ギターヒーロー   作:右から左へ

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補習

 

 

 ──少し時間が戻り、OFAの検証中

 

 検証のためにオールマイトが結束バンドの練習に立ち会うことになったけど、いつもスターリーのスタジオで練習している訳じゃない。

 

 最近のスターリーは平日でも混んでるから、店のスタジオを占有するわけにもいかないので、レンタルスタジオも併用して練習している。

 それを知った校長が雄英の特別放送室(プライベートルーム)を、結束バンドのスタ連に使って良いと許可を出してくれた。むしろいつでも使っていいから、市井のレンタルスタジオは極力使うなと注意された。防犯上の理由で。

 

 レンタルスタジオ代はバンドの運営費から捻出しているので地味に出費がかさむし、雄英のプライベートルームの方が圧倒的に環境は良い。

 

 数倍広いし、冷暖房空調は完璧、音響設備は最高、ケータリング付きでセキュリティは国内最高峰だ。バンドとしては渡りに船なので遠慮なく利用させて貰うけど、私には補習がある。

 

 終わるまで、いつものように3人で先に練習してもらおうと思っていたら、何故か私の補習を見学する流れになり、そして虹夏ちゃんが相澤先生に直談判して、何故か一緒に補習を受けることになった。

 

「いざという時、私もちゃんと戦えるようになりたいの」

 

 そう言っていたけど、全然戦えてると思う。

 

 だけど、個性の制御ができてないと危ないか。

 

 演奏すれば理性が戻るといっても、個性を制御できていないと、いつ個性事故が起きるか分からない。

 

 そして相澤先生は個性が暴走しても、瞬時に個性を消せるチートだ。虹夏ちゃんが訓練する上で理想的な環境になる。

 

 

「こちら、補習のゲストだ」

 

「「よろしくお願いしますー!」」

 

 虹夏ちゃんと喜多ちゃんの元気の良い挨拶が雄英の実習施設内に響く。喜多ちゃんも触発されて参加することになったので、私の予備の体操服を貸している。

 

 山田は一人じゃ暇だからと見学。施設の壁際でちょこんと座っている。その隣に、トゥルーフォームのオールマイトも一緒に並んで座って見学している。

 

「……よろしく」

 

 無愛想にそう返事をかえしたのが、最近一緒に相澤先生の補習を受けている心操人使くん。普通科の生徒なのに、体育祭では決勝トーナメントまで残っていた猛者だ。私は予選落ちだったのに……

 

 トーナメントでは、その「洗脳」という強個性でデク君をあと一歩というところまで追い詰めたけど、OFAで自傷して洗脳を解くというデクくんの荒技で負けていた。

 

 その気概と、強個性だけど戦闘能力には直結しないという相澤先生に通じる個性に見込まれて、私と一緒に補習を受けることになっていた。

 

 いつもの補習はそんな心操くんと相澤先生との3人だけだけど、今日は虹夏ちゃん達以外にも参加者がいる。

 

 デクくんと、何故か爆豪だ。

 

 そして、物珍しさからクラスメイトが遠巻きに見学している。

 

 

「とりあえず後藤と心操は走ってこい」

 

「「うす」」

 

 心操くんはヒーロー科への転科が目標のようだけど、あまり身体作りをしてこなかったようで、私と同様にまずは走り込みをやらされている。

 

 洗脳は強力な個性だけど、雄英の入試みたいにロボット相手じゃ役に立たないし、弱点が判明すると効果も薄くなる。

 

 だからどんなに強力な個性でも、それに頼りきりにならないように身体を鍛えるのが雄英のヒーロー科の方針。実際、鍛えていない生徒なんて皆無だ。

 

 勢いよく走り始めると、何故か心操くんが私を追い抜こうとしてくるので、負けないようにペースを上げる。二ヶ月は早く補習を受けているのに、後塵を拝するわけにいかない。

 

 そのまま競いながら走っていると、心操くんは抜くのを諦めたのかペースが一定になる。

 

 基本的に5km以上は走らされるので、序盤に速度を上げすぎると後が辛い。このまま先行逃げ切りでいこう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ── 緑谷side

 

「アイツらが走り込んでる間に、先ずは伊地知がどれだけ戦えるのか見せてもらう」

 

「は、はい!」

 

「爆豪、相手しろ」

 

「チッ……対人訓練するからって来たのによ、こんな弱そうなヤツ相手なんて聞いてねえぞ」

 

 放課後に名指しで僕とかっちゃんが呼び出されたと思ったら、何故か実習施設に後藤さんのバンドメンバーの人たちがいた。

 

 ちゃんとした面識はないけど、もう何度もライブに通っているので一方的に知っている。かっちゃんと相対しているのは、結束バンドのドラマーの伊地知さんだ。

 

 ライブのMCで下北沢高校の2年生と言っていたので先輩にあたるのだろうけど、小柄で華奢な容姿からはあまり年上には見えないし、とても戦えるようにも見えない。

 

 それに、みんな雄英のジャージを着ているなか、場違いな白いワンピースを着ていて、足元はオシャレなサンダルを脱いで裸足になっていた。

 

「安心しろ、伊地知は脳無を単独で撃破している。個性だけ(・・・・)ならお前より格上だ」

 

「「「「「はぁ!?」」」」」

 

 相澤先生の言葉に、皆の驚愕する声がこだまする。

 

 USJ襲撃の時に戦った、脳無という強力で悍ましいヴィラン。

 

 オールマイト並の怪力の上、ショック吸収、超再生などの複数個性持ちのヴィランで、後藤さん……ギターヒーローのサポートのお陰と、皆で協力して何とか拘束して封じ込めることが出来た。アレを一人で撃退したというのが信じられない。

 

 雄英の教師陣でもオールマイトじゃなければ、単独で勝つのは難しい……いや、ミッドナイト先生なら"眠り香"が効けば可能そうだ。つまり、その手の行動を封じるような個性持ちという可能性が高い。そういう個性なら型にハマれば、かっちゃんでも遅れをとる可能性があるかもしれない。

 

「緑谷、うるさい」

 

「あ、すみません……」

 

 いつものクセで、考えていたことが漏れていたせいで、相澤先生に怒られてしまった。

 

「危なくなったら止める。だから全力で戦っていいぞ」

 

「ふん……手加減はしてやんよ」

 

「お前じゃない、伊地知に言ってるんだ。爆豪は油断すると死ぬぞ」

 

「あ゛あ゛あ゛ッ!?」

 

「ひぃっ!?」

 

 かっちゃんのヴィランのような恫喝に、伊地知さんが涙目になっている。日頃から戦闘訓練を積んでないようで、緊張か恐怖のせいか足はガクガクと震えている。

 

 その様子に雄英の入試の頃の自分を思い出す。あの頃は、仮想ヴィランの雑魚(1P)ロボット相手にも恐怖で震えていた。

 

「伊地知の準備が出来たら開始だ。変化してくれ」

 

 その相澤先生の言葉に、伊地知さんが自分の頬を「パァン」と思いっきり張ると、

 

「いきますっ!」

 

 そう大声で宣言すると、ぽんっと黄色い熊に変化した。大きさは変化前の伊地知さんと変わらないくらい小柄。ツキノワグマほどの背丈だ。「可愛い~」と見学していた女子たちとオールマイトから黄色い声が上がったけど、瞬く間に5、6mほどまで膨れ上がった。

 

「「「おお~!」」」

 

 その威容に周囲から感嘆の声があがる。

 

 リューキュウと同タイプの変化型か。その中でもオーソドックスな獣タイプは、変化した動物の力を発揮する。5m超えのヒグマなら、脳無とタイマンで渡り合えるのは納得……いや、先日のライブハウス襲撃のニュースで、黄色いヒグマが脳無を玩具のように嬲り殺しにしていた動画が拡散されていた。

 

 そんなヒーローは見たことないし、その凄惨で一方的な蹂躙劇に、ネットではヴィラン同士の仲間割れという説が濃厚だった。

 

 それがまさか伊地知さんだったとは……

 

 あの巨木のような剛腕を受けたら、かっちゃんでも死ぬかもしれない。

 

「じゃあ、はじめ」

 

「よろしくお願いします」

 

 さらりと相澤先生が開始の合図をすると、白いワンピースを着た5m超えの巨熊が礼儀正しくおじぎをする。声は変わらず可愛らしい女の子の声だから脳がバグりそうだ。

 

「いくぞ、オラッ!!」

 

「きゃっ!?」

 

 かっちゃんが爆発で飛び上がり速攻を仕掛けると、伊地知さんは悲鳴をあげてガードした。

 

 けど、その毛皮に阻まれてかっちゃんの爆破は全く効いてない。伊地知さんは腰が引けて反撃せずにガードしたままだ。

 

「図体がデカイだけかオラッ! カカシ相手じゃ訓練になんねぇゾ!!」

 

 蹲る伊地知さん相手に、かっちゃんが容赦なく爆破で攻撃を加えているが、毛皮が少し煤ける程度で大したダメージになっていないようだ。

 恐る恐るといったように、時おり伊地知さんが腕を振り回すけど、かっちゃんは余裕でかわして当たりそうにもない。

 

 そんな一方的な展開が続いているけど、かっちゃんも決定打がなくて攻めあぐねている。

 

 そろそろ相澤先生が止める頃合いかと思っていたら、伊地知さんの様子がおかしくなってきた。

 

 息遣いが激しくなってくると獣じみた呼吸音になり、つぶらな瞳が血走り、飢えた野生の獣のような獰猛な気配を発しだす。

 

 そして、

 

「グルルル……ガアアアアッッッ!!!

 

「「「ッ!!!?!」」」

 

 巨熊が、鼓膜がやぶれそうなほどの咆哮をあげた。

 

 思わず耳を塞いでしゃがみ込むと、周囲で見学していた皆も同様に耳を覆って蹲っていた。至近距離で喰らったかっちゃんは衝撃で吹き飛ばされつつ、何とかこらえながらも鼓膜から血を流している。

 

 プレゼント・マイク先生の個性、"ヴォイス"にも匹敵するような咆哮だ。

 

「あ……がっ……」

 

 フラついているかっちゃんに、巨熊が襲いかかって一気に距離を詰める。

 

 体勢を崩しながらも、すかさず爆破で空中に飛びあがるかっちゃん。

 

 巨熊の前脚が届かない天井付近まで逃げて、一旦距離をあけようとしたみたいだけど、巨熊がしゃがみ込んで四つ足で踏ん張る。

 

 そして地面を陥没させるほど地面を踏み込み、

 

 ジャンプして空中に跳びあがった。

 

「「「跳んだァ!?」」」

 

 まさか巨体がジャンプするとは思っていなかったようで、ダメージが抜けきらないかっちゃんに、巨熊のベアクローが襲いかかる。

 

 あ、かっちゃんが死んだ。

 

 

 と思った瞬間に、

 

 

「はい、それまで」

 

 そう相澤先生が宣言すると「抹消」を発動させて、巨大なヒグマがみるみるうちに元の伊地知さんに戻っていった。

 

 そして空中高くに跳んでいた伊地知さんを、捕縛布でぐるぐる巻きにすると、地面に衝突しないように宙吊りにする。

 

「油断すると死ぬと言っただろ、爆豪」

 

「クソがッ! オレは、まだ負けてねえッ!!!」

 

「誰か保健室に連れていけ」

 

 鼓膜が破れているかっちゃんは、相澤先生の言葉も聞こえないのか、なおも戦おうと暴れていた。結局、捕縛布でぐるぐる巻きにされて、見学していた切島くんたちに保健室へ運ばれていった。

 

 そして、捕縛布で宙吊りにしていた伊地知さんを地面に降ろして解放すると、相澤先生は開口一番、訓練の総評を始めた。

 

「対人訓練の反省点だが……多すぎて話にならんな。まず伊地知は鍛えない方が強い。訓練して暴走せずに個性を完全に制御することも可能だろうが、そうすると弱体化してヴィランと戦えなくなるだろう。しかし、現状のままでは自己防衛のためとはいえ、変化するのは危険すぎる……敵味方の区別すらつかなくなるんだろ?」

 

「はい……」

 

「何より、致命的に性格が戦うことに向いていない。相手を傷付けることを恐れすぎている。それではヒーローを目指すのは諦めた方がいい」

 

「あ、私はヒーローを目指してはいなくて……守れる力さえあればいいんです」

 

「……そうだったな。暴走を放置して個性事故を起こさせるより、弱体化するのは目をつむって個性を完全制御させるしかないが……現状のままだと戦いにすらならんから、対人訓練を積んで戦闘に慣れるしかないだろう。雄英(うち)の生徒にもいい訓練になるから、しばらく見てやる」

 

「は、はい! がんばります!」

 

「小休止したら次は緑谷が相手してやれ」

 

「えっ!?」

 

「言うのが遅れたが、伊地知は個性が暴走する。だから、これは個性の制御訓練でもある。無理だというなら他の奴に相手させるが?」

 

「いえ、やります!」

 

 急に凶暴化したと思ったら、個性の暴走なのか……個性が発動したばかりの子供がよくなるとは聞いている。

 

 それに、あの脳無がまた襲ってくる可能性は高いから、仮想脳無としての訓練としては最適だ……油断すると死にかねないという危険はあるけど。

 

「後藤! 回復してやれ」

 

「ういッス」

 

 走り込みをしていた後藤さんに相澤先生が声をかけると、伊地知さんの方に駆け寄ってきた。そして、施設の端に置いてあったエレキギターを構えると弾きはじめる。座っていたベーシストの人もすすっと近寄ってくると、一緒にセッションを始めた。

 

 この曲はHi-STANDARDの「MY FIRST KISS」かな。この前のライブで聞いたばかりだ。

 

 けど、伊地知さんは特に怪我をしたようにも見えないし、少しフラついているだけで特に回復が必要にも思えない。それに後藤さんが回復出来るというのも初耳だ。

 

 疑問はつきないけど、ライブとは違って結束バンドのメンツで楽しそうにハモって歌っている様子は、本当に音を楽しんでいるのが伝わって癒される。

 

 ライブとは違うそのグルーヴ感に聞き入っていると、演奏に混じろうとした喜多さんを相澤先生が呼び止めた。

 

 

「その間に、喜多、お前の個性を把握したい」

 

「あ、はい!」

 

「確か発光だったか。試しにやってみてくれ」

 

「はいっ! えいっ」

 

 キターン、という謎の効果音と共に喜多さんの背後がピカッと光った。

 

 "発光"は世界で一番有名な個性だ。

 

 個性の起源と言われている光る赤子が、近代史の教科書にも載っているくらい有名だからだ。それに中学の時のクラスメイトにも同様の個性持ちがいたくらい*1、オーソドックスな個性でもある。

 

「ライブの時にレーザーライトのような光を出していたのは、お前の個性なんだろう?」

 

「そうですね、元々光るだけの個性だったんですけど、こう、むんって力を入れたら出来ました!」

 

 喜多さんが、ふんすと力を入れると背後から沢山の虹色のレーザーライトがピカピカと背中から天井に向かって伸びた。

 ライブの時にスモークと一緒に派手な虹色のレーザーライトが輝いてるなと思っていたけど、あれは個性だったのか……てっきりライブハウスの演出装置だと思っていた。

 

 その光を確認した相澤先生が実習施設の倉庫へ歩いていくと、スタンドに黒い板のような装置が付けられている機械を持って戻ってきた。

 

「これは光量や波長、電磁波などを測る装置だ。これに向かって光を発してみろ」

 

「はいっ!」

 

 タブレットを操作しながら相澤先生がそう言うと、喜多さんがレーザーライトを1本に束ねて黒い板に向かって照射した。

 

「継続時間と距離、色の変化でどうなるかも知りたい。そのまま照射を維持しながらレーザーの色を変えていってくれ」

 

「はいっ!」

 

 様々な色に変化させながら遠い位置からも照射しては、相澤先生がタブレットの数値をチェックしている。

 

「距離での減衰はあまりみられない……かなり遠くまで減衰せずに届くな。赤が一番数値が高いようだ。後どのくらい照射可能だ?」

 

「まだまだいけますっ!」

 

「持続時間も充分か……なら、赤色にして出力を限界まで上げてくれ」

 

「ぐぬぬぬぬっ!! あっ……もうムリです」

 

 喜多さんが踏ん張るように力を入れると、赤い光の輝量が増した。しかし、すぐガス欠になったようで一瞬の輝きで終わってしまった。

 

「ふむ出力を上げるとすぐ限界になるようだな。再充電はどのくらいだ?」

 

「えーと、ちょっと休めばすぐ出来そうです」

 

「燃費はいいな。まぁ、青山のレーザーのような物理的な破壊力はないようだが……」

 

 青山くんのネビルレーザーは、仮想ヴィランロボを一撃で破壊するほど攻撃力がある。喜多さんの発光は、機材には全く影響がないのでそういう破壊力は皆無のようだ。

 

 "発光"は世間的に一番有名なハズレ個性。暗い部屋で物を探すのに便利程度という認識だ。数値を測って何か意味があるのだろうか。

 

「赤い光なら5秒も照射すれば網膜を焼き、失明に至らしめるな。出力を上げれば一瞬だ。……次にヴィランに襲撃された時は、迷わずその目をレーザーライトで焼け」

 

「えっ、それって危ないですよね……?」

 

「危ないに決まってるだろ。あくまでヴィランに襲われた時、かつ正当防衛が成り立つ時だけにしておけ。上手く目を潰せれば、それだけで行動不能にできる。まぁ、脳無相手なら超再生があるが……繰り返し焼けば封殺できるかもしれん」

 

「は、はあ……」

 

 相澤先生の合理的な個性の使用方法を聞いて、喜多さんがドン引きしている。

 

 ヴィラン相手なら、殺さなければ何してもいいという認識は過激に思えるけど、大量殺人している極悪ヴィランでさえ、ヒーローは殺さずに無力化しないといけない制約がある。

 だから殺傷能力の高い個性は繊細な制御を求められるし、そう考えると必要以上に傷付けず*2、オールレンジから一瞬で視覚を奪える*3なら、意外とヒーロー向けの個性かもしれない。

 

 とはいえ、本気でヒーローを目指すなら、軽犯罪者の場合は失明しない程度に一時的に視覚を奪うとか、繊細なコントロールを要求されるだろうけど、喜多さん達は緊急時の護身術だ。一気にフルパワーで失明させても問題はない。*4

 

 発光はハズレ個性という認識だったけど、そういう訳でもないのかな……いや、同じような個性に見えても、本質に差異があったりするのが個性だ。喜多さんの個性がそういう性質だったというだけだろう。

 

「お前はエイムを磨け。遠距離からでもどんな状況でも、確実に相手の目を潰す訓練をしろ。伊地知が戦えなくなっても盾役くらいは出来るだろう……お前が相手を無力化できれば、またヴィランに襲われても制圧することが可能になる」

 

「がんばりますっ!」

 

 むんっと、可愛らしいポーズで気合を入れる喜多さん。

 

 そんなやり取りをしていたら、後藤さん達の演奏が終わったようで、へたり込んでいた伊地知さんは元気を取り戻していた。

 

「回復が終わったようだな。後藤は走り込みに戻れ。次は緑谷、伊地知の相手をしろ」

 

「うす」

「は、はいっ!」

 

「よろしくお願いします!」

 

 伊地知さんが元気よく挨拶すると、ぽんっと黄色い熊に変化して、また瞬く間に5m超えのヒグマに巨大化した。

 

 訓練のお手伝いという認識で来ていたけど、相澤先生の言う通り、本気で挑まないと死にかねない。

 

 理性が無くなるまでは攻めまくって、凶暴化したら回避メインにするようにしよう。

 

 その前に咆哮は耳をガードしないと、かっちゃんの二の舞になってしまうから、様子がおかしくなったら要注意だ。

 

「じゃあ、はじめ」

 

 相澤先生の合図と同時にOFAを発動する。

 

 フルカウル10%。

 

 身体が悲鳴を上げる限界まで、OFAを全身に行き渡らせる。

 

 そのまま殴りかかるも、柔らかな毛皮の下にある分厚い筋肉と脂肪に阻まれた。拳からはずしりとした重みが返るだけで、全く効いた様子がない。

 

 一発でダメなら、効くまで殴るだけだ。

 

「ああああああああっ!」

 

 気合を入れて渾身のラッシュを仕掛ける。

 

 ひたすら殴り続けると、伊地知さんはガードに徹するばかり。時折こわごわと腕を振ってくるが、やっぱり余裕で躱せるほど動きが悪い。

 

 相澤先生の言うとおり恐れている。

 

 戦うことへの恐怖じゃなく、相手を傷付けることへの恐れだ。

 

「舐めるなっ!」

 

「えっ?」

 

「僕たちは日頃からプロヒーローを目指して、厳しい訓練を積んでいるんだ! 伊地知さんは今、何のためにここにいる!」

 

 殴る手を止めて、伊地知さんを煽る。戦うことに向いてない優しい性格なんだろう。

 

 だけどそれでは、いくら強力な個性があっても凶悪なヴィランからは何も護れない。

 

「護りたい人がいるからじゃないか! やるなら全力でこいッ!」

 

 僕がそう啖呵を切ると伊地知さんはしばしポカンとした後に、覚悟を決めて、また両手で思いっきり頬を張るとボフッと音がした。

 

「いきますっ!」

 

「こいッ!!」

 

 伊地知さんが剛腕を振るって攻撃してくる。

 

 まだ動きはぎこちないけど、戦い慣れてないだけで当初のような恐る恐るといった迷いは消え、当たれば死にかねない勢いがある。

 

 もちろん、いかに強力であっても初心者の単調な攻撃が当たるはずもなく、それを瞬時にかわしては反撃を叩き込んでいく。

 それでも、ただサンドバッグを殴るだけのような一方的な展開から、ようやく対人訓練らしい形になってきた。

 

「伊地知、攻撃が単調で大振りすぎる。脇を締めて、腕の動きを小さく鋭くしろ。ジャブだジャブ。力を抜いてスナップを効かせるんだ。相手の動きをよく見て、フェイントも挟め。隙の少ない攻撃を当てて、動きを止めてからトドメだ」

 

「はいっ!」

 

 相澤先生からのアドバイスに大振りはやめて、ボクシングのジャブのように動きの少ない攻撃になった。とはいえ5m超えの巨体だ。鋭い爪もあるから、そのジャブだけでも死にかねない。

 

 素早い連打に反撃する隙もなくなり、フルカウルを発動させてひたすら回避に徹する。拳の面積がデカいので、常に全力で避けないと不味い。しゃがんで回避すると、すぐ真上を空気が破裂する轟音をたてて熊の手が通り過ぎる。

 

 そして段々と伊地知さんの目が充血してくると、また息遣いが激しく、野性味を帯びてきた。

 

 ヤバい。

 

「ガアアアアッッッ!!!」

 

 そう思った瞬間に耳を塞いで口を開けると同時に、爆発したかのような爆音と衝撃が全身を襲った。

 

 衝撃で吹き飛ばされる。

 

 耳鳴りがするだけで鼓膜は無事だ。

 

 地面を転がりながら体勢を整え、前を向くと、熊が剛腕を振るう直前。

 

 ここで上に逃げるとかっちゃんの二の舞だ。

 

 バックステップで後方に逃げる。

 

 けど、巨体に似合わない俊敏さでさらに距離を詰められた。

 

 

 そして、そのまま防戦一方で逃げ続けるはめになり、追い詰められて攻撃を喰う直前で、相澤先生が"抹消"を発動させて伊地知さんが元に戻って終わってしまった。

 

 

「暴走してから3分くらいだな。まぁ、そんなもんか」

 

「ゼェ……ゼェ……カヒュ」

 

 必死で逃げていたせいで呼吸がキツイ。酸素を求めて仰向けに寝転がったまま大きく息を吸う。

 

 たった3分……10分くらいは逃げていたと思ったけどそれだけしか経っていなかったのか……。

 

 伊地知さんの方を見ると、辛そうにしてはいるけど、ダメージを負った様子もなくほぼ無傷だ。

 

「初日だから今日はここまでにしておくか。伊地知と緑谷はクールダウンに軽く走れ。後藤と心操! 走り込みは終わりだッ!」

 

「「……はい」」

 

「「うす!」」

 

 息切れが収まると、後藤さんたちと交代するように入れ替わって、流す程度にジョギングを始める。

 

 後藤さんたちは相澤先生に指導されて、対人訓練を始めるようだ。二人とも戦闘とは関係のない個性だから、純粋な身体能力のみでの格闘術の指導だ。

 

 そんな指導の様子を眺めながら走っていると、伊地知さんが追いついてきた。

 

「さっきはありがとね」

 

「い、いえ、生意気なことを言ってすみませんでした……」

 

 朗らかに笑いかけてくる伊地知さんにドキリとする。

 

 いくら訓練中に気持ちが昂っていたとはいえ、先輩相手に失礼なことを言っていた。謝る僕に伊地知さんは、

 

「ううん、私の覚悟が足りなかったんだ……二度と大事な人を失いたくないって思ってたのにね……」

 

 そう言って寂しそうに笑った。

 

 そして、伊地知さんが走りながらぽつぽつと語り出した。

 

 過去にヴィランに母親を殺されたこと。

 

 その時に個性が暴走して、さっきのような5m超えのヒグマになるようになったこと。

 

 暴走した結果そのヴィランを九割殺しにして、駆けつけたヒーローにも重傷を負わせたこと。

 

 それ以来、変化すると母親が殺された場面がフラッシュバックして常に個性が暴走するようになり、ヴィランやヒーローに重傷を負わせたこともトラウマになって、思うように戦うことが出来なくなっていたと。

 

「あ、あの……すみません、そんな事情があったなんて知らずにあんなこと言って……」

 

「いいのいいの! キミの言うことはもっともだったから。けど、さっきの話し、ぼっちちゃんには内緒にしてね? 重荷になって欲しくないから……」

 

 そう言ってはにかむ伊地知さんに、思わず見蕩れてしまう。

 

「大切な人を護りたいなら、覚悟を決めなきゃだよね……そういえば、キミの名前なんていうんだっけ?」

 

「あ、緑谷……緑谷出久です」

 

「いつもライブに来てくれてるよね。これから迷惑かけると思うけど、よろしくね出久くん」

 

 

 そう言って微笑む伊地知さんの笑顔が、僕には何故かオールマイトの笑顔と重なって見えた。

 

 

 

 

 

*1
1巻冒頭

*2
失明はさせる

*3
失明をさせる

*4
ある






Q、なんで心操くんは抜かそうとしてくるの?
A、峰田なら真後ろに張り付く状況だから


アニオリだと実習に他校の生徒が参加してたから、補習に参加するくらいならセーフかなって

虹夏ちゃんは繰り返し変化する&その状態で戦闘する事によって、個性の制御に慣れつつ、戦闘訓練を積んでいます

雄英の生徒は仮想脳無(虹夏ちゃん)の戦闘訓練が積めてwin-win


ちなみに林間合宿に結束バンドのメンバーは参加させません
流石に合宿に他校生徒の参加は無理があると思うので


次回、期末実技テスト

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