ギターヒーロー   作:右から左へ

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今回は4話更新予定

最初の2話は幕間で繋ぎ回なので面倒な人は読み飛ばしても問題ないです




灯火

 

 

 ─── 雄英高校、仮眠室

 

「やあ! 調子はどうだい」

 

「やや、校長先生! 本日も大変整った毛並みでいらっしゃる……」

 

「秘訣はケラチンさ! 人間にこの色艶は出せないのさ!」

 

 オールマイトが通勤途中にいつものように人助けをして、仮眠室で小休止していたところに校長が訪ねてきた。そして小脇に抱えていたタブレットを操作し、画面を見せつける。

 

「また派手にやったようだね。『オールマイト、わずか一時間で三件の事件解決!!』だってさ。君が来たというのに、まだ罪を犯す輩も大概だけど、事件と聞けば反射的に助けに行く君も大概さ!」

 

「面目ありません……しかし、助けを呼ぶ声を聞いたら無視する訳にもいかず」

 

「君らしいけどね。だけど、教員になった以上は生徒の育成に注力してほしいのさ。それに怪我の後遺症によるヒーロー活動の限界と譲渡……僕の計算だと、もうあまり活動時間は残ってないはずだね」

 

 そう言いながら、校長は急須に茶葉を入れ、ポットから湯を注ぐ。少し蒸らしてから二人分の湯のみにゆっくりとお茶をいれた。

 

「ありがとうございます。それがですね、最近は調子が良くて……何故か制限時間が少し戻ってるんですよ」

 

「えっ、そうなのかい!?」

 

「とはいえ、1時間半程度だった制限時間が*1、10分ほど伸びただけですが……」

 

「いや、凄いじゃないか! 何か心当たりはあるのかい?」

 

 過去のAFOとの死闘で腹部に大穴が空き、胃のほとんどと呼吸器の一部を失ったオールマイトは、長時間ヒーロー活動ができない身体になっていた。緑谷出久と出会った当初には、三時間まで減っていたほどだ。

 

 緑谷に譲渡されたOFAは、残り火となって急速に日々目減りしていっている。このままでは年内には希望の火が消えると思われていたが、ここに来て回復したというのだ。

 

「やはり彼女のおかげでしょうか……彼女の“演奏”を聞くと、こう、心が燃える感じがするんですよ」

 

 思わずマッスルフォームになり、胸の前で拳を握りしめるオールマイト。その様子を見て、根津が自慢の毛並みを撫でつけながら思案する。

 

「ふむ、後継がいるとはいえ、まだまだ発展途上……育ちきるまで君には現役でいてもらわないと困るよね」

 

「彼も頑張ってくれていますが……」

 

 緑谷も成長しているが、全盛期のオールマイトとは比べものにならない。

 

 ハリケーンをベアハッグで霧散させたり、東京大阪間を14秒で走り抜けたり、パンチで天気を変える──常識では考えられない力だ。

 

 平和の象徴(それ)と比べると、まだまだ遠い。

 

「ふーむ……なら、ちょっと後藤くんに協力してもらって、色々と検証してみようか」

 

「いえ、彼女も忙しいでしょうし、そんな手を煩わせるのは……」

 

「何を言ってるのさ。彼女はヴィランに狙われているんだよ。キミが長く現役でいられるということは、彼女の安全にも繋がるということさ」

 

 オールマイトがいるだけで犯罪の抑止力になる。先日のギターヒーローへの襲撃でも、雄英やオールマイトの元に脳無が送られていた。足止め目的なのは明白で、オールマイトがいるだけでヴィラン側は戦力を分散させざるをえない。それでも立て続けに失敗している現状なら、オールマイトが健在なうちは襲撃を控えるだろう。

 

 しかし、その灯火が消えれば、より活発になるのは目に見えている。

 

「とはいえ、黙って協力してもらうのは誠意に欠けるよね。ある程度の事情を話して助力を願うのが筋だと思うのさ」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ─── 放課後

 

 何故か校長室に呼ばれたと思ったら、校長とガイコツバージョンのオールマイトがいた。そしてオールマイトの過去の大怪我と、活動時間に制限があることを話され、オールマイトが「むんッ」と気合いを入れたら、いつも授業で見ている筋骨隆々(マッスルフォーム)の姿になった。

 

「つ、つまり、演奏を聞かせればいいんですか……?」

 

 私の演奏でオールマイトの活動時間が増えるなら願ったり叶ったりだ。世間の平和どころか、私の安全に直結するから断る理由はない。

 

「あまり驚いてないね……誰からか聞いてた?」

「……もしかして緑谷少年かい?」

 

「いえ、その……わ、わあ! びっくりしたなぁ……」

 

 やべぇ、知ってたから普通にスルーしてた。

 

 普通なら、オールマイトが重い後遺症でガイコツのような姿まで痩せ細っていたと知ったら、驚愕するはずだ。

 

 デク君にあらぬ疑いがいかないように驚いてみせたけど、棒読みになってよけい怪しまれてしまった。訝しむようなオールマイトと校長の視線が痛い。

 

 このままだとデク君がおしゃべりクソ野郎のレッテルを貼られてしまうので、

 

「え、えーと……髪型もだいたい一緒ですし、服装もいつも同じですよね……たまに八木さんを学校で見かけますけど、痩せてても2メートル超えの長身で同じスーツ。それに、ライブの護衛では相澤先生は脳無と相性が悪いのに、八木さんがいつも一緒に来ていたので、脳無を警戒するなら相当強いはず、です……少なくとも脳無とタイマンでも勝てるくらい……そんなの教師陣でも厳しいでしょうし、そう考えると八木さんはオールマイト先生と同一人物で、実は変化型だったのかなぁ……とか思ってました、はいー」

 

 そう、適当なことを言って誤魔化すと、校長とオールマイトが顔を見合せて相談をはじめる。

 

「……言われてみればそうだね」

「変装した方がいいんでしょうか……?」

 

 いや、普通ならマッスルフォームとトゥルーフォームほど違っていたら、同一人物だなんて思わないはずだ。原作知識がなかったら、絶対気づかなかった自信ある。

 

 

「ゔうんッ! まぁ、というわけで過去の大怪我のせいで、オールマイトの個性に制限がかかるようになったのさ! このままだと今年中には個性は消える予想だったんだけど、キミの演奏のお陰でその制限時間が伸びているんだ!」

 

 仕切りなおすように校長が大声をあげる。

 

「あ、はい、もちろん協力します」

 

「ありがとう! 演奏がどういう時に効果があるのか、増えやすいのか……また、沢山聴けばより増えるのかなど、シチュエーションや曲目、回数などを調査したいのさ」

 

「は、はあ……」

 

 結構、大変そうだな……。

 

 とはいえ、背に腹には代えられない。

 

「いや、それほどキミに手間はかけさせないさ! 基本的にバンド練習やラジオの時に、八木君を同席させて貰うだけでいいよ。多少、検証で協力はしてもらうと思うけど、キミの護衛にもなるし、その間はオールマイトも大人しくするだろうから、一石三鳥さ!」

 

 放っておくとどんどん人助けして無茶するからね、と言って笑う校長に、オールマイトが面目ないと恐縮している。

 

「迷惑かけると思うけど、よろしくね」

 

「いえ、迷惑だなんてそんな! こ、心強いです!」

 

 オールマイトはそう言うが、最近立て続けに狙われているので、マジで心強い。

 

 店長や赤黒さん、そして虹夏ちゃんがいれば脳無の数人は撃退できると思うけど、虹夏ちゃんにはなるべく戦わせたくない。いくら個性が強力とはいえ、下北沢の大天使と言われるほど心優しい虹夏ちゃんは暴力に向いていない。

 

 なので、検証がてら護衛してくれるなら願ったり叶ったりだ。

 

 正直、オールマイトが護衛って、超絶VIP待遇だよなぁ……

 

 ヒーローに興味なかった頃は、TVの向こう側のなんかすごい人程度の認識だったけど、ヒーローを目指すようになってからその偉大さに感服する。

 

 そんな偉人が自宅に訪れたのに、ろくに話を聞かずに塩対応したアホがいるらしい。

 

 

 ほんと、すみません。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 ─── 数週間後、校長室

 

「うーん、八木君からの報告を纏めると、バンドのライブでヒーローを謳った歌に効果があるようだね……そして他の曲、ソロや練習では影響が感じられないと」

 

 しばらくオールマイトがバンド練習やWebラジオに立ち会って、その経緯をまとめた資料を手渡された。あくまでオールマイトの主観で「なんか心の灯火が燃えた気がした!」程度のフワッとした感想だけど、感情に左右されるのでそれも致し方ないだろう。

 

「キミの……ギターヒーローの第一の個性は、演奏を聴いた相手の感情を増幅させる、そして自分の心情を音に乗せる性質だ。つまり、自前の技量で聴き手を感動させる必要があり、さらに曲の嗜好と噛み合うほど効果が伸びるのかな。

 

 加えて、演者の心理状態──テンションも作用して、発揮される力が揺らぐんだろうね。

 

 そして第二の個性である、聴き手の能力や個性を変動させる方は、個性の残り時間に影響はなかったと」

 

 

「なるほどー」

 

 あんまり深く考えてなかったけど、その場に合う選曲は無意識にやってたね。応援するのに「うらみます」を歌いながらテンション上げるのは難しいし。

 

 そして、ライブだとテンション上がるけど、独りでライブするより、結束バンドのみんなとの方がよりテンション上がるのは自明の理。

 

 大体いつもテンション振り切れながらギターを弾いている。

 

「あ、あの、ライブでもっとヒーローの歌を増やした方がいいでしょうか……?」

 

「効果は重複しないようだから、一曲あれば充分だネ。だけど定期的に聴く必要があるから、これからもオールマイトが護衛の時には一曲はお願いするよ!」

 

「な、なら良かったです」

 

 私が雄英の生徒だからと、無償で護衛をしてもらっていたから申し訳なかったけど、私の演奏がオールマイトの役に立てるならwin-winだろう。

 

 それに最近は、オーディエンスのウケが良いから、一曲はヒーロー関連の曲をセトリに入れてる。

 

 だけど、そればっかりになるのは困る。オリジナル曲を演奏したいし、アジカンのカバーもしてえんだ。

 

 山田の言葉を借りるなら「個性を捨てたバンドは死んだのと一緒」ということ。バンドのカラーを捨てたら何のためにバンド活動をしているのか分からなくなりそうだし。

 

 ……まぁ、最近は各々の好きな曲のカバーもしてるから闇鍋感あるけど。

 

「しかし、リカバリーガールに演奏を聴かせても、影響が薄かったのは残念だね。治癒力が上がることを期待してたんだけど……流行りの曲を聞かないなら仕方ないか」

 

 リカバリーガールの"治癒"に、"演奏"でどのくらいの効果があるのかもオールマイトで検証した。その結果、患者の消費する体力が少し軽減されただけで治癒力が上がることは無く、欠損した臓器に変化はみられなかった。

 

 それもリカバリーガールが演歌やそれに近しい歌謡曲しか聞かない質で、ロックとか流行りの曲には興味が無いせいだった。エレキギターの旋律を聞かせても「ジャカジャカ煩いね」で終わったし。

 

 私も演歌じゃテンション上がらないので、知ってる中で年配にもウケそうかなと思って弾いたサザンの曲が一番効果が高かった。けど、それでも期待していたほどの影響はなかった。

 

「な、なんかすみません……」

 

「いやいや、勝手に期待していただけだからネ! それにキミの演奏も万能じゃないのが分かったのも収穫さ。ロックに興味がない相手や、音楽を理解できる知能や感性がないとキミの演奏の効果がない。つまり、脳無相手には効果がない可能性が高い、とだけ留意しておいて欲しいのさ」

 

「は、はあ」

 

 脳無をターゲットに演奏する機会もないと思うけど、一応頭の片隅においとくか。

 

 ジミヘン(飼い犬)には効果あったから、犬畜生でも効果あると思ってたけど、ソレ以下には無理だと。

 

「それじゃ、大体効果は判明したから、平時の同行はもうしなくていいよ。八木君も業務が溜まってるし、護衛は公安に戻すからネ」

 

 

 ……ん? 私って公安に護衛されてたの?

 

 そんな話は聞いてなかったけど、問い返すとまた校長が怒りそうだから黙っていよう。

 

 

 私だって学習するのだ。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「で、では、失礼します……」

 

 そう言って、ひとりが校長室から退出していく。

 

 その足音が遠ざかるのを確認すると、根津が口を開いた。

 

「いやはや、キミの制限時間が戻るなんて規格外な個性だね」

 

「そうですね……もう譲り渡しましたので、後は消えゆくのみだと覚悟していたのですが」

 

 OFAを譲渡してからオールマイトにあるものは、その残滓にしか過ぎない。風船に穴が空いたように、薪が燃え尽きた炎が消えるかのように、日々力が抜けていくのを実感していた。

 

 しかし、その残り火に、僅かだが燃料が足され、小さな余燼が再燃していた。

 

「うん、この検証結果があれば、公安やお偉いさん方が余計なちょっかいをかけて来なくなるネ」

 

「まだ嘴を挟んでくるんですか?」

 

「そりゃね、体育祭以降は特に酷いさ。やれ、ギターヒーローを公安に管理させろだの、協会のプロパガンダに利用させろだの、危険な個性だから野放しにするなだの……最近じゃ、くだらない学生バンドなんて辞めさせて、正式にソロでメジャーデビューさせろってのもあるねぇ……」

 

 ギターヒーローの正体が露見して、その個性の重要性が判明した結果、方々から圧がかかっていた。しかし雄英の生徒であり、また未成年なのを盾にして、校長である根津がその全てをシャットアウトしてきた。

 

「ただの学生バンドが、平和の象徴の命運を握っているんだ。もう妄言は言ってこないと思うけど……だけど、この情報は公開しちゃうと不味いよねぇ……」

 

「でしょうね……」

 

「当面は秘密かな……トップシークレットで頼むよ」

 

 せっかく煩い連中を黙らせられる実績が出来たが、どこにヴィランのスパイが潜んでいるか分からない。そんな現状では、安易に情報を漏らすわけにはいかない。

 

 今はギターヒーローだけが狙われているが、バンドメンバー全員にまで及ぶと護衛の手が追いつかなくなる。今でさえ、脳無という凶悪なヴィランに対して、護衛の手は全く足りていないというのにだ。

 

 まぁ、活動拠点としているライブハウスは、複数の脳無に襲撃されたにも関わらず、バンドメンバーと店員だけで撃退しているので、本当に護衛が必要なのか疑問はあるが。

 

「学生のうちは青春を謳歌して欲しいよね。その為の教育機関だし、その日常を護るのがヒーローの役目なんだからさ」

 

「えぇ、校長のおっしゃる通りです」

 

 ただの鼠にハイスペックという個性が発現した、唯一無二の動物にして人格者(鼠格者?)である根津。

 

 国内最高峰の雄英高校の校長を務めるだけあり、その教育観や人格に惚れ込み、慕う人間は多い。オールマイトもその一人で、OFAの後継を探していた折に根津から誘われて教鞭をとった経緯だ。ヨイショが止まらない。

 

「校長先生のご慧眼、いつも感服いたします」

 

「ん? 今回のことなら偶々だよ。そんなこと僕にも分かるわけないさ!」

 

「いえいえ、今回の件だけでなく後藤少女を強引に雄英に入学させたのも、らしくないなとは思っていましたが……まさかここまでヴィランに狙われるようになるとは思っていませんでした」

 

「それに関してはキミが雄英にいるからってのもあるだろうね……キミを潰すためには、まずギターヒーローを先に消さないと彼は安心できないのだろう」

 

 数年前にAFOと対峙し、致命傷を与えて倒したと思っていた。しかし、脳無と呼ばれる、明らかに人の手で造られた複数個性持ちのヴィランが現れたことで、AFOが生きていてヴィラン連合を裏から操っている可能性が高まった。

 

 そして双方が重傷を負うほどの互角の死闘だったのに、そこへ強力なバフを付与できる個性持ちの生徒が現れたのだ。優先的に狙われないわけがない。

 

「とはいえ、他校に進学していてもヴィランの襲撃は受けていただろうね。その場合、甚大な被害が出ていたことは想像に難くないさ」

 

 USJ襲撃時点で、すでにオールマイトと並んで名指しの殺害予告を受けていた。雄英に通っていなくとも別途襲撃を受けていた可能性は高く、普通の高校であればその時点で詰んでいた可能性は限りなく高い。

 

「やはり慧眼のほど感服いたします……後藤少女が無事に学校生活が送れているのも、ひとえに校長のお陰かと。それに、あの危なっかしい後藤少女が、まさかヒーローを目指すようになるとは思いもしませんでしたし」

 

「僕もそれにはびっくりしたさ。保護するつもりで雄英(うち)を勧めていただけだからね。音楽のことしか考えてない彼女が、あそこまでヒーローになろうと努力するようになるとは……。まぁ、キミたち(雄英教師陣)の背中を見せれば、良い方向に進んでくれるんじゃないかと期待はしてたけどね。キミに憧れて、ヒーローを志した大勢の子供たちのようにさ」

 

「そうですね……それも、相澤君のおかげです」

 

「教職の醍醐味だよね。最近は問題行動も起こさないようだし、一安心さ」

 

 入学直後に学校をサボって無断で路上ライブをしたあげく、公共の場での個性無断使用で補導されて全国ニュースになった記憶はまだ新しい。

 

 雄英ヒーロー科として前代未聞で、普通なら良くて停学、悪ければ退学だ。

 

 特例で補習の増量で済ませたが、それ以降はぱたりと問題行動もなりを潜め、真面目に学校生活を送っている。

 

 

「このまま何事もなく行けばいいけど……それは楽観的かなぁ」

 

 

 

 

*1
原作だと4月のUSJ襲撃の闘いで無理をしたため、その時点で2時間→50分に短縮されている。今はそれより時期も経っているので、徐々に目減りしている想定






説明は他の教員と同程度の内容
OFAとか後継者の話はしてません


あまり細かな事象まで入れるとクドくなりそうなので

1の個性の対象は無差別
2の個性の対象は取捨選択可能

とだけ、ここに聞いておきます
当然、教師陣には周知済み

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