ヘルガ・ハッフルパフと不思議な国の猫   作:桜日和

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集まった4人と1匹

 

ヘルガが大怪我を負ってから数日がたち、ようやく魔力も体力も戻った。

まだうっすらと傷の名残が疼く瞬間があるけれど、こうして庭に立って風を浴びると、やっと日常が戻った気さえした。

 

けれど――そのささやかな感覚はすぐに現実に引き戻される。

 

元の村の空気は相変わらず不穏だった。怯えたように閉ざされた扉、ささやかれる声、人間たちの恐怖が怒りへ形を変え、魔法族への非難として膨れ上がっていく。

 

チェシャ猫が庭ごと転移してくれたおかげで薬草は無事だった。

ヘルガは葉を摘みながら、静かに考える。

 

どうすれば魔女狩りは終わるのか。

 

「・・・やっぱり、私たちだけじゃ止められないわよね」

 

となりで丸くなっていたチェシャ猫が、片目だけ開く。

 

「当たり前だ。恐怖と愚かさは底知れないものだからな」

 

「だから、私たち以外の協力者が必要だと思うの。優秀で、私たちの考えを理解してくれるような仲間が・・・!」

 

ヘルガの声は揺れているのに、不思議と凛としていた。

 

チェシャ猫はため息をついた。

ヘルガの“こうと決めた”表情は止められない。

 

「それで?誰を頼るつもりだ」

 

「魔法族が集まるカフェで噂を聞いたの。呪文構成の天才ロウェナ・レイブンクロー、勇敢なゴドリック・グリフィンドール、それから魔法薬学の天才サラザール・スリザリン・・・まずはこの人たちを当たってみるつもりよ」

 

チェシャ猫は耳を伏せた。

 

「・・・聞くだけで胃もたれしそうなメンバーだな」

 

ヘルガはふふっと笑う。

 

「会ってみないとわからないわよ。意外と話が合うかもしれないわ」

 

「能天気」

 

「もう、本当に失礼な猫ね」

 

 

石造りの塔のような邸宅。扉を叩くと、ひんやりとした魔法の風がふっと吹き付けた。

その冷たさは、まるで家そのものが来訪者を選別しているようだった。

 

現れたのは、鋭い瞳に黒髪を流した、精巧に作られた彫像のような美女。

その姿だけで空気が張りつめる。

 

ヘルガが名乗るより先に、ロウェナは見透かすように言った。

 

「あなた達が来るのは見えていたわ。ヘルガ・ハッフルパフ。人助けばかりしている“お優しい魔女”だとか」

 

「それから、魔女に対して礼儀も知らない猫」

 

チェシャ猫の毛がぶわっと逆立つ。

 

「なんだその言い方は。気に入らねぇ」

 

ロウェナは眉ひとつ動かさない。

 

「魔女狩りの話をしに来たのでしょう?私の研究を中断して関わる価値なんてないわ」

 

ヘルガの言葉もろとも斬り捨てるような態度に、チェシャ猫が吠えそうになった瞬間、ヘルガがそっと尻尾を押さえた。

 

「そんな・・・でも、あなたの力が必要なのよ」

 

「知ったことじゃないわ。さぁ、帰って。時間の無駄よ」

 

冷たく突き放され、ヘルガは小さく頭を下げた。

 

「Ms.レイブンクロー。気が変わったら、ぜひ力を貸してね。・・・行きましょう、チェシャ猫」

 

「なんだあの女!あんな失礼なやつが猫に礼儀を説くな!」

 

ヘルガはふふっと笑う。

 

「彼女の知識は必要なのよ。でも・・・そうね、時間がかかりそうね。次はゴドリック・グリフィンドールのところへ行きましょう。正義感が強いって聞いたし、きっと話は合うわ」

 

「・・・期待しないでおくよ」

 

 

赤い布が揺れる、暖かみのある大きな屋敷。

 

控えめにノックをすると、扉の向こうに炎のように明るい笑顔の青年が立っていた。

 

「ようこそ!ヘルガさん、だよな?」

 

ゴドリック・グリフィンドールは決闘の跡を残す逞しい体で、話を聞くなり勢いよく立ち上がった。

 

「魔女狩りだって?そんなの黙って見てられるわけないだろう!もちろん俺も行く!」

 

「ありがとう!あなたならきっとわかってくれると思ってたわ!」

 

「ノン!俺のことはゴドリックって呼んでくれ!」

 

勢いに押されながらも、ヘルガは微笑んだ。

 

「じゃあ、よろしくね。ゴドリック!」

 

しっかりと握手を交わす2人。

チェシャ猫は呆れながらも、ヘルガの明るい笑顔を見て心のどこかが少し温かくなる。

 

「・・・単純な奴だな」

 

 

次の家は薄暗い森の奥、黒い蔦に覆われた屋敷。

 

サラザール・スリザリンは静かに扉を開け、冷たい瞳で二人と一匹を見下ろした。

 

事情を説明し終えると、彼は退屈そうに言った。

 

「魔女狩り?捕まるのは無能な魔法使いだけだ。私にメリットがないな」

 

チェシャ猫は立ち上がる。

 

「この――」

 

「待って、チェシャ猫」

 

ヘルガが制し、スリザリンは初めて興味深そうにチェシャ猫を眺めた。

 

「喋る猫・・・知能も高いようだ。何ができる?」

 

「お前ができることなら大抵できるさ」

 

「落ち着いて、チェシャ猫。あの、この子は結界魔法や治癒魔法が得意なの」

 

「ふむ。魔法薬学に使えそうだ。ではお前の唾液や体毛を提供するなら協力してやろう」

 

「・・・は?」

 

「何も臓物をよこせと言っているわけじゃない。良心的だろう」

 

「何でお前に――」

 

「もちろん、OKよ!」

 

ヘルガが元気よく答えてしまい、チェシャ猫はその場で固まった。

 

スリザリンは満足げに握手を交わす。

 

「ふっ、交渉成立だな」

 

 

スリザリンにロウェナの話をすると、彼は紙の山から手紙を取り出した。

 

『あなたといつか魔法薬学について話し合いたいです ロウェナ・レイブンクロー』

 

「ファンレター?」

 

「私が論文を出すたびに質問を寄越す人でね。ふむ・・・使えるな」

 

翌日、2人と一匹でロウェナの邸宅を訪れると、彼女はスリザリンを見て瞳を大きく揺らした。

 

「あなた・・・本当にMr.スリザリン?あの論文を十五本書いた・・・?」

 

憧れの人を前に、態度は一変して熱を帯びている。

 

スリザリンもどこか誇らしげに言う。

 

「いかにも」

 

「Oh!!!もちろん私も協力させてもらうわ!」

 

チェシャ猫は毛が逆立つのを感じた。

気に食わない奴と気に食わない奴が仲良くしている・・・ますます気に食わない。

 

しかしヘルガは心の底から安堵していた。

 

「こほん。・・・あなたたちの話、聞きましょう」

 

ロウェナは部屋の中に案内し、やっと四人がそろった。

 

チェシャ猫は小声でぼそり。

 

「最初からスリザリンを誘えばよかったじゃないか・・・」

 

 

後日、グリフィンドール邸宅。

 

ロウェナが地図を広げ、ゴドリックが拳を鳴らし、スリザリンは集めてきた資料を整え、ヘルガは温かい茶を配る。

 

チェシャ猫はテーブルの端で尻尾を丸め、彼らをじっと見ていた。

 

誰も気づいていなかったが・・・

その表情は、ほんの少しだけ柔らかかった。

 

こうして、魔女狩りを止めるための“最初の作戦会議”が始まった。

 

後に“ホグワーツの創設者たち”と呼ばれる四人と一匹の、最初の夜だった。

 

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