ヘルガ・ハッフルパフと不思議な国の猫   作:桜日和

3 / 9
始まる共同生活

ヘルガの家は、森の端にひっそりと建っていた。

丸い屋根、土壁、煙突からはやわらかな香りの白い煙がのぼっている。

 

中は広くはないが、どこまでも暖かい。

 

机には乾いたハーブ。

棚には薬草の瓶がずらりと並び、

木製の床にはヘルガの好きな黄色いラグが敷かれていた。

 

チェシャ猫はというと──

 

(……悪くない)

 

部屋の隅を嗅いで、飛び、すり抜け、しまいには暖炉の前で丸くなった。

 

「気に入ったみたいね」

ヘルガが笑う。

 

猫は鼻先だけ振り返り、

「別に」と言いたげにそっぽを向く。

 

――だが、その尻尾の先は明らかに機嫌よく揺れていた。

 

ヘルガは薬草を刻みながら、ふと振り向く。

 

「チェシャ猫。

あなた、魔法は使えるの?」

 

猫は片目を開ける。

 

「一応使えるが……」

 

ヘルガは興味深そうに近寄る。

 

「見せてもらえる?」

 

猫はため息をひとつ。

わざとらしいほど「仕方ないな」といった顔をして前足を上げた。

 

その爪先から、

ふわり、と光がこぼれる。

 

次の瞬間──

机の上の薬草がひとりでに生え揃い、香り高く新鮮な姿に戻った。

 

ヘルガは思わず両手を口に当てた。

 

「植物再生魔法……?しかも、種類ごとに最適な状態に……!」

 

猫は胸を張る。

 

(ふふん、植物系とか料理の下準備なら得意だしな)

 

「すごいわ、あなた……本当に珍しい魔法生物ね」

 

ヘルガは尊敬を隠さず言った。

 

今度はヘルガが小さく杖を振り、違う魔法を見せる。

 

「わたしも、あなたに役立つ魔法を教えてあげるわ」

 

宙にやわらかな黄色い光が広がる。

 

すると暖炉の火がふわっと大きくなり、

部屋全体が一段階温かくなった。

 

「これは“守護の魔法”。

人を傷つけるためじゃなく、

寒さや怪我、恐怖から守るための魔法よ」

 

猫の耳がぴくりと動いた。

 

その魔法には、敵意の匂いがまったくなかった。

 

(・・知り合って間もないけどこの子らしい)

 

そう思った。

 

ヘルガは続ける。

 

「あなたみたいな子なら、きっと、護りの魔法も使えるはずよ」

 

猫は小さく瞬きをした。

その瞬きには、わずかな照れと、くすぐったさが混じっていた。

 

「・・・教えてくれ」

 

ヘルガはにっこり笑う。

 

「もちろん。あなたがここにいてくれるなら、いくらでも」

 

その夜──

暖炉の灯りの下で、

ヘルガとチェシャ猫は向かい合って座った。

 

ヘルガが教える守りの魔法。

チェシャ猫が返す、野菜や果実を育てる魔法、調理魔法。

 

お互いの得意を交換するように、

ぽつぽつと言葉と魔法が行き交う。

 

猫は思う。

 

(……こんな風に、誰かと魔法を交換する日が来るとはな)

 

ヘルガは思う。

 

(この子は、怖がりで、強くて……そして、とても優しい)

 

そして気づけば、小さな家の中に、二人だけのぬくもりが満ちていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。