忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが? 作:グラビトン
帝国編はまだ続きますよー。
昔から少女は、当時の環境に置いて無類の強さを誇っていたサッカープレイヤーでした。
類まれなる才能と圧倒的なフィジカルは年上のプレイヤーすら手も足も出ず、少女に追いつける敵も仲間も居ませんでした。
仲間はそれを称えました、敵はそんな少女をこれ以上なく恐れた目で『かいぶつ』と呼びました。
かいぶつ………その呼び名が少女の頭から離れませんでした。
自分はかいぶつで、周りはそうじゃ無いからこんなにも差があるのだと自覚しました。
敵はともかく仲間はそんな彼女の力にあやかるばかりで、少女の才能に頼りきった勝利ばかりを得て喜んでました。
そんなサッカーにうんざりした少女は、チームから離れました。
孤児だった少女には同じ境遇の仲間が沢山いました、それ故に孤独を感じることは少なかったのです。
それでも、サッカーが自分の一番になっている少女にとって………対等な力を持つプレイヤー、かいぶつが彼女の世界に居ないことがこの上なく寂しく感じてました。
そして時は流れ、ようやく少女は出会えたのです。
やっと自分と対等な力を持つかいぶつと出会えて、ようやく自分が求めていたサッカーができるのだと。
しかし、それは少女の思い上がりでした。
少女の秘めている才能は、たしかに常人とはかけ離れた力を持っていました、その力だけで当時の環境で太刀打ちできる者は誰一人として存在しませんでした。
しかしそれは、才能のみに依存した勝利。
そんな勝利ばかりを重ねた少女、そんな状態から抜け出すためにはどうしても………少女に必要な、あるものが足りませんでした。
自分を強くする目標………それに至るまでの結果。
即ち…………敗北。
◾︎◾︎◾︎◾︎
「サッカーに限らず、この世界には敗北を知らずして真の強さを得られる者は居ない、その結果から来る学びで人はようやく、進化という結果を得られるのだ」
「貴方がよく口にしていた敗北という事実を学びと表現する………という事ですか、それが今のヒカリに必要と?」
「あぁ、そしてお前にもな」
「………………」
夕焼けに染まる帝国学園のサッカーグラウンドを眺めて、俺は隣にいる俺の保護者にあたる人物とそんな議論を広げていた。
この人は今やとある財閥のトップに立つ人間だが、かつてはこの帝国学園を率いた最高のゲームメイカーとして名を馳せた人物。
円堂守世代のプレイヤー、少年サッカーを語る上でこの人の存在は欠かせない。
南雲原との試合に向けて戦術の調整をしていると、ふとこの人が入らしていたので、俺が預けていたサッカーモンスターが南雲原のサッカーモンスターに連れていかれた事を話して今に至る。
敗北を学びとする…………ネガティブな結果をそのまま次の糧にする、頭では分かるがどうにも理解しきれない……俺にはその経験が無いから。
「貴方の言葉が真実なら、あの黒景流も敗北を経験したということになりますか?」
「そうだ、あのプレイヤーの力は才能に依存せず、己に何が出来るか、どうすべきか、そしてどう言ったプレーがしたいか出来るか、一人でそれに気づくことはほぼ不可能だ、大きな壁にぶつかることで………自分に足りないものを学び挑戦する…………それは、あの天河ヒカリには無いものだ」
「…………まさか、彼はヒカリにそれを教えようと?」
「恐らくな」
「………理解不能だ、ありえない、それは敵に塩を送る行為に他ない、確かに俺は敗北を知らないからヒカリに教える事はできない、それで彼女が強くなれるならこちらとしてはプラスだが……彼にとって、南雲原にとってはマイナスという結果にしか至らない筈だ」
「そうだな、きっと黒景流の独断だろう」
「貴方になら分かるんですか、黒景流がそんな行動を行った意味が」
俺は隣のその人を見つめる、そして彼は少しだけ口角を上げた。
「簡単なことだよアリス、彼もまた欲していると言うことだ」
「………何を?」
「自分を高める、楽しませてくれるライバルさ」
◾︎◾︎◾︎◾︎
「はぁ、はぁ、はぁ…………」
…………なんで。
なんでなの。
なんでこんなにも、ボクは焦ってる?
ようやく、ボクと同じかいぶつと楽しいサッカーが出来ると思っていた、そう信じてた。
でも今はそんな事全然感じれない、楽しくない。
息が段々と荒くなる、汗が流れて止まらない。
こんな事…………サッカーしている時に一度も無かった、きっとこんなにも動いた事が無かったからだ。
汗をかく事はあっても今日こんなに流した事は過去にない、ずっと適当なプレーをしておけば勝てたから、帝国のみんなは強いけどそこから少し考えてやれば結局勝てたから。
でもそれが通用しない、効いてない。
ルールは単純、ボクがボールを奪ってゴールを決めればいい、それだけの事が出来ていない。
目の前にいる………流先輩がそれをさせてくれない。
「………どうした、始めてからボールにすら触れてないぜ」
彼も汗を流してはいるけどボク程じゃない、余裕だって比べるまでもなくある、この差はなに?同じかいぶつなのに。
「うる、さい……なんで、あの時は互角だった、のに」
「あの時俺は少なからず疲れてたし、お前とやる時はほぼ奇襲みたい形だった、そして改めてお前の試合を見てどんなプレーをしていたかは分かったし……こうして1on1をすりゃ、俺は負けない」
「……ボク、だって、見てたのに……?」
「見てただけ、どうやって俺がプレーしてたかなんて完全に分からないだろ?それに俺はまだ出し切ってないしな」
「…………っ」
なんだ、この差は。
体力もスキルも違う、ボクより……上?
強いやつって言うのはこういう奴の事を言うのか………そうだ、ボクはずっと弱い奴としかサッカーをしてなかった……狙い撃ちをしてた訳じゃない、相手になる人物全てがそうなってた。
あぁ………確かに勝って当たり前のサッカーばかりだ、ボクより強いが今日まで居なかった。
………でも、それだけでこの胸の苦しみが説明しきれない筈。
これは何?心臓がドクドクと鳴り止まない、苦しい、そしてこの苦しさを受け入れてしまえば壊れそうで、怖い。
狂いそうで嫌だ、取らなきゃ、取らなきゃ。
勝たなきゃ、このかいぶつに……!!
「ぁ、 ……はぁっ、ぐうっ!!!」
脚に力を込めて流先輩との距離を縮め、勢いのままボールを取ろうとするが……先輩は身体とボールを少しずらしただけでボクのカットを避けた。
「速い、でもそれだけ………直線的に来るのを避けるのなんて簡単だよ」
「うるさいっ!!!」
「お前のフィジカルは驚異的だし、その歳でそれだけの力が備わってるのは本当にすげーと思うけど、それ頼りなんてうちの監督は見逃さないぜ?後体力…………思いの外低いのか、お前?」
「っ!?」
体力の低さなんて、気にしたこと無かった。
気をつけていれば消耗も激しくなかったし、動き回っても汗を流す程度で済んでいたのに………そうか、過去にこれだけの運動をしたことがないのかボクは、それに焦ってる……こんな事になるなんて思いもしなかった。
「多分そのフィジカルを長時間活かすだけの体力と技術が備わってないんだな、見た感じ脱力は超優れてるけど………まぁそりゃそれ頼りじゃ持つ訳ないわな」
ボクの攻撃を躱しながら冷静に分析している、なんだよもう、合ってるのかもしれないけど認めたくない、なんだよこれ、知らないって!!
なんでボクはこんなにも我武者羅になってるんだ、楽しくない筈なのに続けてるんだ、動いてるんだ。
ていうかなんだよこの人、上手すぎるって、ボクにしか視線向けてないのにボールコントロールの精度が全然落ちてない!
ヒールリフト、ターン、また抜き、ルーレット……あらゆるドリブルのテクをこなせている………その点、ボクは最低限より少し上くらいの技術しか備えてない、必殺技だって………それでずっと勝ててたんだ。
…………ならこの人相手なら?
ボクの事をここまで理解しておいて、それでいてボクはこんなにも藻掻いてるのに全然相手にして貰えてない。
勝てない?
ボクは、勝てないの、この人に?
こんなこと、考えたこと無かった。
どうすれば、勝てるの?
嫌だ、勝ちたい。
勝ちたい。
「勝ちたいっ………!」
「………勝てねぇよ、そんなんじゃ………なっ!!」
先輩が距離を取ると、ボールに力を込めて風がそこから迸る。
それはまさか、あの技…………ボクにはまだ備わってない、必殺シュート!?
「ゴッド………ウィンドッ!!!」
ボールと共に駆け出し、力を込めた一撃が重々しい衝撃音と共に放たれた………神風を纏い荒れ狂うシュートを、ボクはよろめきながら構えて………右脚で力いっぱい受け止めた。
「ううっ、あぁっ、あ、あぁ、つよ、い………!?」
受け止めきれては居るけどそれだけ、勢いはまるで落ちない。
決められる、うそ、ダメだ、勝てない………!?
「………やだ、嫌だっ………嫌………!!!」
なんで、こんなにも怖がってるんだよ、何にそんな恐れてるんだ。
好きなサッカーをしてるはずなのに、なんでこんなに怖いんだよ。
そんなことを考えていたら、自然と右脚から力が抜けてゆき………ボクはそのボールから放たれる風に吹き飛ばされた。
「ぁあああっ!!」
倒れてそのまま地面に突っ伏してしまう、あのシュートは当然ボクの背後にあるゴールネットに突き刺さった。
「………はぁっ………はぁーっ…………うっ、あ………はっ」
………何も、出来なかった。
一度も奪えなかった、止めれなかった。
力が入らない、立てそうにない。
胸が苦しい、痛い、怖い。
なんだよこれ、知らないよこんなの。
何をしたんだよ、ボクに。
「…………知らないのか、ヒカリ」
顔を、上げる。
先輩が見慣れた無表情な顔でボクを見下ろしていた。
「負けたんだよ、お前」
「………ま………けた…………?」
「勝って当たり前のサッカーじゃ知ることのできない結果だよ………それが、俺がお前に教えたかった事だ」
「……ぇ………え………あ」
「お前の負けで、俺の勝ちだ」
まける?
まけた?
なに、それ。
みんなが言ってたやつ?
ボクが勝った時にみんながそういってたやつ?
負けた、負けた?
ボクは勝てなかった、だから…………負けたのか。
ボクがあんなに怖がってたのは、負けると感じてたから?
それが嫌だって本能で感じてたから、必死になってくらいついてたの?
勝手に同等だと思ってた、でも全然違った。
今地に伏せながら見上げているこの人が、とてつもなく大きな壁に見えて、怖くて、勝てる気が、もうしない。
苦しい…………苦しいっ…………あ、あぁ………そうか、負けたんだ、ボク………これが、悔しいって気持ちか。
酷いなこれ、こんなのをボクはみんなに味あわせてたんだ。
………いや、ボクだからこそこんなにも苦しくて痛いんだ、胸が。
いたい、ちからが、はいらない、たてない。
「………なんで」
「うん」
「なんで、こんなことを教えたかったの?」
「………」
「なんで、負けることがボクに足りない事なの?」
「………お前の言う楽しいサッカーは、自分が勝って当たり前って言っていた様に聞こえてな、お前にそのつもりが無くても」
「ぇ………?」
「何度も言うけどお前は強いよ、そんなに強ければ勝って当たり前かもだけど………俺にはその当たり前なんかゴミだ、お前が今立てないのがその証拠だ」
「ひど、いよ………なんで……」
「負ける事が、お前をより強くするからな」
「………は?」
先輩はそう言うと、ボクの後ろのゴールに置かれたままのボールを取りに行った……………負ける事が、ボクを、強く?
意味わからないよ、こんな苦しい気持ちがなにを強くさせるのさ。
嫌だよ、もう嫌だ、こんな気持ち二度と、したくないって。
手のひらを強く握りしめる、グラウンドの土ごと。
負けるのがこんなに、苦しいなんて思わなかった。
勝って、勝って、負けるなんてなかった。
酷く苦しくて、もう負けたくなんてない、同じと思ってたのに、この人も………ボクと同じだと思ってたのに………!!
「………ここに来る前、俺が憧れの人に出会って負け続けた事話したろ?」
「………?」
「あの時のサッカーで俺は初めて負けた、負けに負けた、それでも楽しかったけどな」
「………まけた、のに?」
「今思えばあの時ボロカスに負けて良かったと思ってるよ、それが今俺を作ってるんだから」
「………………」
「それから俺は初めて負けをくれたあの人を目標にしてサッカーをした、来る日も来る日もひたすらに一人でボールを蹴った、どれだけ成長してもその人には追いつけた気がしない、それを繰り返して繰り返して………俺はここにいる」
「………なんで、勝てる気、しないんでしょ?」
「だからいいんじゃないか」
「……え?」
「そんな途方もない目標で、俺はどこまでも強くなれるんだから」
「………………」
目標………ボクには、そんなものない。
ただ強い奴とサッカーをすればそれで良かった、けど………こんな形になったら、なんか、そんなので本当に良かったのかって思うようになってきた。
悔しくて、苦しくて、勝ちたくて、勝てなくて、情けなくて、奢ってた自分にイライラする。
「………あ」
そっか………もう負けたくないから怖いんだ、負けたくないから勝ちたいんだ。
先輩もその人に負けたくないから、強くなって、いつの日か勝ちたいって思うんだ。
ボクがこの日初めて感じた厭な気持ちを二度と感じたくないから、みんな勝ちたいと思って強くなるんだ。
それは、勝って当たり前のサッカーじゃ分かるわけ無いんだ。
そんなサッカーだけしてたボクに分かるわけなかったんだ、先輩に勝てるなんて思い上がって、バカだな、ボク。
目標ってやつが、自分を強くさせるなら………ボクは何を目標にすればいい?
簡単だ………今目の前でボールを持っている、この人だ。
ボクはここでこの人にボロボロにされた、めちゃくちゃにされた、今までのサッカーを壊された。
悔しくて、怖くて、憎くて………でも、勝ちたい。
勝ちたい、あぁ………そんな事今まで考えたことも無いな、負けたからこう思うんだ。
でもどうやって勝てばいい?少なくともさっきまで手も足も出なかった。
なら……………新しいボクのサッカーを、今までのボクを壊さなきゃ無理だ、一生勝てる気がしない。
「(いやだ、勝ちたい勝ちたい、勝ってやる、勝つ、勝つ、勝つ!負けたくない!!負けたく、ない、もう負けるのは、いやっ!!!!?)」
さっきまで沈んでいたボクの心に感じたことの無い熱が灯る、知らない、でも悪い気はしない。
これが先輩の教えたいことだったんだ、この衝動を信じればいいのかな?きっとそうだ、そしたら強くなれる気がする………!
「……………どうする?もうやめちまうか?」
「……ふざ、けるな、まだ、やるよ………!!」
見上げながら力を入れて、ゆっくり立ち上がる。
よろめきながら踏ん張り、先輩を睨みつける。
何故か、笑っていた。
「勝てるのか、そんなボロボロで?」
「しておいて酷いなぁ………こっからボクは強くなれるよ……?」
「そうか、それは良い………負かした甲斐があった」
「………先輩は、ボクを強くするためにこんな事を?」
「あぁ、今のお前と準決勝で戦いたいからな」
「………負けるかもしれないよ、南雲原」
「勝つさ、俺の仲間達は強いんだ」
「信じてるんだ………流先輩が、チームが負けるかもしれない要因を作ってまでボクを強くするエゴイストだって知ったら、みんな驚くよ?」
「まぁバレてるだろ、心配しなさんな…………いい顔してるな、そっちの方が俺好みだ」
「言ってろよ………ボクの事、こんなにめちゃくちゃにしておいて、ぐちゃぐちゃにして、ゆるさないから、絶対に、負かしてやる…………勝つのはボクと、帝国だから」
「そりゃいい、楽しみだ」
先輩はあくまでも楽しそうに笑い、ボールを地面に置く。
…………もう馬鹿みたいに突っ込んでもとれるわけない、この人は考えたりせずに即座に優位な手を浮かべてそれを繋げる、ボクにも出来るかな?
あーーーーーなんだよ余裕そうな顔して、ボクをこんなにして。
ゆるせない、ゆるせない、ぐちゃぐちゃに、ぶっ壊してやりたい、ボクを強くして、その為にここまでやりやがって。
あーーっ、あーっ、自分で自分じゃ無くなりそうだ、頭がどうにかなりそうだけど……もういまは、この人を潰したい。
つぶして、ボクを、刻んでやる。
新しくしてくれたボクを、お返しに焼き付けてやる。
そして後悔させてやるよ、黒景流……………ボクを強くさせたことを!!!
「ハァァアッ!!」
湧き上がる衝動と力のままに、空間を展開させた。
先輩はいきなりのことで少し目を開いていた、ボクはそんな先輩に一直線で近づく。
先輩は冷静になってかわすが、ボクはその瞬間……………一筋の光となってその空間を右往左往して先輩のボールを取ろうと、光の乱反射のように撹乱する。
「これは……!?」
「ゾーン・オブ・ペンタグラムッ!!」
速度を上げる度に空間が崩れてゆき…………そしてボクの動きが止まる頃には……足元に、ボールが置いてあった。
とれた、やっととれた。
初めてここで産まれた必殺技で、取れた、勝てた。
いや。
まだだ。
「まだこれじゃ足りないッー!!!」
抑えきれない衝動のままに、先輩に向き直る。
先輩はすぐに立ち上がりボクを笑いながら見据える、ボクも思わず笑みを浮かべながら…………地面のボールを一度回転させて、空中に蹴りあげる。
浮かんだボールは空で青白い光を展開させて留まり、ボクはそこに目掛けて飛び上がり……先輩の後ろのゴール目掛けて、解き放つ!!
「流星ッ!ブレードォォッ!!!」
ボールは青い流れ星となりてシュートされ、先輩の隣をそのまま通り過ぎて…………シュートは決まった。
「…………はは、すげぇな………」
先輩より少し遠くで着地し、先程決まったシュートが入ったゴールを見る。
初めて出来た、ここでまた出来た………ボクの必殺シュート………ヒロトおじさんが見せてくれた流星ブレードとは違うけど、其れと同等かそれ以上のシュートを。
そして何よりも、勝てた。
やっと、先輩に勝てた、勝てた、勝てた勝てた勝てた。
「ッ………ぁぁあアッ!!!」
言葉にならない声を上げ、湧き上がる喜びを噛み締める。
ボロボロにされて、ぐちゃぐちゃにされて、初めて感じた敗北感と苦しさを乗り越えて、新しい必殺技で勝てた、先輩の度肝を抜いてやった!!!
あぁ、やば、今までの勝利より、気持ちいいっ。
これが本当に、勝ったって事なんだ。
負けるかもしれないリスクを背負うから、こんなに勝てたら気持ちいいんだっ!!
楽しいっ、ボクがやりたかったのは、こんなサッカーだったんだ!!
「………想像以上だヒカリ、才能のゴリ押しなのは変わらんけど、まだ強くなれるよ、お前」
「先輩…………」
「負けたよ、流石だ」
負けたのにも関わらず、満足気な先輩を思わず見つめる。
そしたら手を差し伸べてきた、握手ってやつか………ボクも、先輩にはこの上なく感謝の気持ちでいっぱいだ。
仮にこの戦いが無いまま試合しても、きっと楽しくなかったし折れてたかもれない。
負けるリスクを作ってでも、ボクを見てくれた、ボクを目覚めさせてくれた、強いひと。
あー、なんでだろ。
この気持ちは…………。
「許さないよ、先輩」
「えっ?……なっ!?」
ボクはその手を握らず、先輩の服の襟を掴んで押し倒す。
そしてボクはその上に乗っかって顔を近づける、鼻が触れ合うくらいの距離、先輩の瞳はさすがに動揺を表していた………アハハッ、いい気味だね。
このまま仲良くなんてすると思った?するわけないじゃん、そんなことわかってたでしょ先輩。
許さないよ、ボクをこんなにして、強くしたのは、結局自分がそういうボクを望んでたからでしょ?
だからボクにあんなに怖い思いさせたんだ、エゴイストめ。
いいよ、今のボクをボクは好きになれるし、それでも先輩は許さない、許さない許せない、このままになんてさせないから。
「先輩、先輩はボクに強くなって欲しかったのは、より試合を楽しむためでしょ?」
「……あぁ」
「そっか、いいよ、楽しませてあげるから、貴方が壊して作ったボクで勝つからさ………でもさ、ここまでさせてこのまま終わるなんて味気ないよね?」
「何が、言いたい?」
「ボクもう、先輩の与えてくれた刺激じゃなきゃ満足できないよ、だから次の試合さ」
「ボクらが勝ったら、南雲原辞めて帝国に来てよ」
「…………は?」
アハハッ!!分かりやすく動揺してるっ!
そうだよ、先輩はボクを壊したんだ、こんなサッカーを教えてくれてそのままさよならなんてさせない、この人の全てをボクが壊してやる。
そして改めて、先輩がしたようにボクを刻んでやる。
そして許してあげるからさ………これってなんて言うんだろう、復讐?憎しみ?いや違うな………敢えて言うなら。
「そしたらお互いさ……また気持ちいいサッカー出来るじゃん?」
ボクの、愛だ。
◾︎◾︎◾︎◾︎
「…………ふぅ」
すっかり夜になってしまった、宿泊地のコテージまでもうすぐだ………今日は本当に濃い1日だった。
フットボールフロンティア全国大会初戦で俺の初めての公式戦、円堂ハルと同じくらいのサッカーモンスター、そいつと軽く聖地巡礼して、ヒカリのサッカーを覚醒させて………うーん、凄い1日だ。
そして最後、ヒカリを目覚めさせたのは良いけど、勢いであんな約束してくるなんて思いもしかなったな流石に。
………まぁ確かに、俺個人の気持ちの為に年頃の女の子を負かしたとか外から見れば最悪最低だった、反省。
………でもまぁ、これで次の試合はより面白くなりそうだ。
立ち止まり夜空を見あげる、あー………風が気持ちいいわ。
今日という日を、俺は一生忘れない。
そしていつの日かまた、あの人と出会えたらな。
「………あ、そういえば」
スマホの電源落としっぱなしだった、ポケットから取り出して電源を入れ直す………画面が映ると、とんでもない量の不在着信と未読トークが入っていた。
うわー忘れてたけど、まぁこうなるよなぁ………どうしよと思っていると着信が入った………笹波からだ………よし、覚悟決めろ俺。
「……えーもしもし?」
『やっっっっと出たァァ!!』
「んがぁっ」
予想してた通りの大声が聞こえた、事前に耳から離してたけどそれでもデカい、どっから声出してんの笹波?
『ほんっとこんな時間まで!!連絡もなく!黙って何してたんですか!?貴方が天河ヒカリと一緒になってたのはバレてますからね!!』
「あーそうなの?まぁバレるか」
『先輩!結論だけ聞かせてください、何を、したんですか!?』
「あー…………あーうん、笹波」
『……はい』
「ヒカリ、強くなったわ」
『は?』
「よって帝国もより強くなったわ、一緒に頑張ろうな」
「…………ぉ……ぁ……は、ぁ?」
「あー後さ、負けたら俺帝国行く羽目になったわ」
『は???』
「まぁなし崩しというか成り行きというか…………とりあえず死ぬ気で勝とうな」
『────、────』
『雲明?おい雲明!?やべぇぞ雲明が立ったまま白くなって気絶しやがった!?』
『度重なるストレスと情報量がショートして受け入れられなくなったんだ!しっかりしろ雲明!?』
『とりあえず黒景は一度殺そう!俺達も頑張るから正気に戻れ!!』
「あー…………まぁそうなるよなぁ…………」
『流』
「ん?あー来夏か?」
『もう襲うしかなくなっちゃったよ』
「え、なんて?」
『でもいいよね?ずっと我慢して』プツッ
「うーん…………さて」
死にに行くかぁ。
黒景流
帝国戦が難易度インフェルノになった戦犯。
あれ、帝国戦まで生きているのこいつ?
笹波雲明
可哀想な人、力の代償と言うにはあまりにも重い。
天河ヒカリ
主人公に壊された人、負ける恐怖を知って勝利をより渇望するようになった結果より強くなることに。
しかしそれを自覚させた主人公に憎しみやら感謝やらがごった煮になって、その気持ちを愛と考えるように……3人目のヒロイン、爆誕。
流星ブレードA
別世界の若きおじさんが使っていた流星ブレード。
少女が得た新たなる星は、よりその光を輝かせるだろう。