忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが?   作:グラビトン

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京前嵐山は今回で終わると言ったな……あれは嘘だ。


主役を掻っ攫え!

「なんだアイツら、いきなり動きの質が上がってやがるぞ?」

 

「後半開始から化身共鳴を使うのは何となく察してたけど、なんか違うよね?」

 

「……木曽路が言っていた、恐らくアイツらは……京前嵐山イレブン全員が擬似的な化身使いの状態になっている」

 

「はぁ!?マジで言ってんのか!?ていうか、木曽路が何故それを分かったんだ?」

 

「え?あーいや、本当に何となくで」

 

曖昧な返答をする木曽路に訝しみながら、眼鏡を外して思考を開始しする。

後半開始直後、西條リルと屋城統はいきなり化身共鳴を発動したが……それは俺達が事前に伝えられていた本来の化身共鳴とは何が違っていた。

 

化身使い2人だけではなく、チーム全体にも行き渡って……結果、京前嵐山イレブンの動きがいきなりグレードアップしていた。

 

ボールは黒景が持っていた状態で、最初に西條がクララバニーと共にプレスし、さらに3人もの選手が一気に近寄ってきた。

黒景はパスをしようとしたが既に近くの仲間たちには敵がマークをしており、そのまま抜けようとしたが屋城のバニシングカットで奪取されてしまった。

 

そこからは速攻でパス回しされて前線に上げられて、いきなりの奇襲で俺達は対応出来ずに敢えなく一点を取られてしまった。

まさかまだあんな手段を隠して………いや違う、本当に奥の手なら前半で黒景が連続得点を決めた時点で使う筈だ。

 

そして相手を見た感じ、体力も先程の流れでそれなりに消耗している、つまりこれは……?

 

「まさか開始一分でこちらも決められちまうなんてな、木曽路の言う通り相手全員が化身使い状態って、やばくねぇか?」

 

「……桜咲の言う通りだが、やばいのは恐らく敵もだ」

 

「ん、どういう事だい伊勢谷君?」

 

「先程行った化身共鳴の力は確かに絶大だ、しかしそれが本当に奥の手としてとっていたなら前半で使うべきだ、黒景の流れを断ち切る為にも」

 

「そうだね、仮に奥の手として最初からあったのなら使わない理由は無い……多分、これはアドリブの作戦なんじゃないかな?」

 

「アドリブ、なんですか?」

 

「敵を見ろ、後半開始だと言うのに攻撃に加わった選手の息が少し荒い………擬似的化身使いとなっているなら、本来の化身使い同様体力の消耗は著しい筈、そしてこの状態は………あの化身使い2人が齎している」

 

「前半でもそれなりに使用して体力を使ってるんだ、もしかしたら………黒景の動きを封じる為にもあの二人、後半一杯まで化身を発動させた状態を維持するかも」

 

「マジか、化身って体力消耗バカにならねぇんだろ!?」

 

俺と空宮の推察に柳生が驚いた声を上げる、皆もそれぞれの反応を見せている。

この推論が正しければ正しく大博打だ、全員化身使いとなってパフォーマンスはたしかに高まるが、それでも危険な事には違いない。

 

黒景を抑えるだけでも大事なのに、ここから更に4点を決めなきゃならない、至難の業とかそう言うレベルじゃない。

それも承知の上で、奴らはこの後半戦に全てを賭けて望んでいる………ただ勝利の為に。

 

初めて会った時はあんなにも嫌味な感じが溢れていたというのに………全く、熱い奴らだ。

 

「とにかく切り替えよう、黒景………最初に相対してどうだ、振り切れそうか?」

 

「んー……前半みたいに一瞬の隙さえあれば抜けるけどさ、多分もう通用しないかも………西條がゴールへ上がる中屋城含めた3人がマークしてきたけど、マジで周り見ないで俺に一点集中でマンマークしてきたんだ、オマケに今化身使いと同等スペック3人が貼り付けて来るなら………流石に厳しいかも」

 

「流石のお前でもか、しかし戦況自体は俺達の優勢には間違いない、ただでさえ相手はここから4点を決めなきゃならないからな、それに黒景を集中してマークするなら他の選手に意識が逸れる………そこを突いて更なる追加点を決めれば」

 

「こちらの勝ちは一気に近づくと言うこと………しかし、先程みたいに取られて攻められたら簡単には守れないよ?」

 

「あぁ、しかしこんな言葉があるくらいだ………攻撃は、最大の防御」

 

「………意外と脳筋だよね、伊勢谷君」

 

四川堂が苦笑いで眼鏡を掛ける俺を見る、そうか………まぁ、否定は出来ないが、それに。

 

 

『おっと南雲原、後半開始して選手交代をする模様です!』

 

『背番号73から34、古手打選手を下げて小太刀選手がピッチに入る模様です』

 

 

キャプテンも同じ考えのようだ。

 

 

「ありゃ私かぁ、じゃあ皆さん後はよろしくお願いします!」

 

「あぁ、任せてくれ」

 

残念そうだが古手打は後腐れなくそれを受け入れベンチへ走る、小太刀先輩とハイタッチを交わして先輩はこちらに向かってきた。

ここでディフェンダーからアタッカー寄りのミッドフィールダーを投入する、つまりは監督も攻めろと指示している様なものだ。

 

「柳生君、貴方は七南さんのいたポジションに着いて欲しい、空いた所にウチが入れとキャプテンが」

 

「なるほど、雲明も伊勢谷と同じ考えってことか」

 

「下手な守りはいずれ崩れると言っていた、だから東風異国館との試合のように、開始したらウチと来夏さんを中心にして攻めましょう」

 

「おっけーです、しくじらないで下さいよ先輩?」

 

「貴女も全然活躍してないから頑張りなさい」

 

「ベンチスタートに言われたくないですーー!」

 

「………もう僕さ、この仲良し見てるだけで安心感を覚えてきたよ」

 

「あ、なんか分かります」

 

「「仲良くないっ!!」」

 

妖士乃と古道飼の言葉が心外だったのか、2人が同じセリフでそれを否定している……いやそのやり取りも何回目だ?俺達もいい加減普通に仲が良いと思っているんだが、頑なに認めようとしてない。

 

「はいはいそこまで、再開するからポジション着くよー、伊勢谷君……攻めは俺が見るから、君は守りの方お願いね」

 

「了解した、黒景も動き回ってできるだけ体力を消耗させてくれ」

 

「へい」

 

空宮は攻撃陣の指示、俺は防御陣の指示。

攻めるとは言ったが防御も大事だ、これが現時点で有効的な作戦だろう、黒景がタダ封じられて終わるやつじゃないのはよく知っている、しかし油断は一切しない………したら恐らくキャプテンは俺たちに恐ろしい量のトレーニングを用意してくるからな……!!

 

ふと黒景の方を見る、こいつも攻めるなとは言われてるから忘れてないよな………ん、何かを見ている……木曽路の背中を見ている。

 

「(………そう言えば、何故木曽路は真っ先に全員が化身使いの状態になっていると言った?波長とはなんだ?)」

 

何か隠しているのかアイツ……………まさか、もしかしたら。

黒景もそれを気付いているのか?思えばあの二人は1ヶ月前から普段より一緒に特訓を励んでいたが………キャプテンの指示なら。

 

ベンチにいるキャプテンに視線を移す、彼もまた木曽路の事を見つめていた……やはりそうか。

 

状況自体は何度も言うが南雲原の優勢だ、しかし時間も余っている、敵が強化されている以上番狂わせの可能性はゼロではない。

 

その可能性を潰す方法………本来、化身は化身でしか倒せない、黒景みたいな論外は除外だ。

であれば、俺の推察が正しければ。

 

「(必勝の鍵は、木曽路か)」

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

「全員が、化身使いみたいな状態か」

 

改めて考えてもとんでもないことをしているな……一点を決められた流れが凄まじすぎて、その効果は目に見えてやばいと痛感する。

あの化身共鳴の元となっている西條君と屋城さん………あの二人のどちらかでもダウンすれば消えるはずだけど、なんでだろう。

 

「(絶対に持たせるって意志を感じる……本当に、化身を後半フルに使う気なのかあの二人)」

 

だとしたらマズイ、黒景先輩を頼りにしたいけど……雲明の指示でこれ以上のシュートは許されてない、しかも敵は先輩を徹底的にマークして……あの人ですら一筋縄で抜け出せないという状況だ。

 

何か一つ、ここから間違えたら敗北になりかねない………。

 

なら俺はやはりここで……!!

 

「(化身を、出すしかない!)」

 

雲明は黒景先輩を使って、化身共鳴が生み出す戦術ラインを断ち切ろうとして……前半はそれが大成功に収まった。

そして今、先輩が満足に動けなくなるかもしれない状況、こうなると当てにしてしまえば今の速攻と同じ流れでやられかねない。

 

本来化身は化身でしか倒せないと言われていた、だから今俺が後半で化身を出さなきゃ行けない、先輩とも約束してしまったし……何より、雲明は俺には既に発動させられるだけの条件は揃っているって。

 

そして俺は大事な何かに気づいていない、それにさえ気付ければ……!

 

 

 

『僕らはこの試合11人で勝つんだ、それを忘れないで』

 

 

 

これが雲明のヒントだった、当たり前のことだけど……意味の無いことをアイツが言うわけない、どういう事だろう?

 

俺は黒景先輩の活躍に憧れて、あぁなってみたいと思って………それで、雲明は俺にはもう使えるって言った。

これになにか繋がりが………俺自身が、化身を使えるにも関わらず何かの原因で使えなくなってるってことだよな?

 

11人全員の気の流れを俺に1つとして纏めて、そこから生まれる大きなエネルギーで化身を作る………俺にはそれが出来るはずなんだ。

 

11人………チーム11人………11………あれ………?

 

「(俺って、ちゃんと11人全員の気の流れを見てる、よな?)」

 

唐突に違和感が押し寄せる、何度も確認して頭に叩き込んでいた筈なのに、とてつもなくつっかえている気持ち悪さを感じた。

 

「俺は、何を見落として……」

 

「おい木曽路!再開するぞ!前見ろ!」

 

「え、あっ!すみません!」

 

 

 

ピーーーッ!!

 

 

 

何かに気づきかけたけど、後半が再開してしまった。

くそっ、でも仕方ない……試合の中で考えるしかない!集中しろ木曽路兵太!

 

開始と同時に黒景先輩にボールが手渡され………一気に駆け上がった!?

 

「あれ?先輩って攻めてちゃダメじゃ?」

 

「いや、キャプテンはあくまでもシュートを禁じている、黒景が囲まれて動けなくなる前にできるだけその足でボールを運び攻撃陣に渡す、ていうか相手はアイツがシュート撃てないとか知らないからな」

 

「あぁなるほど、頼みますよ仲良しと空宮先輩と桜咲先輩……!」

 

「俺達はここで攻められた時は死に物狂いで止めるぞ木曽路!」

 

「はい!」

 

 

『さぁ試合再開直後で黒景選手が駆け上がる!今の京前嵐山は彼の攻撃を止められるのか!?』

 

『ただでさえ今3点差ですからね、これ以上の失点は敗北と同義……折角作った流れをどう守るのでしょうか』

 

 

「行かせるかよ、撃たせねぇ!」

 

「……止める……!!」

 

 

『おおっと!化身使い2人と更に二人で囲みました!?』

 

『徹底して黒景選手に満足なプレーをさせないと……!』

 

 

「あれま、そこまでする?」

 

黒景先輩に4人!?いくら何でもだろ!

………いやでも、そんくらいじゃなきゃ完全に止められたりしないか!

 

4人は囲みながらボールを奪おうとする、先輩は触れられないようにしてボールを操っている、いや凄いな、あれでも耐えてる……!?

 

「ちっ、このっ!」

 

「………っ!」

 

西條君が取ろうとするが、先輩は空いた隙間にボールを蹴り出す、そして届いたのは………空宮先輩!

 

「ナイス直通!行くぜ仲良しと桜咲!」

 

「うっさい!」

 

「やめなさい!」

 

「争うなボケ!」

 

 

『おおっと黒景選手!糸を通すようなパスコース!南雲原の攻撃陣がゴールへ向かっています!!』

 

『よく見てましたね!ディフェンス陣は残ってますがチャンスですよ!』

 

 

ボールを運ぶ空宮先輩と3人が攻め上がる!行け行け、決めれば勝ち………

 

「通しませんよ!」

 

「行かせないっ!!」

 

「え、早っ!?」

 

そう思っているとディフェンス陣がとんでもないスピードで空宮先輩に近寄る、マジか……確かに化身使い状態になって能力が底上げされているとは聞いたけどそこまで!?ほぼ西條君達の動きと変わらないじゃん!?

 

「やべっ、小太刀先輩!」

 

このままじゃ取られると判断した空宮先輩は、後ろの小太刀先輩にバックパスを渡す。

けど、空宮先輩にマークしていた2人が一気に猛スピードでそのパスに追いつこうとしている!?嘘だろ、早すぎだろ!

 

「………ウチは撒き餌よ」

 

しかし小太刀先輩は冷静に、宙に浮かんだボールを横に弾きだす。

そしてボールは横にいた忍原先輩に届き、隣には桜咲先輩も居る!

 

「まぁナイス!桜咲ッ!!」

 

「おう!決めるぞ!!」

 

忍原先輩が宙に向かって強烈な回転を掛けたボールを打ち出し、桜咲先輩は飛び上がり………ネジ巻きのように荒れ狂うボールをその剛脚でシュートする!

 

「真・春雷ッ!!!」

 

全国大会の為に強化された春雷がゴールへ向かう、これが決まれば一気に勝利に近づくぞ!

 

 

『南雲原の春雷が放たれた!これが決まれば南雲原の勝利は確実ですよ!!』

 

『京前嵐山のキーパー新黒選手はこれを止められるのでしょうか!?まさに勝負の分かれ目です!!』

 

 

「止める………止めなきゃ、終わる……!!」

 

キーパーの新黒は汗を浮かべながら迫り来る紫電の一撃を見据えて構える、ただでさえか細い勝利への道筋がこの失点で完全に消えかねないから。

 

化身共鳴・連によって彼女自身も強化されているが、想定以上に春雷の威力は絶大だった。

押し潰されてしまいそうなプレッシャーが全身に、心に伸し掛る。

 

………だとしても、後輩が、仲間が自身を削って勝ちに行こうとしている、折れてしまいそうだった仲間達を奮い立たせた。

 

それに応えなくてはいけない、止める。

何がなんでも止めなくてはいけない。

 

「絶対に……止める………止めるッ!!!おおおおおおぉッ!!!」

 

奮い立たせるように声を上げる、そして彼女の中に………かつてない程の力が湧き上がった。

それは化身共鳴・連によって強化された恩恵か、はたまた追い詰められたが故の覚醒か。

 

いずれにせよ、全ての事象が彼女の力に共鳴した現象であり………キーパー新黒の、更なる覚醒は果たされた。

彼女の背後に浮かんだのは、4つの腕を持ち、全てを噛み砕かんとする巨大な顎を携えた巨大な紫の鮫………!

 

「深淵の、アギラウスッ!!!」

 

「なっ!!?」

 

「う、そ……!?」

 

 

『な、な、な、なんとぉッ!新黒選手!ギリギリの状況下でまさかの!?化身が発現したぁぁぁ!?』

 

『ここで化身が!?あの二人の強い化身共鳴により呼び起こされたのでしょうか!?いずれにせよ凄い!凄すぎます!!』

 

「ま、マジか……!?」

 

桜咲先輩も忍原先輩も、ていうか俺達を含めたグラウンドの全員が驚いていた。

まさか、まさかこの場面で化身を覚醒させるなんて!?

 

「私にも、化身が……これならッ!!!」

 

春雷が迫る中、アギラウスが巨大な顎を開き……その中から放たれた激しい水流がそのシュートを飲み込まんと相対する。

 

「ギガバイトスクリューッ!!!」

 

明鏡止水とは正反対の荒れ狂う水の技が………春雷を飲み込んだ。

絶体絶命の状況、覚醒によるスーパーセーブで観客席のみんなは大喝采を起こしていた。

 

「すげぇ新黒さん…………そうだ、新黒さん!化身共鳴だ!」

 

「え、私が?でもやったことは」

 

「その化身は多分俺達の共鳴により生まれたもんだ!早くッ!!」

 

「わかった………深淵のアギラウス、化身共鳴・連ッ!!!」

 

背後のアギラウスが猛々しい咆哮を轟かせ、更なる共鳴を呼び起こす。

しかも最悪なことに、新しく生まれた化身が更に元いた2体の化身と共鳴し………京前嵐山のチーム全員が更なる強さを得てしまった!?

 

「嘘だろ、マジで言ってんのか!?」

 

「来るぞ、備えろ!!」

 

「黒景ッ!!」

 

「……………やべぇ………へへ」

 

「何笑ってんだクソボケモンスター!?」

 

未だに囲まれてる黒景先輩は桜咲先輩に怒鳴られていた。

キーパーの新黒が強くボールを蹴りだし、西條リルがそれを受け取り一気に味方ゴールへ駆け上がる。

やばい、更に強くなるとか聞いてねぇよ!?

 

『3体目の化身による共鳴が発生した!更なる強さを得た京前嵐山が南雲原に牙を剥きます!!』

 

『これは本当に分からなくなりましたよ!?まるでサッカーモンスターの出現に呼応する様な覚醒!!なんて熱いんだ!』

 

「伊勢谷先輩、どうするんですか!?」

 

「どうもこうもない!死ぬ気で防ぐぞ南雲原!!」

 

「は、はいっ!」

 

クソッ!俺にも、化身さえ使えれば……!!

どうする?まさかキーパーまで化身を得るなんて想像だにしなかった、破るには黒景先輩並のシュートじゃなきゃきっと無理だ。

 

「くそっ、黒景先輩………ん?」

 

縋るように先輩の方へ視線を向けると……なぜか、しゃがんでいた。

 

「………え?」

 

な、何してんのあの人?囲まれてる状態で動けないから休憩とか、え?嘘でしょ?なにしてんのまじで?あの3人も止まってるよ?

 

と、信じられないもの見てしまい、凝視していると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………とりゃっ!!」

 

勢いよく後ろへジャンプし………一回転して、その輪から抜け出し……着地すると同時に、一気にこちら側へ走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「は……はぁぁ!?」

 

『な、なんと!?黒景選手がまるで新体操のようなバク宙で抜け出したぞ!?檻から放たれたモンスターが西條選手へ迫っていく!!』

 

「……は……ぁあっ!?」

 

「よう、俺とやろうぜ……ッ!!」

 

実況の言葉に西條君が驚いていると、黒景先輩が彼に追いつき身体をぶつけてきた。

まさかあそこから抜け出されるとは夢にも思わなかったのか、西條君は信じられないような、本当に怪物を目の前にしているかのような顔になっていた。

 

「よし止めるぞ木曽路!!妖士乃も来い!!」

 

「OK!」

 

「は、はい!」

 

動きを止めたのと同時に3人でプレスに入る、ボールを奪わなきゃ、とにかくゴールは決めさせちゃダメだ……!!

 

「く、クソッ!邪魔すんなかいぶつッ!!」

 

「こっちだ西條!……出せっ……!!」

 

すると横から屋城が走っており、西條君からパスを求めていた。

やべ、もうそこまで来てたのかよ……!?

 

「屋城さんっ……ぐ、ぁっ、あ……オラァァッ!」

 

途中様子が可笑しくなった西條君はその人にパスを出した、しかし……そのスピードは軽くシュートだった。

 

「な、おい待て、それは……!?」

 

屋城はそれに追い付けず、ボールはそのままラインを越えてしまった。

 

 

 

ピピッ!

 

 

 

 

『おおっと西條選手、ここで痛恨のパスミスです!ボールは南雲原になります!』

 

『どうやら更なる共鳴により力は増した様ですが、その制御が効かなくなったってところでしょう……おや、西條選手………?』

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

俺達のスローインが決まると同時に、西條君が膝をつき化身が引っ込む。

汗が滝のように芝生の上に落ち、呼吸も荒く、顔色が目に見えて悪くなっていた。

 

恐らく化身の使い過ぎなんだろう、しかも後半開始からずっと動いてて……それでいて、マジで持たせようとしているんだから、このままじゃ体がぶっ壊れる?

 

「さ、西條君、大丈」

 

「触れんな、ソジ……お前の手なんか、借り、るか」

 

思わず手を差し出してしまったが、軽く払い除けられて、西條君は自分で立ち上がる……よろめいており、今にも倒れてしまいそうだ。

 

「………おいおい、マジで大丈夫かお前……壊れちまうぞ、このままだと」

 

「誰の、せいだと思ってんだ、クソ野郎……ッ!!」

 

「………やっぱ熱いよお前」

 

「さ、西條君こちらに!少しでも休んで!」

 

すると仲間達が彼に駆け寄り、少し離れた所へ肩を貸して運んで行った。

 

俺はその姿をただ眺めていた………すげぇな西條君………彼だけじゃない、京前嵐山のみんなが死力を尽くして勝とうとしてる、こんな大差でも諦めないで死ぬ気で戦ってる………!

 

「……かっけぇな、ホント」

 

そんな言葉が零れてしまった、状況は悪くなっている一方なのに、そう思わずには居られなかった。

あれだけ俺は嫌われているのにも関わらず、彼の後ろ姿が眩しく見えた。

 

「……すげーよな、アイツら」

 

「黒景先輩……」

 

「3体目の化身が出るし、西條以外も体力スレスレなのに、あんなに熱いプレー出来てさ………いやー、堪んねぇな」

 

「ホント楽しそうっすね先輩、こんな状況だってのに」

 

「………いや、木曽路も笑ってんぞ?」

 

「え?」

 

「笑ってたよ、あいつらの姿みてさ」

 

「あ、あー……そうなんですか」

 

無自覚だけど、多分合ってる。

思わずそう思ったんだろう、敵であるにも関わらずに………まぁ、事実だし別にいいか。

 

「それにしてもどうします?あのキーパーの化身、黒景先輩じゃなきゃ破れませんよ……雲明に言ってやっぱシュート解禁して貰います?」

 

「………何言ってんだ、まだあるだろ?方法」

 

「え、なんかありましたっけ」

 

「お前なぁ………」

 

「……あっ!」

 

そうだすっかり失念してた。

化身だ、俺の化身を使わなきゃ………この時間の間に改めて考えなきゃ。

 

「なぁ木曽路、なんで出せないのか心当たりないのか?」

 

「いやその、雲明からはヒントとして俺達は11人で試合に勝つって言われただけで、それを考えてたんです」

 

「おう」

 

「そんで改めて俺の化身の出し方を振り返って、11人全員の気の波長を集めていると思ってると………なんか、引っかかっんですよ」

 

「何が?」

 

「……それがまだ分かってないんです、なんか大事な事な筈で、致命的で」

 

「そっか、答えはもうすぐってことか」

 

「いやポジティブに考えるとですけどね」

 

相変わらずマイペースだなもー………先輩なら、分かるかな。

 

「先輩は、どう思います?」

 

「んー………自信がないとかのアレじゃないなら、誰かの気の波長が本当は無いとかじゃね?」

 

「え、そんな事はないですよ、まず黒景先輩でしょ?そんで忍原先輩、桜咲先輩、四川堂先輩、柳生先輩、亀雄、伊勢谷先輩、妖士乃先輩、小太刀先輩、空宮先輩で……………………………………あれ」

 

 

あれ、10人だ。

なんで、あれ?あと一人は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………お前………なんで自分を省いてんの?」

 

「………ぁ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『僕達は11人で試合に勝つんだ、それを忘れないで』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………あぁ、そうか、そういう、事だったのか。

 

11人の力が必要なのに、俺は無意識に自分を省いていたのか。

 

だから、化身の力がいつまで経っても使えなかったんだ。

雲明は気づいていたのか、俺が……自分を必要ない存在だって思い込んでいたことを。

 

特別でもなんでもないと自分を卑下して、何処にいても、仲良くしようとしても誰も彼も離れていって、結局1人になると……いつの日か無意識にそう思い込んでいた。

 

だから、俺は何処にいても居ないものとして自分をそう決めつけてて………それで、俺は………。

 

 

 

「……おい、木曽路………なんで自分で自分を消した?」

 

「…………やっと、やっと分かりました」

 

「木曽路……?」

 

「前に言いましたの覚えてます?特別な存在に憧れてるって」

 

「……あぁ」

 

「桜咲先輩や忍原先輩………そして今日の黒景先輩」

 

「…………」

 

「俺は特別なんかじゃない、日本一を目指すチームに俺なんかが要らないって、そう決めつけてた、勝手に諦めてんだ」

 

「お前……」

 

「………でも間違いだった、そう思っていたからずっと変われなかった、何時までも昔の孤独を引きずってばっかじゃ強くなれるわけ無かったんだ」

 

転勤続きで、全部どれだけ友達を作ろうとしても結局俺は1人だった、南雲原中でも無駄に明るく振舞っても、結局そうなるものだと諦めてた。

 

でもいつの間にか雲明に惹かれて、サッカー部に入って、キツいこともあるけどそれ以上に滅茶苦茶楽しくて充実してて、俺はこの南雲原サッカー部が大好きになっていた。

 

それなのに何時までも特別じゃない、俺みたいな雑魚は要らないと、黒景先輩みたいな人達と俺を勝手に比べて諦めてたんだ。

 

はは、ダサすぎるな……かっこ悪いや。

雲明に託されてたのに、先輩にもあれだけ励まされてたのに、こんな形で自分のバカに気付くなんて。

 

 

 

「なぁ、木曽路」

 

「……先輩」

 

「なんでお前がそう思ってたのか知らないし、お前の気持ちを俺はきっと理解してやれないけど…………お前はこのチームに必要な存在だ、俺だけじゃない、皆だってそう思っている」

 

あの無表情な黒景先輩が俺を真剣な目でまっすぐ見て、俺達のチームのベンチへ指を指した。

俺がそこへ視線を向けると、雲明がラインの前に立っていた。

 

俺はそこにゆっくり歩いて近づき、話し掛けた。

 

「……やっと分かったよ、雲明」

 

「なら、どうする?」

 

「正直今でも、俺が先輩達のような特別になれるかなんて分からないけど……もうそんなの関係ないや」

 

自分の手のひらを見つめて語る、そう……俺は特別じゃなくても俺は俺だ、誰かのプレーをつなげる事しか出来ないかもしれないけど、皆と一緒にてっぺんを取りたい気持ちは嘘じゃない。

 

もう自分で自分を縮こませるのは終わりだ、この弱さを自分の強さにして……みんなと勝つ!

 

「俺はこのチームが大好きだ、だから……俺も自分を信じて、あの人達みたいに戦うよ!」

 

その手で拳を強く握りしめ、雲明に笑いかける。

雲明も俺に笑みを浮かべてくれた。

 

「なら行ってこい、変わるのは……今だ!」

 

「おうっ!!」

 

改めてポジションにつき、南雲原11人の気の波長を読み取る。

目に見えないそれは赤い線のように一人一人に纏わりついてる、それを自分一箇所に纏めあげる。

 

感じる……前なら感じ取れなかった力を、一人一人の力が1つの大きな波動に変えて、俺の力に………化身にする!

 

「(そうだよ、こんなに簡単な事だったじゃないか)」

 

自分でも仕方ないと思っている所はあったかもしれない、けどそれを理由にずっと言い訳しながらも、俺はずーっと望んでいた、誰かの特別になれることを。

 

なれるかな………いやなってみせる、ここでやる!!

黒景先輩が、雲明が俺をずっと見くれてたんだ、今応えなくてどうするってんだ!

 

 

『さぁ後半は10分弱過ぎています、ここからの展開次第で南雲原の優勢は変わりかねませんね』

 

『しかし京前嵐山の要である西條選手はかなりキツそうですね、頑張って欲しいですが、無理して今後の選手生命に関わりかねない事態にならないことを願います……』

 

 

そして西條君を見据える、屋城さんと一緒に黒景先輩に張り付いている。

目に見えて限界が近い事がわかる、いや……既に超えているかもしれない、あんなかいぶつを視野に入れなきゃいけないんだ、無理もない。

 

それでも……全力で勝ちに来てる、やっぱすげぇよお前。

 

俺も、それに応える。

 

お前は俺に見向きもしないだろうけど、今からこのフィールド全てを………ひっくり返してやる!!

 

『さぁ柳生選手のスローインで、試合再開です!』

 

 

ピーーーーッ!!

 

 

 

「柳生先輩!俺にボールください!!」

 

「っ!?木曽路……!?」

 

「お願いします!」

 

まさか俺がボールを求めるとは思わなかったのか驚いていたけど、俺の顔を見つめて、先輩は笑ってくれた。

 

「……わかった!行け木曽路!!」

 

スローインで投げられたボールが俺に届き、脚でボールを抑えて目を閉じ集中する。

 

「(………行ける、感じる、出せる!!)」

 

纏まった1つの力がどんどん大きくなるのを感じる、今にも形として出たがってると叫んでいるようだ。

さぁ1つ間違えりゃ危なくなるこの状況を楽しめ!あの人が燃えていたように!!俺も熱くなれ!!

 

生まれて初めて感じるこの昂りに、熱に従え!!

 

「しゃしゃり出るな!ソジーーーッ!!!」

 

西條君のイラつくような声が近づいてくる、俺は目を開き西條君に不敵に笑って見せて………天に右手を勢いよく翳した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞ、木曽路兵太ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間。

雷が俺の背後に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!!?」

 

 

西條君とその槍を振りかざそうとしたクララバニーはその際の衝撃で立ち止まる。

 

 

 

そしてその中からひとつの形となって現れ始める。

 

翡翠の身体に雷を纏い、鋭利な爪を携えた強靭な両腕を地面に強く降ろし、獰猛なる瞳を持った孤狼が、俺の化身ッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迅狼!!リュカオンッ!!!」

 

《ウォォォォォウーーーーッ!!!》




木曽路兵太/迅狼リュカオン
誰かを楽しませる為に、自分も楽しむ心を自覚して生まれたのがエンターテイナー。
しかし主人公が西條リル達がサッカーで熱くなるのを間近で感じて憧れて、自分もそうなりたいと強く願い闘争心を燃え上がらせ……生まれた化身はリュカオンとなった。

覚醒は己の弱さを自覚した時現れる、かいぶつはその進化を促す。

敵味方、問わずね?
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