愛を求める半端者 作:とぅる子
ピピピピッ!ピピピピッ!
暗い部屋から朝のお知らせを伝えるスマホのアラームが鳴り響く。
「…んん」
モゾモゾとベットの上にある大きな饅頭のようなものが動く。すると中からゆっくりと腕が伸び、うるさく鳴っている自身のスマホを手に取ってうるさいアラームを止めた。そしてついでに現在の時刻を確認する。
2月26日
5:30
日付と時間を確認し、くるまっていた毛布からモソっと人が出てきた。
その人…もとい少年は重い瞼を摩りながら、まだ覚醒しきっていない脳をなんとか動かす。
「26日…あぁ、そういえば今日入試だった」
むにゃむにゃと何かつぶやきながら、少年はおぼつかない足取りで身支度を整えるためシャワー室へと向かった。
2月26日
この日は全国からヒーローを目指す中学生にとって、とても大事な日だ。
【雄英高等学校】
国立の学校で、偏差値79という超エリート学校。
偉大なヒーローには雄英卒業が絶対条件と言われるほど、ヒーローになるための登竜門として認知されている。
2月26日である今日は、その雄英高校の一般入試が行われる日だった。
「…行くか」
首元にひとつのペンダントを、右耳には黒いリング型のピアスを付け、少年は誰もいない家を出た。
さすが名門というべきか、視界に映る中学生がみな、少年と同じ雄英高校へと向かっている。ぶつぶつと最後まで勉強している者や緊張を紛らわせようと友達と会話する者など、人が多いゆえにいろんな会話がされていた。
だが、少年の姿を見るや周りの話題は一つのものへと変わっていった。
「ねえ見て、あの子も受験生なのかな?めっちゃ可愛くない?!」
「背高くてスタイルいいし、少しクールっぽい雰囲気が超いいね!どこかのモデルさんとかかな」
「なんかあの
「高身長クール美女とか俺スゲータイプなんですけど!」
「てか足長すぎね?股下いくつだよ?」
すれ違うたびにコソコソと話されては、その容姿を観察される。
やや猫ッ毛のある銀髪は肩まで伸びており、宝石のような碧眼に顔のパーツはまるで人形のように整っていた。すれ違う者に聞けば100%美少女と答えるだろう。
190㎝を超えるモデル体型で容姿端麗の学生は、その嫌でも気づく視線をどう感じているのか。
(…うっさ)
若干の怒りが込められた心の声は外には漏れていなかったが、にじみ出るオーラまでは隠すことが出来なかった。
まあいくら日常茶飯事とはいえ性別を間違えられるのは誰しも良い気はしないだろう。
そんな件の美しい少年は歩くスピードを速め目的地へと向かった。
(ここが雄英、さすがにでかいな…ん?)
雄英高校の校舎を眺めていると、彼のスマホから通知を知らせる振動が響く。送ってきた相手の名前を確認すると、現在少年の親代わりとして一緒に暮らしている人物の名前だった。
香山睡
『おはよう!
今日はいつもより早く学校に行かなくちゃいけなかったから寄れなかったけど、ちゃんと眠れたかしら?
貴方の事だから緊張していないだろうけど、一応確認ね。
あまり長くしても読まないだろうから一つだけ。
楽しんできなさい!
雄英の制服を着た貴方が見れることを楽しみにしているわ!
頑張ってね!』
送ってきた相手は、訳あって少年の面倒を見ているプロヒーローである。
世間では彼女のヒーローコスチュームが少々セクシーすぎて18禁ヒーローなんて呼ばれている。
少年は短く『ありがと』とだけ返事して、すぐにスマホをしまう。
そしてもう一度雄英の校舎を見上げると、ギュッとペンダントを握った。
(朝日、日向…お兄ちゃん頑張るからな)
気合を入れた少年は試験会場へと向かった。
「今日は俺のライヴにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!」
現在、雄英高校は一般入試の筆記試験が終わり、これから行われる実技試験の概要をボイスヒーロー〈プレゼント・マイク〉が直々に説明していた。
試験内容はいたってシンプルであり、各々の演習場で
受験生全員が話を聞き配布プリントにメモを取ったりして真剣に試験に臨もうとしている中、ある生徒が勢いよく挙手をした。
「プリントには
いかにも真面目です!というような眼鏡をかけた少年が、その場に立っては会場に響く大きな声で質問した。
そしてその眼鏡の少年は質問だけではなく後ろの席を指さすと
「ついでにそこの縮れ毛の君、先ほどからボソボソトと…気が散る‼
物見遊山のつもりなら即刻、
注意された緑色のモサッとした髪型の少年・緑谷出久は「すみません…」と口を押え謝る。
彼は極度のヒーロー好きなため、プロヒーローのプレゼント・マイクの登場からずっと興奮が収まらず声に漏れてしまっていたようだ。
「そしてそこで伏して寝ている君もだ!冷やかしに来ているのなら他の受験生の邪魔だ!即刻出ていきたまえ!!」
眼鏡少年は緑谷とは逆方向の方へと指をさし注意する。
それにつられて他の受験生もその注意されている子へと視線を向けた。
隣に座るオレンジ髪をサイドテールに結んだ女の子がさすがにまずいと思ったのか、トントンと件の受験生を起こす。
肩をトントンされ気が付いたか、やや猫ッ毛のある綺麗銀色の長い髪をもつ頭がゆっくり上がると、そのあまりの美形さに見ていた受験生は見惚れていた。宝石のような空色の眼と人形のように整った美少女はまだ眠気の残る瞼を摩っていると、なぜか複数の視線を感じ目を開く。
思わず誰かが「かわいっ」と声を漏らした。
「…あぁ?何見てんだ」
((口悪っ!!?))
眉間にしわが寄り、クソでも見るかのように下の席の受験生を見下ろす。
寝起きの悪いこの美少女…によく間違われる少年の名は
「そこで寝ていると他の受験生の邪魔になると言っているんだ!妨害目的なのか知らないが、やる気がないなら出ていきたまえ!」
「邪魔になっているのはお前だろう?委員長もどき」
「なっ!?ぼ…俺のどこが邪魔になっているというんだ?!」
「今この時間がだよ。お節介なのかよほどの自信があるのか知らないが、なぜわざわざ他人の俺を起こす?ライバルを一人でも減らしたい奴からしたらそれは邪魔だろ。
んでその質問、配布されたプリントを見ていたらわかると思うが、A,B,Cの仮想敵にはポイントが振られている。だがDのポイントは0。この試験がポイント稼ぎなら妨害敵がいてもおかしくないだろ」
「た、確かにその可能性もあるがこれは試験だ。間違いがあるのなら修正し、みな正しく平等な条件で受けなければいけn「そもそもそこがおかしいんだよ」…なんだと?」
「ここが普通の高校受験ならお前の言い分は確かに正しい。だが、ここは雄英で俺たちがこれからなろうとしているのはヒーローだ。ヒーロー活動には明確な答えがない。限られた情報をもとに自分自身で仮設を立て最善の策を考え、実行する。ミスは許されない。そんな緊張感を常に抱えながらこの平和を守らなければいけないのがヒーローだ。そういう存在になろうとするやつが確実な情報を簡単に求めるな。敵が情報を簡単にくれるわけでもない、考えることをやめたら救える命など0に等しいだろう。…まぁそのお節介さはヒーロー向きなのかもな」
邪魔してすみません。と天音はマイクのほうに一言入れる。
マイクは相変わらずのハイテンションで二人にサムズアップすると眼鏡君の質問に答えていた。
Dの仮想敵は天音の言った通りお邪魔虫で倒しても意味のないギミックだということ。
そして試験の説明も終わり、最後にプレゼント・マイクから校訓のプレゼントが贈られる。
「かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!
【真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者】と!
“Plus Ultra”その言葉を聞いた全受験生が何か不思議なプレッシャーに圧されたのかゴクリと固唾を飲んだ。
(“
説明会場を出て、受験生は各々実技試験用の服装に着替えを済ませ割り振られた演習場へと向かった。
天音の服装は全身黒のジャージといういたってシンプルな物だ。
特に緊張している様子もなくぼーっとしている天音のもとに声をかける女の子がいた。
「ね、ねえ…」
「ん?お前は…誰?」
天音は声がして方を振り向くと、耳たぶがプラグのようになっている、三白眼が特徴的な女の子が少し緊張気味な表情をしながらこちらを見ていた
「あ、突然話しかけてごめん!うちの名前は耳郎響香。この中で一番落ち着いてる感じがしたから、なにか緊張を抑える秘訣みたいなのあるのかなって気になっちゃって…。邪魔してごめん」
「響香ね、俺は帳弥天音。別に邪魔になってないからそんな謝んなくていい。ただ、なにもすることないし、良い天気だから眠たくなってぼーっとしてただけ。だから気にするな」
「そっか、ありがと。というか眠たくてって…そういえばさっき説明受けてる時も寝てて注意されてなかった?」
「…ああ、ある程度試験内容がわかったし、特に聞く必要性も感じなかったから。なにより朝早くて寝不足だったし」
天音の話を聞いて「えぇ…」と若干引いたような顔をした耳郎は、先ほどの説明会会場でめがね君と話していた時のピリッとした雰囲気と、どこか違うことに気づき、気になったのか天音に聞いてみた。
「あぁ、あれは…ただ急に起こされたから、イラっとしてつい。…良くなかった」
「帳弥は寝起きが悪いんだね…」
あはは…と苦笑いを浮かべる耳郎は、いつの間にか緊張が抜けていることに気づき、なぜだか急に恥ずかしくなっていた。
異性の男の子だとはわかっていながらなぜか落ち着いている自分というのが初めてだし、何より天音のこの圧倒的な美の主張が耳郎にとっては刺激が強かった。
そんなこんなで勝手に恥ずかしがっている耳郎は、ちらっと天音の顔を見上げると、天音のある変化に気づいた。
(目が青く…光ってる?)
どこかをジーっと見ていた天音の綺麗な蒼眼がどこかきらきらと光り輝いているように見えていた。
何をそんなに見ているのだろうかと、天音と同じ方向を見るも特になにも異変がないため話しかけた。
「何をそんなにジッと見てんの?」
「…響香は向こうを見てなにか思わない?」
「みんな緊張してんね?それがどうかしたのって、…なにその微妙な顔」
「いや、なんでもない…」
「?…まあいっか。それにしても他の人の緊張してる顔見たら、なんだかまたうちも緊張してきちゃった…」
深呼吸をしてなんとか緊張を和らげる耳郎。一方、天音は気まずそうな表情を浮かべては手で顔を覆い溜息を吐いた。
(なんであいつ
目をつぶり一度深呼吸をする天音は、高い建物に人の気配を感じると、トントンと靴を軽く地面に叩く
「帳弥、急にどうしたの?」
「試験が始まるぞ、響香」
「え、それってどういういm「ハイ、スタートー!」…ん?ねえ今」
先ほどの天音の言葉と微かに聞こえた声に疑問を抱く耳郎は天音の方へと振り返る。
その視線の先にいるはずの男の姿は、もうなかった。