忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが? 作:グラビトン
本戦まで多分あと1話かなぁ……頑張ります。
笹波雲明の実施する南雲原サッカー部強化月間、部員全員の基本的なレベルアップとそれぞれの能力に応じた更なる進化、予選決勝が消えたことにより大きく開いたこの時間を有効的に使う為、皆はそれぞれやるべきことを定めていた。
「なぁ伊勢谷君!君の目の使い方と反射の理論、俺に教えてくれないか!?」
「空宮……?お前にか?」
「俺も北陽に居た時はキャプテン兼司令塔としてプレーしてた、君程じゃなくても視野の広さには自信があるし、お互い空間認識にも長けてるから、俺にもやれる気がするんだ!」
「なるほど…………確かに、俺以外にも視野の広い選手が居れば戦術にも幅が出るな……でも、一筋縄じゃいかないぞ?」
「上等!」
伊勢谷 要は空宮 征に、同じ眼の使い方を伝授しようとしていた。
タイプは違えど同じ司令塔、通ずるものがあるもの同士の特訓が始まる。
「僕の氷結の舞は、きっと全国レベルの必殺シュートに追いつけなくなる…………だからこの空いた時間を使って、それ以上のキーパー技を編み出すつもりだ」
「なるほどなぁ、俺のグラビティデザートも同じ理由で通用しなくなる…………どうだ?ここは同じキーパー同士、新しい必殺技の為に一緒に特訓してみねぇか?」
「いいね、僕も君の動きを取り入れてみたいと思ってたんだ」
「俺もだ、そのうちお前からスタメンキーパーとってやるから覚悟しろよ?」
「ふっ、そうみすみすと取らせないよ?」
静の技でシュートを封じる四川堂 我流と、剛の技でシュートを圧殺する陣内 伍兵。
対象的なプレースタイルとも言える2人は、全国のシュートを止めるために新たなる強力なキーパー技を編み出す為に、共同の特訓を開始した。
「うーん、うーん………」
「……どうしたの七南さん、悩み事?」
「あっ、鞘先輩……私も新しい必殺技を覚えたいと思ってるんです、ディフェンスの…………でもなーんか良いのが思いつかなくて」
「なるほどね、スピニングカットは使い勝手が良いから、無理して別の技を作る必要はないとウチは思うけど」
「でもなんか欲しいんですよ、スピニングカットとは別タイプの必殺技!鞘先輩みたいなかっこいい奴!」
「ほ、褒めてるのかしら?」
「もちろん!鞘先輩、なにかいい案ないですか!?(キラキラ)」←ただひたすらに眩しい尊敬の眼差し
「(う、その目は、裏切れない……!)…………貴女はウチと同じくらい踏み込みの力があるから、それを活かした技が良いのだと思うわ……ウチは伝来宝刀を選んだのだけれどね」
「なるほど…………でもディフェンダーである私が伝来宝刀を覚えてもどうしようも無いですよねー、妖士乃先輩の様なリベロでも無いですし」
「そうね………選手やシュートに対して撃つわけにも…………」
「………………………………シュート………………」
「…………七南さん?」
「……そうだ、シュートに撃てば良いんだ!鞘先輩!」
「え、え?どうしたの?」
「私に伝来宝刀を、教えてください!」
かつては同じ剣道部だった小太刀 鞘と古手打 七南は、こちらも新たなる必殺技を開発せんと特訓を開始させる。
ちなみに小太刀 鞘は特に新しい必殺技を開発したりは考えておらず、ひたすら自分の伝来宝刀を極めようとしていた。
そして、それぞれの南雲原サッカー部の選手達は各々の特訓を始めているのであった。
「おらー!古道飼ー!逃げんじゃねーぞコラー!」
「ひぇぇっ!勘弁してください星先輩ー!」
「テメーの足の速さ間近で見てーから特訓付き合えっての!」
「でもめちゃくちゃハードじゃ無いですかー!」
「強くなるんなら当然だろーが!まずはその引け腰をロックに調教したらー!」
「それ言うなら矯正ですよ!助けてー!!」
「…………仲が良いねあの二人は、品乃先輩?」
「妖士乃、俺にはただ追いかけ回している風にしか見えないぞ……」
「……ま、古道飼のチキンをどうにかするのなら、星と一緒の方がベストかもだぜ?」
「柳生君は何か目標はあるのかい?」
「今んとこはなんとも、だな………こっから俺に出来ることを探すさ」
全ては
そして…………南雲原中、フットボールフロンティア全国優勝の為に。
◾︎◾︎◾︎◾︎
「だっはぁっ!キッツーまじ………もう走れねぇ……!」
「結構走り込んでトレーニングもしたなー……まだ行ける?」
「見ての通りですよ先輩!ていうか先輩なんでまだちょっといけそうな雰囲気出してんですか!?」
「いや俺もまぁまぁ疲れたよ、とりあえず今日はここまでだな」
「先輩にはまぁまぁで済むんすかさっきの………やっぱモンスターっすね……」
夕陽が校舎を照らす時間帯、俺は疲労感に支配されて斜面に倒れていた。
先輩はそんな俺を見てどっかに行った………なんであれだけの運動をして歩いてられるんだあの人…………。
化身使いになる為、一番のデメリットである体力をつける為に今日一日を使った。
とにかく走り込み、筋トレ、ドリブル、百目階段…………普段の倍は筋力と体力を使った気がする、もうクタクタのヘトヘト…………これが本戦まで続くと思うと死にそうだ。
それでも先輩は俺と同じくらいの特訓をしたってのに、汗を流して終わりだからとんでもねぇ、なんかもう羨ましいとか憧れとかするのがアホらしくなる。
………………まぁ、するんだけどさ。
やっぱ何から何まで違うんだなぁ、すげぇややっぱ…………。
「……ほれ」
「ん?」
先輩の声がしたから顔をあげると、スポドリの入ったボトルを差し出してきた、どうやら俺達の飲み物を取るためにどっか行ってたらしい。
「水分補給だよ」
「……あー、ありがとうございます」
ご好意に甘えて受け取り、カラカラな喉にスポドリを流し込む。
あー美味すぎる…………身体に染みるとはこの事だな、生き返るぜぇ……。
黒景先輩も俺の隣に座って飲んでいた、何気にしっかりと汗をかく姿を見るのは初めてかも…………いや流さないのがおかしいんだけどな?
「ふぃー………にしても化身かぁ、俺に出来ますかね……」
「あの笹波が託したんならいけるだろ、事サッカーに置いてふざけるような奴じゃないし、お前に出来ると思ったからやらせてんだから」
「それはそうっすけど………ま、ウジウジ悩んでも仕方ないっすね、時間はあるし、やれるだけはやりますよ」
「それがいい、俺もようやっと本戦で人生初試合だからな、今のうちにチームでの戦い方をしっかり頭に叩き込んどかなきゃ」
「フットボールフロンティア本戦が初試合とか先輩くらいじゃないっすかね?」
「かもなー…………なぁ木曽路」
「なんです?」
「俺ってさ…………やっぱ変わってんのかな」
「んぇ?」
なんだか少し黄昏ているような黒景先輩の横顔を見ながら、俺は変な声が上がってしまう。
…………変かどうかと言われたら、まぁそうですねとしか言いようがないけど…………どうしたんだろ、いきなり。
「えっと、どうかしたんですか?」
「いやまぁ何となく、俺って前々から普通の人とはズレてる気がしてさー………それでもいいやって思う自分がいるけど、それで良いのかなって思ってもいるんだよな」
「そ、そうなんですか…………でもなぜ、俺に?」
「何となく」
「えぇ?」
何となくで話されても何返せば良いのかわかんねぇ、ていうかそういうとこじゃないっすかね変わってんのは!なんの考えもなしに何かするとこ!
「と、とりあえず何かあったんですか?俺で良けりゃ聞きますよ?」
そう言って残っているスポドリを飲みながら、先輩の話に耳を傾けることにした。
このマイペースの権化みたいな人が悩んでいること、一体なんだろうか…………。
「まぁ、昨日来夏にキスしたんだけどさ」
「ブフフォッ!!!」
「うぉっ?」
とんでもねー爆弾発言をかましやがった先輩の隣で、俺は口に含んでたスポドリを思い切り吹き出してしまった…………いやその驚く反応をするなアンタが!!いや、ていうか、はぁ!!?
「ゲホッゲホッ、あ、ちょ、ゲホッ…………いや、いやちょ、何言ってんすかアンタ!!!?」
「いやだから、来夏にキスしてさ」
「そーゆーとこだバカッ!!あんたのそーゆーとこが変なの!!」
「えぇ?」
戸惑う黒景先輩に指差しながら俺は捲し立てる、きっとこの人はあまり重大に考えていないんだ、1つの普通な悩みとしか認識してないからこんなとんでもを俺のような誰かにあっさり暴露してしまう、ていうかキス!?したの!?遂に一線いったのか!?
「き、き、キスってなんすか!?忍原先輩がしてきたって事っすか!?」
「さっき言ったけど、俺からしてさ」
「なぁぁぁにをしてるんすか!?知っててやったでしょ!?」
「前に俺と来夏の接近禁止命令を下した笹波が、頑張ってたからなるべく要望に応えてやれって言われてさ、来夏が俺に向ける気持ちから考えたら、これが良いかなーって」
「極端すぎるわ!!あんたの行動出力は1と100しか無いのか!?」
「そうかなぁ……それで少し前に笹波にもしばかれた」
「でしょうね!!」
ぜぇぜぇ言いながら肩で息をする、ほ、本当にどうなってんだこの人は、ネジぶっ飛び過ぎだろ………恋愛に無頓着なのは知ってたけどここまでなのかよ、知ってて尚来夏先輩にキスとか………ま、まじで意味わかんねぇよ。
てかこの事小太刀先輩知ってんのかな、忍原先輩との関係は前よりかは仲は幾分かマシになってるけど、これ知ったらまた爆発すんじゃないの、怖いんだけど!
「あー、お前と笹波の反応見る辺り、俺またやらかしたっぽいなぁ」
「や、やらかしてる以外の答え無いでしょ………そんで、それからどうなりました?忍原先輩今思えば、今日なんかぼーっとしてる事多かったような気がするんすけど」
「それが今日全然話さなくてさ、俺と目が合うと顔真っ赤にしてどっか行くし………嫌われたかな?」
「さぁ………反応見る限り違うとは思いますけど、下手すれば嫌われてましたよ先輩?」
「そっかー…………まぁ、俺はそれでもいいかな」
「はい?またなんでそんな……?」
「なんか………あぁなってしまったのは俺のせいっぽいし、俺が来夏の事歪めてるなら、やっぱ離れた方が良いかなー………なんて思ってたりする」
「う、うーん……」
詳しい事情はよく知らないけど、確かに傍から見ても忍原先輩が黒景先輩に向ける気持ちはなんだか重すぎる気がする、まぁひとえにこの人が鈍すぎるのと、小太刀先輩が同じ人を好きになってるとかいう地獄みてーな状況だからってのもあるかも………今となっては仲良し()な二人ではあるけど。
でも………でもだよ?
「普通に考えてキスして好きなの知っててしてやっぱさよならー……とか、最低以外の何者でもないっすよ先輩?」
「うっ、やっぱり?」
「忍原先輩それ聞いたらブチ切れるんじゃ無いですか?」
「た、確かに………逃げてんのと同じか、うん……どうしたらいいと思う?」
「お、俺に言われましても………でも先輩、聞く限りまたなにかやらかしそうな気がするんすよねぇ〜……」
「何も言えねぇ」
俺は初恋とかもした事ないし、恋愛相談なんてしたことも無い……っていうか何も言えない、絶対相談する相手間違えてるよ………雲明が先輩の事でうんうん悩んでたのがよく分かる。
でも俺だって何も言えないぞ?恋愛経験ゼロだもん………うーん、どうしたものか……?
……………でも、それにしてもだ。
「………話ズレるかもですけど、先輩も悩むんですね」
「……ん、意外?」
「まぁはい、なんか悩みの無さそうな顔してるんで、いつも」
「失敬な………ま、確かに普段深く考えないしな」
そう言うと先輩はボトルに残っていたスポドリを飲み干し、口に垂れた水滴を拭ってグラウンドを眺めていた。
「………なんか、話戻るけど俺ってやっぱ誰かと比べるとズレてんだなって思うよ、お前なら自分を好いてる人にキスとか考えないんだろ?」
「いや当たり前でしょ、全世界探しても先輩くらいっすよそんなの」
「うーん………どうすりゃ良いかなぁ………来夏の事傷つけてるだけなら、しっかり考えねーとなぁ……」
「………これから傷つかない様にすればいいと思いますよ、忍原先輩の事そんなに大事に思ってるなら」
「それはそうだけどなー、例えば?」
「………まぁ、女心に詳しくなる以外無いっすよ?先輩それが皆無もいいとこですから」
「うぇ……」
「嫌そうな顔しないで下さいよ、俺だって今できるか分からない化身を作ろうとしてるんすから、先輩だって頑張ってくださいよ」
「………そっか………ま、そうだな………それしかないよなぁ」
「……ま、俺でよけりゃ今後も話に乗りますよ?愚痴を聞くくらいなら」
「別に愚痴ではないんだけどな………ま、ありがとな木曽路、聞いてくれて」
「俺にはそれくらいしか出来ないんで、へへ」
思わず笑ってしまう、先輩もそれにつられて笑っていた。
………なんて言うか、先輩の様なすげー人でも俺みたいに悩んでいると思うと、少しだけ安心する自分が居る。
心のどこかで雲の上のような凄い存在、なんて感じてた気もするからかな………ま、だとしても俺とは雲泥の差だけど。
「……ま、今日のとこはとりあえず帰りましょうか、折角なんで何処か食べていきます?」
「そうだなー、うどんとか」
「いいんじゃないすか?………それにしても、結局雲明あれから見てないなー、帰ったのかな」
「……………あー、お客人とどっかに行ったんじゃない?」
「ふーん、誰なんだろ………」
「………木曽路、先に着替えて待っててくれない?俺少し用事があってさ」
「え?いいっすけど、何の用事で?」
「ちょいとな」
先輩はそういうと立ち上がり、どっかに歩いていった…………何するんだろ、なんか思い出したような顔だったけど。
◾︎◾︎◾︎◾︎
笹波雲明に会いに来た今日………いつの間にか、長崎観光になっていた。
俺を気遣ってくれた雲明に案内されて、色んな所を見て回った。
東京の様な都会にはない静かで綺麗な場所、一人で食べるには少し恥ずかしいと思ってたアイスも一緒に食べた、それからペンギンが有名な水族館に行った、初めて水族館なんて行ったから色々目新しくて楽しかった、普段ペンギンの技って強いものばかりだけど、あれは純粋に可愛いって思えた。
それから長崎では有名なちゃんぽんも食べた、これがめちゃくちゃ美味い!雷雷軒のラーメンも美味しいけど、負けず劣らずの美味しさだった、また食べたい………。
それから景色を眺めたり、ロープウェイに乗って話したり………いつの間にか、サッカーが出来ない悔しさを一時の間忘れて純粋に楽しんでいた。
それから時間は過ぎて………お別れの時間がやって来た。
何となく雲明に会いたくて、理由もなくこの長崎に来たけど………今日は来てよかったと思っている。
「雲明、俺はもう行くよ」
「うん、今日は楽しかったよ………あのさ、ハル」
「何?」
「………これから、どうするの?怪我はなんとも言えないんでしょ?」
南雲原駅に到着し、別れの言葉を告げていこうとしたけど………雲明が、少し恐る恐るとそう言ってきた。
………これから、か………サッカーが出来ない事が悔しいのは本音だ、でも………中学に上がってから、楽しもうとしてなかったやつに、今更サッカーと向き合うなんてしていいのか、今は分からない。
今まで出来て当たり前だと思ってたから………今ではこの有様だけど。
雲明の言葉が無ければ、怪我をしてもこう思うことはなかったんだろうな………でも今はまだ答えはない、これから見つけるしかない。
「……それはまだ分からない、これから探すさ」
「………そっか、変なこと聞いてごめん」
「いいよ、気にしてくれてありがとう………それじゃ」
「……………うん………ん?」
その時、誰かのスマホから着信音が鳴る。
………どうやら雲明のスマホかららしい。
雲明はポケットから取り出し画面を見ると、少しだけ目を開いて俺に背を向けて着信に応じた。
「もしもし……どうしたんですか?」
「………はい、まだ居ますけど……………え?何を…………………でも………わかりました」
「……どうかしたの?」
「………ハル、黒景先輩から君に話したいことがあるって」
「え?」
黒景先輩………雲明に出会う時隣にいたあの人、中学に上がってから俺が初めて強いと感じた人が、俺に?
……………離れる時、少し話をしたい気持ちはあったけど、まさかそっちから来るとは思ってもみなかった。
俺に………何を話したいんだろう。
「どうする、ハル?」
「……………」
少し考えて……俺は何も言わず手を差し出す、雲明は俺の意図を理解してスマホを静かに手渡してきた………なんだろう、少し緊張するな………。
「………もしもし?」
『お、出た………分かるか?黒景って言うんだけど』
「はい、雲明の隣に居た人で………南雲原の切り札さんですよね?」
『聞いてたのか、今日は何したんだ?学校に居なかったっぽいけど』
「雲明に長崎を案内してもらったんですよ、色々見て回って楽しかったです」
『そりゃ良かった、長崎は良いとこだろ?』
「はい、また来たいです………えっと、それが話じゃ無いんですよね?」
『あー、まぁな』
そう言うと少しの間会話はなくなり、スマホ越しに少しだけ深呼吸をしている様な声が聞こえて………再び彼は話し出した。
『………円堂ハル、俺が今から言うとことはただの自己満足だ、それでも聞いてくれれば嬉しい』
「………はい、なんですか?」
『………俺はお前と、サッカーがしたい』
「……え?」
そんな事を、言われた。
サッカーをしたい………俺と?
なんで、なんで俺に、わざわざ……?
………でも、そんなことを言われたのは、久しくない。
「………どうして、そんな?」
『言ったろ?自己満足って、俺は最初にお前を見たあの日からずっとお前と戦いたいって思ってた、皆は再起不能とか何とか言ってるけど………勝手だけど、俺はお前がこれで終わるようなかいぶつじゃないって思ってる』
「……………」
『だから少しでも復帰出来る可能性があるのなら頑張って欲しい、俺達は絶対本戦を勝ち抜く、その時にお前達雷門が待ってくれたらこれ以上なくテンション上がる、お前を含めてな』
「…………意味が、分からない、俺が居なければ優勝する可能性が上がるんですよ?」
『そんなのどうでもいい』
「っ!!!?」
『優勝なんて結果はどうでもいいんだよ、いや良くないけど………俺はそれ以上に強いヤツと戦いたいんだ、お前のようなヤツとサッカーがしたい、これが俺の本心だ』
「………そんな、こと言われても、困りますよ」
『ごめんな?どうしても伝えたかったんだ……………お前はきっと、サッカーを心のどこかで諦めたくて、それで笹波の所へ来たんじゃないか?』
「…………それ、は………」
『んで………どうだ、今は………サッカーしたくないのか?』
「…………………………」
サッカーを、したくないのか。
俺は、諦めるために雲明に会いに来たのか?
違う、どうしても確認したかったからだ、あの言葉の意味を、この気持ちの正体を………雲明なら知ってると思ってたから。
そして今日、貴方にも出会った。
不覚にも俺は、貴方が消えた後…………泣いたんだ。
俺は、俺は、悔しかった。
強いと感じた貴方をみて、思ってしまったんだ。
俺は………………俺は……………!!
「………したいです、俺は………やっぱり、サッカーをやりたい」
「……ハル……!」
捻り出た言葉、俺は………サッカーをしたいんだと、思った。
ずっとつまらない、どうでもいいと思ってたサッカーが、今できないかもしれない状況でやっと、自覚してしまった。
ダサいな、俺………でも、これでようやく、自分の気持ちに正直になれるかもしれない。
『………ありがとな、それを聞けて安心した』
「………分かってたんですか?俺の事………」
『いや?何となく』
「……はは、なんですかそれ」
『ま、結局俺が伝えたいことはこれだけだよ』
『サッカーやろうぜ?………遠くない未来、俺達と』
そう言い残すと通話は途切れた。
俺は静かに、雲明にスマホを返した。
受け取った雲明は、笑みを浮かべてた。
「……ハル」
「………雲明」
「………僕も先輩と同じ気持ちだ、どうか………諦めないで欲しい、僕も結局諦められなかった………そして足掻いて足掻いてここにいる」
「……………」
「どれだけ真っ暗闇でも、諦めなければ道は見える………絶対に!」
「……………分かったよ、雲明………約束する」
さっきまで曇っていたような心が晴れてゆくのを感じた。
あぁ………今までどうすればいいか、なぁなぁで向き合って来なかったサッカーに今俺は、改めて向き合おうとしている。
君達の言葉で、俺はまた………新しくやり直そうって、心から思える。
「俺は必ず戻って、君達の道の前に立つ………その時まで、俺は絶対諦めないから!」
「……うん!」
喜ぶ雲明の顔を見据えて、俺はそう固く誓った。
それから俺は改めて雲明と別れて、帰りの電車に乗る。
扉は閉じて、電車はゆっくり走り始める。
「……………………」
胸の鼓動を感じる。
高鳴りを抑えられない、この熱は、なんだ。
今までにない感覚だった、俺はふと………電車の出入口のガラスに映る自分の顔を見る。
「……………はは」
なんだよ、その顔、馬鹿じゃねぇの。
こんな不格好になって、サッカー出来るかどうかの瀬戸際でする顔じゃないだろ。
あぁ………でも、悪くない。
つまんないって斜に構えていたあの頃よりはずっとマシだ。
「………黒景、流………」
俺の心に火を灯した男の名前を呟きながら、ガラスに片手を当てる。
……………やりたい、あいつと………あの強いかいぶつと、俺は、俺は、サッカーを、サッカーをしたい……………したい………!!!
「………はは、俺って」
こんなにも、飢えた顔が出来たのか。
◾︎◾︎◾︎◾︎
「………お腹空いた」
「昼、結構食べたんだけどな」
「またお腹減ってきた、なんでだろ」
「……あー、イライラする」
「満足できない」
「あー……………あぁぁぁ」
「サッカー、したい………思い切り………!!!!」
黒景 流
強い奴とのサッカーをしたい、それ以下も以上もない。
それだけのエゴイズムである。
円堂ハル
冷えていたと思っていた心に、エゴは宿る。
今やっと……かいぶつは目覚めた。
天河 ヒカリ
満たされない。
飢えたまま、ボクは死ぬのか。
忍原 来夏
ゆるさない
主人公の2つ名は?
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南雲原のサッカーモンスター
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予測不能最終兵器
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暴風たる切り札