忍原来夏とはただの幼馴染みです………それだけですが?   作:グラビトン

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はたまた久々の投稿になります。
今回は前々から描いてみたかったモノのまとめになります。

今もゲームはぼちぼちやってますけど、ストーリーの続編が待ち遠しいです………。


小話集 2

《①FF全国初戦前半、南雲原のベンチ》

 

 

 

ピーーーッ!!

 

 

 

フットボールフロンティア全国大会初戦………開戦のホイッスルがスタジアムに鳴り響き、観客席からも期待の大歓声が上がってゆく。

我ら南雲原、初戦の相手は化身使いを擁する京前嵐山中、現環境下で減りつつある化身を中心とした戦術は生半可な事では止められない、何せ化身は化身でしか倒せないからだ。

 

「あれが化身………映像で確認はしたけど、こうして直視すると威圧感があるわね」

 

「それだけじゃなく、その強さも折り紙付きですよ……特にあのクララバニーは攻撃性に特化してますから」

 

「ううやっぱり強そう…………本来は同じ化身じゃなきゃダメなんですよね、笹波君?」

 

「まぁ、そうですね」

 

マネージャー達の分析を聴きながら隣でオドオドとする香澄崎先生に適当な相槌をして、僕はフィールドの状況をじっと見つめる。

京前嵐山の基本にして強力な戦術、《化身共鳴》………二体の化身から発生するホットラインを断ち切らなければたちまち敵チームは崩壊してしまう………そして南雲原にはまだ、化身使いは居ない。

 

それに関しては試合中で頑張ってもらうしかない、そして何回か言っているかもしれないが化身は化身でしか倒せない、その場合は化身と同等かそれ以上の個人の強さが必要になる。

 

京前嵐山からすれば、僕達は最近復活したばかりにも関わらずコマを進めて全国へ辿り着いた新参者、化身使いの居ない有象無象と下に見ているハズだ…………現に初めて対面した時、見下してる感じを隠そうともしてなかったからね。

 

その時周りの仲間達は流石にイラついてたけど、僕は特に何も感じなかった。

 

 

 

何故ならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デスサイズ」

 

 

 

「…………ぁ?」

 

 

 

 

 

『な、何が起きたのでしょうか!?西條選手が化身を発動したかと思えば、南雲原の選手がボールを奪ったのと同時に化身が真っ二つにされました!』

 

『あの選手は、この試合で初出場となる黒景選手………一瞬の出来事でしたので、私も見えませんでした……!』

 

 

 

 

 

西條リルがクララバニーを携えて突撃したが、突如として現れた一人の選手がそのボールを刈り取る。

その際にクララバニー上と下が真っ二つにされる…………ボールを奪う際に見えた彼の脚は、まるで死神が持つ鎌の様だった。

 

何度も言おう、南雲原には化身使いはまた存在しない…………しかし、サッカーモンスターなら存在しているんだな、これが。

 

「今のは、流君の必殺技……!?」

 

「何したんだ!?てか、化身ぶった斬ったぞ!?」

 

小太刀先輩と星先輩が、というか僕以外のベンチ居る仲間達が初めて見た黒景先輩の必殺技に驚く。

僕は全国大会が始まる前から黒景先輩の必殺技完成にずっと付き合ってたからもう驚くことはない…………と言いたいけど、化身すらもこうなるか。

 

 

「(デスサイズ、黒景先輩の超感覚プレーが形になったと言っても過言じゃない必殺技…………思考する間もなく『奪える』と頭で感じた時行動し実現するから、相手からしてみれば対応するのは難しい…………ていうか、そもそも超素早いから分かってても避けるのは至難の業だ、それに)………ん?」

 

黒景先輩の必殺技の効果を分析していると、奪った直後のあのかいぶつはドリブルではなく、敵ゴールをただ見据えて脚を後ろに下げている…………おい、ちょっと、待て。

 

「まさか」

 

「えっ」

 

「は?」

 

「やるの、ここで」

 

僕を含めた南雲原のみんなはこの後何が来るのか察しがついてしまった、敵チームと観客席の皆さんと実況席の人達は理解が及んでいないだろう…………そして、黒景先輩はその脚を振りかぶり、ボールは完璧な威力とスピードを維持して敵陣を切り裂く様に飛んでゆき……呆気に取られつつも対応しようとしたキーパーが及ばないコースで、そのシュートゴールネットを揺らした。

 

 

 

ピーーーッ!!

 

 

 

 

ゴールを決めたことを告げるホイッスルが鳴り響く、しかしグラウンドは大人数が居ることを忘れるくらいの静寂が続く。

そして僕は…………顔に手を当てて天を仰いだ。

 

 

 

 

「………決まったよな?」

 

 

 

 

『ご、ご、ゴーーーールッ!!?決めた!?あの距離からのスーパーロングシュートが京前嵐山のゴールに突き刺さった!!開始一分で南雲原先制点だぁ!!』

 

『し、信じられない!あんなのを決めるなんて!?百歩譲って可能な状況になってたとしても………この舞台で本当に撃って、本当に決めるなんて!?』

 

 

 

 

「あ、あー良かった、なんかダメだったのかと」

 

「良かったじゃなぁぁぁいっ!!!」

 

「バカタレが!本戦にまで撃つ奴があるか黒景!!」

 

 

解説の後、その静寂をぶち破る大喝采が観客席から鳴り響く…………まぁ、傍から見ればスーパープレーなんてもんじゃない、僕らからすれば何時もやってきた事だ、でもさぁ…………確かに前半は多少のバカは目を瞑ると言ったけど……!!

 

「なんでやるかなぁ、あのクソボケ………」

 

「ま、まぁまぁ、何はともあれ先制点じゃないですか、幸先良いですよ!」

 

「そうなんですけど、この調子だと……」

 

また更なるバカを繰り返す筈だ、我らの切り札お披露目の試合とはいえそのスペックを初戦で全部明かさないで欲しい…………いや、明かしても雷門以外は何とかなるかもしれないけど。

 

 

 

ピーーーッ!!

 

 

 

先制点を取られた京前嵐山のボールで試合再開となる、先程とは打って代わって慎重にボールを回して攻め上がろうとしており、黒景先輩も注意している。

 

でも、ちんたらしていると………。

 

 

 

 

「ブラックメイ「デスサイズ」

 

 

 

 

そうなってしまう。

西條リルは警戒していたのにも関わらず、黒景先輩の強襲に対応できずに再びボールを奪取される。

そして黒景先輩はドリブル駆け上がる…………最も、吹き荒ぶ風のような超高速ドリブルをそう易々と止められる訳がないのだが。

 

「は、はえぇ…………なんか、いつにも増してキレッキレじゃんアイツ……」

 

「初試合でテンションが上がってるんですね黒景君………一応相手は各区のトップチームなんですけど」

 

「俺らもこんな風にやられてたな…………あぁ、決まるなアレ」

 

 

 

ピーーーッ!!

 

 

 

『2度!南雲原ゴーールッ!誰も寄せ付けない超高速ドリブルから、チョップフェイクを織り交ぜたトリックシュートで再び得点しました!』

 

『ボールを奪ってからの一連の流れが凄まじく速い!判断に無駄がない、何者なんですか彼は!?』

 

 

再び黒景先輩がゴールを決めた、フィールド上とベンチに居る仲間達は大いに喜んだ。

僕も拳を握って喜ぶ、普通にやっても黒景先輩は止められない、最初のバカシュートじゃなくても強力なドリブルから繋げられるシュートは脅威の一言だ。

 

「(…………やっぱり、あのドリブル技は奥の手運用が正しかったな)」

 

実はドリブルの必殺技も完成してあるのだが、運用するにしてはオーバースペックだし既に先輩のドリブルは必殺技クラスだ。

 

全国大会が始まる前、先輩は習得した風穴ドライブを進化させてみたいと言い出して一緒に考えていた。

そして僕は通常の風穴ドライブは空中で駆け抜ける技だから、地上でやってみないかと提案したら…………先輩は既存技であるゼロヨンを掛け合わてフィールドを単独でゴールまでぶった斬るバカ技二号《マッハドライブ》を完成させてしまった。

 

………………最初見た時はもう驚きの声も上がらなかったなぁ、でもその代わり体力お化けの先輩の息が上がる程の消耗な為、僕はその技をあくまでも奥の手として使うように告げた、まぁ先輩の事だからいつの日か忘れて連発しそうだけどな。

 

「く、黒景君凄すぎ!相手はもう手も足も出てないですね!」

 

「彼のデータが無い故の強襲、元々のモンスタースペック、それらが合わさった結果と言えます、仮に事前情報があったとしても止めるのは至難の業でしょうが」

 

「…………笹波君、あまり喜んでないの?」

 

「そんな事はありませんよ、ただこうなることは予想してたし、先輩ならこの位の結果は当然でしょう」

 

「……貴方ってなんだかんだ彼の事信頼してるわよね、普段は辛口なのに」

 

「サッカーにおいてはです、他は論外です」

 

南雲原のサッカーモンスターである彼の実力は疑ってなんかいない、その代償か何かは知らないけどそれ以外の悪癖が酷すぎるせいで僕に被害が及んでるのは一生許さないが。

 

 

 

 

ピーーーッ!!

 

 

 

 

「屋城さんやるぞ!クララバニーッ!!」

 

「あぁ…………ウォーボーグ…………!!」

 

「「化身共鳴ッ!!!」」

 

 

 

再び試合再開、2点目を取られた京前嵐山の化身使い二人は切り札の化身共鳴を発動させ、化身同士の戦術ラインを形成した。

西條リルは失点を取り替えさんばかりの勢いで駆け上がり、ディフェンダーにも関わらず前線へ上がっている屋城統は黒景先輩をマークしていた。

 

想定内だ、黒景先輩の異常さに気づいたのなら化身使いで止めにかかると………そして南雲原の仲間達は西條リルを止められない、こればかりは無理もないだろう。

 

「あわわ、もうゴールに行っちゃいますよアレ……!」

 

「相手も流石に必死になりますよ、けど……………」

 

先生を含めたベンチメンバーは焦りを見せるが僕は冷静にフィールドを見つめ、黒景先輩の方へ視線を向ける。

 

屋城統とウォーボーグの集中マーク、普通なら剥がして逃げることなど簡単では無いが………。

 

 

 

「……………へへ」

 

「……どこ見て、笑って「隙あり」……ぁっ!!?」

 

 

 

不意の視線誘導と奇行で一瞬生じたその隙を見逃さなかった黒景先輩は屋城統を振り払い、ゴールへ向かいつつある西條リルへ駆け出してゆく。

 

 

「なーにうちの後輩吹き飛ばしとんのじゃ」

 

「なっ!?」

 

 

既にクララバニーのエンプレス・シャドウが放たれた状況、ゴールを確信していた西條リルの表情は彼が前に立つなりすぐに焦りへと変貌する、他の仲間たちも驚きの表情を隠せずにいた。

 

そして僕は、先輩がアレをやるのだと直ぐに思った。

 

「…………アレ、来ますね」

 

「アレとは、何かしら笹波君?」

 

「見れば分かりますよ…………いや、もしかしたら分からなくなるかも」

 

「え?」

 

千乃会長の問いに適当な返しをしながら局面を見据える、黒景先輩は迫り来る化身の必殺シュートに構えを取る。

右脚が黒く怪しく染まり、それをエンプレス・シャドウにぶつける。

 

 

 

「デスサイズ…………」

 

 

 

そしてそのボールを載せた脚ごと身体を捻り、死神の鎌の弧を描き一回転させて。

 

 

エンプレス・シャドウのシュート軌道を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カウンター」

 

 

敵陣のゴールへ曲げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え」

 

「…………ぁ?」

 

「は?」

 

「…………????」

 

 

 

 

 

「め、明鏡、しす…………ぐぁぁ!!!?」

 

 

 

 

ピーーーッ!!

 

 

 

 

『は、ハットトリックーーッ!!!黒景選手の奇想天外なカウンターシュート炸裂!!南雲原前半にして3点獲得ッ!!』

 

『と、とんでもない事をしてますよ彼!?強力なシュートの軌道をそのままねじ曲げて放つなんて!!凄すぎる!!』

 

 

「「「「……………………」」」」

 

 

みんな黒景先輩のハットトリックだと言うのに、口を開いて硬直している…………まぁそうなるのも無理ない、彼がした事は余りにも荒唐無稽で理解不能、何せ他の必殺技を凌駕しかねない化身シュートあろうことか相手ゴールへと打ち返して見せたのだから。

 

僕も最初見た時は宇宙に居るような感覚になったな、その場にいた桜咲先輩も言葉を失っていた。

 

「…………キャ、キャプテン、あれ、は?」

 

「デスサイズのもう1つの顔、敵の必殺シュートの勢いを殺すことなく流れるように軌道を曲げて打ち返す……その名も《デスサイズ・カウンター》です」

 

 

戸惑いを隠せない小太刀先輩に説明をしながら、アレを初めて見た時のことが脳裏に浮かぶ………桜咲先輩と一緒に練習メニューを確認していた時の事だった、黒景先輩が何処かウキウキした状態で僕らに近づいてきたのだ、いい事を思いついたと何時もの無表情な顔からそれが読み取れるくらいに。

 

 

 

『笹波ー……桜咲もいるじゃん、ちょうどいいや、桜咲』

 

『どうした、偉く張り切ってるが』

 

『俺に剛の一閃を撃ってくれない?』

 

『……………………何言ってんだお前?』

 

『いーから撃ってくれ、デスサイズの新しい使い方を思いついたんだ、ほらほら』

 

『……う、雲明?』

 

『…………よく分かりませんが、とりあえずやってみて下さい』

 

 

 

戸惑いながら桜咲先輩は剛の一閃を黒景先輩に放ち…………それを先述した必殺技で打ち返された時は、僕ら揃って頭が?で覆い尽くされたものだ…………予測不能にも程がある、この人は何処に向かっているのだろうか…………。

 

 

『すげーだろ?次は来夏も呼んで春雷もいけるか…………』

 

『ぜっっっっってぇやらねぇ!!!』

 

『えぇ?』

 

『僕からも認めません、また拗れそうなので』

 

『えー』

 

 

 

「(まぁあの技も連発出来る訳じゃない、出来たらゴールキーパーの存在意義が消えてしまうからな)」

 

 

 

ピーーーッ!!

 

 

 

「…………どうしようか、なんか相手チームが可哀想になってきたぞ」

 

「う、うん………改めて思うけど、ホントバカだよねあの人」

 

「来夏さん、アレを間近で見続けてきたなら拗れるのも無理ないかもしれないわね…………」

 

再び試合再開されるが、みんなもう優勢に喜ぶのではなく京前嵐山への同情心が芽生えていた…………僕も正直同じ気持ちだ、シチュエーションが噛み合った結果とはいえ大分相手からすれば悲惨極まりない…………あ、黒景先輩が西條リルからボールを奪った。

 

 

「流!?ちょっと、まさか……!」

 

「まて、オーバーキルだぞ!?」

 

「情け無用、だろ」

 

 

そしてすかさず彼は持ち前のドリブルスキルで駆け上がってゆく、京前嵐山のみんなはどんどん顔色が悪くなってゆく、そして………………あの人、前半のプレーは目を瞑ると言ったが結局ワンマンになってるじゃ無いか、南雲原の仲間達にパスどころか目をくれてもやらない、これじゃチームの意味がない。

 

彼に頼り切りにならない為のチーム作り、その初期段階は終えていると言っていいが…………黒景先輩が真の意味で南雲原とひとつになるのはまだまだ先か、僕もより厳しくしなきゃ………とりあえず終わったらしばこう。

 

 

「今度は、抜かせないぞ…………!!」

 

あと少しでゴール前近くと言うことろでウォーボーグを発動させてある屋城統が折れずに立ちはだかる、あの動きはディスペア・フォートレスを使用する構えだ、そしてそれを前にした黒景先輩は立ち止まり、深く深呼吸をした。

 

 

「(…………くるか)」

 

 

彼が習得した最後の必殺技、これまでの技は彼の秘めたる力を現出させた類のもの、そしてこの必殺技は…………黒景先輩の原点となったあの人の最強格たる必殺技のひとつ。

 

先輩ですら習得に至るまで苦心した、ボールに荒れ狂う神風を宿し放つ必殺シュート…………いつの日かかの人と再び合間見える為にと誓いを形にしたその技の名は。

 

 

 

「ゴッド……ウィンドッ!!」

 

 

 

重々しい音が弾けると同時に放たれたシュートは一度跳ねながら神風を纏い、ディスペア・フォートレスを発動させたウォーボーグへと襲い掛かる。

 

「く、くそ、くそっ…………ぁあぁっ!!!」

 

「明鏡、止水ッ!!」

 

ウォーボーグの必殺技は容易く破られてしまい、そして後に続いたキーパーの必殺技がそのシュートを受け止める…………しかし威力はまるで殺されることもなく、無慈悲にも4点目のシュートが突き刺さったのだった。

 

「がぁぁーーっ!!」

 

 

 

ピーーーッ!!

 

 

 

『よ、よ、4点連続ゴールが決まってしまったぁぁ!!恐ろしい程の強さ!圧倒的!驚異的!南雲原に、これ程の選手かまだ居たのでしょうか!?』

 

『あぁ、なんということでしょう……!初戦にして、まだ前半だと言うのに、興奮と戦慄が止まらない…………間違いなく、あの円堂ハルと同等かそれ以上の…………サッカーモンスター……!!』

 

 

 

ピッ、ピーーーーッ!!

 

 

 

 

『そして前半終了!とんでもない展開になりました!!化身使い相手に苦戦必至と思われた南雲原は!それ以上のサッカーモンスターを投入し4点差!!京前嵐山、これ以上なく苦しい前半戦となってしまいました!!』

 

 

フットボールフロンティア全国大会、初戦前半終了。

前半結果は4-0、今試合で初出場の黒景流が京前嵐山のサッカーを破壊し、圧倒的な力と点差を見せつけた。

あのゴッドウィンドのゴールによって会場も大いに湧き上がっており、仲間達も高揚している。

 

現に黒景先輩はフィールド上で仲間達にもみくちゃにされていた、確かにあれだけの必殺技でフィニッシュを飾れば興奮するのも無理ないよな。

 

…………対して京前嵐山は立ち尽くす者、膝を着く者、頭を抱えたり呆けてたり、大分可哀想なことになっていた。

 

 

 

南雲原が擁する予測不能の最終兵器、黒景流の最高のお披露目となったのは間違いないだろう。

 

 

 

「部長見てください、SNSはもう彼の話題で持ち切りですよ」

 

「円堂ハル以来のサッカーモンスターが突然やってきたらそうもなりますよ、まぁ彼は気にしないでしょうけど」

 

いつもマイペースでサッカーバカ、自分が1人だろうとどんな目で見られようとも自分のサッカーを貫く、そんな人だ。

 

………………それにしても。

 

 

 

 

 

「…………チームプレー皆無だったな」

 

 

 

 

マイペース過ぎるのも考えものだ。

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

 

 

 

《② そよ風に届くまで》

 

 

 

かつての俺には必殺技がなかった、しかしこれから俺も試合に出る事になる以上………必殺技の習得は必須だった。

笹波とも協力して俺の必殺技まずは2つ作った……最初の技は俺の初めてのオリジナル技《デスサイズ》

 

次に風穴ドライブとゼロヨンを掛け合わせた奥の手である《マッハドライブ》

 

ここまでは順調だった、しかし最後のひとつはかーなーり苦戦と苦心を強いられた。

 

 

 

 

その技の名は…………《ゴッドウィンド》

 

 

 

 

俺が知る限り、あの人の必殺シュートの中で最高の威力を誇る…………筈だ、直感だけどもう1つ上の必殺技を持ってる気がしなくもないけど…………俺はこれをどうしてもモノにしたかった。

 

言うまでもないが今の俺じゃどう足掻いてもあの人の足元にすら及ばない、あの時だってあの人は楽しんでたけど全力のぜの字も無かった筈だ。

 

真似にはなってしまうが、あの人に追いつくための入口としてこの技をどうにか習得して俺の必殺技にしたかった………………が、やはりと言うべきか簡単じゃ無かった。

 

笹波とも協力してゴッドウィンドを完成させる為奮闘したけど…………形にはなっても威力は話にならなかった。

 

 

『はぁ、はぁ…………だぁめだぜんっぜん手応えないわ』

 

『外から見ても分かりますよ、ていうか……先輩がそんなに疲れる姿を見るのは初めてですね』

 

部活後、笹波と残ってゴッドウィンドの鍛錬を積んでいる日の事…………俺はグラウンドに仰向けになって笹波は俺を静かに見下ろしていた。

 

初めて1週間強、見えるのは片鱗だけ…………どうにも完成へのビジョンが当時は見えてこなかった。

 

『くっそー………楽じゃないのは覚悟してたけどこれ程かぁ、やっぱすげーな……あの人』

 

『それはそうですが………先輩、言い方は良くないんですけど、この技に拘る必要ありますか?』

 

『えぇ?』

 

『確かにゴッドウィンドは超強力な必殺技です、習得すればタダでさえオーバースペックな黒景先輩は更なる力を付けられる上にチームの力も飛躍的に上昇します、でも先輩なら他の必殺技でも同じ事が言えると思うんです、もう少し難易度を下げてもいいんじゃないですか?』

 

『うーん…………でも悪い、どうしてもこの必殺技だけは譲れない』

 

『何故です?』

 

『………どういえば言いか…………昔あの人とまたいつの日かサッカーしようぜって約束がいつかの未来に来るとしたら、俺は今よりもっと強くなりたいと思う…………そしてこの必殺技は俺をその未来まで導いてくれる気がする、だからどんだけ難しくても絶対諦めたくないんだ』

 

『黒景先輩…………』

 

『それに俺、今めちゃくちゃ楽しんでるんだぜ』

 

『え?』

 

『こんなに難しいくて思い通りにいかないのってすげー久々だし、笹波とこうして必殺技の特訓するのがさ』

 

『………………そういうとこですよ』

 

『何が?』

 

『いえ、でもそこまで言うなら何も言いません、但し大会までゴッドウィンドが完成しなさそうになったら、また別の必殺技を習得してもらいますからね』

 

『わかったよ、とりま再開するか』

 

 

 

それからも特訓は続いた、何十何百とボールを蹴り続けた、大分ハードだったけど俺はそんな状況すら楽しく思えた。

必殺技なんて今まで完成したこと無かったし、これから俺もやっとサッカー出来ると思うとじっとしていられなかったから。

 

 

…………とはいえ簡単には完成しないのが現実だった、何か足りないモノがあるのだと薄々思っていたが、どうにもそれに気付けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……………ある日の夜にまで時間は過ぎる。

その日は、まぁなんやかんやあって、俺は母さんに家に追い出されて風が吹き荒れ大雨が降りしきる海沿いの公園でサッカーをしていた。

 

 

「うおぁぁぁぁ!!」

 

 

ドリブルすれば雨で濡れて思うようにいかず、油断すれば風でボールは何処かに吹き飛ばされかける。

ていうか俺がまず思うように動けてない、全身を覆うレインコートを着ているが雨水の量が殺人的過ぎてほぼ意味を成さない、オマケに汗も流れているし。

 

流石に海から離れてはいるが、遠目で見てもかなり荒れている、やっぱ母さんは鬼なのでは?

 

「くっそぉ、ちょ、勝手に行くなっ」

 

何故こうなった?いやアレは100俺が悪いのは何となくわかるけど、まさかこうなるとは思わなんだ…………いや言ってる場合じゃない、大雨に打たれて強風に晒されて身体が今にも倒れて吹っ飛びそうだ、こんな状況下でのサッカーなんてはっきり言って自殺行為だろマジで、一瞬アリか?なんて思ってた俺はバカでした。

 

 

 

 

 

うぅっ、やべぇ………………でも………………そうだな…………。

 

 

 

 

 

「(この状況での特訓は…………ゴッドウィンドのヒントに繋がったりする、か?)」

 

危険な状況でも、俺はあの必殺技の事が脳裏によぎった。

もし、足りないものがあったとすれば…………もしかするとそれは、自分をよりギリギリまで追い詰める様な状況かもしれないと。

 

普段の特訓も詰めているが、これだけ特訓に不向きな状況で試した事はない、今も身体に負担が掛かりまくってサッカーどころじゃないけど………………。

 

 

「(あの人、は、どんな特訓を重ねて、たんだろ)」

 

 

彼は紛れもなく俺の知る中で最強のかいぶつだ、そんな人ですら必殺技の完成に苦心する時はきっとあった筈だ。

それは、今の俺のようにとんでもない逆境下でのことなのだろうか、若しくはそれ以上だったりするのだろうか。

 

何れにせよ、あれだけの実力…………並大抵の事で得られるもんじゃないのは確かだ。

 

 

 

あーー、だとしたら、俺はやっぱりまだまだなんだろうな。

 

 

 

 

 

全く………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいな、それ………………」

 

 

何故か、口角が緩んできた。

未だに激しさをます天候の中、俺はかなり身体へ負担がかかっている、脚でサッカーボールを抑えるのも結構キツイくらいには。

 

でもココロは燃えている、やれると囁いている。

折れるつもりはない、折れてなんかやらない、目の前に壁があるということがどれだけ昂るものなのか、俺は今それをようやく実感している。

 

「楽しいな、やっぱサッカーは…………!!!!」

 

風はより激しさを増す、雨はさらに降り注ぐ。

身体中に更なる負荷を感じながらも、俺は飛ばされそうになるボールをより力を入れて留める。

 

 

しかし流石に疲労は隠せない、視界が雨水と共に霞んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、だった。

 

 

 

 

 

「………………ぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻覚、なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だってここにいる訳が無い、何故ならそこに居たのは。

 

 

 

 

俺がまさに憧れてやまない人の、後ろ姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ…………ぁ」

 

 

 

 

脚が、動きだそうとしている。

身体に、力が込み上げる。

 

 

追い付き、たい。

例え、遠くても、幻でも、そこへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、目が合う。

 

 

 

 

 

 

 

その幻と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、雷が一瞬曇天に迸り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッーーーーーーーァァッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

俺は湧き上がる力と共に、ボールと共に駆け出した。

その時、サッカーボールには今までにない力が込められていたのだ。

 

 

 

 

 

 

遠く離れたその後ろ姿に届きそうになる。

 

 

 

 

しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っあっ、ぐげっ!!?」

 

途端に力が抜けて、俺は勢いよくコケて転がってしまう。

ボールも同時に転がってゆき、適当な場所に当たって留まった。

 

 

 

 

 

「っぁっ!はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

 

 

仰向けになり、力の入らない身体と共に曇天を仰ぐ。

 

呼吸を整え、雨に濡れて重い上半身を起こし、辺りを見渡す。

あの人の姿はどこにも無かった、色んな状況が重なって見えてしまったモノだと思う………………でも、そのおかげなのか、さっきの衝動任せの動きに…………強い実感を得ていた。

 

「………………掴めた、かもしれない」

 

両の手を見つめて、静かに握り締める。

今まで足りなかったナニかが今この身体に刻まれている、それが何かは言葉に表せないけど…………とにかく今なら、ゴッドウィンドが完成させられるのかもしれない。

 

そう思うと俺はいてもたってもいられず、ゆっくりと立ち上がりボールを拾う。

 

「…………へへっ」

 

やっぱ、楽しいよな、サッカーは。

そう思いながら…………俺は風にのるように蹴り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、ゴッドウィンドは完成へと至った。




黒景流
サッカーバカ極まれり、とりあえずサッカーの事ならなんでも楽しむマイペースバカ。
イマジナリーなあの人が現れゴッドウィンドが完成する、マッハドライブは既存技の組み合わせだがデスサイズだけは原型のないオリジナル技である。

余談だが最近のブ〇ロで出てきた新キャラのドリブルが主人公のイメージと合致してました。


笹波雲明
ぶっちゃけこの人ならこれだけやれるだろーなとずっと見ていました。
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