FGOではバレンタイン、ニケではリコリココラボに新章開放と……。
ちょっと現実が忙しかったのもあって、現状全く追いつけていません。
時間が……時間が足りない……!!
ノイズが走る。
網膜を焼くような白色が、視界を覆いつくす。
ミルクを零したような、あるいは霧の底に沈んだような、境界のない世界。
まるで、意識だけが肉体を離れて浮遊し、眼下の舞台を見下ろしているかのよう。
幕が上がる。
そこは、いつかの日に休息へ立ち寄ったキャンプ地だった。
風の音も、土の匂いも、鮮烈なまでの色彩も、すべてが痛いほどに懐かしい。
そこで「私」は、優雅に紅茶を傾けていた。
汚れ一つない純白のドレスを纏い、優雅に微笑んでいる。
視界の端で、スノーホワイトがセブンドワーフの整備に没頭していた。
その眼差しは、手元の武器以外には何物も映していない。周囲の存在を一切拒絶するかのように、研ぎ澄まされた空気を纏っている。
「……おちびちゃん?」
彼女の背後から、赤い影が忍び寄る。
「また整備か?ホントに飽きないねぇ」
「……レッドフード。邪魔をしないでください。次の作戦に必要な作業なんですから」
スノーホワイトは振り返りもせずに答える。
「堅苦しいこと言うなって。ほら、ちょっと休憩しようぜ」
「結構です。今は集中しているので」
「つれないねぇ。人生には潤いが必要だろ?鉄の塊ばっかり磨いてると、心まで錆びちまうぞ」
レッドフードはニカっと笑うと、嫌がるスノーホワイトの首に腕を回した。
「ぐっ……、く、苦しいです!離してください!」
「あはは!スノーは反応がいいな。よしよし、このまま一曲聴くまで離してやらないからな~」
「うぅ、レッドフード……うるさいです、近いです!」
じゃれ合う二人。あまりに無邪気で、戦火の只中にあるとは到底思えない。
そんな二人のやり取りを見て、「私」は呆れたように溜息をつきながらも、口元が緩むのを抑えきれなかった。
視線を巡らせれば、空気を裂く鋭い音が鼓膜を震わせた。
少し開けた場所で、紅蓮が一心不乱に愛刀を振るっている。汗が頬を伝い、彼女の白い肌を濡らす。その姿を、熱を帯びた瞳で追う者が一人。
「ふぅ……ん?」
刀を納めた紅蓮が、まとわりつくような視線に気づいて振り返る。
「何だ、ラプンツェルか。また見ていたのか?」
「は、はい……。紅蓮のその、迸るような躍動感が、とても……刺激的で」
ラプンツェルは頬を上気させ、祈るように両手を組んでいる。その瞳の潤みは、信仰心とまた別の情熱がない交ぜになっていた。
「左様か。やはり剣の道は奥深い。ただ振るうだけで、見る者の心をも揺さぶるとはな」
紅蓮は満足げに頷き、汗を拭いながらラプンツェルに手招きをした。
「どうだ、ラプンツェル。見ているだけでは退屈であろう?君もこちらへ来て、
その瞬間、ラプンツェルの肩がビクリと跳ねた。
「えっ!?か、身体を使う……喜び……!?」
「うむ。凝り固まったままでは毒だ。こうして無心になって汗を流せば、存外気持ちのいいものだぞ」
「き、気持ちのいいもの……ああっ!そ、そんな、白昼堂々!でも、紅蓮がそうおっしゃるなら……私、覚悟を!」
「何をブツブツ言っておる?さあ、まずはこの木刀を握ってみたまえ。腰を入れるのがコツだ」
「こ、腰を!?ああっ、なんて破廉恥な!」
二人の会話は決して交わることなく、噛み合わないまま加速していく。
―――なんと騒がしく、なんと愛おしい時間。
その喧騒の中心で、リリーバイスと指揮官は簡易的なテーブルの上に地図を広げていた。
「……はぁ」
地図の上に置かれた書類を見て、指揮官は重苦しい溜息をついた。
「まただ。補給物資が減らされた」
「また?先週も減らされたばかりじゃない」
「ああ。上の連中は、我々が無限に戦い続けられるとでも思っているらしい。糧食はともかく、弾薬まで削られるとはな……」
指揮官の嘆きはもっともだった。
私たちの戦果に反比例するように、待遇は悪化の一途を辿っていたから。
だが、リリーバイスはにっこりと微笑んだ。不安など微塵も感じさせない、太陽のような笑顔で。
「大丈夫、減った分は私がカバーすればいいんだから。ほら、私はみんなと違って素手で戦えるし、消耗品は少なくて済むでしょう?」
彼女は力こぶを作る仕草をして、屈託なく笑う。
そのあまりに脳筋……いえ、直情的すぎる解決策に、指揮官はボソリと呟いた。
「……頼もしいが、さすがはメカゴリ」
―――ドゴォッ!!
彼が言い終える間も無く、重い打撃音が響いた。
リリーバイスの拳が、指揮官の鳩尾に深々と突き刺さっている。
「が、はっ……!?」
「あら、ごめんなさい。虫が止まってたから、つい」
リリーバイスは笑顔のまま、ゆっくりと拳を引いた。指揮官は声もなくその場に崩れ落ち、ピクピクと痙攣している。……普通の人間ならば即死していただろう。
「もう、指揮官ったら大袈裟なんだから。……で、次の作戦の話だっけ?」
のたうち回る指揮官を放置して、彼女は何事もなかったように地図へ視線を落とした。
その光景に、私は呆れを通り越して笑みをこぼしながら歩み寄る。
「リリス、指揮官が死んでしまいますよ」
「平気平気、私たちの指揮官は頑丈だから」
「……だ、誰か、た、すけ……」
断末魔のような唸り声を出す指揮官には目もくれず、こちらへ振り返ったリリーバイスが「私」に笑いかける。その笑顔があまりにも眩しくて、世界を照らす光そのものに思えた。
「私」は、ここで満足していた。
この場所が、この仲間たちが、「私」のすべてだった。
自分が何者であるとか、これから何を得たいとか、そんな欲求が霞むほどに、ただ「ゴッデス」の一員であることが誇らしかった。
最強の部隊、最高の仲間、最上の栄誉。
「私」が
あの日々は、永遠に続くと信じていた。
けれど、私は知っている。
この温かな日常が、砂上の楼閣に過ぎなかったことを。
終わりの時は、刻一刻と迫っていたことを。
笑い声が遠のいていく。
白みがかった世界に、ノイズが混じり始める。
レッドフード、リリーバイス、指揮官……。
どうして、私を置いていったのですか?
どうして、私だけが……。
「――――マスター?」
不意に投げかけられた声が、私を現実へと引き戻した。
意識を覆い隠していた膜が剥がれ落ち、周囲の喧騒が一気になだれ込んでくる。
目の前には、瓦礫の山に悠然と立つクリームヒルトの姿があった。
「……どうかしましたか?」
「ひとまず、魔力の回復は完了したわ」
彼女はそう言うと、背に隠していた左手を掲げた。
その手には、バスケットボール程の大きさはあるラプチャーのコアが握られていた。かつては不気味な赤光を放っていたであろうそれは、今やただの黒い球体と化していた。
彼女が指先に力を込めると、乾いた破砕音と共にコアは粉々になった。
「そうですか、……お疲れ様です」
「あーあ、機械の魂なんて食べるもんじゃないわね。鉄錆みたいな味がして最悪よ」
「文句を言わないでください。今の状況では、それが最上の糧です」
「分かってるわよ。……で?」
クリームヒルトは魔剣の切っ先を下げ、瓦礫を滑るように降りてきた。
私と視線の高さを合わせると、その切れ長の瞳が値踏みするようにこちらを覗き込んだ。
「さっきまで随分とボーッとしていたようだけど、どうしたの?戦場のど真ん中で隙を晒すなんて、らしくないじゃない」
「……」
不躾な指摘に、私は口をつぐんだ。
先ほどまで浸っていた、遠い昔の記憶。
それを彼女に説明する必要などないし、理解されるとも思えない。
「あなたには関係のないことです」
「そう……」
にべもなく答えたが、彼女は眉ひとつ動かさなかった。
会話はそこで終わるはずだった。けれど、彼女は何かを思いついたように続けた。
「でもまあ、せっかく
「望み……?」
「ええ。あなたの行動にとやかく言うつもりはないけど、私の霊基を預けるマスターよ?聖杯戦争に参加する以上は、最終的な目標を明確にしておいた方が良いんじゃないかしら?」
望み。私の願い。――――そんなものは問われるまでもない。
「……私はただ、あの頃に、ゴッデスの仲間たちと過ごしていた時間に戻りたいだけです」
ぽつりと、こぼれ落ちるように言葉が出た。
脳裏を過るのは、やはりかつての仲間たちとの記憶。
スノーホワイト、レッドフード、紅蓮、ラプンツェル、リリーバイス、そして指揮官。
あの笑顔が咲き誇る場所へ。
私が私でいられた、あの温かな時間へ。
あの輝きの中に、もう一度。
……つい、誰にも触れさせたくなかった本心を露呈してしまった。
クリームヒルトは一瞬だけ虚を突かれたような顔をして、深く溜息を吐いた。
「悪いことは言わないわ。――――やめておきなさい」
「……は?」
耳を疑う言葉に、思考が凍りつく。
今、彼女は何と……?
冷ややかな怒りが鎌首をもたげるのを感じながら、私は彼女を睨みつけた。
「あなたに、一体私の何が分かるというのですか!!」
喉が裂けんばかりに叫んでいた。瓦礫に反響する自身の金切り声が、耳に痛い。
けれど、彼女は眉ひとつ動かさなかった。
「知らないわよ。あなたが話してくれないのだから」
クリームヒルトは、つまらなそうに視線を外す。
「でもね、覆水は盆には返らない。こぼれ落ちた水滴を、どうやってグラスに戻すつもり?」
「……」
「一度過ぎた時間を取り戻すなんてことは、もはや魔法の領分よ。聖杯が万能だとしても、それはあくまで『手段』の代行装置。設計図もないのに城を建てろと願われても、聖杯だって困り果てるだけだわ」
彼女はそう言い放つと、瓦礫の山を爪先で小突いた。カラカラと乾いた音が鳴り、小石が崩れ落ちていく。
反論したくても、言葉が見つからなかった。彼女の言うことが、あまりにも正論だったから。
行き場のない悔しさを噛み殺し、私は彼女から顔を背けることしかできなかった。
「……ならば、どうすればいいと言うのです」
「あなたが過去にどんなことがあったかは知らない。けれど、あなたが本当に渇望しているのは、本当に過去を取り戻すことなのかしら?」
背中越しに投げかけられた言葉に、心臓が跳ねた。
――――私が、本当に求めているもの。
瞼を閉じる。
先ほどの白昼夢が、再び脳裏に浮かび上がる。
どこまでも晴れ渡る青い空。木漏れ日とそよ風に揺れる木々。どこまでも穏やかな時間。
けれど……もし私が奇跡的にあの時間へ戻れたとして、そこに誰もいなかったら?
風の音だけが響くキャンプ地で、私ひとり、永遠に変わらない景色の中に立ち尽くすとしたら?
――――ゾクリと、背筋が凍った。
違う。私が欲しているのは、本当に求めているのは、あの『美しい時間』ではない。
レッドフードが、リリーバイスが、指揮官が、私の隣に並んで笑っていてくれたなら。
そしてピナが、私のかけがえのない友人として、今もそばにいてくれたなら。
強張っていた肩から、力が抜け落ちていく。
「……確かに、あなたの言う通りかもしれません」
私はゆっくりと、彼女の方へ振り返った。
「私は、『あの時間』に戻りたいわけではありません。私はただ……大切な仲間たちを、もう二度と会えないあの人たちを、取り戻したいだけなのです」
懺悔のような独白。
クリームヒルトは、それを無言で受け止めた。
否定も、嘲笑もしない。ただ静かに、私という存在の輪郭を測ろうとしているかのように。
「……そう」
彼女は短く息を吐くと、手にした魔剣を粒子に変えて霧散させた。
そして瓦礫を踏みしめると、私のすぐ横へと並び立った。
「なら、あなたは私のマスターに相応しいわ」
クリームヒルトが、至近距離から私を見上げる。
その切れ長の双眸が、私の顔を―――私の魂の底を覗き込むように細められる。
「その願い、その怒りは、人として正当なものよ」
「………あなたも、大切な人を取り戻したいと、そう願ったことがあるのですか?」
彼女の瞳の奥に覗く昏い炎を見て、私は思わず問いかけていた。
クリームヒルトはふっと自嘲気味に笑う。
「ええ。……どれだけ嘆いても、どれだけ世界を呪って復讐を果たしても、結局あの人は帰ってこなかったけれど」
彼女は一歩、前へと踏み出す。
瓦礫の山に立つその背中は、あまりに華奢で小さい。
「だから、あなたの気持ちは分かるわ。だって私と出会うまでは、ただ復讐だけを糧に生きてきたんでしょう?」
「………止めないのですね」
「ええ、動機がはっきりした以上はね。それとも、止めて欲しかった?」
「そんなつもりは……」
「じゃあ、決まりね」
クリームヒルトは右手を虚空にかざし、再びバルムンクを顕現させた。
烈火のごとき魔剣の輝きが、彼女の顔を下から照らし出す。
ニヤリと、唇が弧を描いた。
「例えどんな結末が待っていようと、私はあなたの剣となりましょう」
「―――なるほど、バーサーカーのマスターはピルグリムでしたか」
無機質な電子音が微かに響く薄暗い部屋の中。
壁一面を埋め尽くすモニター群が放つ蒼白い光に照らされながら、ジエンは独りごちた。
画面の向こうには、瓦礫の山で佇む二つの影――ドロシーとクリームヒルトの姿が鮮明に映し出されている。
「これは厄介ですなぁ。マスターを先に叩くんはほぼ不可能。おまけに、サーヴァントはヘレティックを一撃で葬る程の力を持ち合わせているなんて……」
指先で顎を撫でながら、ジエンは椅子を半回転させて背後を振り返った。
そこには、殺風景な部屋には似つかわしくない、ふくよかな甘い香りが漂っていた。湯気を立てる大鍋と、それを木勺で丁寧に掻き回す魔女。そして、彼女の足元に群がる数匹の子豚たち。
「キャスター」
「なんだい、マスター?」
鍋の中身――麦やチーズなどを煮込んだ乳白色の粥――キュケオーンを器によそいながら、キルケーが小首を傾げる。
「子豚たちと戯れるんも、ええ加減にしとくれやす」
「別にいいじゃないか。この子達だってお腹を空かせてるんだよ?私がお世話してあげないと」
彼女は慈愛に満ちた母親のような笑みを浮かべ、足元で鼻を鳴らす子豚の一匹にスプーンを差し出した。とろりとした麦粥が、湯気と共に甘く香ばしい匂いを放つ。
「はい、あーん」
子豚がそれをハフハフと嬉しそうに食べる様子を、キルケーは満足げに見つめている。
ジエンは呆れたように一つ溜息をつくと、再びモニターへと向き直り椅子に身を沈めた。
「……とはいえ、これでひとまずは全ての陣営が揃うたことになりますなぁ」
「ん?どういうことだい?」
キルケーが不思議そうにジエンの背中を見る。
「どうもこうも、聖杯戦争の全参加者がひとまずアークに集結したっちゅうことです」
「でも、今のところ姿を見せたのはライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの4騎だけだろう?セイバー、アーチャー、ランサーがいないじゃないか」
指折り数えながら首をかしげるキルケーに対し、ジエンの薄い唇が三日月の形に歪んだ。
「ああ、心配せんといてください。セイバー、アーチャー、ランサーは現れまへん」
「どうして?」
「
スプーンを咥えたまま、キルケーの目が点になった。
「……ホントに?」
「ほんまどす。うちの力を疑うてはりますのん?」
「いや、そういうわけではなけどさ……どうしてそんなことを?」
理解が追いつかないのか、キルケーは首を傾げたまま困惑している。
ジエンは音もなく椅子から立ち上がると、カツ、カツ、とヒールの音を響かせて部屋の中央へと歩み出した。
「聖杯戦争において、セイバー、アーチャー、ランサーは三騎士と呼ばれて、『対魔力』など優良なスキルや能力を持つサーヴァントが選ばれるんどっしゃろ?」
「まあ、そうだね」
「そんで、基本的には英雄譚や神話の中でも主人公や強者に近い人物が選ばれやすいと」
ジエンはそこで足を止め、モニターに映るドロシーたちの姿を一瞥した。
「うちはおそらく、三騎士に選ばれるようなサーヴァントとは相性が悪いんどすわ。特に、清廉潔白な聖者のごとき騎士や、唯我独尊で暴君のごとき覇王なんかを引いてしもたら、仲ようするなんぞ不可能でしょうし。おんなじように、そんなサーヴァントが敵に回るんも避けたい」
くるりと振り返り、キルケーに向かって両手をパンッと打ち鳴らす。
「それなら、最初っから召喚されんようにしてしまえばよろしい」
「……なるほど、ルーラーが召喚されるわけだ」
キルケーは空になった器を床に置くと、長い睫毛を伏せ、ゆっくりと持ち上げた。その瞳孔が、射抜くようにジエンを捉える。
「三騎士クラスを事前に排除するなんてルール違反、システム側が見逃す筈ないものね」
「ええ、うちとしては上手くやったつもりでしたけど……やはり、そうは問屋が卸しませんでしたなぁ」
ジエンは白磁のような指先で自身の頬をなぞる。
ふう、と漏らした吐息は芝居がかっており、その唇は悔やむどころか三日月の形に歪んでいた。
「とはいえ、おかげでうちは最高の魔女とお会いできた訳ですし、結果オーライ言いますやろ」
「……それはどうも」
キルケーは短く答え、背中の鷹の翼をふわりと広げて立ち上がる。
「でもね、聖杯戦争は何が起こるか分からないよ。実際、
ジエンの指がピタリと止まる。
「……一理ありますなぁ」
「君がどんな風にシステムを構築したかまでは知らないけど、今後もイレギュラーが発生する可能性は十分ある。だから、備えあればなんとやらだ」
キルケーは「よいしょ」と足元の鍋を抱え上げる。
彼女が歩き出すと、足元で身を寄せ合っていた子豚たちが「ブーブー」と鼻を鳴らしながら一列になって後を追い始めた。
「私は自室に戻るよ。どうせ、今外で起きてることには干渉しないつもりなのだろう?」
「ええ、そのつもりです」
「なら、私たちは地道に戦力を貯えるとしよう。……ほら、行くよ」
パタパタと蹄の音をさせて遠ざかる背中をじっと見つめながら、ジエンは声を投げた。
「……あ、そうそう。キャスターはん」
「なんだい?」
「
扉を開けようとした手を一度引っ込め、キルケーは振り返った。
ニッと吊り上がった口元から、白い歯が覗く。
「今のところは順調さ。試作品も含めて10体は完成してる。コアの制御も、想定していたよりも簡単に済みそうだ」
「……それは重畳です」
「じゃあ、先に失礼するよ」
キルケーと子豚たちが退出すると、部屋には再びファンの低い駆動音だけが残された。
ジエンはゆっくりと振り返り、再び壁一面の蒼白い光と対峙した。無数のモニターが、彼女の立ち姿を青く染め上げる。
「……ゲートキーパーから解析した情報によれば、聖杯戦争は基本的に七つのクラス、七騎のサーヴァントで行われるもの。セイバー、アーチャー、ランサーはうちがシステム的に排除した以上、システムが機能不全を起こさん限り、三騎士が召喚されることはあらしまへん」
彼女はデスクの端に歩み寄り、乱雑に積み上げられた書類の束に視線を落とした。
「……せやけど、過去の聖杯戦争には七つのクラスに該当せん者もいたと言いますし。七つのクラスが埋まらん以上、システムが反作用としてこちらが把握してへんクラスを呼び出す可能性も捨てきれへん、か」
ジエンの脳裏に、白銀の甲冑に身を包つつみ、瓦礫の上で旗を掲げる少女の姿が過った。
「
ぽつりとこぼれた独り言は誰の耳にも届くことなく、冷房の風に吸い込まれて消えた。
今回は少し短めと相成りました。
最近あまり執筆に時間を割けられない日が多くて、次回の投稿も変則的になるかもしれません。
投稿時間は基本的に20時としていますので、週末に投稿がなかった場合は別の日にその時間帯をチェックしていただければ幸いです。
それではまた次回!