愛を求める半端者 作:とぅる子
「おい!急いで予備のロボをD会場に送れ!あるだけ全部!」
「はぁ!?何いってんだよ、他の会場の分もあるんだ!全部は無理だ!」
「こっちは
「…はぁぁぁぁ!?」
時は少し遡り、ここは試験会場【市街地D】。
試験監督であるマイクの試験開始を告げる小さな合図を聴き逃さなかった天音は、どの会場の受験者よりも早く、試験へと望んでいった。
「あぁ、なるほど。ポイントが高い分、ロボの攻撃力も上がってんのか。ウケる」
一先ず目に見える範囲のロボを速攻で破壊した天音は、まずは高台を取るべく建物を飛び移りながら高層ビル屋上へと移動していた。
「…他の奴らはかけ出すの遅いな。響香はおそらくあの変化した耳の形的に聴覚に優れてるっぽい。動き出しが他よりわずかに速かった。まあまあ話しちゃったし、俺のせいで落とさないよう配慮するか。あと良いもん見せてくれたお礼に真裸痴女も気にしとくか。この試験と相性悪そうだしな」
スタート地点をくつろぎながら眺めて他の受験生を観察していた天音。それから簡単に周囲を観察していくと、所々にカメラが設置されていることに気づき、そこからこの試験の目的をなんとなく理解した。
「…
手を拳銃の形にしてその人差し指の先を試験会場ギリギリに建つ遠くのビルへと標準を合わせた。
「広く使おう。鏖殺だぁ!」
指先に赤黒いエネルギーが収束していき、それは射線上の全てを破壊する太い光線へと変わり放たれた。
鈍い音を奏でながら放たれたその光線は一瞬で標準を合わせたビルを破壊した。
派手な爆発でたくさんの瓦礫が空に舞う。
いくらスタート地点と離れていてもこのままでは瓦礫の雨が試験会場に降り注いでしまう。
だが、天音はそれを気にせずに眺めてはニッコリと満面な笑みを浮かべて両腕を大きく開いた。
「(呪力消費を一時的に10倍。その代わり、一度に複数の対象を選択)…これだな。さあ、ロボの補充は間に合うかな?」
たった一度、大きく手を合わせて音を奏でる。
いわゆるただの拍手。ただ、その一度のただの拍手が、のちに多くの雄英教師陣を大慌てにさせる。
空に舞ったいくつもの瓦礫が、一瞬にして全て敵ロボへと変わる。
たった一度の拍手で、D会場に配置された敵ロボットの総数、その
「(他の奴らには当たらないようにしながら入れ替えた。被害はゼロ。数は会場のほぼ半分を減らした。数を出さなきゃ他の受験生の分はない)…さて、どう出る?」
破壊されたロボが確実に壊れた瞬間、会場のいたる場所から敵ロボが出現される。
数は破壊された分と同等。それをすぐに感じ取った天音の表情は相変わらず笑顔のまま。
また同じ方法で半分ほどの敵ロボを破壊すると、また同じ数補充された。
「ほら、頑張れ頑張れ!」
それを3度繰り返す。すると、補充された敵ロボの見た目が同じポイントの物とわずかにだが変わっていた。
装甲が少し減っていたのだ。
ここまでですでに天音の獲得したポイント数は歴代の一位を大きく上回っていた。
これ以上やっても無駄だと察した天音は、敵ロボの破壊を一旦やめて他の受験生の観察へと切り替えた。
「(響香はまあ順調か。痴女は少しだけ見えたが、透明で見えないことを良いことにうまく装甲の薄いところを破壊してた。他の奴らもまあまあか。…へぇ、あのサイドテールの女、拳をデカくできんのか。構えも悪くない、経験者かな。それに、時折怪我人を見つけては助けてる。軽く指示も出してるからあいつは受かるな)…お邪魔ロボが来るまではお休みだな。なら次の手」
天音の身体がメコメコと蠢くと、ボトッと肉体の一部が溢れ落ちる。
するとその溢れ落ちた肉体がさらに分裂し形をなしていく。
「怪我人を見つけて手当てしろ。見かけたロボはいい感じな奴らが倒すなら良いがそれ以外なら自分で壊せ。
「早く終わらせて昼寝でもしよ」
「これで怪我するってヒーロー目指す以前だろ」
「戦闘経験ない奴が多いんだから仕方ないだろ」
「ほらほら、さっさと行って来な」
「「「はいはい」」」
天音と全く同じ姿の人物が3人現れると、それぞれの方向へと散っては命令された通りに怪我人を探して手当てしていく。
その光景を相変わらず上から眺める天音は、他に腕のいい受験者がいないか、面白い個性がいないか観察するのだった。
天音が観察を始めてしばらく経ち、突然会場全体が大きく揺れた。
まるで地震のようなその大きな振動は徐々に大きく激しくなると、突如地面が割れて中から巨大な敵ロボが這い出てきた。
大きさは大体50mほどだろうか、そんな巨大敵ロボを天音はジッと見つめていた。
「なるほど、これが何千体も列になって向かってくるのは怖いかもな。俺もエレンみたいに巨人操れるならこんな世界、地鳴らししちゃうかもな。…なんておふざけは置いといて、本命が来たし。…やるか」
その巨大敵ロボは説明にも出ていた0ポイントロボ。ただのお邪魔虫だった。
それを理解した上で、天音はその場に立ち上がると、グッと体を伸ばす。
「最初から潰すのは面白くない。他のやつがどう動くか観察してみようかな。…っと、やっぱ逃げるか。いくらお邪魔ロボだからって仮にも敵だろ。敵を前に背を向けるってのは、果たしてヒーローと言えるのかね。…あぁ、やっぱ優秀だったかあの子ら」
天音の視線が下の方へと移る。お邪魔ロボがその大きな身体で暴れ回り、それによって起きた瓦礫や倒壊などで怪我人が続々と現れる。
そんな被害が拡大していく中、先ほどまで天音が評価していた響香、真裸痴女、サイドテール少女が各々の個性をうまく使って避難誘導や怪我人などを救出していた。
右手でそっと首にかけられたペンダントを撫でる。
すると、お邪魔ロボがその3人を標的にしたのか、巨大な拳を3人めがけて振り下ろす。
3人はその攻撃に気づくも、その巨大さゆえの攻撃範囲と、純粋に恐怖で足が動かないことで逃げ遅れてしまった。
このままでは確実に殴り潰される。
思わず目を瞑った3人の耳に、パァンッ!と大きな破裂音のようなものが聴こえた。
「流石に死にはしないだろうけど、この3人は頑張ってたからこれ以上の怪我はさせられない。試験時間もあと僅か、いい加減飽きてきたし。…試し撃ちさせろよ」
いつまで経っても衝撃が来ないばかりか、突然聴こえた落ち着く声が気になり、ゆっくり目を開けた3人。
そんな彼女らが見た光景はあまりにも衝撃的なものだった。
それは、お邪魔ロボの巨大な拳を片手で軽く受け止める天音の姿だった。
「と、帳弥!?あんたいつの間に!?」
「さっきぶりだね響香。試験、なかなか良い動きだったよ。それにそこのちj…じゃなくて、透明少女とサイドテールの子も。こいつは俺が貰うから早く逃げて良いよ」
「あれ!?君はさっき私を
「サイドテールって誰!?…って私か。逃げていいって言っても、君1人でこれをどうにかできんの?」
天音の言葉に透明少女は数少ない装備品である手袋で見える手をぶんぶん勢いよく振って感情表現を出していた。透明人間ゆえに見える部分で存在をアピールしなければいけないからこそのオーバーリアクションなのだろうか、とその光景を見ていた天音。
だが、彼は特別な眼を持っているために彼女の姿はハッキリと視えていた。
オーバーリアクションなために激しく手を動かしているが、それゆえに身体も当たり前に揺れる。
そして彼女は透明人間だからと必要最低限の装備である手袋と靴以外着用していない。
よって、受験の学年である中学3年生の中でも成長期に恵まれたのか、なかなかに育った豊満な胸がその手振りに合わせて揺れていた。
何度も言うが、天音は特別な眼を持っていて、彼女の姿はハッキリと見えている。
なんなら天音から見た彼女は、なぜか裸で手袋と靴だけ着用し胸を揺らすただの変態でしかなかった。
「(そういえばさっき別の俺が助けたな。感覚もあるし記憶もあるから覚えてはいるけど、やっぱ明るいなこの子。透明だからそうならざるをえなかったのか、あるいは)…そうだな、さっきぶり。ああ、1人で大丈夫。ただ、別に逃げなくても良いけど、危ないから俺の後ろに待機してもらえると助かるよ」
「うん!わかった!まだそばにいたいから後ろで見てるね!」
「ん、どうも」
「私も君に何かあった時のために後ろにいるよ。ここにはもう私たち以外いないし、もし無茶したり怪我しそうになったら速攻掴んで一緒に逃げるからね」
「ははっ、それは安心だな」
サイドテール少女がニッと真っ直ぐな笑顔を天音に向けた。
その彼女の笑顔を見て、(姉御タイプなんだな)と見当違いな考えをしていた天音。
そんな彼を少し心配そうに見つめていた耳郎。
「…帳弥、本当に大丈夫なの?」
「無問題。それこそ響香の方が右足首怪我してるだろ。悪化するから後ろで座って眺めてなよ。言うこと聞くなら試験終わりに治してやる」
「っ!?…気づいてたの?」
「明らかに庇ってたからな。重心もズレてるし。だからほら、さっさと後ろ行きな」
「…わかった、ありがと。…あんたのこと、信じるよ」
グッと拳を胸の前で握る耳郎は不安が拭えないのだろう表情を浮かべながら、透明少女とサイドテール少女の手を借りて天音の後ろへと移動した。
それを確認した天音はやっとだと言わんばかりに一度ため息を吐くと、挑発的な笑みを浮かべてお邪魔ロボを見上げた。
「と言うかさっきから不思議だったんだけどさ…」
グッと押さえていた腕に力を入れて全力で押し上げると、そのあまりのパワー故か、お邪魔ロボの体勢が大きく崩れた。
「…なんでお前ら、こんな木偶があたかも強敵みたいな言い方してんだ?」
ギラついた瞳をお邪魔ロボに向けながら、孤を描いた天音の口から小さな呪いが呟かれた。
「…【解】」
瞬間、お邪魔ロボが真っ二つに斬れた。断面が綺麗に見え、ずり落ちていく。
このままだとお邪魔ロボの大きな身体が街に倒れ二次被害が発生してしまう。
当然、そんなことを当人の天音が理解していないわけもなく、後片付けをするための手を準備していた。
「【術式順転・蒼】」
手のひらをお邪魔ロボに向けゆっくりと手を握る。
すると、それに合わせてお邪魔ロボは中心に合わせてその巨大が潰れていく。
バキッ!ボキッ!と荒々しい音を響かせながらみるみる圧縮され潰れていくお邪魔ロボの光景に、天音の後ろにいた3人は言葉を失っていた。
お邪魔ロボだったものが無残な瓦礫玉となって天音たちの前に落ちた
50mはあった巨体は普通の人サイズまで圧縮され、その天音の放った技の強力さが目立っていた。
試験の終わりを告げるアナウンスが響く。
天音は「時間ピッタリだな。試し打ちもできたし良い感じだ」と満足そうにしながら、後ろに控えていた耳郎達へと振り向いた。
「…よし、お疲れ3人とも。よく頑張ったな」
3人へと振り向いた天音は優しく微笑みかけた。
圧倒的な美とも言える綺麗な顔が繰り出す優しい微笑みは、それだけでかなりの破壊力があり、見事にこの場にいる3人もそれにやられていた。
ボンっと顔を真っ赤にして頭から煙を上げる耳郎たち。
天音はそんな彼女達の反応をスルーして、耳郎の下へと近づいた。
「言うこと聞いてくれたお礼。右足見せな」
「ふぇ?…あ!う、うん!」
一瞬惚けて反応が遅れながらも、慌てて天音の指示に従う耳郎。
靴、靴下と順番に脱いでいく耳郎は、若干恥ずかしそうにしながらもその素足を露わにしていく。
白く綺麗な脚だが、足首の一部が痛々しい様に赤く腫れていた。
その耳郎の脚に天音は優しく触れた。
「痛っ!?」
「すぐ治す。安心しろ」
天音の触れた手が暖かいオーラに包まれると、それは薄い膜のように耳郎の足首を包んだ。
「…あったかい」
「それはよかったな」
あっという間に耳郎の腫れが引いていくと、患部の色が完全に他の肌の色と同じになる。
怪我が治ったことを確認すると、天音は透明少女とサイドテール少女の方へ向き直り、一度彼女らの腕に直接触れた。そして今度は先ほど治した時に出した膜を3人全員が包まれるほどの大きさに広げて、全身を治療していく。
細かな傷がみるみる塞がり跡すら残さず消えていく。
「俺の治癒は一度対象に触れないといけなくてな。…っし、これで傷跡もなく全快できただろ。流れた血は戻んないから、ふらつくようなら鉄分取れよ。んじゃ、俺は終わったしもう行く」
あっという間に綺麗になった身体に3人は驚く。そんな彼女たちを眺めながら天音はゆっくり立ち上がりその場を去ろうとした。
「…っん?」
突然がくりと身体が止まった。
その原因を見ると、仲良く三人が天音の袖を掴んでいたのだ。
思わず頸を傾げて説明を求めるように3人に視線を送る。
「せ、せっかくだからさ!」
「怪我を治してくれたお礼もかねて!」
「私たちとこの後どっかでご飯でもどう…かな?」
透明少女、耳郎、サイドテール少女が順番に話す。
いつの間にこんな息ぴったりなことを…と内心呟きながら、この後の予定を思い出す。
同居人は今日帰りが20時過ぎるって言っており、晩御飯をそれに合わせて作るため、時間に余裕はあると結論付けた。
「…わかった。かわいい子らからの誘いは断るなって家の奴に言われてな。暇だしお邪魔するわ」
「ほんと!?良かったぁ~!あ、自己紹介するね!私は葉隠透!よろしくね!」
「ウチは耳郎響香。怪我治してくれてありがとね!」
「私の名前は拳藤一佳。よろしく!」
「天音。帳弥天音だ。今後ともよろしく」
無事に入試試験を終えた天音。
近い未来、世界に彼の名が轟くことを、今は誰も知らなかった。
タグにもありましたが、帳弥天音は転生者である。
彼の個性はその前世でもともと持っていた力が宿っている。
その力は術式といい、呪いの力を糧に発動する。
個性とは似て非なる超常の力。
果たしてその力は本当に個性なのか、それとも…。