それに伴い、近いうちにウオッカのロールを変更します。
話の展開に影響はありません。よろしくお願いします。
――The Cartographer: Dream Journey
中京レース場。スタンドの最上段。
人混みからは離れた、隅の方の席。
引退レースの歓声が、下から津波のように押し寄せてくる。
バクシンオーさんの引退セレモニーが始まっていた。
桜色の勝負服が、スタンドの中央でマイクを握っている。声がでかい。いつも通り。
何万人もの観客が、笑ったり泣いたりしている。短距離の絶対王者に相応しい、賑やかで温かい幕引き。
私は、セレモニーには目を向けていなかった。
レースの余韻を、まだ反芻していた。
最終直線。
先頭を走るバクシンオーさんの隣に、芦毛のウマ娘が並んだ瞬間。
スタンド全体が揺れた。
私の隣の席にいた知らないおじさんが、椅子から立ち上がって叫んでいた。
私は、叫ばなかった。
ただ、見ていた。
あの子が走っている姿を。
去年の正月に、境内の裏手で出会った駄々っ子が。
今年の正月に、「もっとたちの悪い何かが残ってる」と言った子が。
あの直線で、自分の脚で走っていた。
体が勝手に動いているのとは違った。
阪神カップの映像で見た、あの制御されていない噴出とは、明らかに質が違っていた。
あれは——
……いいえ。名前をつけるのは、やめておきましょう。
他の誰かが、もっとふさわしい言葉で、あの子に伝えるはずですから。
ただ、一つだけ気になったことがあります。
あの子の一歩一歩。
バクシンオーさんの隣に並んでからの、地面への踏み込み。
スプリンターの走りにしては、重かった。
速さではなく、力で地面をねじ伏せるような走り方。
1200メートルの終盤、普通なら脚が上がらなくなる距離で、あの重さが衰えなかった。
……少しだけ、引っかかるものがありましたが。
今は、それだけです。
膝の上に置いた手を、そっと握った。
旅路は、続いている。
迷って、燃え尽きて、灰になって、それでも消えなかった火が、あの直線で形を取った。
どんな形になったのかは、本人がこれから知っていくことでしょう。
セレモニーが終わったらしい。
バクシンオーさんがスタンドに向かって深く一礼している。歓声がもう一度大きくなる。あの人らしい、真っ直ぐな背筋。引退しても、あの姿勢は変わらないのでしょう。
私は静かに席を立った。
階段を降りながら、三月の風を受けた。冷たいけれど、もう冬の匂いはしない。
コンコースを歩く人々の顔は、みんな少し赤い。泣いたのか、叫んだのか。どちらにしても、いい顔をしている。
帰りましょう。
あの子の旅路を見届けるには、まだ早い。
でも、今日の直線は、ちゃんと目に焼きつけました。
……楽しみですね、カレンモエさん。
この先が。