征服王のマスターになった量産型ニケの話   作:福梅

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最近ニケ界隈では地上コンテンツを巡ってかなり荒れておりましたが、個人的にはチュートリアルで量産型ニケたちの活躍を見られたのが一番良かったですね。
ストーリーではモブ扱いされてる子達も、あんな感じで頑張ってるだなあと想像を膨らませることができました。
SHIFT UPさん、もうちょっと量産型ニケたちにも活躍の場を(ry


始原の盟約

 

 意識が浮上する。

 重いまぶたを持ち上げると、そこには見慣れた無機質な天井があった。

 機械油と柔軟剤の混じった生活臭が鼻孔をくすぐる。

 …兵舎だ。私はいつの間にか、自分のベッドに戻っていたらしい。

 

「……起きた?」

 

 頭上から降ってきた声は、心配よりも怒気を孕んでいた。

 身体を起こすと、ベッドの周りを二つの影が塞いでいた。腕組みをして仁王立ちするソフィーと、泣き腫らした目でこちらを睨むリア。彼女たちの纏う空気は、かつてないほど剣呑だった。

 

「08、いい加減にしなさい」

 

 ソフィーの低い声が、私の逃げ場を封じる。

 

「この前だって、訓練してくるとか言って勝手に何処かへ行って……帰ってきたと思ったら、また気絶してベッドに寝込んで!」

「そうだよ!私たち、どれだけ心配したと思ってるの!?」

 

 リアが悲痛な声を上げる。

 彼女たちの剣幕に言葉を失った。誤魔化そうと口を開きかけたが、彼女たちの真剣な眼差しを前にして、嘘をつこうなどという考えは霧散してしまった。

 ……もう、隠し通せる段階ではない。私は深く息を吐き出した。

 

「……ごめん。話すよ」

 

 私は、この一週間で起きた出来事を全て語った。

 

 廃墟で拾った古書のこと。

 それが触媒になって"英霊"と呼ばれる存在を召喚してしまったこと。

 アークで聖杯戦争という殺し合いの儀式が起きているということ。

 そして昨晩、他のサーヴァントに襲われたということ。

 言葉を紡ぎながら、私は二人の反応を窺った。荒唐無稽な話だ。回路のイカれた妄想だと笑われても仕方がない。だが二人は私の言葉を遮ることなく、青褪めた顔で聞き入っていた。あの日、突如として兵舎に現れた巨漢―――彼女たちもまた、あの異常性を肌で感じていたのだろう。

 

「聖杯戦争……?」

「あなた、そんな殺し合いに巻き込まれてたの……?」

 

 二人の動揺が、狭い空間に満ちていく。

 その時、空間が揺らいだ。

 

「うむ。概ね相違ない」

 

 黄金の粒子が収束し、狭い通路に巨軀が実体化する。

 突然出現したイスカンダルに、二人が息を呑んだ。だが、次の瞬間——彼女たちは弾かれたように動いた。

 

「——ッ!やっぱり、あんただったのね!」

 

 ソフィーが素早く枕元から護身用のナイフを抜き放ち、切っ先をイスカンダルへと突きつけた。リアもサイドテーブルの裏に隠していたスパナを握りしめ、私の前に立ちはだかった。

 

「ちょ、ちょっと!二人とも!」

 

 私は慌ててソフィーとリアを抑えようとしたが、二人ともこちらの声は聞こえていないようだった。

 

「08を巻き込んだのは、あんたなんでしょ!?」

「この子はただの量産型なんだよ!?変な殺し合いの儀式に付き合わされる筋合いはないわよ!」

 

 二人の声は震えていた。

 無理もない。目の前にいるのは、自分たちよりも遥かに長身の巨漢なのだから。

 ニケであるとはいえ、彼が放つ威圧感を感じずにはいられない。

 

「ふむ……」

 

イスカンダルは突きつけられた刃を意に介する様子もなく、ただ興味深げに二人を見下ろした。

 

「貴様らの言い分はもっともだ。余とて、このマスターを無益な死地に晒したいわけではない。……故に、他の選択肢もある」

「…どういうことですか?」

 

 彼は厳粛な面持ちで腕を組み、私を見据えた。

 

「この戦いから逃れる術についてだ」

「え……?」

「簡単なことよ」

 

 彼は私の右手を指差した。そこに刻まれた令呪が、淡く脈動している。

 

「聖杯戦争のルール上、一度選ばれたマスターが権限を完全に放棄することは難しい。だが、抜け道はある。……その令呪をもって、サーヴァントたる余に『自害』を命じればよい」

 

 ――自害。

 

 不穏な単語に、室内の空気が凍りついた。

 

「余が消滅し、残った令呪を他者に譲渡するか、あるいは使い切ってしまえば、貴様はマスターの資格を実質的に放棄できる。聖杯を求める他のマスターたちも、資格を失った者を執拗に狙いはすまい」

 

 イスカンダルはまるで今日の天気を語るかのように、淡々と自身の死を提案した。

 その瞳は真紅に燃え、私を覗き込むように見据えている。

 

「問おう、我がマスターよ。貴様は何を望む?」

 

 彼は言っているのだ。

『逃げるなら今のうちだぞ』と。

 

 昨晩の記憶が蘇る。

 キャスターの甘美な毒。

 繰り出される圧倒的な魔術。

 そして―――彼女に絆されかけてしまった自身の愚かさ。

 

 私は無力だ。突出した才能もなく、戦闘能力も低い。このまま戦いを続ければ、いずれ彼を破滅させ、私自身もスクラップになることは想像に難くない。

 彼の提案は合理的だ。私が「自害しろ」と命じれば、この悪夢のような非日常は終わる。

 そして、平穏で生ぬるい―――退屈な日常が戻ってくる。

 

 ……それでいいのか

 

 自問する私の脳裏に過ったのは、荒野で見た彼の背中だった。

 私を庇い、私のために怒り、泣きじゃくる私を受け止めてくれた、大きくて温かい背中。

 

 彼を殺す?

 保身のために、この王へ自ら剣を喉に突き立てろと命じる?

 

 ―――できない

 

 そんなことは、死んでもできない。

 いや、それ以前に―――私は、戻りたくないのだ。

 彼と出会う前の、ただ消費されるだけの空虚な日々になど。

 

「……私は」

 

 顔を上げる。

 震えは止まっていた。

 拳を握りしめる。爪が掌に食い込む痛みが、決意を後押した。

 

「私は、貴方と共にいたい」

 

 真っ直ぐに、彼の瞳を見返す。

 

「貴方は、何者でもない私と向き合ってくれました。ただの消耗品である私に、人の温もりを教えてくれました」

 

 声が震えそうになるのを必死で堪える。

 

「聖杯戦争とか、サーヴァントとか、今でもよく分かりません。自分が何者になれるのかも、そもそも何を成し遂げたいのかも、まだ分からない。……それでも、貴方の信頼に応えるまでは、私はマスターを辞めたくないんです」

 

 胸の中に秘めていた言葉を、一気呵成に吐き出した。

 イスカンダルは目を細め、口元に満足げな笑みを刻んだ。

 

「うむ。貴様の想い、確かに聞き届けた」

 

 彼は大きく頷き、マントを翻した。

 

「ならば、余もマスターの意志を無碍にはできん。貴様が選んだ道の行く末、このイスカンダルがしかと見届けよう」

 

 彼の言葉に、胸の奥が熱くなる。

 

 …これでいい。

 これが私の選んだ道だ。

 私はゆっくりと息を吐き、そして恐る恐るソフィーとリアの方を向いた。

 

「……ごめん。勝手なのは分かってる。でも、これは私が始めてしまった『物語』なの。どんな結末になるとしても、最後までやり遂げたい」

 

 彼女たちを危険に巻き込むことになるかもしれない。

 それでも、私はこの道を行くしかない。

 

 謝罪と共に頭を下げる私に、二人はしばらく黙り込んでいた。

 やがて、大きなため息が二つ、重なって響いた。

 

「……はぁ。分かったわよ。あなたがそこまで言うなら」

「本当、08は昔から変なところに拘るんだから」

 

 顔を上げると、そこには呆れたような、しかしどこか吹っ切れたような笑顔があった。

 

「あ、ありが……」

「でも!条件があるわ」

 

 ソフィーが私の言葉を遮り、ビシッと指を突きつけた。

 

「私たちにも手伝わせなさい」

「え?」

「当然でしょう?私たちは同じ分隊、同じ量産型の姉妹なんだから」

「そうそう。ちょっと暴走気味で死にかけることが多い妹を助ける義理くらい、私たちにはあるはずよ?」

 

 リアがウィンクをして見せる。

 予想外の申し出に、私は目を白黒させた。

 

「で、でも……危ないよ?」

「知ってるわよ。でも、私たちだって伊達に地上で任務をこなしてきた訳じゃないわ。弾除けや陽動くらいなら、役に立てるはずでしょ?」

 

 ニヤニヤと笑う二人を見て、私は胸が詰まった。

 

 ―――視界が滲む。

 ずっと、私は孤独だと思っていた。

 誰にも理解されず、システムの歯車として回るだけだと。

 でも、違った。

 ずっと気が付かなかった。

 ここには、私のために命を賭けてくれる『家族』がいたのだ。

 

「……うむ、良い仲間に恵まれたな」

 

 イスカンダルが、心底愉快そうに笑った。

 私は涙ぐみながら、けれど精いっぱいの笑顔でうなずいた。

 

 狭い兵舎の中で、私たちは顔を見合わせた。

 名もなきニケたちの、ささやかな誓い。

 世界にとっては取るに足らない出来事かもしれない。

 けれど―――私の胸には、確かな決意が灯っていた。

 

 

 

 ――コン、コン。

 

 

 

 そんな私たちの高揚感は、無粋なノックの音によって断ち切られた。

 乾いた音が、静まり返った兵舎に響く。 ソフィーとリアが弾かれたように顔を見合わせる。

 こんな時間に誰が?

 私は背筋に冷たいものが走るのを感じ、背後のイスカンダルへと振り返った。

 

「……イスカンダル、隠れて。早く!」

「うむ」

 

 彼は短く頷くと、瞬時に金の粒子となって大気へと溶け込んだ。

 気配が消えるのを確認してから、私は深呼吸を一つし、重い鉄扉を開けた。

 

「……はい」

 

 そこに立っていたのは、白い犬ような癖っ毛の小柄なニケだった。

 紺色の制服と帽子を着こなし、腰には警棒を吊っている。

 

「夜分遅くにすみません。認識番号RR33424の方はいらっしゃいますかぁ?」

 

 威厳を取り繕おうとしているが、どこか愛嬌のある声だった。

 私は喉の渇きを覚えながら答えた。

 

「えっと……私、です」

「どうも。A.C.P.U.のポリと申します」

 

 彼女は警察手帳を提示し、事務的に、そして逃れられない宣告を告げた。

 

「少しお聞きしたいことがあります。署まで同行をお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後。

 私はA.C.P.U.本署の取調室にある、冷たいスチール製の椅子に座らされていた。マジックミラー越しの視線を感じながら、私の思考回路はパニックで焼き切れそうになっていた。

 

(……終わった)

 

 呼び出された理由など一つしか思い当たらない。

 数日前、コアダストを奪おうとしてきた指揮官二人だ。やはり、あの男たちが通報したのだ。

 

『ニケが指揮官に怪我を負わせた』

『赤いマントを羽織った巨漢に暴行された』

 

 彼らがどう通報したのか分からないが、どちらにせよ通報されてしまった時点で終わりだ。

 どうする?真実を話すべきか?……いや、馬鹿正直に「英霊がやりました」などと言って誰が信じる?狂ったニケとして処分されるのがオチだ。

 かといって、適当に誤魔化せるような状況でもない。相手は腐っても指揮官、こちらは量産型ニケ。証言の重みが違う。こちらが襲われそうになったという正当な理由があったとしても、人間に手を出したという事実はニケにとって死刑判決に等しい。

 NIMPHの枷を超えて、人間に危害を加えたイレギュラー。

 降格、記憶消去、廃棄処分……最悪の想像ばかりが脳裏を駆け巡る。

 

 ガチャリ、とドアが開く音がした。

 入ってきたのは、私をここまで連行してきたポリと、赤目に茶髪のツインテールのニケ――ミランダだった。

 

「えーと、認識番号RR33424さんですねぇ」

「は、はい……」

「突然呼び出してしまって申し訳ありません。少しだけ事情聴取させていただけませんか?」

 

 ……ん?

 

 私は身構えていた肩の力を、わずかに緩めた。

 予想に反して、ポリの物腰が柔らかい。

 少なくとも、犯罪者を尋問するような態度ではない。

 

「単刀直入に伺います。数日前、アーク外縁のエレベーター乗降場近くで、指揮官2人による暴行未遂事件が発生しまして」

 

 ―――やっぱり。

 コアが早鐘を打つ。

 だが、続く言葉は私の予想を裏切るものだった。

 

「それで、あなたは()()()という認識で間違いありませんか?」

「……え?」

 

 私は間の抜けた声を漏らした。

 

 被害者………?

 

 …まあ、確かに先に手を出してきたのは彼らだ。私とイスカンダルが持ち帰ったコアダストを奪おうとし、暴力を振るおうとした。だが、結果的に腕をへし折られ、悲鳴を上げて逃げ帰ったのは彼らの方だ。彼らが通報したのなら、私は()()()として指名手配されているはずではないのか?

 

「は、はい、そうです……けど……」

 

 私が恐る恐る肯定すると、ポリの後ろに控えていたミランダが「バンッ!」と机を叩いて声を上げた。

 

「全く、許せませんよね!貴重なコアダストに目が眩んで、それを弱い者いじめで横取りしようとするなんて!指揮官の風上にも置けない最低な人たちです!」

「こらミランダ、公務中ですよん。静かに」

「あう……すみません……」

 

 ポリにたしなめられ、ミランダがシュンと縮こまる。

 そのやり取りに、私は一瞬現実感を喪失しかけた。

 ポリは咳払いを一つすると、手元のタブレットに視線を落とした。

 

「おほん……。大変怖い思いをされたかと思います。調査の結果、当該指揮官らによる職権乱用と強要の事実は明白でした。そして――」

 

 彼女は私を真っ直ぐに見つめた。

 

「あなたが咄嗟に抵抗し、あの指揮官たちへ反撃したことについては『正当防衛』として処理されました。ご安心ください」

「……は?」

 

 私は完全に面食らっていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 イスカンダルではなく?

 

「あ、あの……私が、彼らの腕を……?」

「ええ。突き飛ばした際の打撲と骨折ですねぇ。診断書とも一致しています。彼らの部下のニケたちからも、同様の証言が得られていますよん」

 

 背筋が凍りついた。

 ―――違う。あの男の腕を砕いたのは私ではない。イスカンダルだ。

 万力のような握力で、手首を粉砕したのだ。単なる転倒や突き飛ばしで済むはずがない。

 あの場にいたニケたちが全員口裏を合わせている?

 あの巨漢の英霊を、誰も見ていないというのか?

 

 どういうことだ、と考える暇もなく、ポリが続ける。

 

「他にも何か、彼らに危害を加えられたということはありませんでしたかぁ?」

「………」

 

 問い詰められると思っていた私は、言葉が出てこなかった。

 私の沈黙を「恐怖による萎縮」と捉えたのか、ミランダが身を乗り出した。

 

「大丈夫です!私たちA.C.P.U.がついている限り、もうあんな奴らに好き勝手はさせませんよ!あなたに危害を加えようとする悪人は、私が全員纏めて逮捕してやりますからっ!」

「ミランダ!!」

「は、はいぃ!?」

 

 ポリが深いため息をつき、改めて私に向き直った。その瞳には、一介の警察官としての職務に対する誠実さと、被害者への気遣いだけが映っている。

 彼女たちは、本気で私が単なる被害者であると信じているのだ。

 

「辛いことを思い出させるような真似をしてしまって申し訳ありません。あの指揮官たちは、これまでの余罪も含めて更生館送りになりました。二度とあなたの前に現れることはありません」

「はい…」

「今後、ご自身の中で整理を付けられて、何か私たちに伝えておきたいことがありましたら、遠慮なくお越しください」

 

 ポリが椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。

 そして後ろであわあわしていたミランダの背中に手をまわし、無理やり一緒に頭を下げさせた。

 

 ……助かった。

 常識的に考えれば、そう喜ぶべき場面だ。

 だが、私はその光景を見て、ただ眉を顰めることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 A.C.P.U.本署の自動ドアを抜け、私は再びアークの通路へと足を踏み出した。

 解放されたはずなのに、足取りは鉛のように重い。

 

 まず、イスカンダルの存在が完全に抹消され、私自身の反撃として処理されたこと。どう考えてもあり得ない。最低でも、あの場にいた二人の指揮官、そしてその部下のニケたちも、イスカンダルの姿を間近で捉えていた筈だ。彼らが事の発端になった加害者ではあるものの、その証言が揉み消されるなんてことが果たしてあるのだろうか。

 そして、本来なら即処分対象となってもおかしくない行為が、不可解なほどスムーズに正当防衛として受理されたこと。…これもあり得ない。百歩譲って私が正当な理由で彼らを傷つけたという事実があったとしても、そもそも指揮官絶対保護の法則を差し置いて、私に何のお咎めも無しというのはあり得ない。そう、あまりにも()()()()()()()()()()()()()()

 言いようのない気味の悪さが、胃の腑に冷たい塊となって居座っている。

 

「……マスター、大丈夫か?」

 

 背後から野太い声がかかった。

 振り返るも、そこには誰もいない。彼が霊体化したまま私の傍らに寄り添っているのだ。

 

「……はい、何ともないです」

「そうか。……もし、あの者たちが貴様を理不尽に捕らえようとするならば実力行使に出るつもりだったが、その必要は無くなったな」

 

 物騒なことをサラリと言う王に苦笑しつつ、私は歩きながら小声で問いかけた。

 

「……今回の件、あなたから見てどう思いますか?」

 

 イスカンダルは即答した。

 

「あり得んな。何者かが意図的に事実を捻じ曲げたとしか考えられん」

「ですよね……」

 

 私は口元に手を当て、思案に耽る。

 

「でも、いったい誰が……何のために……」

 

 沈黙が落ちる。通路を行き交う人々の喧騒が、遠い世界のことのように感じられた。

 

「現状では分からん。だが……」

 

 イスカンダルが、僅かに声を低くした。

 

「この街に召喚されてから、ずっと言いようのない不快感を覚えておったのだ」

「どういうことですか?」

「常に何者かに監視されている。……いや、()()()()()()()()()()ような感覚だ。鳥籠の中の鳥が、飼い主の気まぐれで空を飛ぶことを許されているような、そんな傲慢な視線を感じる」

 

 私は口元から手を離し、強く拳を握った。

 考えても仕方がない。今はまだ、見えざる敵の正体を暴く術はないのだから。

 

「……ともかく、いったん兵舎に帰りましょう。ソフィーたちも待っています。今後の方針を練らないと」

「うむ、そうだな」

 

 イスカンダルの声に力が戻る。

 

「貴様はもう一人ではない。共に死地を駆ける余に加え、背中を預けられる頼もしい仲間(とも)を得たのだからな」

 

 その言葉を聞いて、私はほんの少しだけ頬に熱が集まるのを感じた。

 ソフィーとリア。そして、イスカンダル。

 孤独だった私の周りにできた、確かな繋がり。

 

「……改めて言われると、少し照れくさいですね」

「何を言う!仲間との絆こそ、どんな財宝にも劣らぬ至高の宝ではないか!大いに誇るがよい!」

「だから、声が大きいんですってば……!一々言うのやめてくださいよ!」

「はっはっは!余のマスターは、まだまだ内気であるな!」

 

 頭上の虚空から、ガハハハ!と豪快な笑い声が降ってくる。その底抜けの明るさに、胸の内の冷たい塊が少しだけ溶けていく気がした。

 私は呆れたようにため息をつき、けれど口元には微かな笑みを浮かべて、兵舎への道を急いだ。

 

 

 

 

 

 私たちが去った後の通路には、ただ静寂だけが残されていた。

 

 

 

 

 




最近「ここすき」機能というものの存在を知りました。
自分が面白いと感じた所を共有できるので、ニコニコのコメントみたいな臨場感があってとても良いですよね。
明日も20時頃に更新する予定です。
それではまた!
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