忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが? 作:グラビトン
思えば鞘先輩メインって少ないと思いまして。
雷門との決勝戦まで残り4日を切った。
南雲原は帝国との準決勝が終わってから雷門の対策を筆頭に、流君抜きで特訓を続けていた。
王者雷門………誰もが強者と疑わないその実力、しかしウチ達南雲原は天河ヒカリというサッカーモンスターを擁する帝国学園に勝利した、実力的には雷門と拮抗しているとキャプテンも言ってくれた。
しかし油断はしない、我らは優勝を目前にしている以上今まで以上に気を引き締めてかからなきゃいけない。
準決勝後に流君がしばらく帝国へ行ってる間もウチ達は対雷門の特訓を続けていた、円堂ハルが戻ってくるかもしれないとキャプテンはどこか確信を得ている様な表情で語っていた。
雷門の選手達も帝国に練習試合を申し込むくらい南雲原へ対策を施しているはずだと、故にウチらにはかなりの特訓メニューを詰め込んでいた。
キャプテンらしい効果的で効率的な特訓だが………やはりキツイものはキツイ、準決勝後の特訓終了時にはみんなヘトヘトで、すぐに居残り練習など出来ない位には身体を酷使していた。
でもみんな少し休んだら自分の特訓を別個にしてるから………やっぱり決勝に勝ちたいという気持ちは同じで、その日が近づくにつれてより高まりつつあるのを感じる。
無論ウチも、剣道で初めて決勝の舞台に立った時のことを最近の脳裏に過ぎっている………あの時と同じ高揚が蘇っている、ここまで激戦続きで正直剣道よりもキツイ時があったけど………流君に惹かれてサッカーをやり始めて良かったと心から思える。
だからこそ勝ちたい、ウチは既に3年だから……今年のフットボールフロンティアが最初で最後、有終の美で南雲原でのサッカーを終わらせたい。
………終わったらどうしたいかは、まだ迷っている所だが。
「っはー………円堂ハルが雷門に帰ってきたのなら、帝国より強くなってたりするのかなぁ」
「練習試合は負けたとはいえ4-5の僅差……それも後半に入ってきて、天河ヒカリさんが化身を覚醒させた状況下だったからね、諸々を込みで考えても……やはり準決勝以上の激戦が待っている事でしょう」
時刻は夕暮れ時、ウチと来夏さんは既に日課となりつつある居残り練習をグラウンドで行っていた。
汗をかきながらグラウンドに座る来夏さんが今の雷門がどれだけの強さか考えている………考えるまでもなく、今世代の雷門中は決勝にはベストな陣形で試合に臨んで来ること間違いなしだ。
今の帝国がどれ程の強さかウチらは知っている、その上で雷門は僅差まで追い詰めてみせた………決勝の日にはどうなってる事だろうか……それまでにはウチらもより強くならねばならない。
結果がどちらに転ぶにせよ、後悔のない結果を残したい。
「それにしてもようやく流がこっちに帰ってくるのかー………東風異国館の時とは違って顔すら見てなかったらなー、超長く感じたー」
「……意外ね、いない日は必ず鬼電掛けてるのかと思ってたわ」
「心外っ、別に少し見てなくても死にませんし………」
「嘘ね、天河ヒカリさんが彼にどうしてるか気になって眠れなかった癖に」
「うぐっ………あの子、何かしてないだろうなぁァっ」
「ウチらの前でキスをするような子よ………何かしないわけないわ、貴女とよく似て躊躇ないからね」
「流石に面前の前であんなことしません私は!き、き、キスだって流の方からしてきたんだしっ!」
「………ふーん」
キスの経緯は前に聞いた、それに関しては流君が100悪いから彼女を責められないけど……こうして目の前てその時の光景を思い浮かべて恥じらう所を見せられるのは、流石にイラつく。
全く………なんというか、ウチの初恋ほど面倒な状況なのはそうそう無いはずだ、ウチの想い人の幼馴染みで拗らせまくってる後輩と、想い人と同じサッカーモンスターでブレーキという概念を知らなさそうな子。
対してウチは……特別言うこともない、流君の先輩ポジション。
彼もこの2人の気持ちは察してるけど、ウチのは気づかれてるかどうか怪しいライン……ていうかぶっちゃけ出遅れてる感じはある。
来夏さんや天河さんみたいにグイグイ行くような性格じゃないし、関係を強く迫るような度胸もない。
自分で言うのもアレだけど……ヘタレなのかもしれない。
お茶に誘ったり話したりするだけで、彼女らのようなスキンシップはした事がないし……ていうか彼女らがの頭のネジが緩みすぎてるのが1番の原因だろう、それに比べたらウチは健全と言える。
………しかし、ウチは彼にとっては特別でもなんでもない。
来夏さんは幼馴染み、天河さんは同じかいぶつでライバル。
ウチはただの先輩………普通すぎるわ。
まぁその関係がウチにとっては心地いいのだけれど………しかし、来年になればウチは南雲原から卒業する、残された期間は長いようで短い。
それまでにこの関係をどうすべきか、好きだという気持ちは負けてないつもりだけど……そんなのは詭弁ね。
このままでもいいとは思ってるけど…………このままで終わりたくない気持ちも最近生まれつつある。
はぁ、ウチも人の事言えないくらい面倒な女になっていたわね……。
「あーもうほんっと……天河ヒカリをぶち越えるくらいの気概じゃなきゃ、雷門も倒せないですよねっ!」
「何もかも劣ってる貴女に倒せるわけないでしょ、学習能力無いわね」
「気持ちの問題です!うおぉっ、真ヘルファイアッ!!」
来夏さん単独で撃てる最高火力のヘルファイアがゴールに放たれる、以前よりも技が進化しており火力もウチの伝来宝刀に勝るとも劣らない、勢いのまま放たれた必殺技がゴールへと………
「クソお邪魔しますっ」
……突き刺さらず、突如として上空から現れた何者かがそのシュートを踏み潰し、かなりの威力があったはずの必殺技は………煙を出しながら回転して、徐々に止まり地面へめり込んだまま止められたのだ。
突然の来訪と、来夏さんのシュートが呆気なく止められた衝撃でお互い固まってしまい、戸惑う。
「………え、えっ!?」
「なに、が……!?」
「うーん……まぁまぁだけどまだまだだねー」
止めたボールを蹴り上げてその手に持ったその子は、緑色のジャージを着て、毛量のある白い髪が特徴的な………忘れることのない、帝国のサッカーモンスター……!
「居残り練習?精が出るねー」
「天河、ヒカリ!?なんでこんなとこに!?」
来夏さんが目の前にいるかいぶつ、天河ヒカリさんがここにいる事に驚きの声をあげる、かく言うウチも何故ここにいるのか検討もつかない………来るにしても流君と一緒の筈、そして背負っている荷物にも目が行く………なんだか多いような?
「んーと………お礼参りかな?ボク来夏先輩に泣かされたしー」
「えっ、あーえっと、あれに関してはごめんさいだけど……」
準決勝中、後半開始時に来夏さんがキャプテンの指示があったとはいえ彼女の逆鱗に触れるようなカミングアウトを施し暴走させて、泣かせたという功罪がある、それの仕返しというのなら確かに何も言えなくなるが………。
「悪いと思ってるなら流先輩貰ってくねっ」
「それとこれとは話が違うし!」
「うわサイテー、あんな暴言言っておいてー、ていうか初恋の人のキスみて真っ白になってた癖にー」
「………あーそんなこと言うから今脳裏によぎってるー……やってくれたよねこの泥棒猫……」
「じゃあ泥棒猫らしく貰ってくねっ、にゃー」
「あざとすぎんのよこのやろーっ……!」
「ボクより先にキスしておいてなーんにもなってない幼なじみ負けヒロイン先輩よりかは可愛い後輩の方がいいと思いまーす、流先輩にも可愛い可愛いって言われたしーっ」
「(ブチッ)………少し付き合ってくれないかな天河………久々にキレちゃったよ……」
「奇遇だねー………ボクも来夏先輩にはイラついてたんだー」
「………はぁ」
そうして、出会って数秒でサッカーバトルを繰り広げている様を、ウチは横で眺めることになったのだった………実際はワンサイドゲームだけれども。
◾︎◾︎◾︎◾︎
「………という感じで、彼女達は君が来る前からずっとあんな感じよ」
「なるへそ」
「何事かと思ったら、またそういう話ですか………」
僕はグラウンドで忍原先輩と小太刀先輩の仲良し2人の様子を見に来たら………なんか忍原先輩が何故かここに居る天河さんと対決……というか弄ばれており、その様を小太刀先輩と帰ってきていた黒景先輩が眺めている様を見かけた。
近寄り事の経緯を聞いて諸々納得するが……本当にその為だけに来たのだろうか?彼女の性格からすればそういう事も有り得なくないが……。
「どしたのー?さっきからボクのボールに触れてすら無いよー?」
「こんの!ゴリラの癖にチョロチョロすんなっ!」
「なんだとこのやろー!そんなんで雷門のプレイヤーに勝てると思ってんの!やっぱボク来てよかったっ!」
「………ん?」
2人の言い争いに何か引っかかる言葉が出た、ボクが来て良かった?
やっぱり何か用があってここに来たのだろうか………とりあえず2人の不毛な争いを止めて要件を聞こう。
「………あの、そこまでにして欲しいんですが」
「んー?あ、南雲原の監督さんだ………笹波君でいい?」
「構いませんけど、天河さんは何故ここに?来てよかったとは何ですか?」
「あーそうそう、南雲原に渡したい物があってさー、ちょっとまってて………」
そういうと彼女はゴールポスト近くに置いてあった大きめの荷物をゴソゴソと探り、僕達は集まってその様子を眺めていた。
渡したいもの…………黒景先輩にではなく、僕達に?一体なんだろうか。
「えーっとこれじゃなくて………あったあった!じゃーんっ」
彼女はお目当てのものを見つけたらしく、僕らにその右手に掴んだものを見せつけるように掲げた。
それは……USBメモリ?なにかのデータが入ってるのか………待てよ、確か今日は………まさか!?
「これなんだと思うー?」
「………まさか、今日行われた雷門の練習試合に関するものですか?」
「さっすが!アリスが見込んだだけあるねー笹波君っ、君の言う通りこれは今日の練習試合を一から最後まで鮮明に撮影した試合記録のデータ!円堂君も居るし、今の雷門が決勝の日にどれだけの動きをするか分からないけど、少なくともこれがあれば分析しやすくなるんじゃないかな?」
「……え、えぇ!!?」
忍原先輩が驚きの声をあげる、そんな貴重なものを僕らに渡すために……ていうか渡していいのか?あの帝国がそんなことをするとは到底思えないけど……!?
「お、おいヒカリ、それまさか不破が渡せって言ったのか?」
「んーんなんも、ボクが勝手に元のデータコピーして勝手に持ってきた」
「え、それ、嘘でしょ?大丈夫なのかしら……」
「大丈夫でしょー、今時練習してれば何処でも情報収集されるしスパイもされるよ、アリスだってその為に南雲原にスパイを送り込むくらいだしっ、これくらいは許すでしょー……多分」
「絶対んな事ないと思うが………でもなんで、そんな事を」
「えー?決まってんじゃん、負けて欲しくないからだよっ」
黒景先輩が僕達が抱いてた疑問を彼女に投げ掛けると、天河さんは心外って感じの顔で僕らに近づく。
先程から彼女は笑顔で、僕らに近づくにつれて目の色が変わってゆく。
それはどこか、獲物を捉えるかのような……獰猛な瞳に。
「ボクらはあの準決勝、死力を尽くして負けた………みんな雷門には練習試合で勝てたけどさ、それでもみんなの目標は打倒南雲原なんだよっ」
「最初に君達を倒すのはボク達帝国でありたい、円堂君が復活して完全形態になった雷門は文句無しに強敵だけど、先を越されるのはボクとしては癪なの」
「だから何としても勝ってもらう、ボク達が倒すまで誰かに倒されるのは許さない」
その瞳に捉えられた僕は息を飲んだ、その姿勢に僕は黒景先輩の面影を感じた………完全に彼の悪癖が移ってるな、アリス君もまた彼女の制御には苦労しそうだ。
…………しかしその思いを考慮しても、そのデータを参考にできるのはありがたい、ハルが戻った最新の雷門を分析出来れば勝率はグッと上がる、使えるものは何でも使って勝ちたい。
「それとさらにサービスっ!残りの練習期間、ボクが付き合ってあげる!」
「……えっ?」
「えぇ?」
「「はぁっ!?」」
胸に手を置いて自信満々な天河さんは、これまたとんでも発言をしてきたせいで僕らは驚く、何かと思ったら今度は帝国のサッカーモンスターが僕らの練習に付き合う!?そこまでするのか……ていうか本音は黒景先輩といたいからじゃないのか………という僕の疑問は一旦飲み込み、話を聞くことにする。
「もう気づいてると思うけどボクは帝国の中では一番円堂君とやり合った、全部把握しきれた訳じゃないけど近い動きは出来ると思うんだっ!」
「だからボクが渡す映像で雷門の動きを分析して、最重要人物の円堂君の動きがどんなのかボクが教えて、南雲原の強さの底上げをする!大盤振る舞いでしょー?」
「いやでも、アンタ流とむぐぅっ!?」
「余計な事言わないのっ!」
「……確かにありがたい事この上ないな、どうするよ笹波?」
「……………」
考える………ていうか考えるまでもなくYESと即答したい位、彼女の提案はありがたい………いや、有り難すぎる。
さっきの言葉はきっと嘘では無い、帝国の仲間達と勝ちたいから雷門には負けて欲しくないと………でも絶対何か、何かある気がしてならない、これ程こちらに有益な話の裏には。
「………天河さん」
「うん?」
「貴女の提案は南雲原にとってこれ以上なく有益なものだと僕は思ってます」
「うんうん……あーそうそう、1つ言わなきゃね」
「やっぱり、何か?」
「まず南雲原がボクの提案うけるじゃん?」
「……はい」
「ボクが練習入ること君が承諾することになるじゃん?でもボク今住んでる所は帝国の学生寮だからさ、一々ここに来るの面倒なんだよね」
「…………………ま、まさか」
「うん!」
屈託のない笑顔で地面に置いてた荷物を抱える彼女は、察し始めたボクらを見て告げる。
「泊めてよ!このコテージに!」
「「「「……ええ!?」」」」
「だって一々終わったら帰るなんてめんどくさいし非効率じゃん!流先輩が帝国で自分のサッカーを見せたように、ボクのサッカーを南雲原の手助けをするからさ!いいでしょっ?」
彼女がまさかここに泊まるとか言い出した、この場にいる僕ら全員驚いてしまう………確かにこの話を受けて、彼女が練習に付き合うのなら合理的な話になるが………この子もまた黒景先輩に心を奪われた人だ、南雲原には既にもう2人居るのに、決勝前に何かこのクソボケのやらかしが起きたらまずいなんてものじゃない!!?
……………しかし、前述の申し出はとてつもなく魅力的だ、間違いなく南雲原が決勝で戦う上の力となれる。
「ねーいいでしょー?決勝で勝っても負けても流先輩九州に帰っちゃうんだからさ、少しでも長く居たいんだよー」
「そっちが本音でしょ貴女!?」
「どっちも本音だよー、ねー笹波君いいでしょ?泊まる間は君の言うこと聞くし面倒は起こさないからさ!ね!?」
「………っ…………うぅ……………黒景、先輩……」
「ど、どうした笹波?」
「………何かやらかしたら、今度こそ南雲原で百目階段1000周させますから!!絶対!!忍原先輩を刺激させたり天河さんを過度に甘やかしたりしないでくださいね!!?」
「へ、へい!」
「ってことはキャプテン、この子を……!?」
「………というわけで天河さん、よろしくお願いしますよ?色々と!」
「おっけー!じゃあまず流先輩と同じ部屋にー」
「早速風紀を乱すなっ!!」
悩んだ末、僕は彼女の提案を承諾した。
ハルが戻ってきた雷門に勝つためにも、有効な手は幾らでも使ってやる!!かいぶつ2人がトラブルを起こさなければ、きっと………!
「と、とりあえずコテージに戻ろうぜ?みんなで試合を見よう、俺も帰ったらみんなに伝えるつもりだったし……」
「………そうですね、とりあえず忍原先輩」
「な、なに?」
「暫くの間!黒景先輩と必要以上の接近は禁止します!!無論天河さんも!!」
「………え」
「えぇ〜!?」
「(………ウチには何も無いの?)」
かくして、決勝まであと4日。
僕は特訓以外にも、修羅場を起こさない為に要らない神経を使うこととなった。
毒を食らわば皿まで……ここまで来たら駆け抜けてやる!!
◾︎◾︎◾︎◾︎
3日ぶりに南雲原が借りてるコテージに戻り、俺達は……何故か先に来ていたヒカリから手渡された今日の帝国と雷門の練習試合の記録映像をみんなで見ていた。
俺は既に見ていたけど、こうやって見返してもやっぱりすごい試合だった………ぶっちゃけあそこで今すぐやりたかったけど、決勝のこともあるから頑張って耐えた。
そして皆が、その試合内容に釘付けになっていた。
「すげぇな雷門、強いとはずっと思ってたが……円堂ハルが来てから帝国と互角にやり合ってやがるぞ」
「元々精鋭揃いのチームだからな……勝つという明確な意識と、完全復活した上で更なる覚醒を果たした雷門のサッカーモンスターが戻ってきたら、こうなるのか」
「帝国も準決勝から動きがさらに良くなってるけど、雷門の後半の追い上げは尋常じゃ無いね……!」
「………それにしても天河さんが化身を覚醒させるなんてね、その上で1点差まで追い詰めた雷門もまた」
「うん、ボクが新しく覚醒した化身を上手く扱えてなくて、さらに体力も持っていかれた事を考慮しても、雷門の調子づきの勢いはヤバかったなー……ほんと、前半で円堂君が出てたらどうなってたか」
俺がソファー座ってる足元で、ヒカリは胡座をかきながら俺の脚に背中を預けながら試合を見ていた。
来夏も隣で見ている、距離はギリギリ触れ合わない程度だが……試合観てるよな?ヒカリの事見てないよな?
そうこうしていると練習試合は終わった………結果自体は帝国の勝ちだが、雷門は今の帝国の強さを凌駕しかねない程だ。
覚醒した円堂ハル、それに呼応するように力を上げる雷門………この2つが合わさった、決勝最後の相手。
それが………今の王者雷門だ。
試合映像が終わり、笹波が前に出て何も言わない俺達に視線を送る。
「………僕らは帝国で激戦を制しました、しかし最後に立ちはだかる雷門は恐らく、この調子だと更なる力をつけて決勝で出会うことでしょう」
「今の円堂ハルの力は間違いなく黒景先輩と匹敵してる、雷門の選手達もみんなのレベルを凌駕しかねない」
「そして立ちはだかって然るべきの強敵が、僕らに挑戦しようとして死に物狂いで勝ち来ようとしている………とてつもないですよ」
「………しかしそれでも僕らはここまで来ました、南雲原が日本一なる前に現れた最強にして最高の敵を前にして、みなさんはどう思いますか?」
笹波がみんなを見渡しながら告げる、敵は最強、皆が感じてるプレッシャーがどれ程のものか分からないが、それでも尋常じゃないことは確かだ。
俺は…………もう気持ちは既に決まってる、こんな最高の相手と決勝で試合するなんて感無量だ。
みんなはどう思ってるのか………。
「………なぁ、少し変なこと言っていいか?」
皆が口を噤んでいると、真っ先に開いたのは桜咲だ。
みんなは彼に視線を集中させる、当の本人は頭をかいて今から言おうとしてることをこのまま言っていいかどうか悩んでる様子だった。
「なんだよ桜咲、変なことって」
「………正直、準決勝で戦った帝国がヤバすぎて、円堂ハルの居ない雷門はもうそこまでの相手じゃないかもしれない………なんて思ったのは俺だけじゃないよな?」
「あー…………今だから言えますけど、俺もぶっちゃけそう思ってました」
「あの……実は僕も」
「まぁ、俺もだな」
「俺もだ」
「………北陽の時に試合したから言えるんだけど、雷門にはリベンジしたいとは思ってたけどさ、今の南雲原なら難なく勝てるなんて思ってたりしてたよ、俺も」
「だよな、だから………そのなんだ、今の練習試合の雷門見てさ、そんなのが吹っ飛ぶくらいの強さを見て………俺」
桜咲は言葉を区切って掌を見つめて、静かに握りしめ、笹波を静かに視線を移して………微笑む。
「こんなにすげー相手が最後の決勝で戦えるなんて、すげぇワクワクし始めてんだよ………みんなはどうだ?」
桜咲の発言に皆がそれぞれの反応を見せる、俺は何も言わずに静かに笑った………お前も、俺と同じこと考えてるんだな。
そして次々と、桜咲に続いて自分の決勝への思いを口にし始めた。
「………俺もだ!どーせなら派手に強いチームとサッカーして、そんで優勝すりゃ南雲原も伝説に残るだろ!」
「僕もだ、どんなシュートが飛んでくるかと思ったら、武者震いが止まらなくなる」
「ウチもよ………最初で最後の大舞台、今の雷門なら不足なし」
「私もです鞘先輩!怖い気持ちもあるけどそれと同じくらいワクワクして止まりません!」
「これだけの相手とのラストショー、前代未聞のイリュージョンが見せれそうだ!」
「つーか雲明が言ってた日本一になる為に、相手がこれくらいじゃなきゃ盛り上がんないよな!」
皆、強大な敵に対する恐れは内にある……でもそれ以上に、俺と同じようにかつてないサッカーが出来る予感に昂りを覚えている………正直、皆がこんなにも熱くなってるとは思わなかった。
笹波と目が合う、彼もまた驚いているが………みんなの声を聞いて、笑みを浮かべて静かに頷いた。
「……僕もだ!無名の南雲原の最後の相手は、誰もが知る雷門………彼らを倒せば頂上の景色はすぐそこだ!」
「明日からこの映像を元に全選手を分析し、帝国の天河さんと協力して対雷門の対策訓練と基礎ステータスの底上げを開始します!」
「最後にして最大の特訓、みんな……着いてきてくれるね?」
座っていた南雲原の皆は立ち上がり、笹波に強く頷く。
そんなのを今更躊躇する奴なんかここにはいない、目指すべき勝利への道は既にゴールまで見えている、敵がどれだけ強かろうが関係ない。
最後までこの南雲原で、すげぇサッカーを楽しむ!!
「………勝とう、みんな!!!」
「おおぉっ!!!!」
「……ふふっ、熱いねー南雲原っ」
◾︎◾︎◾︎◾︎
時刻はもうすぐ就寝時間、そんな中ウチは外で海が見えるベンチに1人座っていた。
明日から本格的に対雷門に向けての特訓が始まる、期待と不安を胸に宿しながら…………勝ちたい、本当に………みんなと勝ちたい。
「…………」
目を瞑り、これまでのことを振り返る。
剣道から一度離れることを決めて、流君とサッカーに惹かれて、ひたすら特訓をして……その末にウチにとって無くてはならない伝来宝刀を手にして、来夏さんと何度も悶着を起こして………ここまで来た。
キツかったけど、それ以上にワクワクして、楽しかった。
まだ何も終わってないと言うのに、少しだけセンチな気持ちが胸に点っていた。
最後の3年、サッカーを選んだことに後悔はない。
どんな結果になろうと、この思い出はウチの一生の宝物だ。
ただひとつ、サッカーとは関係なくなるかもしれないが………この想いは、どうするべきか少し悩んでいた。
流君に対するこの気持ちは、最後まで秘めたまま終えるか。
どんな結果になろうとも、来夏さんや天河さんに伝えるべきか。
あの二人はブレーキがない、そういう過去があるからかもしれないけど……ウチは少し躊躇ってしまう。
関係を迫れるほどの度胸が無い。
その点彼女らのように容赦なく流君に接近出来る点は、ウチにとって正直羨ましく思えてしまう。
……………彼も当時と比べて女の子の好意には勘づけるようにはなってる、それでも振る舞いは改善されないけど。
ウチの事はどう思ってるのだろうか、やっぱりただの先輩なのだろうか。
伝えるべきだろうか、そうすればこのモヤモヤも、いずれ訪れる別れも和らぐのだろうか。
「……………はぁ」
彼と一緒に過ごせればそれでいいなんて、いい子ぶってもそれ以上を望んでいる自分のいい加減さが恨めしい。
彼が、どう思ってるのか………それを聞けたら変わるのだろうか。
夜空を見上げながら、ウチは小さくため息を吐いた。
「………あれ、鞘さん?」
「…えっ?」
そんな時、聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきて振り向く。
………噂をすればとやらか、流君が何故かそこにいたのだ。
「ど、どうしてここに?」
「あーいや、来夏とヒカリがなんか言い争いしてて……笹波がややこしくさせる前に散歩してろって言われて、ここに………鞘さんこそ何を?」
「別に、少し思いふけてただけ」
「そすか」
「………ねぇ、折角だから話さない?久々に二人で」
「そっすね、お邪魔します」
あの二人はコテージでバカをしてる、そしてこうして2人っきりになるのも久々………誰かが与えてくれたチャンスだと思い、彼をウチの隣に座らせた。
波の音が静かに聞こえる、水面に映る月をウチは静かに見つめた。
「………先輩も、なんやかんやでもうサッカープレイヤーが板についてますよね」
「……そうね、君が居なきゃサッカーをやろうとも思ってなかったでしょうね、でもここまで来れて良かったと心から思ってる」
「それは良かった………みんなも決勝に向けて熱くなってる、俺はそれが嬉しい、ここまで来たら優勝以外考えられない」
「もちろんよ………君に関しては、キャプテンにあれだけ迷惑を掛けたんだから、万が一負けでもしたらタダじゃ済まないんじゃない?」
「………そっすかね………いや、どうだろ………」
「ふふっ、悩んでるなら覚悟して挑まなきゃね」
「うーん……まぁそれ抜きにしてもまじで勝ちたいっすね、俺を見つけてくれた笹波の為にも、仲間の為にも、みんなで頂上の景色を観たい」
「……そうね」
気持ちは同じ、見るべき道は既に一つだけ。
…………後悔は、したくない。
…………この際だ、勇気を出そう。
「………ねぇ流君」
「はい?」
「……ウチの事は、どう思ってる?」
「え?」
「ウチはキミとって、ただの先輩?」
「…………」
「……答えて欲しい」
隣の流君を見ずに、ただ海面を見つめながら告げる。
顔が少し熱い………どう答えるのだろうか、少し怖いけど待つことにする。
「…………その、前なら頼れる先輩ってだけだったんすけど………その……」
「………その、なに?」
「……あの、勘違いなら恥ずかしいんすけど……前からなんで来夏と鞘さんは仲悪いんだろって思ったんすけど………もしかしたら、その………あーなんて言おうか……えっと」
言葉を濁す彼の方へ視線を向ける、目を泳がせながら言うべき言葉が見つからずにいる…………あぁなんだ、察しかけてはいたんだ。
「(………良かった)」
なんだか先程までのモヤモヤが晴れるような気持ちになる、ようやく気づきかけてくれてる………それだけでも嬉しい。
そして彼女らのように、大胆なアピールじゃなくて自分から気づいてくれてる……その事実もまた、ウチに喜びを与えてくれた。
………彼はキャプテンの言う通り女誑しのクソボケだけど、好意以外の気持ちには昔から察してくれる人だから、ゆくゆくはこうなるのも自然だ。
「……言葉が見つからない?」
「えっと、はい」
「でも自分から気づけて嬉しいわ、流君………えい」
「えっ?」
ウチは勇気をだして隣の距離を詰めて………彼の肩に頭を載せて、手も彼の上に重ねる。
………………初めてやったのだけれど………どうしよう、心臓バクバクなり始めて止まらないし、やってて恥ずかしくなって顔が尚熱くなってる………でも、どうしよう………胸いっぱいになる。
「さ、鞘さん?」
「………ウチは彼女らの様に大胆な事は出来ないし、これがウチの限界だけど………もう、口にしなくてもわかるわよね?」
「…………………えっと………あー」
「無理に言わなくていいわ、答えもここで出さなくていい、ウチはキミを尊重する………この心はキミに救われた、それが伝わればそれでいい……ていうか、彼女達は反面教師みたいなものだし、キスとか強請らないわ」
「いや来夏はその、自分のバカのせいっていうか……」
「それに関しては本当にバカとしか言いようがないわ、反省しなさい」
「………へい」
「……流君」
「……へい?」
「……2人の相手は疲れる?」
「疲れるって言うか………もうなんか慣れたっていうか」
「……ウチなら、そんな事はしないわよ?」
「………まぁ、鞘さんはそんな人じゃ無いことは知ってますから」
「そう?なら良かった………でも、ちゃんと考えてね?」
「……………」
「形はどうあれ、キミの事は本気で好いてるんだから………ウチも含めて、誰とどうしたいかは自分で決めて、ウチはそれを受け入れるから」
「………どうすべきかは悩んでますけど、放っておいたら多分ダメなのは分かってます、今は全然分かんないんすけど」
「それでいいのよ、でも………これだけは知っておいて」
彼の頬に片手を添えて、ウチの方へ顔を向かせて………ウチは少しだけその距離を縮める。
「………ウチはそんなキミが好きだから、キミが選んでくれたら、ウチは全霊でキミに応えるから」
「存分に頼って、甘えていいから、2人に疲れるならウチの所に来てよ」
「………あー……えっと………」
「……ふふ、照れてるね」
…………決勝前に、伝えられて良かった。
彼に少し悩みを与えてしまったけど、大丈夫だろう。
後の事は後に考えればいい、今は心が軽くなってる自分を信じて………最後の勝利を掴もう。
◾︎◾︎◾︎◾︎
そして翌日………
「……天河さん、来夏さんのヘルファイア止めれたなら、ウチの伝来宝刀は止めれる?」
「真凜に撃ったあの必殺技?あれくらいなら止めれるかなー」
「なら止めてみて、なんか今……ウチ誰にも負ける気しないから」
「言うねー鞘先輩、じゃあやってみなよ」
「………《極》」
「伝来、宝刀ッ!!!」
「え?」
南雲原
強くなった雷門を前にして士気は最高潮、なんかみんな主人公みたいになりつつある。
小太刀 鞘
決勝前に自分の気持ちを伝えて、心のとっつきか消えて気分上々。
主人公から自分の気持ちを察してくれた事もアドバンテージになっている、そしてテンションMAXで伝来宝刀が《極》にまでワープ進化。
次回、FF全国大会決勝戦開幕。