忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが?   作:グラビトン

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この話を除いて後1、2話更新したら本戦へ行こうと思ってます。
とりあえず予選編でやれることはやろう…………。


変わりゆくもの達にて

笹波にしばかれる一刻前にまで遡り、語ろうと思う。

俺達南雲原サッカー部は九州予選決勝の舞台にまで辿り着き………遂に、全国まであと一歩というところまで来ていた。

 

笹波が来るまではこの学校で全国を夢見れるとは思いもしなかった、絶対に負けられない戦い………皆の士気も最高潮に上がっていた。

 

そして決勝戦の相手は大海原中と言う、沖縄の学校だった。

毎年フットボールフロンティアには出場したりしなかったりする変わった所だが、その強さに関しては全国レベル………しかも、監督はあの円堂守世代のイナズマジャパンの一員として大活躍した綱海条介さんが率いている、文句無しに強豪と言える。

 

そして今日、その大海原中からビデオレターが届いた。

今どきビデオレターなんてな………野郎共は挑発だの宣戦布告だの、見る前から決めつけてた、そしてその中身を再生させると………皆は度肝を抜かれたのだ、俺を含めて。

 

何故かって?それは……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴメン!ほんとーにゴメン!決勝戦の日とうちらの村の海祭りの日が完全に被っちまった!うちらの村で海祭りを休むってのは、人間辞めるに等しいから出ない訳には行かなくてさ!だから………俺達大海原中は決勝を棄権します!南雲原の皆さんにはご迷惑をお掛けします!どうか俺たちの分まで頑張ってくれ!』

 

『おう頑張れよー!』

 

『九州代表頼んだよ!』

 

『都会もんに負けんな!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………いやぁ、動画が終わった後マジで静まり返ったね。

まさかまさかの決勝戦棄権だもん、噂には聞いてたけどマジでホントになんか………ノリで生きてるようなサッカー部だった、監督含め部員も棄権する事になーんの不満も感じられなかったもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………は?」

 

「え、え?え?棄権?決勝戦に、あの人ら出ないってこと?」

 

「じゃあ、つまり、俺達………」

 

「全国大会、進出、決定………?」

 

「……………決定、ですね」

 

 

「「「……………おおおーーっ!!!」」」

 

 

 

事実を受け入れるのに時間が掛かったが、なんと俺達は決勝を戦わずして全国への切符を手に入れた。

皆はその事に歓喜し声を上げた、何はともあれこの南雲原が全国へいける、とうとう………ここまで来れたのか。

 

皆は暫く騒ぎに騒いだ、その後落ち着き………笹波の話に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、何はともあれ僕達は今日この時点でフットボールフロンティア全国大会へ出ることが決まった、ここまで来れたのは皆の活躍あってのと事だ、ホントにありがとう」

 

「なーに言ってんだ、ホントの戦いはこれからだろ?雲明」

 

「はい、そして全国大会の開催は1ヶ月先、想定外の事も僕達は期間が大きく設けられた……………これはまさしく大チャンスだ」

 

「っつーのは?」

 

「本来であれば僕達は決勝の相手の対策をここで施し、それに基づいて特訓を始めてましたけど、先程の通り決勝は無くなった………つまりこれから僕達が行うのは、この与えられた1ヶ月間の期間をフル活用する強化月間を行いたいと思います!」

 

「なるほど、ここから全国に向けて更なるチームの強化を測るって事か」

 

四川堂が冷静に笹波の言葉を分析する。

大海原中の対策をしなくても良くなった今、俺達がするのはまだ見ぬ相手の対策ではなくチームの純粋なレベルアップ、たしかにそれは必要不可欠だ。

しかも1ヶ月の猶予がある、こんな事はそうそう起こるもんじゃない………大海原中には色々と感謝だな………まぁ、試合見てみたい気持ちもあったけどさ。

 

「はい、基本的にやる事は各選手のレベルアップ、前々からそれぞれに課していた課題のクリア、そして僕が実施するトレーニングをこなしてもらいます」

 

「皆さんは東風異国館との戦いにおいて、僕の想定以上の結果を示してくれました、ここから更なる成長を遂げて、全国と戦うための南雲原を作り………………そして、本戦で」

 

笹波は一度目を瞑り、俺に視線を向ける。

他の奴らも俺に視線を集める………なんか前にもあったな、こんな状況。

 

そんで笹波が言いたいのは……………もしかして、もしかすると。

俺がそうも思っていると、木曽路から声を上げた。

 

「う、雲明………つまり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………はい、僕は本戦で……………黒景先輩をこのチームに起用します!!」

 

「──────ッ!!!」

 

 

 

 

 

心臓がドクンと跳ねた。

思わず両手に、ありったけの力が入る。

 

………ようやく、ようやくか。

ここまで来て………ようやく、来た………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………待ちかねたよ、笹波」

 

「………えぇ、待たせてすみません………本戦で、思い切り暴れてください、黒景先輩」

 

「つ、遂に………僕らの怪物を出すレベルにまで行けたんだな、笹波君」

 

「ようやく日の目を見られるという事か、南雲原のサッカーモンスターが」

 

「すっげぇな!黒景が本格的に入れば、南雲原は敵なしじゃねぇか!?」

 

「確かに!これならどんな相手でも!」

 

 

 

 

「ダメです!!皆さん!!!」

 

 

 

 

 

俺の加入に皆が盛り上がっていると、笹波が息を吸って大きな声を上げ、皆はそれに驚き………先程まで騒がしかった部屋が、一気に静まり返った。

 

「……さ、笹波君………?」

 

「………全く、想定内の反応をしないでくださいよ」

 

古道飼が恐る恐る声をあげると、笹波は呆れたような表情で腕を組み、皆を強い目で見据え口を開いた。

 

「僕が黒景先輩を最初から起用しなかった理由、分かりますよね?桜咲先輩」

 

「………あぁ、俺達の中でも個人能力が高すぎて、未熟なチームじゃそれを扱えないって話だろ?」

 

あの中で騒がなかった1人である桜咲が冷静に答える。

そう、俺は最初から実力が飛び抜けすぎており、オマケにプレースタイルの弊害でチームプレーが満足に行えない、互いの成長を阻まない為にも俺はチームに入れる訳には行かないと、笹波は力説してた。

 

そして俺自身未だに公式な試合をしたことがない、ずっと南雲原の試合を間近で見てきてどうすれば良いのかは頭に入ってるが、実際やってみないと何処までやれるのかは把握してない。

 

「それも合ってます、しかし僕は同時にこう言いました………このサッカー部を、個の全体で勝つチームにしたいと………黒景先輩一人のワンマンチームではなくね」

 

「………つまり、何が言いたいの?」

 

「このままでは皆さんは今までのやり方を捨てて、黒景先輩頼りのサッカーをしかねないという事です」

 

「なっ………!」

 

「………実際、黒景先輩の実力は既に全国トップレベル………頼りたくなる気持ちもよく分かります、しかし仮に僕の恐れているサッカーをしてしまえば容易に対策されてしまう危険がある、それ抜きにしても彼の個人技は凄まじい………今のチームでは彼を受け入れる土台自体はできてます、しかしこのままじゃ結局、彼にこの南雲原サッカー部を丸ごと喰われかねないんです」

 

「………いやー、まぁ………俺も合わせるけど」

 

「どの口が言うんですか」

 

「うっ」

 

少し抗議するけど笹波の冷えきった声と視線で黙ってしまう、まぁ………笹波には自分をあまり抑えないと言ったばかりだしな、こうもなるか………。

 

笹波は俺頼りのチームにしないため、皆にこうやって警鐘を鳴らしている………まぁ桜咲、来夏、小太刀………じゃない、鞘さん、伊勢谷、空宮、品乃先輩は喜んでこそいたけど大はしゃぎしてなかったから、最初からわかってたんだろうな。

 

「そういう意味でも、全国までこの大きな期間を得られたのは本当にラッキーです………先輩の実力に今すぐ追いつく事は不可能ですが、皆が黒景先輩頼りじゃなく、チームとして勝つ為の強さを磨く………それが今の南雲原に必要不可欠なものです」

 

そして笹波は一度深呼吸をし、目を勢いよく見開いて宣言した。

 

「これより僕は!黒景流という南雲原のサッカーモンスターに皆が喰われない様に、今までよりもよりハードに、容赦なく皆さんに強くなるための特訓を課します!」

 

「全ては皆で全国の強豪と戦い、てっぺんを取るために!サッカー部一丸となって、強くなりましょう!!」

 

「「「「「「おおっ!!!」」」」」」

 

笹波の強い言葉に皆が奮い立ち、チームとして更に纏まりつつある。

やっぱ、熱いやつだよな………お前は。

 

「(………そして、来た、ようやく……………ようやくだ!!!)」

 

俺も内心でこれ以上無く熱くなっている。

やっと笹波の元でサッカー出来る………初めての試合が出来る、強い奴らと、戦える………!

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

それから、笹波は皆にそれぞれやるべき事を伝え、部屋から出て俺と一緒にこれからどうすべきかを話し合っていた時、ふと笹波がこう言ってきたのだ。

 

「……黒景先輩、そう言えば今日は忍原先輩の様子がおかしいんですけど……………また何か、しましたよね?」

 

「いや、まぁ、ちょいと…………彼女の要望に応えた、と思うんだけど」

 

「聞きたくないんですけど聞きますね………何をしました?」

 

「あー……………実は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んで、今に至るわけです。

今踏んづけられた足をさすっているが、笹波は上で鬼のような形相になってるに違いない、見たくねぇ。

 

「ホント、ホントどうなってるんですか先輩は!少し考えたらやばい事をするって分からないんですか!?」

 

「いやー何度も言ってるけど恋愛疎くてさー」

 

「疎い以前の問題ですよ!ここまで来たら人格疑うレベルですよ!」

 

「マジで?いやいや来夏の気持ち知ってたからやっただけだよ、来夏以外にはしないって」

 

「そーゆーことじゃないんですよ!!絶対また面倒なことなるじゃないですか!」

 

「なる………かもしれんな」

 

「先輩マジで今から百目階段500回やりましょうか」

 

「本戦まで死ぬよ俺ェ………」

 

まずい、どーにかしないとマジでやらせるぞ鬼監督…………何か話題をずらさなきゃ、えっと………ん?

 

「(………なんか、誰か見てんな)」

 

今俺達は外の通路で騒いでるのだが、俺の視線の先に誰かが隠れてこちらを見ていた………あれ、見た感じ制服じゃないよな………うちのジャージって感じでもない。

 

 

 

 

 

……………でもなんだろうか、この感覚………前にも………。

 

 

 

 

 

……………あ。

 

 

 

 

 

「先輩!聞いてますか!?」

 

「……………円堂ハル?」

 

「………は?」

 

「おい、そこに隠れてるやつ………なんで、お前がここに居るんだ?」

 

「先輩、何言って………」

 

立ち上がる俺に笹波な怪訝な顔をするが、俺の視線の方へ顔を向ける。

そいつは暫く隠れてたけど、すぐにその姿を見せた。

 

 

 

 

 

 

「………ごめんなさい、取り込み中だったらしいから………それにしても、よく分かりましたね」

 

黒いパーカーに、首には見覚えしかないオレンジ色のマフラーをつけた少年。

そしてこの、肌がピリピリする感覚………忘れようもない、端の姿でその正体に俺はすぐ勘づいていた。

 

そして笹波も、驚きを隠せずにその人物を凝視した。

 

 

 

 

「やぁ、雲明」

 

「……円堂………ハル……!?」

 

 

 

 

そう………雷門のサッカーモンスター、あの円堂ハルが、この南雲原に直接やってきてたのだ。

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

試合中、俺は致命的な大怪我を負ってしまい、サッカーをやれずにただ黄昏てた俺に………会いたいヤツに会ってこいと、蓮さんから言われて………俺はこの長崎にやってきた。

 

この九州の地で、俺は一度その人が率いるチームの相手として戦った、前半はただ俺と蓮さんのプレーをぶつけて3点差、俺達の攻撃に何も出来ない普通のチームと思い、後半は揃って下がったんだけど………笹波雲明はそれを狙っていた。

 

前半はわざと無力に見せかけ、俺達が必要ないと思い込ませて……後半は自分の実力をフルに発揮し、3点差を瞬く間に覆して勝ってみせた。

 

実力差は大きく開いてた………それでも、初めて俺達は出し抜かれたんだ。

興味が湧いて、その試合後俺は話し掛けて、何故自分でサッカーをしないのかと聞いて返ってきたのは………病気で出来ない、って答えだった。

 

 

……………今思うと、凄く失礼な事聞いてたなと反省している。

 

 

それから彼に、思い切りサッカーができてどんな気持ち、と聞かれたりして………あの会話があったからこそ、あの日の後も時々思い出してたんだろう。

 

そして今………俺は大怪我をしてしまい、サッカーがもうできないと聞くと直ぐに雲明の顔を思い出した。

 

蓮さんの言葉もあり、俺はこの気持ちに従い雲明のいる長崎へ行くことになったんだ。

途中で色んな長崎ならではのものを見て、南雲原に辿り着き、探していると……………雲明を見つけた、んだけど…………なんかすごい怒ってた。

 

会話の内容はよく分からなかったんだけど、父っちゃんに説教をする母さまの姿を思い出してぶるっとした。

 

そしてその怒っている相手は…………黒いジャージを着た…………あの時のベンチから、俺にあの視線を送った男………黒景 流。

 

彼の事も一緒に覚えていた………と言うよりは、記憶に焼き付いていたんだ。

俺に送る視線が、忘れられなかった。

 

中学に上がってからというもの、俺に送られるのは賞賛、妬み、恐れ、そういったものしかなくて……………でも彼のは違った。

 

 

まるで…………獲物を前にしたかのような、好戦的な瞳。

 

 

あんなのを送られたのは初めてだった。

そして何となく、何故か、理由なく……………俺は直感で感じていた。

 

 

 

 

 

 

強い。

 

 

 

 

 

 

間違いなく、強いって。

 

 

 

 

あの日の試合、後半で下がった後は気のせいかなと思ってた。

でもこうして会うと………何故か、鳥肌が少したった。

 

間違いじゃ、無かった。

強いのだと、思った。

 

笹波雲明、黒景流。

俺はこの2人に………逢いに来たんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩ダメですからね!絶対ダメですから!」

 

「………俺を躾のなってない犬かなんかだと思ってない笹波?」

 

「実際そうでしょ!いつも想定外なことばっかしてますからね!!」

 

「ごめんて」

 

「……………………………?」

 

 

 

でも会うや否や、雲明は俺を黒景流から庇うようにしてるのは、なんで?

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

円堂ハルが、南雲原に来ていた。

僕が見てた幻じゃない………本物の、雷門のサッカーモンスターの、円堂ハルだ。

 

そして僕は………直ぐに円堂ハルを守る様に黒景先輩の前に立ち塞がった。

少し混乱してた、さっきまでの黒景先輩のクソボケ度合いに目眩をしていたのと同時に円堂ハルか来るなんて想像もしてなかったから………。

 

「彼は怪我してるんですよ!?分かってますよね!?」

 

「いや知ってるよ、知ってるからしないよ、落ち着け笹波」

 

「落ち着いてください先輩!」

 

「あの笹波ー?どしたー?あ、ごめん円堂ハル、なんかテンパってて」

 

「え、えっと、はい」

 

「………ふんっ!」

 

ゴンッ!!

 

「いだっ!」

 

「………落ち着いた?」

 

「……すみません」

 

先輩は僕の脳天に軽くチョップして、その衝撃で僕は落ち着きを取り戻した………ヤバい、恥ずかしいところ見られてしまった。

………でもなんで、彼がここに居るんだ?何も知らないんだけど、僕。

 

「………えっと、もう大丈夫?」

 

「あ、うん……ごめん、色々テンパっててさ」

 

「いいよ、俺も突然やってきたしさ」

 

笑顔を浮かべる円堂ハルの顔を見て、直ぐに僕は視線を足の方へ移した。

……………やっぱり怪我をしてるんだ、再起不能とは聞いてるけど、本当なんだろうか、本人を見た感じそこまで深刻そうにも見えないけど……。

 

「……そんで円堂ハル、なんでいきなりこの南雲原に?俺らなんも聞かされてないんだけど」

 

「あーいや、その………彼に、会いたくなって」

 

「笹波に…………………あー」

 

先輩は何かを察すると、何処か複雑な表情で僕とハル君を交互に見た。

………もしかして、彼が本当にサッカーができなくなってるって思ってるのかな。

 

「……笹波、とりあえず俺木曽路の所に行く、円堂ハルの事も黙っとくから」

 

「は、はい、分かりました」

 

「……そんじゃ」

 

ハル君を少し見つめると、黒景先輩は翻してその場を去った、自分が邪魔者とでも思ったのか……………ハル君はそんな彼に、何か言いたそうな表情だった、もしかして気になってるのかな………?

 

「えっと………それで、どうしたのハル君」

 

「ハルでいいよ、雲明」

 

「あ………うん、ハル………その………再起不能って言われてるけど、本当なの?」

 

「……さぁ、医者は曖昧な事しか言ってないから………本当は絶望的だけど、気休めをしてるのかもね」

 

「………そっか」

 

ハルの様な才能にサッカーがもう出来ないなんて、言えないのだろうか………少し、無責任な気がする。

 

「………そう言えばさ、前にどんな気持ちかって、言ってたよね?」

 

「………うん」

 

ハルと初めて会話した時、僕は聞いた………誰もが羨む才能を持って思い切りサッカーをするのは、どんな気持ちかと。

その時は望んでやってる訳じゃないとは答えてたけど、今は何を考えているんだろうか。

 

「…………俺さ、君の気持ち…………少しだけ分かったような気がする、サッカーが出来ない奴の気持ちが」

 

「………」

 

「………正直さ、前はずっとサッカーなんてつまんないって、どうでもいいって、思ってた………思ってた、のに」

 

段々と声が震えているのを感じた、ハルは俯きながら言葉を紡ぐ。

 

「………黒景さんを一目見てさ、さっき……鳥肌立ったんだ、強いやつだって…………肌で感じたんだ」

 

「………っ!!」

 

「そして………俺、さ、無意識に、やってみたいって、思っちゃった………今そんなこと、出来ないってわかってたのに、どうでもいいなんて、思ってたのに………」

 

ハルは震えながら顔を上げる。

………その目から、涙が溢れていた。

 

「今はただ、悔しいんだ…………今、ここで、サッカーが出来ない事が、悔しい………」

 

「………ハル」

 

サッカー出来ない気持ち………僕にはそれが痛いほど分かる。

大好きだったが故に、苦しくて許せなくて、一度はサッカーに消えて欲しいと願ったくらいだ。

でも、それでも僕はサッカーを求めた、だからこそ僕はここにいる。

 

ハルと僕の理由は少し違うかもしれないけど………今は、そんなハルの為に、僕が出来ることをしたい。

 

「………ねぇ、今から長崎を案内しようか?」

 

「……え?」

 

「行こう、長崎は………いい所だからさ」

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

「……………ふぅ」

 

グラウンドで練習をするスタメンの姿を眺めながら、ため息を着く。

ちょっとさっきまで走り込みをしてて休憩をしてるのだが、どうにも気分が上がらない。

 

………桜咲先輩、またキック力上がってんのかな………小太刀先輩も、得意の伝来宝刀の威力、相変わらずすげーなぁ………一人であれだけのシュート撃てるとか羨ましいぜ全く………。

 

それに引き換え俺は、特に言うことも無い………誰かのプレーを繋げるだけの奴、誰にだって出来るやつ。

 

俺の代わりはいくらでも要る、ていうかメンバーも充実している今でもスタメンに入ってることすら驚きなのに。

………しかも本戦からは、我らが切り札黒景先輩も本格的参戦だし、いよいよ俺の出番は消えそうだなー………ま、あの人に取られても当然だよな、ポジション同じだし。

 

「………だってのに、なんで俺にこんなのやらせようとするかな、雲明……」

 

雲明からスマホに送られてきた画像に目を通す。

それはあるモノを発現させる方法、究極の個人技のひとつ。

 

 

 

 

 

 

〈化身〉の習得方法だ。

 

 

 

 

 

 

 

会議が終わってから、俺は雲明に秘密裏に呼び出された。

何事と思い、少しドキドキしながら尋ねると………だ。

 

 

『木曽路、君にはこれから化身を生み出す練習をして欲しい』

 

『………ええぇっ!?俺が、化身!?』

 

『声が大きい!………以前、過去に存在していたサッカー部の資料を漁っていると、興味深いものが出てね、これを今の南雲原でも活かしたいんだ』

 

『それが化身?でも何故俺なんだよ………黒景先輩とかで良くないか?』

 

『あの人に僕が教えることは特にないよ、化身が無くても先輩は十分強い、というか………この化身の発動方法は、木曽路が適任だしね』

 

『え?………どんな、方法なんだ?』

 

そこから雲明は化身使いになる方法を話し出した。

かつてのサッカー部で化身を使った選手は、決して特化した能力を持っているわけではないフォワードだった、しかし化身を誕生させる為にフォワード陣全員の気の波長を融合させて大きな波動に変換させた、化身を生み出すエネルギーを一人で作れないなら、他のチームメンバー全員から見えないその力を集めれば………化身使いになれる、これが雲明の理論だった。

 

 

 

『な、なるほど…………でもそこで俺なの?俺じゃなくても……』

 

『木曽路が適任って言ったでしょ?君は他の選手達の動きを補うプレーをする個性、誰かのプレーに同調して好転させる………今までそうしてきた君だからこそ、この化身の発動方法を実行するのに1番の調整力を持った相応しい選手なんだ』

 

『俺が、化身使いに…………』

 

『このチームはもっと強くならなきゃいけない、その為ならできることはしなきゃいけない、そして君にはこの方法で化身使いとなれば更なる戦力アップは間違い無しなんだよ』

 

『それはそうだけど…………』

 

『とにかく君にはこれをしてもらう、僕のメニューに従ってトレーニングしてね、後…………今回のこれは僕と君の秘密だ、他の人達には言わないでね』

 

『えぇ?なんでよ』

 

『期待のされすぎでプレッシャーを感じたくないだろ?今の君はそういう風に見える』

 

『っ………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーぁ………見抜いてるならやめてくれよなー……」

 

しかしそう言われてしまえば従うしかない、正直やれる自信が今の俺には無いけど…………。

先ずは、何をすれば良いんだっけ?

 

「えーっと…………」

 

「よ、木曽路」

 

「……ぅぉっ!く、黒景先輩!?」

 

「驚きすぎじゃね」

 

スマホの画面を凝視してると、突然後ろから声を掛けられて思わず驚きの声を上げてしまった。

振り向くと何時もの黒ジャージを羽織った黒景先輩がそこに立っていた、あーもう……びっくりしたー。

 

「お、脅かさないでくださいよ〜」

 

「いや普通に声掛けただけだよ、休んでんの」

 

「まぁ、そんなとこです……ところで雲明は?」

 

「あー、あいつ今お客人と対談してるからさ」

 

「お客人?誰っすか?」

 

「……さぁ?」

 

詳しいことを知らないのか、適当なことを言ってるのか、曖昧な返事をしながら黒景先輩は俺の隣に座った。

………忍原先輩の所に行かなくて大丈夫かなー、今は大人しいけど3回戦の時めちゃくちゃ怖かったからなぁ、小太刀先輩含めて。

 

「木曽路さっきまで何してたんだ?」

 

「いや、まぁ、雲明から言われた特訓のおさらいっすよ」

 

化身の事は誰にも話さない約束だから適当にはぐらかす、俺に出来るのかなんて自分でも信じられてないからなぁ。

 

「…………あれ、お前笹波から何も言われてないの?」

 

「……ん?なんの事っすか?」

 

「俺お前の化身の発動に協力しろって言われてたんだけど」

 

「…………えぇっ!!?」

 

「大会が始まる期間の間は、お前に着いてやれって………てっきり俺はもう話してるもんかと」

 

「ま、マジすか……」

 

突然の事実に驚く、まさか黒景先輩には話してたなんて……ていうかなんでこの人なんだ、別に苦手じゃないけどまたスパルタな事させるわけじゃ無いよな雲明!?

 

「にしても化身かー、すげーな、お前使えるんだろ?」

 

「いやいやいや、まだそうとは決まってないっすよ、ていうか出来るかどうかもわかってないですし……」

 

「でも笹波はお前に出来ると思ったから伝えたんだろ?」

 

「…………まぁ、そうかもですけど」

 

「……なんか普段のお前ならテンション上げてるとこだと思うけど、嫌なのか?」

 

「そう言うんじゃ無いんです!ただホント、自信が無いだけで」

 

「…………何かあったのか?」

 

「あったって言うか、なんて言うか…………ただ、個性のない俺なんかが、本当に化身なんて大それたもの使えるかが、自分の中で信じられてないって言うか、それをちょっと考えてて」

 

「自信がない、か」

 

「…………俺には黒景先輩みたいな特別なもんは、持ってません………忍原先輩や桜咲先輩の様な強い個性にも憧れてるんです、俺の個性なんて何処にでもあるありふれたものっすから」

 

隠すようなことでも無かったから、何となく話していた。

俺は特別でもなんでもない、何処にでもいる様な…………今の南雲原じゃ俺なんて雑魚の一人でしかない。

そもそも、俺は誰かと上手くやるのが得意なんかじゃない…………そう見せかけてるだけのハリボテ。

 

転勤続きの環境で、まともな友人なんて出来るわけが無かった…………だからこそ無理矢理その場へ溶け込むやり方を思いつき、ずっとそれをやっていた。

 

それだけなんだ、本当の俺は皆の力を繋げられるような奴じゃない…………雲明ならそれくらい、見抜けてるハズなのに。

 

「…………お前が自信にする事なら、少なくとも1つあるぞ?」

 

「……え?」

 

「笹波が、お前一人に化身の方法を託した、それじゃダメか?」

 

「っ!それは……」

 

…………確かに、雲明が俺にこうやって言われたのは初めての事だ、確かに嬉しい……けど俺が自分を信じられてないから、そういう考えにはなってなかったな。

 

「とにかく自信が無いのなら、こっからつければいいんだよ、別に無理矢理周りと自分を比べなくたっていいだろ?」

 

「それは、そうですけど」

 

「俺なんか昔は一人でずーっと周りを気にしないでサッカーしてたんだぞ?」

 

「いやそれは先輩しか出来ないっすよ……」

 

「とりあえずやろーぜ?やる前からやれない理由なんか探すなよ、笹波の期待に応えたくないのか?初めてなんだろ?」

 

「期待…………か」

 

…………確かに、こうやってウジウジしててもどうにもならない。

雲明の期待か、少しずるい言い方だけど…………確かにそれに応えない訳にはいかないか。

 

…………よし、こうなったらやれる所までやってみるか!

 

「……分かりました、とにかく頑張ります」

 

「その意気その意気、俺も一緒に頑張るからさ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「んで、まず何やるんだ?」

 

「待ってください…………えー、化身は体力の消耗が激しいから、先ずは体力作りっすね」

 

「なるほど、じゃあ俺くらいになってみる?」

 

「それは無理!!」

 

「冗談だよ」

 

「えーっ、もー」

 

さっきまで真剣に話してた先輩が笑って冗談を言うもんだから、俺もつい笑ってしまった。

…………俺の事気にしてたのかな、ったく…………かっこいいことするじゃん。




黒景流
本戦に出ることがようやく確定、闘志を滾らせる。
そしてそれまでの期間木曽路の手伝いをする、これらくらいの気遣いが来夏には出来ないのはなぜ?


木曽路兵太
本来は京前嵐山戦で化身習得を頑張るが、今回はかなり早めに実行。
やはり周りと比べてしまい自信が無さげ、サッカーにおいて特別の権化みたいな先輩と一緒に特訓する彼の末路はいかに。
ちなみに普通に仲はいい、同じポジションな為密かに強く憧れてる。


円堂ハル
主人公を見て高揚する自分に気づき、サッカーが出来ない不甲斐ない事実に涙する。
もっと早く、この気持ちに気づいてれば。
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