ギターヒーロー 作:右から左へ
とうとうやってきた受験当日。
私は何故か雄英高校を受けることになっていた。
ヒーローになる気はなかったんじゃないかって? 全くその通りでヒーローには全然興味ない。第一志望は秀華高校の普通科で、私立だ。
公立はすべり止めで適当なところで良かったんだけど、両親から「どこでもいいなら雄英受けてみたら?」と勧められたので、言われるままに受けた感じだ。ヒロアカの聖地を見てみたかったのもある。
筆記試験はすでに終わっている。
元々頭はそれほど良くなかったので受験勉強が苦痛過ぎたけど、ぼざろ原作でぼっちちゃんが歌でバイトのドリンクの作り方を覚えていたのを思い出し、試しに真似してみたらビンゴだった。
何故か歌うと、すっと頭の中に入ってきて覚えられる。そしてギターの練習にもなるから一石二鳥だ。
調子に乗って受験ソングとして公開したら、同じ受験生がヘビロテしたのか他の曲と遜色ない再生数だった。
その後も普通の曲の合間に受験ソングを更新していただけで受験勉強を乗りきった。ろくに勉強してないように見えるが、参考書を読んで歌詞としてフレーズにまとめる手間がかかっている。
まぁ、一回歌えば忘れないという、個性か特技のおかげでだいぶ楽だったけど。
しかしヒーロー科の実技試験には私の個性は効果がない。雄英高校の実技試験はヴィランに見立てた戦闘ロボットを倒してポイントを稼ぐのが目的だ。それかレスキューポイント。
どっちも私の演奏の個性とは無縁だし、身体なんて一切鍛えていない。発声のために少しジョギングをしている程度だ。
だから今日は記念受験&聖地巡礼にきただけ。
なので、校門で「ここが雄英か、テンション上がるなぁ」と、校舎を見上げていたら、どすんと誰かとぶつかって転んでしまった。
「あっ、すすす、すみません!」
ぶつかってきた相手を盗み見ると、もじゃもじゃ頭の男子。ぶつかった私相手にペコペコと謝っているが、私は何も言わずに転んだままだ。何故かって? 初対面の相手と話そうとすると、吃音やボリューム調整がおかしくなってヒューマンビートボックスになる呪いがあるからね。喋ろうとして不審者扱いされるなら、最初から喋らない子になった方が良いというライフハックだ。かなしいね。
「あ、あの…… 立てますか?」
こくんと頷いて立とうとするが、抱えていたギターケースが邪魔で上手く立てない。どうしたものかと悩んでいたら、肩に誰かの手が触れ、私の身体がふわりと浮き上がった。
「大丈夫? 勝手に個性使ってごめんね」
朗らかに笑いかけてくる女子が、個性で私を浮かせてくれたようだ。女の子が両手を合わせると、重力が元に戻ってストンと地面に落ちる。少しよろけたところを支えてくれた女の子を見ると、茶色のボブヘアーに大きなおめ目、人懐っこい笑みを浮かべている。
「ケガしてない?」
ギターケースを手渡しながらそう笑いかけてくる女の子に、私はアホみたいに頭を上下に振って頷くのが精一杯だった。無茶苦茶かわいいし、すごくいい香りがすりゅ。
「良かった、試験前にケガしたら大変だもんね。お互い頑張ろうね」
そう言って、女の子は手を振りながら試験会場に入っていってしまった。
(はえ~、ヒーローを目指す子はやっぱり違うなぁ)
私と真逆の「The 陽キャ」といった感じで全身から陽のオーラが出ていた。それに裏表のなさそうな朗らかなスマイルも眩しかった。ああいう子に受かって欲しいなぁ、と思っていたら思い出した。
あの子、お茶子ちゃんじゃん。
僕のヒーローアカデミアのヒロインのひとりだ。
「あの、本当にすみませんでした……」
そして、未だにぶつかって申し訳なさそうにしてるこの男子、そういえば主人公のデク君だなこれ。
トップヒーロー、オールマイトの後継者。OFAを継承して、将来ヴィラン連合と戦うヒーロー。
「あ、あの…… 何か?」
ついつい凝視して拝んでしまいそうになった。未来の平和は、この子にかかっているのかと思うと応援したくなるが、今は大事な試験前だ。このまま無視してデク君のメンタルに悪影響を出すのも忍びないので、決死の思いで返事をする。
「だ、だだだ! 大丈夫なのでっ! ……きっ、気にしないでくだしゃい……」
音量調節は相変わらず上手くいかなかったけど、何とか気合いでヒューマンビートボックスになるのだけは回避できた。けど、相手の目が見れないのは相変わらずなので俯いたままだ。
「おい、クソデクッ! 試験前だっつーのにイチャついて余裕だなお前、殺すぞ」
そんなやり取りをしていたら、金髪のヤンキーが絡んできた。人を殺してそうな目付きで、ポケットに両手を突っ込み、肩で風をきって威嚇しながら歩いている姿はどう見ても、
「ひっ! ヴィラン!?」
「誰がヴィランだテメェ! ぶっ殺すぞッ!!」
「ひぃぃぃ! すすすす、すみません」
思わずそう零したら聞こえたようで、ヴィランに凄まれた。何でいきなり殺害予告してくるヴィランが雄英の試験会場にいるのかと思ったけど、主人公のライバルの爆豪だった。
けど、素行が悪すぎてどう見てもヴィラン予備軍にしか見えない言動してるし、原作じゃ酷いイジメに自殺示唆までしていたはずだ。完全にヴィランじゃんよ。
そう内心毒づきながら、平身低頭コメツキバッタのようにペコペコしてたら、デク君がすっと私の前に割って入った。
「やめなよ、かっちゃん。試験前だし内申に響くよ」
「チッ…… 言われなくても分かってる。試験で潰してやるからな、デク」
ひいぃぃ、むっちゃメンチ切られた。こわいおうちかえりたい……
ヴィラン予備軍…… もとい、爆豪はそう言うとさっさと試験会場に入っていってしまった。
凄まれた私は、腰が抜けてデク君の腕につかまってやっと立っている状態だ。
「大丈夫? かっちゃんがゴメンね」
「こ、腰が抜けて…… このままつかまらせて貰えたら……」
「う、うん、僕は大丈夫だけど…… もう始まっちゃうし、急ごうか」
産まれたての小鹿のように足が震えている。ヴィラン予備軍に凄まれただけでこれなら、やっぱりヒーローに向いてないなぁと再確認した。極悪ヴィランと対峙するとか、絶対ムリ。
そのままデク君につかまって試験会場に入ると、なんと受験番号が爆豪の隣。デク君は爆豪を挟んだ反対側だった。
ひょえぇ、と蛇に睨まれた蛙のように硬直してると、それを見かねた他の受験生が席を交代してくれた。デク君の隣に。
そんな事をしていたら、爆豪がさらに不機嫌そうにしていたので、なるべくそっちを見ないようにしてデク君の腕にしがみつく。
「あ、あの…… 腕に当たって……」
「す、すみません…… けど、少しこうさせてもらえたら……」
デク君、着痩せするのかしがみついた腕はかなり筋肉質だ。その頼りがいのある上腕二頭筋と三角筋に感心しつつ、大胸筋も気になった。つんつんと触るとやっぱりキレがすごい。ナイスバルク!
「その、くすぐったいから止めてほしい……」
「すみません、すごい筋肉だなと思って」
「マジでイチャついてんじゃねえぞ、コラ……」
爆豪が怒るというよりもはや呆れているが、これもお前のせいなんだが。
それに私は人混みが苦手なんだ。こんな試験会場に1万人以上もすし詰め状態だと、メンタルがマッハなのでデク君につかまるくらいは許してもらいたい。
陽キャやリア充、生真面目そうなメガネ、強面な一部ヤンキーみたいな受験生だらけの中、同じ陰キャ仲間のデク君は癒しだ。
『今日は俺のライヴにようこそー! エヴィバディセイヘイ!!』
と、そんなやり取りをしていたら試験の説明が始まった。プレゼント・マイクの陽気なMCに会場は誰も反応せず、静まり返ったままだ。
『こいつぁシヴィ、受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ! アーユーレディ!?』
「ボイスヒーロー、プレゼント・マイクだ、すごい! ラジオ毎週聞いてるよ、感激だなぁ……」
会場がシーンとしてるなか、デク君が静かに感激している。ならコールに応えればいいのにと思うけど、今はオーディエンスじゃなくて受験生だ。みな気楽にノれる精神状態じゃないだろう。
そして、プレゼント・マイクの説明が続く。10分間の模擬市街地演習、持ち込みは自由。プレゼン後に各指定の演習会場に向かうこと。
「
「受験番号連番なのに会場違うね」
「見んな、殺すぞ…… テメェを潰せねぇじゃねえか」
「あ、デク君、おなじですね……」
受験票を見ると爆豪はA、私とデク君がB会場だ。爆豪と違くて、デク君と同じなら一安心だ。受かると思ってないけど、知り合いがいるだけで安心感が違う。
「本当だ、よろしくね」
「ハッ! クソナード同士、ゴミ共で協力したところで受かる訳ねぇだろ」
爆豪の暴言にムッとする。私は受からないけど、デク君は受かる。OFAの有無は関係なく、その精神性がヒーローだからだ。こんなクソを下水で煮込んだような性格の暴言製造機より、よほどヒーローに相応しい。そう内心で毒づいてるとプレゼント・マイクの説明が進行していく。
演習場には3種類の仮想敵のロボットが多数配置されている。それぞれ攻略難易度別に1P、2P、3Pとなっている。各々の個性でヴィランロボットを行動不能にしたらポイントになる。そして受験生同士の妨害は禁止。
なるほど、やっぱり私の個性は全く役に立たない。
「質問よろしいでしょうか!」
『イェアー! 質問をどうぞ、受験番号7111君!』
「プリントには4種の敵が記載されております! 誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!! 我々受験生は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しておるのです!!」
メガネをかけた真面目そうな男子が質問をしている、言われてみればそうだけど、確かデカイお邪魔ロボがいるんだっけ。
「それとそこの縮れ毛とピンク髪のカップル! 受験会場だというのに先程からイチャついて気が散る! 物見遊山のつもりなら即刻雄英から去りたまえ!!」
「「す、すみません……」」
物見遊山でマジすまんけど、カップルじゃないから。
流石にもうデク君に迷惑かと思い、一度腕を離したところで、ちょこんと袖を掴む。
爆豪には多少慣れてきたけど、やはり人混みは苦手である。
『オーケー! ナイスなお便りサンキューな! 4種目の敵は0ポイントのおじゃま虫! スーパーマリオブラザーズのドッスンみたいな敵さ! 各会場に一体、所狭しと大暴れするでっかいギミックだ!』
「回答有難う御座います! 失礼致しました!」
『では、俺からは以上だ! 最後にリスナーに我が校の校訓をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った。「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えて行く者」と! "Plus・Ultra!" それでは皆、良い受難を!!』
◇
試験用に作られた広大な無人のビル街。
その入口で各ブロックに分かれて受験生が待機していて、私とデク君も並んで開始されるのを待っていた。
「緊張するなぁ……」
「き、緊張しますね……」
受かってやる。という気持ちは特にないけど、試験前特有の緊張感がヤバい。
とりあえず、ギターケースから愛用のギターを出して肩にかけて、持ち運びできる小型アンプも腰に装着した。そしてヘッドマイクも装備して準備は完璧である。
「あ、あの人……」
「今朝の娘だね。同じ会場だったんだ」
お茶子ちゃんが同じブロックにいた。
転んでたのを助けてもらったのに、コミュ障のせいでちゃんとお礼言えてなかったし、今からお礼と頑張ろうねと声をかけようかと思ったが、真剣な表情で精神統一しているようだったのでやめた。
ここにいる皆、私みたいに物見遊山じゃなく、本気で試験に望んでいる。邪魔したら悪い。
周囲の受験生もみな静かに開始の合図を待っている。先ほど説明会で怒られたメガネ君も、同じブロックだったのか集中している姿が見られる。
それよりデク君がさっきから落ち着かない様子で、辺りを見回してはずっとそわそわしている。かなり緊張しているのかな。
「デ、デク君、そんなに緊張していたら試験にならないですよ?」
「うぅ…… そうは言っても無理だよ。僕は絶対に雄英に受からなくちゃいけないんだ…… そう思うとどうしても緊張して……」
ここは小粋なジョークで笑わせてリラックスさせるところか、ヨシ。
「き、筋肉は裏切らないです! デク君、だいぶ鍛えてるみたいですし、筋肉を信じて! 筋肉マイフレンド!!」
「あ、それギターヒーローの曲だよね? 僕も良くその曲聴きながら筋トレしていて……」
「違いますよ? 打首獄門同好会です。ギターヒーローは弾いてみただけですよ?」
「打首……? ごめん、それ知らない」
は? と思ったけど、いくら「弾いてみた」タグを付けて元バンド名を明記しても、この世界に存在しないのでギターヒーローオリジナル扱いになっている。
とはいえ、あんな名曲を未発表のままにしておくのも忍びないので、弾いてみたのタグを付けて元アーティスト名も記載してるけど、一向に周知されない。
『はい、スタート~』
その辺をレクチャーしようと口を開きかけた時に、プレゼント・マイクのアナウンスが響き渡った。
『どうした! 実戦じゃカウントなんざねえんだよ! 走れ、走れぇ!!』
「デ、デク君、行ってくださいッ!」
ぐんっと背中を押し出したかったけど、力が無い私だとちょっと背中を押した程度にしかならなかった。
「後藤さんは!?」
「わ、私の個性は前線向きじゃないので…… だから気にしないで、行ってください!」
他の受験生が一斉に走りだす中、デク君は私を気にしてオロオロしている。ぶっちゃけ戦闘能力皆無な私は、ヴィランロボに遭遇したら為す術なくやられるだけなので、少し遅れて行くくらいが丁度良いのだ。プレゼント・マイクのような音波攻撃という能力は無い。
デク君を見送って、ヴィランロボと戦っている受験生の最後尾を歩く。手頃なビルを見つけて屋上に上がると、そこが今日のライブ会場だ。
いや、ごめんカッコつけた。ライブなんてしたこと無いから、これが初ライブだ。
初ライブは結束バンドで、と思ってたけど、先にソロライブをすることになるとは。
ビルの屋上から見渡すと、あちこちで受験生がヴィランロボと戦っている。
順調にロボットを撃破している者。
不利な個性なのか、ロボットから逃げ惑う者。
呆然と立ちすくんでいる者。
……そこで震えながら棒立ちしてるの、デク君じゃん。何やってんの。
まぁ、今までろくに戦闘訓練もしてなかった学生がいきなり戦えと言われてもそうなるのは仕方ないか。私も戦えないし。
なら、戦えるようにしてあげよう。
私の個性は"演奏"。
演奏を聞いた相手の感情を増幅させる能力だった。
─── 個性は成長する。
使えば使うほど、鍛えれば鍛えるほど成長する。
─── 鍛えた個性は進化する。
平日は1日6時間、休日は一日中、ひたすらギターの演奏を繰り返した。毎日毎日、10年間に渡って。
そして私の個性は進化した。
感情の増幅だけでなく、演奏を聞いた相手の身体能力・個性を増減する個性に。
あれあれ、オンラインゲームのバード職。
ギターを弾いてる時に、こういう能力ってそういえばバフ・デバフだよなと思ったらそうなっていた。
妹のふたりやジミヘン(犬)で実験したら情緒だけでなく、身体能力や個性も明らかに乱高下したのだ。
ロック&ポップ・バラード・メタルと色んなジャンルのメドレーを聴かせたら、ふたりとジミヘンは狂ったように躁鬱気味になって走り回り、その後私は親に怒られた。
演奏やめれば、しばらくすれば戻るのにね。
そして、これも演奏する私のキモチを個性が反映させる。
デバフを与えたいなら希死念慮に囚われやすい陰鬱な曲、あるいはデスメタルの中でもコアな曲などを選ぶと効果が出やすい。SATSUGAIせよ!
したがってバフ効果を与えたいなら、明るい曲が一番効果が高くなる。私のテンションも上がるしね。
今日は実技試験をバックに、ヒロアカの主題歌でも弾こうかと思っていたけど、予定変更。
立ち竦んでいるデク君、その他逃げ惑う受験生たち。
そんな子たちを応援する詩を奏でよう。
「いくよ ──『可能性』」
*
~ 出久side ~
「何で……身体が動かない……」
1ポイントのロボットを目の前にして、僕は竦んで身体が動かなかった。
長年虐められていたせいで、ビビって身体が固まるのが癖になってるんだ……
「馬鹿ヤロウ……どうして僕は……!!」
「据え膳っ!」
襲い来るヴィランロボを前に僕が動けず固まっていると、他の受験生がヘソビームでヴィランロボを倒してくれた。
「メルシー、良いチームプレイが出来たね! でも、君と会うことは二度と無さそうだ」
そう言ってヘソビーム君は爽やかに次のロボを探しに去っていく。
僕は呆然とその場に立ちすくむしか出来なかった……
周りでは他の受験生がロボットと戦っているのに、僕はどうしても怖くて動けない。
けど、ここで動けなかったら、せっかく受け継いだワンフォーオールの力が、オールマイトの想いが、無駄になってしまう!
動けッ! 動けッ! 動けッ!!
そう自分の脚に気合いを入れていたら、空気を切り裂くようなエレキギターの音が聞こえてきた。
試験会場でギター? と思ったけど、後藤さんがギターを持っていたのを思い出した。
プレゼント・マイクみたいに音を増幅して相手を倒す能力なのかと思っていたけど、何故か普通に演奏している。
不思議に思って音の出処をみたら、近くのビルの屋上で後藤さんが演奏していた。
酷く猫背で、前のめりなプレイ。
そしてイントロが終わると、
『
その後藤さんの
ギターの旋律が脳に響いて、
僕の足の震えは止まった。
『僕らは 輝けるときを待っていて
思いもかけなかったチャンスを
つかもうとしている』
そうだ、僕はチャンスを掴んだ。
無個性だった僕がずっとずっと憧れていた、個性。
オールマイトの後継という個性を引き継いだ。
『新しく始めるよ僕は
こころには明かりをともす
弱い自分 それは昔ばなし
そんな そんな 自分を探してるの』
そうだ、心に、灯りを
弱い自分から、脱却を
僕は、オールマイトの後継者なんだ!
唄っている後藤さんと目が合うと
カチリ、と歯車が合う音がした
そして、身体中に個性が行き渡る
今朝、オールマイトから受け継いだばかりの個性
使い方も分からなかったけど、今なら十全に扱える気がする。
力いっぱい踏み込みたいが、そうすると壊れる確信がある。そっと足に個性を流すと、飛ぶように加速し、一気に景色が後ろに流れる。
着地したところにいたヴィランロボを軽く殴ると、
紙細工のように吹き飛んでいった。
『ダメじゃないよ 僕たち
終わらせんな
誰かに笑われたって かまわないんだよ
もっと もっと 強く思ってやる』
後藤さんのギターが、唄声が
身体に響くと、力が溢れる
もっと強く、もっともっと疾く
さっきまでの恐怖心がウソのように、勇気が迸る
『つかまえて明日を 今がそう その時
誰かに決めつけられても かまわないんだよ
もっと もっと 夢を見続ける』
演奏に惹き付けられるように、ヴィランロボが後藤さんがいるビルに群がってくる。
僕は後藤さんを守るように、寄ってくるロボットを片っ端から殴り飛ばす。
「すごい! いくら個性使っても全然気持ち悪くならない!」
「エンジンの出力が上がった……!?」
「すげー! いつもよりパワーが出るぜ!!」
僕だけでなく、周りの受験生にも演奏の効果があるようだ。あちらこちらから感嘆の声があがり、群がるヴィランロボを次々と撃破していく。
後藤さんのギターに背中を押されるように、力が滾るのを感じる。
『あぁ、希望とは 儚いもの
だからこそ捨てちゃ ダメなのさ
寂しくたたずむ僕の影が
色をつけてと語ってきます
明日の色模様を変える
そんな そんな自分を探してるの』
そうして、ひたすら迫り来るロボを殴り飛ばしていたら、一際デカイ、ビルより大きなヴィランロボが現れた。
「うおぉぉ!? にげろおぉぉぉ!!」
「あんなん倒せるわけねーだろ! ふざけんな雄英!!」
「お邪魔ロボだ! 倒すだけ無駄だ、逃げるぞ!!」
僕も逃げようとしてピタリと足を止める。
ビルの屋上の後藤さんを見ると、演奏に熱中していて巨大ロボットに気がついていない。気持ちよさそうにギターを演奏している。
このままでは後藤さんが潰される。
そう思った僕は、考えるより先に身体が動いていた。
「うおおぉぉぉ! スマッシュ!!!」
ビルの屋上をも飛び越えたジャンプ
個性の制御もおざなりにした全力の右ストレート
ビルより巨大なヴィランロボは木っ端微塵に吹き飛んだが、
代償として僕の右手も粉砕した。
『ダメじゃないよ 僕たち
終わらせんな
誰かに笑われたって かまわないんだよ
もっと もっと…… おおぉぉ!?』
上空から落ちながら、気持ちよく演奏していた後藤さんと目が合う。
今さら巨大ロボットに気がついたのか、びっくりして演奏を止めていた。
そして落ちる僕に手を差し伸べてくるが、離れすぎて全く届かない。
「デク君ッ!?」
この高さで落ちたら、良くて全身強打で重症、最悪死ぬ。
何とか着地しようとするけど、個性の反動か全く力が入らない。
それでも最期の悪あがきで、着地する瞬間に地面に向かって左腕でデトロイト・スマッシュを打てば、衝撃を軽減できるかもしれない。
そう覚悟を決めて拳を構えたところで、浮いたロボットに乗った女の子にビンタされた。
そして、僕はふわりと浮かび上がる。
「大丈夫っ!?」
「あ、ありがとう……」
無重力の個性の子だ……助けられた。個性を解除したのか、ストンと地面に落ちる。
けど、まだ試験は終わってない。
満身創痍だけどまだ足は動く、左腕は使える。
ギリギリまで粘ろうと立ち上がったら、
『しゅーりょ〜!!』
と、プレゼント・マイクから試験終了のアナウンスが流れた。
「終わった……」
途中、無我夢中でロボットを殴り飛ばしていたから結構ポイントは稼げたと思う。
けど、それは他の皆も同じ。後藤さんの演奏で受験生全員がブーストされ、もの凄い勢いでロボットを倒していた。
だから合格ラインに届いたかどうかは分からない。
屋上の後藤さんを見上げると、僕が無事だったのを確認してホッとしていた様子だった。
そしてまたギターをかかえると、ラスサビの続きを弾きだした。
『あぁ、希望とは 儚いもの
あぁ、希望とは 高鳴る胸
僕は君のために強くなろう
だってほら 君が好きだから
だからこそ 君が必要さ
最後まで唄いきり、後奏まで弾き終えると周囲の受験生から拍手喝采が沸き起こる。
「後藤さん、ギターヒーローだったんだ……」
ギターヒーロー。
日本で、いや世界で一番有名なギタリスト。
登録者数は1000万人を超える超人気ミュージシャンだ。
もう日本で彼女を知らないという人は、ネットをやらないお年寄りくらいだろう。テレビとかメディアに全く出ないからね。
僕も、ギターヒーローの曲はヘビロテしていた。
無個性だと虐められて凹んでいた時、ギターヒーローの曲を聴くと不思議と元気が出た。
しかし、今日の演奏は元気が出るどころじゃなかった。
(聴いた人の身体能力、個性をブーストする能力……? でもそれだけだと、僕がワンフォーオールを使いこなせたのが説明がつかない。個性にはデメリットがあるものが多い。そのデメリットを軽減、または打ち消すような能力も…… そういえばギターヒーローのバラードを聴くとヒーリング効果があるとも言われていたし、弾くジャンルで様々な効果がある可能性も……? それに配信の動画では効果が薄くなるのは確定的。ライブだとその個性がより強化されて……)
そこまで考えてはたと気付く。
「後藤さん、0ポイントだ……」
雄英の実技試験はヴィランロボットを倒した数で競うポイント制。ずっと屋上で演奏していた後藤さんは、一切ロボットを倒していない。
そう、ただ演奏していただけだ。
「違う! 僕は勇気をもらった!!」
ヒーローは敵を倒すだけじゃない。プロヒーローでも戦闘に向かない個性のヒーローはいる。
今日みたいな試験で、後藤さんが、ギターヒーローが試験に落ちるなんて絶対間違っている!
だって、今日の後藤さんは誰よりもヒーローだったから。
*
─── 1週間後。
「ひとりー、雄英から封筒が来てるわよー」
「はーい、今いくー」
合否通知かな。
お祈り通知は心にくるけど、はたから受かる気もない記念受験だったから落ちても気は楽だ。
というか第一志望の秀華高校はすでに合格している。
流石に2時間かけて通学はキツイので、下北沢に引っ越そうかと計画中だ。
当初は一人暮らししようかと思ってたけど、親が反対したので家族で引っ越すことになった。かなり私の生活能力を危惧しているっぽい。
まぁ、今住んでいる一軒家は住みやすくて結構気に入っていたんだけど、最近は楽器や機材のせいで手狭になってるし、ちゃんとしたレコーディング設備も整えたかったから丁度良いかな。
次は防音がしっかりした広めのタワマン辺りに住みたい。
ちなみに私の配信の収益は、年収で数十億までいっているから引越し費用の心配はない。軽くヤバいね。
母親から封筒を受け取ると、なぜか異様に分厚い。普通、不合格だと薄っぺらい用紙一枚とかじゃなかったっけ……
嫌な予感がしつつ封を開けると、コロコロとテーブルの上に小さな機械が転がり、プロジェクターの光が壁を照らした。
『私が投映されたッ!!!』
あ、オールマイトだかっけー。
『何故、私が投映されたか疑問だろう! それは来年度から雄英に勤めることになったからだ!』
それは知ってた。けど、不合格者にいちいちそんな事を通知しないよね(白目)
『では早速結果発表に移るぞ! 筆記は合格ライン、実技は0ポイント。普通なら不合格だ』
ですよねー。
『しかし先の入試、見ていたのはヴィランポイントのみにあらず!!
うそだろおい。
何でギター弾いてただけで救助活動扱いになるねん。確かにバフはかかるけど、それがレスキューポイント扱いになったの??
『そう、後藤少女、君の個性"演奏"は素晴らしい個性だ! オーディエンスに勇気を与えるだけでなく、身体能力、個性の底上げ! 君たちBブロックのヴィランポイントは、他のブロックより圧倒的に突出していた!!』
はえー、何かグラフだされたけど、ほぼ倍? すごいね(他人事)
実際にライブしたのは初めてだったから、そこまで効果あるのは知らんかった。
『それだけではない。もし君がヒーローになれば、災害時、パニックになった民衆を速やかに落ち着かせて迅速な避難活動も可能になるだろう』
それは可能だね。まあヴィランと戦わない避難活動メインのヒーローでいいかな。
いや、そうじゃない。
私は別にヒーローになりたい訳じゃない、ただ秀華高校にいって結束バンドを組みたいだけだ。
『そして、こちらのVTRをどうぞッ!』
あ、デク君だ。それにお茶子ちゃんに、他の受験生も沢山いるなぁ。
『僕のポイントを後藤さんに半分……いや、全部上げてくださいッ!! 後藤さんがいなかったら、きっと僕は立ちすくんで何も出来ていなかった! だからッ!!』
『あの、私のポイントもお願いします。あの曲を聞いてから、明らかに身体の動きが良くなったし、個性もいつもと全然違くて……』
『僕のポイントもぜひお願いしたいッ!』
『オレはどうせ受からないから、ギターヒーローに全部上げてよ。あの曲がなかったらロボットから逃げ回ってただけだったし』
……デク君にお茶子ちゃん、それに見知らぬ受験生たち。
そこまで言ってくれるのは嬉しいけど、私はポイント要らないんだ。だから無理にヴィランロボ倒さずに、安全圏でギター弾いてただけだったし。
記念受験な上、「実技試験でヒロアカの主題歌弾いたら絶対テンションあがるよな~」くらいのノリで参加してたのだ。
『君の"個性"は確かに直接的な戦闘向きでは無い! しかしその"個性"は人々に勇気を与え、困難に立ち向かう力を分け与える素晴らしい力だ!』
そこまで言われると照れるなぁ。オールマイトにベタ褒めされると、自意識がハンパなくあがるわ。
『来いよ、後藤少女…… いや、ギターヒーロー!
………でも、すみません、お断りします。
本当に申し訳ないが、本命は秀華高校だ。
なら何で雄英を受けたのかって? 普通、受験って複数受けるもんでしょ。本命だけ受けるとかしないし、私の本命は秀華高校だっただけ。
という訳で、さっさと辞退手続きしないと……
そう思っていたが、簡単に辞退できなかった。
まず両親にもったいないとごねられ、中学の担任や校長教頭総出で説得され、何故か雄英の校長(ネズミ)とオールマイトが自宅に押しかけ説得された。
そして私は気がついた。
結束バンドを組むだけなら、秀華高校にこだわる必要ないんじゃね、と。
だって原作でバンドに勧誘されたきっかけは公園だ。
そして虹夏ちゃんと山田は元々別の高校。喜多ちゃんは同じ高校でもクラスは別で、学校での絡みは少ない。喜多ちゃんを結束バンドに再加入させるのも、もう原作ブレイクしてる今じゃ同じ流れをなぞれる自信はない。
という事は公園で勧誘待ちするより、喜多ちゃんと同じ時期に結束バンドに応募する必要あり?
確か3月か4月か……そのくらいだったような気がする。いや、もしかしたらもう募集されている可能性もある。
やばい、こんな事で時間とられてる暇はなかった。
もう雄英でいいよ、放課後はスターリーに入り浸るから。
そう、私の願いはヒーローじゃない。
バンドを組むことだ。
試験で初めてライブをやったけど、想像以上に楽しく、テンションがアガりにアガった。
その反面、ひどく寂しくもあった。
私は前世でぼざろが、結束バンドが大好きだった。
ギター、ベース、ドラムそしてボーカル。全て揃ってグルーヴが生まれる。
だから独りでライブをするより、バンドで、結束バンドでライブがしたい。
だから───、
スターリーを張り込むか、
募集があったら見逃さないように。
【MV】可能性【サンボマスター】
https://youtu.be/9-cyxg-AFvM?si=X3Re_IZoCNhuC3f0
書きたいとこまでやったので完結
続きません
■追記
予想外に反響があったので続きが書けるか構想中
原作漫画アニメを見返しながら&書き溜めが必要なので相当先になります(予定)
書いてみて面白くならなさそうなら、このまま完結かもしれません
■変動後のポイントランキング
1位、お茶子 73 → 110
2位、デク君 60 → 100
3位、メガネ 61 → 90
4位、爆豪 77
以下、Bブロックメンツが繰り上がって他は同じ
バフ効果&釣り効果で入れ食い状態
マクロスFのランカちゃんかな
■ギターヒーローに対するファン度
耳郎ちゃん、熱狂的な強火ファン
デク君やその他生徒、普通の強火ファン
八百万、名前は聞いた事ある程度(希少種)
爆豪、隠れ強火ファン、ギターテクニックにベタ惚れしてる
爆豪は後々ギターヒーローの正体を知って、毛嫌いされてて内心ガチ凹みする
そして懐かれてるデクに嫉妬心を燃やす
■今後続くとしたらの妄想メモ
(続きを考える前の妄想なので、お蔵入りの可能性大)
張り込みの結果、無事結束バンドは結成できた
けど、技量差で喜多ちゃんが自分の居る意味を見失い病みそうになり、空中分解しそうになったりならなかったり
大槻ちゃん、偽ぼっちのフォロワー1000万人見て宇宙猫
渡我ちゃん、ギターヒーローの曲でギリギリヴィラン堕ちはしなかったけど、業火ファンになり偽ぼっちのストーカー化する
ヴィランになる若者が減り、ヴィラン連合は原作より弱体化
偽ぼっち、AFOに恨みを買ってオールマイトの次に狙われるようになる
ステイン即落ち2コマ
「力無きヒーローなぞ認めん!」
「ヤックデカルチャー……」
何だかんだで喜多ちゃん覚醒
ギターヒーローと並ぶ歌姫へ
結束バンドとして結束できて
ギターヒーローさらに進化
もう、何も怖くない
偽ぼっちちゃん、死柄木に付け狙われるようになる
「オールマイト、絶対許さねぇ…… 絶対に殺してやる……」
「オールマイトマイト大変そうだなぁ」
「殺してやるぞ……ギターヒーローッ!!」
「!?」