文化祭前日。今日は午前授業をやり、午後からは準備のラストスパートに入る。何度も言うが、俺は当日当番の為ーーとは言うものの、何もないはそれで寂しい。頼りになるクラスメイトに恵まれて幸せです。はい。
昼休みに入り、今俺がいるのは校庭の端っこにある木の下で立っている。木陰が日差しを遮り、涼しささへ感じられる。
「…………」
『はい、じゃあ始め!』
「……ただいま」
『お帰りなさい♪ご飯にする?お風呂にする?それとも……わ・た・し?』
エプロンJKという男性ならほぼ皆が夢見る展開だが、昼飯の弁当を人質に取られおままごとに付き合わされている今の俺にとっては差程魅力は感じなかった。
しかもドラゴンデザインのエプロン……それ、今の小学生男子でも選ばんぞ。
「飯食って寝る」
『台詞違うよ』
「おままごとの話はしてない」
さっと弁当を取り戻すと、そのまま地面に座り俺は弁当を食べ始める。
「ここ最近寝れてないんだよ。夜中に幽霊やら妖怪やらやってきて……昨日なんか八尺様に恋愛相談されたんだぞ」
でかすぎて胸元辺りから天井突き抜けて見えんかったし、意中の相手は俺の妹だったし……妖怪達にも多様性の時代が来てるようだ。百合八尺様ってなんだよ。
『その噂、広めたの私なんだ』
「お前か!」
『嬉しくてつい、喋っちゃった♪』
俺のせいとはいえ、ついこの間まであんなに警戒してた癖に……警戒心持てよ本当に。
いつもより倍のスピードで弁当をがっつきお茶で流し込む。すぐにやってくる血糖値スパイクに抗えぬまま、大きな欠伸をする。
『よっと』
彼女は俺の肩を掴むと押し倒すように膝に寝かせる……えっ、なにこれ。なんで膝枕されるの?
『迷惑かけちゃったみたいだし、ね?』
覗き込みながら笑顔を見せる彼女。突然の膝枕状況に緊張の鼓動が止まらず、周りのこととか考える余地はなかった。
女子特有の花のような甘い匂いに、残暑のこの時期には嬉しい少しひんやりとした感覚と柔らかい感触。なんか勝手に青春始まったけどええんかこれ?俺は勝ち組になったのか?なったんだな、よし!
謎の確認を取りながらすっと俺は目を閉じーー
ゴンッ!
瞬間、側頭部に強い打撃が襲いかかる。痛みに声が出せないまま静かに悶えた。
……幽霊相手だもん。そりゃこうなるよ。でもさぁ、もうちょっといい方法あったんじゃないんですか、青春劇場さん?
『だ、大丈夫?』
「…………帰る」
痛みに堪えながらゆっくりと立ち上がり弁当を持つ。俺は何も言えぬまま、たどたどしい足取りでその場を後にした。
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弓道部のグループチャットに用事が出来たので各自自主練とだけ送り、自宅に帰ってきた。
甘酸っぱい雰囲気から急に現実へと叩き落とされた今の自分がまともに機能出来るか自信がなかった。あと単純に睡眠不足。
優斗には興味ないみたいなこと言ったが、どうやら内心では全然興味あるようだ。健全だけどもただのむっつりでした。
ベットに寝転がりながらボッーと天井を眺めていると、窓がコンコンッと叩かれる音が聞こえた。
「入ってまーす」
どうでもよさげに答えると再び窓を叩かれる。流石に体を起こすと、そこには一羽のカラスがいた。
「カラスの恩返しか?」
助けた覚えはないが。だがカラスは頭が良いと聞いたこともある。顔を見せれば別人だと分かるかもしれない。
窓を開けるとカラスはぴょんぴょんジャンプしながら俺の部屋に入ってきた。ベットを越えてラグまで着地し改めて振り返る。
突然の出来事にいまいち理解が追い付かないが、それでもカラスは容赦なく両翼を広げる。ていうか汚いから出てって貰って……
『妖怪や幽霊が見える人間はお前のことか』
「…………」
キェェェ!喋ったァァァ!
「は?え?……は?」
『私の真の姿を見て驚くのは仕方あるまい。して、質問に答えろ』
「そ、そうですね」
そういう類いかと理解するが、真の姿なんて一向に変わってない気がするけど。
不信感を抑えきれず思わずジロジロと観察してしまう。けど、もしこのカラスも妖怪なら……
「両目で見えてる!」
『それはそうだろう。自己紹介が遅れてしまったな。私は「なんで見えるんだ!」ーーはぁ?』
喋る謎のカラスに一通りの事情を説明すると、足を折り曲げ座り込んだ。そういえばカラスが座ってるところって見たことないよな。
『それは単純に影響力の高さが起因している』
「影響力?」
『人間で言うなら存在感だ。有名な人間が街中に紛れていてもすぐに見つけられるだろう。それと同じで普通の幽霊は右目でしか見えないが、私レベルになれば両目でも見える』
「はぁ……で、君は何?」
『名は八咫烏。我が主、天照大御神の使いの元、汝の元へ参った所存だ。』
八咫烏。天照大御神の使いね。……天照大御神?!
「嘘でしょ?!」
『嘘などついてどうする。私はこれを渡しに来たのだ』
八咫烏が嘴を使って翼から取り出したのは黄色と黒の糸で編み込まれたミサンガだった。優無を言わさず右手首に近づけると自動的に巻かれる。
『主と私の加護が練り込まれた糸で作られた組み紐だ。悪気を感じると力を行使する。無論、汝が念じれば相応に答える』
いきなりチートアイテム貰っちゃったんですけど。もっとイベントを踏んでから来てくれませんかね。
「あの、バトル展開とかありませんよね?」
『絶対にないとは言えん。聞けば後天的な発症故、珍しいのだ。人類の歴史上から見て二人目だ。それに人間に悪意を抱く妖怪は多い。ターゲットになる可能性はあるうえに力もあるとなると余計にな』
一人だけによってたかってはしないとは聞いたが、やっぱり穏便派の考えなんだろうな。
「しかし二人目か。一人目は誰なんだ?」
『卑弥呼と呼ばれた女帝だ』
わぁーお。完全に主人公補正を掛けに来てるじゃないですか。戦うなんて出来ませんよ。……弓、出来るわ。もっと真剣に取り組むか?
『組み紐、しかと届けた。それでは失礼する』
ぴょんぴょんジャンプしながら窓付近まで行き羽ばたいていく八咫烏を見送った。良く言えば俺を心配してなんだろうが、もっとも縺れは起こしたくないのだろう。
「しかし、天照と来たか。」
敵ならラスボス、味方ならあいつ一人でいいんじゃないかな的なポジションだろ。今度調べてお礼参りしに行くか。
改めてベットに寝転がる。影響力が強ければ両目でも見える。創作だときっと妖力がーとか、戦闘力的な立ち位置になるんだろうけど、それとは違うのだろうか。
「彼女も両目で見えてたな……」
八咫烏と同じ影響力を持つってことは神の遣いなのか?白ギャルを遣いにしてるってどんな性癖持ってんだよ。
その時ふと思い出す。今の今まで白ギャルとか彼女とか呼んでたけど、名前を聞いていない。名乗って来なかったし、こっちも無意識に尋ねなかった。
本能的に避けてたのか?いや、俺にそんな勘があるとは思えない。片目でも見えていた勝も名前を覚えてたから、彼女も生前の名前ぐらい覚えてるはず。
「名前がない、とか?」
極端な考えだ。俺が聞かなかったから名乗らなかっただけ。そうに決まってる。けど、仮に名前がないとして、影響力とやらが高いのは勝手だが何となく納得しづらい。
一般幽霊は両目で見えないが、神の遣いは両目で見える。後に考えられるのはーー都市伝説?
「学校の都市伝説……」
付近に置いてあったスマホを手に取り検索する。一覧に出てきたものの中で一つ、気になるものを見る。
一通り記事を見て俺は静かにスマホを置き、様々な思いを巡らせながら目を閉じた。
次回、白ギャル幽霊は遊びたい③