司会「さあ、いよいよ来週に迫りました高松宮記念。今年は何と言っても、サクラバクシンオー選手の引退レースです。星野さん、改めてバクシンオー選手の現役生活を振り返っていただけますか」
星野「ええ。スプリンターズステークス連覇、1400メートル以下での通算勝率90%超え。日本のスプリント史上、最も偉大なウマ娘と言って差し支えないと思います」
水原「数字だけ見ても圧倒的ですが、何よりあの走りですよね。ゲートが開いた瞬間に勝負が決まっているようなスタートダッシュ。あのスピードは、見ている側の感覚がおかしくなる」
星野「しかもそれを毎回やるんです。ムラがない。条件を問わない。相手を問わない。全員に全力。それがバクシンオー選手の凄さであり、ファンに愛される理由でもある」
司会「引退会見でも、最後まで明るかったですよね。『走ることは大好きです、今でも大好きです』と。引退する方の言葉とは思えなかった」
水原「あの方はそういう人ですから。最後の最後まで全力で、陰がない。本当に素晴らしい現役生活だったと思います」
司会「その引退レースの高松宮記念ですが、本日出走登録が発表されました。星野さん、まず全体の登録状況を」
星野「はい。大本命はもちろんバクシンオー選手。引退レースにふさわしい、絶対王者です。ただ、今日の登録で一番話題になったのは、別の名前でしょうね」
司会「引退会見での名指しが話題になったカレンモエ選手ですね」
星野「ええ。そのカレンモエ選手、昨日付で出走登録が確認されました」
司会「来ましたか」
星野「来ました。正直、来るかどうか五分五分だと思っていました。あの会見からまだ五日です。陣営がこの短期間で決断したということは、準備は整っていたんでしょうね」
司会「ここで、水原さんの意見も伺いましょう。カレンモエ選手の出走登録、どうご覧になりますか」
水原「率直に言って、時期尚早だと思いますよ」
司会「おっと、はっきりしたご意見ですね」
水原「いや、バクシンオー選手が名指しした、それ自体は素晴らしいことです。光栄なことだと思います。ただ、じゃあ実績が伴っているかと言われると、ちょっと首を傾げるところがある」
星野「フェブラリーステークスのGⅠ勝ちがありますが」
水原「ダートでしょう。芝のGⅠは勝っていない。芝のスプリントに限れば、GⅡの阪神カップが一つだけ。それで芝のスプリントGⅠに出てきて通用するかと言われると、正直厳しい」
司会「戦績を振り返ってみましょうか」
水原「そうしましょう。デビュー戦が芝2000メートルで16着。阪神ジュベナイルフィリーズで3着に入って注目されましたが、桜花賞で16着、オークスでは最下位タイムオーバー。長期休養を挟んで復帰して、芝1200メートルに路線変更。ここからの戦績がまた読めない」
星野「ムラがあるんですよね」
水原「ムラ、という言い方は優しすぎますよ。京阪杯のGⅢで7着、シルクロードステークスのGⅢでも凡走。GⅢで結果が出せないウマ娘が、GⅠの舞台で本当に戦えるのか。阪神カップの勝ちは認めますが、一つの勝ちだけで芝スプリントの実力を測るのは危険です」
星野「ただ、その阪神カップとフェブラリーステークスでの上がりタイムを見ると、別人のような数字が出ているんですよ。GⅢの時とは明らかに違う」
水原「それがまさに問題でしょう。安定して力を出せないということは、再現性がないということです。GⅠの舞台でたまたまいい走りが出る保証はどこにもない」
司会「なるほど。星野さんはどうお考えですか」
星野「水原さんのおっしゃることはもっともです。GⅢで走れないのにGⅠで走れる、というのは通常ありえない。ただ、データを見ると一つの傾向があるんです。相手が強くなると走る。これは偶然ではない気がする」
水原「それは裏を返せば、格下相手では手を抜いているということですか」
星野「手を抜いているのとは違うと思います。何かが——相手のレベルに応じて、引き出されるものがあるように見える。そこはまだ分かりません。ただ、バクシンオー選手という最高の相手を前にした時に何が起きるかは、私は非常に興味がある」
司会「バクシンオー選手が名指しした理由については、お二方はどうお考えですか」
星野「バクシンオー選手は、誰に対しても全力で走る方です。特定の相手を名指ししたのは現役を通じて初めて。デビュー直後にカレンモエ選手に声をかけている場面が記録に残っていて、『スプリントに来てください』と。あれが一年以上前ですから、スピードを見抜いていたんだと思います」
水原「スピードがあるのは認めますよ。1200メートルまでの加速は確かに素晴らしい。ただ、スピードがあることとGⅠで勝てることは別の話です。バクシンオー選手の名指しは、実力を保証しているわけではない」
司会「厳しいですね」
水原「厳しいんじゃなくて、当たり前のことを言っているだけです。バクシンオー選手の引退レースですよ。彼女の最後の舞台にふさわしいだけの走りを見せられるのか。名前を呼ばれたから出ました、ではファンも納得しない」
星野「そこは同意します。ただ、出ると決めた以上は覚悟があるはずです。担当トレーナーの絢原さんは、かなり独特な育成をされている方で、ダートへの転向もこの方の判断でした。フェブラリーステークスへの出走も当時は疑問視されていたのに、結果的に正解だった。今回も何か計算があるのかもしれない」
水原「計算があるならいいですが、バクシンオー選手に呼ばれて断れなかっただけ、という可能性もありますよね」
司会「ちなみに、カレンモエ選手はカレンチャン選手のお嬢さんですよね。カレンチャン選手は高松宮記念の覇者で、スプリントの大スターでした。同じ舞台にお嬢さんが立つというのは、話題性としては大きい」
水原「ただ、お母さんの名前で語るのは本人が一番嫌がるんじゃないですか。走りのタイプもまるで違いますし。カレンチャン選手は先行して押し切る方でしたが、カレンモエ選手は後方から差してくる。比べること自体が的外れだと思います」
星野「そこは水原さんに完全に同意です。親子であることは事実ですが、走りの話をするなら、カレンモエ選手本人の実績で語るべきです」
司会「では最後に、お二方の見立てをお聞きしましょう。カレンモエ選手は高松宮記念でどのくらいやれると思いますか。水原さんから」
水原「掲示板に入れば上出来でしょう。芝スプリントのGⅠ実績がない以上、いきなり上位は考えにくい。バクシンオー選手の引退レースを盛り上げる一人にはなれるかもしれませんが、勝ち負けとなると別の話です」
司会「星野さんは」
星野「この子には読めないところがある。GⅢで走らないのにGⅠで走る。その法則がここでも当てはまるなら——バクシンオー選手という最高の相手を前にして、とんでもない走りを見せる可能性はあります。もちろん、水原さんがおっしゃるように、全く通用しない可能性も同じくらいある。どちらに転ぶか分からない。だから面白い」
司会「意見が分かれましたね。高松宮記念は来週日曜日、中京レース場で行われます。バクシンオー選手の引退レース、そしてカレンモエ選手の芝スプリントGⅠ初挑戦。引き続き注目していきましょう。星野さん、水原さん、ありがとうございました」
星野「ありがとうございました」
水原「ありがとうございました」
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