マーマレードと小さな吸血鬼   作:時雨オオカミ

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悩み事

 それから、オーラルは何度か教会と交流を続けていた。

 悪魔とされる吸血鬼は、教会にとって敵にあたる存在である。だというのに、教会のシスター達はいつでも彼女達を招き入れ、そしてもてなした。

 

 ことさらマーマレードに対しては、哀れな子供という立場を鑑みて可愛がっている様子なのである。

 

 やがてオーラルも教会はともかく、シスター達のことは信用するようになった。それは無意識のうちか、それとも絆されたのか。警戒することも最低限になり、一人でマーマレードが街に遊びに行くときも教会が守ってくれるからと、彼女が出かけている間に屋敷の掃除をするということもできるようになっていた。

 

 勿論のこと、シスター達がマーマレードに手を出す素振りもなく、突然オーラルが留守にしたときも、彼女達はしっかりとオーラルの愛し子を庇護し、何度も無事に彼女の元へ帰ってきた。それは確かな信用の積み重ねである。

 

 教会の荘厳な鐘の音と、その神聖な場所ではしゃぐマーマレードの姿。

 

 屋敷の窓から、その驚異的な視力を持って愛し子の様子を見ていたオーラルは悩んでいた。

 

 もうすぐ、マーマレードが彼女の屋敷に初めて訪れた日なのである。季節はひとまわりし、オーラルが決めたマーマレードの誕生日が迫ってきていたのであった。

 

 以前からマーマレードのみを置いて出かけることもできるようになったが、それは日帰りできる場所だからである。

 

 彼女のためにとオーラルが計画しているのは、遠方にある洋菓子店の老舗に直接ケーキを買いつけに行くという長旅である。

 夕方から夜間、そして分厚い日除けの傘がなければ彼女は堂々と日の元を歩くことができない。

 

 長旅であると同時に、移動時間も限られている彼女がマーマレードの誕生日に間に合わせるには、数日の余裕を持って出かけなければならなかった。

 

 そして、予定していた時間で現地から帰るということもできるかどうかは保証できないのだ。すなわち、シスター達に三日空けるのでマーマレードを頼むと頼んだとしても、その期日までに帰ることができるかは分からないのである。

 

 しかし、オーラルはどうしても愛し子には、人々に人気のある美味しい特別なケーキを食べさせてやりたかった。

 

 屋敷の窓から見ることのできるマーマレードは無邪気に遊び、そしてシスター達と共に礼拝の真似事などをしている。

 

 しかしいざ礼拝に行こうとした彼女が突然立ち止まり、シスター達が慌ている姿がオーラルの視線の先にあった。どうやら、マーマレードにオーラルが履かせてやった赤い靴のヒールが折れてしまったようだった。

 

 その場で泣き始めるマーマレードに、シスター達がわらわらと集まりなだめる姿がそこにある。

 

 これでは後で屋敷に帰ってきた際、「ごめんなさいなの」と言いながら大泣きするのは確定事項だ。

 

 オーラルはたくさんあるお洒落な靴の中の一足が壊れたところで気にしないが、マーマレードにとってはオーラルからの大切な贈り物である。気に病んでしまうだろう彼女にどう声をかけ、どう慰めてやろうかと、先程の悩みを置いてオーラルは現実逃避し始める。

 

 やがて日が暮れる頃。

 

 マーマレードには新しいお揃いの靴をやって泣き止ませようと決め、そしてずっと悩んでいた『屋敷を数日空ける』かどうかという問題に向き合う。

 

 マーマレードが帰ってくるまで彼女は悩みに悩み、ついにオーラルは決断する。

 

「行きましょう。そうよ、シスター達には多めの日付を伝えればいいだけだものね」

 

 どこか胸をくすぐるような不安を抱えながらも、漆黒のドレスに身を包んだ吸血鬼はそう呟いていた。

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