【天使】と【悪魔】のアイドルユニット「アロマゲドン」に【人間】がいたら   作:プレイアデス

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アイドル、はじめました!(五歳児)

 「やったぁ! おかあさん!わたし、プリチケ届いた!」

 年頃の―――と言っても小学校中高学年程度だが―――少女たちが一度はこう声を上げる。

風に運ばれて。枕元にふと。手帳を開くと。道端で拾って。いつ、どこで、どうやってかは分からないが、女の子はみんな、ある年齢になるとそのチケットを手に入れる。それは、金券でも、旅行券でも、なんでもない。けれど、彼女たちにとっては初めてで、そして唯一の、宝物。夢見て、憧れて、そして確信していた。そんな、誰もが望む女の子の夢の場所。それが、プリパラなのだ。

 

 そして、もちろん彼女も例にもれず―――。

 

 「わたし、プリパラでいっぱいいろんな子とお友達になって、いっしょにすごいアイドルになるんだ!おかあさん、応援してね!」

 

 不格好ながらも、愛嬌のある笑みと無邪気さから放たれたウインクとスマイルは、少女の母親の心を打ちぬいた。多少は親故の贔屓もあったかもしれないが、少女の語る夢が手の届かぬものでないことを予期させるようなものであったことは、違いなかった。

 

 先ほど「例にもれず」と表現したが、彼女には一つだけ例外があった。

 

「せんせい、おはようございます!」

「はい、おはようございます。じゃあ預かりますね」

「よろしくおねがいします。また夕方にね。いい子にしてるのよ?」

 

 通常、小学校中高学年でプリパラへの切符、プリチケは届けられる。が、少女は違った。

いい子にね、と頭をなでられている少女が居るのは、保育園だった。

 

「おはようっ。あろまちゃん、みかんちゃん」

「お、おはよう...」

「おはよー!」

 

 クラスに向かうと、黒髪と赤髪の女の子とあいさつをする。

黒髪で、赤髪の子の後ろで袖をつかんで隠れているのが黒須あろま。

赤髪で、人懐っこい笑みを浮かべているのが白玉みかんである。

 近い未来、プリパラで「アロマゲドン」として活動する予定の、現在保育園児だった。

 

「ね、ね!わたしね、今日すっごくいいことあったんだよ?」

「そうなのー?みかんに教えてなの!」

「わたしも...」

「誰にも言わない?」

「「いわない」」

 

 少女は「とくべつだよー?」と一言置いて、ポケットから宝物を取り出した。

 

「じゃーん!プリチケ!いいでしょぉー!」

「わー!すごいなのー!プリチケもってるってお姉さんなのー!」

「すごーい...!幼稚園でも持ってる子いないのに...」

「ふふん!」

 

 将来プリパラに行きたい、アイドルになりたいと思うみかんはもちろん、憧れこそすれ、自分にはアイドルなんてできないな、と思っているあろまでさえも、周りにはプリチケを持っている同年代が居ないからか、少女の特異性を薄々と感じ取り、目を輝かせていた。

 二人の反応は少女にとっても満足のいくものだったのか、えへん、と胸を張っている。

 

「わたしね、お友達いっぱいつくって。いっぱいライブして、すごーいアイドルになるの! でね...」

 

 少女は顔を伏せた。やがて顔を上げ、二人をじっと見つめた。口は真一文字に結ばれ、何か大事なことを言おうとしている、と幼い二人にも理解できた。

 

「ふ、あろまちゃんとみかんちゃんとね、いっしょにアイドルやりたい!」

「え...」

 

 思わずあろまは声を溢した。いつも「おうたのじかん」ではうまく歌えないし、少女と仲良くなれたのだってみかんが間にいたからで、アイドルなんてできないと思っていた。きっと少女もそう思っているだろうと、会話の中でぼんやりと思っていたのに。

 

「わぁ...もう、今日はすごいの、いい日なの!ジェル―!」

「みかんちゃん?」

「あろま、ゆず。みかんもね、今日言おうと思ってたの。プリチケはないけど、いつかプリチケがとどいたら!みかんと、あろまと、ゆずで。三人でアイドルやるのー!」

「えっ」

 

 再びあろまは声を溢した。いやまさか。保育園で出会った親友みたいなみかんにまでアイドルと誘われる?あれ、もしかしてわたしって意外とアイドルになれるのか?...いやいや、無理無理。引っ込み思案だし恥ずかしがり屋だし、と余計混乱する。

 

「み、みかんちゃんもおんなじこと思ってたんだぁ!よかったぁ!ね、ね、あろまちゃんもいーい?」

「あろまならアイドルなんてちょちょいのちょい、なの!」

「えっ...いや...わたし、その、大きい声で歌えないから...」

 

 アイドルなんて無理だよ、という言葉は、膝のあたりをぎゅっと握って言わないようにした。二人を落胆させたくなかったのか、わかっていても、自分がアイドルになりたいことを諦められなかったのか...いずれにせよ、口に出すことはできなかった。

 

「そっか...じゃあいいや!」

「でも...」

「わたしは三人がいいから!それにね、まだ二人ともプリチケないじゃん!もうちょっとお姉さんになってからだよ!」

「....うん」

 

 「やーなーのー!」と暴れるみかんの口を押えながら少女がいうと、あろまはほんの小さく頷いた。

 

 この件以降、少女がプリチケを手に入れたことを話すことはなくなった。テレビではそふぃという子が同じく幼いながらもプリチケを手に入れたようで、天才少女と持てはやされている。少女は子供らしく羨ましかったが、彼女が目指すのはお友達を大事にするアイドル。大事なお友達であるあろまとみかんを置いてまで、一人プリパラに向かう気にはなれなかった。

 

 ―――しかし、数か月後。園内のお楽しみ会で催された劇で、悪魔役をあろまが担当し、「666」の意味と「六月六日」という己の誕生日を関連付けた結果、悪魔キャラに覚醒し、逆にあろまから二人をプリパラでアイドルになろうと勧誘する羽目になろうとは、少女には見抜くことはできなかった。

 

「われとともに、プリパラで頂点を目指そうぞ!」

「もちろんなの!あろまとみかんとゆずなら、誰よりもすごいアイドルになれるの!」

「うん!そしたらいっぱい、お友達出来るね!」

 

「われは、悪魔として!」

「みかんは、天使として!」

「ゆずは...」

「わたしはわたしだよ?」

「...いや...うむ...じゃあ...ゆずは、人間として!」

 

「ここに、契約は結ばれた!」

 

 三人で手を取って結んだ。所詮、口約束だ。保育園児の戯言だ。けれど、何より深い契約だ。

お絵描きが得意なみかんに、神アイドルになった三人を描いてもらう。

 

 左には、天使のみかん。

 右には、悪魔のあろま。

 真ん中には、そんな二人の手を取って、笑顔を浮かべる女の子。

 

 きっと誰よりも強固に契られた、天使と悪魔と人間の、アイドルユニット「アロマゲドン」。

 

 契約はこうして結ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在。

 

「ダークネス!悪魔のしもべたちよ、呪われるがよい!」

「シャイニング!みんな天の子たちなの!呪い、キャンセルなの!」

「........」

「プリパラの門をくぐるもの、すべての希望を捨てよ!」

「ううん、魂は救われるエンジェルー!」

「.......」

「「あろまとみかん、そしてゆず!天使と悪魔が、ゆずたち人間を天国に連れてゆくの!」

「いや地獄行き!」

 

天使と悪魔、そして人間。異色のアイドルユニット、「アロマゲドン」。

天使が人々に救いを、悪魔が呪いを。そして、私達と同じように、二人の間、周りを人間が振り回されるように踊る。

 

「きゃー!あろまちゃーん!」

「呪ってー!」

 

「みかんちゃーん!」

「笑顔がステキ―!」

 

「ゆずちゃん....今日も踊りが美しい...」

「ゆずちゃん喋らないけど、そこがいい!」

 

ライブが終わる。悪魔と天使が歌い、人間が踊る。このコンセプトに惹かれるものも少なくなく、またライブの質もいいことから、すぐにいいねは集まる。

 

「いいねが加算され、アロマゲドンはランクアップして、「ちゅうもくのアイドル」になりました!」

 

「もう「ちゅうもくのアイドル」に!?」

 

「アロマゲドン、デビューしてから、ものすごい勢いでランクアップしています!」

 

そう驚いたのは、「SoLaMi♡SMILE」の「La」、真中らぁら。

驚くのに無理もない。「ちゅうもくのアイドル」を達成するのに、というより、研究生クラスを抜けるのに結構な苦労を要した。まあ、個々の個性が強すぎたせいかもしれないが...。

 

「いやー、アロマゲドン。今日もナイスクマ―!」

「闇に満ちつつ光輝いているウサー!」

「えっ!?」

「すっかりファンになってるぷりー!」

 

 本来らぁら達のマネージャーであるはずのクマや、ライバルの「Dressingpafé」のマネージャー・ウサギでさえもすっかりアロマゲドンのファンのようで、みれぃも流石の状況に叫ばずにはいられない。

 

「エーンジェル―!天国に行くのは、あーっという間なのー!」

「いや、「あっという間」ではない...」

 

えっ、とか。どういうこと、などざわざわする。一瞬待ってからあろまは言い放つ。

 

「あっという...「あく」ま、だ!」

 

「さっすがー!」

「凄い伝わる!」

「悪魔イケてる!」

「天使と悪魔、そして人間!」

 

あーろまーげどん!あーろまーげどん!

「悪魔」ギャグで冷めたかと思いきや、まさかの熱狂ぶり。

すごい、すごいぞ黒須あろま。悪魔キャラを666冊分考えた御仁は流石違う!

 

「ドレッシングパフェ!」

 

マスコットであるネコが近づく中、ステージであろまは呼びかける。

 

「どうだ、我がチームは。なんだったか、我らに人間は要らないと?」

「そんなことないの!天使と悪魔は人間居てこそ、なの!」

「その通り。まあ下らぬ言いがかりだったようだがな、でーびでびでび!」

「ま、今なら水に流してやろう!どうだ、予言の書の示すドリームチーム、入りたくなったかな?」

 

口調こそ悪魔キャラを貫いているものの、前半の言葉はひどく真剣だった。後半の言葉は明るい口調のものではあったが。

 

「....いいや、時期尚早...」

「そう言わずに、入れてもらったらどうウサ?」

「ウサギさん!?」

「そろそろ五人チームを決めないといけない頃ウサー。幸い向こうのゆずはバックダンサーとしてカウントされるみたいウサ。ドリームチーム、アロマゲドレッシングパフェ...!ネコ姉さんとボクのダブルマネージャーも悪くないウサー!」

「クマキーックッ!!」「ぐへぇ!」

「ネコ姉さんを独り占めするつもりクマか!」「ぶほぉ!」

「許さないクマよー!」「ウサー!」

 

 なにやら醜い争い(見た目だけはファンシーなのが拍車を掛けている)を繰り広げているマスコットたちをよそに、そらみスマイル、ドレッシングパフェの両者はただ慄いていた。

 

そもそも、何故、あろまたちアロマゲドンがドレッシングパフェに絡んでいるのか。

それは、ほんの数日前に遡る。

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