征服王のマスターになった量産型ニケの話   作:福梅

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まだ二話しか投稿していないにも関わらず感想を書いてくださった方々、そして拙作にも関わらず高評価を付けてくださった方々、本当にありがとうございます!


まやかし戦争

 翌日、私は再び鉛色の空の下にいた。

 錆びついた鉄骨の墓標と、風化し崩れ落ちたコンクリートの残骸。視界の限りを埋め尽くす瓦礫の海は、これまでと何ひとつ変わらぬ無常な光景としてそこにあった。唯一の違いといえば、頬を撫でる風に含まれた鉄錆の匂いが、以前よりも幾分か冷ややかに感じられることぐらいだろうか。

 

「いい、08?今日は絶っっっ対に単独行動は禁止だから!」

「分かってるってば。もうあんな無茶はしないよ」

「本当かなぁ……。また変なガラクタに目を奪われてフラフラといなくなったら、今度こそ置いていくからね!」

 

 先導するソフィーとリアから、これで何度目かになる釘を刺された。彼女たちの声音に滲むのは呆れ半分、そして隠しきれない安堵と心配の色だ。

 私は「はいはい」と苦笑で応じつつ、背負ったコンテナに回収したスクラップを放り込む。

 ガラン、という虚しい金属音が、死に絶えた都市の静寂に木霊した。

 

 いつもの作業。

 いつもの徒労。

 アークを延命させるためだけの、終わりのない作業。

 だが、私の意識はここにはなかった。

 昨夜の――あの青白い偽物の月明かりの下で交わした、彼との記憶を反芻していた。

 

 

 

 

 

 

「さて、貴様と行動を共にする前に、ひとつ問うておきたいことがある」

 

 イスカンダルは空になったクラッカーの袋を無造作に握りつぶす。パンパンと掌を払うと、真紅の双眸で私を射抜くように見据えた。

 

「何ですか」

「マスター、貴様が聖杯に託す望みは何なのだ?」

「…はい?」

 

 唐突な問いに、私は首を傾げた。

 

「願いは何なのだと聞いておるのだ」

「……質問の意図が分かりません」

「とぼけるでない」

 

 イスカンダルは腹の底に響くような低い声で遮った。

 

「貴様がマスターに選ばれたということは、即ち、何かしら聖杯に託すべき渇望を抱いていたという証左であろう。無欲な者に聖杯は微笑まぬ。死を目前にして余を召喚した時――貴様が魂の底から叫んだ願いは何だったのだ?」

「…………」

 

 王の眼光に見据えられ、私は言葉を喉に詰まらせた。

 きっと、誤魔化しは通用しない。未だに納得はできていないが、この男はかの有名なアレキサンダー大王その人らしい。王として数多の臣下とその生き様を見届けてきた筈だ。私の奥に燻る火種を見逃すはずがなかった。

 私は観念して、あの瞬間の叫びを脳裏に蘇らせた。絶望的な包囲の中、ただ一つの未練として、世界に向けて吐き出した呪詛にも似た祈りを。

 

「……未来永劫語り継がれる、偉大なことを成し遂げてから死にたい、と」

 

 イスカンダルは無言のまま私を見下ろしていた。

 ……沈黙が痛い。口に出してみれば、なんと空虚で身の程知らずな言葉だろうか。

 じわじわと、身体の芯から居たたまれなさと羞恥が込み上げてくる。顔が熱い。

 

「ば、馬鹿らしいですよね。本当に、ただそれだけなんです」

 

 私は自嘲の笑みを漏らし、視線をアスファルトへ落とした。

 

「私みたいな量産型ニケでも、何か特別な存在になりたいだなんて……。歴史にも残らない、いくらでも代わりの利く消耗品が、英雄の如く語り継がれたいなどと……」

 

 ははは……。

 乾いた笑いが、喉の奥から漏れ落ちる。

 イスカンダルは、やはり黙したまま微動だにせず私を見据えている。

 

 否定してくれ。

 愚かだと笑い飛ばしてくれ。

 そうすれば、この身の丈に合わぬ夢を諦める踏ん切りもつくだろう。

 

「本当に、身の程知らずにも程が……」

「――いいや、違う」

 

 ガシッ。

 岩塊のような掌が、私の華奢な肩を鷲掴みにした。

 顔を上げると、そこには――快活な、太陽のような笑みを浮かべた王の顔があった。

 

「その感情は、英雄に焦がれる者ならば誰しもが抱く原初の焔だ。そして栄光ある死への渇望こそは、真の武人へと至る第一歩である」

 

 一切の嘲笑も、慰めめいた憐憫もなかった。

 彼はただ厳然たる事実として、私の在り方を肯定していた。

 

「よもや、こんな小娘が聖杯に託す望みが"栄光ある死"だったとはな。見直したぞ、マスター!」

 

 バン!バン!

 感極まったイスカンダルが、私の背中を豪快に叩いた。

 その一撃一撃がまるでハンマーで殴られたかのように重く、衝撃がフレームを走る。

 

「痛い!痛いです!!フレームが歪みますってば!」

「おおっと、すまんすまん。つい感極まってしまったわい」

 

 彼は悪びれる風もなく高笑いし、私の背を乱暴にさすった。

 ジンジンと熱を持って痛む背中に、薄っすらと涙が滲んでくる。けれど、その涙には、物理的な痛みとは別の――――胸の奥底から湧き上がってくる熱い何かが混じっていた。

 

 ―――認められたのだ。

 私の、誰にも言えなかった“野心”を。

 このちっぽけで分不相応な願いを、かつて世界を征服した王が「武人の第一歩」だと言ってくれた。その事実が、私のコアをこれまでにないほど激しく脈打たせていた。

 

 

 

 

 

 

「……08?また手が止まってるよ」

 

 ソフィーの声で、私は現実へと引き戻された。無意識のうちに、背中に手を回していたらしい。   

 そこには、あの男に打ち据えられた鈍い痛みの余韻が、確かな熱を持って残っている。

 

「なんでもない。さあ、どんどん集めよう」

 

 私は努めて明るく答え、次の廃材へと手を伸ばした。

 頭上の空は相変わらず重苦しく垂れ込めている。

 けれど今の私には、その雲の切れ間に、一筋の光明が見えるような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 回収任務を終え、私たちはアークへの帰路についていた。

 疲労で重くなった足を引きずりながら、エレベーターの降下音に耳を傾ける。隣ではソフィーとリアが他愛もない会話を交わしているが、私の頭の中は別の懸念で埋め尽くされていた。

 

(……彼はどうしているだろうか)

 

 今朝、出発する前のやり取りを思い出す。

 私は彼から「聖杯戦争」という概念について一通りの説明を受けた。

 

 ―――七人のマスターと七騎のサーヴァント。

 ―――万能の願望機を巡る殺し合い。

 

 事態が想像を絶するほど深刻であることは理解できた。だが、理解できたからといって、即座に対応できるわけではない。今の私には圧倒的に情報が不足している。誰が敵で、どこに潜んでいるのか。そもそもアークのどこまでがこの「戦争」の領域なのか。

 

『いいですか、私が戻るまでここでおとなしく待機していてください』

 

 私はそう釘を刺した。

 目立つ行動は控えること。

 不用意に他のニケや人間に接触しないこと。

 そうしなければ、A.C.P.U.や中央政府に目を付けられて大変な目に遭うだろうと。

 私の言葉にイスカンダルは鷹揚に頷いてみせた。

 

『うむ、心得た。此度の聖杯戦争、敵の規模も布陣も未だ霧の中だ。まずは静観し、状況を見極めるのが上策であろう』

『よかった、分かってくれて……』

『だが、ただ座して待つのも芸がない。貴様が留守の間、余は霊体化してこの街を少しばかり“視察”してくるとしよう』

『えっ?だ、大丈夫ですか?見つかったりしません?』

『案ずるな。霊体であれば感知されることはない。それに、地の利を得ずして戦はできんからな』

 

 そう言って不敵に笑った彼の顔を思い出し、私は小さく溜息をついた。

 言っていることは自体はもっともだ。サーヴァントとしての彼が、何も知らないマスターの私よりも戦術眼に優れているのは間違いない。

 それでも、胸のざわめきが収まらないのは何故だろう。まるで、爆弾の導火線に火がついたまま放置しているような、得体の知れない焦燥感が湧き上がってくる。

 

(……いや、信じよう。彼はああ見えて偉大な王様なのだから。軽率な真似はしないはず)

 

 そう自分に言い聞かせ、私は兵舎の扉に手をかけた。

 重厚な金属扉が開く。いつもの、オイルと汗と電子機器の排熱が混じった空気が――

 

「わっはっはっは!!見ろ!また爆発しおったぞ!」

「キャハハハハッ!エンターテインメント~ッ!」

 

 ――漂ってこなかった。

 代わりに私の感覚器を殴打したのは、甘ったるいスナック菓子の匂いと、耳を劈くような爆笑の渦だった。

 

「……は?」

 

 私は扉を開けた体勢のまま、凍りついた。

 思考回路がショートする。 目の前の光景が、現実のものとして認識できない。

 そこは、いつもの殺風景な共同部屋だったはずだ。

 だが今、部屋の中央にはあろうことか“彼”が鎮座していた。

 

 霊体化?

 隠密行動?

 そんなものはどこへやら。

 2メートルを超える巨躯を惜しげもなく晒し、あぐらをかいて床に座り込み、その周りを他の分隊のニケたちが取り囲んでいる。床には大量のポテトチップスの袋、ポップコーン、炭酸飲料のボトル、そして何故か煎餅までもが散乱し、まるで宴会場のような有様だ。

 

「え……誰、あの人?」

 

 背後から入ってきたソフィーとリアが、素っ頓狂な声を上げる。

 その声に気づいた一人のニケが、ポテトチップスを口いっぱいに頬張ったまま、明るく答えた。

 

「あ、おかえりー!」

「ちょ、ちょっと!この人誰!」

「この人?08の知り合いなんだって!」

「はあ!?」

「08が拾ってきたあの古臭い本持ってたから、嘘じゃないと思うよ?それに見てよこれ、いーっぱい差し入れ持ってきてくれたんだ!」

 

 彼女が指差した先には、山と積まれたジャンクフードの山。

 正規の支給では滅多にお目にかかれない、嗜好品の数々だ。

 

「私たちにこんなことしてくれるんだから、絶対良い人に決まってるって!」

「そうそう!すっごい面白いんだよ、このおじさん!」

 

 ニケたちが口々に彼を称賛する。彼女たちの瞳には警戒心など微塵もない。あるのは、単調な日常に舞い込んだ刺激に対する無邪気な喜びだけだ。

 私は眩暈を覚え、壁に手をついた。

 

 これが彼の言う『静観』なのか?

 これの一体どこが『待機』なのだ?

 

「おお、帰ったかマスター!」

 

 私に気づいた彼が、煎餅をバリバリと噛み砕きながら悪びれる様子もなく手を挙げた。

 

「いや~、このマスタングという男は相当なやり手だな!民草が喜ぶ術を熟知しておる!」

 

 彼が指差すホログラム・ディスプレイには、テトララインのCEO、マスタングが派手な衣装で踊り狂うバラエティ番組が映し出されている。

 

「民の心を掌握し、熱狂させ、憂さを晴らす。これぞ統治の要諦よ!余も大いに学ぶところがあるわ!」

「でしょ~!社長最高!」

「私たちの間でもテトラの社長は大人気なんだから!」

 

 ガハハハハ!と雷のような笑い声を上げる王。

 それに釣られて、ケラケラと笑う少女たち。

 奇妙な一体感が、そこには完成されていた。

 

 わずか半日。

 たった半日で、彼はこの閉鎖的な兵舎の空気を掌握し、自分色に染め上げてしまったのだ。

 

「どうしよう……」

 

 私の口から乾いた呟きが漏れる。

 神秘の秘匿?

 正体の隠蔽?

 そんな懸念は、ポテトチップスの油と共に彼らの胃袋へと消えてしまったようだ。

 楽しげな宴の光景を前に、私はただ立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうして、あんなことをしたんですか!」

 

 数分後、私は強引に彼の腕を引っぱると、逃げるようにして兵舎の裏手へと連れ出した。

 分厚い鉄扉を閉めると、中の馬鹿騒ぎが嘘のように遠ざかり、人工的な夜風の冷たさが火照った頬を撫でた。私は肩で息をしながら目の前の巨漢を睨みつけた。

 声を荒らげる私に対し、イスカンダルは悪びれる様子もなく、懐から出した新しいポテトチップスの袋を開けている。

 

「いや、なに。これからしばらくは世話になるのだ。貴様の同僚たちにも挨拶をしておこうと思ってな。兵糧(お菓子)を分け合えば、大抵の者は心を開くものよ」

「挨拶って……!私は貴方に『静観』と『待機』を命じましたよね!?目立つ行動は控えてくれって、あれほど……!」

「無論、覚えておる」

 

 バリ、と音を立ててポテトチップスを貪りながら、彼は心外だと言わんばかりに肩をすくめた。

 

「だがなマスターよ。貴様は本気で、あの狭い兵舎の中で余の存在を隠し通せると思っておったのか?」

「え……」

「あのような過密した環境での共同生活だ。早晩、余の存在など露見する。ならば最初から『気のいい客人』として懐に入り込み、共犯者にしてしまう方が手っ取り早かろう?」

 

 ぐうの音も出ない正論だった。

 確かに、彼の規格外の巨体を、あのプライバシーの欠片もない部屋で隠し続けるのは不可能に近い。彼と何かを話すにしても、彼女たちに黙って場を離れることを繰り返せば疑念も深まる。コソコソと隠れて彼が「不審者」として発見されるよりは、堂々と振る舞って「愉快な客人」のポジションを確立してしまう方が、結果的にリスクも低い。 ……悔しいが、彼の行動は合理的だ。

 

「……はぁ。分かりましたよ、もう」

 

 私は深いため息をつき、怒りの矛先を収めた。やってしまったことは仕方がない。それに、彼女(姉妹)たちのあの笑顔を見れば、彼を責める気力も削がれてしまう。

 私は思考を切り替え、話題を変えることにした。

 

「それはそうと……視察の方はどうだったんですか?」

「うむ」

 

 イスカンダルは食べる手を止め、真剣な表情に戻った。瞳から先ほどまでの陽気な色が消える。

 

「そこは抜かりない。しかと、この地下都市を見て回ってきたぞ」

「それで?」

「実に奇妙な街だな。空は偽り、地は鋼鉄。まるで巨大な鳥籠だ」

「アークの感想はいいです。私が聞きたいのは、聖杯戦争のことです」

「ああ、分かっておる」

 

 彼はポリポリと頬を掻き、そして――声を低くした。

 

「……妙であったな」

「妙?」

「うむ。アーク全域を飛び回り、魔力の痕跡を探ってみたのだがな……。他のマスターどころか、サーヴァントの気配すら無かった」

「気配がない……」

「ああ。普通、聖杯戦争ともなれば、血気盛んな英霊の何体かは、己が武威を示すために我先と戦端を開くものだ。あるいは、街のどこかで小競り合いの痕跡ぐらいは見つかるはず」

 

 彼は夜空を見上げる。そこには、変わらず偽物の月が寒々しく輝いている。

 

「だが、この街は()()()()()。魔力の残滓一つ、闘争の予感一つ感じられん。まるで、我々以外の参加者が存在しないかのように――あるいは、何者かが意図的に“戦場そのもの”を隠蔽しているかのように」

「……」

 

 背筋を冷たいものが這い上がった。

 

 ―――静寂。

 それは恐らく、平和の証ではなく嵐の前の凪。

 アークという閉鎖空間で、何かが、誰にも知られないまま進行している。

 

「何かがおかしいぞ、マスター」

 

 いつになく真剣な顔で彼は断じた。

 

「この聖杯戦争……余が知る常識とは異なる理で動いているやもしれん」

 

 その言葉に、私は声が出なかった。

 ただ、握りしめた右手の令呪が、警鐘を鳴らすように熱く脈打っているのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い研究所の一室。照明の落とされた闇の中、無数のモニターが青白く明滅している。

 冷却ファンの低い唸りだけが響く無機質な空間に、甘ったるく、それでいて妖艶な声が響いた。

 

「ただいま、マスター」

 

 闇の中からふわりと現れた影が、宙を泳ぐようにソファーへと舞い降りる。

 

「あら、ご苦労さん」

 

 モニターの明かりに照らされた白衣の影――その主が、ゆったりとした言葉で応じた。

 影はまるで重力を感じさせない動きでソファーへと身を投げ出した。

 

「それで、成果のほどは?まさか、アーク中を飛び回って『何もありませんでした』とは言わはらへんでしょうね」

「ふふっ、私を侮らないでくれないか。しかと見つけたよ、ライダーをね」

 

 影はソファの上で足を組み、艶然と微笑んだ。

 

「場所は外縁部、量産型ニケの兵舎。まったく、狭苦しい鳥籠みたいな場所だったよ」

 

 報告を聞いた白衣の主は、手元の端末を操作する指をピタリと止めた。

 

「……量産型ニケ?」

「ああ。マスターも量産型ニケのようだった。それに、ライダーが盛大な宴を開いていたねぇ。ジャンクフードに炭酸水……ふふ、豪快な英雄様にはお似合いの食事だ」

 

 クスクスと、鈴を転がすように影が笑う。

 その報告に、白衣の主は呆れたように息を吐いた。

 

「はあ……そんなこと、あり得るんですか?聖杯戦争の最中に宴会やなんて」

「サーヴァントの性格によるだろうさ。ライダー、それもかの有名な征服王なら、現世の享楽を骨の髄まで味わい尽くそうとするのも道理だ」

 

 影は目を細め、どこか遠くを見るような眼差しで呟く。

 

「無防備で、隙だらけ。……まあ、それも可愛げがあって良いじゃないか」

 

 ソファの上で身をよじり、恍惚とした表情を浮かべる影を横目に、白衣の主は小さくため息をついた。

 

「まあ、厄介な御仁がマスターになってへんことだけは喜ぶべきなんでっしゃろか」

「それで、どうする?すぐにでも倒しに行くかい?」

 

 影が身を乗り出し、好戦的な光を瞳に宿して問う。

 だが、白衣の主は冷静に首を横に振った。

 

「そもそも、あんさんから見てライダーは勝てる相手なんですか?」

「うーん……」

 

 影は数秒唸った後、あっけらかんと答えた。

 

「相性が悪いね!正面からぶつかれば、いくら私でも返り討ちにされるだろう。力比べは私の専門じゃないからねぇ」

「でしょう?現状、うちらには戦力が足りまへんからね」

 

 白衣の主は淡々と事実を告げる。

 その言葉に影は不満そうに唇を尖らせ、じっと主の顔を覗き込んだ。

 

「じゃあ、指をくわえて見ていろと?」

()()、ですが」

「ほお……」

 

 影の口元が、三日月のように吊り上がる。

 

「あれとやり合う気なんだね?マスター」

「当然。マスターが量産型ニケなんやったら、そう大きく出ることもないでしょう。それよりも、まずはこちらの手数を増やすんが先決かと」

 

 白衣の主は、手元のモニターに映るデータを愛でるように指でなぞった。

 

「科学と魔術。この二つを掛け合わせれば、英霊相手でも後れは取りまへん。……焦る必要はないんですわ」

「ふふっ、理解した」

 

 キャスターは満足げに頷くと、主の背後に忍び寄り、その肩に顎を乗せた。

 

「それよりもマスター、何か食材を用意してくれないかい?」

「何に使うので?」

「いやぁ何、せっかく召喚されたんだ。私特製のキュケオーンを作りたいんだよ」

「……あんさん、サーヴァントなんやろ?わざわざ食事をとる必要なんてあるんですか?」

「分かってないなぁ。私ではなく愛豚(ピグレット)たちの為だよ。私にとって、キュケオーンとは愛そのものなのさ」

「はぁ」

「……それとも、マスターが愛豚(ピグレット)たちの為に何か作ってくれるのかい?」

 

 耳元で囁かれる言葉を聞き、白衣の主はやれやれと腰を上げた。

 

「……分かりました。何か用意しまひょか」

「流石は私のマスターだ、話が分かる!」

 

 影はニッコリと笑みを浮かべ、白衣の主はため息混じりに歩き出した。

 モニターの青い光が主の細められた双眸を照らし――――その奥に潜む怜悧な光を、一瞬だけ浮き彫りにした。

 

 

 

 

 




個人的な印象ですが、量産型ニケたちって普段人間扱いされてないので、知らないおじさんでも甘やかされたら割とあっさり絆されちゃいそうですよね。
それはともかく、いつの間にかお気に入り数が倍近く増えていて度肝を抜いた作者でございます。
滅茶苦茶励みになります!
明日も投稿予定ですので、是非ともよろしくお願いします!
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