紅魔郷秘録:紅霧計画   作:幻想郷まったり書庫

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第五話 侵入者迎撃

紅霧が地面を這い、空を染め、紅魔館前の空気はまるで重油のように揺れていた。

 

美鈴は拳を強く握り、深呼吸をひとつ。

 

「ここから先は、簡単には通せません!」

 

霊夢は眉をひそめる。

「悪いけどあなたに構ってる暇なんてないの、行くわよ、魔理沙!」

 

「妖精や妖怪じゃ肩慣らしにもならなかったからな!」

箒のミニ八卦炉を手に持ち帰え、戦闘体制に入る。

 

美鈴は困ったように笑いつつ構えを取る。

「壊すと怒られるので……位置調整させてもらいます!」

 

それを聞いて魔理沙が腹を抱えて笑う。

「はははっ! 門番の位置調整ってなんだよ!?」

 

美鈴の表情が少しだけ強気に戻る。

「門番の仕事は、侵入者を“倒す”より……“通さない”ことですから」

 

霊夢の瞳が鋭く細くなる。

「じゃ、始めましょうか」

 

空気が一瞬で張り詰めた。

 

 

魔理沙が先に飛び出した。

黄金の星弾が美鈴へ一直線。

美鈴は迎撃ではなく――後へ滑るように下がった。

 

「まずは、陣形を整わせてもらいます 彩符『彩光風鈴』」

 

カラン、と風鈴のような微細な音。

美鈴の周囲に淡い光弾が旋回し、魔理沙の弾を削りながら軌道を逸らす。

「おいおい、攻撃じゃなくてガードかよ!」

 

「守りを固める方が……向いてるんです!」

 

霊夢がそこへ割って入る。

札が扇状に飛び、美鈴の退路を塞ぐように迫る。

 

「逃げ道は塞がせてもらうわよ」

 

美鈴は札を薙ぎ払いながらすぐさま後ろへ。

門が背中に近くなると、左右の動きで絶妙に距離を保つ。

 

魔理沙が上へ回り込もうとする。

「じゃあ上から――」

 

「上にはいかせません! 彩符『彩雨』」

 

美鈴は両手を払うように構え、小さな光雨が上空へ散った。

細かな彩弾が“天井”のように広がり、魔理沙の高度上昇を阻む。

「くっ、行く先々に配置しやがってぇ!」

 

「時間稼ぎにしか見えないわね…それならっ!」

 

霊夢が滑るように接近する。

美鈴は光弾を散らしながら横へ跳ぶ。

寸前で霊夢の体が動く。

近距離の勝負。

 

ここで間合いが詰まる瞬間――

美鈴の手が静かに構えを作る。

 

「隙あり! 彩華『虹色太極拳』」

 

足元から気が立ち、美鈴の体が鋭く強くなる。

霊夢が飛び込む瞬間、

美鈴は“受け身”の太極の要領で、霊夢の突進の力を滑らかに受け流す。

 

「なっ……!」

 

美鈴の掌底が脇腹を掠め、続け様に襲う蹴りをお祓い棒で防ぐ。

美鈴は足を踏み替え、一歩後方へ下がる。

 

それをみて魔理沙が叫ぶ。

「霊夢! 平気か!?」

「このぐらい平気よ……たく、やってくれるわね」

 

霊夢は深く息を吐く。

「ふぅ…通してもらうわよ」

 

霊夢の両脇に陰陽玉が現れ、眼光の鋭さが増し、それに合わせて魔理沙のミニ八卦炉からも光が漏れ出す。

 

 

【挿絵表示】

 

「魔理沙、合わせて!」

 「任せろ霊夢!」

 「いきます!」

 

霊夢の陰陽玉が高速回転し、瞬く間に数メートルにも膨らんでいく。

その周辺には眩しいほどの星の弾幕が表れ、徐々に美鈴の逃げ場をなくしていった。

美鈴も自身の集結させた弾幕で突破を試みる…が、魔理沙の無数の弾幕がそれを許さない。

 

爆音とともに、魔理沙の弾幕ごと地面を削りながら巨大な陰陽玉が美鈴を襲う。

 

「———ッ!! こ”、んのぉぉぉお!!」

逃げ道を絶たれた美鈴は、数メートルにもなる陰陽玉を血を噴き出しながら両手で受け止め、門の寸前のところで止めてみせた。

 

「しぶとい…いい加減、倒れなさいっ!!」

 

霊夢の言葉で霊力を増した陰陽玉が閃光と爆音とも破裂にした。

────大きな土埃徐々に晴れていき、門の外壁に沈んだ美鈴が残っていた。

 

(……ここ、までか………お嬢様、咲夜さん、すいま…せん……)

 

───消えゆく意識の横で、侵入者は紅霧の館へ進む。

 

──────────────

 

 

紅魔館の大扉を押し開くと、

内部は外観から想像できないほど広く、静まり返っていた。

 

赤い絨毯は月明かりを吸い込み、

両側の廊下はどちらも“見えない奥”へ吸い込まれていくように長い。

 

霊夢は眉をひそめる。

「……なんなの、この広さ。外から見たよりずっと広いじゃない」

 

魔理沙は肩をすくめ

「霧の中心ってだけで怪しいが……建物まで怪しいとはな。

 それにしても、なんだこの魔力の濃さ」

形容しがたい魔力が大広間の奥から漂ってくるのを、肌で感じる。

 

霊夢は階段の上から漂う“人の気配”に気づいた。

 

「……上の階に誰かいる。人間……? よく分からないけど、普通じゃないわね」

 

魔理沙は逆方向を指差す。

「こっちは魔力の渦だな。魔力の臭いがする。

 強いぜこれ……魔法使いでも住んでんのか?」

 

「知らないわよ。初めて来たんだから」

 

二人は自然と視線を交わす。

「……別れたほうが早そうね」

「だよな。私は魔力の方調べるぜ」

 

霊夢は今だ感じる気配のする、視線を階段の上へと戻す

「私は上の階へいくわ。ちょっと厄介なのがいる」

 

俺を聞いて決まったな、とワクワクする笑顔を見せ、

「じゃ、後で落ち合おうぜ。変な館だが……まぁ面白いじゃないか」

 

「へまはしないでよ。じゃあ後で」

「へへ、まかせろって。魔導書の一つや二つ見つかるかもねぇ」

 

二人は背を向け、

紅魔館の内部へそれぞれ歩き出した。

 

――ここから先、二人は別々の戦場へ向かう。

 

 

魔理沙は広間を抜け、大図書館の扉を押した。

 

――うわ、これはすげぇ。

 

暗闇よりも先に、錆びたような魔力の匂いが鼻を刺した。

通路の左右、見渡す限りの本棚。

 

「本の城じゃねぇか……! やっべぇ、あとで何冊か貰っていこ」

 

ほとんど子供みたいに輝いた声だった。

 

そんな魔理沙の浮かれた足音を聞きつけたのか、

棚影の向こうで、パタパタと慌ただしい音が跳ねた。

急に発生した人の気配に、臨戦態勢に入る。

「だ、誰か来た!? やっ、やばっ……!」

 

無警戒に無防備に、小悪魔が本を抱えたまま飛び出してきた。

「咲や—―っ! え、侵入者? なんでここにいるの!?」

想像もしない相手に耳の羽が小刻みに震える。

 

魔理沙は思わず笑った。

「なんかドジな奴だな…悪いが、ちょっと本を貰ってくぜ」

 

「勝手に持っていくなぁ!!」

小悪魔が抱えた本を左に抱え、右手で慌てて魔力を練る。

紅の光が掌の中で震え、

弾幕というより“必死の魔弾”が魔理沙へ向かって飛ぶ。

 

「おっと、元気だな!」

魔理沙が軽く跳躍すると、

小悪魔は小さな羽根をばたつかせながら叫んだ。

 

「本がなくなると私が怒られるのよっ!!

 本、返してっ!! 触んないでっ!!」

「死ぬまで借りていくだけだ!」

 

小悪魔の攻撃は拙い。

魔理沙は星弾一つでそれを散らす。

 

ぱん、と簡単に弾ける魔力弾。

小悪魔は肩を震わせながらもう一度放とうとする。

 

「こ、このっ……!」

 

魔理沙は肩をすくめる。

「悪いな、手加減してやるが……ちょっと寝ててくれ」

 

小悪魔が魔力を放つ暇もなく、魔理沙の放った小さな光弾が小悪魔のおでこを撃ち抜いた。

 

そのまま小悪魔は尻もちをつき、抱えた本がぱらりと倒れた小悪魔の上で開く。

「~~っ! くぅ……!」

 

そのまま気を失ってしまい、小さな煙を上げながら意識を失う。

 

魔理沙は本棚を見回しながら鼻歌交じり。

「さて……他にはどんな魔導書があるのかなぁ」

 

――魔理沙が鼻歌交じりで本を選び出した瞬間、

闇そのものが震えるような気配が奥から広がった。

 

奥にある巨大な書架の隙間からゆっくりと、気配の主が現れる。

 

薄紫の長衣。それよりも濃い髪が背中まであるのが伺える。

本を片手に抱え、薄暗い図書館の光がその輪郭がよりはっきりとしていく。

「あなたね。さっきから本棚の魔力を騒がせてたのは」

どこか力のない声が、病弱を思わせるように彼女の口から発せられた。

 

魔理沙はニヤッと笑った。

「お、あんたが魔法使いか。こりゃ面白いな。

 ……で、なんで何の本読みながら出てきてんだ?」

 

パチュリーはさらりと答える。

「目の前の黒い奴を退治する方法」

 

パチュリーは小悪魔を一瞥。そして魔理沙を真っ直ぐ見つめる。

 

「そんなことより……うちの子を、痛い目にあわせてくれたみたいね」

 

声は静か。だが、怒気は刺すほど鋭い。

 

魔理沙は肩を竦めた。

「手加減はしたぜ?

 まぁ、攻撃されたから返しただけだ」

 

「――いいわ。

 だったら今度は私が、あなたを痛い目にあわせる番のようね」

パチュリーは本を開いた。

七曜の魔力が紙面に吸い込まれ、

七つの光がその身に寄り添うように揺れた。

「最近、貧血と喘息で……調子が悪いの。

 上手く詠唱できるかどうか……保証はできないわ」

 

魔理沙が息を呑む。

その声からさらに殺意の混じった魔力が感じられたからだ。

「加減できなくて……殺したら、ごめんなさいね」

パチュリーの7つの光が高速で回転しながら更に増していく。

 

「……おいおい。

 魔法使いってのは、皆そんな物騒なのか?」

ミニ八卦炉に魔力を充填させながら冷や汗をかく姿は、

どこか楽し気で、恐怖も感じているように見て取れた。

 

パチュリーの瞳が静かな殺意で光る。

その瞬間――

 

 

【挿絵表示】

 

「燃え尽きなさい 火符『アグニシャイン』」

七曜のひとつ、火の魔力が暗闇の図書館を紅蓮に照らした。

 

危険な領域が赤色に広がっていく。

 

──────────────

 

 

階段を登りきった瞬間、

霊夢は空気の質が下階とまったく違うことに気づいた。

 

気温がわずかに下がり、

空間が“抜け落ち”たような静寂だけが広がる。

あまりにも静かだ。

風の音も、妖精の気配も、紅魔館内部のうごめきもない。

 

「……妙ね。気配は確かにこっちなのに」

 

絨毯は夜光のように淡く光り、

一直線に伸びる廊下は外観より遥かに長い気がした。

霊夢が一歩踏み出したときだった。

 

カチリ、と金属の触れる微かな音がした。

 

霊夢の視線が自然と前へ向く。

廊下の奥、壁際の影がゆっくりと人の形を結ぶ。

 

銀色の髪。

黒と白のメイド服。

まっすぐな姿勢。

そして――冷たい光を帯びた二本のナイフ。

 

「……掃除がまだ残ってるというのに、別の掃除が必要ですね」

 

十六夜咲夜は、

まるで最初からそこに立っていたかのように自然だった。

 

霊夢は特に身構えもせず、

いつもの調子で視線を向け返す。

「やっぱり誰かいると思ったわ。

 あんた、ここの住人?」

 

咲夜は静かに微笑む。

だがその表情の裏にある緊張と苛立ちは、霊夢にも分かった。

「ええ。お嬢様に仕える者として……

 この館を荒らす者を見過ごすわけにはいきません」

 

咲夜の手首がわずかに回転する。

指の間から滑り落ちそうな角度でナイフが揺れ、

霊夢へ向けて、音もなく殺意と共に迫る。

 

霊夢はお祓い棒で簡単に弾き、ふっと鼻で笑った。 

「荒らすつもりなんてないけど、

 霧の原因がこの館にあるなら……進むしかないでしょ?」

 

咲夜の瞳が細く鋭く光る。

 

 

【挿絵表示】

 

「――通すわけないでしょ?」

 

その瞬間、

霊夢の周囲を包む空気が確かに揺らぐ。

 

感覚の鋭い霊夢は警戒音を最大限まで引き上げる。

空間がずれているような、自分の違う世界がそこに存在するような、

今まで感じたこともない危機感が彼女をひどく不安にさせる。

(……この女、ただのメイドじゃない)

 

咲夜は一歩ずつ前へ出る。

丁寧に、しかし確実に距離を詰める。

 

「本来なら掃除を終えて休みたいところだけど……

 侵入者の排除はお嬢様から任された役目なので」

 

廊下の小さな台には、積まれた壊れた皿や折れた燭台が置かれていた。

咲夜があと一歩で片づけ終わるところだったのだと霊夢は悟る。

「お嬢様ね…面倒事はお互い様でしょ?

 こっちはこの異変を止めたいだけよ

 あんたの主をちゃちゃっと退治させてもらうわ」

 

霊夢が御札を指先で回しながら言うと、

咲夜の沈黙がわずかに強まった。

 

「……お嬢様を退治するですって?」

「そうよ。

 この妙な霧、あんたの主が撒いてるんでしょ?」

 

一瞬、違和感に感じていた空気が確かに固まった。

 

咲夜の胸の奥から溢れる怒りの塊。

氷のように冷えた殺意へと変わった。

「お嬢様の危険分子は——死ね!」

 

殺意を感知し霊夢が一歩後ろへ下がる。

咲夜はナイフと弾幕を霊夢に向けて四方から放つ。

「ったく、話の通じないやつね。

 主の前にあんたを退治させてもらうわ!」

 

二人の間に走る空気が、

紅魔館全体の緊張を象徴するように震えた。

 

──────────────

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