愛を求める半端者 作:とぅる子
「な、なあ。誰か帳弥の個性知ってるやついねえの?」
それは天音たちが次の戦いにむけて移動しに行ったあと、モニター室に残ったA組の誰かが溢した疑問だった。
「確かに彼の個性には一貫性がない様に見えるな。先日の個性把握テストでも彼はどの種目でも優秀な成績を残していた。その中でも印象に残ったのは特殊な生き物を呼び出すものだが、そうなると素の身体能力が高すぎるようにも感じる。少なくとも50m走の記録は個性の能力と考えて良いともうんだが」
真面目めがねこと飯田が先日の個性把握テストのことを思い出しながら天音の個性を予想している。すると、今回同じペアであり、初日から天音と仲良くしていたことを思い出した金髪の少年、上鳴がなにか思い出したかのように声を出した。
「そういえばえっと、耳郎さ、昨日とかさっきもだけど帳弥と仲いいよな?なんか知らねえの?」
「あ!思い出した!オイラここの受験当日、実技試験が終わった後に帳弥と耳郎と葉隠とあともう一人可愛い女子と4人でオシャレなカフェにいたの見たぞ!」
上鳴に続いてブドウ頭と小柄な体躯が特徴的な男子、峰田が血走った眼どころか血涙を流しながら叫んでは耳郎を指さしていた。
そんな峰田の暴露に数人が反応する。
どんどん騒がしくなっていく周りに耳郎は耳を抑えては少し顔を赤くしていた。
「ちょ、まず落ち着いてよ!」
あわあわとテンパる耳郎。思わずイヤホンジャックを上鳴と峰田に突き刺すと爆音の心音を二人へぶち込んだ。
「「うぎゃぁぁぁぁ!?」」
あまりの衝撃に倒れる二人。そんな二人を無視して一度深く深呼吸し落ち着かせると、耳郎は先ほどの話へと戻った。
「確かにウチは天音の個性を知ってるよ。実技試験の会場も一緒だったしね。葉隠ともそこで出会ったんだけど。天音の個性についてはウチが勝手に話すのもなんか違うと思うからあまり言えないけど、試験の時、天音は他にも色々やってたよ。お邪魔用の巨大ロボも
実技試験の時に出てきたお邪魔用巨大ロボ。推薦組は試験内容が違うため話が掴めていなかったが、一般で受けた生徒たちは耳郎が言った内容に驚愕していた。
それもそのはず、今回の実技試験であの巨大ロボを破壊したのは複数ある試験会場の中でも天音と緑谷だけである。
基本的にあの巨大ロボは試験に受ける受験生のお邪魔が目的のもので破壊するように作られたものではない。
それは受験生全員が分かっていた。
そもそも自身の何十倍も大きい相手と戦うのは、相手を上回るほどの超パワーなどを持っている必要がある。
それだけでも該当する受験生というのはほぼいないだろう。
よって自然とあの巨大ロボに対して行う対応というのは基本逃げの一択なのだ。
それなのにも関わらず、天音はその巨大ロボを一方的に破壊したというのだから、全員の反応は正しいものだろう。
「そうなると、より帳弥の個性が分かんねえな。マジでなんなんだ?」
より深まる天音の謎。そうしてなにやら静かになるモニター室、すると次のペアが別の試験場に着いたのか、モニターに映る映像にそれぞれ映し出された。
ヒーロー側である轟たちは先ほどの緑谷たち同様、建物の見取り図を確認し各々の個性を確認しているようだった。対して天音たち敵側の映像はというと、なにやら地面に座る天音。そして天音の胸の前に浮くグローブ。
天音はまるで自身の膝の上に乗る見えない人がいるかのように、空に手を添えると、その綺麗な口を開いてはその鋭い歯を突きたてた。
時は天音たちがモニター室へ出ていった所まで遡る。
先ほどの戦いで大きく損壊した建物では戦闘訓練の継続が難しいため、別の建物へと移動していた。
この時間からある程度の作戦を練れるため、両チーム距離を離して移動していた。
そして天音と葉隠は先ほどの出来事の話へと変わった。
「ね、ねえ天音君。さっきのことなんだけど…」
浮いているグローブが左右の指をツンツンしながら、戸惑いの籠った声が葉隠からこぼれた。
葉隠が言うさっきのこと、それは天音が透明人間である葉隠の姿をまるで見えているかのように振舞っていたことについて。
もしそれが本当なら、自分は男の子である天音の前でずっと裸を晒していたことになる。
自分でも視たことない自分の身体。感触はある為、ある程度の体型は把握している。いや、葉隠は自身の身体を見たことがある。
それは思春期ということもあって雄英から合格通知が届いたあと、興味本位と少し気になる男の子がいたからというのも相まって一人でこっそり自分の体にボディペイント用のインクを被ったことがある。
インクが付いた身体はくっきりとそのボディラインを露わにした。
女性特有の丸みを帯びた身体。周りからは見えないと言っても、太っていては機動力に問題が起きるため運動は欠かさずやっていた。そのおかげか、露わになったお腹は良い感じに引っ込んでいた。
胸も同年代の子たちと比べてもそこそこ大きいと思った。
だから別に、もし仮に何かの事故で見られても恥ずかしくない身体だと葉隠は自負していた。
だが、だからと言って見られても恥ずかしくないわけではない。
しかもそれが件の気になる男の子であればなおさらである。
だから確認したいのだ。自分が見えているのかを。
今まで誰一人、自分自身でさえも本当の自分の姿を見たことは無い。
だから余計に恥ずかしいのだ。
それと同時に期待してしまうのだ。
本当の意味で自分を見てくれる相手かもしれないことに。
本当の意味で透明人間の自分を見つけてくれる相手かもしれないことに。
しかもそれが、生まれて初めての気になる男の子だったら…
それはまるでお姫様と王子様が出てくる物語のような、運命的なもので凄い素敵だと思うから。
だから葉隠は期待しているのだ。
天音の答えを。
胸の高鳴りが頭に響いている。
体温が上がって息をするのも苦しい。
もし本当に見えるなら恥ずかしいけど、嬉しい。
初めてだから。
私も知らない私を見つけてくれるかもしれなくて。
天音君しか知らない私。
これほどロマンチックなことなんて少女漫画みたいで。
期待を込めた眼差しが天音を見つめていた。
それを感じ取っていた天音は、歩きながらも透明な葉隠の眼を真っ直ぐ捉えて答えた。
「…ああ、俺は葉隠の姿が
天音が答えた瞬間、葉隠は天音の胸に抱き着いた。
突然の行動に驚きはしつつもしっかりとそれを受け止める。
色々と女の子特有の甘い香りや柔らかい感触を直接感じる天音。
だが、やはり色々と経験豊かな天音だ。
顔色一つ変えずに葉隠を支える、もとい抱きかかえると、そのまま歩き始めた。
「ほ、本当に視えてるの!?」
「視えてる」
「ば、ばっちりガッツリ!?」
「ばっちりガッツリ」
「ほんとのほんとのほんとに!?」
「だからそう言ってるだろ。しつこい」
嬉しそうな声音で何度も確認する葉隠。意外にも毎度しっかり答える天音。その後も頬や耳、目、鼻、唇の位置を触れてと強請る葉隠。それに従って葉隠の顔を触れていく天音。そうしてようやく納得したのか、天音の首に手を回してギュッと彼の頭を抱きしめる葉隠。
顔全体が人肌の温もりであったかく感じる。本来なら人の身体で前が見えなくなるが、流石は透明人間、ばっちりと目の前が見えている。そう、本来ならだ。
「な、なんで視えるの!?私これまで誰も…」
「俺の眼は特別なもので、本来見えないものも見える。不可視の個性攻撃も、個性因子そのものも。相手を見ればそいつの個性情報もわかる。そういう眼だ。だから透明化という透の姿も全部視える」
「全部…じゃあ実技試験の時も」
「ああ、最初はどこの痴女かと思った」
「痴!?た、確かに最初はそう思っちゃうのは仕方ないけどさ!ちょっと酷いよ!」
「悪いな。だが、別にそれは今も思ってる。この現状を考えればな」
葉隠は天音の言葉で現状を振り返る。今、葉隠は戦闘服のグローブ以外は裸。そして天音に抱きかかえられている。それどころか、天音の首に手を回して頭を抱きしめている。もちろん裸で。
葉隠自身を抱きかかえるために、天音の大きな手は葉隠のお尻へと添えられている。
天音は特別な眼を持っていて、葉隠の姿が全て視えている。
そう、
つまり、こうして抱きしめている自分の身体ももちろん見えているのだ。
裸で異性である男の子に抱きしめているのだ、その光景は天音の言った通り痴女以外の何者でもないだろう。
「~っ!?///」
声にならない声が葉隠から放たれた。
改めて考えたら、自分の今の恰好はアウトだということに気づいた。
視えている天音からしたら、裸にグローブという変態すぎる恰好。しかもその格好で一緒に戦うというのだから、変態以外にないだろう。
今の葉隠は、どうしたらこの格好を改善できるかということだけに呑みこまれていた。
先ほどまで借りていた服をも一度着たままこの後の戦いに身を投じても、自分の個性を最大限に発揮できない。どうしようかと唸っている葉隠。
頭の上でそんなことをやっていたら、もちろん天音は気づくので、大きなため息を吐いた。
その吐き出された息が裸の葉隠に掛かりビクッと身体が跳ねた。
「お前、今ようやく自分の恰好がやばいことに気づいたのか」
「うぅ…はい」
天音に伝わる葉隠の体温が一層高くなる。
肌がじんわりしてきたので、恥ずかしさなどで汗をかいてきたのだろう。
心なしかプルプルと身体が震えている。
「…わかった。応急処置だが今回だけ裸にならず、かつ透明化の個性の邪魔にならないようにする方法がある。やるかどうかは透が決めろ」
「えっ…」
天音の言葉に葉隠は言葉を失った。
そんな都合のいい方法が本当にあるのか。疑問を抱くも、前に天音の個性を聞いた時、大体のことはできると言っていたことを思い出し、もしかしたら本当に、そう思いゴクリと重い唾を呑みこんだ葉隠。
このままだと天音にしか見えないとはいえ裸のまま。
なんかそれはそれでちょっと良いのでは、と一瞬邪な考えが頭に過るも、流石に今はダメだろとそれを否定する。
それにあまり裸を見られすぎて自分の裸に慣れられても今後に困る、そう瞬時に導き出した葉隠は天音の話を信じた。
「…わかった、お願い…してもいい?」
「目的地についてからやるぞ。正直どれぐらい保つかわからない」
そうして二人はそのまま目的地へと移動した。
なぜまだ葉隠を抱きかかえたままなのかという疑問を抱いたまま。
そうして時は戻り、今回の勝利条件でもある
「最初に言っておくと少し痛みがある、我慢しろよ。それと恥ずかしいなら目を瞑るなり自由にしろ。こっちで上手くやる」
「う、うん。…わかった。よろしくお願いします!!」
「いくぞ」
天音は手を葉隠の頭と腰に添えると、彼女の綺麗な首に口を近づけた。
鋭い歯が葉隠の首に立てられると、そのままガブっと噛みついた。
「んぁっ!///」
突如やってきた僅かな痛みとまるで全身に雷が走ったかのように襲う快楽に、思わず艶やかな声が漏れた。
耐えようと天音の首を抱きしめ身を震わしていた。
天音に噛みついたところから血が垂れる。
天音はその綺麗な赤い血をゴクっと飲みこむ。
二、三回天音の喉が鳴る。
その光景をカメラで観ていた別室のモニター室は騒がしかった。
「おいおいおい!帳弥達何してんだ!?」
「帳弥さんの口元から紅い液体が出ています!おそらくあれは血。もしかして葉隠さんの!?」
「アイツら何してんだよ!?こんなところでおっぱじめようってか!?オイラも混ぜろ!ズルいぞ帳弥ぁ!!」
「ちょっとみんな見ろ!帳弥の上に裸の女子の姿がぼんやりと!!」
「「「えっ!?」」」
一同がモニターに映る天音たちに釘付けになる。
その映像は天音に跨る女の子の長い髪と隙間から視える一糸纏わぬ綺麗な背中。
ジジジッと女の子の姿がまるで映像がブレたかのようになる。
そして次の瞬間、その女の子の身体を紅い液体のようなものが包み込むと、身体のラインに沿った戦闘服のようなものへと変わった。
今完全に葉隠の透明化という個性は解除され、全員が彼女の姿を視認できていた。
「あれが…葉隠?」
「めちゃくちゃ可愛いじゃねえか!?てかあの秘められたマシュマロおっぱぎゃぁぁぁ!?」
葉隠の巣型が視認できたことでA組全員がざわついている。一名、セクハラ発言が出そうだった所を耳郎のファインプレーで防ぐことが出来ていた。
そんな一騒ぎが起きているなか、モニターの向こうで動きがあった。
「おい観ろ!葉隠の様子が!」
その声で皆がもう一度モニターに視線を向けると、葉隠の身体がもう一度ブレてゆっくりと透明になっていく。
個性を発動したのか、はたまた一旦個性が解除されていたのかは不明だが、透明化が引き起こされていた。
「凄い…!見て見て天音君!ちゃんと纏ってる血?も透明になっていくよ!」
「そりゃそうだろ。透の血を混ぜてあるんだ。透明化の個性因子が含まれてるから透の身体に合わせてその血も透明になる。基本戦闘服ってのは自分のDNAを利用して作る方が個性そのものを活かせる良いものが出来る。今日はそれで我慢しろ。俺でよければ服も一緒に透明になる戦闘服を作ってやる」
「え!?いいの!?」
「事情が事情だからな。透自身が望むなら透明化のオンオフが出来るように協力してもいい」
「オンオフ…できるの私?!」
「透明なら難しいかもしれないが、お前のは透明
「ほんと!?やる!切り替えられるようになりたい!!」
「なら後々やるか。とりあえず今はヒーロー二人を潰す」
「うん、わかった!!」
無事に葉隠が全身透明化になると、あと数秒ほどで戦闘が始まってしまうことに気づき、葉隠は慌て出した。
「天音君どうしよう!?時間がないよ!」
「落ち着け。やることはシンプルだ。俺が3人の動きを止める。だから葉隠は隠れてその時が来たらテープを巻けば…なるほど、そう来るか」
「え…」
天音は最後まで言い切る前に全身透明になった葉隠の手を引っ張り自身に抱き寄せた。
すると天音たちがいる建物全てが一瞬のうちに凍らされた。
「た、建物が一瞬で氷漬けに…」
いつの間にか目を覚ました緑谷がモニターに映る光景に戦慄していた。
それは他の生徒も同様で、あの爆豪でさえも、声には出さなかったが目を開いて驚いている様子だ。
「確か轟って推薦組だよな。やっぱ実力がちげえわ…」
「瞬間的な火力ならクラス1じゃねえか?あんな一瞬で広範囲を凍らされちゃ何も出来ねえだろ!?」
「これは流石に帳もアウトか?」
各々が轟の圧倒的な範囲攻撃に天音の敗北を悟った。
だが、その中で約二名周囲の反応とは反対の考えを持っていた。
「まだだよ。天音はこれぐらいじゃやられない」
「耳郎少女の言う通りだ。皆、モニターをしっかり見るといい」
耳郎とオールマイト。確かに轟の攻撃は凄まじいが天音の実力を知る二人は、彼がこれぐらいで負けるとは到底思えなかった。それは、目の前でその力の片鱗を目の当たりにしたから。そしてもう一人は長年の戦闘経験から培われたもの。
A組のみんなは、二人の言った通り凍り漬けになったモニターの先へ目を凝らす。
すると、対象の核爆弾とそれよりもわずかに高い位置に浮いている人影に気づいた。
そこには何のダメージを負っていない綺麗な青年がつまらなそうに立っている姿が映っていた。
「び、びっくりした…なにこれ!?」
「おそらく轟の個性だろうな。半冷半燃。あの縁起が良さそうな紅白頭からして身体半分で氷と炎を出せるんだろ。ただ、氷の個性因子の方が成長されてたところを見るにそっちでぶっ放したんだろ」
「建物全部を凍らせるなんて強すぎない!?しかもめっちゃ寒…くない?あれ、顔は寒いけどそれ以外はなんかあったかいや。どうして?」
葉隠は自分が裸同然の恰好で、周囲は巨大冷凍庫のように冷え切っているのにも関わらず全く寒気が来ないことに不思議がっていた。
それに気づいた天音はその正体をあっけらかんとしながらも説明し始めた。
「それは透の血と俺の血を混ぜたからな。透明なのは透自身の血、それ以外のは全部俺の血の能力だ。例えばその体温調整とかな」
「天音君の…血!?そんな機能があるの?」
「まあ俺の個性の応用のようなものだ。多分詳しく話す時が来るだろうから、今は便利だなってだけ思っとけ」
「わ、わかった!それでこの後はどうしよっか?」
「簡単だ。3人来るからそれを俺が相手取る。透は部屋の隅で待機、動きが止まったらテープ巻け。凍ってる所を歩いても冷たくはないから安心しろ」
「了解!ほんと凄いね天音君の血!しかもちゃっかり浮いてるし!」
「色々できるんだよ。俺の力は」
ゆっくりと葉隠を床に下ろすと、本当に全く冷たくないのだろう、楽しそうにはしゃぐ葉隠がいた。
唯一葉隠の存在を確認できた戦闘服のグローブは今、二人の血でコーティングされて透明化している。
完全なステルス状態の葉隠はこの部屋で一つの扉の死角に待機する。
そしてどんどん近づく複数の足音が扉の前で止まると、凍った扉が突然吹き飛んだ。
「やけに乱暴な登場だな、ヒーローさん」
「…本当に凍ってねえのか」
目の前に吹き飛んできた扉を片手で受け止め適当に放り投げる。
そして破壊した扉からぞろぞろと出てきた轟、障子、尾白。
その三人は無傷の核爆弾と天音に驚きつつも警戒態勢を取る。
「さて、お前らには
「選択肢…?」
「何も出来ずに呆気なく負けるのと、奮闘するも負けるの、どっちがいい?」
「随分と余裕だな!こっちは三人」
「葉隠さんが見当たらないのは少し不安だが、個性の得体が知れない君を倒せば勝ちに近づくだろ!」
「この戦況は流石にお前でもどうにもできねえだろ。大人しく投降すれば痛くはしねえ」
天音の言葉に構えを取るヒーロー組。
選択肢を選んでもらえなかったことにか、無駄にやる気だからかわからないが、天音は右手で顔を覆うと心底つまらなそうに三人を睨む。
「じゃあ、終わりだな」
ゆっくりと手から顔を外すと天音の顔に変化があった。
細かく言うなら、天音の口元に今までなかっただろう
三人が天音の変化に気づいた瞬間、不気味に笑った天音を三人は見た。
「【動くな】」
たった一言。まるで命令するかのように放たれたその単語を聞いた瞬間、三人は自分達の身体が全く動かないことに気づいた。
「終わりだな。透、確保するぞ」
「はーい!全く出番なかったけど、これぐらいは頑張るよ!」
「誰かがいる、何かがあるってだけで相手の気を逸らせる。視えないのはそれだけで強い」
動けない三人に淡々と拘束テープを巻き付ける天音と葉隠。天音は試しに葉隠が纏っている自身の血を操ると次第に葉隠の透明化が血の部分だけ解除され、顔以外の葉隠のシルエットが綺麗に浮かび上がった。混ぜた葉隠の血の部分だけの透明化を解除することに成功した。その情報を考え、後に作るだろう葉隠の戦闘服の大まかな案が浮かび上がる。すると、モニター越しにこの結果が視えていたのだろう。
オールマイトから勝者が告げられた。
『ヴ、敵チーム WIIIN!!!』
若干の戸惑いがあったのだろう、僅かに震えた声を聴きながら三人に巻き付けたテープを外すのだった。
その光景をモニター室で観戦していたA組一同。
突然ヒーロー側が動かなくなり、その後あっけなく拘束された光景に疑問を抱いていた。
「今、何が起きたんだ?」
「わかんねえよ!なんかヒーロー側が部屋に入って帳弥となにか話したと思ったら、急に動かなくなるんだもんよ」
「結局葉隠も最初に姿見えたかと思ったら、今度はグローブ事透明になってどこ行ったか分からなくなったしよ。一体どうなってんだ?」
「ケロ、浮いていた時の帳弥ちゃんを見てみると、手の位置が誰かを抱きかかえているように見えたわ。少なくとも降りるまでは一緒にいたのは確かね」
「今は顔以外葉隠の姿が見えるってことは、あの赤いのが透明化させてたんだろ。葉隠のグローブにも付いてるし」
「轟の凍結も強えけど、それよりも帳弥の個性がより分からなくなってきたな」
難しい顔をしながらも、あれやこれやと憶測を踏まえながら話ていく中、緑谷は先ほどかららしくもなくずっとだんまりだった自身の幼馴染相手である爆豪へと視線を移す。
「かっちゃ「同じだっ!」…え?」
「あん時と同じ…あのクソ女顔が何かを
「喋った瞬間…もしかして言葉に発することで発動する個性?でも僕を治す時は大きな鹿を呼び出したらしいし、個性把握テストでもかっこいい龍を出してた。確か名前は虹龍…名前を
今にも人を殺めそうなほど怒りやらで怖い顔になっていった爆豪。そんな彼の言葉を聞いて緑谷は顎に手を当て何か考えるようにぶつぶつと話始めた。
その他にも爆豪の発言を聞いたものがおり、周りは天音の個性は何かを言葉にして発することで引き起こせると結論付けた。
苦戦しながら天音の個性について話していると、戦いを終えて移動してきた天音たちが帰ってきた。
「天音!お疲…れさ…なにしてんのあんたら」
天音が帰ってきたことに誰よりも早く気づいた耳郎。友達が戻ってきたので出迎えようと振り向いた彼女がまず目にしたのは、天音の腕に抱き着く、首から下しか見えないが同じ女である耳郎から見ても発育の良すぎると思えるぐらい女性らしい体つきをした葉隠の姿。
もう隙間なんてないのではないかと思えるほど密着している二人に、耳郎の眼がギョッとしていた。
そのまま視線を固定する耳郎。
すると、空いていた方の手で恥ずかしそうにそこにあるのだろう頭に手を置いている葉隠。
「なんていうか、成り行きというか…こうしてると落ち着くというか…ね?えへへ」
照れたような葉隠の声が耳郎に届いた瞬間、無意識に耳郎は二人の下へ駆け出すと葉隠がいる方とは反対の天音の手を取っては同じように抱きしめていた。
なぜ自分でもそのような行動をしたのか理解できていないのか、目をグルグルさせながらもしっかりと抱きしめる手に力が入っていた。
「とりあえず離れなよっ!付き合ってもないんだしさ!?」
「そういう耳郎ちゃんだって天音君と付き合ってないんだから離れなきゃじゃないかな!?」
「ウチはあんたらが離れたら離れるよ!」
「じゃあ私も二人が離れたら離れる!」
「…これはまあ役得か。でもうざいから今は離れろ。次に進めない」
何か言い争っている二人をペイっと剥がす天音。そんな三人のやりとりに悔しさからか、はたまた羨ましさからか血涙を流す金髪とブドウ。
もう色々騒がしいなっと横目に見ながら講評をしてくれと目でオールマイトに訴えると、彼もそれをしっかりと受け止め咳払いを一つ。
「そ、それじゃ講評に移ろうか!今戦のベストは誰かわかる人はいるかな?」
オールマイトの問に誰もが天音の名前を挙げる。するとそこにまっすぐに堂々と挙手する、胸元をガッツリと開けた戦闘服を着た少女、轟と同じ推薦組の八百万が発言を求めた。
「はい、八百万少女!」
「
「お!それはどうしてかな?」
「確かに核爆弾を死守し、お三方を行動不能にしたのは帳弥さんですが、私は葉隠さんの透明化というステルス能力がヒーローチームの注意を最大限に引き上げた。強制的に相手を警戒状態にさせるのは緊張を高め、精神的疲労や思考の低下を促せられる。よって今回のベストは一人ではなく二人!敵チームのお二人だと思いますわ!」
ビシッと決めた八百万の評価にオールマイトを含めて全員が「おお…!」と圧倒され納得していた。
そしてそんな彼女の主張を聞いた天音は珍しく興味を込めた眼差しで彼女を見ていた。
そんな八百万を見る天音の視線を、変な方へと勘違いしたのか二人息ぴったりに天音に脇腹を小突く。
別にそういうわけでもなかったが、二人の反応で逆に意識した天音は八百万の際どい恰好に視線を移した。
そこで勘違いしないでほしいのが、天音も絶賛思春期中の男子高校生。そして本人も別に話す機会がなかっただけで隠しているわけでもない。
なんなら天音は女の子は大好きである。それはもうガッツリと。ただ人生経験が豊富で顔に出ないだけで。
男よりも女が好きだし、その女の子特有の甘い匂いも丸みの帯びた柔らかい身体も普通に好きである。
なんなら同じ男の子でも天音が特別にしているのは今までの人生でも三人だけだ。
ただそういう話題にならなかっただけで、自分の容姿の良さを自覚してやることはやっている男、それが帳弥天音なのである。
まあそんなことは置いといて、おなじ高校生で今回の葉隠の動きを評価する八百万に評価を上げた天音。
よほど戦闘経験が多いか、頭が良いかのどっちかだろと勝手に結論づける。
そうして天音たちの講評が終わると、次の組が移動を開始した。
すると残った生徒たちが天音の個性について質問すると、どうせ後でそういう話になるだろと、今はその質問に答えるとこは無かった。
そして目立つけが人が出ることもなく次々と戦闘訓練が進み、最後の戦いになった。
ヒーロー側の天音一人 対 敵側の爆豪と誰かもう一人。
今だ名乗りが上がらないなか、どうするかと話始めたその時、一人の男子生徒が手を挙げた。
「誰もやらないなら俺が行く」
その人物は先ほど天音に負けた轟。
その眼は今だ闘志に燃えており、やる気満々だった。
轟は鋭い目つきで天音を睨む。
「もう一回になるが俺でいいか?」
「別に誰でも。コンビなんだから俺より爆豪に聞けば?」
「ばくg「どうでもいいわァ!てめぇと協力はしねえ!俺は一人でこの女顔をぶっ殺す!!」…許可は得た」
「…もういいや。さっきみたいにすぐ終わらせるのはやめる」
天音は爆豪と轟二人を見て何を思ったのか、人指し指をクイッと動かして完全な挑発を二人に送った。
「徹底的に潰してやるよ協調性皆無共。ちょうどいいから俺の個性を紹介しつつ個性の手ほどきしてやるよ」
長身だからか自然と二人を見下ろすようになる天音は、その殺気にも似た重圧を与えながら二人を見た。
「全力で来いよ。クズの
恐らく優秀な雄英1年生の中でトップの実力を持つ三人。
そのカードが早くもぶつかることになった。