愛を求める半端者 作:とぅる子
対人戦闘訓練が終わり、現在は放課後。
A組一同は先ほどの戦闘訓練の反省会を行っていた。
どの場面でどのような動き、個性の使い方をするべきか。
それに参加しているのは轟と爆豪を除いたA組の全員。
そしてその講師のような役割を担っているのは、今回の対人戦闘訓練で圧倒的な戦闘センスと個性の使い方を魅せた帳弥天音。
彼は全員の戦闘ログを分身し手分けして閲覧し分析。
個々の個性の弱点、応用をまとめ、場面でどのような動きや連携を意識すればいいかを細かく教えていた。
「個性は身体の一部だ。使った筋肉が成長するように、個性も使えばその力は成長する。成長すれば応用を利かせられるようになるから、意識すればその分動きに幅が出来るはずだ」
天音の言葉に一同が納得していた。
中には思いついたことを忘れないようにメモをするものまで。
そうやって有意義な反省会を終えたA組一同はそれぞれが帰宅していく。
天音もそれに漏れず荷物を整て教室を出る。
すると、彼の目の前に知った人物が待っていた。
「よっ!天音。待ってたよ」
受験の時からの付き合いであるB組の拳藤一佳がA組の教室前で待っていたのだ。
彼女は明るい笑顔を向けながら片手を上げて天音を呼び止めた。
「一佳か。どうした?」
「A組が一気に帰ってるのが見えてね。その集団の中に天音がいなかったから、もしかしたらいるかなって待ってたんだよ」
「別に廊下で待っていなくても入ってくれば良かっただろ。いるか確信もなかったわけだし」
「まあそうなんだけどさ、何となくだよ。それで天音はこの後の予定は?」
「スーパー行って今晩の飯を買うための食材調達」
「主婦か…。ならその食材調達、私もついて行っていいか?連絡は取ってても学校始まってからの昨日今日って会えてなかったからさ」
「別にいいがちょっと待て。連絡入れる」
天音は自分のスマホを取り出すと慣れた手つきで文字を入力していくとメッセージを送る。すると送って10秒も経たないうちに天音のスマホに着信が入った。
「もしもし…ああ、友達が買い物に付き合ってくれるって…今は教室の前で…え、おい!?」
なにやら戸惑っている天音。それを見た拳藤は首を傾げて明らかに状況を読み取れないでいた。
深い溜息を吐いては申し訳なさそうに拳藤を見つめる天音に、拳藤はいよいよ何かあったのかと察する。
すると、天音の後方に見える曲り角から滑り込みながら方向転換をしてこちらに走ってくる人物が一人。
徐々に姿が見えてきたが、制服じゃないことから生徒ではない。魅惑的なスタイルが目立つ格好をした長髪の女性が得物を捕えた獣のような眼をして廊下を走ってきた。
「…はぁ、まじか」
走ってくる人物の正体が分かったのか、天音は頭を押さえて溜息を吐く。
対して拳藤の表情はその姿が露わになるにつれ驚愕のものへと変わっていった。
「あ・ま・ねぇぇぇ!」
「えっ!?ミッドナイト!?」
最早普段のキャラの面影などミッドナイトは勢いそのままに天音へと飛びついた。
もの凄い勢いのミッドナイトを天音は慣れたように受け止めた。
一瞬グフっと声が漏れた気がしたが、きっと気のせいだろうと拳藤は自身を納得させた。
そして二人の方を見ると、とてもだらしない表情で天音の頬へ自身の頬をグリグリ押し付けるミッドナイト。
めちゃくちゃデレデレの大人を見て拳藤の口角が引きづっていた。
「あ、天音…これは一体」
「彼女はミッドナイト。世間では18禁ヒーローとも呼ばれて「それはわかるから!」…そうか。なら別で、彼女は香山睡、俺は昔に彼女に拾われて、現在一緒に暮らしている」
顔が崩れながらも平然と説明している天音。それを全く気にせず今もなお頬ずりするミッドナイト。心なしか涎のようなもののせいで頬の一部がテカっているように見える。
「えっと、状況を整理させてね。天音はミッドナイト先生と一緒に暮らしてる」
「そうだな」
「二人で暮らしてるんだよね?」
「彼氏がいたら出ていこうと思っていたんだけどな」
「…それじゃ今日の晩御飯は…」
「この
「家ではいつもこうなの?」
「酒が入ると基本これだな。後は忙しすぎてストレスと疲労がピークになった時も。これは多分後者のやつだ」
「はぁー…もう大丈夫だよ。ありがとね」
情報過多というやつなのだろう、拳藤は頭を抑えていた。
そこでやっと天音成分を摂取できたのか、我に返ったミッドナイトは天音から離れると、拳藤と天音を交互に見ては不思議そうに首を傾げた。
「どういう状況かしら?」
「…あんたのせいだ。それで、なんでこっちに来た?なにか買い足すものがあるなら連絡してくれればいいだろ」
「ああごめんなさい。なんか今ならあなたに抱き着いても大丈夫かと思って。それでこんな時間に拳藤さんと二人きりでなにしてたの?…はっ!?ま、まさかあなた達!?」
当然何かに気づいたかのように、ミッドナイトは目をカッと開いた。
完全になにか勘違いしている彼女に今度は天音と拳藤の二人が頭痛を覚えた。
「何を勘違いしているのか分かりませんが、決してミッドナイト先生が想像しているようなことはないですからっ!」
ほんのり頬を染めながらミッドナイトに注意する拳藤。そんな彼女の変化に気づいたミッドナイトはニヤリと悪い顔をしては拳藤の方へと寄ってきた。
「別に私は何も言ってないわよぉ?な~にを想像したのかしら?まあ思春期なんだからそういうことも考えちゃうのも分かるけど、時と場所を考えなさいよ。保険の授業はまだだけど、中学の頃にも内容は触れているでしょ?」
完全に教師が話してはいけない範囲なんじゃないだろうか、これが18禁ヒーローの特権なのか、そんな見当違いな考えが拳藤の脳裏に過る。
というかそもそもミッドナイトの話は完全に拳藤が天音のことを想っていることを想定された言い方だ。
確かに天音はその整いすぎている容姿に加え頭脳明晰で実力も少なくとも今年の1年トップ。
最早ダメなとところを探したほうが早いだろう人物が天音なのだ。
そんな人物とそういう行為の話をされたら、口では否定できても頭の中では勝手にイメージされてしまうのが思春期というものだ。
「そ、そんなんじゃないですって…」
先ほどよりも顔を真っ赤にさせ頭から煙を登らせながら拳藤はか細く否定する。
そんなんじゃない、そう言い聞かせればするほど、変に意識していく。
しおらしくなる拳藤を見て彼女の胸の奥底に眠っている感情を察知したミッドナイトは、目を光らせては自身のスマホを取り出しこの後のスケジュールを確認した。
「天音、今日は18:30には帰れると思うわ。貴方たちこの後買い物するのよね?」
「その予定だけど、なにかあるのか?」
「んーちょっとね。ねえ拳藤さん、あなたって確か一人暮らしよね?今晩の予定は?」
「え、あっそうですね。あま…帳弥くんとスーパー行って私も食材買って帰ろうかなと」
「つまり、家に帰っても一人ってことよね?」
「はい、そうですけど…」
「なら今日はうちで食べていきなさい。一応ご両親にお話しを通して許可が出ればだけどね。いいかしら、天音」
「俺は別に。一人増えたところであんま変わらないし」
「ってことだけど、どうかしら?もちろん無理強いはしないけど」
「え?あ、ぜ、ぜひお邪魔します!」
どここか意地悪な笑みを浮かべながら聞くミッドナイト。いつのまにか話が進んでいってることに若干戸惑う拳藤だったが、天音と一緒にいられる時間が増えたことに気づくと思わずその話を受けた。
なぜこんなに自分は緊張しているのか分からないまま、けれどもこの緊張がどこか心地いい感じがして拳藤は口を綻ばせた。
グッと後ろに回した拳を握る彼女を見て、終止二ヤニヤが止まらないミッドナイト。
そんな二人の変わった様子に疑問を抱く天音だったが、二人が仲良くしてるなら別にいいかとスルーし、自身のスマホを見て現在の時間を確認する。
そのまま画面をミッドナイトに見せると、何かを思い出したかの様に動き始めた。
「あら、もうこんな時間。それじゃ私はこの後会議があるからもう行くわね。二人とも気を付けて帰るのよ。またあとでね」
スタスタと来た道を引き返していくミッドナイト。一体何をしに来たんだと思うも、残された二人は決して声に出さなかった。
「ほら、俺たちも行くならもうそろそろ出るぞ。早く家帰ってのんびりしたい」
「ふふ、そうだな。せっかくたくさん話せるんだ。二人の家でゆっくりしながら話そう」
二人は仲良さそうに話しながら近所のスーパーへと向かったのだった。
「…おい、あれって帳弥じゃね?んで隣は…誰だあのかわいい女子は!?」
雄英から天音たちが目指すスーパーまでの道中にある若者が多く集まる喫茶店の中で、雄英の制服を着た一人の生徒が外で仲良く話す男女を見つけてはワナワナと震えながら指を指した。
そしてそこに同席する同じ制服を着た数人の男女が外の方へと視線を移した
「おいおい上鳴、そんな帳弥でも入学してすぐに女子をとっかえひっかえするようなやつじゃ…ってマジじゃねえか!?あのイケメン野郎…ん?あっ!あの子オイラ知ってるぞ!受験の帰りに葉隠たちと話てたの見たぞ!」
上鳴が天音と拳藤を発見すると、誰よりも早く峰田が食いついた。
峰田の言う通り、彼は雄英の受験日に拳藤の存在を少しばかり知っていた。
その時も可愛い子がいるなと思っていたが、いま改めて彼女を見た峰田は天音への怒りと拳藤のスタイルと容姿の良さに鼻息を荒くして興奮していた。
「あ、ほんとだ一佳ちゃんだ!天音君と同じ方向に帰ってるね」
「あれ、確か前に入学きまったら一人暮らしとか言ってなかったっけ?」
天音たちのことを眺めながら葉隠と耳郎が前に4人で話していたことを思い出した。
雄英を受験する子たちは全国各地におり、地元から遠路はるばる電車で来たり前泊して試験に挑んだりと色んな子がいたが、拳藤もその類であった。
彼女の場合は雄英の最寄り駅に近いホテルで宿泊していたので、受験当日は帰り道が駅の方だった。
対して天音が住むミッドナイト邸は駅からは反対方向なため、その時は彼女たちと別々に帰っていた。
だが現在、耳郎たちが見た天音たちは明らかに同じ方向へと向かっている。途中でコンビニに寄ったのか、シェアが出来るアイスを二人で仲良く食べながら。
これから各々の家へ帰るのなら、わざわざゴミを持ち歩くことになる食べ歩きをしないで、コンビニで食べてから帰るかそもそも買わない選択肢もあるだろう。
だがそのどれでもないことに不思議がっていると、何かを思い出したのか突如声を荒げたのは芦戸。
「そういえばさっきこの会に帳弥を誘ったら、『この後はスーパー行くからまた今度』って言ってた!ってことは二人はこれからそのスーパーに行くんじゃない?二人の話的にあの子も一人暮らしなんでしょ?」
「学校終わってスーパー行くって主婦かよ。なんかイメージと違って面白れわ」
「料理出来るなんて帳弥すげえな!カッケェ!」
天音の台詞だけ、少し声のトーンを下げてマネをしながら話す芦戸。その話を聞いて、天音の印象が変わったのか苦笑する瀬呂と、目を光らせてる切島。
彼らはさきの反省会で出た内容をさらに深めつつ、せっかくなら親睦を深めようと特にこのあと用事がない人たちで集まったメンバーである。
「スーパーってこの先だと一か所しかないよね?…ってことは」
「…天音と一佳の二人で行くっぽいね」
「もしかしてそのままどっちかの家でご飯を一緒にするとか!?」
葉隠と耳郎がどこか真剣な表情で状況を整理する。
すると、芦戸がその後に起こる可能性の高い展開を想像してはきゃーきゃーと鼻息を荒くさせながら興奮していた。
どっちかの家で、二人きりで晩御飯を食べる。それは思春期真っ只中な高校生にとってはような色々と想像してしまうようなドキドキのイベントだろう。
そしてその想像する内容が男女で同じでも、表情に露骨に出やすいのは…。
「家で女子と二人きり…」
「それってまさか…」
「真の大人へプルスウルトラってことじゃねえかぁぁ!?」
「なんかよくわかんねえけどうおー!」
ゴクッ重い唾を流しとなにやら神妙な顔の上鳴と瀬呂。そして血走った眼をむき出しにしながら手をワキワキと厭らしい動きをする峰田、なんの話かよく分かってないがとりあえずノリに乗っとく切島という、
流石に店内で騒がしくしすぎたか、急いで耳郎が巧みなイヤホンジャック捌きでそれぞれ上鳴と峰田の目にぶっさし、瀬呂と切島に張り手で静止させた。
「うるっさいから!」
「おお!響香ちゃんの強烈な一撃だ!それにしてもあの二人気になるね」
「おぉ!よくぞ言ってくれました葉隠!ねね、みんなで帳弥達を追ってみない?」
好奇心が抑えきれないのか、悪い笑みを向けながらみんなに提案する芦戸。
彼女の提案に耳郎と葉隠がゴクッと喉を鳴らした。
彼女たちの良心が戦っているのだろう、愉快な百面相を繰り広げていると、横から血涙を流す峰田が復活した。
「入学してすぐに不純異性交遊などけしからん!!これはオイラ達で監視する必要がある!」
完全に自分のことを棚に上げた峰田の方便に女子連中は冷たい視線を送る。
だが峰田の言った通り、もし本当に二人で家に行くのなら場合によってはそういうこともあり得るのかもしれないと考えが過る女子ズ。
特に天音に完全に好意を抱いている葉隠と、気になる存在だなって思っている耳郎に関してはあまり面白い話ではないだろう。
いけないことだとはわかっていても今回のことは無視できない。
結局芦戸たちはバレないギリギリの距離を保って天音たちを尾行することになった。
(何してんだあいつら…)
スーパーに着く前に天音は芦戸たちの尾行に気づいていた。
隣で今晩のメニューを楽しそうに考える拳藤はまだ気づいていないのだろう。
尾行している集団の中に、先ほど行った対人戦闘訓練で葉隠とペアで戦ってから飛んでくる殺気と怒りの混じった視線を送る人物がいることに気付いた天音は、注意したらそれはそれでめんどくさくなることが目に見えたため、天音はストーカー集団を無視することに決めた。
「なあ、天音は今日何作るか決めた?」
「スーパー行って値段で決める。でも今日は疲れたから肉は食いたいな」
「お!いいねお肉。なら最初はお肉から見るか?」
「まあとりあえず一周して全体の値段を把握するのが先だな。回ってる間にメニューもある程度決まるだろ」
「凄いな。もしかしてお前、結構慣れてるな?」
「同居人が料理できないからな。それで、今のうちに希望があればそれを優先するぞ。あるか?」
「んー、いや、迷惑じゃなきゃ今日は天音のやり方で決めたご飯が食べたいな」
「そうか。別に特別なことはなにもしてないけどな」
「最初はそれがいいんだよ。それに私の希望はまた別の機会にした方が、次の約束が決まるしな?」
ニシシと揶揄うように笑う拳藤、その頬はうっすらと赤く染まっていた。
らしくないことを言った自覚があったのだろうことを察した天音は、拳藤が分からない程度にクスっと笑うとそのまま拳藤の頭を軽く撫でた。
後方が少し騒がしくなったが、別にどうでもいいので天音はスルーし会話を続ける。
「事前に言ってくれれば別にいつでも作ってやる。料理は趣味で嫌いじゃないからな」
「…へ、へえ?じゃあ私のお弁当を作ってって言ったら作ってくれるのか?」
天音の突然の行為に顔を真っ赤にした拳藤は、なんとか話しを振ってこの雰囲気を逸らさないとと奮起した。その話題があまりいい選択ではないことに気づかないまま。
「じ、冗談だk「別にいいぞ」…ふぇ?」
天音の意外な返答に思わず変な声がでた拳藤。自分で言ったのに了承されたことが予想外だったのか、と彼女の反応を不思議がる天音。だが、返事事態には特に間違いがないためかスタスタと歩いてスーパーのカゴとカートをセットして店内に入る。
「流石に少し材料費はもらうけど、それでも良ければ別にいいぞ。まあ食堂行けばプロの飯が安価で食えるから少し微妙かもしれないけどな」
拳藤の瞳が輝いた。
「た、食べたい!もし良ければだけど」
思ったよりも大きい声が出たのだろう、言った後にみるみる顔を真っ赤に染めた拳藤。
「そんなに食いたかったのか?」
そんな彼女を見て悪戯な笑みを向けた天音。揶揄えるのなら揶揄うのが天音の性格だ。
目線を合わせるようにした彼の綺麗な顔が拳藤の視界いっぱいに映った。
「う、うっさい!悪いか!」
「あはは、別にいい。…それじゃさっさと買って行くか」
「わ、わかったよ!もう!」
クスクス笑う天音と顔を染める拳藤。二人は楽しそうに店内へと入っていった。
その雰囲気は傍から見たら仲のいい美男美女のカップルに見える人も多いだろう。
そんな仲睦まじい二人の様子を見ていたストーカー集団もとい尾行集団の反応は様々だった。
「おいおい、なんだよあれ!オイラ達なに見せられてんだよくそぉ!」
「なんかあの二人めちゃくちゃ良い感じじゃね?」
「良い感じすぎて最早あれ付き合ってるっしょ。仲の良さがもうそれよ」
「おい瀬呂!なんかよく分かんねえけどお前が話したら耳郎と葉隠の雰囲気が一気に暗くなったぞ!?」
男子人が血涙を流す者、もう女子と良い雰囲気になっていて羨ましい眼差しを送る者、他にいる人の存在を忘れて地雷を踏む者、その空気の変化を察した者がいた。
「嘘だ。天音君が一佳ちゃんとなんて。まだ付き合ってないはず…でも別に付き合っても私にそれをどうこうする権利もないし…でももし付き合っちゃったらどうしよう、一佳ちゃんから天音君を奪う?でもそれは友達としてよくない気もするし、かと言って天音君から離れるのは無理だし…そうだ、一佳ちゃんと相談して皆で天音君を囲んじゃえば、みんな幸せなんじゃ…男の子ってそういうのに憧れるって漫画でもあったし…」
「別にウチは天音が誰と付き合っても…でもなんかそれはやっぱり…」
女子二人がなにやらぶつぶつ小さく呟いていた。葉隠は顔の表情まではわからないが、焦点が合ってない耳郎と同じ雰囲気を纏っていたので彼女も焦点が合ってないんだろうと周りの者は結論づけた。
それから天音たちは順調に買い物を進めていく。どっちの食材がいいかとか、少し贅沢にジュースを買ったりだとか好みのお菓子を言い合ったりなどそれはもう仲の良すぎるぐらいに。
それを見ては男子は殺気を放ち、女子は精神がおかしくなっていく。
何をそんなに騒いでいるのかまではわからない天音は、どんなことがあろうと尾行してきているあっちが全て悪いだろ、とひたすらに無視を決め込んだ。
「結構買ったね」
「弁当の分も入ってるしな。まあ余計なものもいくつかあるけどな」
「あはは…なんか皆で食べるの楽しいかなって」
天音は目を細めて拳藤の方を見ると、困ったような笑みを浮かべてる彼女を見てクスっと笑った。
「ふっ、まああの人もたまにはこういうお菓子を食べたいだろうし良いだろ。俺も自分で買うと同じになるからな。新しい発見があるかもしれないから許す」
「絶対美味しいって思うよ。私のおススメだ」
「それは楽しみだ」
三つに分けられたビニール袋を、重い2つを先に天音が持ち歩き始めた。慌てて残った小さく軽いモノを拳藤が持つと天音を急いで追いかける。
「お、おい!別にそのぐらい持てるって!」
「…俺が倒れたとき様に片手開けといてくれ」
「…あははっ!なにその微妙にかっこよくない台詞」
「ミッドナイトが前に付き合ってた男に言われた台詞だ。かなり刺さったらしい」
二人は楽しそうに笑い合いながら帰りの夜道を歩いていく。その後ろ姿はまるで仲睦味い新婚かのようだったと、後日A組となぜか拳藤のクラスであるB組にまで広まった。
「あ~疲れたな今日は」
あの後、拳藤とミッドナイトと楽しく晩飯を食べ、拳藤を家へ送った天音。そのあとべろべろになったミッドナイトもとい香山を風呂に入れ、髪を乾かし先に寝させてから食器の片付けを行い、現在風呂の前にやらなければいけないことをしに自室へ。
自身を囲うように呪力で簡易的な防音の結界を作る。
「今日は少しはしゃいで術式を使いすぎたな。久しぶりに
天音は呪力を開放し、自身の術式を発動した。
「【
言霊を放つ。すると、天音の身体に複数の傷が浮かび上がった。
「っ!…これは|爆豪にやったやつか。我ながら良い威力だな」
先の戦闘訓練での爆豪との戦いを思い出す天音。実際に天音の身体に浮かびあがる傷は、その戦闘訓練で天音が爆豪に負わせた傷の位置と
それからも天音は身体に襲う痛みを感じながら、どの時の傷であり痛みなのかを思い出していく。
「ゴボッ!?轟と合わせると流石に血は吐くか。まあ予想通りだな。さて、これで器は空になったが、今日は久しぶりに器の更新も被ってるからな。さっさとやるか」
天音は手ごろなカッターナイフを取り出すとそのまま自身の首に当て、そのまま
勢いよく噴き出した血は結界によって部屋は汚さなかったが、致死量の出血により天音はその場に倒れた。
完全に死んでいる。誰が見ても悲惨な光景だったそれは次に起きる現象によって衝撃のものへと変わる。
死体となったはずの天音の肉体がまるでガラス細工のように砕け散る。するとすぐにその天音の身体だった硝子たちは一つに集まりだし、やがて先ほど噴き出した周囲の血が逆再生されるかのようにまとまり硝子たちと一緒にまとめられていく。
それは一つの塊となって、生き物の胎動の様に動き出すとみるみる形を成していく。
蠢きながらも着実にそれは人の形を形成していく。
「…あぁ~いつもより更新手こずったな。やっぱリセットする日と被るとやりにくい。今後のことも考えるともう少し改善するかな」
形成された肉体の感覚を確かめるようにストレッチする天音。
これが天音の個性もとい前世の術式の能力。
天音のその身に刻まれた術式の名は【虚空の器《カラノウツワ》】
その能力は対象の血液を摂取することでその者の術式情報や肉体の特性などを複製できる。
ただし、複製した術式の練度は摂取した血液量に比例し、多ければその分最初から本来の所有者と同等の練度が得られるが、少ないと最初は練度が低く、個人での特訓が必要になる。
その代わり、一度複製してしまえばその術式や肉体の特性は自身専用の物へと変わるため、解釈次第では本来の術式所有者とは違った拡張の仕方や可能性を見つけることができる。
だが、この術式は一見強力すぎるように見えるが、その強力さゆえの大きな縛りが二つあった。
①4日に一度、その4日間で術式を使用した場合、使用した術式で相手に与えた全ての傷や痛みなどを全て自身にも負わなければいけいない。
②9日に一度、複製した術式や特性などの膨大な情報をその
なお、この行為での器の死は拒絶される。
これが【虚空の器】の縛り。
あらゆる情報を内包させるために、その器を更新し、より容量を増やし強固にしなくてはならない。
理論上、数多の術式をその身に宿せることが可能だからこその強力すぎる縛り。
しかもその縛りを行使するときの痛覚はいかなる方法だろうと遮断できない。
つまりこの術式を持つ者は単純計算で1年間のうちに約40回、自身でその身を殺さなければいけないのである。
そして天音がこの術式とも言える個性を発現したのは彼が小学1年生の冬の頃であった。
そこからわかる通り、帳弥天音は今までで360回以上、自身を殺し死んでいる。
それが前世の頃も合わせるとなると彼の魂が死んだ数は計り知れない。
それゆえに、彼は死に対しての感情が軽い。それ以前の傷や痛みに関してはしっかりと感じてはいるが些細なモノになっていた。
「…器の強度はだいぶ上がったな。容量も増えたしもっと複数使うのもいいかも。…2人とも、お兄ちゃんまた強くなったぞ」
結界を解除し、鼻歌を歌いながらそのまま風呂に向かう天音。
死を体験した後の天音は決まって機嫌がいい。
それは器の強度が上がったからとかではなく、ただハイになっているだけ。
完全に死ぬことは無くとも死は死である。
自身の生命が危険に陥った時に起きる生存本能が爆発的に引き起こされたのだ。
よって今の天音は極度の興奮状態。大量のアドレナリンが分泌され心拍数・血圧が上昇している。
「…風呂の前に済ませるか」
天音は風呂に向かわず適当な服を着て家を出た。
その方向は人の多い駅の方へと進んでいく。
「(もうそろそろアレを調伏したいし、その準備はしておきたい。俺の術式なら縛りを課して調伏前の状態を強化し、その後の基本ステータスを底上げできるだろ。そのためには無理出来るようにしたい。つまり…)ねえ、そこの可愛いお姉さん」
煌びやかに輝く夜の駅街。終電で帰ってきた社会人や遊びに呆けた大学生は多い。天音はその中でやや疲れが見える20代前半ぐらいの女性に話かけた。
声をかけられた女性は思わず振り向くと、天音の顔を見るや急に顔を紅くさせる。
「な、なんですか」
少し怯えながらも、突然今まで見たことないほどの綺麗な男に声をかけられたことで緊張したのか上ずった声が漏れた。
「ギリギリ終電を逃してしまって、今晩泊まるところがないんです。なんでもしますので、今晩だけ私を泊めてはいただけないでしょうか?」
わざとしおらしく俯く天音。その一挙手一投足がどこか魅惑的に映る彼の姿に女性は顔を真っ赤にさせて慌てふためく。だがすぐに先ほどのなんでもという言葉が気になったのか天音の身体を上から下まで流し見する。
「な、
「もちろん…
ゴクッと女性の喉が、まるで最上級の肉を目の前に出された肉食獣化の様に大きく鳴った。
「…いいよ。少し散らかってるかもだけど、それでもいいなら」
「全然気になりませんよ。雨風が防げるなら玄関でも構いません」
「そ、そんなところで寝させないよ!?身体冷えちゃってるだろうし、まずは…お風呂かな」
「お風呂まで入らせていただけるなんて嬉しいです。ありがとうございます」
嬉しそうに微笑みかける天音。その顔をみた女性はさらに顔が染まった。
「あっ///…ご、ご飯は食べたかな?お腹とかすいてない?」
「確かに空いてますね」
「ならなにか食べる?わたしもお腹空いてたし」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。多分すぐ満たされると思うので」
「え、それってどういう…」
「何でもないです!それよりも早くお風呂に入りたいですね。春でもこの時間は寒いですし」
「そ、そうだね!早くウチいこっか!」
女性は自分の身体がみるみる火照り熱くなっていくのが分かった。どこか胸の奥が騒がしくなり、下腹部に違和感を感じる。どこかその感覚が心地いいことに小さく驚くも、隣にいる綺麗な少年をみては、「ほぅ…」と甘ったるい息が漏れて落ち着いてくる。
ソーっと自分の手をスラッと伸びた色白い手に近づけ、チョンっと触れた。
すると隣の少年は高い身長故に見下ろす形で女性に視線を移した。
やってしまった、そう女性は思い、内心で自分の溢れた欲を責めたが、少年はクスっと笑い女性の手に自身の指を絡めた。
突然の出来事に女性の身体が大きく跳ねるも、予想外の返事に嬉しさと胸の奥のよくないモノがみるみる肥大化し溢れてくる。
女性の熱が増した。先ほどよりも大胆に少年の腕に身体を絡める。
少年はそれを優しく受け入れる。
二人の歩みは止まらない。
街灯が少なくなっていく。
ふたりはそのまま暗い夜の道へと消えていった。
天音君の術式情報が解禁されました!
ザックリ説明すると術式名は【虚空の器】。他人の血液を摂取することで術式や特性を複製できる。練度は摂取量によって変動。
強力だが、二つの縛りが存在する。
①4日に一度、その期間内で術式をしようしたらその分のダメージを受ける。
②9日に一度、器の更新をするために自決しなければいけない。
更新したら生存本能により色々興奮状態。
という感じになります!
①の縛りに関しては、空の器があって術式を使えばその器に呪力が溜まり、満杯になると術式の行使が出来ないというイメージを持っていただければわかりやすいかと思います!
複製対象が前世の場合は術式というカテゴリーに限定されていましたが、この世界では術式というものは存在しません。
ならば今世の複製対象は一体何なのか。
解釈によってはヒーローってよりも敵側みたいな個性ですね