忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが?   作:グラビトン

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今回は主人公がブロック・ザ・キーマンの練習相手になる&サッカー部においての立場を書きます。

そして2話にも関わらずめちゃくちゃ見てくれる人が多い………ありがとうございます。

やはり来夏ちゃんは偉大。
そして過去最高の長文になりました…………。


決闘前の前哨戦にて

「……皆さん、配置に着きましたね。では特訓の目標とルールを説明しようと思います」

 

夕焼けで染まるうどん屋裏のグラウンド、私達はサッカーバトルの布陣で配置していた。

四川堂君がGK、亀雄がDF、木曽路がMF、そして私と桜咲がFW………短い間に叩き込まれたサッカーバトルのフォーメーションだ。

 

対する相手の流は……たった一人でそこに立っていた。

しかし本人はなんのその、何時もと変わらない眠たそうな表情で待機している…………欠伸してるし。

 

「今回の特訓に置いて目標とする所は、フィールドプレイヤーの4人が1人の動きを完全に封じる必殺タクティクス《ブロック・ザ・キーマン》の習得をゴールとしています、この戦術はさっき古道飼君が言った通り簡単に言えば一人潰し…………すなわち、明日の対戦相手である野球部の中心人物、柳生先輩に向けて行うものになってます」

 

「一人潰し………普通にやってても勝てねぇから、まずは柳生を潰して戦うってことなのか?」

 

「そういう訳ではありません……て言うか、普通にやっても今のメンバーだったら勝てる見込みは充分ありますよ」

 

「えっそうなの?じゃあこのタクティクス要るの雲明?」

 

「必要だからやるのですよ、最低でもこのタクティクスを完成させて、柳生先輩にぶつける必要がね」

 

「…………とりあえず必須なのは理解したが、もう少し説明してくれても良いんじゃないか?」

 

「……すみませんが理由は話せません、少なくとも明日の決闘までは」

 

どうやら雲明君は話す気は無いらしい、決闘までって………柳生に何かあるって事かな………あいつがサッカーをバカにした恨みを…………なんて無いか、雲明君はそういう人じゃないし。

 

「……ちっ、とりあえずやんなきゃいけねーんだろ?そんでアイツ……黒景だったか、そいつが今回会得する必殺タクティクスの練習台って事か?」

 

「はい、ルールとしてはまず特訓を開始・再開する際は必ず黒景先輩からボールを持って開始します、そしてそこから彼が皆さんを掻い潜ってゴール目掛けてシュートを打ちにやってきますので、皆さんはそこを完全に封じ込める様にプレーして下さい、その結果でタクティクス完成とまで行きたいと思ってます」

 

「これはタクティクス完成が第一ですが、これまで皆さんが培ってきた特訓のおさらいも兼ねています、完成するまでギリギリを詰めて継続させていきますので頑張ってください」

 

なるほど、反省会でもあるのか。

入部してから本当にサッカー漬けの日々だったからなぁ………でもぶつける相手が一人……それも流。

 

確かにこの場にいるメンバーで言ったらサッカー歴はかなり長い方だと思うけど、アイツってそんなに上手かったっけ……?

何分、一人サッカーをしている所を時々ただ見つめてただけだしな………木曽路だって上手いし、亀雄もDFとしてはかなり厄介だし、四川堂もGKしっかり出来てて、私と桜咲も形になってきたし。

 

そして何より5対1………一人潰しの状況を作る為とは言え、なんと言うか……緊張感というか、なんとも言えない気分になる。

 

「……あの、来夏さん……黒景先輩ってサッカー上手いんですか?」

 

「え?うんまぁ上手いと思うよ、少なくとも数日前からサッカーしてなかった私達よりは歴も長いし」

 

「でもあの雲明がこの特訓相手に抜擢したのなら、相当やるんじゃないんすかね」

 

「お喋りはそこまで、さぁ始めますよ」

 

雲明が私達の話を区切り、再び配置につく。

彼も手に持っていたボールを置き、準備出来たと言わんばかりに待機していた。

 

……顔はまだ眠たそうだが。

 

「(……よし、どれくらい食らいつけるかやってみる、私だって元々運動は得意だしね!)」

 

伊達に忍者の家系ではないのだ、何時も眠たそうな流の顔を驚かせてやる!

そう意気込み私も気合いを入れる、皆も準備万端な様だ。

 

「黒景先輩、用意は良いですね」

 

「あいよ」

 

首を鳴らしながら流は応える。

さぁ数的ガン不利だけどどうする気、こちらも特訓だから手加減出来ないし………流だって全力で来るに違いない。

 

「……では、最終特訓、開始!」

 

 

ピーーーーーッ!

 

 

 

雲明君がホイッスルを鳴らし、特訓開始の合図を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界に入っていた流は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え」

 

「は……?」

 

消えた、さっきまで目の前に立っていた筈の流が、もう居ない。

いきなりな上に理解できない光景に私達FW陣は戸惑った。

 

 

 

 

 

 

そしてその流は………既に私達を通り抜け、背後に居ることに今気づいた。

 

「ぇ、えっ!?ちょ!?」

 

「は、はゃぁ!?」

 

木曽路と亀雄の戸惑いの叫びに呆気から正気になり、すぐ様後ろへ振り向く。

木曽路は手を伸ばして阻害しようしてたが間に合わず、かろうじて走る方向に居た亀雄も対応しようとしてたが、流の素早い揺さぶりに翻弄されて右に抜けられてしまった。

 

「ッ!」

 

開始まもなくしてゴールキーパーの四川堂君と対面し、彼も驚きながら構えてたが、流はシュートをゴール端スレスレの所へ狙い撃ちし………四川堂君の手は届かず、ボールはネットを揺らした。

 

 

ピーーーーーッ!

 

 

ゴールした事を示唆するホイッスルが響く。

呆気なく、そしていとも簡単に突破された私達は立ち尽くし……ゴールを決めた流を見つめていた。

 

「ふぅ」

 

一息着いた彼の声が聞こえる。

さも、大した事はしていなかったと言わんばかりに。

 

「…………黒景先輩」

 

次に聞こえたのは雲明君の声。

何処か呆れたような感じで、流に話し掛けてきた。

 

「手加減、して下さいって言いましたよね?」

 

「…………今のじゃダメだった?」

 

「ぜんっぜん、これじゃ特訓は成立しません」

 

「あー……わり」

 

バツが悪そうに私達に向けて謝ってきたが、私達はそんな彼に何も言えなかった。

きっと、私達が思った事はこれだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「(今ので、手加減?)」」」」」

 

この時点で、さっきまでの私の自信は無くなっていた。

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

黒景 流。

それは僕が忍原先輩の事を調べているついでに知った名前だった。

 

南雲原中のアイドルの幼馴染み、ということで意外と知られてる人は多い印象だった。

それだけだったら特に気にする事も無かったのだが、サッカー部を作ろうとしている僕として見逃せない部分があったのだ。

 

それは、サッカーをしている事。

それも何処かのチームクラブに入っているわけでもなく、昔から一人でサッカーの鍛錬をしているとの事だった。

 

夜の海沿いの公園でよく見かけるという事で、僕はその人が居るという時刻にやってきて探索した。

 

そうする内に、音が聞こえてくるようになった。

それはかつてよく聞いた……ボールを蹴る音、ボールがぶつかる音。

 

もしかして、と思い僕はその方向へ急いだ。

そして辿り着き、僕は見た。

 

一人でボールを蹴り回し、縦横無尽に駆け走りシュートとドリブルを止めどなく繰り返す男の姿を。

あの時やっていた鍛錬の内容は……正直、何をしているのか、何をやりたいのか理解はできなかった。

 

シュート力か、もしくはドリブルを鍛えたいのか………間違いなく部活とかクラブでは絶対にやらない内容だ。

 

でも重要なのはそこじゃない。

 

「なんで、あんな事が出来るんだ……!?」

 

シュートして、そのボールに追いついて、ドリブルをしてシュートして、高く打ち上げたボールをトラップして目ついた木へシュートする。

それなりの距離があったにも関わらず、勢いがありつつ一直線に飛ぶボール。

やがて大きな音を鳴らしながら激突し、ボールは勢いよく上に上がり………即座に位置を割り出して、落下するより早く回り込んでそのボールをトラップした。

 

……デタラメな運動量だ、めちゃくちゃだ、何をしたいのか分からない。

 

でも、僕は感じた。

その荒唐無稽な動きから、彼に秘めてある力を………桜咲先輩の脚を初めて見た時と同じ衝撃を。

 

この動きを、何時からやっていたのだろうか。

話によれば小学生の時から見掛けていたと言う。

 

それが本当なら、今に至るまでずっとやっている事になる。

 

月明かりに照らされる彼の……黒景流の姿に僕は1つの確信を得た。

彼もまた、新しいサッカー部に必要な人間…………そしてやがて。

 

 

「(南雲原中サッカー部の、切り札になる)」

 

 

断言出来る。

現時点で南雲原中最強のプレイヤーは……彼だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こんばんは、黒景 流先輩」

 

「……笹波、雲明」

 

僕はすかさず声を掛けた、やはり彼も僕の事は知っていたようだ、来ると思ってなくて驚いた様子だった。

 

「見てましたよ、先程の一連の動きを」

 

「え、あーまじ?自分でもなんでやったのか分からないんだけどな」

 

聞いていた通り接しやすい人柄みたいだ。

これなら僕の話を聞いてくれるかも。

 

「分からない…………感覚に従った結果、という事ですか?」

 

「まぁそんなとこ、とにかく動いてボールを蹴って、走って………とにかく即思いついた事をしてるだけだな、意味なんて無いし」

 

彼があははと笑っている中、僕は分析を始めていた。

…………なるほど、直感的、感覚的にプレーをする人って所か。

マイペースな人とは聞いていたが、こういう風になっているのか……面白いな。

それに身体も近くで見てみると、サッカーでよく鍛えられているのが分かる。

 

 

桜咲先輩の様な脚では無いが、それでも全サッカープレイヤーの中でも随一なものを持っている………それ以外の要素も、既に全国レベルだ。

凄いな、これだけのプレイヤーがサッカー部のない南雲原中に居たなんて………仮にサッカー名門校へ居たとしても、間違いなくレギュラーを勝ち取っている。

 

 

「それで、用があるんだろ?笹波雲明」

 

「………はい、黒景先輩、近日中に始まる野球部との決闘……その手伝いをして欲しいんです」

 

「俺にサッカー部の一員として、戦って欲しいと?」

 

「違います、メンバーは既に揃っていますから」

 

「……そうなのか、なら?」

 

「僕は今いるメンバーにある必殺タクティクスを会得して貰いたいんです、その特訓相手にはより強い個のプレイヤーの力がいる……黒景先輩はそれが出来る」

 

僕が考えついた必殺タクティクス

《ブロック・ザ・キーマン》

フィールド上に居るプレイヤーを3人以上動員させて、狙いを定めた一個人を徹底的にプレーさせない、言わば1人潰しの戦術。

それを野球部の主将柳生先輩に対して使いたいと、黒景先輩に説明した。

 

「一人潰しか、何でそんなことを?」

 

「柳生先輩に1人の無力さを理解させる為です、僕はこの戦いの勝利よりもそれを優先させます」

 

「……どういう事だ?サッカーをバカにしていた柳生に対する意趣返し?」

 

「いえ、柳生先輩に送られる接待潰しです、彼に初めて自分一人でスポーツを………サッカーをさせるんです」

 

「…………ごめん意味が分からん、何故そんな?」

 

「……長くなるので、何処か座りましょう」

 

僕が何時も座っているベンチへ座り、僕の目論見と柳生先輩に関する事を明かした。

 

柳生駿河は元々は野球ではなく、僕と同じでサッカーをしていた。

試合では常に活躍して、皆からは賞賛の声を浴びていた。

 

周りの大半は、それが柳生と言う名前から生まれた空虚なチャンスをものにしただけだと知らずに。

彼の親は大物政治家、その親が良かれと思って息子である柳生先輩に活躍のチャンスを回している、本人の意思も関係なく。

 

その事実に嫌気がさし、先輩はサッカーを辞めて野球に転向した。

それでも………本人が望まないチャンスが回ることに変わりは無かったのだが。

先輩は常に来る仮初のチャンスに応え、結果を出し続けなければならない拷問のようなスポーツを続けている。

 

僕はそんな先輩を解放して、サッカー部に戻したいと……黒景先輩に伝えた。

 

「……拷問のようなスポーツね、好きでやってんのにそんなのやられちゃ、確かに堪んないよな」

 

「僕だって嫌です、活躍なんて自分で作りたいのに」

 

「……お前が柳生の事を思っての戦術だってのは分かったよ、でも何故お前がそこまでするんだ?」

 

隣に座っている黒景先輩を瞳を見つめる、眠たそうな彼の表情から送られる視線は、ずっと真っ直ぐで……僕を見定めるかのようだった。

 

「お前がサッカー好きだってのは良く分かるつもりだけど、それでもサッカーをバカにした柳生を助けたいのは何故?サッカー部を作る為か?お前がそうしたいから?」

 

「どちらもですよ……柳生先輩は、あんな立派な身体があるのに自由なスポーツが、サッカー出来ないなんてあんまりじゃないですか……正直羨ましいんです、願わくば僕もそうしたいのに」

 

「………………どういう事?」

 

黒景先輩の問いを聴きながら、僕はそっと、心臓のある部分に手を当てて答えた。

 

「……僕は、サッカー出来ないんです」

 

「─────え?」

 

呆気にとられたような声を出す先輩に、僕はゆっくりと自分の事実を伝えた。

 

幼い頃から好きでし続けてきたサッカー………それを奪われるのは一瞬だった。

先天性の心臓病、激しい運動をすればたちまち命の危険が起こりかねない僕の呪い………必死にこんな身体でもサッカーをしたいという思いでありとあらゆるデータを調べ、貪り…………出てきた答えは、不可能だった。

 

そんな事実に絶望し、かつての僕はサッカーのない世界を求めた。

だからこそサッカー部の無い南雲原中を選んだ…………それなのに、結局胸の中に燻るサッカーへの思いは消えていなかった。

 

 

火が灯ったのは、あの日の桜咲先輩の蹴り。

爆発したのは、柳生先輩のサッカーへ対する冒涜。

 

 

サッカーを、サッカーしたい。

こんな身体でも、プレーが出来なくても、僕はやっぱりサッカーを愛していた。

 

こんな身体でも、僕はやっぱりサッカーを求めていたから。

 

「…………だからこそ、僕は……今の南雲原中に無いサッカーを復活させて、僕はもう一度サッカーをする為にやっている、それだけの事です」

 

全てを話し終えて、そこからは暫く沈黙が流れた。

想像だにしてなかったのだろう、当然だ。

 

それからお互い何も言わず、ただ静かに海の波の音が立っていた。

 

「………………お前、凄いな」

 

「え?」

 

「そんな身体なのに、お前は誰よりもサッカーを愛してるんだな、俺なんか柳生のアレ見たってバカやってんなとしか思わなかったし、入学した時にサッカー部無い事実と、何故そうなったのかを知るとたちまち南雲原でのサッカーを諦めてるし………でもお前は全部知った上でやるとか、ホントにすげーな」

 

「いえそんな………サッカー部設立自体は完全に成り行きですし」

 

「それでもやべーだろ、あの日の宣戦布告から思ってたけど……やっぱ面白いわ、お前」

 

そう言うと黒景先輩は立ち上がり、僕の前に立ってボールを放った。

僕は慌ててそれを受け取り、先輩を見上げた。

 

「…………決めた、野球部の決着までは外野にいて、そっからどうするか考えてたけど、そんなこと聞かされちゃ動かない訳には行かないな」

 

「……という事は、先輩」

 

「あぁ……協力するよ笹波、お前のサッカーに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒景先輩は快く協力に応じてくれた。

彼をバトルに行使すれば間違いなく圧勝出来るが、そんなことをしてはかえってまた柳生先輩をサッカーから遠ざける結果になるので、今回はあくまでも特訓相手として活躍してもらう。

 

間違いなく黒景先輩は強い、ある程度手加減してもらって今のメンバー達にブロック・ザ・キーマンの習得を手伝って貰い、尚且つ特訓の総纏めを担ってもらう。

 

そして明日の決闘に決着がつけば、南雲原中サッカー部は復活出来る。

 

その為にも、あの5人には頑張ってもらいたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーーーーーッ!

 

「………………25点目、ですね」

 

…………やっぱり、相手が悪すぎたかな。

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

「黒景先輩、手加減をと言ってますよね?」

 

「いやしてるよ?でもアイツらふつーに動き良いし、俺一人だし、あんま抜きすぎたら舐めてると思われそうだし」

 

「確かに過度な手抜きはよくありませんが、ただでさえ貴方は動きも思考も読めなさすぎるのに、あちらは3人とも前までは未経験者なんですよ」

 

「ムズいな………海カモメのチビ達は分かりやすいんだけど………」

 

すっかり、空は暗くなっている。

歳下の雲明君に注意されて、流は情けなく後頭部をかいていた。

 

………一方、私たちはと言うとボロボロの状態でグラウンドに座り込んでいた。

用意されたスポドリを飲み休憩しているが、なんと言うかもう…………私達はマジで何やってるんだって感じだった。

 

「…………あの、さっきので何回目でしたっけ?」

 

「……30回目だね、そして僕が止めたシュートはたった5個…………皆の動きは彼に適応しつつあるけど、彼はその都度動き出しをまるっきり変えるからボールは一度も奪えてない………引き出し多すぎないか?」

 

「ふっざけんなよマジで、1人潰しの戦術作る為の特訓だろーが、なんで俺らが潰されてんだよ」

 

「マジそれっす………忍原先輩何もんなんすかあんたの幼馴染み〜」

 

「………私だって、まさかあそこまで強いだなんて思ってなかったもん」

 

1人潰しどころか、何度も私達は潰された。

1人を囲い、動き出しの初動や次の行動を封じる為のタクティクス………形にはなりつつあるけど、ほんっとーに相手が悪いとしか言いようがない。

 

まず何を考えているのか分からない、スポーツに限らず何事かやっているとその度に表情が変わって相手の様子を伺うことは出来るけど…………あのマイペース野郎は表情筋があるのかと言いたいくらいになんっも変わらないから読めない、おまけに汗もかいてない。

 

次に……プレーがもう意味分からない。

いや、私は初心者だし当然と言えば当然なんだけど、サッカー経験者である桜咲や木曽路がなんだこれ!?って言うようなものばかりだ。

 

シザースした後また抜きして、シュートするかと思ったら横に弾いて、そのボールに追いついてシュートするし、ヒールリフトした後ドリブルするかと思ったらそのままトラップしてボディコンタクト躱すし、再開したら………開始と同時にそのままシュート決めるし、これは雲明君が怒ってたな。

 

「………とにかくだ、アイツのデタラメな動きに瞬時に適応して即座に封じるしかねぇ、まず俺と忍原が即動いて固め、木曽路は全体を見渡して奴がどう来るか見張ってくれ、後亀雄は脚が速い、俺達が抜かれたと思ったらすぐに動いてくれ」

 

「わ、分かりました」

 

「僕はゴールから動けないけど、怪しいと思ったら直ぐに指示を出すよ、古道飼君と木曽路君は留意して欲しい、とにかく徹底して動かせないように」

 

「うっす!」

 

「………………」

 

「……忍原、聞いてたのか?」

 

「……えっ?うん聞いてた聞いてた!まず私と桜咲が頑張らなきゃね」

 

「だな、あんだけの動きをする奴潰せれば明日の戦術もきっとやれる……気合い入れるぞお前ら」

 

桜咲の言葉に皆が頷く。

………なんだろう、さっきからなんでこんなにモヤモヤするの。

 

アイツがサッカー上手い事くらい分かってた、私がそれにまだ追いつけてないのも理解してたつもりなのに。

前まではただ見ていただけのサッカーをいざ始めて、こうして流と初めて戦うと………なんだか、とてつもない差を、距離を感じてしまった。

 

「(同じフィールドに立つと、こんなに遠いんだ)」

 

未だに雲明君に注意と指示を受けている彼の後ろ姿を見つめる。

…………そういえば、私はあまりこの場で相手にされてない気がする。

 

さっきから私はプレーで軽くあしらわれている、やってきた歴が長いからしょうがないかもだけど…………流………………。

 

もしかして私、寂しさを感じてるのかな。

力の差があり過ぎて、距離を感じてしまったから。

 

なんで…………考えすぎでしょ、別に、寂しさなんて感じる必要ないじゃん、意味わかんない。

 

でも、このままじゃ、どうやったって追いついけない気がする。

流は手加減している、5人同時に相手をしてまだ余裕がある。

 

離れてく…………サッカーで彼の事を理解出来るのかと思ってたけど、今分かっているのは圧倒的な実力差。

そこには今まであった距離感なんてものは関係ない、ただただ無慈悲な現実がそこにあった。

 

遠い、まだ………………直ぐに追いつくなんて、絶対無理だ。

 

「(…………ぁ、さっきから、何考えてんの私、ホントに)」

 

何を焦ってるの、何を恐れてるの。

私は最近、アイツはずっと前から…………差なんてあって当然だ。

 

 

 

 

 

 

でも、嫌だ。

嫌だ。

 

 

 

 

 

 

このままなんて、絶対に…………

 

「……おい忍原、大丈夫か?」

 

「……ぇ、あ、だっ大丈夫、少し疲れてただけ!」

 

「…………そうか、んじゃとっとと終わらせるぞ、1人潰しをな!」

 

「おう!」

 

「は、はい!」

 

桜咲が立ち上がり、皆も続く。

さっきはこっちの心情を悟られないようにしたけど、胸の中が詰まるような感覚はまだ消えていない。

むしろ、ずっと重くなってる様な。

 

「黒景先輩、間違っても!いきなりシュートとかしないで下さいね?」

 

「…………へい」

 

彼はすっかり尻に敷かれていた…………なんか、羨ましくなってきた。

……………でも、見てくれない。

私は、見てくれないんだ。

 

私だって今、サッカーしてるんだよ。

今こうして、実力差あり過ぎだけど、頑張ってるんだよ。

 

見てよ、私を、何時もみたいに見てよ。

 

「(流………………ッ!)」

 

違う、なにこれ、気持ち悪い。

 

「それでは再開します、皆さん配置に着きましたね?」

 

「おう」

 

「……うっす」

 

再びボールが流の足元に配置される、私は定位置につき彼の顔を見る。

 

何も変わらない、何時も隣で見てきた眠そうな顔。

その視線は、ゴールにだけ向けられてた。

 

 

 

 

私は、そこに居なかった。

 

 

 

「ッ!!」

 

見てない、私を見てない。

嫌だ、嫌だ、そんなの嫌だ。

 

遠くに行かないで、絶対追いつくから、だから……!!!

 

 

 

 

ピーーーーーッ!

 

 

 

 

 

 

「……ッー!!!!」

 

私から、離れないで!!!!

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

ブロック・ザ・キーマン、習得訓練31回目。

笹波が言ったように動いて、1人でも簡単に封じられないような動きを意識して俺はなんども4人を抜け出した。

 

そんで30回目、ちょっと魔が差してダイレクトにシュートしてしまいお叱り受けてしまった。

 

『1人潰しの動きをするのに前提からぶっ壊さないでください!!』

 

全くもってその通りでございます、反省。

 

そんで休憩を挟み、31回目。

こっからはとにかくシュートを控えて、アイツらに戦術通りの動きをさせる事を意識する、そんでもってこれ以上無理なら撃つ…………よし覚えた。

 

さてさて、今度はどう来るのかと思いながら再び待機する。

 

それにしても四川堂、初めたてなのにゴールキーパー板に着いてるなぁ…………現に何個か食らいついてるし、今度シュート相手に頼も。

 

 

 

ピーーーーーッ!

 

 

ホイッスルが鳴り、雑念を即振りほどいて構える。

手加減、シュートはなるべく無し、よし行くぞ。

 

 

 

 

「……ッー!!!!」

 

 

 

「っ?」

 

そう思った瞬間、来夏が一気に距離を詰めてきた。

なんだ、どうした?さっきまで来たのは桜咲だし、来夏もその都度セットで掛かってきたけど………単独でプレスかよ、まさかの。

 

 

…………てか、あれ。

 

 

「(…………なんで、そんな顔してんだ?)」

 

鬼気迫る、と言うのか。

焦ってるのか…………今までに見た事ない、焦燥に満ちた表情で俺の前に立っていた。

 

…………もしかして、やりすぎて頭にきたのか?

とは言え特訓だし…………兎に角考えんのは後、ここは………!

 

まず横に移動する、しかし来夏は食いつく…………次にまた逆方向に向かって抜く、と見せかけその際に開いた脚にボールを通して抜く…………って。

 

「(こいつ、対応してる)」

 

俺の行動を読んでいるのか……やるじゃん。

さっきまで桜咲と2人がかりでやっとだったのに、成長してんな。

 

「忍原一人で何してんだ!?止めたのはナイスだが!」

 

「とりあえず囲みましょう!チャンス!!」

 

「(ありゃ)」

 

もたついてたら3人に囲まれた、ゴール前には古道飼が立っている。

なるべく3対1の構図は避けるようにしてたけど…………いや、ぶっちゃけこっから行けんことも無いけど。

 

とりあえず目の前の来夏を抜き去るか!!

 

フェイントも入れず右へ突っ走り突破しようとするが、来夏は全く同じ反応速度で俺に追い縋る。

おいおい、いきなり成長し過ぎだろ……と、思っていたら桜咲が大きな体格を活かして挟み込んで来る。

 

「………流石にダメ」

 

それを俺はハンドワークで近づけさせないよう、ボールをキープしつつ身体に手を当てて距離を作る。

 

「てめ、この!」

 

「流ッ!!」

 

来夏にも手で身体を寄せないようにさせる、とりあえず力を入れてきたら即解いて、そっから怯んだとこを…………。

 

「これで、どうだ!!」

 

と、思っていたら木曽路がスライディングですかさず奪いに来た。

判断はえーな…………でも、このまま取られんのも癪だし。

 

「……ほいっと」

 

前にキープしてあったボールを後ろに戻し、2人へのハンドワークを解くと同時にヒールリフトする。

桜咲は力を入れすぎた反動で体制を崩し、来夏も………………

 

「……ァっあっ!!」

 

「えっ」

 

崩れるかと思いきや、俺が手を離すと同時にすぐさまボールに食らいつき…………後ろに浮かせたボールを脚で掻っ攫って行った。

 

 

 

そしてこの瞬間、初めて俺は奴らにボールを奪われたのだ。

 

 

 

ピーーーーーッ!

 

 

 

 

笹波がホイッスルを鳴らす。

それはゴールを決められたサインではなく、来夏がボールを奪い取った合図。

 

 

 

 

 

 

「う、うぉっしゃあ!!やっと奪れたぁ!!」

 

「やった!来夏さん流石!!」

 

「……っ、はぇ?あ、終わった?」

 

木曽路と古道飼が来夏に飛びつかんばかりの勢いで迫る、当の本人は……なんか、呆気に取られてる?どうしたんだろ、なんか飲み込めてない感じ。

 

…………でも最初の動きといい、俺に食らいついた反射神経と身体能力…………うーん、アイツ。

 

「(やっぱ才能あんじゃん、すげー)」

 

ダンスのみならずサッカーにまで才があるとか、欲張りだなアイツ。

早いとこサッカーやるの誘った方が良かったかな………というか、他の奴らも全然上手かった、やり始めやブランクのステータスじゃないよホント。

 

「……ふぅ、なんとか奪えたか……」

 

「アンタもいい動きしてたよ、桜咲」

 

「……嫌味にしか聞こえねーな」

 

「なにさ」

 

倒れている桜咲に手を伸ばし、掴んできたので引っ張ってやる。

…………いや改めて見るとデカ、ホントに同年代?

 

「つーかお前みたいなバケモンが南雲原に居たとはな」

 

「大袈裟だな、俺はただのぼっちプレイヤーだよ」

 

「そのぼっちに滅茶苦茶にされてんだよこっちは」

 

「まぁまぁ、これで明日の決闘もバッチリか?」

 

「…………いや、多分お前一人の方がずっと手強い気がするんだが」

 

「そうか?」

 

野球部の奴らはサッカーしてたっぽいし、流石に俺一人よりかはと思うんだけどな…………ま、コイツらなら大丈夫だろ、多分負けない。

 

「…………腹減った」

 

「確かに、うどん食いてぇな」

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

やっと、ボールを奪えた。

形はどうあれ一人潰しの特訓は成功した、と言えると思う。

 

と言うか流の動きに食らいつければ、大抵の相手は何とかなるだろう…………あんな奴早々居ないし。

 

そんな事を考えながら、奪ったボールを抱えて桜咲と話をしている流を見つめる。

 

「(……何だったんだろ、さっきの私)」

 

なんであんなに、流が見てくれないことに恐れてたんだろ。

でもなんだか、そのおかげであの動きに追いつけた気がする…………なんでだろ。

 

あんな私……知らなかった。

でもこれで1歩近づけたかな。

 

「(…………私、変なのかな)」

 

ただ、好きなだけなハズなのに…………何処か、おかしくなっていると感じている自分がいる。

あの寂しさを、怖さを埋めてくれたのは……あの時の流の顔。

 

少しだけ目を見開いた、私を見てくれた時。

 

…………あぁ何言ってんだろ、ホントに私は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不思議と、悪い気はしない。

 

 

 

好意と、私の知らない気持ちがぐちゃぐちゃになったかのような得体の知れない感情は、多分私を強くしてくれる。

 

彼と隣に並んで、サッカーできる。

 

 

 

 

絶対、誰にも譲らない。

流は、誰にも。




黒景 流
後に南雲原中サッカー部に入部、笹波雲明から隠された切り札として重宝されるが、大きな活躍はまだ先。
最後の来夏の活躍を見て後方幼馴染面する。

忍原来夏
サッカーをやり始めて感じる、幼馴染みとの大きな差に焦燥を感じてしまう、ていうか構ってちゃん。
なんだか好意が若干捻れつつある、笹波雲明にちょっと嫉妬。

笹波雲明
我らが主人公。
あれ、なんかヒロインみたいになってる?



次こそ!絶対!!滅茶苦茶絡ませます!!!

セレクトキャラは何を選びましたか?(グループB)

  • 伊勢谷 要
  • 頂 挑夢
  • 雨道 未理科
  • 牛島 突五郎
  • 星美哉
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