「」←人間の台詞
『』←幽霊、妖怪の台詞
お願いします。
田舎の夏の夕暮れは都会よりも多少は涼しいが、今のご時世じゃ気休め程度にもならない。
妹の
お盆休みを利用し母の実家へ里帰りしたのは一昨日のことだ。何もないとまではいかないが、基本的に娯楽は川遊びぐらいしかない。
暫くして田舎特有の外壁もない丸出しの墓場がある。ふと俺は思い出し、左目を閉じて右目だけで墓場を見る。
「やってんだな、墓場で運動会」
集まりに集まった幽霊や妖怪達がわいわい騒ぎながら玉入れをしている。子供の頃に見ていた妖怪アニメのOP歌詞に【墓場で運動会】があったのは事実のようだ。
端から見れば何もない墓場。しかし、右目だけは視認出来るようになった俺はじっと観察していた。
すると、コロコロと足元に玉が転がってきた。燃えているようにも見えるけど、もしかして人魂かこれ。火の玉は熱いだろうし。
こちらに走ってくる少し痩せた人型の妖怪。普通に見てもパッと見人間と変わらないのが逆に恐ろしい。
「ほらよ」
『ありが……お前、人間か?』
「そうだ」
『俺のこと見えんのか?!』
「ああ。右目だけ、な」
そう。右目だけーー両目で見ると見えなくなるし、声も聞こえない。それ以外何もない普通の人間。
『それでも構わねぇ。これから綱引きやるんだけどよ、一人足りねぇから入ってくれ!』
「へ?」
細身の体に似合わないずっと強い力で墓場に誘われ、気付けば幽霊妖怪の中心地。
『こいつ俺達のこと見えるらしいぜ。代わりにならねぇかな』
細身の妖怪からの提案にざわめく妖怪達。やっぱり人間って嫌われてんのかな……色んなこと好き勝手やってるし。
『勝手なことを言うでない。おまえさんの一言で取り決めれる訳なかろう』
垂れ木の奥から現れたのは、如何にも主のような老婆の妖怪。古びた和服を着ている。
『でも、見えるやつは皆良い奴だったじゃねぇか。』
『昔の話じゃ……して、人間よ。なぜ私たちが見える。生まれつきか?』
「いや、一昨日から」
あっけらかんとした俺の返事に老婆は目を丸くする。
『一昨日からなど、余りにも落ち着きが過ぎる。事実だとして、どういう経緯じゃ』
「高校生になった辺りから右目の視力が落ちてさ、医者に見てもらったら眼球の長さが両方で違うらしい。右目が近くも遠くも見づらい。ま、両目で見ればカバー出来るから眼鏡も作らなかったけど」
木製のボロいベンチに座り俺は語り始める。
「一昨日は迎え盆だったろ。それで焚いてた火の煙が右目に入って、気付いたら見えてた」
『嘘を言うでない。後天的に顕現することすら稀であるのに、そんないい加減なことあるか』
「嘘じゃねぇよ。むしろなんでこんなんなったか俺が知りたい。なんか分かんないのか」
老婆は納得いかないながらも首を横に振った。妖怪でも分からないならいよいよだ。
『けどよ。いきなり見えるようになったってのに肝が座ってんな、あんたも』
「最初はびびった。でも……死んだ親父が来てた。本当なら帰る場所じゃないのに。母方の先祖が連れてきたのか知らんけど」
「10年ぶりに会って色んなこと話して。それなりに得だった。それと……」
『それと?』
一瞬出かかった言葉を飲み込み、脳内を逡巡させ別の話題を切り出す。
「河原でバーベキューしてた連中がゴミの片付けせずに帰ってった。そしたら河童が何とも言えない顔で代わりに片づけしてるを見かけたんだ。なんか、情けねぇなぁと思って」
人間に絶望したとかそんな話じゃなく。全く関係ないところで割り食ってる奴がいる。そういう理不尽が嫌いだ。
『河童か。あいつは友達を亡くしておるからの。誤って廃棄物を飲み込み窒息死してしまった』
当の本人がいないのにそんなことを話して良いのかと思いつつ、
「その、すまない」
『お主が謝ることじゃなかろう。見える人間一人によってたかってなど浅ましいことはせん』
全くその通りで返す言葉を見つけようともしなかった。見えないから、見てないから何をやってもいい。そんないい加減な事あっていいはずがない。
「お兄ー!」
暗い空気の中で元気ハツラツな妹の声が聞こえた。どうやらいっこうに戻ってこない俺を探しに来たみたいだ。
「一人で墓地に座ってなにやってるの。気味悪いから行こ」
「……ああ、そうだな」
気味の悪い場所で、妹には見えていない景色。でも確かにここにある者達。俺が見えるようになったのは何か理由があると思いたい。
『お主、名は?』
「
問いかけの答えを妹にバレない程度に呟いた。老婆が頷いたのを見て、俺は閉じていた左目を開いた。
見えなくなる見えてはいけない景色。これが当たり前の景色であって……今の俺には少し異質にも感じる。
「そういえばアイス買ってきてくれた?」
「いや、まだだ」
「えー!もう夜ご飯なのに!」
「また今度にしてくれ。……また今度、な」
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お盆休みが明けて実家に帰ってきた。
あと2週間で終わる夏休みだが、学生は9月上旬にある学園祭の準備に追われ実質1週間もない。俺は炊事能力を買われ当日担当で事前準備はない。
課題も残り僅かになった俺は暇を持て余し、試しに炎天下の街中に出掛けた。
人が行き交う交差点のベンチに座り左目を閉じる。数は少ないけれど、昼間でもふよふよと浮かぶ幽霊達に、腰から尻尾を生やす女性。
「化け狐ってああして見分けるのか……」
『女の尻を凝視するな軟弱者!』
「うおっ?!」
いつの間にか隣で立っていた男子に叱責され、思わず驚いてしまう。幾人かこちらを見たが、すぐに視線を逸らされる。
「急に出てくるな」
『自分は注意をしただけだ。何も間違って……お前、見えるのか!』
この下りもういいよ。
「ああ。野球男子みたいな坊主頭に小さい背丈。そんでーー」
着ている服装が学生服かと思いきやよく見ると違う。これは多分、軍服か?
「お前いつの時代の人間だ」
『我が日本帝国が異国と戦争をしていたことは覚えている』
大方の記憶がないタイプの幽霊だな。戦争時代ってことは下手すれば100年……まではいかないか。年齢も俺と同じぐらいだし、徴兵か何かだろう。
こういうのは大抵の場合は話を聞いたり未練を果たしてやると成仏するとネットで書いてあった。本当かどうかは知らんけど、試しにやってみるのもありだ。
「あんたは『あんたではない。
「もちろんだ。最後の特攻はやはり家族の思い出が蘇るからな」
「特攻?」
「自分は【特攻隊】として、母国と名誉の為に死んだ……のだが」
さっきまでの威勢はどこへやら、意気消沈した様子で座り込む。
『死んだ後にこんな幽霊で出てきてしまっては、まるで顔が立たない。 ああ、なんて情けない……』
「情けないなんてねぇよ。可能なら誰だって生きたいもんだ。今ここに留まってるのもその証なんじゃねぇの」
『留まる証か。しかし、自分にあるとしたら……いや、彼女は別の幸せを掴んでいるはずだ』
「おい、さっき俺にあんだけ偉そうにしたのに女絡みかよ」
『鼻の下を伸ばしながら尻を見ていたお前とは違う』
断じてそんなことはない。
『自分は彼女の声に惹かれたのだ。美しくもどこか切ないような歌声で、魅入ってしまう。街中で流れてる音楽とは比べ物にならん』
「さいですか。ま、俺も今時の音楽好きかと言われれば素直に首を縦には振れないな」
さっきまで顔や名前どころか、姿すら見えなかった者同士。意外と話しやすいのは初対面だからか、多分これっきりだからだろうか。
でも、もしこいつが召されない理由がその女性であるならば、こいつはこのままこの場所で永遠に彷徨い続けるか、もしくはーーどう考えてもバットエンドしか見えない。
『どうした。急に黙り込んで』
「何でもない。というよりこうやって話してる方が異常なんだからな」
『それもそうか。しかし、久し振りに話せて楽しかった。また会おう』
勝はそう言うと音もなく消えていく。久し振りに楽しく、か。なんかやるせない気持ちになってしまい、自然と拳を握る。
「何とかしてやれねぇかな……」
フィクションなら問答無用の除霊なんてあるけど、霊だから悪で人間だから守る、なんていささか納得できない自分がいる。
真夏の日差しが降り注ぐ都会の真ん中で、俺は見つかりようのない答えを考えていた。
次回、未定!