忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが? 作:グラビトン
とりあえず来夏ちゃんに敬礼。
「………眠…………」
迫り来る眠気を堪えながら靴を履く。
なーんで俺はこうも朝に弱いんだ………今日から待ちに待ったサッカー部の部活動が出来るってのに………まぁチーム人数まだ足りてねーけど。
てか四川堂がまだ出来てないとか言ってたわ………まぁもう大丈夫だろ、そこら辺のこと俺は詳しくないけど。
「………いってきゃす」
立ち上がってドアを開ける、鍵を閉めてマンションから出る為に歩く。
それにしても眠い………あぁ眠い………。
「眠………」
「おはよっ、流」
「……おは………ぇ?」
寝惚けながら聞き慣れた挨拶に思わず返すが、直ぐにハッとして目を擦り前を見る。
本来なら会うのはまだ先のはずの来夏が、笑顔で待ち伏せていたのだ。
流石にここで会うとは思ってなかった為、先程までの眠気が消えていた。
「ら、来夏?なんでここに……」
「どうせ一緒に行くんだから、何処で会ったって変わらないでしょ?」
「いや、そうだけど」
俺と来夏の家は離れている、滅茶苦茶遠い訳では無いが近くも無い為、来夏がここに来るとなると必然的に学校の通学路から逆走する形になる。
それなのに……………と、なると?
「これも特訓の一環?」
「え?」
「いや、歩くのって大事だし………笹波からそう言われたりしたのかなって」
「……………(なんっでそーゆー事になるのよ!!!)」
「あれ、違った?」
「そーゆー事ですっ!それじゃ早く行こ!」
来夏はぷいっと振り返り、足速に通学路へ向かっていった………なんか怒らせたのか……分からん。
「(違うんならなんだろ……………普通に一緒に行きたかっただけ?)」
来夏を追いかけながらわざわざ来た理由を考える、構ってちゃんなのは知っているけどここまでだっけか………落ち込んではいない様子だけど、というか不機嫌になってるけど。
「来夏ー」
「…………」
「らーいーかーさーん」
「……………」
明らかな無視、拗ねてんなー…………こうなりゃ、こうだ。
「………喫茶タンクの限定メニューいちごカステラパフェ奢るんで、機嫌直してくだせぇ」
「えっ、そんなのあるの?」
俺の言葉に目を輝かせて振り向いた、お前はこういうの好きそうだからな…………代わりに俺のお財布が少し軽くなるが。
「多分もうちょいか今日か、こんくらいの時期に売られると思うから……放課後、あったら食ってみるか?」
「…………も、もーしょうがないなー、その美味しそうなパフェに免じて許してあげる(やった、ちょっとデートみたいな感じ……)」
「あざーっす(昔俺に奢ってくれた小太刀先輩……)」
やっぱ女の子はパフェとか甘いもんが好きなんだなー………無表情な小太刀先輩がパクパク食い進めてたのは面白かったな。
俺はあまり甘いもんとか食わないけど。
「(…………にしても結局、なんで不機嫌になったんだろうか)」
分からん…………足りない脳みそをフル稼働して思考するが思いつかない。
女の子っての察してくれなきゃあぁなるのか?俺みたいな初恋もない恋愛興味無い女子との絡みぼちぼちな一般中学生にそれを求めるのは酷ってもんじゃないのか?
…………まぁ考えて思いつかんのなら仕方ない、やめよう。
その内分かるようになるだろ……多分。
ぐるぐると堂々巡りを続けた疑問を一旦忘れ、目の前の通学路を見てふと気づいた。
あー、そういやもうちょいであのゾーンか………しかも今話題のサッカー部に入ってるし、今までより多いんじゃね?
じゃあ今日から後ろ3歩先に下がりまして…………。
ガシッ
「……え?」
来夏の後ろに着こうとした瞬間、俺の腕がいきなり手で掴まれ静止される。
来夏の手が俺の腕を強く……強く握りしめているからだ。
いつものルーティンだった為、普段と同じ流れかと思いきや…………ていうか、なんで俺の腕掴んでんの?ちょっと痛いんだが…………。
当の本人は何も言わず、顔を前にしている為表情も伺えないが…………なんだろう、以前と同じ雰囲気を感じるんですが…………?
「ら、来夏、さん?何して…………」
「後ろに行かないで」
「え?」
「今日から後ろに行かないで、そのまま一緒に歩こうよ」
「え、あの、いきなり何を」
「ね?」
「……はい」
抗議の声をあげたが、振り向いた来夏の冷たい視線と今までに感じた事の無い圧の前に何も言えず、肯定してしまった。
な、なんでぇ?ちょっと離れるくらい良くないっすか?皆さんの挨拶の邪魔になると思ったから俺今まで引いてたんすよ?
来夏は、何したいんだよ?わ、分からん……!?
引っ張られて再び隣で歩く形になる、腕から手を離してはくれてた。
てか結構痛かった…………どっからそんな力あるんだよ、ワンチャンキーパー行けんじゃね?
錯乱し始めた俺の脳内は再びアホみたいな自問自答を繰り広げていた。
「(…………腕組んだら、流石にカップルとか思われちゃうよね、こんな朝からそんなことしたら流石に目立つし、てか痛いかな、というかなんでコイツは本当に、もう!察しろよ〜っ!!!)」
その内心、知る由もなし。
◾︎◾︎◾︎◾︎
アイドルの隣で登校し、俺の中学生活史上人目に晒された朝を経験し…………時間は飛んで放課後。
かつては旧体育倉庫であり、今や南雲原サッカー部の部室となった場所で現部活メンバーの笹波、桜咲、木曽路、百道、来夏、柳生、この俺黒景は澄まし顔で出ていった千乃会長を見送り、それぞれ目を合わせる。
「またまた雲明、なんという約束を…………」
「今回は喧嘩を吹っかけたのはあちらですよ?」
「そうだけどさぁ」
「いやはや、息つく間もなくフットボールフロンティアか」
俺は積まれている体操マットに座りながら、中学でサッカーをするものなら憧れてやまない全国大会の名を口にし、皆それぞれの反応を見せる。
事の経緯を掻い摘んで話すと…………。
・笹波の担任を顧問に付けたが、生徒会長の千乃さんはまだサッカー部を認めてない。
・認めて欲しくば1回戦で当たるライバル校の西ノ宮中を倒す。
・勝てば晴れてサッカー部は認められるが、負ければ即解散。
…………以上。
まぁなんか、笹波は今日に至るまで色々やらかしてるっぽいし………情状酌量の意味も兼ねてサッカー部の実力を試したいのだろう。
それにしてもあのフットボールフロンティアに出れんのかぁ、実感湧かねぇけどワクワクだな。
………しかしまだ面子は揃ってない、プレー出来るのは俺含めて7人……最低でも後4人はいるが。
「では1回戦に向けて残りのメンバーを決めるとしよう、現在サッカー部には沢山の入部希望者が殺到してる、選びたい放題だ」
「過去のデータを参照し、最終候補にいけそうな15人を選んでおきます、ひとまずこれだけいれば………」
「いえ、必要なのは5人です」
「……えっ?」
タブレットでその15人を選ぼうとした百道が驚いて笹波を見る、他の仲間たちも同様だ……なんでだろ。
「おいおい、確かに後5人で試合に必要な11人を越せるが、控えだって居た方がいいだろ」
「今11人以上の戦術を考える余裕はありません、人がいるだけ管理コストも掛かる………フットボールフロンティア1回戦は、11人で乗り切ります」
「マジかよ笹波……」
柳生が笹波の提案に苦い顔をする。
まぁ確かに厳しいが、真っ当な理由だったりする………1回戦までの猶予は余り残されてない、これで負ければ即解散という状況下でプレッシャーを掛ければ後の5人にもブーストが掛かる事だろう。
…………ん、でも…………。
「笹波、1ついいか?」
「なんでしょう、黒景先輩」
「お前は後5人って言ってるけど、それだと11人じゃなくて12人じゃね?」
「確かに、普通に1人だけ控えがいる事になるね……保険かな?」
「あぁ……保険ではありませんよ、僕は頭の中では11人固定の戦術を考えているんです、言わばスタメンだけのタクティクス…………残りの1人となったベンチの人は使わない予定なので」
「使わない…………?」
俺と来夏の問いに応えた笹波の回答に首を傾げる。
言いたいことは分かるんだが、使わないってなんだ?今から選ぶ5人の中に省く奴でも居るのか…………いや、まだ見てない奴はその時点で勘定に入れてないか……それとも、今ここに居る1人がその使わない奴?
「何言ってんだ雲明………この状況で使わないってなんのつもりだ」
「…………ねぇ雲明君、その1人ってもしかして……亀雄?」
「えっ、マジ!?」
不安そうな来夏の発言に木曽路が驚く、俺を含めた皆も同様だ。
唯一ここに集合していない部員の古飼道、話によればいびられているとか何とか………元々気弱なのも相まって打たれ弱く、そいつらに言い返せないらしい。
それがサッカー部に入った事により酷くなっているらしい…………まさか、古道飼が退部する事を読んで…………?
「いえ違いますけど」
「んがっ!」
と深刻に考えていたが、笹波は何言ってんだ?と言わんばかりの困り顔で即答した。
一同コケそうになるがグッと堪え、ホッとした。
「……何か思い違いをしていた様ですが、古道飼君自身に問題があってもこちらから切り捨てるなんてしませんよ、彼も大事なチームメンバーですから」
「そ、そっか良かった…………あれ、じゃあ一体誰なんだよ?」
一旦安心した木曽路が改めて問いただす、その使わない1人というのを。
すると笹波は腕を組み、俺の方へ視線を移す。
他の皆も次々と、何事かと俺の方へ視線を向けて来て、現在この部室で俺が一番注目の的となる状況が出来てしまった。
ん?
あれ。
もしかして…………。
「…………俺ぇ?」
「はい、僕は当面の間…………この南雲原サッカー部で、黒景先輩を起用することはありません」
「「はぁぁぁぁぁぁ!!?」」
空気が揺れた、それくらいの声量がこの部室に響いた。
木曽路と来夏の声が2重に轟いた、俺と桜咲はキーンと耳鳴りが響き、柳生と四川堂も目をパチクリさせて固まっていた、笹波は想定通りと言わんばかりに目を閉じて涼しい顔をしていた、百道は…………眼鏡割れた?
「ちょ!ちょ!な、何言ってんの雲明君!?起用しないってはぁ!?」
「お前頭打ったのか!?どー考えても有り得ねぇだろ!?」
2人が笹波に詰め寄る…………なんで俺より錯乱してんの?
自分より慌ててる人見ると冷静になるってマジなんだなぁ…………いやそんなことどうでもいい、とりあえず止めねーと。
「お、御二方、とりあえず落ち着きな?な?」
「なんで流は落ち着いてるの!?雲明君は錯乱してるから早く叩いて治さないと!?」
「治されるべきなのはどう見てもお前だよバカ落ち着け、木曽路もグイグイ行くなって」
「と、とにかく一旦止まるんだ2人共!」
暫くの間、軽いパニック状態が続いたのであった。
◾︎◾︎◾︎◾︎
流をスタメンに起用しない。
予想だにしてなかった雲明君の発言で、私と木曽路は混乱して詰め寄ってしまった。
いやだって、有り得ないでしょ!?
どう考えても流と試合すれば1回戦は勝てるじゃん!?
四川堂君からも宥められて落ち着かせられ、それぞれの位置に戻って雲明君を見据える。
頃合と思ったのか、片目を開いて雲明君は話し始めた。
「………黒景先輩を使わない理由、それは彼の個人能力が高すぎるからです」
「俺の、個人能力?」
「長年の鍛錬により磨かれた持久力、持ち前の身体能力と既存の概念に囚われない自由なドリブル力とシュート力、それらを当然のように可能とさせる強い感性とマインド………これだけ強い個性を持つ選手はそう居ません、サッカーの名門校に行ったとしても間違いなくレギュラーを勝ち取れるレベルでね」
「お、おぉ……」
再び体操マットに座っている流はいきなりの褒めちぎりに照れて後頭部をかいていた。
彼の凄さは身に染みてたつもりだけど、改めて言語化されて聞くととんでもないな………やっぱりそう簡単に追いつけないよね………。
でも、それで使わない理由になるの?正直納得出来ないんだけど……。
「…………しかし彼の本当に恐ろしい所は、今のサッカー部に通ずるものがあるんです」
「俺達に通ずる恐ろしい所だぁ?もっと簡単に言え」
「では柳生先輩、今のサッカー部を見てどう思いますか?」
「あ?どうってそりゃ………発展途上もいいとこだろ」
「それです」
「は?」
柳生が発した発展途上という言葉を雲明君は肯定する。
雲明君以外の皆はその言葉の真意を理解できず、首を傾げたり考えて唸ってたりする。
確かに私達はこれからだけど、それと流の何が関係あって………。
「黒景流のサッカーもまだ発展途上………真に選手として、まだ覚醒していない」
「…………え?」
流が、発展途上?
あれだけのプレーが出来て、今でも全然追いつけてないし、隣に追いつくビジョンも全く見えてない。
あの時の特訓だって、手加減してもらった上であの有様なのに。
それで、発展途上?
意味分からない、流石に、信じられないんだけど。
思わず後ろの流を見る、彼も鳩に豆鉄砲を食らったかの様な驚きの顔を見せていた………初めて見る、大きく驚いた表情だった。
そしてそれは桜咲、木曽路、四川堂君、百道さんの皆も同じだった。
柳生はただ一人キョロキョロして、状況を飲み込めていなかった。
それでも雲明君はお構い無しに言葉を紡いでいった。
「黒景先輩、貴方は今日迄に何処かのチームかクラブに所属したことはありますか?」
「……いや、ない」
「サッカーバトルではなく11対11の、公式ルールに則った試合は?」
「それも……ないな」
「そう、貴方はあれだけの能力をその身に宿しているのに試合を一度もしていない………オマケに、必殺技すら持っていませんよね?」
「………あぁ、持ってない」
「ええぇっ!黒景先輩無いんすか!?あれだけのこと出来るのに!?」
「無いんだよな……欲しいとは思ってるけど、どうにもしっくりくるのが浮かばなくて」
「つーことはお前、まじで今の今まで自分一人のサッカーし続けて来たのかよ!?俺や木曽路、柳生は試合自体は経験してるってのに……!?」
「まぁそうなるかな………」
「と、この様に実力自体は秀でてるものの、1人サッカーに集中しすぎた結果彼もちゃんとした試合経験のない、必殺技も無いルーキーとなっています、それは忍原先輩や四川堂先輩、ここに居ない古道飼君も同じですね……ここに居るものは全員スタートラインにたっている、けど………黒景先輩の開始地点は皆さんより遥か先なんです」
「つまり、どういう事なの?」
「仮に黒景先輩を発足して間もない南雲原イレブンのスタメンに加えて初の試合をするとします、それぞれの実力はこれからだと言うのに先輩だけは突出しすぎて、周りのチームメイトとのプレーに致命的な誤差が生じ、現時点では黒景先輩に着いてこれる人はゼロです」
「試合自体には勝てるのかもしれません、しかしその結果はほぼ黒景先輩のワンマンプレーの賜物になるのが目に見えてるからです、他のチームメイトはそのサポートに時間を費やしてしまい、その結果黒景先輩重視のチームになってしまいかねない」
「お、おいおい……それなら俺が、皆に合わせりゃ済む話じゃ……」
「出来るんですか?貴方は自分の感覚を優先し、それを即プレーに表す超直感的プレースタイルです、そこに皆と無理矢理合わせなければならないというノイズを組み込めば結果……貴方は今まで通りのプレーが出来なくなる可能性が高いんです」
「っ………そう、なのか」
「現に貴方はあの時の特訓、プレー中に取られては行けないという制約を無視して開始直後、ダイレクトシュートでゴールを奪いましたからね」
「あ、そっすね……」
「貴方自身に協調性はあります、しかしプレースタイル自体に
「互いの存在がノイズとなって成長を阻んでしまう、だからこそ黒景先輩はまだこのチームでのプレーを許すわけにはいかないんです」
雲明君からの話はこれで終わり、暫くの間沈黙が流れていた。
………確かに、周りが育っていない中1人だけ超強くてもどうしようもない、結局はその人が全て持って行ってしまうからだ。
そして何より、私は流の事を無意識に宛にしてた。
追いつきたい筈なのに頼ろうと思っていた……いや、同じチームなんだから当然であるけどさ。
雲明君は先の事を考えて、今流を使わない選択肢を取ったんだ………。
「………確かに、今の俺らじゃ黒景のアホみてーな動きに着いて行けないだろうな、俺は昔してたがブランクもある、その点コイツは試合に出てないにしてもサッカーは続けてたからな」
「桜咲先輩に同意っすね、俺もバリバリ頼ろうとしてたけど、冷静に考えりゃ今の俺達じゃその後頼りっぱなしになりそうだなぁ」
「な、なぁ待ってくれ、皆納得してるっぽいが俺はさっぱりだぞ?黒景はそんなに強ぇのか?」
柳生が困惑しながら皆に尋ねる、あーそう言えばまだ話してなかったっけ、昨日サッカー部に尋ねてきた時も何食わぬ顔でいる流に誰?って顔してたし。
「野球部との対決の前日、黒景君は君に使ったブロック・ザ・キーマンの特訓相手になったんだけど、その時5対1という形式だったにも関わらず僕らは蹂躙されたんだ、彼が手加減した状態でね」
「しょーじき俺らは野球部よりも黒景先輩1人の方がよっぽど手強かったっすね〜」
「ま、マジかよ……!?」
柳生が戦々恐々とした目で流を見て、当の本人は困惑していた。
………うん、柳生含めた野球部の人達には悪いけど確かに流の方が強かった………簡単なサッカーを経験したからこそ、今の実力がはっきりと実感出来る。
「彼が試合に出る時はまず、これからの僕らは更に強くならなければいけません、彼一人の強力な力に呑まれないように………僕はこのサッカー部を個性重視じゃなくて、個の全体で勝ち上がるチームにしたいんです」
「桜咲先輩や忍原先輩、木曽路や四川堂先輩、そして亀雄と柳生先輩………これから入ってくる部員全員の力で勝つサッカー、それが僕の目指す所です」
「だからこそ………黒景先輩、1回戦と以降の予選は恐らく出ることはありません、貴方に埋もれないような強いチームが出来るまで、待ってくれますか?」
雲明君は流を真っ直ぐ見据えてそう告げる、彼は何も言わずに雲明君の瞳をじっと見つめる。
「流………」
部活でサッカーをやる事を楽しみにしていた流、いきなりそんなこと言われたら、幾ら流でも怒ってしまうんじゃと内心で焦っていた。
しかも雲明君の言葉はほぼ正しい、流から何か言われてもそれを貫き通すだろう。
部室内で緊張が走るような静寂が続く、誰もが冷や汗をかき、木曽路は生唾を飲んで見守っている。
「発展途上、か………」
ふと、手の平を見つめながら流がそう呟く。
少しの間それをみつめて、握り締めた。
「……は、はははっ………あぁ笹波……やっぱお前良いわ………こんなワクワクさせてくれる言葉を掛けられたのは初めてだ」
「り、流………?」
「良いじゃないか、俺を含めたこのサッカー部はまだまだ強くなれるんだろ、俺も試合をする選手としては毒なんだろ………一人でやるサッカーよりも、皆で強くなる事で見れる景色が先にあるんだろ?」
「……はい、フットボールフロンティアに出る以上、僕は全力でこのチームを強くしたい、そして願わくばてっぺんを取りたい、皆と一緒に」
「雲明、お前……」
流の問い掛けに強く返答する雲明君に、皆少しの戸惑いを見せた。
てっぺん、それは少年サッカー日本一を取ると同義の言葉だからだ。
まだまだ未熟なサッカー部で、今年取るのだと。
「………なら信じて待つしかないな、俺もチームの為の戦い方を学ばなきゃいけない、だから笹波、そして皆………絶対勝てよ」
顔を上げ、拳を強く握りながらみんなを見渡す。
その瞳には火が灯り、今までに見たことの無い熱が……私の知らない流の表情がそこにあった。
「………はっ、なら見てろよ黒景、お前の出番を喰っちまう位に強くなってやるよ」
「俺も!こうなりゃとことんやるぞ!」
「あぁ、同感だ」
「俺も思い切りサッカー出来るからな!やるからには全力だ!」
サッカー部の男子陣が雲明君と流の熱意に感化され、内なる闘志を燃え上がらせている。
私も高揚している、ワクワクしている、ダンスとはまた別の頂きを取れるのだと思うと期待で胸が膨らむ。
でも、それ以上に。
雲明君と流の………私とは違う信頼の形に。
私の知らなかった流の顔を引き出した、雲明君に、嫉妬してしまった。
◾︎◾︎◾︎◾︎
「おっ、ちょうど例のパフェあるっぽいな、食べるよな?」
「……勿論、奢りだもんね」
「はいよ、俺はパフェじゃなくて………まぁアイスカフェオレで良いか、すみませーん」
明日のサッカー面接に向けて今日は解散し、俺と来夏は朝の約束通り喫茶タンクにやって来ていた。
どうやら言ってたパフェは今日発売されていた、ドンピシャだな。
早速店長のおばちゃんを呼び出し、来夏にはいちごカステラパフェ、俺には大きめのアイスカフェオレを注文した。
注文を聞いたおばちゃんが離れ、店内を軽く見渡す………うーん、今日もそんなに居ない、結構良い場所だと思うんだけどな……学生には割安してくれるし。
「流は結構使ってるって言ってたけど……なーんでこんな良いトコ早く教えてくれなかったのさ」
「いやほら、初めて来た時さお前ってダンスに夢中だった頃じゃん、放課後も練習してたっぽいし邪魔しちゃ悪いなーって」
「………その間、小太刀先輩と仲良くお茶してたってわけか、最低」
「なんでぇ?」
そんなに気に入ったのここ?そりゃ悪かったとはなるけどさ………そう言えば最近、小太刀先輩とはあまりここに来てない気がする……学校では何回か会って昼飯一緒に食べたりするけど。
「(小太刀先輩から誘ってきたってとこはやっぱそういう事かな、じゃあ私がダンス頑張ってる裏で2人っきりで過ごしてたんだ、ていうかなんで気づかないんだよ普通気にするでしょあれだけの美人さんなら………って、コイツには無理か………でも普通に誘えるとか羨ましいぃぃ……)」
「にしても、笹波の奴思い切ったこと言ったと思わねーか?ほぼフットボールフロンティア優勝宣言だぜ?」
「……えっ、あぁうん、どん底から最高の部活にしたいって言ってたけど、凄いよねー」
「俺も正直スタメンに入るもんだと思ってたけど、よくよく考えりゃ笹波の言う通りだったよ、俺もまだまだって事か………」
部室での会話を思い出す、笹波のあの言葉は俺の心に火をつけてくれた。
1人のサッカーを続けきた俺は、確かに本当の意味でのサッカーはまだしていない、力だけ付けても結果的にチームの足を引っ張ることになる。
なら俺がこれからやるべき事は、チームの為の動き方。
笹波の言うチームに適応する為に俺もこれからより一層の気合いを入れねばならない。
漠然とボールを蹴り続けるのではなく、明確な目標の為に戦う………来夏が抱いてた気持ちってのはこう言うのなのかな。
まだ先だけど燃えるな………こんな気持ちは初めてだ。
「とりあえず当面の目的は1回戦突破……ここで勝てなきゃサッカー部は結局無くなっちゃうし」
「だな、でもお前らなら勝てるって信じてるよ」
「……じゃあ流、今日から放課後の練習付き合ってくれない?」
「おっやる気だな、もちろん良いぞ」
来夏も気合い十分らしい、俺は暫くベンチだけど練習は怠らない、その時まで鍛錬は続けるつもりだ。
「うん、ありがと(………少しでも、一緒に居たいから)」
………それにしてもなんか、元気ない?
声の抑揚がいつもより少ない気が………ていうか、最近の来夏は何処かおかしい。
なんというか………何時もより面倒臭い部分が増えてきたというか、まぁ俺は慣れてるから問題無いが、気の所為か?
うーーーん、俺が原因なのかもしれんが思い付かねぇ……………。
「はいお待ちどうさん、アイスカフェオレといちごカステラパフェだよ」
「お……わぁーっ可愛い!美味しそう!」
そんな事を考えていると、おばちゃんが注文の品を持ってきていた。
お目当てのパフェが来夏の前に差し出され、その見た目に来夏は手を合わせて目を輝かせていた。
あれ、やっぱ気の所為かな?普通にいつもの来夏だ。
「んじゃごゆっくり………あんたも隅に置けないね」
「え?」
最後なんか言われたらしいが聞き取れなかった、思わずおばちゃんを目で追ってしまう、すみ……炭?いやそんな訳ないか。
気を取り直して来夏の方を見る、写真めちゃくちゃ撮ってる………SNSにでも上げんのかな。
俺は見る用でアカウント持ってるけど、特にアップしたりしないからなー………燃えたら怖いし。
「いただきますっ!……美味しーっ!」
「そりゃ良かった」
マジで美味しそうに食べる来夏を見ながら、俺も注文のアイスカフェオレを1口飲む。
うーん……………美味い、甘すぎないんだよな。
「あっそうだ、私が食べてるとこ撮ってくれない?SNSに上げるからさ」
「ん?まぁいいけど」
スマホを受け取りロックを解除する、カメラを起動させて言われた通りにパフェを食べている来夏の姿を何枚か撮る。
まぁ、絵になるわな……ていうか自分の顔今のネットにあげるとかすげー度胸、よっぽど自分の顔に自信なきゃ出来無いんじゃね?
「ほい、どすか」
「どれどれ………いい感じ!サッカー部のアピールに私のSNS使おうと思ってたから」
「イメージガールは大変だな、またその内人気殺到するんじゃない?」
「慣れてるからもう良いよ……流は、私がファンとかに告白されたらどうする?」
「はい?」
いきなりなんスかその質問、脈略無さすぎない?
どうってお前……告白されたらか………うーん。
「………うーん、何だろ、なんとも言えん」
「え?」
「いや、そこら辺はお前の自由なんだけど、ていうか俺が決めるような事じゃ無いしな」
「……てっきり、特に言うことない、なんて言われると思ってた」
「あー……ていうかいきなりなんでそんな事聞くんだよ、告白くらいお前、何回もあるだろ?」
「まぁ、そうだけど……………ふふっ」
えっと、なんで嬉しそうなの?またなんか拗ねたらどうしようとか思ってたけど、こんな曖昧な返答で良かったのか?わ、分からん………益々お前の事が分からんくなったんだが?
「………流、カフェオレだけで大丈夫なの?お腹空かない?」
「え?まぁ今別にすげー腹減ってる訳じゃ無いし」
「ふーん………じゃあ、はい」
何をするかと思いきや、来夏の手に持っていたスプーンがパフェのカステラとクリームを乗せて……俺に差し出してきた。
…………えーっと、これは、食べろってことっすか?
「………えー、来夏さん?」
「どーぞ」
なんかご機嫌なんですが、どうされたのですか、もう貴女が分かりません自分は。
てかこーいうのカップルがするもんじゃないんすか……はぁ、もうなんか考えるの面倒臭い。
俺はもう何も言わず、来夏の差し出されたパフェを食べた。
「………美味いっすね」
「ね?」
………はぁ、将来コイツとくっつく奴はきっと苦労するだろうなぁ…………窓の景色を眺めながらそう思い、カフェオレを飲み進めた。
◾︎◾︎◾︎◾︎
私が告白されたらどう思ってるのと、流に聞いて………彼は私の想像と違う反応を見せてくれた。
諦め半分で別に?なんて言うんだろうなぁ………なんて思ってたのに、少しだけとは言え、思う所はあったんだ。
少しだけ、嫌だったりするのかな。
複雑な気持ちになってくれてたのかな、私みたいに重くて面倒な感情とは程遠いんだろうけど………でも、少しでも、私と同じだったのかな。
「(ふふ、フフフっ)」
なんかすごく嬉しいや。
私も嫌だよ、君が他の子と居たり告白されるなんて、絶対嫌だ。
告白された事はたしかに何回かある、でもその度に私は断った。
いきなり知らない人や少し知り合ってるだけの人と付き合うなんて無理だ、私は流以外考えられない。
流は多分、告白されるかは分からない……今警戒するのは小太刀先輩だけだ。
まだ好きかどうかは分からないけど、多分黒だ。
「(……渡さない、絶対)」
何時もの眠たそうな目になりながらカフェオレを飲む流の姿を見て、何度も心の中で思っている事を吐露する。
………好きな人を誰にも渡したくない、当然でしょ?
私も残っているパフェを再び食べ始める。
……うーん、やっぱりこれ美味しい…………。
「(………あっ)」
今、気付いてしまった。
さっき流がこのスプーンに口を付けていたことを。
そしてその前のスプーンにも、私は普通に使っていた。
「(………かんせつ、キス………)」
そう思ってしまうと、段々顔が熱くなってしまった。
やってしまった、やってしまった……!
思わず差し出してしまって何も考えて居なかった……!!
流は、気付いていない?ていうかもしかして気にしてない……?
「………ふぁぁ」
あーダメだ、全然気にしてないというか、多分気付いてない。
もう……私がバカみたいだ。
スプーンを咥えながら、欠伸をする流をじっと睨む。
少しの間だけ、スプーンが口から離れる事は無かった。
黒景流
予選大会中はベンチウォーマーになる事が確定、強すぎるのも考えものだね。
忍原来夏
なんか雲明とより仲良くなっている幼なじみにまたヤキモキしつつ恋慕は膨らむ、色んな意味でサッカーにマジで感謝。
黒景流と笹波雲明
天才と秀才は両輪であり、共に刺激し合うことで、周囲を巻き込み進化を促す。
主人公は多少強すぎても問題ないですか?
-
私は一向に構わん。
-
正直程々に。
-
やるなら全部ぶっ壊せ。