忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが?   作:グラビトン

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はい、遂に来夏エンディングとなります。
ぶっちゃけこの小説を書き始めた当初はここまで多くの皆さんに見てくれるとは思いもしませんでした。

一目惚れして書いたヒロインですから、最後はやっぱりこの子ですね。

最後に、来夏ちゃん万歳。


《END4》忍原来夏ルート

出会いは突然で、些細な事だったと今でも思う。

俺が小学生の頃、夕焼けの海沿いの公園でボールを一人で蹴っていた時だった。

 

 

 

『よっと…………あっ、やべ』

 

宙に蹴り上げたボールが突然の強風に晒されて飛んで転がって行き、俺はそれを追いかけた。

そしてそのボールは止まっていた……よく見ると、誰かの脚に当たっていたんだ。

 

『あっ、ごめん』

 

それを見て俺は謝った、しかし当たったその人…………当時の俺と同い年くらいの女の子で、その子は蹲っていた。

そして顔を上げた……泣いていた。

 

『えっ、あっちょごめん!!変なところに当たった!?痛かった!?』

 

『……え?あ、いや違う、ボールが痛かったんじゃなくて、その前に泣いてたって言うか』

 

『…………あ、そうなの?良かった………いや、泣いてたって、なんで?』

 

『……別に………なんでもない』

 

『……君、確か俺と同じ小学校の奴だっけ?』

 

『…………君も…………?名前なんだっけ……?』

 

『黒景流、君は?』

 

『…………忍原来夏』

 

最初は偶々、同じ小学校の同級生ってだけだった。

そこから関係は続いて、幼馴染みって呼べる程に仲は深まった。

 

彼女の本音を聞いて、俺のサッカーを眺めて、遊んで話して…………それはこれからも続くと思っていた。

彼女がダンスで日本一になっても、俺達南雲原サッカー部が全国制覇しても…………でもそれはきっと、俺の思い込みだった。

 

彼女は終わらせたかったんだ、幼馴染みっていう縛られた関係を………俺の事を、1人の男として見ていた………俺の好きと彼女の好きは違っていた。

 

それを受け入れるか否か、俺は…………迷っていた。

俺は彼女の事をそういう目で見ていなかった、故にそこから変われる自信がなかった。

 

忍原来夏はただの幼馴染み………そういう気持ちが凝り固まっていたから、仮に付き合えたとしても………そういうことに無頓着な俺は、彼女を遅かれ早かれまた傷つけてしまいそうで怖くて、勇気が出なかった。

 

このまま受け入れてしまえば、結局どうにもならなそうで。

 

 

 

 

「……やっぱり、私だけ見てよ」

 

「他の二人なんか忘れてよ、私だけ…………流が他の女の子のモノになるなんて嫌だよ」

 

「流が…………私の事選んでくれた、私の全部あげるからさ」

 

「……大好きだよ流、ずっと…………ずっとずっと……」

 

「……ねぇ、だから…………」

 

 

 

今にも唇が触れそうな距離の来夏、瞳は暗く澱んでとても幼馴染み向けるような言葉では無い。

目を逸らしたかったが出来ない、吸い込まれそうな感覚に陥る、目の前の来夏からまた逃げたら………今度こそ、この歪な関係すら壊れてしまいそうで。

 

………向き合うとか何とか言って、結局俺は逃げてただけなんだろう、事実俺はサッカーの事しか頭に無かった、来夏の事を蔑ろにし続けた……そして今、俺に振り回されて心がめちゃくちゃになった彼女をこのまま受け入れるべきなのか。

 

「(来夏………)」

 

俺の知ってる来夏は明るくて、俺よりずっと誰かに慕われている様な、そんな人だと俺は思ってる……前々からあった甘えたがりな面倒な所を含めて………俺は来夏の事が好きなんだと思う。

 

でも俺と彼女の好きは違う………だから、本当の意味て分かり合えてないんじゃないのか、俺という人間がどうしてもそういう事に興味を持てない人間だから。

 

 

 

 

 

「(…………ダメだろ、もうそれじゃ)」

 

 

 

 

 

何時まで彼女の前から言い訳して逃げるつもりなんだ、俺は。

もう俺がどう思おうが関係ない、目の前にいる来夏は既に俺のせいで追い詰められていたんだ………家の事や、目標がかつて消えて燃え尽きていた時、俺はただ何も言わずに彼女の傍に居て、その事が彼女の救いになっていたなら………これからもずっと、俺は彼女の傍に居てあげなきゃいけないんだろう。

 

 

…………その為にも、覚悟を決めなきゃいけない。

 

 

俺がここで……やるべき事は……!

 

 

 

 

「………来夏」

 

「っ……流……?」

 

彼女の肩を優しく掴み、彼女の瞳を見つめる……期待と不安で揺れ動いており、今にも泣きそうな感じだ。

彼女だってこんなことがふつうじゃ無いことはきっと分かってる……なら俺が出来ることは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一緒に暮らそう!」

 

「…………へ?」

 

「なんつーか俺、お前の事は好きなんだけどやっぱ食い違いあるしさ、こっから俺たちこの家で過ごしてみてお前の事もっと見たいと思ったんだ」

 

「え?え?え?いや、えっと」

 

「母さんなら許してくれると思うしお前さえ良ければ今日か明日にでもこの家に住んでさ……そうだな、南雲原から卒業するまで暮らしてみないか?俺もお前のことはこれから幼馴染みだけじゃなくて、俺の事を本気で好きでいる女の子って目で見ようと思うし、お前の望むことは大抵やってやりたいと考えたんだ」

 

「な、なんでも……えっと、その、あの」

 

「改めて聞くが、俺の事どう思ってるんだ?」

 

「…………大好き、です」

 

「……俺に、どうして欲しい?」

 

彼女目を見て真剣に伝える、さっきまでの澱んだ瞳から本来の色を取り戻して顔が真っ赤になっている………えっと怒ってないよな?照れてるんだよなこれ?

 

「……受け止めて、くれるの?」

 

「……うん」

 

「………もう、逃げないの?」

 

「……そのつもり」

 

「………今更だけど、私面倒だよ?」

 

「知ってる」

 

「重いよ?」

 

「それも知ってる」

 

「そんな事言われたら私、もっと我慢出来なくなるよ?」

 

「………そういう事含めて、受け止められたらなと思ってる」

 

「……他のふたりは?」

 

「………自分でケジメをつける、女心も理解できるように頑張る」

 

「…………流」

 

「……うん」

 

「………もう、離れないよ?」

 

「………うん」

 

「何処にも行かせないよ?」

 

「………俺も行かない」

 

「……………きっとキスだけじゃ我慢出来なくなるよ?本当になんでもしちゃうよ、私?」

 

「……どんとこい」

 

「………流」

 

「……何?」

 

「……………ありがとね………嬉しいよ」

 

「……俺はごめんなさいだな、ずっと逃げてて」

 

「………うん、許さない………私をこんなにした責任、取ってよね?」

 

「………頑張ります」

 

 

 

 

 

 

 

………まぁ結論、分からないだの幼馴染みだの……結局俺はそれらを言い訳にして来夏から逃げてるだけっていう、シンプルで情けない理由だった。

 

故に俺に必要だったのは、彼女の想いも重さも全部引っ括めて受け止める度量と、彼女をより深く知る事、何があっても恐れない事………鞘さんとヒカリを、傷つけることになっても受け入れて進む事。

 

………サッカーより難しく無いかこれ……でもダラダラと来夏の事を無視して傷つけるのはもうやめにしよう、俺の今後なんてその時に考えればいいし、この選択を正解すればいい。

 

 

 

少なくとも………目の前で涙を流して、嬉しそうに笑う来夏の顔は………間違いなんかじゃ無い。

 

 

 

 

「………流」

 

「……へい」

 

「……他の女の子また落としたら許さない」

 

「………へい」

 

「……私の事優先しなきゃ許さない」

 

「……はい」

 

「……………ぎゅってして、キスして」

 

「………………へい」

 

「………その後に、部屋に連れて行って」

 

「え?」

 

「我慢してた分………受け止めてもらうから」

 

「……………はい」

 

 

 

 

 

 

大丈夫かなぁ、色々と……………頑張ろ。

 

 

 

 

 

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フットボールフロンティア全国大会で、僕ら南雲原サッカー部が初の全国制覇を達成してもうすぐ1年が過ぎようとしていた。

初夏の日差しが差し込むグラウンドの上、来るべき今年の全国大会………僕ら南雲原サッカー部の全国二連覇を達成せんがために、去年からのメンバーと今年新しく入部した期待の新星達は特訓に明け暮れている……その光景を、僕は監督として眺めていた。

 

「おらぁ1年!!そんなんじゃ全国のメンバーに選ばれねぇぞ!!気合い入れろ!!」

 

「さ、桜咲先輩っ!?こんな殺人的メニューこなしてるだけでもクタクタっすよぉ!」

 

「まって、死ぬぅ、暑い死ぬぅ……!!」

 

「頑張れお前ら!この後雲明から追加メニュー来る恐れがあるからここは踏ん張れ!去年は定番の如く来てたからさ!」

 

「木曽路先輩ぃぃ……!?」

 

 

 

 

「………元気も気合いも十分で何よりだ」

 

「あの阿鼻叫喚を見て、そんな感想が出るのは君くらいだよ笹波監督」

 

「あっ、お疲れ様です下鶴コーチ」

 

みんなが特訓に精を出してる姿を微笑んで見守る中、僕の隣に元北陽学園サッカー部の監督………今は南雲原サッカー部のコーチとして戻ってきた下鶴改さんが隣にやって来た。

 

去年の僕らの活躍で、新入生によるサッカー部への入部希望が殺到する事を予見した会長が、この人を南雲原の副監督兼コーチとして呼び戻してくれたのだ、元北陽のみんなは喜んでたな……征は鼻水垂らして大泣きだった。

 

けど実際有難かった、どうしても僕では増え続ける部員の管理には限界があった………それに僕も来年で3年、この南雲原から卒業するのだから………彼なら適任だ。

 

「それにしても容赦のない、彼らは地区予選を突破したとはいえこのメニューは殺人的だ」

 

「勝利への道は甘くないんです………彼らは入部時のテストで残ったガッツのあるプレイヤー達ですから、僕も心置きなくメニューを組めます」

 

「今思い返してもあの入部時の惨状は苦笑いするしか無かったな、君は容赦なく希望に溢れた新入部員になろうとした者達の8割強を絶望へ蹴落としたのだから」

 

「………仕方ないでしょう、ただ有名でここにいると言うステータスが欲しいから、忍原先輩や流先輩に会いたいから………なんて人が大半でしたしあの人数です、どうしても今のサッカー部じゃ限界がある………なら、本当にサッカーが好きで強くなりたい、自分の手でてっぺんを取りたい………そう心の底から思える人物を残す方がずっと良い」

 

「まぁ、それには同意だがな」

 

 

今年の春、入学式を経て……予想通りサッカー部への入部希望者は殺到した………しかし正直多すぎた、多分100人強はいた。

 

流石に全員を入部、なんて出来るはずもなかった………上記の人物もそれなりに多かったから。

故に僕は去年行ったサッカー面接の強化版を行う事にした、サッカーに対する熱意、どういうサッカーをしたいか、どういう目標があるのか、本気でその人物はサッカーを愛しているか、強くなりたいのか………サッカーに対してどれだけ真摯かを僕達は容赦なく突き詰めて言った。

 

やはりと言うべきかボロは出た、有名となった人目当てもいたし………特に忍原先輩目当てが多かった………無駄だと言うのに。

それに流先輩目当てもいた、忍原先輩はすごい笑顔を浮かべてたのは記憶に新しい。

 

そんな中でも本気でサッカーをしたいと思う人物は貴重だ、残ったのは11人だけ……素質も気質も期待出来る新星達だ。

 

 

 

 

…………そして、そんな中でも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………俺が入ったのは、ここで黒景流さんと出会う為です』

 

『……正直ですね、それは何故?』

 

『去年のフットボールフロンティア全国初戦、彼のプレーを直接見て憧れたし、凄かったし………何より』

 

『ぶっ潰したいと思いました』

 

『……………それは即ち、南雲原で彼に勝つと?』

 

『はい…………敢えて同じチームに入って、その上で彼を越えたい』

 

『それが、俺のヤリたいサッカーです』

 

 

 

赤い髪の下、燃えるような紅い瞳が闘志で揺れ動く………新たなるかいぶつが紛れていた。

………何もしてなくても、引き合うものなのだろうか。

 

 

 

 

「しかし、入部テストもそうだが地区予選は殆ど新しく入部したプレイヤー達で勝ち抜くというのは流石に無茶があったと思うんだがな、勝てたから良いが」

 

「先輩達に頼りきりじゃいけないし、何よりみんな去年より強くなってますし、改めて覚悟を示して貰いたかったんですよ、彼らなら行けると思ったし………焔君の才能も改めて感じ取れましたから」

 

「………そうだな」

 

「下鶴副監督ー!少し良いですかー!?」

 

「……すまない、空宮が呼んでいるから俺はここで」

 

「はい」

 

征に呼ばれた下鶴コーチはその場から離れた、そして僕は休憩時間に入ってたメンバー達に再び目を向けていた。

みんなゼーゼー言いながら座り込んで水分補給をしている……うん、この分ならもう少し追加してもいけそうだな。

 

「あーーキッついぃ………焔!お前なんで少し足りないって顔してんだよ!?」

 

「え?いや俺も流石にキツイよ、でも多分笹波先輩追加メニュー持って来ると思う、そういう顔してた」

 

「はぁ!?嘘っすよね笹波監督ッ!?」

 

「何も言ってないけど、君らならやれるって期待を込めてるだけだよ、お望みとあらば………」

 

「無理無理無理!!今ので手一杯ってゴホッゴホッ……!」

 

「何してるんですか、飲まないで………」

 

 

 

 

 

「ほーら、飲みな後輩っ」

 

「ゴホッゴホ………んぁ?」

 

ヘトヘトの状態で追加メニューをやろうかと考えていた僕に糾弾していた後輩に、スポドリの入った飲みさしを差し出してきた人物が居た。

 

その人は………。

 

 

「し、忍原先輩っ……どうもっす」

 

「去年の雲明君は今年以上に容赦無かったんだから、抗議しただけ返ってくるよー?」

 

去年まで束ねていた長いピンク色の髪を降ろして、風に靡かせながら後輩に笑いかける南雲原サッカー部のアイドル、忍原来夏。

 

3年となった今容姿も少し大人びて性格も以前と変わらず人前じゃ飾らず明るい、サッカーの合間にSNSでダンス動画をあげたりと活発的に行動しており、頼り甲斐もあって後輩達にも憧れの的として存在している人だ。

 

サッカーの実力も去年始めたばかりとは思えない程上達している、南雲原以外でも彼女のファンが居るくらいだ、単純な人気だけで言えば流先輩より上を行っている………そんな彼女に告白ししたりする命知らずも後を絶たない。

 

「焔君を見習いなよ、彼嫌な顔ひとつせずに特訓に食らいついてるよ?」

 

「こいつは新入部員の中でダントツのサッカーバカだしかいぶつだからっすよ、常人の俺とじゃ比べられないっすからっ」

 

「こんくらいで根を上げちゃ全国なんて勝てないし………黒景先輩の寝首も殺れないからな」

 

「あのな焔?毎度言ってるけど黒景先輩は味方だぜ?敵じゃないんだぞ?」

 

「………だからいいじゃん」

 

「何も聞いてないね君?」

 

「あははっ、去年の流を思い出すなー……とりあえず一緒に頑張ろっ?」

 

彼女は彼にウィンクをしてその場を去り、桜咲先輩達のいる同級生の元へと行った………その後ろ姿を水分補給しながら、彼らは見送っていた。

 

「………あーやっぱ可愛いなぁ忍原先輩………キュートだけど高校生1歩手前の大人びた雰囲気もあるのがまだいいんだよなぁ」

 

「ジジくさいしキモイぞ帳」

 

「お前はさっきのウィンク貰って舞い上がら無いのかよっ」

 

「別に、たしかに綺麗な人だと思うけどさ………相手居るじゃん」

 

「カンケー無いの!俺も別にそういう目で見てないし、アイドルは追っかける為に居るんだからー」

 

「………監督、コイツここでサッカー以上に忍原先輩目当てなのが発覚しましたよ」

 

「へ?」

 

「それはいけないね、帳君………君は後で百目階段50往復」

 

「へぇ?」

 

「笹波先輩、俺監視の意味も兼ねて一緒して良いですか」

 

「見上げた精神だね焔君、君も見習ってね」

 

「かいぶつの精神とか見上げても見えねぇし見たくないっすよぉ!!」

 

泣き言を叫びながら抗議するがもう決定だ、焔君は今年入った1年の中でダントツだけど………彼はその2番目と呼ぶくらいの才能を持っている、来年からは彼らがこの南雲原を引っ張る存在となり得るだろう。

 

会話をする期待の新星達に微笑みながら、忍原先輩達の方へ視線を向ける。

忍原先輩、桜咲先輩、柳生先輩、四川堂先輩………彼らは今年で最後の全国大会なのだから今も気合十分、予選は殆ど出てなかったし今から活躍が楽しみだ。

 

流先輩は征達と下鶴コーチの元で練習をしている、前まではここでやってたんだけど……………。

 

 

 

 

『……焔?相手すんのは良いけど今はやめようぜ?』

 

『大丈夫です、俺が張り合ってるだけなんで』

 

『張り合うってレベルじゃ無いよね?完全に首を殺る気で掛かってたよね?』

 

『大丈夫です、そのつもりなんで』

 

『良くないよ?良くないからね?』

 

 

 

 

………焔君は去年の流先輩より聞き分け良いし言うことは聞いてくれる人だけど、あの人とサッカーをするとなると狂犬に様変わりするしなぁ………やっぱりかいぶつという事か。

 

 

「ふぅ………ん?」

 

何となく辺りを見渡していると、噂をすればとやらで流先輩の後ろ姿が見える、少し目を凝らして見つめると………誰かと話をしていた、あれは………多分ファンの女の子かな?3人くらいに話し掛けられて多分困ってる。

 

………先輩は一応女心を死ぬ気で勉強して、今はかろうじて落とすような事は起きてないけど、相変わらずなんと言うか………女性と関わる体質は変わりそうにない。

 

前ならまた何かしらやらかす危険もあったけど、今の忍原先輩とはもうそういう関係だし、僕もめっきり口を出すことは無くなった、それは良い………いいんだけど………。

 

 

 

 

 

「………………チッ」

 

「……忍原、さっき舌打ちしたか?」

 

「え?何桜咲、気のせいじゃない?」

 

「気のせい……まぁ、良いけどよ」

 

 

 

 

「………ふぅ」

 

僕はもう知りませんよ流先輩………不可抗力だろうとね。

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

「ふーっ……今日もつっかれたぁー」

 

「お疲れ様です、来夏先輩っ!」

 

「うん、お疲れ様っ」

 

校舎から夕暮れに染まる校庭へと出て、着替えた後身体を伸ばしていると今年サッカー部に入ってきた後輩の女の子が私に近づいてきた。

 

今年ももうすぐフットボールフロンティア全国大会が始まろうとしている、予選は雲明君の考えで私は一回しか試合に出れなかったからなぁ、最後の全国だし、思いっきり暴れるぞー!

 

「今日も笹波先輩の特訓超ハードでしたー……容赦ないですよねーほんっと」

 

「去年もこれくらいだったよ、貴女も着いてこれてるからまだまだ頑張ろ?」

 

「はい!でもやっぱり焔と帳にはまだ勝てなくてー………前まで一緒に練習してた黒景先輩とか見たらやっぱものが違うなーって思っちゃうんですよね」

 

「分かるよその気持ち、でも無理に誰かと比べる必要は無いからさ、自分に出来る精一杯をするしかない………私とか、それで色々落ち込んでたからさ」

 

「来夏先輩にもそう言うのあったんですね?」

 

「うん………今となってはいい思い出だけどね」

 

好きな人が離れてゆく焦燥感で勝手に暴走していたあの頃………雲明君と鞘先輩が居なきゃ今頃どうなってたか、今はもうそんな事無くなったから大丈夫で………それに。

 

 

離れても消えない繋がりを手に入れたんだ、ていうか離してあげないし…………絶対に。

 

 

「そうですかー………あれ、そういえば来夏先輩、朝聞いたんですけどまたファンレターに紛れたラブレター貰ったんですよね?」

 

「ありゃ知ってたの?まぁね………正直いい迷惑だよ」

 

「返事はしたんですか?」

 

「会長さんに頼んで代わりに答えて貰ってるの、もちろん返答はNoで」

 

「ですよねー、先輩にはもう居ますもんねー?サッカー部以外知りませんけど」

 

「うんっ………ていうか、邪魔過ぎてムカつく、この前も校舎でナンパとかされたし………ほんっとに………」

 

「……先輩?また黒くなってますよー?」

 

「……あ、ごめんごめん!」

 

「あははっ………あ、それじゃあ私ここで!明日も頑張りましょー!」

 

「うんっ、お疲れー!」

 

歩きながら話していると、後輩の子は既に家の近くへたどり着き私と離れた、私の家………ていうか流の家ももうちょいだ。

行けない行けない、雲明君とは学校内じゃ控えるようにと警告されてるし、流とは必要以上に関われないことは承知の上だけど……やっぱストレス溜まるなぁ、オマケに私目当てのラブレターやナンパも絶えないし………公表してもいいんじゃないかなぁ、私も有名になったから変な炎上とかされるのは確かに面倒臭いけどさ………ていうか、私の見た目だけで寄ってくるとか気持ち悪いことこの上ない。

 

より綺麗になろうと思ったのは誰かの為じゃ無くて、流にもっと私を魅力的な子だって思わせる為だ、ほんっとにあーイライラする……おまけにあの時………流にもさぁ………前にも居たよね、断りを入れたんじゃ無かったの?

 

女心を理解できても………いや、理解できて対応の仕方を覚えたせいで、心做しか以前より女心を掴めるようになってる気がするんですけど。

 

 

全くもう………私だけの、もう私だけの流なのに……。

 

 

「………私だけの……」

 

晴れて結ばれて、人前では耐えられるけどこうして一人の時は決まってこうだ、自分の心は辛うじてコントロールは出来ていると思うけど………流への気持ちは膨れるばかりだ、家に帰ったら思う存分発散するしかない。

 

 

「………ただいまー」

 

家の前につき、鍵を開けて入る、流は既に帰っている………筈なんだけど、何時もの返事が帰ってこない。

首を傾げながら靴を脱いで玄関に上がる、流の部屋を見るけど居ない………リビングに入ってキョロキョロすると、ソファーで流が座っている姿が見えた。

 

居るじゃん、無視したの?なんて思いながら顔を見る、すると………穏やかな顔でソファー背中をもたれかかせて座りながら寝ている流がそこに居たのだ。

 

「………はは、なぁんだ、こんなとこで寝てたのか」

 

今日の特訓が終わる間際、後輩の中で期待の星である焔君が流に対して勝負を申し込み、お互いにこの上ない死闘を繰り広げたらしい、その疲れでここで寝ちゃったのかな………ここまで疲労させる焔君も凄いな。

 

荷物を適当に置いて、寝ている流の隣へゆっくりと座る。

肩が触れ合う距離で手を優しく重ねる。

 

………あー、落ち着く…………安心する。

 

学校じゃこうして甘えられないから、家に帰るまではずっとお預けを食らっているようなものだからねー。

 

隣で寝ている流の顔を見つめる、寝る時はいつも優しい顔だ、見慣れたけど思わず微笑んでしまう。

………思えば、流が私の事を受け止めてくれてもうすぐ1年が経とうとしてるんだっけ、早いなぁ………最初は一緒に暮らす前に、一線越えちゃったしなぁ、その後も色々とお互いをみる時間が増えて、流も私の事をより知ってくれたから、今も私をただの幼馴染みとしてではなく………自分の事を好きでいてくれる女の子として見てくれる様になってくれた………前とは大違いだ、流から私の事を受け止めてくれるって言って貰えた時は……泣いて喜んだな。

 

嬉しくて嬉しくて、気持ちがより抑えられ無くなって………もう幼馴染みとして居られない事もしちゃって、それでも流は私から離れないで居てくれる。

 

かつて家の事で傷ついてた私の心を救ってくれた大事な人、今はおじいちゃんとも和解したけど………その時から芽生えた気持ちは今でも消えない、私を選んでくれた時の喜びも鮮明に覚えている。

 

「………流………」

 

ゆっくりとその肩に頭を載せる、ぎゅーって抱き締めたかったけど起こすのも忍びないしこれで我慢だ、その後にたーっぷり相手してもらうし………あの子達の事もしっかり聞き出さなきゃだしね。

 

「………ぅ………うん………」

 

「……ん?」

 

すると流は寝ながら唸り出した、起こしちゃったかなと思って近くの顔を見つめる。

すると流は口を開き出すのだが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒカ……リ………寝と……ら……れって、な………」

 

 

 

「……(ピキッ)」

 

 

 

………あーーーなーんで今になってあの子の名前が寝言とはいえ口に出るかなぁ?しかもその後も聞き捨てならない台詞が出たんですけど?今年も東京に行くからあの子と会うんだろうけど、しっかり無理だって言ったんだよね?あの子の事だからまだ諦めて無いとか思っちゃうんだけど?

 

「………ヒ、ヒカリ………やめ、ろって………」

 

「……おりゃっ!!」

 

「ぐえっ……!?」

 

これ以上は聞いてられなかったから、私は勢いよく流の膝に乗っかってその衝撃で目を覚まさせた。

私がいながら寝言とはいえ、他の女の子の名前を口に出すとか許せないんだけど………。

 

「な、なに?何が起きた……?」

 

「おはよう、流」

 

「……あれ、来夏?」

 

「……夢の中で、他の女の子と過ごしてたでしょ?」

 

「え?何言って………そんな夢も見たような気がするけど……お前それで妬いてるとか言わないよな?」

 

「ヒカリって名前がでなければこんなにムカついてないっ………あの子じゃなくて私を選んだんだから、私の名前だけ言ってろっ」

 

「いやいや何時も言ってますよ来夏さん」

 

「そんな浮気者にはここから退いてあげません、部活中でもまたファンの女の子と話してたし……しかも前にも話してて断り入れてたんじゃないの?」

 

「あ、あの子は別にそういうアレじゃ無いからさ、とりあえず機嫌直せって」

 

「ふんっ………嫌だ、私だって告白とかラブレター貰うのに、流はそれに妬いてくれないし」

 

「………お前が人気出るのは当然だし、前からそうだろ?」

 

「……そんなこと言うなら拗ねちゃいます、もう退かな……んぅっ」

 

私は流の首後ろに腕を回して顔をそっぽ向けていると、流の手が私の顔を向き直らせて近づけさせて………………あー、やば………ちょっと我慢出来そうに無いんですけど………。

 

「……とりあえずこれで許して」

 

「……………しとけば良いと思ってる、さいてー」

 

「嫌だった?」

 

「………………もっとして」

 

「へいへい………」

 

顔が熱くなっている私に流はもう一度してくれる………もう無理、耐えれない、無理、むりっ。

 

「……っあっ………部屋行こ?」

 

「………疲れてるからダメ、我慢しなさい、明日も学校あるんだから」

 

「ドSっ」

 

その気にさせておいて、そういう事するんだ………もういいもん、夜襲ってやるし。

 

「ったく、南雲原じゃ昔より愛想振り撒いて人気者になってるのに………家の中じゃ甘えたがりの面倒な子になっちまって」

 

「悪い?流のせいなんだから………」

 

「はいはい」

 

流は適当にあしらうと、私を胸の辺りに抱き寄せて撫でてくれた………幸せ………ぎゅーって……あったかい………。

 

「……とりあえず今日もお疲れさん」

 

「うんっ………」

 

 

 

これが今の流と私の関係。

家の中じゃ遠慮なく身体を寄せあって甘えている、大抵私からだけど……流はそれを嫌な顔ひとつせずに受け止めてくれる。

当初思い描いてた交際とは少し違うけど、流もまた私の事を必要としてくれる様になったからこれでいい。

 

雲明君が言ってた依存と束縛に少し戻っているのかもしれないけど、これからもずーっと一緒なら問題ないもんね。

 

……………離れない、離したくない、もう他の誰にも渡さない、私だけの流なんだから。

 

 

 

「………流……大好きだよ」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

かくして、俺と来夏の関係はただの幼馴染みでは終わらず、男女の関係となっていた。

 

来夏の望みがこういう形だったのかは知らない、少なくとも俺が望んでいたものとは違うかもしれない。

受け止めると決意したあの日から、彼女の事を忘れた日は無く離れた時は数えられるくらいだ。

 

ずっと来夏の姿を俺は見つめてた、俺が居なきゃ明るくて、みんなに惹かれて、可愛くて………そんな女の子。

 

それでも俺と居る時はドロっとした気持ちを向ける甘えたがり、すぐに嫉妬して面倒臭くなるそんな1面を持ち合わせてる………でも俺は、そんな所もひっくるめて受け止めようと思ってる………今も、これからも。

 

………………これが正解なのかはまだ分からないけど、少なくとも来夏は幸せだ………かく言う俺も、そんな彼女を見てると心が温まる。

 

些細な出会いからこんなことになるなんて思わなかったけど、この胸に抱きしめる彼女抜きの人生は、今の俺も考えられなくなっているのかもしれない…………俺も、来夏の事はとやかく言えないって事か。

 

「………来夏」

 

「……なーに」

 

「……………今、満足か?」

 

「……うん、流とこうして居るだけで嬉しい」

 

「……俺もだよ」

 

「……………同じだねっ」

 

少し顔を離した来夏は、俺に笑顔を向けてくれた。

あれから成長して、みんなから持て囃されるアイドルの笑顔は今、俺だけに向けられている。

……………特別感、と言うやつか、いずれにしても悪くない心地だ。

 

 

 

 

 

 

これからもずっと、その笑顔を見続けれたら良いなと、今は強く思う。

 

ずっと、ずっと。




忍原来夏/黒景流
3年になって、互いが互いを離せなくなっている感じになっているが、それでも本人達はそれで満たされていた。
それが正解か否かは分からない、その後どうなるかも。
しかし、互いを必要として大切に思うのなら………未来は、良いものになるに違いない。






……………という事で、最終回になります。
これをもって、この小説を完結とさせて頂きます。

前書きでも申しましたが、衝動描きで作ったこの小説がここまで見られるとは思いもしてませんでした、多くの皆さんが見てくれたからこそ作者も高いモチベを維持してここまで書いて来れました。
それ故に至らぬ点も多々あったと思います、反感を買う所も………それでも一重に楽しかったのと、皆さんの反応が楽しみだったのが強い理由です。

原作たる英雄たちのヴィクトリーロードはまだまだ続編かあると思いますが………出たその時はこの小説の設定を引き継いだ別の小説として書こうかなーと思ってます、そして完結とは言いましたがその後もちょくちょく不定期で投稿もしたいと思ってます。

次にまた作品を作る時は、作者も精進してまた皆さんが面白いと思える様に頑張りたいと思います。

そして改めて………ここまでの御愛読、ありがとうございました。

改めてありがとうございました、後日談を見たいとしたらどれですか?

  • 適正婚姻法ルート
  • 天河ヒカリルート
  • 小太刀 鞘ルート
  • 忍原来夏ルート
  • クロニクルモード(妄想)
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