ギターヒーロー   作:右から左へ

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バンド崩壊の危機、2回目

 

 

 ─── 雄英校長室。

 

「調書は読ませて貰ったよ、申し開きはあるかな」

 

 翌日、朝一で呼び出しを喰らった私は、校長室で校長(ネズミ)と相澤先生に詰められていた。

 

 全面的に自分が悪かったのを自覚しているので黙って首を振る。

 

「バンドメンバーを呼び戻すために、ゲリラライブしたというのが今一つ分からなかったのだけど、どうしてそういう発想になるのかな? 君は」

 

「あああ、あの…… わ、私、緊張すると喋れなくなるので…… それで、歌で気持ちを伝えようと思いまして……

 

「合理性に欠ける……いや、合理的なのか? それはいいとして、本当にその時に知り合ったという人物は怪しい者では無かったんだな?」

 

「は、はい! ただ呑んだくれてた通りすがりのベーシストです」

 

「……怪しいね?」

 

「いえ、下北沢付近では珍しくもないでしょう。あの辺はライブハウスも飲み屋も多いですし」

 

 何故かたまたま出会ったきくり姐さんの事を、根掘り葉掘り聞かれたので、個人の詳細は伏せて後は正直に話してある。

 

 何だかやたら怪しまれているようだけど、別にきくり姐さんは不審者ではない…… いや、はたからみたらどう見ても不審者か。

 

 

「しかし、その為に学校をサボるとは合理性に欠ける…… 予定がある場合は予め言えば補講は無しにしたんだがな」

 

「えっ、強制じゃないんですか?」

 

「うん? 個別に護身術や対人訓練は受けてもらうけど、バンド活動優先で構わないと伝えたよね?」

 

「えっ?」

 

「うん?」

 

 なにそれ聞いてない。なら早めに言ってくれれば学校サボったりしなかったのに。

 

 

「何でいま初めて聞いたかのように驚いてるんだい? まさかあれだけ説明したのに聞いてなかったのかい? ねえ?」

 

「……俺は校長からしっかり伝えてあると聞いていたのですが」

 

「伝えたよ!? 家庭訪問した時に何回も何回も、小一時間は伝えたよ!? どうして君は目を逸らすんだい? ねえっ!?」

 

 目を逸らしていた私の襟首を掴みそうな勢いで、校長が詰め寄ってくる。

 

 いや、あの時は秀華高校に行く気満々で、雄英に来る気は全くなかったから「早く話し終わらないかなー」とか、「何時(いつ)になったら帰るんだろう」とか考えていた。そして、もう面倒になってきた時に、そんなことより急いでスターリーに張り込まないと不味いと気がついたので、分かったフリしてさっさと話を切り上げたのだ。

 

「もしかして、身の回りの危険性すら認識していないのか?」

 

「?」

 

 私が首を傾げていると、校長と相澤先生が疲れたように頭をかかえだした。身の回りの危険性……?

 

「何も言わずに真面目に補講を受けていたから、ちゃんと認識していたと思ったんだがな……」

 

「僕は伝えたからね! 何度も、何度もっ!!」

 

 毛皮の上からでも分かるくらい血管を浮かせて校長が激高してきたので、落ち着かせようとギターを取り出したら、すかさず校長に取り上げられた。

 

「その手はもう喰わないのさ! 個性の悪用だよそれは!!」

 

「い、怒りを鎮めようかなと思いまして…… ただ気分を落ち着かせるだけです」

 

「君が怒らせなければいいだけさッ!」

 

「校長、気持ちは分かりますが話を進めましょう。後藤……いや、ギターヒーロー。お前は今後ヴィランに狙われる可能性が高い」

 

「えっ!? 何でですか!?」

 

「僕は説明した……モガッ!?」

 

 また激高しそうになった校長を、相澤先生が凄い速さで布でぐるぐる巻きにした。グッジョブ。

 

 そして、蓑虫状態になって藻掻いている校長を横目に相澤先生が説明してくれた。

 

 ギターヒーロー台頭後から、緩やかにヴィラン事件の発生件数が減っていると。そんなのオールマイトのお陰やろと思ったが、同時期にオールマイトは大怪我のため活動を自粛していた。それなのに事件発生数が減ったらしい。

 

 特にヴィランに揺れやすい若者の間でギターヒーローが流行っていて、ヴィラン堕ちする若者が減少傾向だとか。

 

「はえー、そんな事になってたんですね……」

 

「何で他人事なんだお前は……」

 

「エ、エゴサとかコメントは見ないようにしてたので……」

 

 毎日もの凄いコメント付くから見てらんないのもあるが、アンチコメントなんて見つけたら、ファビョってレスバした挙句にムカついてチャンネル閉鎖する自信ある。

 

 低評価した奴絶対許さない歌とか作るぞ。

 

「という事情で、お前はヴィラン組織から疎まれている可能性が高い」

 

「……は、犯行予告とかあったりするんですか?」

 

まだ(・・)ない。しかし、お前が今後ネット以外で音楽活動をするならそれも時間の問題だ。それを承知でお前がバンド活動を熱望していた……と認識していたから、急ピッチで護身能力を付けていたんだがな」

 

 あぁ、連日の居残り訓練は嫌われていた訳じゃなかったのか。むちゃくちゃ良い先生じゃないか相澤先生。走りながら心の中で悪態ついててごめんなさい。

 

「本当に理解したのかい? 本当に?」

 

 相澤先生が緩めたのか、校長が布から解放一番そう念押ししてきた。黙ってこくりと頷くと、

 

「ちょっと相澤君が説明したこと復唱してみて?」

 

 校長がくどいくらい念押ししてくる。

 

 仕方なくつっかえながらも復唱したら、ようやく満足したのか納得してくれた。

 

 

「ふぅ…… 分かってくれたならいいのさ。そういう訳でキミには特別メニューで個人レッスンが組まれている。今後、バンド活動がある場合は無断で休まず、相澤君に相談して欲しいな」

 

 そう笑いかけてくる校長に、悩んだ末に私は答えた。

 

 

「いえ……バンド活動は、諦めます……」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「バンド活動は、諦めます……」

 

 そう言い残し、泣きそうな顔で校長室を出ていくひとりを、根津と相澤が見送る。パタンと扉が閉まったのを確認して、相澤が根津に問いかける。

 

「……最初から諦めさせていた方が良かったんじゃありませんか」

 

「そんな権利は我々には無いよ」

 

「しかし事情が事情でしょう。希望を持たせて諦めさせるなんて趣味が悪い」

 

「いや、最初に全部説明したからね? 彼女が全く聞いてなかっただけで」

 

「そうでした」

 

 根津は情報を開示して本人に選択を委ねた。

 

 バンド活動をするなら、最低限ヴィランから狙われても護身出来る戦闘能力を備えた方が良いと。それを身に付けるには雄英は最適だし、他の高校と比較してもセキュリティは強固だ。学校にいる間は護ることも出来る。

 

 危険性を考慮した上でバンド活動を希望するなら、全力でバックアップする心づもりだと。

 

 そう、ひとりに伝えていた。

 

 

 根津は校長室に備え付けてある、アンティークな椅子に腰を降ろしながら呟く。

 

「しかし、残念だね…… バンド活動を諦めてしまったか」

 

「危険性を考慮するなら、それが合理的でしょう」

 

「……相澤君は、個性と人格形成、欲求の相関性については知っているよね?」

 

「それはもちろん知っていますよ」

 

「彼女がバンドの事になると周りが見えなくなるのは、個性の影響が強いせいだと思うんだよね。個性がバンドを組みたがっている」

 

「まぁ、後藤の個性を考慮すると、ありえない話ではないですね」

 

「そうした欲求を満たすことで個性の力、影響が増していくとも言われている。……僕は彼女がバンドを組んだ演奏、聞きたかったなぁ」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 その日の放課後。

 

 バンドメンバーに活動をやめる報告をしたいから、補講は無しにしたいと相澤先生に申し出たら了承してくれた。

 

 陰鬱な気分で雄英を出て、下北沢行きの電車に揺られる。

 

 別に下北沢に行く時間をずらして、補講が終わった後でも良かったけれど、そんな気分ではなくなっていた。

 

 だって、バンド活動をするために補講が必要だったのだ。もうバンドを辞める決心をした今では受ける意味がなくなった。

 

 別に自分だけが狙われるなら、ヴィランに狙われても大丈夫な戦闘能力を身に付けられるよう頑張れた。

 

 けどバンド活動を続けた場合、喜多ちゃんや虹夏ちゃん、山田、店長やPAさん、スターリー自体が狙われて危害を受ける可能性がある。

 

 その危険性が分かっていながら、のんきにバンド活動なんて出来るわけがない。

 

 下北沢駅に着き、スターリーに向かう道すがら、ピロンとロイン*1が届いた音がした。スマホを確認すると、虹夏ちゃんから『喜多ちゃんついたよー、ぼっちちゃんはどのくらいかかりそう?』とグルチャにメッセージが来たので、『もう着きます』と返信しておいた。

 

 昨日の夜に、喜多ちゃんの説得が成功したと連絡しておいたので、今日は「喜多ちゃん、おかえりなさい会」で集まる予定だった。

 

 まさか昨日の今日で「バンド辞めます」と伝えることになるとは……あれだけ大騒ぎして戻って貰った喜多ちゃんに合わせる顔がない。

 

 当然、虹夏ちゃんや山田にも面目が立たない。加入して早々、散々引っ掻き回して辞めるとか、なら最初からバンドに入るなよと、自分でも思う。

 

 

 重い足取りでスターリーの階段を降りる。そしてドアを開けると、すでに開店前のフロアのテーブルに3人が集まって座っていた。

 

「あ、ぼっちちゃんおつかれさま! よく喜多ちゃん説得できたねー!」

 

「ぼっち、よくやった」

 

「ご迷惑おかけしました! 心機一転がんばります!」

 

 解散一歩手前だった空気の悪さも払拭され、和やかやな歓迎ムードになっている。

 

 やっぱりバンド辞めます、なんて言いづらい。

 

「郁代、これからも続けられそうなの?」

 

「はい! でもリョウ先輩は私がボーカルで本当に大丈夫なんですか?」

 

「郁代は歌の素質あるよ。技術を磨けば伸びると思う」

 

「ひとりちゃんにもそう言われました…… 私、がんばります!」

 

「うんうん、じゃあ早速だけど練習しようか。もうライブまでそんなに余裕ないから、頑張らないと!」

 

「はいっ!!」

 

 和気あいあいとみんなが盛り上がっている中、私は何て言い出したらいいか分からず俯いてしまう。本当なら喜多ちゃんが戻ってきてくれた事を一緒に喜びたかったけど、それに水を差すことを言わなくてはならない。

 

 どう切り出そうかと迷っていると、

 

「ぼっちちゃん、どうしたの? なんか浮かない顔してるけど」

 

 虹夏ちゃんが、一言も喋らず俯いていた私を心配したのか声をかけてきた。

 

 この問題は先送りにしてはダメだ。

 

 早めに伝えて、みんなから距離をおく必要がある。

 

「あ、あの、私、バンド辞めます……すみません」

 

「「「えぇっ!?」」」

 

 私がゴスッとテーブルに頭を打ちつけて謝罪をすると、みんなが驚きの声をあげた。

 

「ど、どうして、ひとりちゃん!? やっぱり私の歌じゃダメだったの!?」

 

「そ、そうじゃないです……」

 

「……ぼっち、理由(ワケ)を聞きたい」

 

 喜多ちゃんは泣きそうな顔で縋りついてくるし、山田は真剣な顔で目つめてくる。虹夏ちゃんは何も言わず私の言葉を待っているようだった。

 

 そんなみんなに、相澤先生から受けた説明を、ぽつりぽつりと話す。

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

「……という訳で、今後ヴィランに狙われる可能性が高いそうで、みんなに迷惑をかけられない、なと……」

 

 私が話終えると、フロアがしんと静まり返った。店長さん達も遠巻きにして様子を伺っている。

 

 誰もすぐには口を開かなく、空調の低い唸りだけが聞こえてくる。

 

 私は両手を膝の上で固く組み、返事を待っていると山田が口をひらいた。

 

「……ぼっちが私たちとバンドを組むのが嫌になった、って訳じゃないんだよね?」

 

「そ、それはモチロン! 出来ればみんなとバンドやりたかったですけど……」

 

「なら私はぼっちとバンドやるよ。ヴィランが怖いから逃げだすなんてロックじゃない」

 

「わ、私も、ひとりちゃんと一緒にバンドやりたいっ!」

 

 山田と喜多ちゃんがそう言ってくれるけど、そのせいでみんなに危害が及ぶのは絶対に嫌だ。

 

 ただの感情論でバンドを組む選択肢は無い。

 

「で、でも危ないので…… 私のせいでみんなやお店に迷惑かけたくないです…… もう音楽も辞めようと思ってます……」

 

 バンドが……結束バンドが組めないと分かると、一気に全てがどうでも良くなってきた。このままネットだけで活動する気も起きないし、いっそのこと音楽活動自体を辞めてもいい。

 

 そう私が思っていると、遠巻きに話を聞いていた店長が近づいてくる。そして、幼な子をあやすように私の頭を撫でてきた。

 

「ぼっちちゃんは、ヴィランに狙われるからスターリー(うち)に迷惑がかかると言ってたけどさ、ライブハウスなんてヴィラン予備軍(もどき)の巣窟になるか、真っ当に経営したいならガラの悪い客(ヴィラン)くらい対処できないとやってけないんだよ」

 

 そう言った店長さんの身体がムクムクと膨張し、体中から体毛が生えてきた。やがて変化が収まると、二足歩行の虎へと姿を変えていた。体長は2メートルを超え、全身は輝かんばかりの金色の毛に覆われている。

 

 私の頭を撫でていた手はゴツく、人間の手に近い形状をしていたが、ぷにぷにとした肉球と鋭い爪が伸びていた。

 

「だから、安心してバンドやりな。ヴィランの十や二十、私がぶっ潰してやるからさ」

 

 そう言ってニカッと笑い、肉食獣の牙をみせる店長はむちゃくちゃカッコいい。

 

「店長はヒーロー免許を持ってる。だから頼りになるよ」

 

 山田がそう言うと、虎の姿のままタバコをふかしている店長をモフりだした。

 

「よくヴィランもどきが暴れるから、持ってると便利なんだよ。ヒーロー活動はしてないけどな」

 

 そんな食品衛生責任者資格みたいなノリでヒーロー免許取れるもんなの?

 

 山田にモフられるがままの店長を見て、喜多ちゃんも我慢出来なくなったのか一緒にモフりはじめた。羨ましいので私もモフると、さらさらで良い毛並みだ。これはクセになる。

 

「虹夏もヴィランに襲われたら危ないから、ちゃんと個性の制御訓練しとけよ」

 

「……はーい」

 

「あ、あの、やっぱり危ないなら……」

 

「違う違う、危ないのはヴィランの方。虹夏はすぐ理性を無くすからな」

 

「理性を無くす……?」

 

 チラリと虹夏ちゃんを見ると、気まずそうに顔を逸らす。

 

 虹夏ちゃんも店長と同じ変化型? 何か猛獣に変化するの??

 

「個性だけなら、私より虹夏の方がずっと強い。ぼっちちゃんは何も心配せず、バンド活動を謳歌すればいいってことさ。PAもその辺のヴィラン相手なら余裕だしな」

 

 大人の色香むんむんなPAさんがこっちに向かって手を振っている。能力者バトルじゃ絶対強者のヴィジュアルだよね、PAさん。

 

 それに比べて、虹夏ちゃんは全く強そうに見えない。私より背が低いし、華奢だ。

 

 それなのに、2メートル超えの二足歩行の(店長)より強いというのが信じられない。

 

 

「じゃ、練習しよ! 練習! ライブまで全然余裕ないんだからね!」

 

 虹夏ちゃんが誤魔化すように声を荒らげる。確かにろくにバンド練習はしてないから、今は時間が惜しい。

 

 だけど、その前に言わないといけない事がある。

 

 

「あ、あの! あ、ありがとう、ございます……」

 

 感謝を込めて深々とお辞儀をする。

 

「別にお礼を言われるようなことじゃないよ」

 

「そうよ! むしろ私の方がひとりちゃんにお礼言いたいくらいだもの」

 

「第二の家族、でしょ?」

 

 そう言って笑いかけてくれる3人。

 

 

 だから私は、この笑顔を護れるように強くなりたい。

 

 

 ヴィランなんかに負けないくらい、

 

 

 強く。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 心機一転、戦闘訓練を頑張ろうと奮起した数日後。人命救助訓練の日になった。

 

 雄英施設の中でも建物が離れているようで、バスに乗って移動中だ。バスは一般的な横並び式ではなく、市営バスのような作りになっている。先に乗り込んだメンツが後部座席から座ったので、後から乗った私は前の方の対面式で座らざるをえない席になった。

 

 バスの中で、他の皆はすでに打ち解けているのか、仲良さそうに話している。先日、私が学校をサボった時にオールマイトの戦闘訓練があったようで、その時の反省会を通じて仲が深まったらしい。

 

 入学してそこそこ経ったのに、私は未だにデク君以外とほとんどコミュニケーションが取れていない。

 時々お茶子ちゃんが話しかけてくれるくらいで、基本目立たないように壁と同化する毎日をすごしているし、放課後は相澤先生の個人レッスンか、スターリーに行っている。

 

 お昼は初日だけデク君に連れられて食堂でランチラッシュのめちゃ旨ランチを食べたけど、それ以降行ってない。食堂が死ぬほど混んでいたからだ。

 

 人混みが無理すぎたので母親に頼んで弁当にしてもらったら、教室は何故かへそビーム君が残って一人飯してるから居づらい。人気(ひとけ)の無い場所を探して彷徨い、階段下の物置になっているスペースを見つけて、もそもそと弁当を食べる毎日。

 

 そんなぼっち気味な私では、会話に入れそうにないので、現地に着くまで寝たフリをしてやり過ごそうと、ギターケースを抱えたところで話しかけられた。

 

「ねぇ、ひとりちゃん」

 

「は、ははい! ……なんですか?」

 

 カエルのような特徴がある女の子だ。名前はなんだっけ……

 

「私、蛙吹梅雨。梅雨ちゃんと呼んで」

 

「え、えっと…… 梅雨ちゃん?」

 

 名前を覚えてないのを察したのか、自己紹介してくれた。名前を呼ぶと「ケロ」と満足そうに頷いた。かわいい。

 

「私、気になった事なんでも聞いちゃうの…… ひとりちゃんてギターヒーロー?」

 

「!? 」

 

 その梅雨ちゃんの声に反応したのか、バス中の視線がこちらに向いた。

 

 こういう場合はなんて答えたらいいのか……

 

 今までネットでしか活動してこなかったから聞かれた事は無かったし、ようやく最近になって人前でギターを弾くようになったけど、弾けば「ギターヒーローだったんだね(確信)」と勝手に納得されていたので、面と向かって訊ねられたことはなかった。「そうです、私がギターヒーローです」と言えばいいの?

 

 いや、冷静に考えたら自称でギターヒーローを名乗るのってどうなの? 痛々しくない??

 

 他称なら分かるけど、自分からギターヒーローなんて名乗るのは、普通に自意識過剰すぎてヤバい奴だ。

 

 それに、原作ぼっちちゃんが名乗ってたハンドルネームだからと安易に使ってたけど、このヒーロー社会で免許も無いのに勝手にヒーロー名乗るのはアカンのではなかろうか。

 

「ちっ、違います!!」

 

「「えっ!?」」

 

 つい私が否定すると、デク君とお茶子ちゃんが驚愕の声をあげた。お前は何を言っているんだ、という表情でこっちを見ている。

 

「ケロ…… このネットの記事、どう見てもひとりちゃんだと思うのよね」

 

 そう言って梅雨ちゃんから見せられたスマホには、『ギターヒーロー下北沢でゲリラライブ!』『路上で公開プロポーズ、ギターで愛を囁くヒーロー』『ギターヒーロー逮捕!?』という、ネット記事の見出しが並んでいた。ワオ。

 

 そして梅雨ちゃんがポチッと動画を再生すると、私のゲリラライブの様子が流れた。人垣奥の遠くから撮影している動画な上、ブレブレなので私の顔は分からないが、特徴的な長いピンク髪がバッチリと映ってしまっている。

 

「わ、私じゃないですね……」

 

「そう? どう見てもひとりちゃんに見えたんだけど…… いつもギターケース抱えてるし。それにこの日は学校お休みしてなかった?」

 

 はい、学校サボってました。

 

 しかし、その時は雄英の制服を着ていなかったので特定まではされないハズだ。平日の日中に制服でうろついていたら補導されると思い、着替えを持ち出してトイレで着替えておいたのだ。

 

 まだシラを切り通せると思っていると、

 

「アホかッ! そんな貧弱ナード女がギターヒーローなワケねぇだろ! 殺すぞッ!!」

 

 なんと爆豪がアシストしてくれた。

 

 そうだよ。私はギターヒーローじゃないよ。

 

「そいつがギターヒーローだったとしたら、学校サボってゲリラライブして逮捕されてる事になるんだぞ。良くて停学、下手したら除籍か退学だ。のんきにココに居れるワケねぇだろがッ!!」

 

「そうねぇ…… 普通、そんな事をしてお咎めなしにならないわよね」

 

 ほな違うかぁ、と梅雨ちゃんはあっさり引き下がった。

 

 相澤先生からは、普通なら停学&除籍処分と言われてたけど、それは合理性に欠けるから、罰としてしばらく補習を倍にすると言われてるんだ。

 

 ただでさえ補習はキツイのに、倍は死ぬ。

 

 けど、強くなる為にはやるしかない。

 

 

 ちなみに、相澤先生に「やっぱりバンドを続ける事にした」と報告したら、「そうか」だけで終わった。

 

 

「その曲いいよね~、なんて曲?」

 

 私と同じピンク髪の子が、梅雨ちゃんのスマホから流れる曲を聞いて話しかけてきた。髪だけでなく、全身ピンク色の異形型の子で、ギャルっぽい子だ。

 

「あ、『ミラクルをキミとおこしたいんです』……です」

 

「へぇ、ギターヒーローの曲はどれも良いけど、こういう元気が出る曲、特に好きだね」

 

「い、いえ、ギターヒーローじゃなくて、サンボマスターの曲です」

 

「サンボマスター? なにそれ?」

 

 そう聞かれると説明が難しい。この世界には存在しないバンドだし。

 

「……ギターヒーローのチャンネルに、そう書いてあるので」

 

「ケロ、私、ギターヒーローの曲なら『Lemon』好き」

 

「そ、それは米津玄師ですね……」

 

「俺は『天体観測』!」

 

「それはバンプ……」

 

「狼の遠吠えみたいなのがある曲!」

 

「ヨルシカの『負け犬にアンコールはいらない』ですね。あれ、遠吠えのマネするのが難しくて、むちゃくちゃ練習……あっ」

 

 皆がギターヒーローで好きな曲を言う流れになっていたので、つい元バンドの注釈を言ってしまった。そして思わず余計なことを口走ったのに気が付くと、

 

「ケロ……やっぱりひとりちゃん、ギターヒーローよね?」

 

「違います」

 

 梅雨ちゃんの疑惑の眼差しが痛い。

 

 そして、離れた席に座っていた耳からプラグを生やしている女の子がこっちをガン見してくるし、デク君もお茶子ちゃんも何ともいえない目で私を見ている。

 

 

 どうしたものかと困っていると、

 

「もう着くぞ、降りる準備をしろ」

 

「「「はいッ!!!」」」

 

 訓練用の施設に着いたようで、相澤先生から注意された。

 

 間もなくバスが停車すると、皆キビキビと降りていく。私もつられて降車すると、目の前には巨大なテーマパークのような施設が広がっていた。

 

 そしてゴツイ宇宙服のようなコスチュームを着た人が出迎えると、今日の講習の説明を始めた。

 

「僕は本日の講師、スペースヒーロー13号です。そして、ここは水難事故、土砂災害、火災などなど……あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場。その名もウソの(U)災害や(S)事故ルーム(J)。略してUSJです!」

 

「「「USJだ!?」」」

 

 ……ん? USJ??

 

 ここ、たしかヴィラン連合とかってのが襲撃してくるトコじゃなかった……?

 

 

「13号、オールマイトは? ここで待ち合わせるはずだと思ったが」

 

「先輩、それが通勤時にギリギリまで活動してしまったみたいで、仮眠室で休んでいます」

 

「不合理の極みだなおい……仕方ない始めるか」

 

 相澤先生と13号が話し合っているのに聞き耳を立てると、オールマイトは来ていないようだ。話の内容からマッスルフォームの制限時間を使い切ったのかな……

 

 あれ、原作でも同じだっけ?

 

 元々うろ覚えだったのに、もう10年以上も前の記憶だからあやふやだ。

 

 

「えー、訓練を始める前に、皆さんにお小言を一つ……二つ、いや三つ、四つ、五つ……」

 

「「「増えてる!?」」」

 

「皆ご存知だとは思いますが、僕の個性は『ブラックホール』。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

「その個性で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

 

 

 とりあえず、いつ襲われてもいいようにケースから愛用のギターを出して肩にかける。

 

 そしてヒーロースーツへプラグを繋げた。

 

 今着ているヒーロースーツは入学前に"個性"と"身体情報"を提出して、雄英の被服控除で学校専属のサポート会社が用意してくれたスーツだ。

 

 

「えぇ…… しかし、簡単に人を殺せる個性です。皆の中にもそういう個性の子がいるでしょう。超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる"いきすぎた個性"を個々がもっているということを、忘れないでください」

 

 

 スーツにはアンプとスピーカー、それとエフェクターの機能も付けてもらい、プラグを挿すだけですぐ演奏が出来るようにしてもらった。それと人前に顔を晒したくなかったので、顔を隠せるマイク付きのヘッドギア。歌いやすいように口元は開けてある。

 

 

「相澤さんの体力テストでは、自身の力が秘めている限界を知り。オールマイトの対人戦闘では、それを人に向ける危うさを体験したかと思います」

 

 

 13号が講義しているのをそっちのけで準備を進める。ヘッドギアを装着して、「あ、あー。テステス」とマイクがスピーカーに繋がっているのを確認する。

 

 

「この授業では心機一転! 人命のために個性をどう活用するか、それを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷付ける為にあるのではないんです。助けるためにあるのだと、講習をへて学んでください」

 

 

 ギターのチューニングを合わせるために、ピンピンと一本ずつ確認して手早く音を合わせる。そしてジャランと弾いて、全てのチューニングが合ったのを確かめて準備完了だ。

 

 

「ご清聴ありがとうございました……と、言いたいところですが、そこのキミッ! さっきから人の話も聞かずにギターを弄って!! やる気あるんですかッ!?」

 

「後藤……お前、本当にいい加減にしろよ……」

 

 13号先生と相澤先生が、私を名指しで激おこしている…… 周りのクラスメイトも可哀想な子を見るような目で見ていた。

 

 ちゃ、ちゃうねん。ヴィランが襲撃してくるから慌てて準備してただけで……

 

 

 と、私が先生たちに詰められそうになった所で、広間の真ん中に黒い霧が出現した。

 

 

 そして、その黒い霧から、

 

 

 大量のヴィランが現れた。

 

 

 

 

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