忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが? 作:グラビトン
そんで、俺バカだから今気づいたんだけどよ…………最近タイトル詐欺なんじゃねぇの?
一人の少女が居ました。
とある孤児院で育ったその子は、サッカーが何より好きでした。
朝も昼も夜もサッカーをしてました、そして周りの誰よりも才能に長けてました。
試合をすれば敵なし、味方は誰にも彼女に追いつけない、孤児院の子達も彼女には勝てません。
勝つのが当たり前で………彼女はサッカーがつまらなくなってしまいました。
そんな時、彼女は帝国学園というサッカーの名門校に招待されました。
自分の心を燃え上がらせるような、もう一度心の底から楽しませてくれるような、そんな凄くて強いヤツを求めて。
いつしか自分に言われた、そんな存在。
自分と同じ………かいぶつを。
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─────ここは、帝国学園。
かつてはサッカーの試合40年間不敗の伝説を築き上げた事があると言われてる指折りの名門校だ。
今は流石に無敗とまではいかないが、それでもそこいらにある学校より数段上の実力を備えている。
この学園自体相当巨大なマンモス校で、サッカー部の部員もそれはそれは多い。
チームも下からサード、セカンド、ファーストとランク分けされてるくらいだ、当然ファーストチームの方が強い。
今年も目指すはフットボールフロンティア本戦優勝、そして打倒………ライバルの雷門中だ。
「今年もフトフロ、うちは全国行けたらしいぜ?」
「まぁ昔から帝国ってサッカー強いしな、優勝全然ねーけど」
「でも雷門のサッカーモンスター、怪我で今大会出れないらしいからワンチャンあるんじゃね?」
「あー確かに………どうだろな?」
昼休み、廊下を歩いているとサッカー部に関する話題が聞こえてくる、まぁ今ホットではあるから当然なのだが。
雷門中は今、サッカーモンスターと言われてる円堂ハルが怪我して不在の状態らしい、それでも強敵には代わりないだろうが。
………………しかし、そのせいでこちらの天邪鬼が完全に機能しなくなる恐れが生まれたのだ、なんともままならない。
「円堂ハル怪我ってどうよ、あんま大したこと無かったのかな?」
「さぁね、でもどんな凄い選手だって怪我するものでしょ、キーコ?」
「つーかそもそも!円堂ハルってプレーがなんか鼻につくのよねー、強すぎて熱が全っ然無いって言うか!テクニックは凄まじいけど!」
「まぁあれだけの才能があれば、そうなるのも自然じゃない?」
「ったくサッカーモンスターってのはどいつもこいつもわがままなのかなー、真凛!」
「私じゃなくてヒカリに聞きなさいよ」
スマホでSNSを見ながら歩く井野部キーコの隣で、私戦導真凛は円堂ハル関連の話を繰り広げていた。
キーコはサッカーの試合の評論をSNSで投稿する趣味があるのだが、それが建前お世辞一切無しの辛口評価、一歩間違えれば炎上するほどの危うさがあるのだが、これが意外と評判が良いのだ。
キーコとは同じ一年だが、入部してすぐファーストチームのスタメンに入るという実力者であるから信頼も強いのだろう、私も一応ファーストだけどベンチだ、ゴールキーパーだし。
「てかヒカリ、ランチの約束忘れてるわけじゃないでしょーね?」
「多分もう予定の場所で食べてるんじゃない、彼女動かない癖に食べる量は人一倍………いや2倍?そのくらいだから」
「いっつも練習サボる癖に」
私とキーコはもう一人の同い年とお昼を食べる約束をしてたのだが、どうにもその一人が見当たらない。
推測としては既に屋上のテラスで先に食べてると予想している………と、そうこうしてる内に屋上の扉を開けて、立派なテラスが目の前に広がる。
中々ロケーションが良く、生徒達にはランチの場として凄く人気なスポット………辺りをキョロキョロと見渡し、それは目に入った。
椅子ではなく広いスペースのエリア、靴を脱いで座りながらおにぎりを食べている………後ろ姿で白い髪のポニーテールを下げた女子生徒が。
「やっぱり居た、もう食べてるわね」
「ったく、おいこらヒカリー!」
約束の3人目を発見し、私たちはそれに近づく。
その子は未だにおにぎりを食べていた、その隣にあるのは購買で買ったであろうパンとかおにぎりとかお菓子とか飲み物がいっぱい詰まっており、とても一人で食べる量とは思えない、しかもこんなに華奢なのに。
「………んぅ?」
私達にようやく気づいたのか、食べながらその子は振り向いた。
先程も言った白い髪、全体的に毛量が多くふわふわしている。
その下の瞳は水色、顔は少し幼さを感じるがまるで人形のように整っている、そしてまつ毛も白い。
口に米粒をつけてもぐもぐと食べる様は小動物的愛らしさを感じる。
「おふぉふぁっふぁねふはり」
「食いながら喋るな!飲み込め!」
「…………ごっくん、遅かったね2人」
「ヒカリが先に食べてたからでしょ?今日も相変わらず食べる量多いわね」
「何もしてないのにお腹はすくもん」
「あんたはそれが異常なのよ!」
キーコのツッコミを聞きながら、私達も靴を脱いでその場に上がる。
毎日結構食べてるのに全然太る気配ないし、どんな身体してるの全く………。
「ボクのこれはフツーだよー」
「てか米粒とれ!みっともない!」
「どーせ後で食べるし、ていうか今食べますしー」
そう言って別のおにぎりの封を切る、これで何個目だろうか、傍にはその封のゴミがちらほら見掛けていた。
「………全く、こんなのが今の帝国最強なんて信じられないと思わない、真凛?」
「………でも私達は知ってる、この子がどれだけサッカーにおいてイカれているかをね」
「んぅ、ふぁに?」
「食いながら喋るなっての!」
……………彼女の名は、
私たちと同年代、基本的に呑気でマイペース、その可憐な見た目とは裏腹か、もしくは合っているか知らないけど超がつくほどの天邪鬼。
私達と同じサッカー部、そしてファーストチームに属している。
そして………天河ヒカリを知るものは、口を揃えてこういう。
〈帝国のサッカーモンスター〉と。
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「………ごちそーさま、お腹いっぱーい」
「どんっっだけ食べてんのよ!おにぎりとパン私達来てからそれぞれ3個は食ったよね!?オマケにお菓子!何時にも増して多くない!?」
「お腹すくし、てかキーコが少食なだけだし」
「あんたと比べんな食欲モンスター!」
「真凛ー、キーコこわーい」
「あっ、もう………」
ヒカリはそう言うと私の膝に頭を乗せてきた、もう……下手すれば下着見えてしまうのにはしたない。
彼女は何かと私の膝を借りて枕にする、彼女にとっては寝やすいのだろうか?
「あー落ち着くー」
「もう、いま男子居ないから良かったけど、見えてしまうわよ?」
「見られても別に減るもんじゃないし」
「減るっての、あんたの何かじゃなくて男子の理性が」
文句を言いながら一応キーコはヒカリのスカートを正した。
私と違って可愛らしい見た目だからヒカリの隠れファンは多い、本人は気にもとめてないけど。
頭の中はサッカーでいっぱいらしい、とはいえ最近………というか入部してから一緒に練習なんて数えられる程度しかないけど。
「………ヒカリ、一応聞くけど練習来ないわけ?もううちら本戦に出れるけど」
「勝ったんだ、まぁ当然か………後いかない」
「知っとけよ自分のチームだぞ、あんたさぁ………最近またやる気消えてない?」
「だって別にボク居なくたって帝国強いじゃん、大抵のチーム倒せるし………ボクが居たらまたつまんなくなるぞー」
「強くなれるに越したことはないでしょ?ヒカリ居たら本戦だって優勝間違い無しよ?」
「優勝よりも、ボクはかいぶつとヤリたかった」
「………円堂ハルが出場不可と聞くや否やこの有様、どんだけ試合したかったんだよこのサッカージャンキー」
「ジャンキーじゃない、かいぶつだよキーコ」
「はいはいサッカーモンスターちゃん、そして超天邪鬼ちゃん!」
「はは………」
いつものように不機嫌になるキーコに苦笑いがこぼれる。
キーコはヒカリを嫌ってる訳じゃない、そうでなければこうやって一緒にお昼を食べたりしない。
純粋に同じ1年で、同じサッカー部の同じチームとして彼女の事を気にかけている、それは私も同じだ。
こうやって練習に来ることを催促するのも何度目か、成功した試しは無いが。
………………こんな子だけど、サッカーに置いて無類の才能を誇っている、それこそ………あのサッカーモンスター、円堂ハルに勝るとも劣らない程に、鮮烈で凄まじい力を秘めている。
初めてそれを目の当たりにしたのは、入学当初のサッカー部入部試験。
私とキーコ、そしてヒカリは同じチームでファーストチームと試験試合をした。
私はキーパー、キーコはディフェンダー、そしてヒカリはフォワード。
それぞれのポジションに位置し己のスペックを証明する為奮闘したのだが……………彼女は、とんでもないことをした。
ファーストチームからボールを幾度となく奪い、そしてそのまま誰にも取られず。
スタメンのキーパーから、ひとりで10点以上のゴールを決めた。
最初に見た時の衝撃は今でも忘れられない、圧倒的なんてものじゃない、その見た目から想像も出来ないほどの化け物っぷり………時を待たずして、帝国サッカー部の皆は彼女を帝国のサッカーモンスター、鬼道有人に並ぶ超新星と讃えた。
しかし彼女にとってはそんなものどうでも良かったらしく、ただただ強い相手とのサッカーをひたすら望んでいた。
ヒカリ程の強さ以上の相手なんて海の向こうくらいしか居ない、日本だとそれこそ円堂ハル位しか居ないのだが………そいつは今や復帰不明という状況、彼女のひと握りのやる気はそれで失われ………今となっては練習に来ることは無くなった。
強い相手を求め、孤児院からこの帝国学園に来たらしい。
だとすれば気の毒としか言いようがないが、どうにかならないものだろうか。
円堂ハル並の強い選手が来れば話は変わるだろうが、そうなったこちらにとってはありがた迷惑と言う他ない。
「あーあ………円堂ハルとサッカーしたかったなぁ………でも怪我するくらいならあんま大したこと無かったのかなぁ」
「円堂ハルとやりたいとかあんた位よ、別に強すぎても良くない?悪いことじゃないわよ」
「ボクは良くない、昔みたいな楽しいサッカーがしたいの、ボクのようなかいぶつが欲しいの」
「ヒカリ程なんて、円堂ハル以外に今の日本に居るかしら」
「居て欲しいなぁ………キーコ、なんか面白そうなチーム無い?」
「面白そうなチームね………あ、これとかどう?」
キーコはスマホを操作して、私と未だに膝に頭を乗せているヒカリに画面を見せる。
それは試合中、フットボールフロンティア予選だろうか?見覚えのないチームが映っていた。
「見て欲しいのは白いユニフォームのチーム、九州の南雲原ってとこ」
「聞いたことなーい」
「最近復活したらしいから無理ないわよ、とりあえず見てて、後相手も」
「相手………体格凄いわね、ていうか殆ど外国人?」
「東風異国館よ、海外の留学生が殆どのチームで今までの試合はそのフィジカルで勝ち上がってきた、バカの脳筋集団よ」
「へぇ……でもなんだか、善戦どころか苦戦してない?」
「そう!脳筋でも実力自体はあるのにも関わらず、南雲原はこの試合4-0で無失点勝利したのよ、この2人が今回のキーマンよ」
キーコがそう言って映し出されたのは、ピンクの髪のポニーテールの子と金髪の後ろ髪の三つ編みが特徴的な綺麗な女の人。
俊敏性の高い動きで敵のフィジカルコンタクトを避けながら、阿吽の呼吸でフィールドを駆け抜けていく………これが最近復活したチームの動き?そうとは思えないくらい洗練されてるけど。
「キーコ、このチームどう思う?」
「最近見た試合の中では中々面白いと思ったわ、この2人以外のメンバーも結構良さげで、中でもこの9番が………」
「雑魚じゃん」
「うぉい!せっかく見せたのに!」
「確かにちょっと見応えはあったけど、あの二人スローすぎ、敵も遅すぎ、話にならない」
「ちょっとヒカリ、言い過ぎ」
「ホントの事言っただけだし……………はぁ」
憂鬱なため息をヒカリは吐く、そしておもむろに右手を天に伸ばした。
「ボクのようなかいぶつに、会いたいなぁ………」
切実な瞳で空を見上げるヒカリ、私たちも思わず天を仰ぎ………風が、その場を吹き抜けた。
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「やーっぱ今日もこねーなー、天河」
「へっ、あんなやる気のねぇチビ居なくて結構だっての」
「居たらお前の出番総取りされるかもだしな!」
「あぁ!?そりゃてめーもだろうが星見沢!!」
「へへ、否定はしねぇんだな霊道」
「うるせぇぶっ飛ばす!!」
「2人ともやめてください、みっともない………」
星見沢と霊道が何時ものバカをやっている所を本能寺が仲裁に入る、もう慣れた。
………しかしやはり彼女は来ないか、全く………このまま予選だけではなく、本戦にまで出ないつもりじゃ無いだろうな。
「アリス、本当にこのまま天河を放って置いていいのか?」
「いいも何もない、彼女の意思をねじ曲げてでも使っても無意味だからな」
『てめぇも少しはその頭働かせろや穂村!』
「ぐ………」
気怠そうに話している男の右手にはうさぎのパペット人形が着いており、まるでそれに意思があるかのように動いて話す、もう慣れた。
「しかし俺も彼女を取り入れた脚本を描きたいところだがな………お求めの円堂ハルが出ない可能性が高い以上、同じかいぶつが出る可能性に掛けるしかないな」
「そんなもの簡単に出るわけないだろう、このまま手詰まりか?」
『てめぇ聞こえてなかったのか!?掛けるつったろーがよ!』
「………何?どういう事だ?」
「……九州の南雲原を知ってるかい?」
「南雲原………あぁ、最近復活して勝ち進んでるルーキーだったか、それが?」
「俺は2回戦の時から目をつけててね、その頃に俺の世界の住人を一人送り込んだ」
「いつの間に………」
そう、我らが監督不破アリスはサッカーに置いて妥協を許さない、同じ帝国の人間を敵の学校へ転入させて弱みを探るなんて事は日常茶飯事だ。
「それで、どうしたんだ?」
『まだ期間があったのにも関わらずそいつ不審に見られて抑えられてよ!謹慎くらっておめおめと帰ってきやがったんだが、気になる事を言ってたんだ』
「……それは?」
「南雲原にも、サッカーモンスターが居るという噂だ」
「……………何!?」
思わず声をあげた、サッカーモンスター………それは即ち円堂ハルと、天河ヒカリと同等の選手がまだいるということと同義。
それもルーキーの南雲原に、居るだと?
「本当なのかそれは?」
「その時の記録は抑えられてたらしくて残されてない、しかし彼は熱心に語ってたよ………あいつは化け物だ、1vs11で圧勝していた、円堂ハルや天河ヒカリに勝るとも劣らないと……………それを確認するデータも何もない癖に言うものだから、少しお仕置したけどね」
「そ、そうか………お前は、どう見る?」
「どうも何もない、確認しない限り信じるつもりはない……………でも、もしかしたらもしかする、とは思ってるよ」
「………根拠のない話は嫌いなんじゃないのか?」
『バカが!今回も立派な根拠はあるわ!』
「っ………そ、それは?」
「穂村、お前はヒカリを見た時どう思った?」
「……どう、か」
当然、度肝を抜かれた。
あの時はただの試験を受けるプレイヤーの1人、そんな印象でしか無かった。
しかし蓋を開けてみればどうか、圧倒的な才能の暴力に俺たちファーストチームは為す術なく蹂躙された。
前置きも何も無く現れた、突然のモンスター………。
「……突然出現した、怪物だったと思う」
『つまりはそういう事だ!円堂ハルみてーな必然のかいぶつだっていりゃ、ヒカリみてーな突然現れるやつだって存在する!同じことが起きない可能性は無いって話だ!』
「……だからそれに賭ける、と……………だとしてもお前にしては珍しい言葉だ、不確定要素だぞ?」
「………ふっ………らしくないことは言ってる自覚はあるよ………それでも願わずには居られないのさ………彼女のような読めない存在は、見てて楽しいからね………使いたくなるのさ」
そう言ってアリスは笑う、楽しげな表情で………珍しい光景だった。
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少女は強くなり過ぎました。
いつしか大好きだったサッカーがつまらなくなってしまった事を、彼女は受け入れられませんでした。
………それでも彼女は求めました、同じ強さを持ったかいぶつを、そして最初は円堂ハルでした。
しかし彼女は、まだ知りません。
雑魚と吐き捨てた南雲原の中に、自分が求めていたかいぶつが居ることに。
そしてその出会いが………自分の全てを変えることを。