ギターヒーロー   作:右から左へ

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Nice Dream

 

 

 ─── 期末テスト・実技試験

 

 試験会場に到着し、バスから降りると指示された位置について開始を待つ。

 

 試験の内容は、生徒ペアで試験官役の講師に勝つこと。勝利条件はペアのどちらかが会場から脱出するか、試験官にハンドカフス(手錠)を掛ける必要がある。

 

 そして私のペアは切島くんで、試験官はセメントス先生。

 

 範囲バッファーの私は味方の人数が多いほど効果が高くなるから、ペア戦じゃお荷物になりがちだ。しかも防御力特化の切島くんにバフをかけても、防御力はマシマシに出来るけど攻撃力はそれほど上がらない。

 

 このペアは突破力が殆どなく、脱出するための機動力もない。そして会場はビル街なので、セメントス先生が無双する未来しか見えない……割と詰んでないこれ?

 

「燃えるヒーローの曲を頼むぜ!」

 

 そう言って切島くんはサムズアップしてくるけど、正攻法ではセメントス先生のセメント攻撃に押し負けて、すり潰されるだけだろう。

 

「あ、あの作戦の相談が……」

 

「ん? 何かいい作戦あるのか?」

 

 きょとんとしている切島くんに、ヘッドホンを渡す。単体でも曲が聴けて、ノイズキャンセリング機能で周囲の音を完全にシャットアウトできる優れものだ。音質は最高で、相応にお値段もお高い。

 

「こ、これを使ってガンガン音楽をかけて、私の演奏を聴かないようにして欲しいんです。し、SIDEROS(シデロス)の新曲入れてあるので、ソレお勧めです」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 試験開始の合図があがると、切島くんとは別れて脱出口へ向かった。

 

 予想通り、セメントス先生が出口で待ち構えている。

 

 出口をコンクリートで完全に固められていたら脱出は不可能だけど、そこまで鬼畜仕様ではないらしく、ひとまず胸をなで下ろす。

 

 けど、互いに機動力が無い以上、出口を押さえて封殺するのが最も堅実だと判断したのだろう。仁王立ちで私たちが来るのを待っている。

 

 そんな相手の正面に立つのは怖すぎるから、攻撃を受けにくいビルの屋上や建物の陰に隠れて演奏したいところだけど、相手がセメントス先生では自殺行為だ。コンクリをこねこねされて足場を崩されるか、包まれて身動きが取れなくなるだけ。

 

 

 覚悟を決めてほどよく離れた見渡しのよい広場に進みでると、

 

 私はゆっくりと、アコースティックギターの弦を鳴らした。

 

 

 

『They love me like I was a brother

 彼らは僕のことを兄弟みたいに愛してくれた

 

 They protect me, listen to me

 守ってくれて 話を聞いてくれた

 

 They dug me my very own garden

 僕のためだけの庭を掘って

 

 Gave me sunshine, made me happy

 陽の光を当てて 幸せな気分にしてくれた』

 

 

 

 学生時代、高二病に疾患していた私は邦楽をダサいと思い込み、他人と違った曲を聴こうと洋楽やジャズを聴いていた時期があった。

 

 色んなジャンルやバンドを聞いてみて、UKロック・ポップスにハマり、その中でもよく聞いていたバンドがRadiohead(レディオヘッド)

 

 特に一番刺さった2ndアルバムをヘビロテして聞いていて、トム・ヨークの染みる優しい歌声に包まれながら布団に入るとよく寝れたもんだ。

 

 だから、毎晩のようにRadioheadを聴きながら寝ていた。

 

 

 Radioheadは、私にとっての子守唄(ララバイ)

 

 

 

『Nice dream

 素敵な夢だった

 

 Nice dream

 素敵な夢だった

 

 Nice dream

 素敵な夢だった』

 

 

 

 なかでも特に寝付きが良くなりそうな「Nice Dream」を、私は優しい旋律で、さっさと寝ろと思いを込めてギターを鳴らす。

 

 

 

『I call up my friend, the good angel

 優しい天使の友達に 電話をかけてみた

 

 But she's out with her answerphone

 留守電で 彼女は言ってた

 

 She said that she'd love to come help, but

 本当は助けに行きたいけど

 

 The sea would electrocute us all

 海が私達を感電させちゃうからって』

 

 

 

 演奏を聴いた相手の感情を増幅させる個性。その“感情”には欲望も含まれる。

 

 その三大欲求のひとつ、睡眠欲を増幅させる。

 

 今にも眠り落ちそうなセメントス先生は、耳を塞ごうと手を上げるものの、ふらついていて上手く遮れていない。

 

 私の個性は演奏を“聴かせる”ことがトリガーだ。

 

 本来なら耳を塞ぐだけで防げる。

 

 でも、一度でも演奏を聴いてしまったら……もう、そんな気は起きなくなるよね。

 

 

 だって、こんなステキな曲、

 

 聴かないなんて選択肢を、

 

 とれるわけがない。

 

 

 

『Nice dream

 素敵な夢だった

 

 Nice dream

 素敵な夢だった

 

 Nice dream

 素敵な夢だった

 

 Nice dream

 素敵な夢だった

 

 Nice dream

 素敵な夢だった

 

 Nice dream

 素敵な夢だった』

 

 

 

 眠気と必死に戦っているセメントス先生は、個性の制御もおぼつかないようで、見当外れな方向にセメント攻撃をだしている。

 

 このまま演奏を続けるだけで余裕で勝てそうだけど、私の第一の個性である感情を増幅させる能力は、対象を選べず無差別だ。

 

 そして無差別ということは、私にも効果があるということ。

 

 

 つまり、私もむっちゃ眠い……

 

 

 出発前にエナドリやコーヒーをお腹がタプタプになるまで流し込んで、カフェイン過剰摂取で動悸が激しくなるくらいおめめバキバキにしておいたのに……それでも今は、マジで寝落ちしそうなくらい眠い。

 

 耳栓をして演奏することも出来たけど、そんな状態で気持ちをノせるなんて器用な真似は、私には無理だ。

 

 だから、気合いで眠気と戦いながら演奏を続ける。

 

 

 

『Nice dream

 素敵な夢だった

 

 If you think that you're strong enough

 自分は十分強いと思えるなら

 

 Nice dream

 素敵な夢をみていた

 

 If you think you belong enough

 ここに居場所があると思えるなら

 

 Nice dream

 良い夢をみていた

 

 If you think that you're strong enough

 自分は十分強いと思えるなら

 

 Nice dream

 良い夢だった

 

 If you think you belong enough

 ここに居場所があると思えるなら』

 

 

 

 寝そうで寝ないセメントス先生と、おめめバキバキにしてきた私との我慢大会の様相をていしてきたけど、こちらにはヘッドホン装備の切島くんがいる。

 

 先生が寝たらハンドカフスを掛けるか、脱出するように言っておいたが、ふらつきながらも中々寝ないセメントス先生の後ろを、切島くんが忍び足でそうっと抜けようとしている。

 

 そんな切島くんの足元からコンクリートがせり上った。

 

「うおっ!? 危ねっ!」

 

 危うくセメントで固められそうになった切島くんは、間一髪で避けて私の方に逃げてくる。

 

「はぁ……ギターヒーローを甘く見ていましたね。デバフを掛けられるのは聞いていましたが、まさかここまでとは」

 

 何故かすっかり眠気を飛ばしたセメントス先生が、手を抑えながらそう呟く。そして、その手の指はあらぬ方向に折れ曲がっていた。

 

 体育祭で"洗脳"を解いたデク君みたいに、自分で指を折って眠気を覚ましたのか……ひえっ。

 

「イレイザーヘッドは少々過保護過ぎると思っていましたが、こんな曲をラジオで流したら未曾有の大災害ですよ。何万人という死傷者が出てもおかしくありません」

 

 この曲も絶対にラジオで演奏するなと厳命されてたからね。居眠り運転で交通事故を誘発するからと。

 

 前世でもドライブ中にRadioheadの曲をかけたら、危うく居眠りしそうになって事故りかけたから、さもありなん。

 

 

「痛みで眠気は吹き飛びましたし、もうその曲は効きませんよ。セメントの波に飲まれなさい! ……む?」

 

 そう言うと、セメントス先生のセメント攻撃が襲いかかるが、いつもの勢いも速さもない。"演奏"に個性や能力を下げる効果も乗せていたから、その影響だ。

 

 そのよわよわなセメントの壁に、切島くんが硬化しながら殴りかかって防いでくれる。

 

 やっぱりタンク役なら切島くんは安定感ある。

 

 けど、やっぱり防戦一方だし、硬化は10分が限界らしいから、その間に次の手を打たないと押しきられる……。

 

 

 痛みで眠気を飛ばしたなら、それを和らげてあげようか。

 

 

 エレキギターに持ち替えた私は、再びギターをかき鳴らした。

 

 

 

『間違い探しの夜更かし あら楽しい

 迷い子が手招く 夢の国へ

 

 アッチハ ソッチ?

 コッチハ ドッチ?

 

 電池切れ人生

 たちまち Let's パーティー』

 

 

 

 SICKHACK(シクハック)の曲「ワタシダケユウレイ」。

 

 サイケデリック・ロックになるジャンルは、海外のドラッグカルチャーが起源だ。LSDなどのヤクの幻覚体験を曲で表現しているロックだ。

 

 残念ながら前世でもヤクの経験は無かったけど、酒は浴びるほど飲んでいた。

 

 そしてこの作曲者は、酒カスのきくり姐さん。

 

 

 

『ぐるぐるぐる踊りましょう

 べたべたべた 蔓延るの

 

 嘘だらけ塗ったトースト

 おひとついかが?

 

 ワタシダケユウレイ』

 

 

 

 どんな辛いことがあっても酒さえあれば忘れられる。

 

 そして呑んで泥酔すると、フラついて転んで顔面血だらけになっても気が付かないほど痛みに鈍くなる。

 

 そんな酒に溺れた社畜時代を思い出しながらギターを弾いていると、いい感じに視覚がぐるぐると回ってきた。

 

 トレインスポッティングのワンシーンみたいに、視覚がサイケデリックに染まってくる。

 

 セメントス先生が地面に手をついて嘔吐きだした。

 

「ヴぉえ……」

 

 何だ? 下戸かぁ~?

 

 よし、一気にたたみかけよう。

 

 

 

『Nice dream

 素敵な夢だった

 

 Nice dream

 素敵な夢だった

 

 Nice dream

 素敵な夢だった

 

 Nice dream

 素敵な夢だった

 

 Nice dream

 素敵な夢だった』

 

 

 

 いい感じに頭がふわふわしてきたところで、再びRadioheadの「Nice Dream」に戻る。

 

 もう酒の力で痛みも気にならなくなっているだろう。そしてアルコールが回ると眠くなるのは酒カスの真理。

 

 この状態なら極上の子守唄(ララバイ)に耐えられまい。

 

 

 うん、耐えられないので、私は寝ます。

 

 

 おやすみなさい……

 

 

 

 切島くん、後は任せた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 side 緑谷

 

 ── 期末試験、救護室

 

 怪我で運ばれた救護室には、試験を監視するリカバリーガール用にモニターがズラリと並んでいた。

 

 オールマイトとの戦闘で負傷した治療が終わると、他の生徒の試験が気になったのでリカバリーガールと一緒にモニターを眺める。

 

 そのモニターのひとつに、後藤さんと切島くんペアの試験の様子が映されていた。

 

 試験官はセメントス先生。

 

 接敵してから後藤さんが演奏しているのに、何故かセメントス先生は棒立ちのまま動かない。

 

 いつもなら後藤さんの個性の影響で派手な戦闘になりがちなのに、戦いになる気配もなく、セメントス先生は何かに耐えるように蹲りだした。

 

「セメントス先生が動かないようですけど、何が起きてるんですかね……」

 

「動けないのかもねぇ……ギターヒーローの演奏のせいさね」

 

「えっ? 後藤さんの個性でそんなことを出来るんですか?」

 

「なんだ、お前さん仲が良いのに知らないのかい。演奏で相手を弱らせることも出来ると聞いてるよ」

 

 リカバリーガールの説明に驚愕する。

 

 僕が知っている限り、訓練ではいつもヒーロー讃歌の曲ばかりだし、基本的にアップテンポな他人を応援する歌しか聞いたことがない。そして、その曲を聞くと個性や身体能力にブーストがかかるので、てっきり他人の能力を上げるだけだと思い込んでいた。

 

 けど、思い返せばライブでは心が締め付けられるような孤独感や寂寥感を彷彿とさせる曲もある。その時は、込み上げる感情で涙しながら観客が熱狂していた。

 

 プラスな感情だけでなく、マイナスな感情……憎悪や破壊衝動、希死念慮なんてものまで増幅できるならと、そこまで考えて空恐ろしくなった。

 

 いつも聞いているUAレディオ。そこで後藤さんがそんな曲を演奏しただけで、日本に……いや世界中に恐ろしい被害をだせるんじゃないかと。

 

 けど、そんなことは杞憂だと思い直した。

 

 どんな個性でも、それを扱う本人次第でヒーローにもヴィランにもなりうる。ヒーローを目指して頑張っている後藤さんに、そんな心配は無用だ。

 

 そしてモニターでは、自分の指を折って復活したセメントス先生が、セメント攻撃を繰り広げている。だけど、そのセメントにはいつもの勢いも精彩もなく、切島くん一人に防がれていた。

 

 明らかに個性の威力が低下しているのは、後藤さんの演奏の影響なんだろうか。

 

「なんで今まで使わなかったんだろう……」

 

「そりゃ、イレイザーヘッドから禁止されてたからねぇ。今回の試験じゃ限定解除されたみたいだけど、こんな個性、おいそれと使わせられないだろう。見てみな、本人だって個性の影響を受けてるじゃないか」

 

 演奏している後藤さんも、セメントス先生のようにふらふらしながら演奏している。

 

 リカバリーガールの言う通り、自分の演奏の効果を受けているのだろう。個性の細かな制限とかは聞いたことが無かったけど、どうやら無差別に影響を及ぼし、自分にも影響が及ぶようだ。

 

 そして、何故かセメントス先生が蹲ってゲロを吐き出したと思ったら、その上にうつ伏せに倒れてしまった。

 

 そのまま動かなくなったのを確認した切島くんが、先生の手首にハンドカフスを掛けた。

 

「ふむ、生徒側が勝ったさね」

 

「すごい……相性的に勝てないと思ってたのに、完封しちゃった……」

 

 防御力特化の切島くんと、補助特化の後藤さん。セメントス先生相手にはどう考えても勝てないと思っていたけど、蓋を開けてみたら先生にろくに攻撃させずに勝利してしまった。

 

 どんな曲を演奏したら、あんな惨状を引き起こせるんだろうか。

 

「そうでもないさね、かなりギリギリだよ」

 

 そう言ってリカバリーガールが杖で指し示した先には、倒れている後藤さんの姿が映し出されている。どうやらセメントス先生とダブルノックダウンになったようで、ギターを大事そうに抱えてすやすやと寝ていた。

 

「それでも、トップランクのヒーローに勝てたのは凄いです」

 

「何言ってんのさ。お前さん達はオールマイトに勝ったじゃないか」

 

「それはオールマイトが手加減してくれたからで……」

 

「セメントスも同じさね。本気でやったらヒヨっ子共が勝てるわけないだろうに」

 

「……なるほど」

 

 これはあくまで試験だ。オールマイトも本気じゃなかった。一見無茶な組み合わせでも、勝ち筋を用意して生徒の成長を促す仕組みになっているんだろう。

 

 それにしても、後藤さんが実技テストをクリア出来て良かった。

 

 

 一人だけ筆記テストで赤点だった後藤さんは、実技テストまで赤点をとったら除籍処分と、相澤先生に警告されてたからね……

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 ── 期末試験、実技テストの翌日

 

 上鳴くんと三奈ちゃんが項垂れている。実技テストで唯一赤点になったペアだ。

 

「みんな……土産話、っひぐ、だのじみに……うう……してるがらっ……」

「俺たちの分まで、楽しんでごいよっ!」

 

「まだ分からないよ! どんでん返しがあるかもしれないし……」

「緑谷、それ口にしたら無くなるパターンだろ」

 

 デク君と瀬呂くんが2人をなだめているけど、逆効果だったようで上鳴くんがブチ切れだした。

 

「試験で赤点なら夏休みの林間合宿に行けずに居残り補習地獄! そして俺と芦戸は実技テストをクリア出来なかった! これでまだ分からんのなら緑谷の頭は猿以下だッ!」

 

「まぁ、落ち着け。まだ採点の基準も分からないんだし、クリアすればいいってもんじゃないだろ。俺なんて峰田のお陰でクリア出来たけど、開始早々眠らされただけだからな……」

 

 瀬呂くんがそう言って2人を慰めながら凹んでいる。どうやらミッドナイト先生相手に開始早々眠らされて、糞ブドウが単身奮闘してクリアしたようで、教室で糞ブドウがドヤ顔している。

 

 ヴィランを処すのは厳禁なヒーロー社会で、拘束力に優れる有用な個性。汎用力もあるし、学力も上位。糞ブドウのクセに地味に高スペックだ。

 

 これで性格がまともなら将来有望なのに、酷いセクハラ魔というのが救えない。その被害は主に私とヤオモモさんに集中しているから、殺意しか湧かない。

 

「とにかく、採点基準が分からない以上は分からな……」

 

 そこまで言って瀬呂くんがチラリと私の方を見る。

 

「わ、私はすでに赤点確定なので……」

 

「うわーん! 一緒に補習頑張ろうね!」

 

 そう言って三奈ちゃんが抱きついてくる。

 

 ヒーロー科で唯一、筆記テストで赤点をとった私は、実技の結果を待たずに補習が決定していた。

 

 とはいえ、実技テストまでも赤点だったら「除籍処分」と宣告されていたので、首の皮一枚繋がった感じだ。

 

 いや、曲にすれば覚えられるんだけど、その暇すら無いくらい最近は忙しかった。戦闘訓練の補習と、バンド練習やライブに明け暮れていたせいなので、同じく喜多ちゃんと山田も期末テストは赤点だったらしい。夏休みは補習が待ち受けてると嘆いていた。

 

 

「予鈴が鳴ったら席についとけ」

 

 本鈴と同時に相澤先生が教室に入ってくると、期末試験の結果で騒いでいたクラスメイトは、軍隊のように俊敏に席に着いた。当然私もすぐさま着席している。

 

「おはよう。今回の期末試験は残念ながら赤点者が出た。したがって林間合宿は……全員行きます

 

「「どんでん返しきたぁあああぁぁ!!!」」

 

 上鳴くんと三奈ちゃんの嬌声が教室に響き渡ると、私も静かにガッツポーズする。

 

「赤点者は、実技で上鳴と芦戸、それと瀬呂。筆記で後藤だ」

 

「うわぁ……未クリアで赤点よりハズイ……」

 

 そう相澤先生から通達されて、瀬呂くんが静かに落ち込んでいた。

 

 一人だけ筆記で赤点だった私はもっと恥ずかしかったが?

 

 元々赤点を覚悟していたメンツは、落ち込むより林間合宿に行ける方が素直に嬉しいのではしゃいでいる。

 

「今回の期末試験は生徒に勝ち筋を残しつつ、どう課題と向き合うかを見ていた。でなければ課題云々の前に詰むヤツばかりだっただろう」

 

「本気で叩き潰すと言っていたのは……」

 

「追い込むためだ。そもそも林間合宿は強化合宿。赤点を取るようなヤツらこそ、力をつける必要がある……合理的虚偽ってヤツだな」

 

「「「ゴーリテキキョギイィーー!?」」」

 

「しかし! 何度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかと思われますッ!」

 

「確かにな。しかし全部ウソってわけではない。赤点者に補習があるのは本当で、林間合宿中に別途補習時間を設けてある。ぶっちゃけ学校に残って補習を受けるよりキツイだろうな……じゃあ合宿のしおりを配るから後ろに回していけ」

 

 飯田くんの問題提起に、相澤先生がそう返すと、林間合宿のしおりが回されてくる。赤点者用の別紙には、びっしりと補習のスケジュールが記載されていた。

 

「「「ひぇっ……」」」

 

 と思ったけど、筆記で赤点だった私は勉強面での補習になっている。そして私の勉強法は、ノートや教科書の内容を暗記用に歌詞にまとめて曲に落とし込むだけだ。

 

 普通に勉強したところで覚えられなくて無駄だから、久しぶりに作曲するか……

 

 

 

 朝のホームルームで連絡事項を伝え終えた相澤先生が出ていくと、クラスメイトが集まって合宿に向けての話題で盛り上がりだした。

 

「何はともあれ、全員で合宿に行けて良かったね」

「一週間の強化合宿か!」

「結構な大荷物になるなー」

「……暗視ゴーグル」

「水着とか持ってねーわ。色々と買わねぇとなぁ」

 

「じゃあさ、明日はテスト休みだし、A組みんなで買いに行こうよ!」

「いいね! 何気にそういうの初めてじゃね」

 

「ひとりちゃんも行く?」

「そ、そうですね、アウトドア用品は持ってないので、買わないとですし……」

 

 休日に混んでそうなスポットに大人数で買い物なんて行きたくないけど、アウトドア用品は通販じゃ勝手が分からないから実物を見て買いたい。そして、一人で買い物は自殺行為なので、みんなと団体行動した方が安全だ。

 

 林間合宿は基本的に野外訓練だから、各自それに適した装備が必須と書いてある。

 

 いつもの運動靴じゃなくて、本格的なトレッキングシューズとか買った方がいいのかな……

 

 

 

 

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