忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが? 作:グラビトン
次回から何話か特訓回になります。
少年サッカーの祭典、フットボールフロンティア全国大会。
その初戦は昨日行われ、日本中のサッカーファンの注目を集めて開始されたが…………その1日は、歴史に残ると言っても過言じゃなかった。
まず九州代表の南雲原中学校。
最近復活したのにも関わらず快進撃を続け、全国への切符を掴んで初戦を突破したが、その試合内容は驚くべきものだった。
相手は化身使いを擁する京前嵐山中、化身使いが確認できない南雲原は苦戦必死の試合になると思われたが、その予想は大きく覆されることとなった。
2体の化身が、いやチームそのものが1人の選手を止められず蹂躙され……前半だけで個人4点連続得点を決めた脅威の新星………一日で日本サッカーに名を刻んだ新たなるサッカーモンスター。
その男の名は『黒景流』
この名前は誰も知らず、あんなかいぶつが無名校にいるなど誰も予想だにしなかった、それもあるとはいえほぼたった一人でフィールドを駆け抜けて京前嵐山を捩じ伏せてみた………あの時の衝撃は忘れることは無いだろう。
後半からは京前嵐山中も底力を見せたが、南雲原側に新たなる化身使いが覚醒したことによりその戦術も崩壊し…………最終的には6-1という圧倒的なスコア差で勝利した。
正直無名のチームと言うことで世間の注目度は低かったのだが、南雲原のサッカーモンスターと組みするチームを率いる少年監督『笹波雲明』の存在は一気に広まった、今日インタビューへ私達が漕ぎ着けたのはラッキーと言える。
…………しかしその試合後、アクシデントが起きた。
勝利の余韻に浸る間もなく、帝国学園のジャージを着ていた1人の少女がそのサッカーモンスターに勝負を仕掛け……互角に渡り合ってみせたのだ。
少女の名は『天河ヒカリ』またもや無名の選手だった。
その対決後、彼女も次の帝国学園対英愛学園との試合にスタメンとして出場したのだが………これもまた、圧倒的だった。
同じ人間とは思えない動き、黒景流のプレーはサッカーの延長上であるが超人的な強さを誇っていたが、彼女のサッカーはその常識すらぶち壊す勢いの凄まじさだった。
まさしく人間離れという言葉が相応しい、モンスター的プレーで前半で黒景流を越える5点先取をやってみせた…………帝国のサッカーモンスターだ。
かの雷門のサッカーモンスター『円堂ハル』と同等………いやそれ以上かもしれないレベルの天才がこのフットボールフロンティアに集っている、有り得ない現象だが、現実としてそこにある。
そして数日後の準決勝1試合目、サッカーモンスターを属する両校………南雲原と帝国学園の試合。
既に決勝と同等の期待と注目がこの対戦カードに集まっている、どちらのかいぶつがこの試合を制するのか、そして現在雷門には件のサッカーモンスターが負傷中で不在…………仮にこのまま出れなければ、雷門の王者の座は危ういと世間で噂されていた。
日本サッカーは黒景流と天河ヒカリ、この2人によって更なる熱さを見せていた。
そして今日………私伊村と枝元さんは、その注目の片割れである南雲原の皆さんが宿泊しているコテージにやってきてインタビューをしていました。
まずは笹波雲明君、中学一年生でありながらチームを率いる監督として活躍し勝利へ導いた張本人。
彼一人からサッカー部も復活しそれから現在、凄いことだ………彼程サッカーに通ずる人材が眠っていたとは。
故に、別の疑問も浮かんでいる。
そして私と同じ疑問を抱いた隣の枝元さんが、目の前に座られている笹波雲明君に問い掛けた。
「ところで1つ問いたい………君はこれほどのサッカー知識を得ていながら、自分で試合に出ないんだい?」
「っ…………」
枝元さんの質問に彼は少し表情を曇らせた、そして上の階層に居る選手達もどよめいてた……止めるか、とか、どうする、等の声が聞こえる…………まずい質問だったかもしれない。
そして目の前の笹波雲明は、意を決して口を開いた。
「……出来ないんです、僕は心臓病で激しい運動を………サッカーを禁じられているんです」
「……!」
「えっ…………」
その口から語られたのは衝撃の真実。
彼はサッカーを過去に奪われており、サッカーの無い南雲原へ編入したが………ある出会いからサッカーへの消えない想いを自覚し、自分は監督としてサッカーに関わり続けていたのだと言う。
サッカーの出来ない少年………否応にも、かの円堂ハルと同じ期待を背負っていたあの少年が私の脳裏によぎった。
「…………そうだったのか、無神経な質問をしてしまった事を許して欲しい」
「いえそんな、知らなかったんですから頭を下げなくても……」
「笹波雲明君、貴方はそれでもサッカーに関わることを選んだんですね?」
「…………はい、大嫌いになるくらい大好きでしたから、今はみんなのサッカーをみちびく立場ですけど、そこから見れる景色を眺めるだけでも楽しいですから」
「…………そうか、君は強いな」
「そんな事はないですよ、僕一人じゃサッカーは出来ませんから……だから今ここにいるみんなとサッカーをして、この全国大会の頂きを取りたいと思ってます」
「うん、君たちなら不可能じゃない、今後の南雲原の活躍を期待してます」
「ありがとうございます」
笑みを浮かべる笹波雲明………彼にはどうか、世界にいるサッカーがやりたくてもやれない人達の希望になってくれたらいいなと、私は胸の内でそう願っていた。
今日ここに来て良かった、さて彼のインタビューも終わったから……次の注目人物に話を聞きたいな。
「笹波雲明君の取材はこれで以上になります、次に黒景流選手にインタビューをしたいのですが、いらっしゃいますか?」
「あぁはい、あのゴミ……失礼、もうすぐで来ると思いますよ」
「(…………ゴミ?)」
「(あれ、ゴミって聞こえたんだけど……気の所為よね?)」
なんかさっきまで少ししんみりしてた彼の様子がいきなり悪くなったような気が……もしかして仲良くないとかかな?見た感じそんな気はしなかったんだけど……?
「おい黒景、お前の出番だぞ?」
「…………待って休ませて、眠いし怠いし痛いし……てか何?」
「インタビューですよ先輩、聞いてたでしょ?」
「……インタビュー?なんで俺?」
「逆になんでてめぇに来ねぇと思ったんだクソボケが、ほら行け行け!」
「押さんでくれ階段で待って、行くから行くから……」
「……?」
「えっと……?」
「では僕は失礼しますね、シャキッとしてくださいクソボケ先輩」
「せめて名前で呼ぼうぜ笹波……いててて」
「自業自得です、ほら早く」
「へい……」
笹波雲明と入れ替わるように、私達の目の前に座る男の人…………それはサッカー界で今の時の人、南雲原のサッカーモンスター黒景流。
顔を見るが……なんかめちゃくちゃ疲れてるような気がする、心做しかボロボロになってるような……隈も見えるんだけど何があったの?
「えっと……大丈夫、なのかな?」
「あーはい、まぁ昨日自分が色々やらかして袋にされたんで、大丈夫ですはい」
「そ、そうか……では、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「へい……じゃねぇや、はい」
………なんか、昨日の大活躍をした姿とはかけ離れてるような…………無表情だし、眠そうだし………とりあえず、色々聞いてみよう。
「では黒景流君、昨日の試合一人で4点連続得点を決めたことで観客も盛り上がっていましたね、その事についてはどう思いますか?」
「まぁ嬉しいです、俺も初試合だったんで気合い入ってましたから」
「初試合………公式戦が初めてだったのかい?」
「いや、ちゃんとした試合がです、俺今年になるまでどこにもチームに居なかったんで」
「え……君はいつからサッカーをやっていたの?その間はどうしてたんですか?」
「サッカーやり始めたのは小1で、その頃は友達とサッカーで遊んでたんすけど、誰もついて来られなくなったんで一人でサッカーするようになりました、今年まで」
「…………何処かのクラブに入ろうとは、思わなかったのかい?」
「はい、一人でボールに向き合うのが性に合ってたので」
「……中学へ進学する時、雷門のような名門に行こうとも思わなかったのですか?」
「あー…………考えてませんでした」
「そ、そうですか…………」
………………変人だ、かなりの変人だこの子。
あれ程の実力を携えてながら今に至るまで無名だったのに誰も知らなかった理由に関しては納得だけど、この子ずっと自分の実力に無自覚だったの?南雲原にサッカー部ができなかったらずっと埋もれてた可能性があったって事でしょ、この才能が………!?
「だからはい、笹波が南雲原にサッカー部を作ってくれた事には超感謝してます、俺はあいつの在り方に惚れたので」
「惚れた?」
「あいつは自分でサッカーが出来ないのに、自分なりに足掻いてサッカーを愛してたんで……一人でサッカーしていた時に見つけてもらって、あいつが居なきゃ今の俺は居ません、だからこの南雲原で勝ちたいと思うし、みんなで優勝も取りたいんです」
「なるほど、熱意のある言葉をありがとう、ただ…………」
「……ただ?」
「本人には聞こえないようにした方が良かったね」
すると枝元さんは上の階層に目を向けて、私と黒景流君はそこへ視線を向けると……腕を組みながら顔を赤くして悶々としている笹波雲明君と、やれやれと言った感じの選手達がそこにいた、約1名の女の子は黒景流君をジトーっと睨んでたけど、
「…………熱かな、笹波」
「あははっ…………君、女性関係に悩むタイプだろ?」
「え、なんで分かったんすか」
「何となくさ、思ったことをそのまま伝える人はその内刺されるよ?」
「ていうか否定しないんですね………話を戻します、君のドリブルとシュートは見事でしたが、どんな特訓をしていたんですか?」
「ある人を目標としてずっとサッカーしてました、ゴッドウィンドもその人の技なので」
「過去にゴッドウィンドを使う選手は一人しか居ない…………彼が君の憧れなんだね?」
「はい、ていうか小3の頃に出会ったんで」
「なるほど、彼と直接サッカーをしたからですか?」
「はい、あの人ほんと凄くて…………」
それからも彼のサッカーに関する取材を続けました。
かなり変わっているけど、彼もただサッカーを愛するプレイヤーの1人……サッカーを愛するが故にこれ程の実力を得たのだと思っている。
それにしても今世代だけでも、円堂ハル、黒景流、そして天河ヒカリ………サッカーモンスターと呼べる選手が日本で3人も居るなんて凄いことだ、近いうちに始まる世界との戦いでも活躍が期待できそうだ。
そしてインタビューは続き、私達は最後の質問をする事にした。
「では最後に……次の対戦相手、帝国学園との試合の意気込みを聞かせてください」
「楽しみっすね、あそこには天河ヒカリが居ますから」
「強気だね?彼女の力は見た感じ君と互角くらいだったけど」
「昨日までは、っすね」
「……昨日?どういう事ですか?」
「あー…………色々端折って言うんすけど、ヒカリは自分の才能に甘えたサッカーで勝ってたんで、昨日のアクシデントの続きをして負かしたんですよ」
「………………え?」
そういえば、SNSで黒景流と天河ヒカリが並んで歩いていたところを見たような気がするけど…………あれってそういうことだったの?
ていうか負かした?次の対戦相手のエースを負かしたって、実力は彼の方が上ってこと?
彼は彼女がそういうサッカーをしていた事に気づいて、それを教えるために…………それって、助言しているようなものじゃ?
思わず隣の枝元さんと顔を合わせ、改めて問い掛けた。
「……黒景流君、それはどう言った意図か教えてくれるかい?」
「別に、一度負けて勝ちたいと強く思えばより強くなれると思ったので、その為にしました」
「………………………天河ヒカリを強くさせるために、わざわざ?」
「はい」
「な、何故?失礼な物言いですが、彼女がそれに気づかなければ南雲原が勝てる確率も上がるんじゃ」
「勝ちますよ」
私たちの質問に即答する、いつの間にかさっきまで眠そうな表情から、試合をしている時のような目付きが私たちを見据えていた。
「ていうか、折角の才能があるのに活かせないヒカリと試合しても不燃で終わっちまうし…………どうせなら強いヒカリを取り入れた帝国ともやりたいですしね」
「君はさっき袋にされたと言ってたね?まさか原因は……!?」
「まぁ、そういう事です」
「「………………」」
初めて笑みを浮かべるその姿に背筋が冷えるような感覚になった、恐らく隣の枝元さんも。
何処かゆったりとして、親しみやすさを感じていたが…………その内面は、サッカーに関して貪欲で、強い相手に対する飢えが感じられた。
さ、笹波雲明は…………こんなかいぶつを従えているの?敵に塩を送ってまで自分のエゴに従う彼を……?
これが、これが黒景流の本性………円堂ハルとは違う、サッカーモンスター……!?
「まぁ俺がやった事は確かに自分勝手なのは自覚してますけど………それでも南雲原となら勝てるって、そう信じてますから」
「…………君は、中々にエゴイストだね」
「ですね、でも………そういうもんに従うから、俺はこうなってます」
「そういうサッカーを、俺はしたい」
強烈なまでに、サッカーに強欲な本性。
突然変異のかいぶつ…………この取材を私は忘れないだろう。
日本のサッカーを変えるのは、いつだってこんな人間なのかもしれない。
◾︎◾︎◾︎◾︎
「…………全く貴方は本当にどうしようも無いですね」
「まぁ悪いと思ってるのは本当だって」
「そう思ってるなら少しは反省するかそもそもやらないでくださいよ」
「…………楽しみだね!」
「クソボケがっ!!」
「いでぇっ!?」
週間イレブンの取材インタビューも終わり、僕達はロビーで次の対戦相手である帝国学園の対策会議を始めようとしていた。
柳生先輩にグーで後頭部を殴られた黒景先輩を睨みながら、昨日の事を思い返す。
…………と言っても、僕は電話の途中で気絶してたから一部始終しか見てないけど………簡単に再現するならこれだ。
『…………(チーン)』←戻るや否や来夏にぶん殴られて気絶するクソボケ
『離して!!流を襲って私も死ぬー!!?』
『死ぬな忍原馬鹿野郎!正気を取り戻せ!!』
『来夏さん何してるの!?いよいよ見境無くなったの!?』
『流にキスもされたことない人は黙って!!!』
『は?』
『キキキキキキスってなんですか来夏さん!!?』
『お前まで混乱するな亀雄!』
『伊勢谷君指令を!どうすんのこれ!?』
『こんなの俺のデータに無いぞ!?というか全部黒景のせいだろう!!』
『………………』
『……あれ、鞘先輩どこに向かって?』
『おい、そこ、キッチン…………誰か小太刀先輩止めろー!!!』
『カ、カオスが極まってる…………』
『(…………あぁ夢かこれ)』
そうしてまた気絶して、今日朝目覚めたけど……多分あれは昨日の現実に起こった事だと思う。
…………伊勢谷先輩の言う通り全部黒景先輩のせいだ、この人が全部の原因だ…………いや、もう、なんで?この人は本当になんなんだよ、わざわざ敵を強くさせるようなこと言いやがって…………。
しかも万が一負けたら帝国へ転入!?天河ヒカリがそう言ってきたってことはことはまたそういう事!?
南雲原の女子陣はもう大丈夫と思っていたら今度は同じかいぶつを落としてるんだけど、あーーーーーーもう本当に…………!!!
「反省しろクソボケが!昨日の混乱治めんのにどんだけ苦労したと思ってんだコラ!!」
「ぐるじぃすんません苦しい」
「ほーれこちょこちょ」
「ががあはあはは!」
「忍原も昨日のあれは聞かなかったことにしてやるが、程々にしとけよ本当」
「……はい」
「小太刀先輩も刃傷沙汰起こそうとした事は反省してくれ」
「……はい」
また昨日の夜のように騒がしくなりかけてるので、征が手を叩いて皆に制止の声をかけ始める。
「あーもうそこまでそこまで!過ぎたこととやかく言ってもしょうがないって!なぁ雲明?」
「…………征の言う通りそこまでにしてください、こうなったらみんなで腹を括るしかありません、どの道彼らは元から強敵なんですから」
僕がそう言うと皆は段々静まり、僕の方へ改めて向き直る。
全員を見渡して落ち着いたことを確認し、僕は改めて帝国学園対策の会議を開始する事にした。
「ではこれよりフットボールフロンティア準決勝の相手、帝国学園対策会議を開始します…………そして始めるにあたって、みんなには改めて伝えておきます」
腕を組み、1度目を閉じて…………開くと同時に告げる。
「現時点に置いて帝国学園は………王者雷門を越える最難関、僕ら南雲原にとって最強の相手です」
最強の相手、これは比喩じゃなく事実だ。
恐らく皆も覚悟はしていただろうが、それぞれ冷や汗をかいたりかた唾を飲んでいる。
約1名、闘志を燃やしてる人も居るが…………とりあえず、説明を続ける。
「その理由の一つとして、僕と同じ中学生でありながらチームの監督となっている不破アリスの存在です、完璧とも言える状況対応能力、帝国側が用いる20を越えるタクティクスを自在に操り敵に付け入る隙を与えない」
「別名、不思議のフィールドのアリス………彼の世界に飲み込まれれば落ちるしかないと言われるくらいの脅威です」
「ネットでもそう言われてるね、事実彼が監督として就任してからの勝率は凄まじいんだって」
「同じ少年監督対決でもあるって事だな」
そう、僕と同じ少年監督でデータキャラ………同じ舞台にたっている者同士の対決でもある、しかし理由はまだあるんだ。
「次の理由…………言わずもがな、帝国のサッカーモンスター……天河ヒカリの存在です」
これが一番と言っていい、ただでさえ厄介すぎる能力を持っているというのに…………黒景先輩がやらかしたせいで、より厄介になってしまった。
「そうだよなぁやっぱ……でもさ、具体的にはどう言う風に厄介なんだ?すげープレーしてたって事しか分かんねぇや」
「確かにな、黒景のプレーは飛び抜けててもサッカーって感じはするし」
「これは僕の分析によるものですが、まず彼女はその身体構造が人じゃないんですよ」
「と言うと?」
「あのジャンプ力から推察するに………彼女の筋肉密度は2から3倍はあると思います」
「……はぁ!?」
「試合後の乱入も、黒景先輩が疲労していた事を考えても彼のタックルを受けてもビクともしてませんでした、あの体幹の強さ、シュート力、初得点を決める時に発動した必殺技の移動量と瞬発力………僕も最初は信じられませんでしたが、身体の作りがそうじゃなきゃ説明がつかないんで」
「でも、そんなことあるのか?普通有り得ないぞ?」
「その有り得ないが、現実として有り得て存在している…………理由なんて無いのがかいぶつたる所以なんですよ、桜咲先輩」
そう、ハルはある意味サッカーモンスターと呼ばれて然るべき存在と言えるが………黒景先輩や天河ヒカリのような突然変異、きっかけさえあればそれを種にして覚醒し、人智を越えた進化を見せるような存在だ。
先輩が彼女に与えた敗北という経験は、彼女の軽い勝利の飽きを壊し、死力を尽くして得る勝利の味に酔って、また強くなってしまったのだろう。
「彼女が強い要因はまだありますが………ここからが、僕らと帝国の大きな差が出始めます」
「大きな、差?」
「木曽路、黒景先輩は何故最初期の南雲原イレブンに入れなかったのは何故?」
「えっ俺?えー………そりゃ今に比べて俺達の力が弱すぎる上に、先輩は既に強すぎるから、バランス崩壊を防ぐ為にだろ?」
「簡単に言えばそう、しかし帝国はそうじゃない…………彼女が居なくても元から強いチームだ、恐らく彼女がやってきた時からチームが崩壊することはなかった筈だ」
「何が言いたい?」
「分かりませんか?既に僕らは、チームの完成度としては負けてるんですよ」
「えっ?」
「帝国学園は元々歴史ある強豪校、強さも元々のチームの強固さも全国レベル………サッカーモンスターの様な一人で全てを変える選手はそのレベルのチームでなきゃ壊されてしまう、僕らはそうじゃなかったけど、帝国はそうじゃない」
「恐らく不破アリスは彼女が望めばいつでもスタメンに入れることは出来た、そうじゃなかった間も綿密に元から強いチームを強くして待っていた筈…………対して僕らは発足して間もないチーム、全国の舞台に立ててようやく彼を迎え入れる事が出来た」
「初戦2試合目の後半、天河ヒカリを入れた帝国のチームプレーは形になってました、対して僕らは前半のアレは置いておくとして……後半の最終局面のプレーは何とか体裁を保とうとしていたに過ぎない」
「同じサッカーモンスター同士を入れたチーム………かいぶつ間での実力差はほぼ同格としても、チームとして1つとして形成されている帝国と、まだそうではない南雲原の差は歴然です」
「次の試合は1人だけじゃなく、チームとして戦わなきゃ勝ち目はない………先輩のプレーの特性上、無理矢理チームプレーを意識してしまえば何時も通りのプレーが出来なくなる………試合終了前はそれがやはり目立ってました」
そう、前々からの課題である黒景流のチームプレー適正皆無問題………そもそもの性質として確立されてる個人間最強の能力は、チームプレーというノイズによって極端に弱まってしまう。
それでは天河ヒカリには勝てなくなってしまう、向こうは組織プレーを徹底している戦略チーム………天河ヒカリも黒景先輩寄りだがチームプレーは難なくこなせてる印象だ。
このままでは同じチームとして戦っても結果は目に見えている。
しかしそれは、僕らも帝国のような完璧なチームじゃなければ話は変わるのだ。
「だから僕は、敢えて完璧とは程遠いチームを確立させる事にしました」
「……え?」
少し顔が暗くなり始めた頃に僕が宣言する、どの道黒景先輩を入れてチームプレーをさせるチームを作るのは手ずまりなら………チームプレーをして黒景先輩のワンマンもさせる、そんな南雲原を帝国まで作る!
「先程も言った通り不破アリスの戦略はパーフェクト………しかし、完全な計算は1+1が2という答えがあるからこそ成立する、その答えを2にせずに、完璧な計算に対して完全なデタラメをぶつけて勝ちます」
「いや待て雲明、何言ってるかさっぱりだぞ?」
「帝国の最高峰のチームプレーには、南雲原なりのチームプレーで対抗します、実は前々からそのプランは考えてあったんですよ…………ね、伊勢谷先輩?」
「そうだ、その為の要因なら…………既に成長してるからな」
伊勢谷先輩がいつものように眼鏡に触れるところを見て、僕はその要因に…………木曽路に視線を向ける。
「……?」
そう、首を傾げる彼こそが南雲原と黒景流を結ぶ楔になる。
「さぁ皆さん、来るべき最大級の試合……帝国学園戦に向けて特訓する為にまずは…………」
「南雲原に帰りましょう!!」
「「「「「…………えぇ!?」」」」」
◾︎◾︎◾︎◾︎
『……あぁ!?南雲原がサッカーガーデンからスカイクラフトで飛んだぁ!?』
「はい、南雲原の練習を偵察してた部員からの報告で、今日中々練習を開始しないと思えば、皆サッカー協会の用意したスカイクラフトに乗り込み飛んで行ったそうです、恐らく母校の南雲原かと……」
「……なるほど、そう来るか笹波雲明」
帝国サッカー部の練習を見ている時、マネージャーからの報告にブラザーは驚き、俺は分析していた。
関東エリア外からきたチームには、いざと言う時母校へ飛んで帰るためにサッカー協会から支給されたスカイクラフトで飛んで帰ることが出来る、試合も数日後に控えているというのにわざわざ母校へ行くという事は…………俺が以前に住人を編入させてた事を警戒してのことか。
俺はデータを元に戦略を立てる、故に今回も練習している彼らを観察して、そこからのデータで新たな戦略を立てるつもりが全てオジャンだ。
しかも今南雲原にはその住人が居ない………そして南雲原のSNSはその生徒達にしか見れない、こちらからではもう覗くことは不可能。
まずはこちらの常套戦術を一つ潰してきたか…………フフフ、面白い……ここまでされたのは初めてだよ笹波雲明。
「(…………ライバルか…………なるほど、その存在から来る興味なんだな、これは)」
高め合うライバル……今なら少しだけその意味が分かる気がする。
これ程闘争意欲を掻き立ててくれるとは………いいぞ、次の試合ますます楽しみになってきた。
「しかし、明日からサッカーガーデンで帝国が練習をする意味がなくなりましたね」
「そうだね、明日は通常通りここで練習するとしよう」
「何ー?明日がなんだって?」
『お?ヒカリか……いやタオルで汗拭け!腹丸見えだバカヒカリ!』
「減るもんじゃないし、アリスだから良いし」
「君と言う子は本当に無警戒だ……なっ!」
「むぎゃ」
汗をユニフォームで吹くヒカリに向けて近くにあったタオルを投げつける、彼女はそれを受け取り別にいいのにと言わんばかりの顔で改めて汗を拭う。
今日久々に彼女が練習に来た、黒景流のおかげだろう。
それに……彼女の中で勝ちたいという想いが強くなっている、話を聞く限り黒景流に何度も負かされたそうだ。
その事を俺に楽しげに、憎そうに、色々と混ざった感情を表しながら伝える彼女に少し戸惑ったが……これで更なる強さを得れるなら、文句はない。
まぁこの試合に勝てたら黒景流が帝国に編入するとかいう世迷言を聞いた時は流石に面食らったがな。
「んでさっき言ってたの何?明日がなんだって?」
「南雲原が先程スカイクラフトで母校へ戻ったそうだ、恐らく試合前日か当日まで彼らの姿は見れないだろう」
「えぇ!?流先輩も居ないの!?」
『つー訳で明日サッカーガーデンでの練習はナシ!通常通りここで練習だ』
「なにそれー!流先輩とサッカーしたかったのにー!」
「遊びに行くようなこと言わないで下さいよ、天河さん……」
…………後、かなり黒景流の事を気に入っているそうだ。
本当に何をしたんだあの男?サッカーで負かしただけだよな?住人からの情報によればかなりの女誑しとは聞いていたが、一日会ったばかりの子を誑かしたのか?
『残念がってんじゃねぇよヒカリ、そんなに黒景流が気に入ったのかよ』
「いいじゃん、あの人のお陰で僕強くなれるんだから」
「その点に関しては感謝だが………ならなんでこの帝国に編入させるという約束なんてしたんだい?」
「えー?そんなの決まってるじゃん!」
「ボクのモノにして、ボクを壊したように先輩も壊すの!」
「壊してぐちゃぐちゃにして、ボクの愛を刻むの!」
「なんかそう思うとすっごく楽しくなるんだ!あー早く試合したいなぁ、ていうか流先輩に会いたいな」
「もう一度サッカーして、ぐちゃぐちゃにしてやりたいなー!」
「……………………」
「…………………………」
本当に、何をした黒景流!!?
黒景流
戦犯ofエゴイスト、楽しいサッカーしたいマン。
インタビューもドン引き、チームのみんなを信じてます。
笹波雲明
サッカー勇者?時代はサッカー魔王だよハル。
木曽路兵太
何も知らない木曽路兵太(13)
しかし特訓では一番主人公と居るのだ、ねぇ来夏と鞘先輩!