忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが?   作:グラビトン

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今回はヒカリエンディングとなります。

………かの準決勝、結果が違った末の末路を見よ。


《END2》天河ヒカリルート

フットボールフロンティア全国大会準決勝、南雲原中VS帝国学園。

サッカーモンスターを擁するチーム同士の激突、覚醒に次ぐ覚醒を発揮して戦いを制したのは………南雲原中だった。

 

そしてこれはもしも、最後の局面で……黒景流が己の限界を越えられ無かった時の………有り得た1つの未来である。

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

「ぅんっ…………でも、勝つのはっ…………ボクたちだっ!!ブルースターダストォォッ!!!!」

 

「ッ…………!!!」

 

最終局面、互いに力が尽きかけていたがボクはなけなしの底力を捻り出しブルースターダストを繰り出す。

青の星屑となって流先輩を抜き去ろうとする、そして対する流先輩は………技を出せずに抵抗し、そのままボクはその背中を抜き去った。

 

 

「っぅ、はぁっ、あ、はぁっ!!」

 

既に南雲原のディフェンス陣は死に体で動けない、最後の砦として待ち構えている2人目のキーパーは満身創痍ながらも構えていた、そしてボクもまた………さっきのブルースターダストで底力すら尽きかけようとしていた。

 

残り時間もない、ここで決めなきゃいけない、それなのに………ここに来て必殺技を放てる気がしない、今にも倒れてしまいそうだ。

 

「(くっそ……もっと、練習しとけば、良かった………やば、多分あいつまだ、必殺技出せんじゃん………いかなきゃ………きめなきゃ……!!)」

 

意識も朦朧としてきた、今更練習に精を出てなかった時期の代償かここに来てしまっていた。

それでも脚は止めない、残りの力がなかろうが諦めるなんてしたくない。

 

 

 

「ヒカリッ!!」

 

「ヒカリ……お願い……!!」

 

「天河ッ!!」

 

「ぶち決めろォ……!!!」

 

「行け、天河ァッ!!」

 

「ヒカリ、行け………!!!」

 

 

 

帝国の仲間達が、ボクを………信じてくれたんだから!!!

 

 

 

 

「うあぁぁぁぁぁあああッ!!!!」

 

 

 

 

 

ボクから出てるとは思えないくらいの雄叫びをあげて、残り少ない力と今捻り出しだした最後の力でボールを宙に浮かせる。

青い光を纏いながら滞在するボール目掛けて、最後の必殺シュートを全霊の力で蹴り出す!!!

 

 

「流星ブレード!!!」

 

 

「V3ーーーーッ!!!!」

 

 

今試合最大の、更なる進化を遂げた流星ブレードが青い軌跡を描きながら南雲原のゴールへと駆け抜けてゆく。

そしてあのキーパーも、驚異の三連シュートチェインを止めた砂の魔神を呼び起こしていた。

 

 

「砂神・ザ・ハンドォォォォッ!!!」

 

 

魔神の両手が青き流星を挟み込み、ねじ伏せて止めようとする。

あちらも渾身の力を込めている………多分、前の流星ブレードだったら止められたと思う。

 

「ぐ、ぐぅう、この、パワーはッ!!?」

 

「………だぁっ、はぁっ、いけ………行けっ……!!!」

 

着地しすぐに膝を着いてしまう、それでも倒れずシュートの行方を見守った………決まれ、ボクらが………帝国が、勝つんだ、絶対に。

 

負けたくない、勝つんだ、勝つんだっ!!!

 

 

 

「行けェェェェェェェェぇええッ!!!」

 

 

 

ボクの叫びに呼応するように、流星ブレードはその輝きを増してゆき………拮抗状態にあったが、徐々に砂の魔神が崩れてゆく。

 

「な、ばか、なっ………が、ぐ、ぁ、ああああっ!!!?」

 

そして最終的に貫かれ………ボクの必殺シュートは、南雲原のゴールへと突き刺さった。

 

 

 

 

ピーーーーーーッ!!!

 

 

 

 

ホイッスルが鳴り響く、それはゴールの合図………そしてその瞬間、大観客が居るとは思えない程、スタジアムは静まり返った。

キーパーは吹き飛ばされ、その隣にボールが転がってゆく。

 

これで帝国学園は4点目を決めた。

 

そして。

 

 

 

 

 

 

ピッ

 

 

 

 

 

 

ピッ

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーーーーーーッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

3度ホイッスルが鳴り響き、審判が試合終了を告げる。

 

南雲原中、3点。

帝国学園、4点。

 

 

 

 

 

 

勝利者は、決まった。

 

 

 

 

 

 

「………………はぁ、はぁ……………」

 

膝をつき、息を整え、顔を俯かせたボクは……………ゆっくりと、右手の握り拳を、天に掲げた。

 

 

 

『決着弾炸裂ッ!!帝国学園勝ち越し!!試合終了ーーーーッ!!!!』

 

 

 

 

ボクの最後のゴールが突き刺さって数刻の遅れを刻み、実況の人が高らかに宣言をすると……スタジアムはかつてない大歓声に揺れ動いた。

 

 

 

 

『激闘に次ぐ激闘!!サッカーモンスターを擁する両チームの激突!その戦いを制したのは帝国のサッカーモンスター天河ヒカリ!!3-4で帝国学園の勝利だぁぁぁぁッ!!!』

 

『準決勝にも関わらず決勝に匹敵しかねない熱い戦いの応酬が繰り広げられたこの試合!まさしくフットボールフロンティア、いや少年サッカーの歴史に刻まれる試合となりましたね角馬さ…………おぉっ!?』

 

『ずっぅっ、ぐぅっ、は、はいっ!素晴らしい、本当に素晴らしい試合でしたっ、この様な戦いを間近に観れて、わたし、涙で前が、見えませんっ……!!』

 

『は、はは………観客席の皆様!最高のサッカーを魅せてくださった両チームに惜しみない声援を!!』

 

 

 

静寂から大喝采が鳴り響く中、ボクは掲げた拳を開いて掌を見つめる、肩で息をしながらじわじわと、勝利への実感を感じていた。

 

 

「……かった、やった………勝てた………南雲原に、流先輩に……」

 

「ヒカリィィィッ!!」

 

「ヒカリ、ヒカリ!!」

 

「………ぁ、キーコ、まりうぁっ!!?」

 

2人の声が聞こえ、振り向くとキーコと真凜は目尻に涙を浮かべながらボクに飛びついてきた。

キーコはともかく真凜はゴールまで遠いはずなのに、速くない……?

 

そしてボクはそんな2人に下敷きになってしまう、普段なら大丈夫なんだけど今は疲労困憊もいい所だからかなりキツイんですけど……!

 

「ちょ、ちょっと、苦しぅ」

 

「やったヒカリ!最っ高よアンタ!!」

 

「私は信じてたよ!!ヒカリならやれるって!!」

 

「わかった、分かったから離れてお願い、潰れちゃうってぇ」

 

「そこまでにしておけ2人とも、ヒーローを潰すな」

 

そこへキャプテンが助け舟を出してくれて、2人は正気を取り戻すとハッとなってボクから離れてくれた。

上半身だけ起き上がらせて、顔を上げる………ボクの周りには、帝国学園の仲間達が笑顔でそこにいた。

 

「………勝ったね、キャプテン」

 

「あぁ、お前はやはり凄い奴だよ、この戦いを制したのはアリスとお前が居たからだ」

 

「ははっ!結局ゴールは全部お前だしな!決勝は俺のペンギンもゴール決めねぇとな!霊道?」

 

「へっ………帰ったらまた特訓だな」

 

「大丈夫ですか天河さん、かなり消耗してますよね?」

 

「大丈夫本能寺先輩………もう今日はこれ以上なーんにも出ないけどね」

 

本能寺先輩がボクに手を伸ばしてくれたので、それを掴んでボクは立ち上がる、少しよろけるけど踏ん張って立つ。

 

……………こんなにも全部出し尽くしたサッカーは初めてだった、疲れやばいし、全身と喉痛いし、帰ったらすぐに眠れる自信があるし……………すっごく、楽しかった。

 

そしてこの胸に満たされた気持ち………これが本当の勝利って奴なんだ、それが出来たのは流先輩と……帝国学園のみんなが居たからだ。

 

「(ありがとう、ヒロトおじさん)」

 

見てくれてるか分からないけど、ボクを帝国に連れてきてくれた恩人に心の中で感謝する、ボクのサッカーへの本当の心を取り戻せた………ここからまた、ボクのサッカーは始まる。

 

「(……………そうだ)」

 

帝国のみんなが勝利の余韻に浸りながら話している所から振り返り、南雲原の方へ視線を向けた。

………負けたからか、空を見上げたり、泣いたり、膝を着いて悔しがっていたりしている選手が大半だった。

 

そして流先輩は………胡座をかいて座って、息を整えながら顔を俯かせていた。

 

「ヒカリ、どうしたの?」

 

「……まぁちょっと」

 

キーコの問いに軽く返して、ボクは流先輩の居るところへ歩み寄る。

疲れてるし身体を酷使したからこれだけでも少し億劫に感じるけど、それでも彼の元へ行きたかったのだ。

 

だって、ボクは勝ったんだから。

 

そして流先輩の前に立ち、彼はボクに気付いたのか………ゆっくりと顔を上げてその表情を見せた。

 

 

「………久々に、負けたわ………強かったよ、ヒカリ」

 

 

泣いてるかと思ったけど全然そんなことは無かった、全部を出し切った上で敗北を認めて、晴れ晴れとした笑みを浮かべていた。

………うん、多分流先輩はそんなことだろうと思ってたよ、ボクと同じで全力で楽しんだ上の結果なら……どれでも受け入れる人なんだろうなって。

 

そんな相手だからこそ、ボクは全力で勝とうって思えた………無理矢理負けを味合わせるのは許してませんけどねっ。

 

ボクはそんな先輩に笑いながらしゃがみ、同じ視線になって話し掛けた。

 

「ボクの勝ちだよ先輩……でも、流先輩のお陰でボクは本当のサッカーを見つけられたよ」

 

「………そっか、結果的に南雲原のみんなを負かしてしまったけど………俺は満足だよ、負けたのならまた強くなればいいからさ」

 

「サイテーだね……でも、そんな流先輩がボクは好きだよっ」

 

「どーも………勝てよ、雷門に」

 

「ん………うんっ……」

 

突如として先輩がボクの頭を撫でてきた……ボクは抵抗しないでそれを受け入れる……なんか、ヒロトおじさんの時にも撫でられる時あるけど………流先輩にされると、もっと暖かいな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからね、先輩。

 

これからはもーっとしてもらうかなっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさー先輩、覚えてる?」

 

「覚えてるって、何が?」

 

「もー忘れてるじゃーん………や、く、そ、くっ」

 

「約束……………ぁ」

 

すると流先輩は今思い出した顔をしながら間抜けな声を上げた。

そんな流先輩を見てボクは微笑む、そして撫でた手を両手で掴んで……ボクの頬に添えさせるように移動させる、ボクはその手を愛おしく頬擦りする。

 

「アリスには勝った瞬間から転校手続きさせるように話してるからね、だから雷門の決勝は流先輩も行けるよっ」

 

「え、あの、ヒカリさん?」

 

「今日から先輩はボクのものっ、負けたんだから約束は守ってもらうし責任も取ってもらうよ?………そして覚悟してね?」

 

ボクは顔を近づけて、先輩の耳に囁くように告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボクの事めちゃくちゃにした様に……………先輩のぜーんぶ、ボクでいっぱいにしてぐちゃぐちゃにしてあげるっ………離さないし逃がさないから………ちゅっ」

 

呆気に取られる先輩の頬にキスをする、そう………サッカーへの純粋な気持ちは取り戻せたけど、流先輩のは別だ。

あの日やらされたことをボクは決して許さない、ボクにあんなことしておいて他の女に唾をかけてたことも絶対に許さない。

 

あぁ帰ったら楽しみだなぁ………そーだ!ヒロトおじさんやおひさま園にも紹介しよ、そしたらもう逃げられないよね?それとチョーカーも買お!ボクの名前のイニシャルを刻印したチョーカーを流先輩につけたら一目でボクのものってみーんなに分かるもんねっ!!

 

アハハハハッ!!ほんっとに楽しみだなぁ!

 

 

 

 

 

 

「……………りゅう………?」

 

愉快な気持ちになっていたボクに、かろうじて聞こえる声が耳に入った。

誰だと思いつつ顔を上げて前を見ると、遠くで膝を着いている………忍原来夏がそこにいた。

 

南雲原のみんなは負けて悔しがったり、清々したりする人が半々だけど………彼女のはもうなんか、絶望してるって言葉以外見当たらないって表情だ。

 

涙も流してるし声も体も震えている、そしてそんな声に気づいた流先輩も振り向こうとしたけど………。

 

「だぁめ」

 

自分でもびっくりするくらい甘い声を出しながら、振り向こうとする先輩の顔を固定して、ボクの胸の当たりに埋もれるように抱き締めて、忍原来夏の方へ視線を向けて声を掛ける。

 

 

 

 

 

「………えーっとなんだっけ?貴女が入り込む余地が無いとか、何とか?じゃあ………引き裂けば問題ないもんね?」

 

「………ぁ、あま、がわ………ひかり………」

 

「ざぁんねん、もう………この人は、ボクのものだよ」

 

 

キスしたとか何とかほざいてるけど、幼なじみとかそんなの知ったこっちゃない。

あの時の仕返しはこれで済んだかな………いーやまだかな、これからボク色に染める流先輩を見せびらかしてあげる。

 

どの道もう黒景流は南雲原から消えて、帝国学園のプレイヤーになる。

そして………忍原来夏の前から、消えるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………べぇ」

 

 

 

 

 

ざまぁみろ。

 

 

 

 

 

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かくして帝国学園は南雲原中に勝利し、決勝へとコマを進めた。

そして天河ヒカリは約束により黒景流を帝国へと招くことに成功し、2人のサッカーモンスターが加わった状態で雷門との決勝へ挑むこととなった。

 

雷門も円堂ハルが復活した………しかし、それでも2人のかいぶつが合わさったチームの力は凄まじかった。

雷門も意地を見せたが、結果は………4-2で帝国学園の勝利、帝国は長年の悲願だった雷門打倒と全国制覇を叶えたのだ。

 

形はどうあれ帝国学園は再び王者へ返り咲いた、ここからまた、帝国の時代が始まるのであった。

 

稀代の天才監督不破アリスと帝国のサッカーモンスター………天河ヒカリ、黒景流を中心として。

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

「ふー円堂ハル強かったねー、後半2点も追い上げられた時は流石だと思ったよ、他の雷門も結構だったけど………南雲原には負けてたかなー」

 

「………3点はお前のゴールだしな、ていうか動きのキレ上がりすぎじゃねお前」

 

「そりゃもう流先輩が居るからねっ!今の帝国は間違いなく最強だし、来年は正直退屈になるかなー……ま、流先輩が居るなら無問題っ」

 

「………それにしてもこのチョーカーキツくね、試合中少し苦しくなるんだけど」

 

「外すのダメ、それは流先輩がボクのモノっていう証なんだから、勝手に外したりしたらお仕置きね?」

 

「俺はペットかよ……」

 

「あながち間違いじゃないかもねー……ね、先輩………南雲原が恋しい?」

 

「まぁそりゃ………来夏には一言も言えな………ぁっ」

 

「………へぇ?よりによってボクが目の前にいるのにそんな事言うんだぁ?じゃあさ………キス以上のこと、しよっか?」

 

「……は?いや待て、それは流石にお前」

 

「拒否権は無いよ?ボクの愛を刻み込んであげる、他の女なんかに目が向けられなくなるくらいにぐちゃぐちゃにして、めちゃくちゃにするから」

 

「こーれーは、先輩の自業自得っ、ボクを覚醒させて南雲原を負けに導いたのも、こうして先輩がボクのものになったもの、流先輩の撒いた種なんだよー?今更後悔しても遅いから………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ………いただきますっ」

 

 

 

 

 

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曇り空の下、私は南雲原のグラウンドに一人立つ。

仲間は既に帰っている、そして足元にはサッカーボールが置いてある。

 

蹴ろうと思った、でもそんな力すら今の私には湧かなかった。

苦しい、身体も心も見えない何かに乗りかかってるように重い、気持ちが悪い、今にも吐きそうだ。

 

涙も出ない、既に枯れ果てる程に泣いたから。

 

 

 

 

私たちは………南雲原は負けた。

帝国学園に負けた、準決勝で終わった………でも私にとってそれは、それ以上の絶望があった。

 

 

 

 

 

 

流が………居ない。

天河ヒカリの約束で帝国へと消えた、もう南雲原に彼の姿は居ない。

 

奪われた、負けたから………負けてしまったから………彼女に………あの女に………。

 

 

 

ポツリポツリと、雨が段々と降り始める。

雲の中で雷が鳴り響きながらとてつもないスコールが容赦なくグラウンドに、私に降り注ぐ。

 

制服も髪も、一瞬でずぶ濡れになってしまう………そんな事を気にする余裕なんて、今の私には無かった。

 

「………っ、ぐ、う………うう………ぁあっ」

 

耐えきれずに膝を着く、枯れ果てたと思っていた涙がとめどなく溢れて止まらない、息ができない、立てそうにない。

 

グラウンドの芝生を毟るように握りしめる、自分の無力さに下唇を噛んで血が流れる。

 

「………なんで………なんで………消えちゃうの………」

 

流は消えた、約束を律儀に守って消えた………私に一言も残さずに、私の気持ちを知って居ながら去っていった。

 

あんな約束しないで欲しかった、もっと私の事を見て欲しかった……………いや違う、違う。

 

「私がもっと、もっと」

 

もっと彼に想いを伝えることが出来たなら、少しでも……あんな約束をさせずに済んだのに。

もっと私に、強さがあれば………彼女に追いすがれる強ささえ持っていたら………こんな事にはならなかったのに。

 

私が………何もかも中途半端だったから、サッカーに狂えなかったから、弱かったから、何も出来なかったから。

 

 

 

「ぁああっ、あああっ!うううぅ、あが、ぁあ………あああっあああっああーーッ!!!」

 

 

 

大雨が降りしきる中、悲鳴にも似た私の泣き声がグラウンドに響く。

寒い、痛い、苦しい、辛い、痛い、胸が痛い、憎い、あいつも流も自分も…………もう、ダメだ………頭がぐちゃぐちゃで何をどうしたらいいのか分からない。

 

 

倒したい………天河ヒカリを………私から流を奪った憎い敵を、殺したい………!!!

 

 

 

「………ダメだ………」

 

そんな力、私に無いくせに。

最初からあればこんな事にはならなかったんだ。

 

 

無理に決まっている、サッカーモンスターと常人には越えられない壁がある………私には無いんだから。

 

 

 

「………くそっ、くそぉ………なんで、こん、なに………私は………」

 

弱いの?

自分の恋すら守れず、南雲原を勝たせる事も出来ない………こんなにも、弱い。

 

雷が鳴り響く、雨はより強さを増してゆく。

………何をどう嘆こうがもう遅い、南雲原の挑戦は終わった、帝国は優勝した。

 

私の恋も………目標も……………終わったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『むしろはじまりだっての』

 

 

 

 

 

 

「………ぇ?」

 

そんな時、声が聞こえた。

そして戸惑った、それは………自分によく似た声なのだから。

 

重い顔を上げて、声の正体を確かめる………そして私は、酷く狼狽えた。

 

 

「……え、え?なに、これ………なんなの……?」

 

『はは、ひっどい顔………アイドルが聞いて呆れるね』

 

「………ぇ、は?なに、頭、おかしくなった……の?」

 

『ある意味正解、これは………忍原来夏の心が壊れて生まれ変わろうとする兆候だからね』

 

有り得ない、これはきっと幻覚だ、そうに違いない。

狂ってしまったせいなのか、それほど追い詰められたのか知らないけど、こんなのは有り得ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって。

 

 

 

 

 

私を見下ろしてるのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニフォームを着て髪を降ろした、目が真っ赤な私自身なのだから。

 

 

 

 

「………なに、なんなの、だれ……?」

 

『分かってて言ってるでしょ?忍原来夏だよ私は………まぁ、正確に言ったら貴女の中にいる』

 

 

 

「《かいぶつ》って所かな?」

 

 

 

「………は、ぁ………?」

 

私を蔑むように見下ろす、私を名乗る幻覚はそう告げた。

 

かいぶつと………私の中にいる、かいぶつ………?

 

『あんたがサッカーをやり始めて、そして流への気持ちに対する歪みで私は生まれた、そしてあの天河ヒカリに彼を盗られた今………私はこうして貴女に語り掛けてるの』

 

「…………」

 

『あーもうその顔飽きたからやめて、とりあえず貴女にいい事を教えに現れたの』

 

「………なに、それ」

 

『簡単に言うと…………貴女は強くなりたいでしょ?その鍵となるのがわ、た、し』

 

「………え?」

 

『貴女は既に、かいぶつと渡り合える力を秘めている………それが私という存在を生み出したの、心当たりあるんじゃない?』

 

「………なにいって………そんなのむ………ぁ………?」

 

 

 

 

無理だと言おうとした時、私は思い出した。

ブロック・ザ・キーマンを習得する時、浜辺で流の挑発に乗った時、春雷を完成させた時に出たあの力………まさか、あれ?

 

 

 

 

『思い出せた?あれが貴女の力の兆候、愛しく離したくない存在が遠くへ行こうとした時に、貴女は追い縋るために生み出した力の引き金………それが貴女をかいぶつにする唯一の方法』

 

『円堂ハルに、黒景流に、天河ヒカリに!勝つ為の力をその身に宿せるの』

 

「………どうすれば、良いの?」

 

『受け入れればいい、私をね』

 

「……うけ、いれる………」

 

そしてその幻覚は私に目線を合わせる様にしゃがみ、恐ろしくも綺麗と感じてしまう深紅の瞳で私を映し出す。

 

『簡単に言えば狂えばいい、サッカーに、流に、自分自身を壊して狂え、一重にサッカーで勝つ為に、天河ヒカリを倒す為に、取り戻すために!!』

 

「……取り戻す………流を………」

 

『貴女の願いだった流の隣に並ぶ強さ………彼のように他の何物にも縛られない自由な強さを手にしなきゃ、サッカーモンスターには勝てない………貴女はこのままでいいのか?今頃天河ヒカリは彼に、何をしてるんだろうね?』

 

「あ、ぁぁあっ、いや、いや、いやいやいや、そんなのいやっ、嫌だ、嫌だっ!!!!?」

 

『そうでしょ?………なら、どうする?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうする。

この幻を受け入れたら、私はかいぶつになれる。

 

そして………天河ヒカリを殺せる強さを持てる。

 

……………それはきっと、サッカー以外を捨てなきゃいけなくなるのかも知れない、きっと代償は高くつくかもしれない。

 

そんな美味しい話………タダで済むわけがない。

 

 

 

これは悪魔の、契約なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……欲しい」

 

『んー?』

 

「欲しい………強く、なりたい………天河ヒカリを、殺す力が欲しい………もう流を何処にも行かせない強さが、欲しい………」

 

『決まりだね………なら今ある自分のつまらない殻を取っ払え』

 

『ダンスの日本一、忍者の家系、南雲原のアイドル、明るい自分、躊躇い、小太刀 鞘の言葉………何もかも剥ぎ捨ててゼロになれ、忍原来夏』

 

ゆっくりと、立ち上がる。

雨は止まずに強く降り注ぐ、しかし先程まで私に欠片も無かった力が、熱が宿ってゆくのを感じる。

私に合わせるように目の前の幻覚は立ち上がる、その表情はこの上なく愉快そうで満足気だった。

 

『貴女が欲しいものは何?貴女が今、求めてやまないものは何?』

 

『欲しければ進め、勝ちたければ狂え、何もかも中途半端だった自分を殺せ………その果てに掴め』

 

 

そして、自分の髪を束ねていたヘアゴムに手をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『初めまして………サッカーモンスター、忍原来夏』

 

 

今日一番の、大きな雷鳴が鳴り響き空が光る。

その瞬間目の前の幻覚は消え去った、そして雨と共に風が吹き荒ぶ、先程まで束ねられてた私の髪が濡れながら風に揺れる。

 

「……………あはは」

 

バカみたいだ、答えはこんな近くにあったなんてさ。

あぁ、サッカーがしたい………サッカーで勝ちたい………そして流を取り戻す、天河ヒカリを殺す。

 

「アハハハハ………アハッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アアアアアアアアアアアァァーーーーーーッ!!!!!」

 

 

 

 

抑えられない衝動と力に駆られるように、女の子とは思えない叫びが木霊する。

そしてずっとそこに置かれていたボール目掛けて、その勢いのままにボールを蹴り出す。

 

雨と強風の中そのボールに宿った獄炎は赤からより熱くなるように蒼く輝き始める、そしてゴールネットに触れて焼かれてゆき………最終的には貫かれてそのまま壁にめり込んだ。

 

ボールはまだ燃えている、その光景を私は荒い息をしながら見つめ、笑った。

 

 

「あは、ははっ………あっはははは………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「し、忍原………先輩……?」

 

「……ぇえ?」

 

 

 

 

 

 

 

この上なくいい気分だった所に、雲明君の声が聞こえてきたので振り向く。

制服に着替えてるが傘もささず、私と同じように濡れて立ち尽くして………私を信じられないものを見る目でそこに立っていた。

 

帰ってなかったんだ………ま、丁度いいか。

 

「これは、なんですか?……ゴールが、まさか忍原先輩が……?」

 

「うん、なんか今の私さ、すっごくいい気分なんだっ、早くサッカーがしたくて堪らなくてさ、思う存分今の私を試してみたくて!」

 

「………え?」

 

「負けちゃったけどさ、まだ来年があるよね!それまでに南雲原も私も強くなって、帝国にリベンジしたい!!明日から心機一転で私頑張ろ「待ってください」…………うん?」

 

すらすらと話していると、雲明君が戸惑いを隠せない声で遮る。

私を見つめるその顔はこの上なく困惑と戸惑いを現して、信じられないものを見るかのような目で見つめていた。

 

あーやっぱりハイになり過ぎてたからドン引きされたのかな?ごめんねー、でももう抑えられないや。

 

 

 

 

新しい自分に、生まれ変われたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは………誰なんですか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何言ってるの?」

 

 

 

 

 

 

「流の幼馴染み、忍原来夏だよっ」

 

 

 

 

 

 

待っててね、流っ。

 

 

 

 

 

 

 

そして………殺してやる、天河ヒカリ。

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

そして、南雲原に黒景流が去った後………新たなサッカーモンスターが目を覚ました。

 

そして………いつの日かまた帝国と南雲原はぶつかり合う。

 

その行く末は…………機会が来れば、語るとしよう。




《コズミックモンスターラビット》
天河ヒカリ
サッカーをただ楽しむ心は取り戻せたものの、黒景流に対する想いは歪んだままになっている。
己の所有物として、自分がされた事を愛のお返しとして主人公をぐちゃぐちゃにする………どの道、元通りにはならない。


《復讐のモンスタードール》
忍原来夏
以前からあった流が離れてゆく恐怖によるブーストが常時掛かるようになり、髪を降ろしてサッカーモンスターとして目覚めた。
自分から離れた幼馴染みに、そして奪っていった天河ヒカリに復讐するために………獄炎を滾らせて、かいぶつの道を逝く。



笹波雲明
苦労人。



次回、小太刀 鞘ルートEND。
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