ギターヒーロー 作:右から左へ
https://youtu.be/FzXoCx8dsgc?si=QkHqetJ8v8KYvdE_
やっぱり耳郎ちゃんとの絡み書きてえなぁ&短編でサクッと終わらせようとしていたから、テンポ重視でカットしていたシーンの投稿
USJ襲撃後~体育祭前まで
── USJ襲撃直後、ヴィラン連合アジト
「クソ……完敗だ。ガキどもは強かったし、手下は瞬殺だ……脳無はクソの役にも立たねぇ。話が違うぜ、先生……」
黒靄で転移してきた死柄木が、薄暗い寂れたBARの椅子に疲れた様子で腰掛けて苦情をこぼす。
そして何も映されていないモニターから、年嵩の男の声が聞こえてきた。
『違わないよ、弔。ただ見通しが甘かったね』
『うむ、舐めすぎたな。ヴィラン連合なんちうチープな団体名でよかったわい。ところで、ワシと先生の共作の脳無は回収しなかったのか?』
先生と呼ばれたAFOともう一人、協力者であり脳無の開発者であるドクターの声もモニターから聞こえてくる。
「申し訳ありません、巨大な氷柱に覆われていたため回収は断念しました。オールマイトも合流したので離脱を優先せざるを得ず……」
死柄木に遅れて黒い靄で転移してきた黒霧が、そう謝罪をする。
『せっかくオールマイト並のパワーにしたんじゃが……残念だが仕方ないか』
「先生……対オールマイト用の脳無って聞いてたが、ガキやイレイザーヘッドごときにやられるようじゃ、欠陥品じゃなかったのか」
『弔、最初にギターヒーローを狙えと忠告したじゃないか。それが出来なかったのが敗因かな』
死柄木は忠告どおりに真っ先にギターヒーローを始末しようとしたが、尽くイレイザーヘッドに阻まれていた。敗因としては、脳無をオールマイト用に温存しようとしたことで手間取ってしまい、生徒たちが合流する猶予を与えてしまった事だろう。
「クッ……しかしよ、それもオールマイトをパワーアップされたら厄介だからという話だったろ。オールマイトが来る前に、ガキどもにやられてたら世話ないぜ」
『それだけギターヒーローの個性が強力だったという事だね。我々も過小評価していたようだ……それが分かっただけでも、今回の襲撃は無駄ではなかった』
『精鋭を集めよう、じっくり時間をかけて……』
『我々は自由に動けない……だから君のような悪の"シンボル"が必要なんだ』
『死柄木弔……次こそ君という恐怖を、世に知らしめようじゃないか……』
そうAFOが一方的に告げると、モニターの電源が切れる。
「ギターヒーロー……アイツさえ居なければ襲撃は成功した……少なくともガキどもは何人か殺せていたハズだ……」
そう怨嗟を呟く死柄木に、BARのカウンター裏に回った黒霧が、ウィスキーの瓶を取り出しグラスにそそぐ。それを一気に呷って、喉が焼けるように濃い酒精を飲み干す。
「クソ不愉快な曲を歌いやがって……何がヒーローだ」
ギターヒーローが歌っていたヒーロー讃歌の曲。思い出すだけで
「次会ったら殺す……絶対に殺してやる……」
手に持ったグラスを握りしめると、さらさらと崩れ去り、カウンターの上にガラス片の山を作っていた。
◇
USJ襲撃から数日後、無事に平穏が戻ってきた私は、相変わらず昼休みには階段下の薄暗い謎スペースでひっそりと独り弁当を食べていた。
あれからクラスメイトとの交流は増え、ロイン*1のフレンドもクラスメイト分増えた。クラスのグループチャットにも入れたのは嬉しかったが、すでに私以外みんな入っていたのは少し悲しかった。
元来のぼっち気質に加え、毎日の補習や喜多ちゃんの張り込み、バンドの練習とサボりもあって、ろくにクラスメイトとコミュニケーションとれてなかったのが原因だったみたいだけど。
そしてお昼も誘われるようになったが、私は人混みが無理だから弁当持参だ。他のクラスメイトはみんな食堂派で、教室では相変わらずヘソビーム君が一人で
だから昼は変わらず独りでココにいるって訳よ。
ポロロンと、弁当を食べ終えてギターを弾く。
前はアンプとヘッドホンを持参して練習していたけど、騒ぎがあっても気が付かないことが分かったので、今は何も使わず素でエレキギターを弾いて練習している。
週末に結束バンドの初ライブも控えてるから軽くおさらいしないと、と思って練習していたら柱の陰から誰かがじっと覗いていた。
怖っ。
「あ、あの……」
無視して練習するのは流石に気味が悪いので、仕方なく声をかけると、
「そ、その曲、新曲ですか!?」
「ひぃ!?」
ずずずいっと寄ってきたのはクラスメイトの……耳郎さんだったかな。その勢いに思わずびっくりしてのけ反ってしまう。
「あ、ごめん……。ウチ、ギターヒーローの曲は全部聞いて覚えてるけど、その曲は聞いたことなかったから、つい……」
そう言って照れたようにはにかむ耳郎さん。今まで話したことなかったし、最近は無言でガンつけられてたから嫌われているのかと思ってたんだけど。
「し、新曲というか……未発表だったカバー曲、です」
「カバー曲……いつもの原曲が存在しないアレ、ですか?」
「そ、そうですね……」
「凄くいい曲……いつ配信するんですか? 最近は全然新曲アップされないから……。あっ、雄英で色々と忙しいのは分かってるから、催促してる訳じゃなくて、ですね。でも、配信してくれたら嬉しいというか何というか……」
スイッチ入ったデクくん並に喋るな……。おめめキラキラさせてるところ悪いけど、この曲はギターヒーローちゃんねるで配信するつもりは無いんだ。
「す、すみません、この曲は配信するつもりは無くて……」
「えっ! どうしてッ!?」
「こ、今度のライブでバンドで演奏する曲なので……」
「バンド!? バンドやってるんですかッ!!」
「ひぃ!?」
また、凄い勢いで詰めよられる。鼻先数センチ、私がのけ反らなければキスしていた距離だ。
「ど、どこで
「い、いえ……普通のライブハウスですけど……」
何でドームや武道館になるんだ?
まだ出来たてほやほやバンドで実績も無いし、例えギターヒーロー名義でもアマチュア配信者がいきなり借りれるとこじゃないと思うんだけど。
「ライブハウス!? 何処の!? いつ、どこで
ぐいぐいと寄られ続けた結果、壁ドンの体勢まで押し込まれ、また鼻先数センチまで顔が近づく。
つり目気味で三白眼だから少し近寄り難い雰囲気だったけど、間近で見ると結構美少女……。そんな美少女に壁ドンされて、真剣な表情で見つめられると何だかドキドキしてくるな。
思わずぎゅっと目を閉じると、頭の中で「はじめてのチュウ」の曲が流れる。
アニメのエンディングとして有名になってから、様々なアーティストにカバーされている曲だ。よくテレビでキムタクが歌っていたのが印象的で、セクシーな歌い方にノンケの私が聴いてもドキリとさせられた。
そんな色々なカバーがある中でも、一番好きなのは「Hi-STANDARD」のカバー曲だ。原曲の柔らかくて可愛いポップソングを、高速メロディックパンクに変換したことで、「可愛い × 激しい」というギャップが強烈な魅力になっている。
ハイスタいいよね、ハイスタ。当時の中高生はハイスタは避けて通れなかった。
あー、結束バンドでハイスタのカバーしてえな。喜多ちゃんの声でパンクを歌って欲しい。虹夏ちゃんもハイスタ好きと言ってたから、後でワンチャン頼んでみよう。
「あの、聞いてます? 何でキス顔して……」
「あ、すみません。『はじめてのチュウ』はハイスタのカバーが最高って話ですよね?」
「そんな話はしてない……いや、あんしんパパの方も好きですけど」
「あ、あれは、原曲があんしんパパなのでそう表記したんですけど、キムタクを意識して歌ったんですよね」
ハイスタのカバーは英語歌詞だしもう別曲のテイストだ。だから「はじめてのチュウを Hi-STANDARD がカバーしたカバー曲」とタグ付けして配信していたけど、普通に歌ったバージョンも配信したので、そっちはカバー先を「あんしんパパ」にしてある。流石に原曲のままを再現するのは無理だから、一番印象に残っていたキムタクバージョンを意識して歌ったけど。
「キムタク……? いや、そうじゃなくて!」
「?」
「ライブ! どこで! いつ!
「えっと、今週末に下北沢のスターリーというライブハウスで……」
「スターリー……」
耳郎さんが壁ドンの体勢からさっと手を離すと、何やらスマホで調べはじめた。
「キャパ200人……? 狭い……狭くない? こんなのあっという間に満員に……」
「あ、あの……バンドメンバーがすでに100枚以上チケット売ってるので、当日入れるかはちょっと分からないかも……」
「えっ!?」
虹夏ちゃんが20枚、喜多ちゃんが100枚以上チケットを売り捌いていた。どうやら私が秀華高校前でゲリラライブしたせいで、喜多ちゃんが私(ギターヒーロー)とバンドを組んだと校内で有名になり、そのせいでチケットを融通してくれと依頼が殺到しているらしい。珍しく死んだ目で千円札の札束を店長に納めていた。
ブッキングだし、あの様子だとすでにSOLD OUTしていてもおかしくないかも。
「えっ? ギターヒーローの初ライブが見られない……? え? え? そんなぁ……」
おおう……今にもソウルジェムがグリーフシードに相転移しそうなほど絶望しだした。四つん這いで崩れ落ち、声にならない慟哭が階段下の謎スペースに響いている。
「あ、あの……チケット一枚だけ余ってるので、良かったらあげましょうか……?」
「ほ、ホントッ!?」
一応、ノルマとして何枚かチケットを渡されていた。喜多ちゃんがノルマ以上に売り捌いていたので、とっくに関係なくなってはいるけど。
きくり姐さんにSICKHACKのライブのチケットを貰った礼として渡していて、後はデク君とお茶子ちゃん、最近よく話すようになった梅雨ちゃん、そしてギターを貰ったお礼にと八百万さんに渡してある。
ノルマ分は配り終わったけど、両親のどちらかに渡そうかなと思って一枚追加で貰っていた。けど、今回は諦めようか。
「あ、あ、あ……ありがとう! 家宝にします!」
「いえ、入店時に半券回収されるので……」
「えっ、じゃあライブに行けない……」
家宝にしないで使えや。
◇
── 耳郎響香 side
下北沢駅で電車から降りると、すでに夕暮れに染まりつつある空はオレンジ色に傾き始めている。
下北沢の路地はお洒落な古着屋や雑貨店が立ち並び、道行く人も垢抜けた独特なセンスをしている。サブカルチャーに溢れたこの街には時々訪れているけど、ライブハウスに入るのは初めてだ。
ライブ自体は何度か行ったけど、それは有名なアーティストのライブで、アリーナなどの大箱に行っただけ。小さなライブハウスはヴィラン予備軍の溜まり場になりがちで、治安も悪いから近付くなと注意されていたから今まで行ったことはなかった。
スマホを片手に地図アプリを見ながら歩いていると、目的地のビルにたどり着く。住所はB1F。
その地下へと続く薄暗い外階段に思わず立ち止まるが、意を決してゆっくりと降りていく。
壁面にびっしりとバンドのフライヤーが貼り付けられているのを眺めながら進んでいくと、ピカピカとネオンの看板が瞬いている扉まで着いた。
――ここが、スターリー。
分厚い扉に手を添えて、小さく息を吸いこんでから押し開く。
入口すぐの受け付けの人に断腸の思いでチケットを渡すと、もぎられた半券とドリンクチケットを受け取った。
中のフロアではアンプから漏れる低音が薄く回り、PA卓の周りではスタッフがレベルを確認している。店内にはすでに結構な数の客がいて、ざわざわとした話し声が天井近くで混ざり合っていた。
客のほとんどがウチと同じ年頃の高校生に見える。ギターヒーロー……後藤さんが言っていた、バンドメンバーと同じの学校の人達なのだろう。
そして、他の客同士が仲良く談笑してるなか、入口付近で立ち尽くして居場所を探すように視線を泳がせると、ドリンクカウンターの近くに見知った連中がいた。
「あれ、耳郎ちゃんも来てたの?」
「麗日も? それに緑谷と梅雨ちゃんもいるし」
「ケロ、ヤオモモちゃんもいるわよ」
壁際の椅子に腰掛けてドリンクを飲んでいたヤオモモ*2がこちらに手を振って、緑谷は所在なさげにキョロキョロと視線を彷徨わせている。女子慣れしていないのに男子は緑谷だけだし、他は別の高校の生徒ばかりで女子率も高いから、完全アウェーなのだろう。
「よかったー。ひとりちゃんがチケット無いから皆んなには秘密にして欲しいって言ってたから一人で来たんだけど、ライブハウスとか入ったこと無いから心細かったんだよねー」
「分かるわ……もっとアングラな場所かと思ってたけど、結構オシャレで雰囲気良いわよね。同じくらいの歳の子たちばかりだし」
麗日と梅雨ちゃんがそう言ってほっとしている。
ウチも場末なイメージをしていたけど、スターリーのフロアは綺麗に掃除されていて設備も新しい。そして、ステージ前に陣取っている客は、お洒落な女子高生の集団だ。服装もキラキラしていて、いかにも陽キャでパリピな感じだし、ヴィラン予備軍の溜まり場というイメージは全くない。
「ケロ、耳郎ちゃんはよくこういうライブハウスは来るのかしら?」
「そ、そうね。ライブは何回か行ったことあるよ」
何となく見栄を張ってくだらないウソをついてしまう。でもライブに行ったことあるのは本当だからギリギリセーフ……だと思いたい。
「さすがー! 耳郎ちゃんも楽器やってるって言ってたしね!」
「ケロ、ファションもロックンローラーぽくて格好良いわ」
そう褒められるといたたまれなくなるから、飲み物を取りにいくと言って、逃げるようにドリンクカウンターの方に向かう。チケットには1杯だけドリンク代が含まれているので、入店時に貰ったチケットで交換する。
そしてドリンクを受けとり、なるべく前の方で聴こうと見回すといつの間にか満員になっていた。人混みで身動きがとれない上、酔っ払いがステージにかぶりついて騒いでいる。なんだあれ。
スカジャンに下駄、そしてタトゥーが入ってる酔っ払いはヴィランに見えなくもない。絡まれたら厄介そうだし、そんなに広くないライブハウスだから、後ろの方でも充分聞こえるだろう。
むしろ音を楽しむなら、カオス化している前列より後ろの方が良く聞こえそうだ。うん。
そう思って、後の壁際にいたヤオモモの隣に移動すると、よく見たらフロア隅に相澤先生とプレゼント・マイク、それと見知らぬガイコツのように痩せたおじさんがいた。
若い子ばかりのフロアの中、どう見ても不審者な相澤先生たちはかなり目立っている。どうしてライブハウスにいるんだろうと不思議に思って見ていると、混雑したフロアの中をすり抜けて、ステージ前で騒いでいた酔っ払いの後ろにピッタリとマークした。そして、おもむろに捕縛布で拘束して後方に戻ってくる。
後藤さんの護衛か。
ヴィランから殺害宣言を受けていたから護衛をしてるんだろうけど、休日出勤お疲れさまですと言えばいいのか、ただでライブが聴けてズルいと思えばいいのか、悩むところだ。
そして酔っ払いが相澤先生に事情聴取されていると、後藤さん達が登場してステージに上がった。
軽く音響チェックすると、赤毛の子が前にでてきてMCが始まる。
『初めまして! ……じゃない人もたくさんいますが、結束バンドですッ!』
「「「「キャー! 喜多ちゃーーん!!」」」」
「「「「喜多ちゃん、がんばってーー!」」」」
フロアの半分以上の客が声援を送る。どうやらMCの子と前方で陣取っている女子高生集団は同じ高校みたいだ。
そのMCの後方にいる後藤さんを見ると、俯いたまま生まれたての子鹿のようにガクガク震えている。
……大丈夫なのかな、あれ。
『えー、軽くバンドとメンバー紹介をしたいところですけど、ぼっちちゃんが緊張でヤバいことになってるので、さっそく一曲目行きます! ちょっと前にネットで話題になってた思い入れのある曲、サンボマスターの「ミラクルをキミとおこしたいんです」のカバー曲です!』
ぼっちちゃん?
誰のことだろうと思っていたら、ドラムがステックを鳴らしてカウントし、最初の曲が始まる。
USJのヴィラン襲撃事件があった日から、授業で"演奏"中の個性の制御訓練で生演奏は聞いたけど、こういう音響がしっかりしたライブハウスで聞くのは初めてになる。
どんな素晴らしい演奏になるのかと、期待に胸をふくらませていると、
『はじめるよ 準備はいいかい?
やらかすぜ そいつが可能性!』
は? 何でボーカルがギターヒーローじゃないの??
いや、フロントマンが後藤さんじゃないし、MCの子が楽器も持たずにセンターに立ってたから薄々嫌な予感はしてたんだけど、まさか本当にボーカルが違う人だなんて思いたくなかった。
しかも、そのボーカルが素人に毛が生えた程度。カラオケが上手な初心者レベル。
音程は取れているけど、歌声が演奏に消されて埋もれがち。腹式が甘くて、明らかに胸声のまま無理やり張り上げているから、サビに入ると声が薄くなる。
ドラムは普通と言いたいが、あくまで学生レベルでの話。時々もたついたり、ミスが目立つ。
けど、ベースは上手い。
ドラムやボーカルのミス、そして突っ走り気味なギターヒーローの演奏を上手くカバーしながら橋渡ししてバンドを支えている。
ギターヒーローのテクニックは物凄く、ピカイチだけど他人と演奏するのに慣れてないのが分かる。その暴走しがちなギターの手網を握って、ベースがリズムをキープしている。
だから、このバンドのグルーヴを作っているのはベースだ。
ウチは小さな頃から趣味で色んな楽器をやってきて、その中でも一番得意なのはベースだ。同年代でも上手い方だろうと密かに自慢に思っていた。
けど、このバンドのベーシストはウチより何段も上手い。
『ミラクルをキミとおこしたいんです!
高まれよ 奇跡の可能性!』
この曲は何度も聞いていて、ギターソロの為にあるような曲だと思っていた。
だけどリズム隊が加わると、音にしっかりとした土台が生まれ、ぐっと厚くなり、心地よい重低音が身体の芯まで響く。
ギターソロで聴いていた音とはまるで違う、まさにバンドミュージックそのものだ。
何だか聞いているだけで楽しくなる。
心の底から楽しく仕方がない。
そう、感情が昂る。
このキモチは、ギターヒーローの個性のせいだろう。
バンドで演奏するのが楽しくて、楽しくて、楽しくて仕方がない。
その想いがフロア中に満たされて、観客に伝播して、より盛り上がって、熱狂が加速する。
そしてそのオーディエンスの昂りが演者に伝わり、演奏にもっと熱が入る。
繰り返す永久運動だ。
ボーカルの子の後ろから虹色のレーザーライトが瞬き、派手な演出で一層観客が沸く。
気が付いたらボーカルの声も、些細な演奏のミスなんか気にならなくなり、音楽にノッて身体でリズムを刻んでいた。
隣のヤオモモは、お嬢さまとは思えないほど髪を振り乱して興奮してるし。
『心の声が自由を望んでる!
キミとなら奇跡は起こるぜ きっと!
ミラクルッ!
We want Miracle!!』
ラスサビが歓声にかき消せれないよう、絶叫のようにボーカルの子が歌い終えると、フロア中から拍手や口笛が鳴り響く。
『はい! 一曲目の「ミラクルをキミとおこしたいんです」でしたー! じゃあ、ぼっちちゃんの緊張がとけたようなのでメンバー紹介いきまーす! まずはバンドリーダーでドラム担当の伊地知先輩!』
軽快にフィルを叩くと、
『一応、結束バンドでリーダーをやらせて貰ってる虹夏でーす! まだ結成して一ヶ月くらいで、色々とごたついてバンドで練習したの一週間くらいしかなかったので、今日はカバーを2曲だけです! ちょっと少ないですけど楽しんでいってください!』
一週間しか練習してない? どうりでイマイチ演奏が噛み合ってないと思ってたけど、出来たてほやほやのバンドだからか……。いや、普通は練習してからライブの予定を立てるのではと訝しんだ。
『続いて、ベースのリョウ先輩! 』
何も言わずに軽くスラップして終わるが、短いながらもテクニックが光る。
ウチと同じショートカットな髪型で、イケメンでユニセックスな佇まいに、観客の一部から黄色い歓声が上がった。
『そしてリードギターのぼっちちゃん!』
ぼっちちゃんて、後藤さんのことだったのか……
足元がおぼつかないほど緊張していた後藤さんは、もうすっかり緊張がとけてギターで軽快なフレーズを奏でる。
するとフロア中から一気に歓声が湧き、あちこちから「ギターヒーロー!」という掛け声があがった。
その声援に、後藤さんは照れたようにぺこぺことお辞儀をしている。
『えー、ギターヒーローをご存知の方も多いかと思いますが、結束バンドでは、ぼっちちゃんというあだ名で呼んであげてください!』
そうMCの子が言うと「ぼっちちゃーん!」と観客から声援がかけられている。
後藤さんの名前はたしか「ひとり」だ。学校では壁と同化するほど影が薄く、つい最近までろくに他の人と話している姿を見たことが無かった。いつも一人で俯いていて、人付き合いが苦手そうなイメージしかない。
ひとりぼっち。
いかにもなあだ名だけど「ぼっち」は普通に蔑称だと思う。だけど後藤さんは観客からの声援に嬉しそうにしてる。
……本人がいいならいいのかな。緑谷も名前をもじって「デク」と呼ばれているけど、気にしてないみたいだし。
『そして私がボーカル兼リズムギター……予定のキタです!』
そうボーカルの子が自己紹介をすると、またフロアから「「「キタちゃーーん!」」」と歓声があがる。
『まだギターはじめて一ヶ月くらいで、コードもマスターしてないから今日はボーカルのみに専念してます! 次のライブまでにはギターも弾けるように頑張りますッ!』
そうボーカルの子が宣言すると、ピカーンと背後でライトが光る。
それにしても本当に初心者だったのか……なのにギターヒーローを押しのけてボーカルやるとか普通ならブーイングものだけど、フロアの客はそのボーカルの友だちが過半数をしめているからか、不満の声があがることはなかった。
『じゃあ次の曲いきまーす! えーと、アジアンカンフージェネレーションの「転がる岩、君に朝が降る」のカバー曲です』
後藤さんが昼休みにひっそりと弾いていた、未発表の曲。
そんなバンド名は聞いたこと無いし、ギターヒーローの存在しない原曲シリーズにも無い曲だった。
ドラムがステックでカウントすると、一曲目とは違い、エレキギターの柔らかな音が響く。
そして静かにベースとドラムのリズム隊が入ると、
『出来れば世界を 僕は 塗り変えたい
戦争をなくすような
大それた ことじゃない
だけどちょっと それもあるよな』
ボーカルの子の透き通るような、
優しい声が、フロアに響く。
一曲目で熱狂して盛り上がっていた観客は、息を潜めて、聴き入るように静かになった。
拘束を解かれた酔っ払いも、騒ぐことなく大人しく聴いている。
『俳優や映画スターにはなれない
それどころか
君の前でさえも上手に 笑えない
そんな僕に すべはないよな
嗚呼……』
やっぱり技術も何もない、素人の歌。
だけど、やさしく染み入るその歌声に、惹き込まれてしまう。
『何を間違った?
それさえも わからないんだ
ローリング ローリング
はじめから持ってないのに 胸が痛んだ
僕らは きっと この先も
心絡まって ローリング ローリング
凍てつく地面を 転がるように
走り出した』
一曲目よりボーカルの子が上手くなっている……いや、ボーカルの子だけじゃなく、ドラムもミスが減っている。
走りがちだったギターヒーローも周りと音が溶け込み、ベースはより安定感が増した。
グルーヴが心地良くなり、音が複雑に絡み合い、ひとつのバンドとして纏まったように聴こえる。
『
泣けやしないから よけいに救いがない
そんな夜を 温めるように 歌うんだ
岩は転がって 僕たちを
どこかに連れて行くように
固い地面を分けて 命が芽生えた
あの丘を超えたその先は
光り輝いた ように
君の孤独を すべて暴き出す 朝だ』
どこか物悲しく、心の奥の、柔らかい箇所に刺さるような歌だ。
人付き合いが苦手で内気な*3後藤さんの、孤独や痛みを歌ったような曲。
それがボーカルの子の柔らかく透けるような歌声とマッチして、より寂寥感が胸に染みる。
そして、またギターヒーローの個性の影響で、フロア中が多幸感に包まれ、感情がジェットコースターに乗ったかのように激しく揺さぶられる。
バンドが組めて、結束バンドでライブが出来て、幸せだと。
そういう想いがダイレクトに伝わってくる。
『赤い 小さなクルマは 君を乗せて
遠く向こうの角を曲がって
ここからは見えなくなった
何を無くした?
それさえも わからないんだ
ローリング ローリング
はじめから持ってないのに 胸が痛んだ
僕らは きっと この先も
心絡まって ローリング ローリング
凍てつく世界を転がるように
走り出した』
演奏が終わると、静まり返っていた観客から一斉に割れんばかりの拍手と歓声が湧きあがった。
一曲目よりは多少上手くなったとはいえ、まだまだ拙い演奏。けど技術云々より、聴いていて感性に、感情に、魂に訴えかける良い曲だった。
『はい、二曲目の「転がる岩、君に朝が降る」でした! 今日は二曲しか準備できてなかったので、これで
「「「アンコール!」」」
「「「アンコール!」」」
「「「アンコール!!」」」
『次のバンドの出番までまだ時間があるようなので、もう一曲だけアンコール行きますね!』
フロア中からアンコールの合唱が起こると、一曲だけ追加されることになり、その曲を観客の多数決の挙手で選ぶことになった。
どちらも良い曲だけど、一曲目はギターヒーローちゃんねるで配信されていたし、二曲目は未発表で、しかも配信する予定も無いと聞いていた。だからウチは二曲目で手を挙げた。結果、僅差で「転がる岩、君に朝が降る」のアンコールに決まった。
三曲目が始まる。
同じ曲だから分かりやすい。二曲目の時より上手くなっている。特にボーカルの子が顕著で、一曲目より二曲目、二曲目より三曲目と、曲を重ねるごとに歌唱力が伸びている。
そんな、ステージの光を浴びて歌うボーカルの子を見ると、胸の奥が少しだけざわつく。
──羨ましい。
そう思ってしまった。
ヒーローと音楽の道、天秤にかけてウチは音楽を捨て、ヒーローを目指すことにした。
だから、羨む資格はない。
だけど、後藤さんと、ギターヒーローと並んでステージに立つ自分の姿を想像してしまう。
もし音楽を続けていたら、私も一緒にステージに立てていたのかもと、あるはずの無い姿を思い描いてしまう。
『はじめから持ってないのに 胸が痛んだ
僕らは きっと この先も
心絡まって ローリング ローリング
凍てつく世界を転がるように
走り出した』
まるで今のウチの心境を表すような歌詞が、胸に刺さる。
アンコールが終わって、また万雷の拍手が鳴り響くと、後藤さん達はステージから降りていった。
そして誰もいなくなったステージを見てウチは、
「やっぱり、バンドしたかったな……」
そう、呟いた。
【ASIAN KUNG-FU GENERATION】
https://youtu.be/sXrkgyxATwg?si=nB9cSU5qB2Uu_Kke
ぼざろ原作を読み返していたら、虹夏ちゃんは8年前に店長(姉)とセッションをしていたという描写があったので、3話のドラム歴を7年に変更してあります(原作より少し前なので)
結構ベテランなのにそんなにドラム上手くないというのは、練習してきた密度が薄いのか、才能の差か……謎
2話更新なので近日中に続き投稿します