マーマレードと小さな吸血鬼   作:時雨オオカミ

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カーミラの娘、ローラ

 とある国、とあるところに、吸血鬼の少女が住んでいました。

 

 少女の年頃は十九ではありましたが、幼き容貌で金色のふわふわとした緩くウェーブのある長い髪を垂らしている女の子です。

 

 その耳がほんの少し上向きで、その瞳が夕暮れの空のような赤色をしている以外にはおかしなところのなにひとつない、普通の女の子に見える容姿をした吸血鬼でした。

 

 しかし、その少女はとても恐ろしく、凶暴で、その体躯に似合わず生き血を毎日羊一頭分ほど飲まなければならない怪物なのでした。

 

 ――そんな風に始まる本の一ページを見て、少女は眉を顰めた。

 

「失礼ね、カップ一杯もあれば十分よ」

 

 コトリと音を立て、彼女はカップをテーブルの上に置く。

 同い年の少女達よりもよほど小さな手で覆われたカップは、大人が使うものというよりも子供が使うもののように小さく、そして底が浅い。

 

 中に入っているのは赤色の液体である。

 

 憂いを帯びたような表情で唇を尖らせ、少女は拗ねたように本を閉じた。

 

 赤いルージュを引いた唇から小さな牙が覗く。金のふわふわとした髪からは上向きになった長い耳が伸びている。

 

 そう、少女は本に載っていた吸血鬼の少女そのものだったのである。

 

 彼女は閉じた本をポイッとテーブルの上に置いて窓の外に目を向けた。そしてすぐさま身を起こし、窓に張り付いた。

 

「あら、嫌だわ。また羊なんて持ってきて」

 

 大きなリボンカチューシャを頭に飾り付け、幼子が好むようなフリルたっぷりの黒いゴシックドレスに、赤く塗った長めの爪、幼い容姿に美しさが上乗せされた美少女……ローラ。いいや、今はオーラルと名乗っている彼女は窓に向かって乗り出したままため息をついた。

 

 彼女の住む木製の屋敷の前に祭壇が作られ、死んだ羊が無造作に打ち捨てられていたのだ。彼女への貢物として届けられるそれを、オーラルは非常に持て余していた。血は腐ってしまうし、羊の血はあまり美味しくないのだ。

 

「ハンターにさえ見つからなければいいのに、どうして吸血鬼だってバレたのかしらねぇ」

 

 悩む彼女の髪がさらりと動く。長い耳が主張している……隠していないからだ。

 

「不思議ねえ、こんなに普通の女の子なのに」

 

 特にどこも隠していないからである。

 

「まあいいわ! 悪戯もせず大人しくしてればなんとかなるわよ! ハンターが来ても誤魔化せばなんとかなるわ!」

 

 隠していないのでバレバレである。

 しかし、オーラルは非常に楽観的であった。

 

 そうして小さな吸血鬼が生活をしているある日、いつもとはまた違ったプレゼントが屋敷の前に届けられた。

 

「うそー」

 

 それは、彼女よりもいくらか幼い、可愛らしい女の子である。

 ふわふわの蜂蜜色の髪は薄汚れ、足が故意に折られていて逃げることも叶わぬようにされた女の子。

 オーラルを見上げる子供のグリーンの瞳は絶望一色である。

 

「うん、仕方ないわね。仕方ないわぁ。連れて行くしかないものね」

 

 そんな子供を見てオーラルは、ルージュの乗った唇をペロリと舐める。

 

 彼女は己を吸血鬼とした亡きカーミラとよく似ていて、少女趣味の持ち主であったので、この意外なプレゼントには喜びを感じていたのである。

 

「美味しくいただいちゃいましょう。うふふふ、怖くないわよ〜? 治療して美味しいものいっぱい食べさせてあげるから、美味しい血をたっくさん作ってちょうだいね」

「ひっ」

 

 ますます怯える少女。

 そして、手をわきわきとしながら妖しく笑うオーラル。

 

 少女を姫抱きにし、背中から小さなコウモリの翼を生やしたオーラルはその場から「トンッ」とジャンプして空中に浮かび上がる。

 それから一直線に自室の窓へと向かって行ったのであった。

 

「あ、玄関閉め忘れたわ!」

 

 台無しである。

 

「さーて、どうしてやろうかしら」

 

 こうして、二人の生活は唐突に幕を開けるのであった。




なろうからの移植です。
百合バッドエンド作品なので注意。

なろうで自分の作品漁ってたら、オリジナルで百合書いてるとバッドエンドにしかならないな……と己の癖にドン引き
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