忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが? 作:グラビトン
サブタイもしれっと章として乗せております。
京前嵐山との試合もとい、フットボールフロンティア本戦大会開幕まで残り数日………僕らは一回戦突破に向けて特訓を開始した。
初めて黒景先輩をスタメンに入れたサッカーをする、あのかいぶつをチームで制御するのは一筋縄ではいかないだろう、彼も自制してくれると信じたいが……何せこちらの指示をすぐ忘れる鳥頭だし、それ抜きにしても何するか予想出来ないし…………。
全く……実力は文句なしなのにデメリットがトリッキーすぎていけない、しかし……木曽路の化身覚醒には、一役買ってくれると信じている……今頃渋谷に到着している頃合いだろうか。
「……ねぇ、雲明君」
「忍原先輩、どうしました?」
「流と木曽路が渋谷にお使いに行ったって始める時言ってたけど、なんのお使いなわけ?」
「秘密です」
「えーなんでー、教えてもいーじゃん」
「帰ってきた時聞いてみてください」
「ケチーっ」
皆がそれぞれ練習を続けている中、忍原先輩が一人抜け出してきて僕に尋ねてきた……化身使いになる為の特訓なのだが、今の木曽路には皆の期待が重すぎると判断し、僕と木曽路と黒景先輩3人の秘密としている。
あの日記に残された方法は間違いなく、この上なく木曽路が適任だ、このサッカーガーデンに来るまで彼にはその方法をなす為に特訓を繰り返してもらい、準備は万端なはずなのだが……どうにもあと一つ、何かが欠けているらしい。
今回の試合の要は黒景先輩なのだが、試合は何が起こるか分からない……木曽路には是非頑張ってもらいたい。
「……それにしても、ようやく流も同じチームとして試合出来るようになったんだね……それほど私達も強くなれたってことなのかな?」
「そうですね、初期の頃はどう足掻いてもバランス崩壊でしたから……今となってはようやくそれが起きないレベルにまで来ています、ここから全国の強豪達に僕達南雲原中サッカー部が戦う為には、やはり黒景先輩は必要不可欠です…………色々大変でしたけど」
「ご、ごめんなさい、私も色々と……」
「……いえ、元を辿れば黒景先輩が原因なので」
あの人の恋愛事情に僕がどれだけ振り回されて来たか、初期の頃は先輩自身にその自覚が皆無だったから引っ掻き回しまくってたなぁ………オマケに忍原先輩と小太刀先輩がバチバチだったし………今となっては、幾分かマシな関係になってはいるが………嫌い同士みたいだけど。
「………ところで先輩、ひとつ聞いて良いですか?」
「ん、何?」
「………今日に至るまで、黒景先輩とはどうなってましたか?」
キスした後、なんて言えるわけもなく暈した言葉で忍原先輩に尋ねる、すると先輩は少し頬を染めて話し出した。
「……関係はまだ幼馴染み同士だからね、でも流の方でも私に対する意識は変わりつつあるから、今はそれを受け入れてるよ……何時か本当の意味で振り向かせるから」
「大分まともな恋愛感情になりましたね」
「前が異常だったみたいなこと言わないでよ!………まぁ変でしたけどね」
「その調子で頑張ってください、小太刀先輩とは前みたいに険悪にならないで仲良くしてください」
「あんな抜け駆け女と仲良しなんていやでーす、昨日も私が誘おうとしたのに我先にと待機してたしっ……」
「昨日は大人しく譲ったんですか?」
「………まぁ、うん………それくらい良いし………私はまだ勝ってるし、色々と………」
そういうと先輩は唇に手を当てて更に顔を赤くする………はぁ、そういうことか………何も言うまい。
恐らくサッカー部内で黒景先輩に対して異性的好意を向ける女性陣は居ないだろう、今後の忍原先輩達も僕のフォローは最低限で済みそうだ。
「話は変わるんだけどさ、聞いていいかな?」
「どうぞ」
「流って……結局必殺技とかどうなったの?前はまだ習得してないって聞いてたけど」
「あぁ……その辺は大丈夫です、既に幾つか完成させてあるので」
「ホント!?見たの、どんな感じ?」
「…………まぁ、あの人らしい無法ぶりとだけ言っておきます……特にディフェンス技」
「え、シュートとかドリブルじゃなくて?」
「まぁ、当日の試合で見てください……もしくは桜咲先輩にでも聞いてみればどうですか?嫌そうな顔するので」
「えぇーっ、なにそれー?」
黒景先輩のシュート技とドリブル技は、例の起源となったあの人からインスパイアされてるので効果は保証されている。
ディフェンス技に関してはほぼオリジナルなのだが………うん、なんでそんなこと出来るんだろうか、色々突っ込みたい。
「……来夏さん、お喋りはそこまでにしてウチに付き合いなさい」
「あー鞘先輩……後でいいですか?」
「そう、後回しにするから昨日もウチに先越されてるじゃないの?」
「はーーーーそーやってマウントを取る!そんなんだから陰湿女って呼ばれるんですよ!」
「貴女だけよ、今日も誘えなさそうで残念ね……木曽路君とデートらしいから」
「…………木曽路と、デート?」
「………来夏さん?冗談よ?木曽路君は別に警戒しなくてもいいでしょう?」
「でも一ヶ月前からずっと一緒に居るし………まさか流って、まさか」
「キャプテン、またこの子暴走するわよ?」
「…………勘弁してください」
そんなわけ無いでしょうが………まだ完全に良くなるには時間が必要か。
………それにしても、今頃どうしてるかな………上手くいってるかな、先輩は。
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俺の生まれ育ちは長崎の地………世間から見れば田舎の部類に入るけど、俺はその長崎が好きだから特に思う事はない。
けど少しだけ、都会って奴に憧れ的なものも抱いていた……いつの日か行けたらなーって、そして今回は木曽路の特訓のお目付け役として渋谷にやって来た。
ニュースとかでよく見るものがちらほらあって、少しテンションが上がってたのだが。
まず右に人、左に人、前後ろに人、奥にも人、更に人、そして人、人、人、人、人人人人……………。
「…………これが、都会…………」
よく見る交差点が見渡せる場所で、俺は群れを成しながら道路を歩く人達を眺めていた………なんじゃありゃ、自然のスクラムじゃないのさ。
ていうかここに来るまでどんだけ電車乗り継いだ?ていうか乗り継ぐ事なんて生まれてこの方無かったぞ、長崎が一本道なのは温情だったのか……?
木曽路が居なきゃ絶対この場所に来ることすらなかったぞ?あいつよく覚えられるな………。
俺と一緒に来てた木曽路は、その交差点のど真ん中で立ち尽くしていた……何も知らない人から見たら変人だが見向きもされてない、もしかしてそういうの日常茶飯事な訳?都会怖っ。
しかしこれで数回目の特訓……ていうか、あの群れの中から人の波長を感じ取るとか大丈夫なのかな木曽路、普通に凄い事してると思うんだけど………あ、こっちに来た。
「いやー、今日何時にも増して人多すぎ!誰が誰の波長か分かるの時間掛かりましたわ……」
「お疲れさん、ほれ」
「あぁ、あざっす」
ジャージ服ではなく、学校での格好の木曽路に飲み物を渡す、因みに俺もジャージじゃなくて以前に来夏と一緒に買った黒ワイシャツとジーンズを着ている。
「多分今フットボールフロンティア本戦がもうすぐ始まるから、それ目当ての人もここに居るんじゃね?」
「………ふぃーっ、あーなるほど……確かに何人かサッカー観戦しに来たんだろーなって人がちらほら感じ取れましたから」
「え、そんな事も分かんの?」
「何となくっすよ、でも今回の特訓は校門前の奴より効果を感じ取れました!」
「おお、行けそうか化身?」
「それは……まぁ試合の中で感じ取ってやるしかないんで、まだ分かんないっす」
あははと愛想笑いをする木曽路………うーん、まだ化身を使えるっていう自信がねぇのか……あれだけ頑張ったんなら出来るはずなんだけどなぁ……その発動させる方法も木曽路以外に適任者思いつかないしさ。
…………特訓はこれで終わりかな、でも笹波は息抜きも兼ねてって言ってたしな………もしかして俺を付き合わせたのって、特訓の見張りだけじゃなくて木曽路をリラックスさせろって事なのかな、同じ試合のキーマン同士で。
…………そういう事なら、やってみるか。
「木曽路、特訓はこれで終わり?」
「まぁそっすね、とりあえず皆の所へ帰りますか!」
「いや、このまま渋谷見ていこうぜ?笹波も息抜きも兼ねてって言ってたじゃん?」
「えっ?まぁ、確かに言ってたっすけど………渋谷で何するんすか?」
「いやいや、俺みてーな田舎モンには都会て目に映るものはどれも新鮮でさー、お前ここに来たこと何回かあるんだろ?案内してくれよ、何処でもいいからさ」
「う、うーん……」
「………それに、このまま帰ったら命令無視とか言われて特訓追加されるかもだぞ?」
「うっ!それは、有り得るな……よし、分かりました!渋谷見て回りましょう!」
「よーし」
さてさてまずは何処から行くかなー、なんか色々ある場所とかしか分からんしなぁ………あ!
「木曽路木曽路、俺一つ行ってみたい所あるわ、長崎に無いやつ!」
「お?いいっすけどなんです?」
「サイ〇リヤ!」
「えぇっ!?いや、確かに無いっすけど……なんでサイ〇?」
「前々から行ってみたいと思っててさー、安いのに量多いから美味いのか気になって、丁度昼くらいだし良いだろ?」
「う、うーん……まぁ確かに近くにあるんで、行きますか」
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木曽路の特訓は終わり、俺達の渋谷観光が始まった。
まずは……別に観光地では無いけど、常々来てみたかった激安イタリア料理店にやって来た。
何故か長崎にはない、何でだろうか………そして人気の奴を一通り注文して食ったのだが……!
「嘘だろ、こんだけ美味くてこんなに安いのマジ?」
「めちゃくちゃ戦慄を顔に表してますね先輩………まぁ学生の味方なんて言われてますしね」
「長崎にこの店無いの損失すぎる……千乃会長に頼みゃ行けるかな、俺超通うぜタンク以上に」
「さ、サイ〇で喜ぶサッカーモンスター……?」
腹を満たした後は、センター街を一緒に歩いたりした。
長崎でショッピングモールに来た時は滅茶苦茶店あるなーなんて思ってたけど………ここはそれの比じゃねぇなオイ。
「すげー、人多いわ店多いわ、長崎ってマジ田舎なんだな」
「まぁそっすね、そりゃここに比べたら下手な地方も田舎っすよ」
「スポーツショップも滅茶苦茶あるな、ちょいと覗いてみる?」
「良いっすね!俺も新しいスパイクとか買おうかなぁ」
「………木曽路、路地裏にあるあの店何?」
「見てはいけませんっ!!あんたは特にっ!!!」
「………流が浮気する気配を感じる」
「何を言ってるの貴女本当に」
色んな店を見て回った後、少しいた場所へ戻り渋谷スカイっていう展望台エリアにやって来た。
45階に上がって展望台エリアに行く時すげー映像が流れてきた、サッカーじゃよくありそうだけど不意だったから少し興奮した。
まずは屋内フロアにやってきて、そこから渋谷の街の景色を眺めた。
「うおすっげーな、ビル滅茶苦茶ある」
「さっきまで歩いて見てたでしょ先輩……でもこーしてみるとやっぱ圧巻っすねー」
「ん、木曽路も来るの初めてか?」
「まぁ行く機会も無かったんで、でもこうして来て良かったっすよ」
「そっか……お、飯食いながら見れるのか、なんか食う?」
「いやさっき食ったばっかっすよね!?」
「まぁ軽く食うだけだって………にしてもカップル多いな………もしや俺ら浮いてる?」
「中坊ペアっすからね………今度忍原先輩誘ったらどうっすか?」
「え?別にまだ付き合ってないし」
「そーゆーとこなんだよなッ!!」
展望エリアで軽く食べながら景色を見て色々話をして、そして次には屋上エリアで改めて景色を眺めた。
「すげー高ぇー、まじで空にいるみてーだ」
「ちょいと怖いっすけどね……でも今日天気めちゃくちゃ良いから、こうしているだけで気持ちいいっすねー」
「だな、折角だし記念写真撮ろーぜ木曽路」
「OKっす!」
テンションも上がって俺ら二人で写真を撮り、折角なので来夏に送ってみようかと思ったが木曽路に何故か止められた………猛烈に嫌な予感がするからと。
そこから渋谷スクランブルスクエアの中にある様々な店を見て回ったりして、それだけだけど中々に楽しかった。
次に渋谷パルコっていう建物の中に入り、俺らが言ったのはゲーム会社関連の出店だった。
懐かしーなオイ、昔やってたゲームグッズがこれでもかってほど売ってあるんだけど。
「木曽路はポ〇モン、最初の御三家どのタイプ選ぶんだ?」
「俺はくさタイプっすねー」
「俺みずだわ」
「いえー勝ったー」
「お前がナエトル選んでたなら俺は最終進化のエンペルトで勝てるから覚えておけよ……!!」
「どんな恨み節っ……ったくもー………ははっ」
呆れながらも木曽路は笑っていた、今回の試合は俺がメインになってるけど……木曽路もいざって時は化身を使わなきゃいけなくなる場面が来るかもしれない、でも兆しがない以上内心では焦ってたはずだ。
これが少しでも緊張を解せていれば何よりだ、ていうか渋谷普通に見て回るの楽しいしな。
それからというものの更に渋谷観光は続き……楽しい時間は過ぎていくのであった。
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「あー滅茶苦茶見て回ったっすねー先輩!渋谷こんなに歩いたの初めてっすよ俺!」
「だなー都会すげぇわ、サイ〇長崎出来ねぇかなー」
「どんだけ気に入ったんすか、それ渋谷関係無いし………てか、気づけば夕暮れっすね」
「時間忘れてたなー、電車の時間は?」
「いや今はやめておきましょう、退勤ラッシュで超混むんで」
「来た時もそれなりだったんだけど………!?」
本来は特訓のつもりで渋谷に来たはずが、いつもの間にか先輩の提案により渋谷観光になって思い切り楽しんでいた……現在俺たちは再び忠犬ハチ公の象周りで休憩しており、オレンジに染まる渋谷の街を眺めていた。
………誰かとこういう風に渋谷を歩いたのは初めてだったなぁ、ていうか黒景先輩結構はしゃいでたなぁ、いつものマイペースはどうした?
とにかくかなり疲れてしまった、今電車乗ろうとしても混み混みで更に疲れそうだから少し待つことにしてる。
「お土産とか買わなかったけど、まぁいいよな?」
「っすね、ていうか絶対お財布耐えられないっすよ」
「違ぇねぇ、来夏とかえぐい高い化粧品とか頼んできたりするかも」
「ははっ!彼氏のプレゼントなら喜ぶんじゃないんすか忍原先輩?」
「彼氏じゃないよ俺?」
「はぁぁぁぁ、ったく……………先輩」
「んー?」
「俺、本当に化身出せると思います?」
「え?まだそこなのお前」
「出したいとはもちろん思ってますよ?でも、なんかやっぱ……感じるもんがないって言うか」
交差点で行き交う人々を眺めながら、俺は自分の気持ちを先輩に吐き出す。
弱音ばっかだけど、強くなりたいのも雲明の期待に応えたいのも本心だ………だからこそ、今こうして化身の気配を感じていない現状に焦りを覚えている。
「前も言ってたけど自信無いからじゃないの?俺も何となくだけどお前の中に感じる力があると思ってんだよ、後はお前がそれを信じればいいんじゃない?」
「そうなんですか………うーん………」
「なぁ木曽路、お前もしかして昨日京前嵐山の知り合いに言われたこと気にしてんの?」
「え?」
「ここはお前のような脇役が出るところじゃないとか、なんとか」
「それ、は………」
そう……昨日京前嵐山に居たかつての知り合い、西條リルに言われた言葉が胸に残っていたのは事実だけど、言っている事自体は間違ってないと思っているからだ。
転勤続きの俺は無理矢理誰かの輪に無理矢理入って友達を作り、サッカーでも選手と選手の間を繋ぐプレーばっかりしていた。
西條君はそんなコソコソと動くズルい俺をよく思って無かったんだろう……一緒の学校の時も俺を良くない目で見ていたからな。
「ここまで来て、自分はあの舞台に相応しくない………なんて、認めてないよな?」
「えっと、それは、その」
「木曽路、お前はまだ試合すら出来ない状態の南雲原サッカー部を支えてきたんだ、ていうか資格とか関係無いって………俺も笹波達も、お前が邪魔なんて思ってない、必要な奴だって思ってるよ」
「黒景先輩………」
「俺達全員でフットボールフロンティア勝つんだよ、そしてお前にそんな事を言ったあの化身使いの鼻、明かしてやろうぜ?」
「……………」
もちろん、そう思っている。
でもそうしたい為の化身が未だに形になれないのが現実だ………きっとなにか足りないものがあるに違いないんだ、大切な何かが………それに気づきさえすれば。
「先輩、俺には何が足りないと思います?」
「………自信?」
「いやまぁ、必要っすけどね?」
「まじで今のお前には必要だって思うけどな、だって普段からクソつまんないギャグ言える自信はあるのに」
「直球に言わない!」
「でもお前、自分でもそのギャグ笑えないって思ってそうだけど」
「うっ……………ぁ」
「ん?」
…………そう言えば、そうだったな。
誰かを笑わせたいのは本心だけど、俺は何時も笑っては無かったな………もしかして、友達の関係が長続きしないのはそれが原因で………化身が出ないのもそれが理由?
今回先輩との渋谷観光は、心から笑えてたのに。
でもそれだけ?そうじゃない気が………ていうか、何かまた見落としてるような……うーーーーん………!!
「………よし分かった、木曽路こうしよう」
「え、何すかいきなり」
「次の試合、俺が前半で
「………はい!?」
◾︎◾︎◾︎◾︎
遂に、この時がやって来た。
フットボールフロンティア全国大会………少年サッカーの日本一を決める大舞台の日。
南雲原チームのベンチから立ち上がり、俺の目の前にある広大な観客席と緑の芝生が広がるグラウンドを見据える。
高揚する気持ちが溢れているが、不思議と落ち着いている。
「(……………遂に、だな)」
この日を、どれだけ望んだか。
一人でサッカーをしていた時には想像もしなかった………今日が俺の初試合、俺のサッカーがどれだけ通じるか………あぁ、早くやりたい。
「待ちきれないって言ってるね、流?」
「……あれ、口に出てた?」
「いーや態度に」
「………待ち望んだ瞬間が、其処にあるからな」
「……いよいよだね?」
「あぁ」
隣に立つ来夏の呼び掛けに応える、このユニフォームもようやく袖を通せた。
初戦の相手、化身使いを擁する京前嵐山………どんな相手だろうと俺は、俺のサッカーをする。
「皆さん、注目してください」
後ろから笹波の号令が掛かり、振り返って我らがキャプテンに注目する。
皆も高揚する気持ちを抑えているのが分かる、緊張なんて微塵も見られない。
「先日もお伝えした通り、前半はまず黒景先輩中心でアタックを仕掛ます、敵は……と言うか、この観客を含めた全員は我らの切り札をまだ知らない……まずは前半、黒景先輩にはその状況を有効的に使ってもらい、これまで我慢していた分、思う存分暴れてもらいます」
「言われなくてもそのつもりだよ、前半は多少のバカは目を瞑ってくれるんだろ?」
「はい、前半は!目を瞑ります………後半は状況次第ですが、無視は許しませんからね?」
「へい」
「伊勢谷先輩、この舞台でもフィールドの指揮はお願いします」
「無論」
「……さぁ皆さん、時間です………勝って来てください!!」
「「「「「おおおっ!!!」」」」」
笹波の激に俺達は拳を突き上げて応える、必ず勝つ………そしてここで、俺のサッカーを示す。
待ちに待った瞬間、笹波の作ったこのチームでのサッカー。
強い相手との試合、俺の力は一体どこまでぶつけられる?示せる?勝てる?
今すぐやりたい、やりたい………いや、やる、やれる。
俺のサッカーをこの舞台で、このフィールドで………全部、溜めてた分をかましてやる。
「頼りにするぜ、黒景」
「奴らの度肝抜いてやれ!」
「おう」
歩きながら桜咲と空宮の言葉に強く返しながら、木曽路の方へ視線を向けた。
緊張はしているけど、強い眼差しだ………あんな約束しちまったからな、やるからには全力で有言実行だ。
そしてポジションにつき、開始を待つ。
『さぁまもなく開始となります!決勝大会初戦、京前嵐山対南雲原!初出場ながら驚異の快進撃で全国へ駒を進めた南雲原の前に、化身使いを擁する京前嵐山が立ちはだかります!この試合どう見ますか角馬さん?』
『やはり南雲原側は不利と言えるでしょう、化身なしで化身使いを封じるのは至難の業ですからね、何かしらの策を講じているのでしょうか……』
『なるほど、南雲原の作戦に期待したいところです!』
化身は、まだ無くても………。
◾︎◾︎◾︎◾︎
『いよいよ始まるなーアリス』
「そうだね、南雲原は化身相手に何処までやれるのか見物だが………」
「以前アリスが言っていた、かいぶつの存在もここで明らかになるわけか」
「あぁ………願わくば、いて欲しいけどね」
「どうせ敵になるなら面倒なことこの上ないがな……」
「………ヒカリ来ないと思ってたけど、来るなんてねー、しっかりジャージ姿だし」
「約束だしね、見てみたいものもあるし」
「約束……?見ていたいものって何?」
「内緒(黒景流…………いるなら見せてみろよ………同じかいぶつなら……!)」
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俺達京前嵐山の初戦相手、南雲原………あのソジがいるとは思わなかったな………ちっ、目付きが生意気なんだよ。
「……目障りなんだよ、ソジ……」
「なに?知り合いでもいるの?」
「……そんなとこです」
「まぁまぁ、試合でいじめてやればいいんですよ」
「今日も俺の化身で潰す………」
相手は無名にして全国初出場、一応対策として試合は何度か見させてもらった。
無名なりに勝ち進めてきたのも納得の内容だが、所詮それまで。
個々の実力がそれなりのレベルじゃ、俺達の化身を止められるわけない。
楽勝………俺達はただ勝つ事だけ考えていた。
最初のボールは俺達から………ここで一気に攻めて、ぶっ潰してやるよぽっと出ども。
『さぁいよいよ開始の時!フットボールフロンティア決勝初戦、キックオフです!!』
ピーーーーッ!!
フットボールフロンティア決勝初戦、開幕。
ボールが俺に手渡され、獰猛に奥のフィールドに位置している木曽路を睨みつける。
「さぁ始めるぜ……見逃すなよ、ソジッ!!」
開幕からギア全開だ、俺は力を解放し……俺の化身を呼び覚ます!
「こいっ!魔槍剣聖クララバニーッ!!」
手から溢れ出す炎の渦の中から、黒い槍を携えた女性型の化身が現れる……これが俺のクララバニー。
見た目が見た目だから小馬鹿にされることが多いが、こいつの破壊力を一目見れば誰もが押し黙る……そして今回も知らしめる!
「ありゃ、開幕から全開」
「監督の指示も仰いでますからね、行きなさい西條君!!」
「おうっ!」
溢れ出す化身の力を全開にし、俺は敵陣にドリブルで化身と共に突っ込み出す。
「デスサイズ」
それは、音もなく唐突に来た。
「…………ぁ?」
ボールが、消えていた。
さっきまでドリブルをしていた筈のボールが。
そして………後ろのクララバニーが。
「………きられ、て………!?」
真っ二つに、上と下が泣き別れて消えてゆく。
そしてその間に、誰かがいた。
ボールを乗せた右脚に、まるで死神の鎌のような弧を描いて。
その背番号は………0。
その男は静かに、ボールと共に着地した。
俺の仲間たちは信じられないものを見て、固まってそいつを見つめていた。
「………さぁ、行くぜ」
この後俺達は思い知る。
俺たちに驕りがあっても、相手に化身が無くても。
コイツに、見せられる。
「
かいぶつによる、地獄を。
《予測不能最終兵器》
黒景流 背番号0 MF 風属性
今、その牙を見せる時。
デスサイズ ディフェンス技 無属性
ブロック可能なオリジナル技。
音も無く忍び寄りボールごと刈り取る。
シュートブロック時には、また別の効果がある。