旦肩から手を離してください、そして離れて下さい、痛いし顔も瞳孔が開いて怖すぎます」
それは部室での出来事だった。
僕が意を決して黒景先輩接近禁止令を出すと、忍原先輩はすかさず距離を縮めて僕の両肩を強く掴んで顔を近づけてきた。
忍原先輩の顔を怖いと思う日が来るとは思わなかった、恋は人をここまで狂わせてしまうのか。
…………この人の場合は色々と仕方のない部分はあるが、そういう意味では黒景先輩を責め立てるのは違う気がするが…………責めるけど。
とにかく落ち着かせて手を離してもらい距離を取る、忍原先輩は………一周回って冷静になっている、目は据わってて光は失われてるけど。
…………さぁここからだ笹波雲明、しくじるなよ……!
「……忍原先輩、僕は貴女が黒景先輩に対してどういう気持ちなのかを知ってます…………貴女の事は以前調べてたし、今までの行動からそれに気付くのは容易でした」
「本来僕に、貴女達の関係へ口出しする権利はどこにもありません、例えチームを預かる監督の身だとしてもです…………けど、言わせてもらいます………自分でも分かっているでしょう、このままじゃダメだと」
「……っ」
「僕は恋愛を経験するどころ初恋すらありません、だから貴女の気持ちを測る事は出来ない…………それでも理解できます、貴女の彼に対する気持ちは異常だ」
「……………」
「今となっては人目も憚らず距離がどう考えても近すぎます、それをよく思わない人だって居ることは…………先輩だって分かるはずです」
「…………うん」
「…………黒景先輩から、離れたくないですか?」
「…………うん、何処にも行かせたくない、ずっと隣に居たい」
彼女は何の躊躇もなくそう告げた。
…………やっぱり異常だな、黒景先輩に対する執着が。
過去からなる自己形成により、忍原先輩の世界が彼を中心にして回っている………遠くない未来で結ばれるのならそれでいいかもしれないが、今この瞬間……何か間違いを犯せば一生先でも取り返しがつかなくなってしまう。
それはサッカー部も同じ事、過去のような虚偽だったとはいえ不祥事を起こしでもすれば、今までやってきた事全てが水の泡だ。
だからこそ躊躇うな、彼女の心にもこのままじゃ行けないという思考があるのなら、それをもっと刺激させろ。
「僕は貴女に感謝してます、貴女の知名度と人気が無ければサッカー部の評判は今程良くなっていません」
「………雲明君」
「これは余計なお世話です、忍原先輩からしてみれば邪魔しないで欲しいと思ってる事だと思います…………でも、僕はこのまま歪んでいく忍原先輩を見たくないんです」
「……っ!」
これは僕の本心だ、感謝しているからこそ彼女には少しでも真っ当な交際をして欲しい、後は彼を生贄にするだけなのだから。
でもその前に、彼女の心のつっかえを取り外さなければ。
「……ごめんなさい、そこまで言ってもらって………君の言ってることは正しいよ、けど………」
「…………突然話は変わりますが、貴女は小太刀先輩の事をどう思ってますか?」
「……えっ?なんで、いきなり?」
「忍原先輩なら分かると思いますよ」
「……それは」
「とにかく正直に話してください、その事を誰にも公言しません、約束します」
僕はそう区切ると忍原先輩は視線を泳がせて言葉を探していた。
…………そう、今の忍原先輩の歪みに拍車を掛けているのが小太刀先輩の存在だ。
彼女もまた黒景先輩に恋をしている、それは何処にでもある様な普通の恋愛感情…………正直言って、忍原先輩とは雲泥の差だ。
忍原先輩もそれを自覚しているから、自分の様な異常な恋ではなく小太刀先輩の様な通常の想いの方が良いのだと、黒景先輩の様な乙女心を察する能力が皆無なクソボケでもそっちの方が惹かれてる可能性があるのかもしれないと。
故に忍原先輩の中では小太刀先輩を複雑な感情で見据えているのだろう、まずはそれを確認したいが…………話してくれるか?
「…………あの人の事を別に嫌ったりはしてないよ、というか勝手に流を盗られるかもって私が警戒してるだけだし、あの人は何も悪くないから…………」
「…………そうですか」
その言葉を聞いて僕は内心ホッとしていた。
忍原先輩は誰かを無条件に嫌う人じゃないことを知っている、小太刀先輩の事をそう考えているなら問題ない。
「話を元に戻しましょう、忍原先輩は彼を想うあまり少しでも離れたくないと考えている………それははっきり言って、依存と束縛です」
「………うん」
「この状態が続くのは良くないと貴女も思っていることでしょう………だからこそ部活内だけでも彼と離れて、黒景先輩の居ない恐怖を克服してもらいたいんです」
「克服…………」
「その為に忍原先輩には、部活の特訓で僕の指示を聞いて欲しいんです、これで完全に依存の状態から回復するとまでは言えませんが、そうする事で多少はマシになれると思ってます」
「ほ、本当?そんな事出来るの?」
「良くも悪くも、忍原先輩自身に左右されますけどね」
「………教えて雲明君、私だってこんな自分嫌なの、このままだと流に対してまた酷いことしちゃう………それを耐えられるなら、何でもするから!」
…………なんでも、か。
その言葉、覚えましたよ。
「では、まず…………」
「明日から忍原先輩は、東風異国館の試合までに………小太刀先輩との交流を深めて下さい!」
勢い良く指差しをして忍原先輩に告げる。
僕の言葉を聞いた忍原先輩は、呆気に取られていた。
「………え、えぇ!?」
「明日から休み時間でも部活でも、後放課後にでも遊びに誘ったりご飯食べたり、一緒にサッカーの練習をしてください、学校のある日、部活のある日には必ずです、これまで関わらなかった分だけ小太刀先輩と一緒に過ごしてみてください」
「え、えっ?ちょ、ちょっと待ってよ雲明君!?私の悪癖の克服をするのに、なんで小太刀先輩が関わるの!?」
「これも大事な事だから、ですよ」
慌てふためく忍原先輩を見ながら腕を組み、冷静に説明を始める。
それは少なからず、今の忍原先輩の状態には小太刀先輩が関わっているからだ。
「忍原先輩が現在、黒景先輩に対する執着が強まっているのは、小太刀先輩の意思の有無関係なく関わっているからですよ」
「どういう、こと?」
「言わば貴女にとっては、彼女は恋敵という存在、ギャルゲで言うなら黒景先輩という主人公を取り合うヒロイン同士って奴です」
「………それは合ってるかもだけどさ、そう言われるとなんか恥ずかしくなってきたんだけど」
「実際そうじゃないですか、傍から見たらそれにしか見えません」
「う、うぅ」
顔を茹でたこみたいに赤くして、心做しか僕のよく知る忍原先輩になりつつあるのを見ながら話を進める。
「貴女は小太刀先輩の事を嫌ってないとは言いましたが……心のどこかで敵だと思っている、違いますか?」
「それは……その……」
「僕も恋敵と言ったので間違いではありませんが……それと同時に彼女は僕達の仲間です、同じ南雲原イレブンのね」
「だからこそ彼女の事を知ってください、彼女は敵じゃないという考えを持ってください、幸い貴女達には共通点もありますし」
「………それは、同じ人を好きになっていること?」
「それもあります、それに関しては明日からの交流で知ってください」
「………………」
「………………返事ッ!!」
「は、はいっ!!」
「よし」
多少強引だけど了承してくれた、なんやかんやで彼女も小太刀先輩の事で少しは悩んでいた、それを解消することでこの現状も良くなる筈だ。
後はこちらでも色々と仕込みをしよう、そして…………この状況を活かして、次の試合も勝つ。
「………ところで先輩、僕は部活動内で黒景先輩との交流を禁止するとは言いましたが、それ以外ではどうするつもりですか?」
「え?…………えっと、もしかしたら、また近寄っちゃう、かな」
「でしょうね………………さっき、耐えれるならなんでもする、と言いましたよね?」
「言った、ね………………あの、雲明君?」
「はい」
「なに、させる、つもりです、か?」
さっきまで顔を赤くしていたのに、今度は段々と青ざめている。
どうやらこちらの意図を察したようだ、僕は敢えて…………笑顔で話そう。
これからの期待を込めて、有無を言わせぬ気持ちを込めて。
「先輩…………外でも、黒景先輩と関わるのも、3回戦が終わるまで耐えましょうか」
「…………へ、ぇあ、え?」
「よくよく考えたら、部活をしてる間だけなんて反動が来ても可笑しく無いですからね、徹底的にやりましょう、貴女の為に」
「……ぁ、え、まっ、待って、それはその」
「自分で吐いた唾を飲んではいけませんよ忍原先輩、僕も黒景先輩には事情を説明します、小太刀先輩には話せませんが彼とは部活内じゃ極力関わらせない様に調節します、もちろん僕も助力を惜しみません、共に乗り切りましょう」
「ぁ、あ、ぁ、ま、む、むり」
「無理?無理と思い込めばやれる事なんてありませんよ?やろうと思えばやれるんです、貴女はそういう人だ、目標に向かって頑張りましょう…………返事は?」
「あ…………は、あ…………」
「返事、は?」
「…………はぃぃ」
「よろしい(どうせ後の被害は全部黒景先輩に行くからな)」
ぐるぐるな涙目になりながら腰が抜けてへたり込む忍原先輩を横目に、僕はこれからのプランを構想するのであった。
…………あぁ、やる事が、多い。
◾︎◾︎◾︎◾︎
「ではこれより、東風異国館の攻略法を説明する」
私、忍原来夏は昨日、魔王様を見ました。
私の為の事と仰ってました、それはとても嬉しいのですが、その過程で私はもう潰れそうです。
昨日の雲明様はとても怖かったです、とても持病を患ってるとは思えなかったです。
今日のお昼、言われた通りに小太刀先輩を誘ったまでは良いのですが、そこからの空気がとても地獄でした。
話す話題が何故か口から出ず、思い切って出そうとしても何故か毎度被るし、星や古手打さんが手助けしてくれたのは良かったのですが、私達の地獄みたいは昼ご飯に巻き込んでしまいとても申し訳なく思ってます。
結局お昼は何事もなく終わりました、もう二度とあんなの嫌なのですが、私は私の為に頑張らなくては行けません、そして今日…………時間は遡るのですが、朝は超久々に一人で登校しました、とても寂しかったです。
流とも多分今日は会話をしてないです、恐らく彼にも雲明君の指示が来ているのでしょう………………襲いたいです。
既に限界の状態な私と対極的に、いつも通り眠そうな顔です…………許せません。
「(…………いけない、もう現実逃避はやめろ私)」
これから大事な3回戦の攻略だと言うのに、この調子のままじゃ結局皆に迷惑をかける、一旦忘れろ……集中するんだ私……!
これが終わった後も小太刀先輩と初の練習をするんだ、とにかくあの人に着いていかなきゃ…………切り替えろ……!
「先程も申した通り、敵の全選手はフィジカルとセンスはずば抜けてます、しかしそれが余りにも高すぎる故に戦術を必要としていない…………だからこそ僕らは、タクティクスでそれを迎え撃ちます」
「そしてこれが、僕達が次の戦いに望むためのフォーメーションです」
雲明君がそう言うと、プロジェクターから私達の陣形を載せた映像が写し出された。
今回は北陽の人達ともプレーするからね、スタメンの変更もやむ無しだろうね、さてどんな……………………どん、な…………………………。
「…………は?」
「あれ!?」
「んだこりゃ!?」
「な、なんで……」
「鞘先輩と忍原先輩が、トップフォワード2人!?」
古手打さんがそう叫んでいた。
そう…………本来は、私と桜咲が南雲原のダブルフォワードが定石なのに、写し出さていたフォーメーションは、私と小太刀先輩が共にフォワードとして配置されている図だった。
「…………ええっ!?」
「……な、なんで?ウチのポジションに、桜咲君が……?」
「おい雲明!なんだこれは!?俺がミッドフィルダー!?」
「俺もミッドフィルダーなの雲明!?」
「…………とりあえず落ち着いて下さい、ちゃんと説明します」
桜咲と空宮の叫びに、雲明君は想定通りと言わんばかりに動じない、皆は気になりつつも落ち着いて立ち上がった席に座る。
…………私は元からフォワードだけど、本来はミッドフィルダーの小太刀先輩がフォワードって…………まさか、ここでも昨日の話持ち込んでるの!?
「重ねて説明しますが、今回はタクティクスで勝つ寸法です、しかし敵の攻めにはある程度のフィジカルも必要になる…………よって体格と体力のある男性陣を下げて攻撃に備え、そこを俊敏性のある忍原先輩と小太刀先輩で攻め込む、桜咲先輩も隙さえあれば春雷を放ち、敵のゴールを奪う……これが今回の基本戦術です」
「フォワードに抜擢された2人はその足で極力フィジカルコンタクトを避けて、二人の息を合わせて敵陣を突破する、これが極めて有効的と判断しました」
「なるほどな………………しかしだ笹波君、2人は……その」
四川堂君がそこから言い淀む…………うん、仲良くないのは皆知ってるよね……北陽の人達はまだ分かって無さそうだけどさ。
「…………四川堂先輩、言っておきますけど…………2人は相性抜群ですよ?」
「……はいっ?」
「……え」
何を、言ってるの?
お昼見てないの?あれのどこを見て相性抜群なんて言葉が出るの?
思わず…………小太刀先輩の方へ視線を向ける、彼女の方も私と目が合う形になっていた。
「先日の個人技選手権……いつも通りのサッカーが出来ない状況で、あの時は忍原先輩と小太刀先輩がセットになって攻撃を仕掛けてました、本来桜咲先輩と忍原先輩のコンビは互いの持ち味を活かして攻め込む形ですが、女性陣2人の形になりますとまた話は違ってくる」
「ダンスで培った忍原先輩のしなやかな身体を活かしたプレー、敵の内心を見切り必殺技も無しに敵を抜き去り……本命の伝来宝刀でゴールを奪える小太刀先輩、そして二人の共通点として俊敏性が高い、敵からすればこれ程厄介なセットプレーはありません………でしょ、征?」
「……確かにこの2人の攻めは1番厄介だったな、あの時のアドリブっぽいけどちゃんとした形にすれば、更にまた強くなれる可能性は秘めてるよ」
ま、マジ?マジで言ってるのお二人とも……!?
…………言われてみれば、確かにあの時は結構やりやすかったけど………まさかあの人との相性がそこまで良いなんて…………あれ、まさか雲明君って、その事を知ってたから………今回の戦術として組み込むのも視野に入れて、私の克服ついでに小太刀先輩との仲を取り持つようにしてるの!?
「(…………気づいてるな忍原先輩、言ったでしょう……チームの為だってね)つまり……今回のキーマンは忍原先輩と小太刀先輩です、今日から貴女達2人は共同練習で連携の精度を高めてもらいます、他の人達も僕のトレーニングメニューに従ってもらいます」
淡々と話を続ける雲明君を見ながら、私は呆然としていた。
私達が、キーマン。
嘘でしょ雲明君…………そこまで、やるの?
笹波雲明
この時だけ魔王となって容赦なく二人の仲を縮めようとする、そしてあわよくばチームの強化も図っている。
忍原来夏
魔王に説き伏せられてしまった、もう逃げられないゾ♡
自分で言ってしまった事を貫き、この期間だけは主人公との交流はない…………あれ、タイトル詐欺じゃね?
小太刀 鞘
何も知らされてない小太刀先輩(15)
地獄のランチを経験し、この先が不安でいっぱい。