ギターヒーロー 作:右から左へ
もうちょっとだけ続くんじゃ
感想・評価・誤字報告ありがとうございます
そういえば雄英ってどこにあるんだっけと思って調べたら、まさかの静岡……
流石に下北沢と往復するのは無理なので、雄英は都内(多摩あたり)にある事にします、すまぬ
─── 入試直後の実技試験審査室。
雄英の教師がずらりと並び、各ブロックの試験の映像が複数のモニターに映しだされていた。
「いやー、すごい! 巨大仮想ヴィランに立ち向かったのは過去にもいたけど、ぶっ飛ばしたのは久しく見てないね」
「思わず、
モニターには、緑谷出久が巨大仮想ヴィランを一撃で木っ端微塵にする様子が流れている。
「しかし、ただ撃破しただけじゃポイントは発生しない。倒した状況は確認できてるのかい?」
「はい、屋上でギターを演奏している受験番号8770が逃げ遅れているのを確認後、迎撃したようです」
VTRがコマ戻しされ、該当のシーンが再生される。出久は一度逃げようとしたが、巨大仮想ヴィランに気付かず屋上でのんきに演奏している後藤ひとりを確認し、潰されそうになっているのを見た瞬間、躊躇なくジャンプした。
そして自身の右腕を犠牲に、巨大仮想ヴィランを撃破したのだ。
「文句なしでレスキューポイントの対象だね。じゃあ、採点をどうぞ」
審査員の教師陣から次々と採点札が上がり、合計で60点に達した。
「彼はヴィランポイントが44点だから、計104点。暫定2位だね」
「いやー、今年は豊作だな! これで100点超えが2人だろ? 史上初じゃないのか!?」
「……俺はそうは思いませんけどね」
「はぁ? なんでだ相澤。どう見たってやべぇだろうよ」
「
「でもよぉ、巨大ロボに立ち向かったのはやべぇだろう。他の受験生は逃げ惑っていたのによ」
「それだって何処まで本人の意思か怪しい。8770番の"演奏"、これは演奏を聞いた相手の感情、身体能力と個性を増減させる個性だ。8770番がいなければ、恐怖に震えたまま何も出来ずに終わっていた可能性が高い。そんな奴をヒーローにするべきでは無い」
さらにVTRは戻され、出久が1ポイントの仮想ヴィラン相手に震えながら棒立ちしていた姿が映し出された。
「うーん、相澤君の言うことはもっともだけどね。流石にこの点数を叩き出した彼を不合格にすることは出来ないよ」
「しかし、このままでは合格者がBブロックの受験者で埋まりますよ。明らかにヒーローに相応しくない者が見受けられる……俺はまたクラスごと除籍するのはごめんです。合理性に欠ける」
「ハハッ! また一クラス丸ごと除籍されるのは困るね……そこは考慮しようか。Bブロックに関しては厳密に審査するようにしよう。とはいえ、彼の個性は強力でオーソドックスな増強型だ。落とすのは惜しい」
「校長がそこまで言うなら従います。けど、もし俺が彼の担任になった場合、ヒーローの資格無しと判断したら容赦なく除籍しますよ」
「それはそれで仕方ないさ! じゃ、次の8770番の審査に移ろうか」
モニターには、最初から最後までビルの屋上で演奏しているひとりが映しだされた。
「8770番のヴィランポイントは0。肝心なのはレスキューポイントだけど、皆はどう思う?」
「焦点は"演奏"の個性で他の受験生の能力を上げたことが、レスキューポイントにあたるかどうか、という事ですね」
「まあ、慣例的に考えたらレスキューポイントにはならないだろうなぁ」
文字通りの他者を助ける行動をした者に与えられるポイント。しかし、それはヒーロー的な活動、命を賭して
自分の不利益をかえりみず、他者を助ける行動をした者に与えられる。
しかし、───
「全く仮想ヴィランと戦う様子もなく、一貫して楽しそうに演奏していただけ。試験の仕組みを知っていたか…… 最初から受かる気が無かった感じですね」
「まぁ、いつも一定数いる記念受験組の行動パターンだな。特に焦る様子もなく、のんきに最後尾を歩いて移動。その後は安全圏で演奏をしていただけだ」
「だが結果は無視出来ないでしょう。8770番の個性の影響でBブロックのヴィランポイントは突出しています。これは彼女の功績として認めざるを得ません」
モニターに各ブロックの総ヴィランポイントのグラフが表示されると、Bブロックだけ明らかに抜きん出ている。それも、およそ倍近く。
「しかし、演奏で身体能力や個性の底上げをするのなら、それはヴィランも同じなのではないのか? 実戦で相手も強化したら意味が無くなるだろう」
「無意識に演奏すれば無差別に影響を与えるようですが、8770番の意思で対象を取捨選択できるとのことです」
「へぇ、便利なもんだな。しかしそれが
そして喧々諤々と教師たちが議論を交わしているなか、プレゼント・マイクが声を荒げた。
「ハッ! オメーらはギターヒーローのライブを生で聴いてないからそんな事が言えるのさ!
「それは貴方がギターヒーローのファンなだけだからではないですか? これは雄英の入試試験、公明正大であるべきです」
「だから言ってるのさッ! ギターヒーローの生のライブはシビれるぜ? 仮想ヴィランに逃げ惑う生徒に戦う力と勇気を与えた。遠くで聴いてた俺ですら、滾って仕方がなかったくらいになっ!」
「ふむ、試験後にもBブロックの受験生から『ギターヒーローにポイントを分けてくれ』という懇願も多かったね。それほど他者の気持ちを動かせるというのは、ヒーローの資質としては充分だとは思うかな…… 相澤君はどう思うんだい」
根津は、目を瞑り大人しく議論を聞いていた相澤に水を向けた。
「8770番に関しては、本人の精神性…… 資質に関しては失格ですが、合格にするしか無いでしょう」
「まあ、そうだよね。8770番……ギターヒーローはヴィランに疎まれている。彼女は今後、高確率で狙われるだろう。そして身を護る術がなければ無惨に殺されるだけさ」
「より最悪なのが洗脳なりされ、個性を悪用されること。彼女の個性は
「聴くだけで勇気が滾るなら、逆に希死念慮にとり憑かせるような絶望を与えることも可能、なのかもしれないね…… あるいは破壊衝動を振り撒くか」
「……首都圏でライブを行えば沢山の自殺者、死傷者を出すことが出来そうですね」
「あー…… その『ライブ』というのも何処までが当てはまるのか不明だよなぁ…… アンプを使用していたから楽器の生音限定じゃねーし、生放送や生配信でも同じことが可能なら、いつでも全世界に曲をプレゼントできちまうことになるぜ」
「ハハッ! 実現したら未曾有の大災害だねっ! けど、そうならないように我々がいるのさ!」
「道を踏み外さないようヒーローとして導く必要。そしてヴィランに襲われても、最低限の自衛が出来る戦闘能力を身につけさせる必要性があるでしょう。それには
相澤消太ことイレイザーヘッドの個性は「抹消」。見ている間、相手の個性を封じる能力だ。
個性だけなら直接的な戦闘能力ではない支援タイプだが、弛まぬ努力で戦闘技術を身に付け、一線級で活躍できるまでになった。
戦闘向きな個性じゃないから戦えないは甘えだと認識している。
「ま、8770番の個性は破格だ。強力で広範囲な補助能力、逃げ惑う者に勇気を与え、それまでバラバラに競うように戦っていた受験生たちが支え合うように協力しだした。そこを評価しない訳にはいかないよ…… それじゃ、レスキューポイントの審査に移ろうか」
そして、審査の結果70ポイントを叩き出し、無事雄英合格となったが、その後ひとりから辞退の連絡が入ることになる。
雄英ヒーロー科の合格辞退は滅多にないことだが、稀にある。何かしら事情があるのかとヒアリングしてみれば「バンドを組みたいから他の学校に行く」とのことだ。
なら、音楽系の学校を希望しているのかと思いきや、何故か私立の普通科。
理解出来ないひとりの言動に、もしやすでにヴィランの手が伸びているのかと、校長とオールマイトが事情聴取に赴くことになった。
◇
─── ひとりside
何故か雄英の校長(ネズミ)とオールマイトがうちにやってきた。
辞退の理由を知りたいとかなんとか。
いや、別な高校に行くとちゃんと伝えたはずなのに、どうして……
そして正直に秀華高校が第一志望だったと伝えたのだが、なぜか納得せず、誰かに強制されたり脅されてないかと執拗に確認された。
そして、その後なんか色々と雄英に来るようにと説得されてたけど、あんまり内容は覚えていない。
他に考えなきゃいけない事があったからね。
そうして考えた結果、無理に秀華高校に行く必要はなかったことに気が付き、結束バンドに加入するには急いでスターリーに張り込まないと不味いというのが判明した。
それに両親も、中学の担任も校長教頭も、雄英に行かないのはもったいないとか言い出すし、何か色々と面倒になってきたから、もう雄英でいいかなって気になっていた。
ぼざろの聖地はスターリーだけど、ヒロアカの聖地は雄英だしね。どっちも行けたらダブルでお得じゃん。
ランチラッシュの飯も食えるし。
そうと決めたらさっさと話を終わらせて…… と思ったら、なんか話半分でろくに聞いてなかったのがバレて、ネズミが説教モードに入りやがった。もう分かったから雄英に行きます! と言おうとしても、私が面倒くさそうな顔をしていたせいか、段々とヒートアップしてきたネズミの説教が止まらない。
私は仕方なくアコギを取りだして、
「どうして急にギターを取りだしたんだい? 話聞いてた?」
「きっ、聞いてください。小田和正で『言葉にできない』」
『終わる筈のない 愛が途絶えた
いのち尽きて ゆくように
ちがう きっとちがう 心が叫んでる』
「ちょっ、歌をやめなさ…… あぁ、良い歌だぁ……」
・
・
・
『la la la la la la la
言葉に できない
あなたに会えて
ほんとうに、よかった』
「あぁ…… 染みいるね」
「すごいね、ギターヒーロー。おじさんもっとファンになっちゃったよ」
鎮まりたまえ鎮まりたまえー、と念を込めた伴奏が終わると、校長とオールマイトは滂沱の涙を流しながら拍手してくれた。
染みるよね、小田和正。
校長も落ち着いたみたいで良かった。
「僕は何を怒ってたんだっけ…… まぁいいや、話の続きだけどね……」
「あああ、あのっ! お話はわかったので、わ、私、雄英にいきます!」
「ん? そうなのかい? 分かってくれたならいいのさ。君の安全のためにもぜひ雄英にきてくれたら嬉しい」
ん? 何で雄英行くのが安全なんだ? むしろこれからバンバン狙われなかったけ。まあ、オールマイトもいるし、それ以外にも優秀なヒーローがいるから安全だと思うが? 違った?
kwskと質問しようと思ったけど、全く聞いてなかったのがバレたらまた説教が長引きそうなのでやめた。
そんな事よりスターリーだ。
◇
校長(ネズミ)とオールマイトが帰ったのを見届け、私はさっそく下北沢に向かった。
まだ引越してないから片道2時間、もう夕方だ。
むっちゃ遠い…… よくこんな距離を原作ぼっちちゃんは毎日通ってたな。毎日が小旅行じゃん。
絶対に引っ越そう。
ちなみに、この世界にスターリーがあるか確認するために、以前一度来たことがある。
その時は店が存在するのを確認だけしてとんぼ返りした。この街はオシャレ過ぎるので、居るだけで負荷がかかる。
下北沢駅を降りると、小洒落た雑貨屋や服屋、カフェと、私には縁が無さそうな店がたくさん並んでいる。私は母親が買ってきた服をそのまま着ているだけなので、この手の店に入ったことはない。
母親の服のセンスは良いと思うが、可愛らしいガーリー系が多いのが難点だ。
けど、原作ぼっちちゃんよろしく、クソダサピンクジャージ姿でオシャレタウンを歩き回る度胸は、私には無い。
坂が多い下北沢を、ひーこら歩いてスターリーまでたどり着く。とりあえず、すでに募集がされてないか確認するために店に入ろうとしたけど、入口は外階段から降りた地下にある。
その薄暗いけどリア充が好みそうなオシャレな雰囲気に、足がすくんだ。前世も今世もライブハウスなんて縁のなかった私は、この手の店に一度も入ったことがない。
原作ぼっちゃんよろしく、店に入れずに階段の前でうろうろしてたら、
「おい、まだ準備中……」
「ひぃ!」
急に声をかけられ、びっくりして飛び上がり、
そのまま階段下へ転げ落ちてしまった。
◇
「あれ、お姉ちゃんどうしたの?」
「店の前でうろうろしてたから、声かけたら階段から落ちやがったんだよ、こいつ……」
「えっ! 大丈夫なの!?」
あ、虹夏ちゃんだかわええ……。
私はいまスターリーの店長に手当してもらっている。階段から落ちた私を心配して、店の中に入れてくれたのだ。あ、ちょっと痛。
「……ッ」
「うーん、腫れてないから大丈夫だと思うけど、とりあえず湿布貼っといてやるから後で病院行けよ」
無言でこくんと頷く。痛みはあるが、歩けないほどではない。そんな事より店長と虹夏ちゃんだ。店長はスラリとした大人の女性で、服装もいかにもロッカーという感じだ。かっこよ。
それに、ぶっきらぼうな態度でパッと見怖いけど、初対面の小娘相手に親身に世話してくれるくらい良い人だ。
そして下北沢の大天使、虹夏ちゃん。
私的にぼざろで1、2位を争う推しキャラだ。むちゃくちゃ後光が見える…… まぁ、争う推しキャラは5、6人はいるんだけど。ぼざろは魅力的なキャラが多くて困る。
「じゃ、私は開店準備あるから、後は虹夏見ててやれ」
「はーい、手伝わなくていいの?」
「今日はそんなに忙しくないから大丈夫だ」
応急処置が終わったら、救急箱を持って奥の方へ行ってしまった。その後ろ姿を見送りながら店の中を見渡す。
ぼざろの聖地、スターリー。
アニメで見た通りのライブハウスだ。
感激にうち震えながら、きょろきょろと眺めていると、
「ライブハウスが珍しいの? こういうとこに来るの初めて?」
天使スマイルを浮かべながら虹夏ちゃんが話しかけてくる。虹夏ちゃんとのファーストコンタクト、気合い入れてちゃんと返事しないとダメでしょ。
「はっ! はははは、初めて……です……」
「そうなんだー、今日はどのバンド目的で来たの? まだ準備中だけどこのまま入る?」
「い、いえ、あの、その……」
どのバンド目的……? どういうこと? あぁ、普通に客として来店したと思われてるのか。
「バババ、バンド! ……バンドやりたくて、募集ないかな、と思って、その……」
「おー! ちょうど募集してたんだよー。どのパートやるの? ギター?」
何で分かったんだろうと思ったけど、脇に私のギターケースが置いてあった。私はブンブンと首を縦に振り、
「ギ、ギター! です!」
「よかったー、ギターやれる人探してたんだよねー。少しお話しようか。あ、ちょっと待っててね」
虹夏ちゃんは店にあるドリンクスタンドに行くと、飲み物を二人分作って持ってきた。
「はい、どうぞ。私は下北沢高校一年の
ぺかーと輝かんばかりの笑顔で自己紹介された。尊すぎるのと陽キャオーラが凄まじ過ぎて体が溶けそうになるが、ぐっと耐える。
「えっと、いま中三で……後藤ひとり、です。よろしくお願いします」
「じゃあ、ひとりちゃんはどのくらいギターやってるの?」
確か、5歳の頃からやってたから……
「えと、10年くらい……?」
「えっ、すごっ! ベテランさんだ! 私はドラム歴7年くらいだよー。凄いね、ひとりちゃん」
「いやぁ、それほどでも~」
虹夏ちゃんに褒められて、テンション爆上がりなんだが。ギターやってて良かった。
「おいすー。虹夏、ギター希望者見つけたよ」
虹夏ちゃんと和やかにキャッキャウフフと話していたら、青髪のミディアムボブの娘が店に入ってきてた。山田だ。
「えぇ! ちょうど私もギターやりたいって子とお話してたんだけど!?」
そして山田に連れられて、赤髪のセミロングをサイドポニーにしている子が入店してきた。
喜多ちゃんキターーーーッ!
1、2位を争う推しの子!!
「そうなの? まあ、いいじゃん、フォーピースバンドにすれば。音も厚くなる」
「そっかー、それもそうだねー。じゃあここに座って、お話しよ」
何かすげー軽い感じでバンドを組む流れになってるな。流石、ギターを弾けない喜多ちゃんをメンバーにしていただけはある緩さだ。だが、そこがいい。
「まずは自己紹介ね。私は伊地知虹夏でこっちは山田リョウ。変人って言うと喜ぶよ。で、さっき会ったばかりの後藤ひとりちゃん」
虹夏ちゃんに紹介されたので、ぺこりとお辞儀をする。
「喜多郁代です! よろしくお願いします!」
そして、元気な声で挨拶する喜多ちゃんが、キターンと発光してまばゆい。あれ? いま物理的に光ってたよね?
「うお、眩しっ」
「すみません、感情で光っちゃう個性なんです」
はえー、光る個性か。なんか身体が光るんじゃなくて、後光のようにバックが光っていたね。
「へー、ライトいらずじゃん。こう、レーザーライトみたいに出来るの? ライブとかでやる奴」
「えーと、ちょっとやってみますね」
ふんぬ、と気合いを入れた喜多ちゃんの後ろから、レーザーライトの様な白い光が天井まで伸びた。
「おぉ、演出に使えそうだね。もっとライト増やせたり動かせる? あと色もカラフルにして……」
山田の要望に喜多ちゃんが応えると、ピカピカとライブ会場のようにレーザーライトが動き出す。色もついてカラフルだ。ゲーミング喜多ちゃんと名付けよう。
「出来ました!」
「いいね、郁代。これ、ライブでやったら絶対盛り上がるよ」
「じゃあ、ライブやろうよ! ちょっとお姉ちゃんに出れるか聞いてくる!」
そう言って虹夏ちゃんが店長の方に走っていって直談判を始めた。
うそだろおい、初顔合わせして秒でライブだと……?
練習も音合わせも何もしてないのに、この計画性の無さ、マジでロックだ。
虹夏ちゃん、しっかり者の常識人枠だと思っていたが、意外とヤバい猪突猛進タイプなのかな?
山田は基本クズだし、喜多ちゃんも結構ヤバい子だ。まともなのは私だけか……しっかりしないとダメだね。
こうやって原作の悲劇が起きたのかと、チラリと喜多ちゃんの方を見ると、顔面ブルーレイになっていた。
そりゃ、ギター弾けないのに、弾けると嘘ついて加入して、即ライブと言われたら血の気が引くのも分からなくは無い。私もちょっと別な意味で引いてるし。
そうこう考えていたら、虹夏ちゃんが戻ってきた。
「オーケー出たよ! 来月だって!」
審査も何もなく、出来たばかりの演奏したこともないバンドの出演を許すとか、流石シスコン店長、パネェす。
それに費用とかどうなってるんだろう……やっぱり店長の自腹? シスコン過ぎんだろ。スターリーの経営、大丈夫か?
しかし、このままだと喜多ちゃんは今後の練習に一切来なくなり、ライブもバックレる。
ロックが過ぎる。
まぁ、別にバックレられても身元は割れてるから、秀華高校に乗り込めば確保は可能だ。
しかし、崩壊するのが分かっているならスルーできない。推しが困ってるなら助けになるのがファンってもんでしょ。
「あ、ああああ、あのっ!」
「どうしたの? ひとりちゃん」
「ボッ、ボーカルはどうしましょうか……」
「あー、私歌ヘタなんだよねぇ…… リョウは歌えたでしょ?」
「私がフロントマンまでやったら、ワンマンバンドになってバンドが潰れるからパス」
「その湧き出る自信の源はなに!? じゃあ他に……」
虹夏ちゃんからサッと目をそらす。全然歌えるし、毎日投稿してる曲は歌付きだ。しかし、ここで私がしゃしゃり出たら、喜多ちゃんがボーカルじゃなくなってしまう。でも「歌えない」なんて嘘をつけば絶対後で面倒くさいことになる。なので、質問される前に目をそらして、質問させないようにするテクニック。
「喜多ちゃんは歌える?」
「あっ! 私、歌
「よかったー! なら喜多ちゃんボーカルよろしくね!」
喜多ちゃんの蒼白だった顔色が少し良くなった。「歌なら大丈夫」って、ギターはダメだと白状してるようなもんじゃないかな。2人は気が付いてないけど。
「あ、あの、ギター弾きながら歌うのって結構難しいですけど、き、喜多さん大丈夫ですか……?」
「えっ!? えーと……」
助け舟は出したぞ、喜多ちゃん。ここで「出来らぁ!」と言ったら退路はない。
「弾きながらは……やったことない、かなぁ……」
「じゃ、じゃあ! あまり期間もないから、ボーカルだけに集中した方がいいですよね! ね!」
「そうねっ! ボーカルだけで!」
よーし、よし。喜多ちゃんも乗ってくれた。これでとりあえずは失踪フラグは折れたかな。後は仲良くなって練習しながらギター弾けないことを自白させれば、原作と同じ流れになるだろう。完璧! 第一部完ッ!
「別に失敗したっていいよ? 初ライブなんて大体散々なことになるだけだし。失敗を恐れてチャレンジしなかったら上手くなれないよ」
山田ァ! もっとも過ぎて同意するけどよぉ! 喜多ちゃん、そもそもギター弾けねぇんだわ!
「そうだよ! まだ一ヶ月以上あるんだし、練習すればいけるよ! よーし、練習しよ、練習!」
虹夏ちゃんまで!? せっかくバックレフラグ潰したのに、退路を潰された!
また喜多ちゃんが顔面ブルーレイに戻ってプルプルしている。本当になんで喜多ちゃんはこんなすぐバレる嘘をついたんだろ……
仕方ない、このままバックレさせたら面倒なことになる。
私はそっと喜多ちゃんの手をとった。
「あ、あの……き、喜多さんの手、全然マメになってないですけど、ほ、ほほ本当にギター弾けるんですか……?」
「えっ!?」
「……本当だ。郁代、ギター弾けるの?」
ギターを弾いていると、私のように指先がガチガチに硬いマメになる。喜多ちゃんの指はぷにぷにで、どう見ても経験者の手ではなかった。
山田も喜多ちゃんの手を調べて、未経験者だと分かったようだ。
「あの……その…… す、すみませんでしたーー! 私、ギター全く弾けませんっ!!」
綺麗な土下座をする喜多ちゃん。うむうむ、原作再現ヨシッ。
「……どうしてそんな嘘ついたの?」
「私、リョウ先輩に憧れてて、前のバンドで路上ライブしていたのを見かけてからファンになって」
「それは知ってる。ライブいつも来てくれてたよね」
「はい! でも前のバンド抜けちゃって……そしてこのバンドでメンバー募集してるの見て、私も一緒にリョウ先輩とバンドしたいなと思って、つい……」
「そう……事情は分かったけど嘘は良くないよ。このままライブになってたらどうするつもりだったの?」
いや、普通は練習も音合わせもする前に、ライブの予定組まないのでは、と訝しんだ。
「それは反省しています…… けど、バンドって第2の家族って感じがするじゃないですか……本当の家族以上にずっと一緒にいて皆で同じ夢を追って。友達とか恋人を超越した不思議な存在だと思うんです。私は部活とか何もしてこなかったからそういうのに憧れてて…… そう! 私はこのバンドに入ってリョウ先輩の娘になりたかったんです!」
喜多ちゃんの魂の叫びが、スターリーに響きわたる。遠巻きに見ていた店長が「うわぁ」という顔をしていた。
「そう、なら一緒にバンドしようか」
「いいんですかっ!?」
「技術はね、練習すれば身につけられる。大事なのはキモチと熱意。私は郁代と一緒にバンドしたいと思ったよ」
山田がイケメン過ぎる。
万が一、喜多ちゃんがフェードアウトする流れになったら、何としてもフォローしようと思っていたけど大丈夫だったね。
山田は基本クズだけど、決めるところではイケメン発揮するから困る。貴方の娘になりたかったとか言われたら、普通ドン引きしてもおかしくないのに。
でも、喜多ちゃんの気持ちはよく分かる。だって私も同じ気持ちだからだ。
山田の娘云々はおいといて。
「私、がんばります! 実はギターさっき買ってきたばかりだったんです!」
喜多ちゃんが持ってきていたケースを自慢げに見せてくる。
あぁ……うん。スターリーに入ってきた時から持っているのに気が付いていたけど、見ないフリをしていたんだ。
「へぇ、なに買ったの? 見せてよ」
「えへへ、結構高かったんですよ。奮発して良さそうなの買ったんです!」
喜多ちゃんがぱかっとケースを開けると、入っていたのはやっぱり多弦ベース。
「郁代、それベースだよ」
「え? ベースって弦が4本のやつですよね?」
「6本のベースもある。それは多弦ベース」
「ベース……? あひゅ、30回払いでローン組んじゃった……」
喜多ちゃんから魂が抜けて崩れ落ちる。
うん、多弦ベースって高いよね。学生が気軽に買える値段じゃない。
「ま、まだ買ったばかりなら返品が利くかもしれないので、急いで買った楽器屋に行きましょう!」
そして皆で喜多ちゃんが多弦ベースを購入した楽器屋に向かい、交渉の結果、同じくらいの値段のギターと交換という形で返品になった。
まぁ、返品されなくても山田が買っただろうし、私が買い取っても良かったんだけど。
そしてその後、近くのファミレスで親睦を深めようということになり、無事「ぼっち」というあだ名を命名され、ロイン*1の交換とグループも作った。
そして、ライブで何を演奏するかを決め、次のバンドの練習日までに各自で練習してくるという流れになって、この日は解散になった。
その数日後、バンドとしてのはじめての練習日。
速攻でギターヒーローだということがバレて、
私の方が歌が上手いというのが分かった喜多ちゃんは、
それ以降、練習に来なくなってしまった。