愛を求める半端者   作:とぅる子

9 / 10
名前:帳弥天音
身長:192cm
血液型:O
個性:呪術(術式:虚空の器)
好きなもの:弟、妹、甘い食べ物、綺麗なもの
嫌いなもの:苦い物、辛い物
好きなヒーロー:レディ・ナガン、ミッドナイト
嫌いなヒーロー:基本全ヒーロー
好きなタイプ:裏表がない、見ていて飽きない、自分を持ってる
嫌いなタイプ:騒がしい、視野が狭い









9話

「睡さん、もうそろそろ起きて。良い加減起きないと遅刻する」

 

「んにゃぁ…あとご…じゅっぷん」

 

「長ぇよ。ほら、朝食と弁当もすぐできる。身支度整えな」

 

「あ~みゃね~」

 

「…はぁ、はいはい」

 

完全に寝ぼけているのか、ぼさぼさの髪とはだけた部屋着を気にしないまま、天音の声がする方へ手を広げているミッドナイトこと香山睡。立派な成人女性であるそんな彼女が今求めていることが分かったのか、天音は呆れながらも軽く笑みを溢して彼女の広げる手に近づく。

天音の気配を察知したのか、香山はもの凄い早さで天音に抱き着くと、そのままベッドに引きずり込んだ。

そのまま天音に首筋に顔を埋めると肺いっぱいに天音に香りを吸い込む。

 

「…くすぐったい。なんかいつもより激しいな。ってか個性漏れてんな、眠いし甘い」

 

密着していることによって香山から放たれる甘い匂いが脳を直接刺激する。その匂いの中に、彼女の個性である睡り香のものも微かに含まれていた。そのせいか、僅かに天音は睡魔に襲われていた。

天音を抱きしめる力が強まる香山。この光景をもし雄英の教師たちに見られたらきっと彼女の立場は危ないだろう。

 

「毎度毎度良い大人が子どもにこんな甘えて大丈夫か?いつまでも貴方の傍にいるのは出来ないぞ」

 

小さく呟いた天音の言葉を聞いたからか、香山の身体がピクッと反応した。

そして抱きしめる力がさらに増し、香山の胸が天音の胸に形が歪むほど押し付けられる。

意識はもう覚醒しているだろうなと踏んだ天音だったが、定期的にこうなる彼女は決まってどこか思い悩んだり、なにか抱え込んでいることを知っている天音は、少し考えた結果、この少しの時間でも彼女を甘やかすことに決めた。

 

「家が職場から近くてよかったな。…あと5分だけ付き合うよ」

 

無造作な黒髪を軽く指で梳き、香山の頭を優しく撫でる天音。背中に回した手はリズムよく叩く。

妙になれた力加減とその手つきはお世辞抜きに気持ちがいいのだろう、彼女の口から気持ちよさそうな声が漏れる。

 

「…あまね」

 

「起きてるなら身支度整えろ」

 

「…あなたは一人じゃないわ。私がいるし、私じゃなくても学校の教師もいるし拳藤さんたちお友達もいる。あなたからしたら頼りないかもしれないけど、みんなあなたの力になるわ。だから、ね」

 

香山が天音を抱きしめる力が一層強くなる。そんな彼女の変化に、一瞬天音の身体が固まるもその変化は些細なモノで密着していた香山ですらそれは感じ取れなかった。

 

「睡さん…」

 

「あまね…」

 

「だったら、すぐに身支度を整えてくれ。さっさと片付けをするために力を貸せ」

 

「アーナンダカ自分ノ個性ガ暴走シテ眠気ガー」

 

「おい」

 

片言になりふざけ始めた香山に痺れを切らした天音。無理やり香山を剥がすとその部屋を後にしようとしたところで、流石はプロヒーロー、素晴らしい反射神経で天音の袖を掴むと彼の目を見上げる形で見つめていた。

そのまま少し困ったように笑いながら先ほど同様に手を広げる。

 

「…何度も言うけど学校では絶対ここまで甘やかさないからな」

 

「私もここ以外でこんな甘えないわよ」

 

天音は呆れつつも香山の背中と脚に手を回すとそのまま軽々持ち上げた。

香山は嬉しそうに天音の首に手を回し、子供みたいにはしゃぎながら目的地である洗面台へと誘導していった。

そのまま香山家のルーティンである朝風呂に入れる。どうやら天音は香山を起こす前に風呂を沸かしていたようだった。

彼女が朝風呂を満喫しているうちにバスタオルと着替えを準備し、出てきてから取る朝食をタイミングを見計らって仕上げていく。

 

「んーやっぱり私はもう結婚できないわ」

 

「する気ないだろ」

 

「失礼な!一応諦めてないわよ。子どもにも憧れはあるし」

 

「ならまずは生活習慣を見直せ。問題があるとすればそれだけだ」

 

「あら、意外に高評価ね。みてくれは悪くないってこと?」

 

「睡さんは綺麗だろ。性格もこれだけ一緒に住んでればわかる。やる気さえあれば睡さんは基本家庭的だけど、そのやる気が稀すぎるんだよ。あとそのぐーたらな部分な」

 

「無理よ。これほど胃袋を掴まれてこんなに尽くされたらもう無理。無理ったら無理!求める条件が高くなっちゃうのは必然なのよ!」

 

天音が作った朝食を堪能しながら言う香山の言葉には謎の説得力が含まれていた。

 

「ならその条件を満たす良い出会いがあることを願ってるよ。…いやほんとマジで」

 

言葉を紡ぐにつれ天音を見る香山の視線が鋭いものへと変わっていく。それが何となく居た堪れなくなったのか、天音の目が泳いでいく。

そうしていつもの落ち着いた朝を過ごす二人。そのまま家を出る時間まで、二人は楽しそうに会話を続けた。

 

 

 

「…うわ、うざ」

 

一応普段通り香山と別々に家を出た天音は、雄英の校門が見え始めたところで思わず足を止めた。

彼の視界に写ったのは、雄英の校門に通る生徒にインタビューをしようとしつこく群がる大勢の記者たちだった。

生徒たちが記者らの勢いに押されて困っている顔が見えた天音は、このままいくと自分もあれに巻き込まれると察知して、足元に転がっていた手ごろな石を見つけると、その石を雄英の校舎目掛けて放り投げた。

壁を越えたことを確認すると、天音は自身の手を叩く。

 

「やっぱ便利だな、不義遊戯(これ)

 

面倒ごとに巻き込まれなくて済んだ天音はストレスフリーで登校できたことに一人喜びながら教室へと向かった。

教室に入るなり、もの凄い形相で葉隠と耳郎が天音へと詰め寄った。

内容は、昨日何していたのか、というひっそり尾行していたことを忘れているのかと思う程ド直球に聞きに来たことに驚く天音。それから教室を見渡すと峰田と上鳴が今にも人を殺しそうな眼で睨んでいた。

しばらく返答を考えた天音だったが、別に変に誤魔化す必要もないかと昨日のことを素直に教える。

拳藤と買い物行ってそのままうちで飯食っただけ、そう言うや女子二人はどこか安心しすっきりした顔に戻った。

二人が上機嫌で自分の席に戻っていくことを確認して、天音は今も睨む峰田と上鳴に視線を移すと、揶揄いも含めて舌をペロッと出した。

峰田上鳴はその天音の行動をどう読み取ったのか、顔を真っ赤にしてパクパクと開いた口がふさがらない二人を眺めて席に移動した。

するとタイミングが良かったのか、天音が席についてすぐに相澤が教室に入ってきた。

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Ⅴと成績見させてもらった」

 

相澤は持ってきたプリントを教卓に置きながら先日の戦闘訓練の話をし始めた。

 

「爆豪、お前もうガキみてえなマネするな、能力あるんだから」

 

「…わかってる」

 

「で、緑谷はまた腕ぶっ壊して一件落着か。個性の制御…いつまでも『できないから仕方ない』じゃ通させねえぞ。それさえクリアすればやれることは多い、焦れよ緑谷」

 

「っはい!」

 

昨日の戦闘訓練で相澤の中で大きく目立ったのだろう爆豪と緑谷に個人的に指導すると、相澤は少しめんどくさそうに頭を掻きながら、その鋭い視線を真っ直ぐ生徒たちに向けた。

 

「言わなくても分かってる奴はいるかと思うが、お前らの意識を改めるためにも言っとくぞ」

 

生徒一人ひとりに順番に目を合わせる相澤、最後に天音の方を見る。

 

「先日の訓練で痛感しただろうが、そこにいる帳弥は今年の一年の中で実力は間違いなくトップだ。というか、俺から見たら全学年を通してもこいつに勝てる奴はいない(・・・・・・・・)。間違いなくプロ、その中でもトップ10には食い込める。」

 

『『!!』』

 

相澤から告げられる天音の評価にA組一同は驚き言葉を失った。

ヒーローになるために入学してきたのに、その実力がすでにプロヒーローの上澄みに匹敵するとプロが言っているのだ。生徒たちの反応は至極当然のものだ。

 

「お前達の追うべき背中は間違いなくこいつだ。こんな実力をもつ奴が身近にいることはそうない、学べることは多い。ヒーローにゴールはないし、今のお前たちにのんびりする時間はない。帳弥を使って合理的に学び成長し続けろ。帳弥、お前はそいつらに追いつかれないようにしろ、油断してるとすぐに追い抜かれるぞ」

 

「大丈夫ですよ、相澤先生。俺、最強なんで」

 

「…大変自信があってよろしい」

 

ひらひらと手であしらいながら、だがその言葉に確かな自信を込めて発した天音を見て、相澤は一瞬目を伏せた。

そして教室の空気が変わる。

 

「さてHRの本題だ…急で悪いが今日は君らに…学級委員長を決めてもらう」

 

「「学校っぽいの来たー!!!」」

 

「…元気だな」

 

天音を除いた全員がテンションを上げては自分がしたいと主張する。本来なら学級委員長など雑務って感じで煙たがられるのだが、ここヒーロー科では集団を導くというトップヒーローの素地を鍛えられるということで大変人気がある。だが、基本的にそう言ったことに興味のない天音は周囲とのテンションの差に密かに驚いていた。

そんな彼をおいて話は進み、飯田の案で決め方は投票に決まった。

誰でもよかった天音は、先日の戦闘訓練で良い視点で物事を見ていた八百万に票を入れた。

その結果、緑谷と八百万が同率3票で決まり、なんやかんやで委員長は緑谷、副委員長は八百万に決まった。

 

 

「こっちはそういう感じ。で、B組(そっち)は?」

 

「なんか天音らしいな。うちは私がやることになったよ、委員長」

 

「一佳ちゃん委員長なの!?凄いね!」

 

「でも確かに一佳は委員長って感じがするよね。少なくともウチらの中で一番しっかりしてるし」

 

「その『それとは反対にお前は…』みたいな顔を向けるな響香。委員長とかはどうしても嫌なんだよ」

 

「それはもうわかったよ!…それにしても、二人のお弁当の中が似てる気がするんだけど」

 

「私もそれずっと気になってた!…どういうことなのかな」

 

現在、天音と拳藤、耳郎、葉隠は校舎内の共有スペースで昼食を取っていた。全員がお弁当ということもあってお互いの中身を覗いていた。葉隠も耳郎も好物を入れながら栄養バランスも取れたお弁当だったのだが、残りの二名が問題だった。

お弁当箱は特にお揃いとかではないが、その中身が全く一緒だったのだ。

そこで葉隠と耳郎は昨日の出来事を思い出した。

晩御飯分にしてはかなりの量の食材を買っていたのはこのためだったのか、と。

そもそも昼休みに入ったところから可笑しかった。

授業の終わりを告げるチャイムが鳴るや、すぐに他所のクラスである拳藤が天音を呼ぶや、その天音が小さなバッグを彼女に渡していた。タイミングやそのバッグのサイズなども合わさって考えられる可能性は一つしかないと悟った葉隠と耳郎はすぐさま二人の下へ駆け寄り、4人で昼食を取ることを提案したのだ。

そうして仲良くお弁当を囲って天音と拳藤のお弁当を確認すると、予想は当たった。

色どりが豊かで品数も多く、それでいてお弁当箱に綺麗に敷き詰められたそれはまるで高級弁当の様だった。

どこか手づくり故の温かさのようなものを感じさせるそのお弁当は、耳郎と葉隠からしたらとてつもなく魅力的に見えたことだろう。

彼女たちのお弁当も、高校生だからということで自分で作ってみようと挑戦していた。

見た目は決して悪くないどころか同年代の子たちと比べても、上手い部類に入るだろうが、今回は比べる相手が悪かった。

常日頃から自分と成人女性のご飯を作り、時には酒に合う肴も出している天音に掛かれば料理のみならず家事全般を完璧にこなすだろう。

容姿良し、学力良し、運動神経良し、戦闘良し、家事良しの完璧超人。一家に一人帳弥天音である。

 

「昨日金受け取る代わりに作るって話になったんだよ。というか後ろから着いて来てたならわかるだろ」

 

「えぇっ!?」

 

「き、気づいてたの!?」

 

天音の突然の爆弾発言に思わず大声を出す葉隠と耳郎。一拍置いて拳藤が話の内容を理解したのか顔をほんのり赤くしながら二人をジトッと見つめた。

 

「え、なに、二人とも昨日後ろにいたの?」

 

「スーパーに入る前からな。そのまま家に入るまでこっそりと。ちなみに他にA組の奴ら数人いたぞ」

 

「え、えぇっ!?全然気づかなかったけど!?」

 

更に顔を真っ赤にし、よっぽど恥ずかしかったのか自分の肩を抱いて驚く拳藤。

対して、葉隠と耳漏は想像以上の拳藤のリアクションに居た堪れない気持ちがいっぱいになり、「「ごめんなさい…」」と頭を下げて謝った。

拳藤もその謝罪を受け入れ、仲良く食事を再開する。

お弁当の中身を交換しては、その天音が作った料理の美味しさに幸せそうにする葉隠と耳郎。

 

「ほんと美味しいねこれ!だし巻き卵とかふわふわでお店のやつみたい!」

 

「確かにこれは美味すぎるね。ほんとなんでもできるんだね、天音は」

 

よほど気に入ったのか、天音のお弁当を食べる二人の手が止まらない。

美味しそうに食べる二人の姿を見て、どこか幼く見えた天音はクスっと笑うとその彼女たちの頭を撫でる。

 

「ゆっくり食べな。兄ちゃん(・・・・)お腹いっぱいだから」

 

「「あっ…」」

 

「…っ」

 

愛おしそうに微笑みながら二人の頭を撫で続ける天音を見て、耳漏と葉隠はみるみる顔を真っ赤にし、その視線は天音の顔に釘付けだった。

開いた口が塞がらない二人と、その三人の光景を見て恥ずかしそうにしている拳藤。

普段の天音とは明らかに違う、本当に心を許した人にだけ見せる綺麗で暖かくて優しいその表情が、三人の目に焼き付く。

甘い空気が漂うと、その雰囲気を壊すように突如校内全体に大きな警報音が鳴り響いた。

 

「わぁ!?」

 

「っな、なに!?」

 

「これは…警報!?」

 

「…はぁ、外にいたマスコミだろ。問題は無いと思うが、一応早めに教室に戻るか。ほら、ここまで減らしたなら二人で食べな」

 

葉隠たちは突然の警報に驚くも、天音が冷静すぎることで落ち着きを取り戻り、天音の言った通りに残りのご飯を食べ終える。

葉隠と耳郎は天音のお弁当を半分以上食べてしまったため、自分たちの残り半分を天音にあげた。

最初は自分に手作りなのと食べかけで恥ずかしさとちゃんと口に合うかで不安だったが、天音が美味しそうに食べてくれたことで不安が一気に払拭された。

それどころか、天音の食べてるところを見て嬉しさと愛しさで頬が緩んでる二人。葉隠は透明ということもあって表情を読まれなかったが、耳郎は普通に視えるので、彼女の表情を見た拳藤は女の勘のようなもので耳郎の気持ちを何となく察してはニヤつく。

だが、それと同時に自身の胸にチクリとした違和感を感じて疑問を抱くも、時に気にせず耳郎と葉隠に話しかけた。

 

そんな楽しそうにガールズトークを繰り広げている中、天音は葉隠と耳郎からもらったお弁当の残りを食べながら先ほどの警報を気にしていた。

 

(あれは確実に敷地内に侵入者を感知した警報。ただの記者がそこまでするか?そこまで強引な方法を取ればそいつらの会社に注意が行き、最悪雄英への取材が禁止にされるだろう。そんなリスクを負ってまでこんな大胆なことはしないだろ。…ただの気まぐれか、あるいは…動き始めるのか)

 

天音は食事を終え、静かに決意する。

もう誰も失わないように。

奪われないように。

 

憎悪を宿したその瞳は何一つ写っていなかった。

 

 

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